2011年10月29日

ピアノにまつわるエトセトラ 08

 ゆうこ先生のお住まいは、私が通う高校の最寄り駅を通り越して、やよい先生が住んでいた町の最寄り駅の一つ先、私の家の最寄り駅から数えると、各駅停車で8つ先の駅にありました。
 
 お約束は、午後の2時。
 その駅の南口改札を出たところにお迎えに来てくれる、ということになっていました。
 お天気は、少し肌寒いけれどよく晴れた、清々しい感じの月曜日でした。

 改札口を出て、駅前に広がるロータリーを見渡したとき、思い出しました。
 ここって、私が、とあるえっちな遊びをしたいがために、薬屋さんであるものを手に入れたくて降り立ったことがある駅だ。
 
 あれからもう一年近くになるのかな?
 あのときのドキドキ感が鮮やかによみがえり、唐突にその場で顔を赤らめてしまいました。

「お待たせしちゃったかなー?」
 
 うつむいていた顔を上げると、目の前にゆうこ先生がいました。
 丈が腿くらいまであるモヘアっぽい真っ白なタートルネックニットに、脚に貼り付いちゃってるような ピタっとしたウォッシュアウトのスリムジーンズと黒のロングブーツ。
 ちっちゃくて四角いレンズの紫色のサングラス。
 
「うわー。先生、カッコイイ!」
 
 いかにも、音楽をやっている人、的なそのいでたちに思わず声を上げると、ゆうこ先生は、はにかむように小さく照れ笑いしました。

「5分くらい歩くことになるけど、直子ちゃんにうちまでの道を覚えてもらおうと思って、車じゃなくて歩きで来たの。これから何回も通ってもらうのだから」
 
 ゆうこ先生と肩を並べて歩き始めました。
 あの薬屋さんの脇の路地に入るとき、レジにいた店員のおばさまのお顔に、なんとなく見覚えがあって、また一人で無駄にドキドキしてしまいました。

「文化祭は楽しかった?」
「先生のお仕事は、終わったのですか?」
 
 そんな会話をしながらブラブラ歩いて行きました。
 平日の午後なので行き交う人はまばら。
 それも奥様風かお年寄りばかり。
 町中にのんびりしたムードがただよっていました。

 あまり大きくない商店街を抜けると、いかにもベッドタウンという住宅街が延々とつづいていました。

「このお弁当屋さんを右ね」
「この公園の脇を左」
 
 目印になる場所を一々教えてもらいながら、とあるマンションの前に出ました。

「ここよ」

 ごく普通な7階建て中規模マンション。
 外装やエントランスを見ると、まだ新しいっぽい。
 ワンフロア2世帯くらいかな?
 
 ゆうこ先生がエントランスキーを押し、私たちはエレベーターで7階まで上がりました。
 7階のエレベーターホールから見えるドアは二つ。
 ゆうこ先生は、向かって左側のドアを鍵で開けました。

 中は広めな1DKで、12帖くらいのダイニングが綺麗に整頓されていました。
 カーテンやマットはパステルカラーで、カラフルな可愛らしいぽい感じ。
 ちょっと意外。

「そのソファーに座って、少し休んでて」
 
 ゆうこ先生が指差した淡いモスグリーンの柔らかそうなソファーに浅く腰を掛けて、私はお部屋をキョロキョロ見渡しました。
 ほどなく、ゆうこ先生がケーキとお紅茶のセットをトレイに乗せて登場。
 ソファーの前のガラステーブルに置いて、私の隣に腰掛けました。

「散らかっててごめんね。これでも一応お掃除はしたのだけれど」

「いいえ。すっごく可愛い感じのお部屋で、ちょっと意外でしたけれど、ステキです」

「あら。直子ちゃんのわたしのイメージって、どんななの?」

「うーん。音楽やっていらっしゃるから、クールっぽいっていうか、もう少しモノトーン的なイメージというか・・・」

「ふーん。そうなんだ」

「でも、このお部屋もイイ感じです。なんだかホッとしちゃうみたいな、安らいじゃう感じ?」

 ゆうこ先生と私は、20センチくらいの間隔を空けて隣り合って座り、美味しいケーキをいただきながら、来るときにしていたお話のつづきやら他愛も無いお話を小一時間くらいして、まったりした時間を過ごしました。
 
