2015年3月15日

面接ごっこは窓際で 05

 両腕を頭まで挙げたので、また少しワンピースの裾がせり上がり、もはや私のプックリ無毛な土手部分全体が、お姉さまの目前で剥き出しになっていました。
「あら、面白いポーズになったわね。なあに?性器をじっくりご覧ください、っていうこと?」
 からかうようなお姉さまの愉しそうなお声。

「あの、それは・・・はい・・・」
 自分の恥ずかし過ぎる性癖を、自分の写真を貼り付けて印鑑まで押してある、ある意味公的な書類に書き加えてしまったことに、私は自分でも驚くほど興奮していました。
 
 まさかお姉さま、この履歴書を他の社員のみなさまにもお見せするつもりなのかしら?
 胸のドキドキが治まらず、休め、の形に開いた股間がムズムズと疼きまくっています。
 私の中のマゾ性が頭のてっぺんから爪先まで、すべての細胞に行き渡り、全身で更なる辱めを欲していました。

「そこのヘアーをツルツルにしちゃっているのも、わざとなのでしょう?エステサロンに通っていたのよね?」
 お姉さまが私の股間を指さして、その部分にお顔を近づけてきました。
「は、はい・・・」
 シーナさまご紹介のエステサロンに、一昨年の秋頃から2ヶ月に1回くらいのペースで通っていたことは、すでにお姉さまにお話していました。

「その部分の脱毛って、すごく痛いらしいじゃない?それに、いたたまれないほど恥ずかしい格好にならなければいけないのでしょう?」
「はい、その通りです」
 サロンに伺うたびに施された恥ずかし過ぎる仕打ちの数々を思い出し、全身を覆うマゾ熱がまた数度、上がってきました。

「顔がますます赤くなったわね。そのときされたことでも何か思い出したのかしら。それに、なんだか嬉しそうよ?あなた。目がトロンとしちゃって」
「いえ、あの、それは・・・」
「つまりあなたって、恥ずかしい格好をして、いろんな人に剥き出しの性器を見られて、おまけに痛いことされるのさえ悦んじゃう、そんな性格なのよね?」
 お姉さまの愉快そうなお声に、蔑みの冷たい響きが加わってきました。
 私のマゾ性がそれを目ざとくキャッチして、全力でその部分に縋りつきます。

「はい・・・おっしゃる通りです・・・」
「そうよね。性器から滲み出てくる愛液の量が一段と増えたみたいだもの。両腿の付け根が濡れそぼってテラテラ光っている」
 お姉さまのお顔がいっそう近づき、わざとらしく音をたてて、お鼻で息を吸われました。
「んーっ。それになんだかいやらしい臭い。あなた、こんな状況なのに性的に興奮しているでしょう?」
「は、はい・・・ごめんなさい・・・」

「そういう人は、なんて呼ばれるのだっけ?恥ずかしさや苦痛や屈辱感みたいなもので悦んじゃう種類の人たちは」
「はい・・・あの・・・マゾ・・・マゾヒスト、です」
「そうね。それも森下直子さんの特徴なのよね?だったら、それも書いておかなきゃ」
 再び履歴書と鉛筆が、私の目の前に突き出されました。

「あなたのそれって、永久脱毛なの?」
 マゾヒスト、を履歴書に書き加え、元のポーズに戻ってから尋ねられました。
「あ、いえ、よくはわかないのですが、去年の夏頃からは、ぜんぜん生えてこなくなっています。先生からは、はっきりと、永久脱毛、とはお聞きしていないのですが」

「へー。ずいぶん腕の良い先生なのね」
「あ、腋の下は、永久脱毛しておいた、っておっしゃっていました。何か強い光みたいのを当てられて」
 お姉さまのご質問の意図がわからず、戸惑いつつお答えします。

「ふーん。それであなたは、たとえばお友達と旅行とかには行かないの?」
「え?あ、えっと行きます。行ったことあります」
「行ったらお風呂一緒に入るでしょ?何て説明したの?そのツルツルな性器を」
 それがお知りになりたかったのか。
 思い当たった途端に、そのときのことを思い出し、懐かしい恥ずかしさが全身を駆け巡りました。

「生まれつき、ってお答えしました。一生懸命タオルで隠していたのですが、好奇心旺盛なお友達に無理矢理タオルを剥がされて・・・とても恥ずかしかったです」

 大学2年の夏に、仲の良いお友達数名と4泊5日の旅行をしたときのことでした。
 行く前はずいぶん悩んだのですが、パイパンを隠し通せるか、というスリルの誘惑と、知られてしまったときの恥辱への期待感もあって、思い切って参加したのでした。

 二泊目のお風呂で、一番ざっくばらんな性格のお友達に知られてしまいました。
 生まれつき、って告げると珍しがられ、一緒に入っていたお友達全員が集まってきて私を囲み、広い温泉の洗い場の片隅でジーッとその部分を、興味津々の瞳で見つめられました。
 そのときの、お友達からの痛いほどの視線は、その後しばらくのあいだ、私の思い出しオナニーの定番になったほどでした。

 当然、そのときもその場で濡れてしまったのですが、お風呂場だったので、なんとかバレずにすんだようでした。
 旅行の後も、からかわれたり苛められたりすることはほとんど無く、みんな普通に接してくれました。
 ただ、一度ある人に、森下さんて、顔の割にはえっちなからだしているんっだってね、と言われたことがあったので、私がいないところで、どうだったのかはわかりません。

「あら、嘘をついたのね。だめじゃない。ちゃんと正直に、マゾだから、性器を隅から隅までよーく見てもらいたくてツルツルにしています、って言わなくちゃ。これからはそうしなさい」

 お姉さまのイジワル声でのご命令。
 あのとき本当にそう告げたら、私の大学生活はどんなものになったのだろう。
 すぐに、いたたまれない妄想が広がり、いてもたってもいられないほどの被虐感に全身が痺れてきました。

「は、はい・・・ごめんなさい。こ、これからは、必ず、そ、そうお答えします」
 はしたな過ぎる自分の言葉に、アソコの奥がキュンキュンと疼きました。

「あなた、あたしに何か聞かれて答えるたびに、どんどん発情していない?」
 お姉さまが向かい側の椅子で座り直し、ベージュのストッキングに包まれたスラッとしたおみあしを優雅に組み替えられました。

「そんなにサカっちゃってたら、もう抑えきれないんじゃない?性欲」
「・・・はい・・・」
「今、何がしたい?」
「えっ?えっと・・・」
「正直に言っていいのよ。今一番したいこと」
 妙におやさしげなお姉さまの薄い笑顔が、かえって不気味でしたが、一刻も早く自分のからだをまさぐって欲しい私は調子に乗ってしまい、正直に告げてしまいました。

