2026年4月11日

我慢と免許と脅迫状 05

「ああ夢イキかー。それは盲点だった。でもスケベな直子ならさもありなんな充分考えられるイシューだったわね」

 予想外にお姉さまがご納得されたお顔になられています。
 てっきり叱られると思っていた私は戸惑いと共に自分でも予想外なご質問を口走ります。

「チーフは夢イキってご存知なのですか?」

「それは知っているわよ。寝ているあいだに夢の中でイッちゃうことでしょ。あたしの初めては中二だったか中三だっか、あれ?高一だったけかなぁ…」

 お姉さまが束の間遠い目をされて、私はその麗しいお顔にズキュン!
 そのお話、すごく知りたい。

「あ、でもそれを夢イキって呼ぶと知ったのはもっと後でネットで、睡眠中、イク、って検索してからだけどね」

 お茶目に笑われるお姉さま。

「そう言えば直子、さっき、夢イキしちゃったみたい、って曖昧なこと言っていたけれど、経験したの、まさか初めてなの?」

「あ、はい。起きたらシーツやパジャマが物凄く濡れていて、からだにもなんだか気持ち良さの余韻みたいなのが残っていて…」

「でも直子のことだからえっちな夢なんて年がら年中見ているでしょうに」

「それはそうなのですけれど、あんなにお布団やパジャマを汚してしまったことは今まで一度もなくて、最初はオネショしちゃったんじゃないかって焦っちゃったくらいでした」

「そっか。まあ直子の場合、現実でイキまくっているしすぐに我慢せずにオナニーもしちゃうから就寝中に夢の中でもイク暇なんてないんだね。つまりは直子がいかに今まで禁欲していなかったかっていうことだから、いかにも直子らしい初体験よね」

 ご愉快そうにおっしゃるお姉さま。
 この事態をあまり深刻に捉えられてもいないご様子なので、少し調子に乗って一番気になっている点をお尋ねしてしてみます。

「それで、あの…これってお約束を破ってしまったことになってしまうのでしょうか?」

 恐る恐る、懺悔をした信徒が審判を委ねるような敬虔な気持ちを込めたお伺い。
 お姉さまは目線を上げて少し考えるようなお顔をした後、あっさりおっしゃいます。

「仕方ないんじゃない、不可抗力だし。自分ではコントロール出来ない、言ってみれば性的欲求の暴発でしょ?防ぎようがないもの。寝るな、って命令するわけにもいかないし」

 相変わらずあっけらかんとされたお姉さま。
 でもワザとらしく笑顔をひっこめられて、こうつづけられました。

「でもこれに味をしめて夢イキを期待するようなことをするのは駄目よ。寝る前にえっちなことばかり考えて、そういう夢を見るように自分を誘導したりするのは」

「あ、はい、それはもちろん…」

「この禁欲期間は直子が今までいかに恥知らずな方向に傾いてきちゃっているかを確認して反省して軌道修正する機会なのだから、極力えっちなことは考えずに日々普通の生活を送ること」

 ごく生真面目ご口調でそうおっしゃってから再びパソコンのほうへ向き直られ、どうやらお仕事に戻られるようです。

「は、はいっ!がんばります」

 右手の薬指に嵌めた銀色に輝く百合の花モチーフを眺めながら、お姉さまのお背中に向けて改めて覚悟を決めて宣言して、私も先週やりかけだった見積書のための原価集計作業にとりかかります。
 
 ふたりしばらくお仕事に集中してフッと一段落、顔を上げてみるとお姉さまがいつの間にか椅子をこちらに回転され私を見ていることに気づきました。
 目が合うとお姉さまがニッと笑われます。

「ねえ、今までであたしが一番印象的だった夢イキの話。教えてあげよっか?」

 いたずらっぽいお顔になられたお姉さまが私を見つめながらおっしゃいます。

「あ、はい。すごく聞きたいです」

 お姉さまからの唐突なご提案に戸惑いつつも、その内容に興味津々な私。

「横浜で直子と出会って二週間くらい経った頃かな。ショップでのマケリサ上がってオフィス勤務に戻った頃」

 えっ!私が関係あるの!?
 少し遠い目をされたお姉さまのお顔をますますじっと見つめてしまいます。

「しばらくオフィスを留守にしていたから書類仕事がたまっちゃって、ひとりで残業してたんだ。部室に数日泊まり込んでね」
「それがやっと終わって一安心した日の夜。部室のベッドにひとりで寝たときのことだった」