 でも、ピアノはどこにあるのだろう?
 奥にもう一部屋あるみたいだから、そこかな?
 そんなこともボンヤリと考えながら、お隣に座っているゆうこ先生のおなじみなパフュームの香りを、心地良く感じていました。

「さあてと」
 
 お話が一段落して、ゆうこ先生が立ち上がりました。

「まずはレッスンをしちゃいましょう。今3時ちょい前だから、5時くらいまでみっちり出来るわね」
 
 立ち上がったゆうこ先生は、お部屋の隅のサイドボードみたいなところでガサゴソやった後、私のほうを見て手招きしました。
 私も自分の荷物を掴んであわてて立ち上がり、ゆうこ先生に近づきます。
 
 奥のお部屋にいくのかな?と思っていると、ゆうこ先生は、いくつかの荷物を手に持ち、玄関のほうに歩き始めました。
 あれ?

「ピアノは、別の場所にあるのですか?」
 
 玄関で今度はかかとの低いサンダルを履いているゆうこ先生に聞いてみます。

「うん、そうなの。ちょっとめんどくさいけれど、ガマンしてね、遠くはないから」
 
 私もあわてて履いて来たローファーをつっかけて、ゆうこ先生の背中につづきました。

 エレベーターホールに出たゆうこ先生は、エレベーターの前を素通りして、エレベータから向かって右側のほうのドアの鍵穴に鍵を差し込んでいます。

「あ。お隣のお部屋がレッスンルームなんですか?」

「あたりー。アコースティックピアノ弾くとなると、防音とかしっかりしないといけないからね。このマンション自体楽器可なのだけれど、しっかり防音されているお部屋にしたくって、特別に手をかけたの」
 
 玄関を入ると靴脱ぎスペースの向こうにもう一枚、分厚そうな鉄製の扉が付いていました。

「こっちのお部屋は靴脱がなくて、土足でおーけーだから」
 
 ゆうこ先生にそう言われて、土足のまま、ゆうこ先生が開けてくれた重そうなドアの向こう側を覗き込みました。

 こっちのお部屋はまさに、音楽やっている人、のお部屋でした。
 奥のお部屋までぶち抜きにして、バルコニーまで見える広い長方形のスペース。
 
 えんじ色のカーペットが敷き詰められて、アップライトのアコースティックピアノと何台かのキーボード、それにマイクスタンドが整然と並んで、奥のほうにはゆったり座れそうな黒いソファーとテーブルのセット。
 パソコンとオーディオセットを合わせたみたいな、なんだかフクザツそうな機械のセットからコードが何本も延びています。
 
 本来キッチンだったところだけに生活感が感じられるくらい。
 そこに置かれた冷蔵庫も家庭用のじゃなくて、古いアメリカ映画の居酒屋さんにありそうなアンティークで洒落たデザイン。
 行ったことはないけれど、音楽の録音スタジオって、きっとこんな感じなのだろうなあ、って思わせるお部屋でした。

「こっちの部屋は、完全な仕事場。わたし、かなりルーズだから仕事とプライベートをきっちり分けないと、無駄にウダウダしちゃうの。だからやむなく二部屋に分けているんだ。こっちがこんなだから、向こうの部屋は、あんな感じの癒し系になっちゃうのね」

「はい。このお部屋を見れば、あっちのお部屋があんな感じだったの、なんだかすごくわかる気がします。ゆうこ先生ってカッコイイです!」
 
 私は、お世辞じゃなくて本当に感激していました。
 ゆうこ先生、本当にステキなお仕事の出来るオトナの女性なんだなー、って。

 ゆうこ先生は、やさしく丁寧にアコピの鍵盤のタッチの出し方や足元のペダルの使い方を、手取り足取り教えてくれました。
 
 なんだかいつもよりピッタリからだを寄せてきて、私の背中にモヘアのフワフワ越しのやわらかい胸のふくらみが頻繁に当たってきました。
 ゆうこ先生に後ろから抱かれているみたい。
 ゆうこ先生のお話声も、背後から私の耳元に息を吹きかけるみたいに、くすぐったくささやいいてくれます。
 