「あの、出来ることならお姉さまに、わたしのからだをいろいろ虐めて欲しいです・・・」
「お姉さま?ここがどこで、あたしが誰で、今何をしているのか、わかってないの?」
「ごめんなさいっ!あの、社長さま、あ、いえ、チーフさまに、私を虐めて・・・」

「だから、今は面接中なのよ?それに、まがりなりにもここは神聖なるあたしの会社のあたしの部屋。そんなところであなたと乳繰り合えるわけじゃない、けがらわしいっ!」
 本当に怒っているみたいな、お姉さまの語気鋭い一喝。
「ごめんなさいっ!」
 怯えてギュッと目をつぶった私は、お姉さまの次のお言葉を待ちました。

「面接というのは、対面して、相手の人となりを知るためにするの。今あなたは発情していて、それを鎮めるためにあなたはどういう方法を取りますか?って聞いたわけでしょう?その答えが、あたしに虐めて欲しい、って、わけがわからない」
「それに、チーフさま、っていうのも、わけがわからないわよ?さま、なんて付けられたら、逆になんだかバカにされているみたいだもの。呼ぶときはチーフ、だけでいいから」
 お姉さまのイジワル度が、どんどん上がっています。

「もう一度聞くわよ?今一番、あなたは何がしたいの?」
「あの、そういうことでしたら、えっと、あの、オ、オナニーです・・・」
「ふふん。ずいぶんストレートに言ったわね。ここで、これからあなたの職場になるこの部屋で、まだ入社前で社員でもないのに、オナニーがしたいんだ?」
「あの、ごめんなさい・・・したくないです、がまんします」

「あなたはオナニーが好きなの?」
「はい。好きです。ごめんなさい」
「いちいち謝らなくていいわよ、鬱陶しいから。それで、月にどれくらいしているの?」
「月に、と尋ねられるとよくわかりませんが、ほぼ毎日・・・」
「へー。それは凄いわね。つまり毎日、何かしらえっちなこと、いやらしいことを考えて自分を慰めているということよね?」
「・・・はい」
「そこまで行けば立派な特技だわ。ほら、それも書いておかなきゃ」
 私の前に履歴書と鉛筆が差し出されました。

 趣味・特技、クラシックバレエ、音楽鑑賞、映画鑑賞、読書、ノーブラ、ノーパン、野外露出行為、マゾヒスト、オナニー・・・
 履歴書がどんどん、本当の私らしくなっていきます。
「かっこして、ほぼ毎日、とも付け加えておきなさい。普通の女性とは著しく異なる、あなたのチャームポイントなのだから」
 呆れたような含み笑い混じりで、お姉さまがぞんざいに履歴書を突っ返してきました。

 趣味・特技、クラシックバレエ、音楽鑑賞、映画鑑賞、読書、ノーブラ、ノーパン、野外露出行為、マゾヒスト、オナニー(ほぼ毎日)・・・
「いいわよ。今日は特別に許してあげる。特技だものね。ここで思う存分オナニーなさい」
 履歴書を一瞥して満足そうなご様子のお姉さまが再び、おみあしを優雅に組み替えられました。

「そうだ。その前に、永久脱毛した腋の下、っていうのも、あたしに見せてくれない?」
「えっ?腋の下?」
 マゾの服従ポーズで後頭部に組んだ腕の、ニットの袖に包まれた自分の腋の下左右を、思わずキョロキョロ見てしまいました。

「えっと、それは・・・」
「ニブい子ね。そのワンピースもさっさと脱いじゃいなさい、っていうことよ。素っ裸になっちゃいなさい」
「そのほうがオナニーも捗るでしょ?どうせ見せたくてしょうがないのだろうし、あたしもあなたの裸が見たいのよ」
 その口ぶりから、お姉さまもだんだんと興奮されているように感じました。

「うちは、エロティックな水着や下着も扱っているからね。あなたには、そういうののモデルになってもらうっていう手もあるかな、ってふと思ったの。プロに頼むとそれなりにお金がかかるしさ」
「ほら、さっさと脱いでオナニーしなさい。見ててあげるから」
「はい・・・」

 組んでいた両腕を解き、せり上がったワンピースの裾に手を掛けて、そろそろと捲り上げ始めました。
 ニット地に貼り付いていたおっぱいが弾力を取り戻し、プルンと息を吹き返すのがわかりました。
 押し潰されていた敏感乳首に布地が擦れ、それだけで下半身がいっそうジンワリ潤みました。
 顔を通過した布が取り除かれると、再び視界にガラス越しの夜空が見え、半ば鏡と化したそのガラス窓には、私の裸が映っていました。

 見ただけで硬さまで実感できるほどツンと尖りきったふたつの乳首が、虐めて欲しそうに宙を突いていました
 なんで私、こんなところで裸になっているのだろう。
 今日初めて訪れた、これからずっと働くことになる、世間的にも有名な高層ビルのオフィス窓際で。
 おっぱいもお尻も性器も全部、丸出しで。
 可哀相な私、ヘンタイの私・・・
 被虐感に酔い痴れ、自然に後頭部へ行ってしまう両手に自分で呆れながら、次のご命令をワクワクと待ちます。

「あなた、ガラスに映った自分のからだに見惚れているの?ひょっとしてナルシストのケもあるの?」
「あ、いえ、そういうのではなくて、ただひたすら、恥ずかしいなー、って」
 あわてて否定しつつも、心の奥底を見透かされた気もして、ビクッと震えました。

「まあ、自分の裸見せたい、なんて性癖の子は、多かれ少なかれナルシストよね。注目を浴びたい、っていう意味なら、すべての女性がそうかもしれないけれど」
「でも私は、注目を浴びて人気者になりたい、とかではないですから。蔑まされたい、辱められたいっていう、自虐マゾですから」
「そうだったわね。まあそれはいいわ。でもあなた、まだ途中よ」
「えっ?えーっと・・・」
「あたしは、素っ裸になりなさい、って言ったはずよ。まだ脱ぐもの、あるじゃない」
「あ、はい・・・でも・・・」

 お姉さまがおっしゃっているのは、ハイソックスと靴のことでしょう。
 だけど、これらを脱いでしまうと、困った問題が起きてしまいます。

「あの、ソックスと靴も脱ぎなさい、ということだと思うのですが、これを脱いでしまうと、このお部屋の床が、汚れてしまいます」
「なんで?」
「あの、私のアソコから、はしたないおツユが垂れてしまって・・・今は、腿を滑ってソックスの布で堰き止められて床までは落ちていきませんが、脱いでしまったら、かかとまで落ちて床に・・・」

「アソコ、ってどこ?」
「あの・・・性器です」
「性器?」
「えっと・・・オマンコ、です」
「ちょっと、あたしのオフィスでそんなお下品な言葉、使わないでくれる」
「あ、ごめんなさい。性器が濡れているんです」
「あなたのすけべな性器が弄って欲しくて愛液で濡れまくっている、ってわけね?」
「はい・・・」