 そこまでおっしゃったお姉さまが再び私を見つめ意味ありげに微笑まれます。
 私はなぜだかドキドキし始めています。

「気にかかっていたことが片付いてぐっすり眠ったはずなのだけれども、何度か夢を見てね。その夢の内容は全部はっきり覚えてる」

 お姉さまがまっすぐ私を見つめてくださいます。

「全部横浜で直子と出会ったときにしたことを反芻する夢。試着室で裸にさせてランジェリーを着せたり脱がせたり、恥ずかしい格好でわざと放置したり」
「でもひとつ実際と違うのは、試着室でもあなたはアンアン盛大によがり声を上げて他のお客さんの見世物になっていたこと。試着室のカーテンも開け放しちゃってね。ギャラリーもいっぱいいて…」

 からかうように笑われるお姉さま。

「あたしも気持ち良さで目が覚めそうになって、あれ?これって夢?現実?ってわからなくなっていたけれど、でも実際気持ちいいからつづき見たさにすぐ微睡んで」

 デスクの上にあった飲みさしのティーカップに一口唇をつけられたお姉さまが再び語り始められます。

「で、あたしがあまりの気持ちいいオーガズムで朝方目覚めちゃったときに見ていたのも、モールの防音スタジオであの日、直子が見せてくれたオナニーショーの再現」
「これも大まかにはあの日の記憶通りなのだけれど、ひとつ違うのは、あたしも下着姿になってショーに乱入しちゃっていたこと」

 少し照れたようなお顔になられるお姉さま。

「仰向けの大股開きで、おっぱいにいくつも洗濯バサミぶら下げてバターナイフで自分を虐めている直子にどうにも我慢できなくなって、ワンピース脱ぎ捨ててあなたの顔面にまたがったの」
「あなたが一生懸命ベロを伸ばしてご奉仕してくれて、ショーツ越しでもそれが凄く気持ちいいのよ。ああ、凄くイイ、イクイク、イッたーって深い余韻と共に目覚めたのが朝方の6過ぎ」
「実際は酷い有様よ。部室だから私物のビッグTシャツ一枚とショーツで寝ていたのだけれど、ショーツはお尻のほうまでぐっしょり、Tシャツもシーツも下半身部分中心にジットリ、全身汗ばんでヌルヌル。でも不思議に嫌な感じはほとんどしていなくて、快感の余韻と満足感が勝っていた」

 ご記憶を反芻されるように目を瞑られたお姉さま。

「あれであたし、あ、あの子とは相性いいかも、って思ったんだ。それで次に会う約束の日が俄然愉しみになってきた。何をやらせようか、どこで脱がせようかって」

 笑いながらおっしゃるお姉さま。

「で、実際に会ったら、あたしの予想を遥かに上回るド淫乱なヘンタイさんだったのがあなただったってワケ」

 そこで私のほうを向かれたまま両目を閉じられ、真面目なお顔に変わられました。
 少しの沈黙の後、静かにお言葉をつづけられます。

「あたしも調子に乗っていたことは認める。あなたって自分のマゾ性に本当に素直で、あたしのどんな命令にも従順に従って、それがあたしも愉しくて」
「だけどここ最近、どんどんエスカレートしていっているあなたを見ていて、だんだん不安になってきた。このまま突っ走ったら直子は、ただ快楽だけを貪り尽くす恥知らずな総受け性欲モンスターに成り下がっちゃうんじゃないかって」

 憐れむようなお顔で私を見つめてくださるお姉さま。

「最近の直子って、ひどく辱められそうな命令を受けるほど目がトロンと潤んでうっとりした顔になっちゃうような傾向があるじゃない」
「それがドマゾ女のサガって言ってしまえばそれまでなんだけれど、人として女性として最低限の羞恥心て言うか、品格、エレガントさみたいなものは失わずに保っていてほしいのよ」

 そこまでおっしゃったお姉さまは突然立ち上がられ、デスクの上のバーキンを肩に提げられました。

「だから今回の禁欲命令は一度クールダウンして直子が自分を見つめ直す内省期間。そのあいだに自分のしてきたことを振り返ってみて直すべきところは直して、より品のあるエレガントなマゾ女を目指しなさい」
「あたしも、っていうかあたしたちもこの禁欲期間が明けたら直子への接し方を少し変えるつもりだから。で、まあとりあえず直子は免許の取得まであと少しなのだからがんばりなさい。じゃあまたね」

 最後のほうのお言葉はお部屋のドアを開けながら。
 投げキッスひとつを私にくださったお姉さまは、あわただしくも颯爽と次のご出張先へと旅立たれました。

 そんな会話をお姉さまとしたせいなのか、はたまた夢イキで一息ついたのか、それからの数日間はめったにムラムラの発作が起きることもない普通な日々の中で教習に集中することが出来ました。