 私は、フンワリ幸せな気持ちになって、途切れそうになる集中力をなんとかなだめて、真剣にレッスンを受けました。
 今まで習った曲を一通りアコピで弾いてみて、その日のレッスンは終わりました。

「ねえ先生?レッスンの最後に、先生の一番お好きな曲を、このピアノで弾いてみてくれませんか?」
 
 私のリクエストにゆうこ先生は、ラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌ、を、からだ全体を揺らして情感たっぷりに披露してくれました。
 ピアノを弾いているゆうこ先生の姿のカッコよさといったら…
 私の大好きな旋律とも相俟って、今まで聴いた中で一番ステキなパヴァーヌでした。

「今5時ね。わたし、向こうの部屋でお夕食の準備を始めるから、直子ちゃんはもう少し、この部屋でおさらいをしていてね。準備出来たら、あそこのインターフォン鳴らすから、あっちの部屋に戻ってきて。こっちの電気とか鍵はそのままでいいから」

「あ、私もお手伝いしますよ?」

「いいからいいから。言ったでしょ?今日は直子ちゃんにご馳走する、って」
 
 ゆうこ先生がニッコリ笑って、私の髪の毛をやさしく撫でてから、ゆっくりとお部屋を出ていきました。

 一人残された私は、もう一度今までのおさらいを弾いてみました。
 弾きながらも、この感じならお夕食のとき、ゆうこ先生に思い切ってあの夏の日の水着のこと、聞けるかもしれないな、なんて考えていました。

 ゆうこ先生は、本当にステキです。
 私は、ゆうこ先生とキスをしたい、って真剣に思っていました。
 ゆうこ先生のことを何から何まで知りたい、って思いました。

 ピアノに集中出来なくなって席を立ち、窓際のカーテンを開けて見知らぬ町を見下ろしました。
 お外はすっかり薄暗くなって、家々の灯りがポツンポツンとお星様のように眼下に広がり、とても綺麗でした。
 
 それからソファーに座り込んで、ワンピースの裾から右手を入れ、ショーツのある部分に触れてみました。
 すでに、薄っすらと湿っています。
 ゆうこ先生の胸のふくらみの感触を背中が思い出します。

 今日は夜の9時前頃に、母が車で迎えに来てくれることになっていました。
 お夕食の時間を含めてあと約3時間くらい。
 そのあいだに、私とゆうこ先生の関係を、もう一歩踏み出さなきゃ。
 でも、あの夏の日の水着のこと、何て切り出せばいいのだろう?


ピアノにまつわるエトセトラ 09

2011年10月23日

ピアノにまつわるエトセトラ 07

 ちなみに今回は、ヌードクロッキー遊びに誘いこめそうな新入部員がなかなかみつからず、2年つづけてクリスさんていうのも新鮮味が無いので、文化祭での秘密の展示品は無しになりそうだったとか。
 
 でも、夏休みの合宿のときに例年通りいろいろ盛り上がった末、モデルをやってもいい、っていう1年生が現われて、その人の裸婦画がクリスさんたちを中心にめでたく例年通り創作され、展示作品のどれかの裏側に隠されているそうです。
 
 ただし、その1年生が、部員以外の人には絶対見せたくない、って涙ながらに言い張ったので、残念ながら私には見せてもらえませんでした。

「ごめんなさいね、森下さん。この子は本当に恥ずかしがり屋さんで」
 
 小川先輩のお隣に座っている内気そうな可愛い女の子がうつむいてモジモジしていました。

「いいえ。お気になさらないで、でも、ちょっぴり残念だけれど」
 
 私は、お芝居っぽい感じで少しイジワルに笑って答えましたが、内心では、うつむいている彼女の恥ずかしさに同調してドキドキしていました。
 
 自分の裸の絵を見られる、っていうことは、もちろんすっごく恥ずかしいことですが、自分からすすんで裸婦画のモデルになって、みんなに裸の姿を見てもらった、ということを、見ず知らずの私に知られたことにも、同じくらいの恥ずかしさを感じているのではないでしょうか。
 