「いいわよ。床なんて汚れちゃっても。リノリュームだから拭き取ればいいだけだもの」
 お姉さまが嬉しそうに、ニヤッと笑いました。
「掃除するのはもちろんあなた。ちなみにモップやらバケツは、部屋の外、フロア共通トイレ脇の給湯室にまとめて置いてあるから、帰る前にあなたが裸でフロアに出て、取ってくればいいだけ。だから、いくら汚してもかまわなくてよ」
 
 突然、お姉さまが立ち上がりました。
「ほら、さっさと靴を脱いで」
 私に近づいて来るお姉さま。
「は、はい・・・」

 お姉さま、私を裸でオフィスの外のフロアに行かせる気なんだ。
 来たときは他の会社の人、いなかったようだけれど、本当に大丈夫なのかな?
 そのときのことを想像して、不安と期待に胸を高鳴らせながら、ソックスを脱ぎ始めました。
 ハイソックスは左右とも、履き口のゴム部分から全体の三分の一くらいまで、じっとり湿っていました。
 粘性のある湿りで、指がヌルヌルしました。

「ちょっと貸して」
 脱ぎ終えたソックスがお姉さまの手で奪われました。
「へー。思っていた以上に湿っているのね。ずいぶん垂らしてたんだ。臭いもけっこうきついわね」
 ソックスを二本の指でつまんでぶら下げ、お鼻をクンクンさせているお姉さまに、私の顔は、耳たぶが燃えちゃいそうなくらい真っ赤なはずです。

「これはあなたの言う通り、かなり床が汚れちゃうかな?まあ、終わったらしっかり掃除していってね」
「・・・はい。わかりました・・・」
 いつものポーズになって小さくうなずきました。
 左脇のガラス窓には、正真正銘の全裸になってしまった私の、紅潮した横顔が映っています。

「そう言えばあなた、オナニーするとき、痛いのが欲しいタイプだったわよね?」
「あ、はい・・・」
「あなたのその、痛々しいくらいに背伸びして勃っている乳首を見て、思い出したの」
「最近サンプルでいただいたものの中に、誰も試そうとしない面白そうなものがあったのよ。それなりにファッショナブルで、見ようによってはエレガントなのに、誰も持って帰らなかったの」
 お姉さまが可笑しそうにクスッと笑いました。

「あなたならバッチリ似合うはず。それに、使いようによっては痛かったりもするはずだし。ちょっと待っててね」
 謎のようなお言葉とともに、お部屋の入口のほうへ向かおうとして、はたと立ち止まりました。

「ただボーっと待っててもらうのも芸が無いわね。あなた、そのあいだ、見世物になっていなさい」
「えっ?」
「マネキンよ。その姿勢で、その窓辺のカウンターのところに上がって、あなたのいやらしい裸を外の人たちに見せつけてやりなさい」

 このお部屋の窓辺は、窓の下のほう、だいたい私の膝のところくらいまでが壁部分で、そこから上が太い柱で挟まれた大きな窓になっています。
 柱の幅の分だけ外に張り出している窓の下部を埋めるスペースが、人が腰掛けられるくらいな幅の、壁や柱と同じ材質のカウンター状になっていました。
 一枚の窓の大きさは、2メートル弱四方くらい。
 したがって、そのカウンターの上に立てば、全身が窓枠の中にすっぽり収まります。
 もちろん、窓の外は、遥かに広がるお外の景色。

「あなた、そういうの好きでしょう?裸見せたがりの露出狂マゾ女なのだから」
 お姉さまがツカツカと私のほうへお戻りになり、窓辺からお外を覗きつつ、つづけました。
「まあ、夜だし、ここは下から見上げたからって、せいぜい見えるのは頭ぐらいだろうし、近くのビルからだって双眼鏡とか使わない限り、何だかわからないだろうから、あまり面白くは無いかもしれないけれど」

「でも、万が一、誰かに気づかれてしまったら、会社にご迷惑がかかりませんか?」
 私もお姉さまの隣でお外を覗き、この感じならそんなに心配はいらないかもとも思い、やってみたい気持ちになっていました。
「それは大丈夫。あなたも見た通り、ここには仕事柄、本物のマネキン人形がたくさん置いてあるからね。万が一、ここから裸の女が見えた、なんて噂になっても、ああ、それってマネキンですね、うち、アパレルだから。って笑い飛ばせるわ」

「ほら、早く上がって」
 お姉さまに促され、張り出した窓手前のカウンターによたよた上がりました。
 大きく両脚を広げ割ったので、早くも床に、はしたない雫がポタリ。
 上がるとお空がぐんと近くなりました。
「外を向いて、いつものポーズをしていなさい」
「はい」
 お外を向いて、後頭部に両手を遣りました。

 夜の闇で鏡と化したガラス窓に、私の全裸姿が頭から爪先まで、クッキリ映りました。
 半透明なその全裸姿の向こうには、果てしなく広がる幻想的な都会の夜景。
 私の目の前に視界を遮るものは何もありません。
 逆に言えば、お外からも、窓枠の中の私の全裸姿を隠すものは何も無い、という状況です。

「私が戻ってくるまで、しっかり下々の者たちに、あなた自慢の裸を見せつけてやりなさい」
 冗談めかしたお姉さまのお言葉。
「あとでマネキンっていう言い訳が出来るように、あまり動かないほうがいいかもね」
 お姉さまがクスッと笑って遠ざかる気配を、背後に感じました。

 私が向いているのは、自分が住んでいるマンションの方向です。
 こちらに出て来てから2年以上、毎日のように行き来してきた街です。
 その街に向かって私は今、乳首を尖らせ、性器から愛液を垂らしながら、全裸姿を晒していました。
 
 百数十メートル下を駆け抜けていく自動車のライトが幾筋も、ハッキリ見えました。
 目を凝らせば、暗い通りをどこかへと急ぐ、小さな人影も識別出来ました。
 こちらから見えるということは、あちらからも、その気になれば見えるということ。

 誰か私に気づいて欲しい。
 土曜日のオフィスビルの窓辺で、社長さまからのご命令により、全裸でマネキンの真似事をやらされている、可哀相な新入社員の姿に。
 縛られているわけでもないのに、自発的に両手を後頭部に当て、おっぱいも性器もさらけ出したままの、どうしようもないマゾ女の姿に。