 教習所での講習は第二段階の路上教習に移っていました。
 初めのうちは一般のお車も普通に走られる路上に出るなんて、と無駄にドキドキしていたのですが、二度三度とくり返せば日常となっていきます。
 これといったアクシデントもなく順調にハンコをいただけました。

 ときどきえっちな妄想が頭にチラつくこともあるのですが、こうして下着まできっちり身に付けた普通の服装で普通の生活を送りつづけていると、私がこれまでしでかしてきたあの手の行為がいかに世間一般の常識から逸脱したアブノーマルなことであったのかを思い知らされます。

 ある日の路上教習でこんなことがありました。

 その日はみきわめ間近でもあったため土曜日の午前中に二時限連続で予約を入れていました。
 担当教官さまは、それまでも何度かご一緒したことのある40代くらいのややふくよかな女性のかた。
 お言葉遣いが柔らかでお優しい感じのかたでした。

 路上に出てしばらく走った後、繁華街近くの交差点で信号待ちをしたときのこと。
 横断歩道手前の停止線一番前に停車したのですが、その目の前の横断歩道をキワドイ格好の女性おふたりが談笑されながらゆっくりと繁華街の方へ横断していきました。
 おそらく何かのアニメのコスプレだと思うので、近くで何かイベントがあるのかもしれません。
 
 おふたりとも背は低めの可愛らしい感じで、紫髪のお一人は上半身は星型のブラのみで下半身は濃い紫色のレギンス。
 銀髪のもうお一人は上半身こそ緑色で軍服ふうのしっかりした長袖上着を召されていましたが、丈はウエストまでしかなく下半身は下着なのか水着なのか、かなりローライズな黒のタンガショーツに緑のロングブーツ。

 おふたりで一本のクラシカルな日傘を相合傘にさされ、上には私物らしいお揃いのロングカーディガンを羽織られていました。
 紫髪のかたが星型のモチーフの付いたステッキ状のアイテムも持たれていましたので、魔法少女ものなのかな。

 10月にしては温かくよく晴れた繁華街の週末。
 カジュアルかつファッショナブルな服装で週末を楽しむ方々の中でも明らかに異質でした。
 行き交う人々の中でもとくに男性のかたが、さりげない好奇の視線を彼女たちに投げかけています。

「あーあ、あんなに素肌さらしておへそまで出しちゃって、裸同然じゃない。そんなにまでして注目を浴びたいものなのかしらねえ」

 突然、助手席の担当教官さまが普通のお声でつぶやかれました。
 ビクッとして担当教官さまのほうへ顔を向けた私と担当教官さまの視線がぶつかります。

「コスプレだか何だか知らないけれど、よくあんな恥ずかしい姿で表通りを堂々と歩けるものよね。まるで露出狂そのものじゃない」

 御冗談めかしたご口調で私に同意を求めるように笑いかけてこられる担当教官さま。
 露出狂という私の代名詞のような思いがけないお言葉にもう一度ビクンと反応したものの、そうですよね、という意味合いを込めて作り笑いでうなずく私。
 
 でも心の中では、ああいう恥ずかしい格好を人前に晒すことで快感を得てしまう種類の人間も稀にいるんですよ、とおずおず反論しています。
 そのお話はそれだけその場で終わったのですが、私にとっては、ああ、普通の人の感覚ってこういうものなんだな、ということをあらためて再確認させていただけるものでした。

 その日、家に戻ってから考えました。
 担当教官さまがこのあいだの夏のバカンス時の私、たとえばモールの駐車場の片隅にひとり放置され薄物一枚で自慰行為を強制されている私を目撃されていたら、どんなご感想を持たれるのだろう。
 
 露出狂、社会不適応者、性嗜好障害、色情狂、ヘンタイ…
 でもあのとき、もうどうなってもいいと思うほど、もの凄く気持ち良かったのもまた事実なのですけれど…

 みきわめも無事合格をいただき卒業検定を残すのみとなった頃、次の生理が訪れそうな予兆と一緒に、けっこう激しく、無性に屋外で恥ずかしいメに遭ってみたい、という欲求がこみ上げてきたときがありました。
 ようやくゴールが見えてきたので気が緩んだのでしょうか。

 イケナイとは思いつつも頭の中にはえっちな妄想、そのときはなぜだか一昨年の秋、シーナさまと伺った西池袋のセレクトショップでさんざん恥ずかしい見世物にされたときの切なすぎる逡巡を鮮明に思い出していました。