 自分はそういう性癖を持つ女だ、って公言しちゃったみたいで。

 小川先輩たちは、その1年生の子のヌードについて、なんだか初々しくて甘酸っぱい裸だった、とか、熟しきっていないところがかえってエロティック、とか、彼女の前でワザとみたいにあれこれ論評していました。
 
 彼女は、ずっとうつむいたっきり。
 すっごく恥ずかしいのだろうなあ。
 私だったら、それだけで濡れてしまいそう。

 彼女も、今うつむきながら濡れているのかな?
 席を立たないでガマンしているところを見ると、恥ずかしさの中にやっぱり気持ち良さも感じているのだろうな。
 
 ツインテールに結んた彼女の髪の分け目を見つめながら、なんだか彼女がいじらしくって、なぜだか逆にもっとイジワルしてみたいような気持ちにもなっていました。
 でも、もちろんそんなことはせず、話題もあちこちに飛んで、楽しいおしゃべり時間が過ぎていきました。
 
 今現在、美術部内の公認百合カップルは6組。
 部員は総勢16名だそうで、残りの4人も美術部外にパートナーがいるそうです。
 つまり、百合率100%!

 帰り際、しーちゃんとクリスさんがドアまで見送ってくれました。

「はい、これ。なおちゃんにあげる。ワタシたちの処女作」
 
 しーちゃんがそう言って、同人本みたいな一色刷りの薄い本を2冊、私にくれました。

「ワタシとクリスとでストーリーを考えて、絵も分担して描いたんだヨ。ワタシとクリスはネ、チームになってマンガを描いていくことにしたの。ほら、未来から来た青いネコ型ロボットのマンガ描いた人たちみたいに」
「一冊は二次もの。一冊は18禁。高校生だけど18禁」
 
 しーちゃんがケラケラ笑いながら本をペラペラめくりました。
 ちらっと見えた中身は、なんだかすごくえっちそう。

「高校生だから、今はコピー本しか作れないし、即売会とかにも出れないけど、いずれ同人活動とかしていくつもりなんだ。二人で」
 
 しーちゃんとクリスさんが目を合わせて、ニッって笑い合いました。

「ペンネームはネ、姉妹白百合。姉妹って書いてスールって読むんだヨ」
「それで、スール白百合デビュー作の美術部員以外の栄えある読者第一号は、なおちゃんに決定しましたー」

「うわー。ありがとう。しーちゃん、クリスさん」

 お礼を言って、いったんお教室に戻ろうと思ったのですが、どうしてもガマン出来ずにもう一度振り向き、聞きたくてしょうがなかったことを聞いてしまいました。
 
「ねえ、しーちゃん?美術部って、毎年必ず、ヌードモデルになってもいい、っていう部員さんが一人くらいは、いるの?」

「えっ?」
 
 しーちゃんとクリスさんは、一瞬、この人何を言っているのかわからない、っていう面持ちでお互いにお顔を見合わせていました。
 少しして、クリスさんが私の顔をじっと見つめて、言葉を選ぶようにゆっくりとお話し始めました。

「そうねえ。深く考えたこと無かったけれど、先輩方のお話だと、毎年一人か二人くらいは、裸婦画のモデルをされた部員がいたみたいね」
「ほら、女子高だから女同士だし、自分のからだに自信があって、見てもらいたい、って思う人もいるだろうし」
「わたしみたいに、恥ずかしいことをするのが好き、っていう変わった趣味の人間もいるし」
 