 眼下の建物の灯りが瞬くたびに、遥か遠くに人影をみつけるたびに、そんなふうに懇願しては、私は足元に粘性な水溜りを広げていました。


面接ごっこは窓際で 06


2015年3月8日

面接ごっこは窓際で 04


「あたしの左隣でツンと澄まして写っているのがサオトメアヤネ=早乙女綾音。企画・開発の責任者兼デザイナーよ」
 
 お姉さまが指さした先には、ウエーブがかった長い髪をきっちり真ん中で分け、左側はふうわりと肩に垂らし、右側はぺったりと撫で付けて後ろ髪を左へと流した、意志の強そうな理知的なお顔立ちの美人さんが、私をまっすぐ見つめていました。
 
 シックなグレイのスレンダードレス姿で美しくスクッと立たれていて、見るからに自信たっぷりな感じが伝わってきます。
 デザイナーさんて言うより、むしろモデルさんみたい。

「うちのアイテムは、ほとんど彼女がデザインを決めているの。うちの大黒柱」
「彼女はね、採寸しなくても見ただけで、相手の身体的なスペック、つまりサイズとかがね、わかっちゃうのよ。身長とか体重、スリーサイズや股下まで」
「初対面で着衣でも八割がた、下着や水着になってくれれば誤差数ミリの世界。あれは神業だわ」

「へー。それって、なんだか怖いですね。少しでも太ったらすぐバレちゃう。でも、そう言えばお姉さまも、私がお店に買いに行ったとき、採寸なさらないでブラのサイズがぴったりでした」
「あたしなんかぜんぜんまだまだよ。アヤには絶対かなわない」
 お姉さまがとっても嬉しそうにおっしゃいました。

「それで、あたしの右隣がマミヤミヤビ=間宮雅。優雅のが、って書いてミヤビね。彼女は営業担当。とにかく顔が広いの」
 
 次にお姉さまが指さしたのは、西洋の写実的な貴婦人肖像画を思い出させるような、小顔で目鼻立ちクッキリなレイヤーカットの美人さん。
 グリーンがかった黒のストライプスーツをきっちり着こなされて、大きめに開いた胸元から覗くレースのインナーと白い肌のコントラストが女性らしくて超セクシーです。

「あっ、このかたがひょっとして、デヴィッドボウイさん?」
「あたり。今は髪も伸びちゃってけっこう女性ぽい感じだけれど、高校の頃はベリーショートでもっと痩せていて、まるで某歌劇団の男役みたいだったの」
「小売の取引先はもちろん、製縫をお願いしている工房や問屋さんにも彼女のファンは多くてね、ずいぶん助けられてる」
「アヤと雅、ふたりとあたしが学校の同期で会社の共同創業者。つまり取締役。ちなみにあたしは、生産管理ともろもろのディレクションが主な仕事」

「アヤの隣のボーイッシュな子はオオサワリンコ=大沢凜子。愛称はリンコ。超優秀なパタンナー」
 
 やや小柄なベリーショート、瞳が大きくて唇が小さくて、どこかネコさんを思わせるお顔立ちなそのかたは、とあるアニメでオトコの娘だったキャラの制服コスプレ姿でした。
「ちなみに彼女、一年中ノーブラだから。会ったら直子、彼女のこと羨ましく思うかも」
 お姉さまがクスッと笑いました。

「その隣がコモリミサキ=小森美咲。愛称はミサミサ。彼女はCADが使えるから、リンコが描いたパターンをパソコンに取り込んで3Dモデリングしたり、あと広告やリーフレットのデザインとか、デジタルデザイン全般をやってもらっているの」
 
 このかたも大沢凜子さんが着ているのと同じアニメの女子用制服コスプレ姿でしたが、制服の上からでも、ナイスバディなのがよくわかりました。
 出るべきところは見事に出ていて、引っ込むべきところはキュッとくびれて、短いスカートから覗く弾力のありそうな太腿が眩しいくらい。
 ふんわりロングへアーの小さくて可愛らしいお顔とグラマラスなからだとのアンバランスさが、妙に艶っぽいです。

「この子たちふたりは、あたしたちの部活の後輩で、今はアヤの部下。この3人でうちの商品開発を受け持っているの」
「そうそう、直子はこのふたりときっと気が合うはずよ。リンコもミサミサもマンガとアニメのものすごいオタクだから」

「ヒマをみつけてはコスプレイベントとかに参加して、それなりに人気もあるみたいよ。ヴィヴィアンガールズとか名乗って」
「でも、普段はたいていデザインルームにこもりきりだから、なかなか顔を合わす機会が無いかもしれないわね。このあいだ直子も泊まった部室に、一番泊まりこんでいるのもこのふたり。のめりこむと寝食忘れるタイプね」

「それで最後はこちら、雅の隣で微笑んでいるのがタマキホノカ=玉置穂花。愛称はたまほの。彼女が直子とは一番年齢が近いわね。四大卒で去年の春入社だから、直子の3つ上かな」
 
 このかたは、ごく普通な濃紺のビジネススーツ姿なのですが、背筋をスッと伸ばして立っているその佇まいがすっごく優雅と言うか、気品に溢れていました。
 柔らかそうな巻き毛にフランス人形を思わせる整ったお顔立ち、その唇にたおやかな笑みをたたえて私を見つめてきます。

「お綺麗なかたですね・・・」
 思わずポツンと、独り言みたくつぶやいてしまいました。
「でしょ?彼女は、雅が連れてきたの。たぶん雅がどこかで会って、惚れちゃったのじゃないかな」
 愉快そうなお声でおっしゃるお姉さま。

「雅に言われて会ってみたら、人目を惹く容姿に似合わず物腰はおっとり優雅な感じで、そのくせ頭の回転は早そうで、この子、出来る、って、ちょっと話しだけで即決しちゃったわ」
 お姉さまが宙を見据えて、何かを思い出すような感じでおっしゃいました。

「彼女は営業志望で、雅の部下になるはずだったのだけれど、その頃あたしが抱え込んでいた仕事を手伝ってもらったら、何でもテキパキこなしちゃったから、いつの間にかあたしの補佐みたいな立ち位置になっちゃたの」
「だから直子にはまず、今たまほのがやっている仕事を引き継いでもらって、たまほのを雅に返してあげるのが当面の目標ね」
「直子が入社したら、当分はたまほのと一緒に行動することになると思うから、しっかり仲良くなりなさい」 
 ニッコリ笑いかけてくるお姉さま。
「はい。がんばります」

「そう言えば、サトミさんは、同じ会社ではないのですね?」
 サトミさんというのは、私が横浜のランジェリーショップでお姉さまと出逢ったときに、いろいろお世話になったショップのマヌカンさんです。
 ふと思い出して、お尋ねしてみました。

「ええ。サトミはまた別の会社なの。うちとも深いおつきあいのある、別の会社」
「サトミは、派遣マヌカンで近郊のショップをまわったり、ウエッブの通販サイトを手がけたり、小売関連で手広くやっているの」
「うちのブランドのウエッブサイトも彼女の担当だから、いつか直子も再会することになると思うわ。会いたいでしょう?」
 