 悶々とした気持ちで教習所からオフィスへと戻り、パソコンを立ち上げて何気なく大手SNSを覗いたら、とある動画配信者の女性が白昼の街中で半裸になって撮影しコーゼンワイセツで書類送検されたというニュースが飛び込んできました。
 その途端に頭から雲散霧消する私の妄想。

 気になって、公然わいせつ・逮捕、というワードで検索してみると、その多くは男性が街中で下半身を露出した、というものでしたが、そういう行為をすれば目撃されたどなたかしらにツーホーされてケーサツに捕えられハンザイになってしまう、ということが現実でした。
 もともとが臆病な私ですから、すっかり萎縮してしまっています。

 そんなこんなでしたが10月中旬、禁欲のご命令をいただいてから一ヶ月と十数日で試験場の本免学科試験も一発でクリアし、待望の自動車運転免許証を拝受することができました。
 そのあいだ、一度の自慰行為をすることもなく夢イキの一回だけで乗り切れたのは我ながら驚きでした。
 なんだ、私だって我慢しようと思えば我慢できるんじゃん、なんて自画自賛したり…

 運転免許取得の翌朝は、ちょうどお姉さまも出張からお戻りになられる日だったので、ワクワクしながら眠りに就きます。
 おっと、その前にもちろんお姉さまにメールでご報告。
 禁欲生活をつづけていたにも関わらず、お姉さまに逢えるという喜びだけで、えっちなムラムラも心の奥底に引っ込んだまま。

 その日の早朝も私の次にオフィスにご出勤されたのはほのかさまでした。
 朝のご挨拶につづいて運転免許を取得できたことをご報告すると、おめでとう、とご自分のことのように喜んでくださいます。
 
 次にご出社くださったリンコさまミサさまも同じようなご反応で、私としては少し肩透かし。
 禁欲期間が明けたら嵩にかかって恥ずかしいご命令を連発されてくるかな、と心のどこかで思っていましたから。
 オフィス内での凌辱でしたらコーゼンワイセツには該当しませんし…

 そんなちょっと釈然としない思いを抱きつつ、ノルマを達成した開放感を感じながら久々のオフィスワークに専念した午前11時半ば過ぎ、相変わらずノックの音もなく唐突に、お姉さまが社長室にお顔をお出しになられました。

「免許取れたらしいじゃん、おめでとう。これで直子もまた一歩、社会人に近づいたわね。免許証見せて」

 お姉さまの第一声。
 免許を取るということは社会人に近づくということなんだ…
 とミョーに感慨深い私。

「それで昨夜は思い切りオナニーしたの?今まで溜まっていた分を吐き出すみたいに」

 私が差し出した免許証を眺めつつ、からかうようにお姉さまが聞いてこられます。

「あ、いえ、なんだか達成感が凄くて、メールをお送りした後ぐっすり眠り込んでしまいました」

 照れながらも正直に打ち明ける私。

「あら、いい傾向じゃん。それだったらあと二日だけ我慢しなさい。あたしが直子のメイデンドライブにナビゲーターとして助手席で付き合ってあげる。この週末はゆっくり出来るから」

 お姉さまがニッコリおっしゃいます。

「メイデン?ドライブ?」

 引っかかったお言葉をそのままオウム返しする私。

「あら、案外教養無いのね。メイデンは初めてのっていう意味。メイデンボヤージュって聞いたことない?新しく作った船の初めての航海のこと。日本語訳は処女航海」
「アイアンメイデンっていう有名な拷問具があるでしょ?人型の鉄の人形の内側に何本も棘があって、そこに閉じ込められると身体中に突き刺さるっていう。あれも訳すと鉄の処女」

 屈託の無い笑顔で恐ろしいことをおっしゃるお姉さま。

「あれって一説によると、とある中世の貴族のご夫人が粗相してしまったメイドを刺し殺したら返り血を浴びた肌がツヤツヤしたから、処女の血を浴びると肌が綺麗になるって思い込んじゃって、処女をありったけ集めてその血を搾り取るために作らせた拷問具とも言われているわね」

 その手の蘊蓄にお詳しいお姉さま。

「まあ、それは関係ない話として、この週末は直子の運転でどこかへドライブしましょう。行き先は決めないで、行った先で泊まってもいいし、もちろん初めての運転で疲れたようなら直子の部屋に帰ってゆっくりしてもかまわないし」

 えっ、つまりは週末はずっとお姉さまとご一緒ていうこと!?
 お姉さまとの久しぶりのお泊りデート!
 それに、あと二日オナニーを我慢しなさいというご命令って、つまり…
 私のHPもMPも完全復活です。

 週末までの二日間もオフィスでのえっちなご命令はどなたからも無く無難に過ごし、もちろんオナニーも自重して、待望の土曜日を迎えました。