 クリスさんたら、あっけらかんとご自分の性癖を開示されました。

「それに美術部は、昔から百合属性の強い部だから、そういうのにおおらかになりやすいんじゃないかな」
 
 クリスさんがしーちゃんを見て、クスリと笑いました。

「これは、わたしだけの個人的な意見なのだけれど・・・」
 
 クリスさんが今度は私をじっと見つめてきます。

「人前で裸になりたい、とか、異性よりも同性と仲良くしたい、とか、そういう、何て言うか、普通とは少し異なった嗜好を持っている人たちって、無意識のうちになんとなく、惹かれ合ってしまうものなのじゃないかしら」
「惹かれ合って、集まって、そういう人たちが居心地のいい場所が出来た、それが我が校の美術部なんじゃないかな、って」
 
 クリスさんがしーちゃんを見つめてしーちゃんがうなずき、それから私に視線を移して、ニッコリ笑いました。

「そ、そうかもしれませんね…」
 
 私は、クリスさんのお言葉に、大いに納得していました。
 その反面、すっごく動揺もしていました。
 クリスさんの視線が私を見透かしているのが、はっきりわかりました。
 クリスさんは実際に言葉にはされませんでしたが、その視線が私に問いかけていました。

 わかっていてよ、森下さん。
 あなたもわたしたちのお仲間っていうことは。

 読んだら感想を教えるね、ってしーちゃんに告げてクリスさんにお辞儀をして、なんだか逃げるみたいにその場を離れました。

 お家に帰ってお風呂の後に、しーちゃんたちのマンガを読み始めました。
 
 一冊目は人気アニメの二次創作。
 ヒロインと敵対する組織のツンデレ女子が、いがみ合いながらもいつしか惹かれ合っていく、っていう百合展開のラブコメ。
 絵は丁寧でキレイだし、ストーリーもセリフも気が利いていて、そのへんの同人誌よりぜんぜんいい感じでした。
 
 しーちゃんたち、スゴイなー。
 純粋に感心しました。

 二冊目は18禁。
 こちらはオリジナルストーリーで、すっごくえっちでした。
 お話の大筋は、以前しーちゃんから聞かされていた、クリスさんに対するえっちなご命令。
 
 授業中にショーツを脱ぎなさい、とか、ノーパンで体育の授業を受けなさい、とかを主人公が実行していく、というものでした。
 でも、しーちゃんたちと大きく違うのは、マンガでは、それがいわゆるイジメの一環として行なわれていること。
 その上、クラスメイトや先生までもがみんなえっちでイジワル。

 だから、授業中こっそりショーツを脱いでいると、隣の席の子にみつかって、ヘンタイってなじられた挙句、スカートを脱がされてショーツを膝までずり下げた格好で、黒板の前に出て問題を解かされ、罰として丸裸で廊下に晒し者にされてしまいます。
 
 体育の時間にノーパンでマット運動をしていたら、ジャージのゴムが切れて足元まで一気に下がり、下半身丸裸で開脚前転をさせられてしまいます。
 最後は、跳び箱の上に丸裸で仰向けに縛り付けられて、アソコにオモチャを挿れられたまま放置されていました。

 そんなお話が、デッサンのしっかりした可愛らしくて色っぽいキャラクターとリアルな構図、緻密な筆致で背景まで丁寧に描かれていました。
 
 舞台はどう見ても、この学校そのものでした。
 虐められるほうの女の子はクリスさんに、苛めるほうはしーちゃんにそこはかとなく似ている感じで、乳首が勃っていく様子やアソコの中までもが克明に描かれていました。

 そして、絵と同じくらい良かったのが、虐める側の人たちのセリフでした。
 虐められているほうの子の羞恥心や被虐心を徹底的に煽り立てる、侮蔑や憐憫、罵倒のセリフで埋め尽くされていました。

 クリスさんて、こんなことをされたくて、こんなことを言われたいんだ…
 しーちゃんも、こんなにいやらしいお話を考えられるようになったんだ…
 しーちゃんたちは、このマンガを二人で描きながらも、欲情を抑えきれずに何回も抱き合ったんだろうなあ…