 お姉さまにイタズラっぽく尋ねられ、なぜだか頬が火照ってしまいます。
 だってサトミさんは、私とお姉さまの破廉恥過ぎる出会いの詳細をご存知な、唯一の生き証人なのですから。
「はい。ぜひお会いして、あの日のお詫びとお礼をしたいです」
 サトミさん、驚かれるだろうなあ。

「それで、前にも言ったけれど、うちのスタッフは全員、異性にはまったく興味が無いレズビアン。制服とか服装規定も無いし、細かい規則とかもほとんど無し」
「取引先も発注先も女性スタッフばかりのところだから、直子も絶対、居心地がいいはずよ」

「そうそう、社内でスタッフを呼ぶときは、役職名じゃなくて名前にさん付けが基本ね。まあ、実際に会って打ち解けたら、愛称でも呼び捨てでも、好きに呼べばいいわ」
「ただし、第三者が同席している場合は、あたしのことはチーフ。アヤと雅はそれぞれ早乙女部長、間宮部長って呼ぶのが無難だわね」

「みんなには直子のこと、シーナさんご推薦の有能新人秘書候補、って紹介するつもりだから。雅が仕事柄シーナさんと仲がいいから、たぶんすでにシーナさんから雅には話が行っていると思う。たまほのを営業に返すためだってね」
 パチンとウインクされるお姉さま。

「あと、あたしたちの仲は当分のあいだ伏せておくつもり。オフィスでのあたしたちは、あくまでもいわゆる社長と社長秘書の関係。まあ、いずれバレちゃうとは思うけれど」
「だから間違ってもオフィスであたしのこと、お姉さま、なんて呼ばないでね。勤務中はずっとチーフで通すこと。社長、って呼ぶのもダメだからね」
 照れ臭そうに笑ったお姉さまが、写真と会社の冊子を手に取り、その端をテーブルで軽くトントンと叩いて揃え、テーブルの一番右端に置きました。

「さあ、これでうちの会社の説明はひとまず終わりね。あとは初出勤のときのお楽しみ」
 そこでちょっと一息ついてから、お姉さまがあらためて姿勢を正し、まっすぐに私を見つめてきました。
「今度は直子個人のことについて、少し質問させてもらうことにするわ」
 テーブルの上、差し向かいのふたりのあいだには、私の提出した履歴書が置いてあります。
「はい?」
 何を今更、というニュアンスで、私は怪訝そうな顔をしたと思います。

「うちのスタッフは知り合いや、紹介ばっかりで、入社試験とか面接とかしたことないからさ、一回やってみたいと思ったんだ」
「つきあってよ、面接ごっこ。ほら、よく聞くじゃない?圧迫面接とかセクハラ面接とか」
 お姉さまの瞳が妖しく揺れているのに気づきました。
 
 セクハラ面接・・・
「あ、はい。わかりました。よろしくお願いいたします」
 お姉さまが虐めモードに入ったのを察知して、私の中のマゾ性が悦び勇んでムクムク起き上がってきました。

「さっきあなたの履歴書にざっと目を通したのだけれど、あなた、ずいぶん資格持っていらっしゃるのね」
「幼稚園教諭免許、図書館司書は知っていたけれど、英検2級とか簿記3級も持っていたのね?」
「あ、はい。幼稚園への就職に自信が無くなったときに、何か資格を取らなくちゃって、あわてて勉強しました」
「ふーん。簿記は使えるわね。あなたにやってもらいたことのひとつが、そっち関係だから。一から教えないで済むわ」

 私への呼びかけが直子からあなたに変わったお姉さまは、親密さ、と言うか馴れ合いっぽさがなくなり、お仕事されているときはきっとこんな感じなのだろうな、と思わせる、理知的で、どこか冷たい印象の事務的なお声になっていました。
 なんだか本当に面接を受けているみたい。

「学歴も資格も申し分無いのだけれど、一箇所だけひっかかるところがあるのよね。どこだかわかる?森下直子さん?」
 お姉さまが私の履歴書を鉛筆のお尻でコツコツ叩きながら、まっすぐ見つめてきます。
 その瞳はイジワルそうに細まっていました。

「あの、えーと、ごめんなさい。わかりません」
「ここよ、ここ」
 お姉さまが履歴書の右側の下のほうを鉛筆で指し示しました。
 そこは、趣味・特技、の欄でした。

「趣味・特技。クラシックバレエ、音楽鑑賞、映画鑑賞、読書。バレエ以外はありきたりなものが並んでいるけれど、あなたにはもっと、あなたらしい特殊な趣味がなかったっけ?」
 お姉さまのお声にイジワル度が増しています。
「あの、えっと・・・」
「紹介してくれたかたからのお話だと、こんなのよりもっと独特な、あなた以外にはあまり見かけない面白い趣味をお持ちのはずなのだけれど」
「そ、それは・・」
 お姉さまがすっごく愉しそうに、ニヤッと笑いました。

「森下直子さん。立ちなさい」
 有無を言わさぬ冷たいお声。
「は、はいっ!」
 あわてて立ち上がると、木製の椅子がガタンと大きな音をたてました。
「きをつけ!」
「は、はいっ!」
 両腕をからだ側面にピタッとつけて、直立不動になります。

「さっきから気になっていたのだけれど、あなた、ブラジャーを着けていないのね?バストの頂点がニットに浮き上がっていてよ?」
「あ、は、はい・・・」 
 お姉さまのお芝居がかったお声に、下半身がキュンキュン疼いちゃっています。

「それは、あなたが好きでそうしているの?つまり、何て言うか、見る人にこんなふうに、おっぱいの形とか、尖った乳首の形を見せびらかせたくて」
「いえ、そんなわけでは・・・」
「ふーん。それなら、その場で両手を真上に挙げて、うーんって伸びをしてみなさい、思いっきり」
「あ、えっと、は、はい」

 お姉さまの意図がわかってしまい、恐る恐る両手を上に挙げ、爪先立ちになるようにゆっくり伸びを始めました。
「んーーっ」
「もっともっと。思いっきりよ」
「は、はいっ!んーーーっ!」
 両手を挙げ始めたときから、ニットワンピースの裾が徐々に太腿をせりあがり始めていました。
 バレエのポワントのように伸びきったときには、裾はもはや、腿の付け根ギリギリまでせり上がっていました。
 お姉さまの視線が、その部分に張り付いています。

「ほらね、思ったとおり。あなた、下も着けてないじゃない?」
「あの、これは・・・」
「だめよ!そのままキープしてて!」
 私が伸びを解こうとすると、鋭い叱責がとんできました。
「あ、は、はいぃ」

「それじゃあもう一度聞くけれど、あなたは好きでそうしているの?」
「あ、あの、えっと・・・」
 両手の指を組んで頭上にまっすぐ上げたポワント姿勢のまま、どうお答えして良いのか戸惑いながらも、下着を着けていない下半身が今にも露になりそうな状況に、盛大な恥ずかしさで全身が小さく震えてきました。

