一階まで下りると、店内は少し照明を落としてガランとしていました。
カウンターの真ん中にお姉さま。
そのお隣にもうおひとかた、どなたかいらっしゃるみたい。
お姉さまの目の前には、ほとんど空になったワイングラスが置いてあります。
「ああ、意外に早く復活したのね。直子、こっちへいらっしゃい」
私に気づいてくださったお姉さまが、ご自分のお隣の空いている方のカウンター椅子を指さされます。
「あ、はい・・・」
おずおずとストゥールに歩み寄り、丸い腰掛け部分にバスタオル越しのお尻を乗せます。
回転式のストゥールだったので少し腰を捻ると、体全体がカウンター正面に向きました。
「はい、お疲れさま。ずいぶん可愛く喘ぎ放しだったから喉乾いたでしょ?これ、飲んで」
カウンター越しにさーこママさまが、カクテルグラスに注がれた透明な飲み物を差し出してくださいます。
「あ、ありがとうございます・・・」
うつむいてグラスを手に取り、一口唇を当てます。
ん、甘い・・・冷たい、シュワシュワしている・・・でもお酒?、んっ、美味しい・・・
結局一気に半分までゴクゴク飲んでしまいました。
グラスをテーブルに戻すために再びうつむいたとき、大変なことに気がつきました。
座るために腰を曲げているためバスタオルの裾がせり上がり、ツルツルな恥丘がスジの割れ始めまで、ストゥールの上で見事に露出していました。
カウンターで隠れて、さーこママさまからは見えないでしょうけれど、お隣のお姉さまからなら丸見えなはず。
はしたない・・・
かといって隠そうとして裾を引っ張ったら、今度は乳首がポロンと、こんにちは、しちゃいそうだし・・・
自分のからだがみるみる火照っていくのがわかりました。
「気を失っちゃったときはビックリしたけれど、すっかり血色も戻って、来たときより数段色っぽくなっているわよ」
私の顔をじっと見つめていたさーこママさまが、今の私の下半身の状態を知ってか知らずか、火照っている私を冷やかしてきます。
「わたしも若い頃、たまに気絶していたわ。とくに膣でイカされると、だめなのよね。気持ち良すぎて頭の中が真っ白になって」
さーこママさま、けっこうお飲みになられたのかな、目をトロンとされて、あけすけな告白。
「初めて気絶したのは、同性と初めてそういうことをしたときだったわ。学校出て最初に就職した会社の先輩」
「それから私も女性同士のえっちにハマっちゃったの。男はがさつだしめんどくさいし。男として気絶したことなんて一度もなかったわ」
さーこママさまの瞳が、昔を懐かしむように細まります。
「それで気絶から覚めた後って、からだが全体がとても敏感になっていない?ちょっと触られてもヒクヒクしちゃう、全身性感帯、みたいな?」
イタズラっぽく私の顔を覗き込んでくるさーこママさま。
「あの、えっと・・・」
その通りなのですが、素直に、はい、とお答え出来ないのは、さーこママさまの背後、厨房の奥のほうに男性のかたらしいお背中が見えているからでした。
おそらくあのかたが、ケンちゃん、さま。
このお店のシェフをされていて、ゲイで露出症マゾで、私のことを羨ましがっている、とお聞きしていましたが、男性は男性です。
同性だけの場で辱められているときとは異なる、男性に欲情を催されてしまったらどうしよう、という幾分怯えの入り混じったフクザツな羞じらいを感じていました。
「あれ?直子ちゃん、ケンちゃんのこと気にしているの?」
私の視線の先に気がつかれたのか、さーこママさまの訝しむようなお尋ね。
「あ、いえ、あの・・・」
「さっき社長さんから聞いたわよ。直子ちゃん、男性全般が苦手なんですってね?」
「あ、え、は、はい・・・」
「大丈夫、安心して。ケンちゃんは、女性になんかまーったく興味無いの。どんなに可愛らしい子がどんなにえっちな格好したって、ちんちんピクともしないみたい。パートナーのダニエルだけに首ったけの超ラブラブだから」