 私は、そのえっち描写の迫力に圧倒されていました。
 そして、しーちゃんとクリスさんの関係を、心の底からうらやましいと思いました。
 何度か読み返すうちに結局ガマン出来ず、文化祭で疲れたからだなのにもかかわらず、マンガと指だけで激しく2回イってしまいました。

 しーちゃんたちのマンガのコーフンがようやく落ち着いて、ベッドに仰向けになって目をつぶりました。
 
 私だって…
 
 明日目が覚めたらいよいよ、ゆうこ先生のお家で二人きりです。
 いきなりは無理でしょうけれど、一歩だけでも踏み出したいな。
 頭の中に、クリスさんが別れ際におっしゃったことが、グルグル渦巻いていました。

 普通とは少し違った嗜好を持っている人たちって、無意識のうちになんとなく、惹かれ合ってしまうものなのじゃないかしら…

 あの遠い夏の日、私に舞い降りた直感。
 オオヌキさんと私は似ている…
 それが明日、少しでも確かめられたら、いいな。


ピアノにまつわるエトセトラ 08

2011年10月22日

ピアノにまつわるエトセトラ 06

 その週の金曜日は、10月最後のピアノレッスンでした。
 レッスンが終わって、私のお部屋でしばし雑談。
 
 その頃には、ゆうこ先生ともかなり打ち解けて仲良くなれて、いろんなお話を和気藹々としていました。
 私の部活のこととか、お友達のこととか、ゆうこ先生の学生時代のお話とか、最近のお仕事のお話とか。
 
 母ももう、私のお部屋でのレッスンには同席しないようになっていて、キッチンで篠原さんと一緒に、美味しいお夕食を作るのに張り切っているはずです。
 ゆうこ先生と二人きりのレッスンタイム。
 
 それでも私は、ゆうこ先生にえっち関係のご質問、とくに、遠い夏の日の水着をめぐる謎、については、出来ないままでいました。
 それを言い出しちゃうと、ゆうこ先生との楽しい関係のバランスが崩れてしまうような気がして、どうにも言い出せないままでいました。

 レッスンのとき、ゆうこ先生は私の背後に立ち、ときどき私の背中に覆いかぶさるようにからだをくっつけてきて、私の運指の間違いやタッチのミスをやさしく正してくれます。
 
 背中に感じるゆうこ先生のやわらかい胸。
 両手に触れるゆうこ先生のしなやかな指。
 鼻腔をくすぐるゆうこ先生のパフュームの甘い香り。

 鍵盤に集中していた緊張感がフッと緩み、何とも言えない気持ち良さを感じながら、急に胸がドキドキし始めます。

「ほら、こうしたほうが弾きやすいでしょ?」
 
 私の手の甲に、ご自分の手のひらを重ねて運指を教えてくれた後、私の顔を覗き込むように見つめてニコッと笑いかけてくださるゆうこ先生。
 私は、その笑顔を見るたびに、振り向いて正面から、ゆうこ先生を思いっきり抱きしめて、胸に顔を埋めたい衝動に駆られ、抑え込むのが大変でした。

「来週のレッスンのことなのだけれど…」
「それでですね、私、来週は…」

 私の部活のお話が一区切りして、会話が途切れて一呼吸置いた後、私とゆうこ先生が同時に口を開いて、お互いの言葉がかぶってしまいました。

「あ、ごめんなさい。直子ちゃんからどうぞ。なあに?」

「あ、いえ、いいんです。先生からお先におっしゃってください」

「そう?じゃあ、わたしから・・・」

「直子ちゃん、予想以上に上達が早いから、そろそろ次のステップに移ろうと思うのね」
「デジタルピアノとアコースティックピアノは、やっぱり鍵盤のタッチが違うから、打鍵の強弱による音の響かせ方とか、あと、足元のペダルの使い方なんかも、そろそろ知って、慣れておいたほうがいいと思うの」