「見たところ、あなたはそのニットの下には何も身に着けていないようだけれど、そうやって、少しからだを動かしたら性器までも見えてしまうような、すぐに裸にされてしまうような、はしたなくてふしだらな格好を、あなたは、あなたの意志でしているのですか?って質問しているの。正直に答えなさい」
 お姉さまの丁寧過ぎるお言葉遣いが、私の恥辱感をぐんぐん煽り立ててきます。

「は、はい・・・そうです。わ、私は、こういう格好で、お、お外に出ることが、す、好きなんです・・・」
 私の声が途絶えがちなのは、苦しい姿勢のためだけではありません。
 からだをモジモジさせるたびに裾は更にせり上がり、アソコのスジの割れ始めまでもが露になっていました。
 指ひとつ触れられているわけでもないのに、座ったまま下からまじまじと見上げてくるお姉さまの舐めるような視線に、全身がグングン感じていました。

「つまり、あなたはそうやって、からだのラインや乳首の隆起、性器までもが見えてしまいそうな服装で外出することが好きなのね?そして、それを誰かに見られることも」
「は、はい・・・その通りです」
 腿の付け根を通り越し、プックリした土手のふくらみまで露になるくらいせり上がってしまったニットワンピの裾が、座っているお姉さまの目前にあります。
 スジの隙間から溢れ出した、恥ずかしい液体の滴りまで見えているはずです。

「そういう行為を何て呼ぶのだっけ?」
「え?えっと、ノーパンとかノーブラとか?・・・」
「うん。そういうのをまとめて、何て言うの?」
「えっと、視姦、あ、いえ、露出です。お外でえっちな格好になりたがるのは、や、野外露出行為です」
「そう。あなたはそれが、好きなのよね?」
「はい・・・好きです・・・」

「おーけー。腕を下ろしていいわ。でも裾を戻してはダメ。そのままにしておきなさい」
 お姉さまのお許しが出て、ポワントを解き、両腕を下ろしました。
 ボディコンシャスなニットは姿勢を戻しても、たわんだまま肌にピッタリと貼り付いて、腰近くまでせり上がったままの状態でした。

「好きなことなら、それは立派に趣味と呼べるものだわ。ほら、そこに自分で書き足しなさい」
 お姉さまがテーブルの上の履歴書と鉛筆を私の前に滑らせてきました。
「書き終わったらこちらに戻してね。まだ面接はつづくから」

 テーブルに向かって中腰になります。
 ニットのせり上がりで覆いきれなくなった裸のお尻を、夜空が見えるガラス窓に向けて、突き出すような姿勢です。
 鉛筆を握る手が小刻みに震えていました。
 
 リクルートスーツを着てうっすら微笑む、半年以上前の自分の写真が貼ってある履歴書。
 その趣味・特技の欄。
 読書、で終わっている空白部分にゆっくりと丁寧に、ノーブラ、ノーパン、野外露出行為、と書き加えました。
 一文字書くごとにヌルッと潤んで、内腿を透明な液体が一筋、滑り落ちていきました。

 書き終えた私は、元の位置に戻り、自発的に両手を頭の後ろで組みました。


面接ごっこは窓際で 05


2015年3月1日

面接ごっこは窓際で 03

 お店を出て、エスカレーターでもう一度、一階まで戻りました。
 ショッピングモールの営業時間は、すでに終わっていて、モール内はまだ明るいのですが、どのお店もシャッターを閉じていました。
 それでも、けっこうな数の人たちがブラブラ行き交っています。
「繁華街のほうへ抜ける地下道があるからね。閉店後でも普通に通り道として使われているのよ」
 ヒールの音をカツカツ響かせて颯爽と先を行くお姉さまが、教えてくださいました。

 高層ビルの階下、オフィス部分のエリアに入ると、雰囲気が変わりました。
 照明が少し暗めになって、人影もまばら。
 階数ごとに分けてあるエレベーターエントランスのうち、お姉さまは30台から40台の階数が示されているエリアに進みました。

「働き者は少ないみたいね、土曜日だから」
 お姉さまがニッと笑い、エレベーターの呼び出しボタンを押しました。
 私たちの他に、エレベーター待ちをしている人はいません。

「直子は、このビルの上のほうへ上がったことある?」
「あ、はい。こっちに来てしばらくしてから、学校のお友達と一番上の展望台に遊びに行きました」
「ふーん。眺めはどうだった?」
「夏の始めのお天気のいい日だったので、青空で、景色が遠くまで見えてすっごく綺麗でした。その後、水族館に行ってクリオネさんを見て・・・」
 そんな会話をしているあいだに、1基のエレベーターの扉が開きました。

 エレベーター内に一歩足を踏み出すと、正面に大きな鏡。
 からだのラインをクッキリ浮き上がらせた等身大の自分の姿に、ビクッと一瞬、怯えてしまいました。
「これからは、否が応でも毎日、下界を見下ろすことになるわよ」
 お姉さまが冗談ぽくおっしゃり、横の壁の操作盤みたいなのにカード状のものをかざしました。
 エレベーターの扉がスーッと閉じて、音も無く動き始めました。

「わかっているとは思うけれど、この中でヘンなことしちゃダメよ。あれが防犯カメラで、ずっと管理室で記録されているから」
 薄く笑って鏡の壁の左上隅に顎をしゃくるお姉さま。
 階数を示すデジタル数字が凄い勢いで変わっていくのを唖然として見上げている私。
 軽快な電子音と共に、本当にあっという間に、目的階に到着しました。

「うちは、西側奥の角部屋だから、あたしの部屋からなら西南も西北も見えるのよ」
 土曜日だからなのでしょう、フロア内はしんと静まり返り、人っ子一人いないようです。
 磨き上げられたリノリュームの通路を無言で歩き、やがてひとつの扉の前で、お姉さまが再びカード状のものをかざしました。

「やっぱり今日は、誰も来ていないようね。リンコくらい、いるかと思ったけれど」
 お姉さまが壁のスイッチを弄ると、室内がパッと明るくなりました。
「どうぞ。靴のままでいいから」
 目の前には、紛うこと無き、オフィス、の空間が広がっていました。

 今までそういう場に自分の身を置いたことが無かったので、ドラマや映画で目にしただけでしたが、机が整然と並び、机の上には電話とパソコン、壁には予定表のホワイトボード、さりげなく置かれた観葉植物・・・
 まさに大人がお仕事をする空間、つまりオフィスの風景でした。

 広い空間がいくつかに仕切られ、それぞれにドアがついています。
 いつの間にか、ショパンのピアノ曲、確か子犬のワルツ、がお部屋の中に小さく流れていました。
「勤務中はずっと、クラシックをBGMで流すようにしているの。まったくの静寂より雰囲気が良くなる気がするから」