私の視線の先で包丁をトントンさせていたケンちゃんさまの右肩が、ピクンと動きました。
「それにね、妙にアタマ堅いとこがあって、わたしが夏だしってちょっと肌の露出多めな服を着てくると、それはレディとして品が無い、なんて怒るのよ。自分だって酔っ払ったら露出狂のクセにね」
笑いながらおっしゃったさーこママさまのお声に、ケンちゃんさまの肩が今度は二回、ピクンピクン。
「店長?野菜切り終わったから、下ごしらえ始めますよ!」
ケンちゃんさまの少し苛立ったようにぶっきらぼうな大声が聞こえ、はいはーい、とお答えしつつ奥の厨房へと戻られるさーこママさま。
入れ違いにお隣のかたとご熱心におしゃべりされていたお姉さまが、こちらを向かれました。
「直子の淫乱マゾボディは、こんなんじゃまだまだ序の口よね?敏感になってやっと火が点いたってところでしょ?これから二次会で、もっと盛り上がるわよ?」
さーこママさまと同じくらい瞳をトロンとさせた妙に艶めかしいお姉さまが、じっと私の剥き出しの恥丘を視つめておっしゃいました。
って言うかお姉さま、お隣とおしゃべりしながらも私とさーこママさまとの会話もちゃんとお聞きになってくださっていたんだ。
「あの、えっと、他のみなさまはどうされたのですか?」
お姉さまのお隣に座っていらっしゃるのは、絵理奈さまお付きのヘアメイクアーティストのしほりさまでした。
しほりさまの更にお隣に里美さまがお座りになり、他のスタッフのみなさまのお姿はありません。
ギャラリーに加わられたOLさんたちのお姿も、アルバイトのマツイさまのお姿も。
「みんなお開きになった途端に、そわそわと夜の街にくりだしていっちゃったわ。それぞれ、つがいで」
可笑しそうに笑いながらおっしゃるお姉さま。
「直子があんまり気持ち良さそうにイキまくるものだから、みんなアテられちゃって、居ても立ってもいられなくなったんじゃない?」
お姉さまがからかうように私の顔を覗き込んできます。
つがいで、ということは、雅さまとほのかさま、リンコさまとミサさま、そして綾音さまと絵理奈さま、ということでしょう。
「それで、カップリングにあぶれたわたしたちが社長さん主催の二次会で、憂さ晴らしさせてもらうことになったってわけ」
しほりさまがお道化た口調で、お姉さまのお言葉を引き継がれました。
「では、この4人で、これからどちらかに伺うのですね?」
私もお姉さまとふたりきりになりたい気持ちもありましたが、お姉さまとしほりさまと里美さまという、エス度の高い珍しい組み合わせにワクワク潤んできてしまうのも事実でした。
何よりも、どこへ連れて行かれるのかが気になります。
絶対にただの飲み会などではなく、私を辱める場なのでしょうけれど。
「そう。うちの連中は今頃それぞれ、ふたりだけの世界で盛り上がっていることでしょうね。綾音たちは、気が向いたら顔を出すかもしれない、って言っていたけれど」
お姉さまのお口ぶりでは、もう伺う場所も決まっているご様子。
そこまで本当に私を、バスタオル一枚で連れて行くおつもりなのでしょうか?
「そう言えばパーティの最中に、マツイちゃんから面白いこと聞いちゃったんだ・・・」
三席向こうのお席の里美さまがカウンターに身を乗り出して、私にそう告げたとき・・・
カランコローン!
背後から突然、軽やかな音色が鳴り響きました。
お店の入口ドアのウェルカムチャイム。
どなたかがお店に入ってこられたみたい。
驚いて思わず振り向いてしまいました。
照明を落としたドア前に立ち尽くす長身細身なシルエット。
この熱帯夜に黒のパンツスーツとタイを締めた白ワイシャツをきっちり着込み、頭にはおまわりさんのようなカッチリしたツバのついた制帽まで。
って、えっ!ひょっとして本物のおまわりさんっ!?
ギクリと心臓が跳ね、あわてて顔を逸らし正面に向き直ります。
お店二階の窓辺から私の痴態が目撃され、どなたかにツーホーされちゃったのかな?コーゼンワイセツ?タイホ?