「試験のとき、デジピかアコピかは、たぶん半々くらいだと思うけど、アコピに当たったときにまごつかないように」
「それに、幼稚園もきっと、アップライトのアコピのところが多いと思うし」
「だから、これからは月に一、二回くらい、わたしの家に来てアコピでのレッスンもしたらどうかな?なんて考えているの」

 ゆうこ先生のお宅におじゃましてのレッスン!
 それは、願ってもない嬉しいお誘いでした。
 
 母たちに気兼ねすることなく、ゆうこ先生と二人きりで親密に、何時間か一緒に過ごせるんです。
 考えただけでどんどん胸が高鳴ってきます。

「どう?」

「もちろん、お願いします!先生さえご迷惑でなかったら」
 
 小首をかしげて私を見つめるゆうこ先生に、私は即答しました。

「でも…」
 
 答えてから、さっき私が言おうと思っていたことを思い出して、盛り上がったテンションが一気に降下しました。

「さっき、私が先生に言おうと思っていたことなのですけれど、来週は、文化祭の前日なので、準備とかで夕方まで忙しいと思うのでレッスンお休みにしてもらいたい、って…」

「あら、そうだったの。文化祭かあ、懐かしいなあ」
 
 ゆうこ先生が遠くを見るような目で宙を見つめました。

「それなら、再来週の金曜日にしましょう。そうか。あそこの女子高、文化祭なんだ」

「はい」

「直子ちゃんたちは何をやるの?」

「クラスではクレープ屋さん。文芸部では毎年恒例の機関紙作りとバザー、です」

「へー。楽しそうね。わたしも高校の頃の文化祭では、毎年体育館のステージで演奏していたわ。高校の頃は、いわゆるハードロック」

「えっ、そうなんですか?先生がハードロック!?見たかったなー」

「たぶんビデオが残ってるから、うちに来たら見せてあげる。直子ちゃんビックリするよ。すんごいステージ衣装だから」
 
 ゆうこ先生が、うふふ、って笑いました。

「先生もよかったら来てくださいよ、うちの文化祭。ご案内しますよ?」

「そうねえ。近くだから行きたいのはやまやまなのだけれど、仕事の一つの締め切りが迫っているからなー。行けるかどうか、って感じだから、お約束は出来ないの」

  ゆうこ先生が残念そうに言って、私はがっかり。

「あの高校にはね、私の昔からの友達が今、先生やっているのよ。美術の先生」

「へー。そうなんですか」

「だから何度か、文化祭に遊びに行ったことはあるの。けっこう人が集まるのよね?」

「はい。なんかお祭りみたいで、すっごく楽しいです」

「だって直子ちゃん、文化祭って、お祭りよ?」

「あ、そっかー」
 
 二人でアハハと笑いました。

「そうだっ!先生!文化祭の翌日、月曜日は学校お休みなんですよ。だから金曜日のレッスンを月曜日にする、っていうのはどうでしょう?」
 
 私は、我ながら名案を思いついた、って、またテンションが上がってきました。

「それはかまわないけれど・・・でも直子ちゃん、お祭りの翌日で疲れていない?」

「ううん。ゆうこ先生に会えるなら、疲れなんてぜんぜん感じません!」

「それはそれは。嬉しいお言葉をありがとう。レッスンは月四回ってお約束だったから、一回飛ばすのは心苦しかったけれど、それならお約束もクリア出来そうね」

「あ、でも先生、お仕事の締め切りが…」

「それは大丈夫。そういうことならなんとか、早々に仕上げちゃうから、直子ちゃんのために」

「ねえ、直子ちゃん。どうせなら早い時間から、わたしのお家に来ない?その日」

「いいんですか?」

「うん。わたし、レッスンのたびに直子ちゃんちでご馳走になりっぱなしだから、その日は直子ちゃんにご馳走してあげる。それに、直子ちゃんとは、もっとゆっくりたくさん、おしゃべりしてみたいから」
 