「ここがオフィスのメインフロア。そこが更衣室で、こっちがゲスト用の応接。そっちのドアはデザインルームで、あっちのドアが社長室、つまりあたしの部屋」
「トイレは室外で共用。このフロアには他にも2、3社入っているけれど、あまり大人数の会社はないみたいだから、待たされたりはしないはずよ」
「給湯室とか水周りも外だから、その辺が不便と言えば不便ね。そのドア開ければすぐそこだけれど。だからウエットティッシュは欠かせないの」
 
 お姉さまがいちいち指をさして教えてくださりながら、窓際の応接ルームに案内してくださいました。
「ちょっとそこに座って待ってて。あ、それと上着はもう脱ぎなさい」
 濃いエンジ色のソファーを指示し、ウエットティッシュをひとつくださり、応接ルームのドアは開け放したまま、お姉さまはメインフロアに戻られました。

 窓と思われるところにはグレーのロールカーテンが下ろされていて、残念ながらお外は見えません。
 応接の隅には、フリージアらしき黄色いお花のアレンジメントが置かれ、良い香りを放っています。
 窓を挟むように、ブロンドで美しいお顔立ちな二体のマネキン人形さんが、片方は、私と同じようなビッタリフィットな黒のニットワンピースを、もう片方は、ハイウェストな花柄ノースリミニワンピに、可愛い麦藁帽子を頭にチョコンと乗せて、お澄まし顔で私を見ていました。

 座る前にショートジャケットを脱ぎました。
 バスト頂点の左右の突起は、相変わらず露骨な存在感でニットを押し上げていました。
 腰を下ろそうとからだを屈めると、ニットの裾がスススッと腿の皮膚を滑ってせり上がってきます。
 内腿のあいだがスースーする。
 これを一枚脱いだけで裸なんだ・・・
 今更ながら、現在の自分の服装の淫らな無防備さに、ゾクゾク感じてしまいました。

「お湯沸かすのもめんどいからさ、缶コーヒーでがまんしてね」
 お姉さまが私の対面にお座りになり、テーブルに小さな缶コーヒーを2本置きました。
「うん。やっぱり似合うね、そのニット。エロっぽいオーラがビンビン出てる」
 私の胸をじっと見つめてくるお姉さまの視線。
 私は思わず、両手を後頭部に組んでしまいそう。

「だけどお愉しみは後に残しておいて、まずは仕事、仕事っと。あたし、これから明日のこととかあれこれ、ちゃちゃっと片付けちゃうから、直子はそのあいだ、これでも見てヒマ潰していて」
 テーブルの上に厚めな冊子風の印刷物が置かれました。

「我が社の今シーズンのラインアップ資料。いずれイヤでも覚えなくちゃいけないものだけれど、まあ、予習を兼ねてね」
「オフィスの中も自由に歩き回っていからね。もちろんデスクの上のものとか抽斗の中はいじっちゃダメよ。常識だけれどね。あと、デザインルームにも入ってはダメ。それ以外は自由に見てていいから」
「30分くらいで終わると思うからさ、いい子で待っていてね」
 缶コーヒーを開けて一飲みしてから、お姉さまが立ち上がりました。

「あ、あのぅ・・・」
「ん?」
「お外、見ていいですか?カーテン開いて」
「あ。開けてなかったんだ。そんなの遠慮することないのに」
 お姉さまが手馴れた手つきで、ロールカーテンをスルスルッと巻き上げてくださいました。
「うわーっ!」
 思わず窓辺に駆け寄りました。
 窓の外に綺麗な夜景が広がっていました。

 思っていた以上に高い位置からの、地上に散らばった無数の小さな光の風景が見えました。
 幻想的で、すごく綺麗。
 まさに、地上の星座、っていう感じ。

「この位置の窓からだと見えるのは南西の方向ね。あのへん一帯の一際暗いのが護国寺の森。左のほうにある白丸が東京ドーム、明るいから今日は野球の日みたい」
「それ以上遠くは、もう暗くてよくわからないわね」
 後ろに立たれたお姉さまのお声が、私の左耳の後ろをくすぐります。

「それで多分、あの辺の光の中のどれかが、直子が住んでいるマンションのはずよ。住人の誰かが灯りを点けていればの話だけれど」
 背後から覆いかぶさるようにからだをくっつけてくる、お姉さまが指さす方向に目を向けると、確かに、光の配置的にそれっぽい一画がありました。
「こっちから見ると、あんなにちっちゃいんだ・・・」
 つぶやくと同時に、お姉さまがお泊りに来たとき、オフィスから私のお部屋を天体望遠鏡で覗くご計画をお話されたこと、を思い出しました。

「でも、サンルームの窓もこちら向きだから、きっと本当に、望遠鏡なら覗けちゃいそうですね?」
 その計画では、そのときに私はバルコニーに出て、お外を向いてオナニーをしなければいけない約束でした。
 考えただけでアソコの奥がヌルッと潤みました。

「そうね。愉しみだわ」
 夜の窓ガラスは半分鏡となり、私と、背後に立つお姉さまの姿もクッキリ映し出していました。
 お姉さまの視線がガラスに映った私のバストに注がれ、やがて両腕が背後から交差して、それぞれの手でひとつづつを包み込むように、バストを抱きしめてきました。

「あぁんっ!」
「直子のおっぱい。柔らかくて大好きよ」
 私の左肩に顎を乗せ、耳元でささやくお姉さま。
 両方の手のひらに、おっぱいがやさしく揉みしだかれます。
「ぅんんぅぅっ、お姉さまぁ・・・」
 ガラス窓に、私の淫らに歪んだ顔が映ります。

「あっ、いけないいけない。まずは仕事を終わらせなくちゃ。待っててね。さっさとやっつけてきちゃうから」
「あっ、はい・・・」
 
 唐突にからだを離したお姉さまが、そそくさとメインフロアのほうへ消えていきました。
 取り残された私は、すごすごとソファーに戻り、お言いつけの通り、テーブルの上のカタログのような冊子を、缶コーヒー片手にめくり始めました。

 そこにはブランド名別に、ブラウスやスカート、ワンピース、スーツ、ブランドロゴバッグやアクセサリーなど、あらゆる種類の女子向けファッションアイテムが、春・夏物、秋・冬物に分けて紹介されていました。
 私が買ったことのあるブランドもいくつかあって、デザインも好みなものが多く、モデルさんもみなさまお綺麗で、見始めたら夢中になり、じっくりと見入ってしまいました。