ドキドキが自分の耳に聞こえてきそうなほど。
「ワタナベさま、お迎えに上がりました」
聞こえてきたのは少しアルト気味ながら紛れも無い女性のハキハキしたお声。
あ、女性だったんだ・・・それで、お迎え、ということは、タクシーの運転手さんとかかな?・・・
急激に膨らんだ恐怖が急激に萎み、盛大にホーッと胸を撫で下ろす私。
「あ、わざわざ悪かったわね。指定時間ぴったり。さすがね」
隣で思いっ切りパニクっていた私のことなんてまったく気づいていなかったらしい、お姉さまののんきなお声。
「ママさ~ん、車が来たから、あたしたち、おいとまするねー。また近いうちに寄らせてもらうからー」
厨房の奥のさーこママさまにお声を掛けられるお姉さま。
「あ、今日はありがとねー。直子ちゃんもみなさんも、また気軽に立ち寄ってねー」
おっしゃりながらさーこママさまが、濡れた手をタオルで拭き拭き、近づいてこられました。
「とくに直子ちゃん、あなたはまた、ここで裸になってね。今度は、そういうの好きそうなお客さん、たくさん呼んでおくから。もちろん女性だけ。あなたも大勢に視られたほうがもっと嬉しいんでしょ?」
ご冗談なのか本気なのか、私の両手を取ってブンブン振られるさーこママさま。
「あ、はい・・・今日は、いろいろありがとうございます、ごちそうさまでした・・・」
そんなふうにしかお答え出来ず、ブンブン振られる両手の振動でバスタオルが落ちてしまわないかハラハラな私。
「さ、それじゃあ行きましょう。ママさんもケンちゃんも、またねー」
お姉さまがストゥールを下り、さーこママさまの手から私の右手を奪い取ります。
「気をつけてね、あ、それと直子ちゃんは、月曜日にお洋服、取りに来なさいね」
カウンターの中で手を振りながら、お見送りしてくださるさーこママさま。
そのときにはケンちゃんさまもお顔をこちらにお向けになり、私たちを見送って丁寧にお辞儀してくださいました。
初めてちゃんと見たケンちゃんさまのお顔は、欧米のロックミュージシャンさんにいそうな、口髭をお鼻の下にへの字に蓄えた凛々しいハンサムさんでした。
「新宿へ、ということですので、車は通りの向こう側に停めてあります。恐れ入りますが横断歩道を渡ってそちらまで移動してください」
白手袋がお似合いな至極丁寧な運転手さまの先導で、お店のドア前にひとかたまりになった私たち。
とうとう私は、バスタオル一枚に首輪とスニーカーという破廉恥な格好で、終末の夜のお外に出ることになりました。
と言っても、道路の反対側に停めてあるらしいタクシーまで、という短かい距離らしいので、幾分か気が楽になりました。
ドアを開けるとモワッと全身に押しかかってくる真夏の熱帯夜の熱気と喧騒。
終末の夜の10時過ぎ。
高層ビルから近いこの場所は地下鉄の駅からもほど近く、遊び足りないのか家路を急ぐのか、昼間ほどでは無いにしろ頻繁に人影が行き来しています。
そんな中を、両肩はおろか胸の谷間までモロ出しなバスタオル一枚だけからだに巻きつけた姿で、お姉さまに手を引かれ歩いて行く私。
微風ながらも夜風がタオル地の裾をユラユラ揺らし、ワレメを風が直に撫ぜていくのを感じます。
さっき感じた気楽さはどこへやら、通勤で見慣れた街角に身を置いた途端、罪悪感と被虐感がゾワッと背筋を駆け上がってきました。
私、こんな格好で夜のお外に・・・紛うことなきヘンタイ女だ・・・
夜目なので真っ白なチューブトップ超ミニドレスに見えないこともなさそうですが、すれ違うかたたちの怪訝そうな視線が素肌に突き刺さります。
なるべくお姉さまの背中に隠れたいのに、並んで歩こうと歩調を合わされるイジワルなお姉さま。
里美さまとしほりさまは、運転手さまのすぐ後ろを、並んでズンズン先へ行ってしまわれます。
お店から10メートルくらい先にある横断歩道。
すでに信号待ちでOLさんらしきおふたりと若めな男性サラリーマンさん。
その後ろに5人、横並びで着きました。
対面にも信号待ちの男性がおふたり。
私たちが待っている場所にはちょうど外灯が照っているので、対面からは一際明るく見えていることでしょう。
事実、男性のうちのおひとりがこちらを小さく指差して、お隣のかたに何か耳打ちされているのが見えました。
ああん、視られてる・・・バッチリ注目されちゃっている・・・
たとえこれがバスタオルだと気づかれなくても、胸の谷間の大半を露出させ、絶対領域ギリギリの超ミニでからだを見せびらかしている、露出狂のスケベ女だって思われちゃっている・・・
そう考えることは、居ても立ってもいられないほど恥ずかしいことなのですが、一方で異常なほどの性的昂ぶりも感じていました。
じんわり全身汗ばんでしまうのは、暑さのせいだけではありません。
横断歩道を車が何台か通り過ぎ、やっと信号が変わりました。
OLさんたちが歩き始め、私たちもつづきます。
赤信号でストップした車のヘッドライトが、左右から私を照らし出します。
お姉さまは何もおっしゃらず、黙って私の手を引いています。
対面から歩いてくる男性たちが不躾に、私の胸元や脚の付け根付近をガン見してくるのがわかります。
車の中からも、私たちの移動速度とシンクロして幾つもの視線が動いているはずです。
男性たちと擦れ違う瞬間に、バスタオルがハラリと外れたら、どうなっちゃうのだろう・・・
そうしたい衝動が突然湧き上がってしまうほど、私の理性は息も絶え絶えになっていました。
結局、お車にたどり着くまでに、のべ十数人の男女が私の視界を横切っていきました。
露骨にガン見してくる人、チラチラと盗み見てくる人、すれ違ってすぐ振り返る人。
伏し目がちに周囲を窺っていた私でさえ、それくらいわかったのですから、実際にはもっと大勢の人に注目されていたと思います。
横断歩道を渡り切って少しお店側に戻ったところに、左右側面のライトをチカチカさせて駐車している大きめで真っ黒でピカピカな乗用車。
自動車に詳しくない私が見ても、なんだか高級そう、と思えるほど風格のある形の立派な乗用車でした。
ドアのところに小さく金色のエンブレムが描かれているので、これもタクシー?