 ゆうこ先生が私をじっと見つめてから、お花が咲く瞬間みたいな綺麗な笑顔を私にくれました。

 ピンポーン。
 そのとき、お夕食の準備が出来たという、母からのコールが私のお部屋に届きました。

「それじゃあ直子ちゃん、月曜日のこと、もとこさんにはわたしからご説明するから、ね?」
 
 ゆうこ先生がゆっくり立ち上がり、私に一つ、パチンとウインクをくれました。
 あっ、そうそう。
 もとこさん、っていうのは素子って書いて、私の母の名前です。

 文化祭二日目に、私はまた、しーちゃんがいる、名物!!喫茶 白百合の城 美術部、に、ご招待されていました。

 今回のコンセプトは、砂漠の民と王室のハーレムパーティ、だそうで、お部屋のあちこちにエジプトというか中近東あたりというか、ピラミッドやスフィンクスやラクダさんっぽいオブジェが飾られ、全体にゴールドと赤とベージュなキラキラした雰囲気のお部屋になっていました。
 
 部員の人たちは、みんなお鼻の下からをシースルーのシルクみたいなペラペラな一枚の布で覆い、目のまわりのお化粧が派手め。
 
 服装も、ビキニまではいかないセパレートの水着にツヤツヤなガウンを羽織っている人や、金の紙で作ったらしい王冠やアクセサリーで飾り立てた人、ギリシャの哲学者みたく白いカーテンをからだに巻きつけただけみたいな人など、全体的に昨年よりキンキラ&セクシーな感じになっていました。

「ねえ、しーちゃん。去年より、みなさんのお肌の露出度が上がっていない?」
 
 大きめな男物のストライプなワイシャツに黒いスカーフ、薄茶色のスカートに大きめの黒縁メガネとヒール、っていう、この空間ではかなり地味めな、でも見ようによっては、インディジョーンズとかに出て来そうなインテリ歴史研究家、みたいなたたずまいのしーちゃんに尋ねました。

「去年まで風紀を細かくチェックされていた高齢の先生が退任されたからネ。今年は少し羽目が外せるんだヨ。井上先生のおっけーももらってるし」
「その代わり、今年はカップルさんでも先生でも男子禁制入室不可。完全無欠な女の園なんだヨ」
 
 しーちゃんが笑いながら説明してくれました。

「それから、これはインディージョーンズじゃないヨ。ハムナプトラのエヴリンのイメージ、ネ?」
「それで、こちらがアナクスナムーンっ!」

 長い髪を左右に分けて前に垂らし、おっぱいのふくらみは髪に隠れていますが、その下はビキニの水着でしょう。
 黒い布地が髪の隙間から少し覗いています。
 まっすぐで真っ白なお腹におへそがちょこん。
 
 下半身はさすがにビキニはまずいのか、黒いパンストに黒いハイレグな短パン。
 スラッと伸びた足がすっごくセクシー。
 目元パッチリでキラキラ光るメイクを施した端正なお顔は、まさに砂漠のお姫さまなクリスさんが、ニッコリ微笑んでくれました。

「ごきげんよう。お久しぶりね、森下さん」

「あっ、ごきげんよう、えっと、クリスさん、じゃなくて二宮先輩」
 
 クリスさんの艶やかなお姿にボーッと見蕩れていた私は、声をかけられて盛大にアタフタしてしまいました。

「あら、ごきげんよう森下さん。お変わりなくて?」
 
 クレオパトラ風おかっぱソバージュに金の飾りを付けて、衣装も胸元が大胆に開いたエナメルっぽいテカテカなボディコン姿の村上先輩や、金ぴかアクセサリーを山ほど身に着けて、一歩歩くたびにジャラジャラ音がしそうな小川先輩にお声をかけられて、しばらくおしゃべりタイムに花が咲きました。
 
 そんな格好をしていても、口調は基本、マリみてなのがなんだかミョーに微笑ましいです。

 そのうちに、卒業された鳥越先輩と落合先輩もお顔を見せ、他にも去年知り合った先輩がたや、しーちゃんと仲がいい同級生や後輩の人たちも入り乱れて、楽しい時間が過ぎていきました。


ピアノにまつわるエトセトラ 07