 ひと通り見た後、下にもう一冊、薄めの冊子があることに気づきました。
 こちらのほうは、インナーと水着がメインのようで、セクシーなのばかりが並んでいました。
 紐状のティアドロップス型マイクロビキニや、メッシュを大胆にあしらったワンピース水着などを身に着けた、すっごくプロポーションのいいモデルさんの唇から下にトリミングされた肌色ばかりの写真が、延々とつづいていました。
 こちらもさっきに負けず劣らず、うわー見えそう、とか思いながら、真剣に見入ってしまいました。

 こういう下着を作っているということは、私も社員になったら社内割引とかで普通よりお安く、こういう大胆なのを買えちゃうっていうことなのかな?
 て言うよりも、お姉さまからのご命令で、新作の大胆水着を試着させられて、プールとか海に連れて行かれたりして・・・
 ティアドロップス型マイクロビキニのページを食い入るように見つめながら、えっちな妄想に耽っていたとき、お姉さまからお声がかかりました。

「おっけー。仕事はやっつけたわよ。こっちへいらっしゃい」
 応接ルームのドアからお顔だけ覗かせたお姉さまに呼ばれて立ち上がり、メインルームに戻ります。
「あたしの部屋でゆっくりいろいろお話しましょう。これから直子のメインの仕事部屋になる場所だし」
 お姉さまは、応接ルームを片付けた後、私の手を引いて社長室へと連れ込みました。

 そのお部屋は、白を基調としたきわめてシンプルな内装の八帖くらいの空間で、大きめのデスクの上にデスクトップ型のパソコンと電話、脇の小さなデスクにラップトップパソコン、あとは大きな金庫がひとつと、窓際に会議テーブル風な楕円形の机を挟んだ応接セット、そしてロッカー数台だけしか置いてありませんでした。
 一般的に社長室、と言われて連想される、社訓の書かれた額とか、大理石の置物とか、お高そうな絵画とか、革張りのごついチェアーとか、は一切無し。
 電器製品と金庫以外はすべて木製で、シックな色合いに統一されていました。
 金庫の脇に置いてある、透明のビニールシートを掛けられた大きな天体望遠鏡の存在が、唯一異彩を放っていました。

 角部屋なので奥まった壁2面ほとんどが大きな窓になっていて、ロールカーテンもすべて上げられていたので、その窓一杯に夜空が見えていました。
 物があまり置いてないゆったりスペースとも相俟って、すごく開放感があります。

「うわーっ。いいお部屋ですね」
「でしょ?せっかくだから、なるべく窓を潰さないようにレイアウトしたの。社長室って言うよりラウンジっぽいイメージで」
「ここでする仕事は、ほとんど世知辛いお金勘定だけだから、せめて雰囲気はおおらかにしたいと思ってさ。実際、スタッフはここを社長室じゃなくて、金庫部屋って呼んでいるのよ」

「こっち側の窓からだと、西北方向、新宿や渋谷のほうも見えるわよ。ほら、あの辺が西新宿の高層ビル群。けっこう近いでしょう?」
 確かに、闇の中に一際輝いている一帯が、かなり近くに見えました。
 電車の光が走っていくのも目で追えます。
「夏になると窓の外が真っ青で、空に囲まれているみたいで気持ちいいわよ。さ、そこに掛けて」
 楕円テーブルの向こう側、西南向きの大きな窓を背にした椅子を勧められました。
 そこに腰掛けると、私の左側にも地上百数十メートルの夜空が窓から覗いています。

「さてと、その資料は見てくれた?」
 私の対面に腰掛けたお姉さまは、そうおっしゃってから、テーブルの上にさっきの冊子と、今日出かけるときにお渡しした、私の履歴書を置きました。
 右手に長い鉛筆を持たれています。

「はい。すごいですね。色々な有名ブランドさんとお取引されていて。私の好きなブランドさんもありました」
「うん。それはね、デザインを売っているの。大手のアパレルさんに売りこんだり、逆に企画をもらったりしてね」
 どうやらお姉さまはまず私に、この会社のお仕事の概要をレクチャーしてくださるおつもりのようです。

「たとえば、春物のミニワンピースっていうお題が出たとするでしょう?実際の発注は、もっと細々とした条件付きだけれど」
「そしたらうちのデザイナーがデザイン数種類出して、細部をクライアントといろいろどんどん煮詰めていくの」
「サイズごとのバターン起こして、希望があれば、素材の仕入先や縫製工場まで決めて、最終的にはその一切合財ひっくるめてを、発注元に売っちゃうわけ」
「だからもちろん、小売店に出るときはうちのブランド名にはならないけれど、デザインしたのは紛れも無く、うちなわけなのよ」
「会社始めた頃から細々とそうやっていたら、意外に評判良くてリピート多くて、今ではそれだけで会社がまわるくらいになっちゃったの」

「うちみたいな人数だと、何もかも自分たちで、とはいかないからね、分相応なのよ。マンネリにならないし、嫌な相手だったらこちらから切れるし」
「これはひとえに、うちの優秀なデザイナーとパタンナーの実力の賜物なの」

「そっちの薄いほうの資料のインナー関係も、その方式が多いけれど、ちょっと過激なやつは、自社ブランドにして、主にネットで売ってる。これも意外に動くのよ」
「下着って、布少なくて済むから原価は安いのよね。でもあまり安くするとかえって売れない」
「過激なデザインのやつほど上代高めに設定するの。もちろん布質とか縫製には拘って、それなりの付加価値を付けてね」
「そうすると驚くほど出たりするの。面白いわよ」
「直子も、着てみたいの、あったでしょう?えっちなやつ、遠慮しないで言ってね。どんどん着せてあげる」
 からかうようにおっしゃるお姉さま。

「あと、もうひとつの主軸が、一点物の受注生産。ドレスから和服まで、なんでもござれがモットー。こっちはかなり大きなお金が動くの」
「これはたとえば、テレビや映画、舞台での衣装とかの受注ね。もちろん予算さえ合えば個人の注文でも受けるし、それなりにファンも付いているの」

「うちの営業、顔が広いから、思いがけないところから仕事もらってくるのよ」
「このあいだは、イメージビデオのプロダクションから、かなりキワドイ感じなデザインの水着を数着頼まれて、みんなノリノリでやってた。ちょうどいい透け具合とか、真剣に考えて」
 お姉さまが思い出し笑いのようにクスクスされました。
 私は感心しきりで、ふんふん頷くばかり。

「それで、これがうちのスタッフ全員。直子がこれから一緒に働く仲間ね。一応会う前に、教えておく」
 冊子の下からB5判くらいの写真を一枚取り出して、私の目の前に置きました。
 何かの発表会ぽい明るいステージの上で、6人の女性が肩を並べてにこやかに映っていました。
「去年の6月にやった新作プレゼン開始前の集合写真。もうあれからそろそろ一年経つんだなあ」
 お姉さまがしみじみとした口調でおっしゃいました。


面接ごっこは窓際で 04