あ、こういうのって、ハイヤーって呼ぶのでしたっけ?
運転手さまがまず、後部座席を開けてくださり、しほりさま、私、里美さまの順に乗り込みました。
助手席にお姉さま、最後に運転手さまが乗り込まれ、ブルルとエンジンがかかります。
瞬く間にエアコンの冷気が車内に行き渡り、瞬く間に汗が引いて適温になりました。
スーッと音も振動も無く、お車が走り始めます。
「それじゃあしほりさん、里美ちゃん、打ち合わせ通りやっちゃって」
お姉さまがシートベルトをしながらおっしゃり、里美さまの右手がスルスルっと私のバスタオルに。
「あ、いやんっ!」
完全に虚を突かれ、手遅れな抵抗空しくバサッとバスタオルを剥ぎ取られ、お車の後部座席でスッポンポン。
あわてて右腕でおっぱいを庇い、シートに小さくうずくまります。
「ごめんなさいね、騒々しい上にはしたなくて」
お姉さまが運転手さまに、嬉しそうにお詫びされています。
「大丈夫ですよ。わたくしそういうの、慣れていますから」
朗らかにお答えになる運転手さま。
それから運転手さまは首をちょっと左に向けて、後ろの私に語りかけるみたいに、こうおっしゃいました。
「安心してお嬢さん。この車の後部座席は窓三面にスモークフィルム貼ってあるから、外から中は覗けないの、とくに夜はね」
ルームミラーに映った運転手さまの切れ長なおふたつの瞳が、私のからだをじっと見つめているのがわかります。
「ほら、運転手さんもそうおっしゃっているじゃない?直子、着替えをするから手をどけなさい」
お姉さまのご命令口調。
もちろん逆らえない私は、胸を庇う腕を外し、ピンと尖りきった両乳首を空気中に晒しました。
お車は信号待ちで停車しています。
大きめの交差点で、すぐ脇の歩道を夜10時過ぎにしては多めの老若男女が行き来されています。
「まあ、お綺麗なバストだこと。隠さなくても大丈夫ですよ。舗道の人たちからは、窓に顔をくっつけて覗き込みでもしない限り見えないですから」
ご丁寧におっしゃってくださる運転手さまの口調に、そこはかとないイタズラっぽいニュアンス。
少し間を置いて突然、後部座席左右の黒い窓がスーッと下がっていきました。
「あとはこんなふうに、こちらから窓を開けたりしませんとね」
今度はあきらかなからかい口調でおっしゃった運転手さま。
あっ、と思ったときには遅すぎました。
両手で胸を庇おうと思ったときには、左右からしほりさまと里美さまにしっかり両手を押さえられていました。
お車はまだ停車しています。
開け放たれた窓からお外の熱気とざわめきがなだれ込んできています。
私に出来ることと言えば、せめて顔だけは隠そうと、ただうなだれるだけ。
近くでワッハッハと弾けたような笑い声が聞こえました。
でも、お外を行き交う人たちに剥き出しのおっぱいが視られちゃっているのかどうか、確かめる勇気なんて私にあるわけがありません。
やがて再びお車は音も無く滑り出し、同時に窓もスーッと上がってきて、車内に静寂が戻りました。
「運転手さんも、なかなかイタズラ好きなのね?」
ご愉快そうなお姉さまのお声。
「ええ、ワタナベさまもご存知のように、あのかたたちで慣れておりますので」
謎なことをおっしゃる運転手さま。
「あ、それとわたくし、本宮と申しますので、そうお申しつけください」
運転手さまであるところの本宮さまがルームミラー越しに、私にも目礼をくださいました。
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*三人のミストレス 15へ
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