2016年4月3日

オートクチュールのはずなのに 44

「凄いわね。最初はギクシャクしていたけれど、今はもう、歩きかたも仕草も、プロのモデル顔負けじゃない?」
 マンションに着き、部室の階まで昇るエレベーターホールで、やっとお姉さまと向き合いました。
「後ろから見ていて、惚れ惚れしちゃった。すれ違う人のほとんど、男も女も、みんな直子に見蕩れていたわよ」

「そ、そうですか?」
 お姉さまのおやさしいお声に、フッと我に返るような感覚があり、同時に、過剰なほど張りつめていた背筋と心の緊張が解けていくのがわかりました。
 
 やがてエレベーターが到着。
 降りる人はなく、乗り込むのもお姉さまと私だけ。

 エレベーターの箱内に足を一歩踏み出したとき、とんでもないものが視界に飛び込んできました。
 私の真正面に、等身大以上の大きな鏡、そして、そこに映った自分の姿・・・

 鏡に映った私は、胸のVゾーンが乳首寸前まで大きくはだけ、裾もワレメギリギリまでせり上がった、目のやり場に困り過ぎるほど破廉恥な、裸コート姿でした。
 
 こんな姿で自信満々で前から歩いてこられたら、注目するのはあたりまえです。
 心の片隅に無理やり追いやっていた羞恥心が一気によみがえり、火照りとなって全身を駆け巡りました。

「わ、私・・・私、こんな姿でモールやお外を歩いてきたのですね・・・」
「そうよ。みんなの注目の的だったじゃない。でも直子もひるまずに堂々と歩き切って、偉かったわ」
 それって単に、驚いていたのか、呆れていたのだと思います。

「でもでも私、よく行くお店もあるし、知っている店員さんもたくさんいるし、どうしよう・・・もう恥ずかしくてお店に行けない・・・」
 やってしまったことの重大さに今更、からだが震えてきました。

「ううん。その点は大丈夫と思うな。注目の的は首から下だったし」
 お姉さまのからかうようなお声。

「まず服装に目が行って、それからあわてて顔を確認する、って具合だったわ」
「こんな格好したがる女って、どんな顔なんだろう、って感じでね。だけど、そのド派手なメガネでしょ?顔が半分以上隠れているから、知り合いだってわかりゃしなかったわよ」
 今度は真面目に、諭すみたいにおっしゃいました。

「それを貸してくれたアヤに感謝しなくちゃ、ね?」
 最後はおやさしくおっしゃり、不意にギュッと抱きしめてくださいました。
「あんっ!?」

「だから、さっきの感じでいいの。さっきの感じでイベントもしっかり頑張って。やっぱり直子はやれば出来る子なのよ。あたしのパートナーが直子で、本当に良かった」
 耳元でそうささやかれ、唇に甘いキス。
 
 それだけでさっきまでの不安が、綺麗サッパリ吹き飛んでしまうのですから不思議です。
 お姉さまが悦んでくださっているのだから、これでいいんだ・・・
 唇が離れたとき、タイミング良くエレベーターのドアが開きました。

 手をつないでエレベーターを降りました。
 目の前には、ホテルみたいな間接照明のオシャレな廊下が、シンと静まり返っています。
 エレベーターのドアが完全に閉まるのを待って、お姉さまがおっしゃいました。

「ここまで来たら、そのコートももう、脱いじゃって大丈夫でしょう」
「えっ!?」
「さっきのあたしのキスで気が緩んじゃった?直子には今日一日、でも、や、だって、は許されていないはずよ」
「あ、はい・・・ごめんなさい・・・」

 お姉さまからのキスで引っ込んだはずの羞恥心が、まだ少し、心のどこかでくすぶっていました。
 私にはイベントまで服は一切着せない、って、オフィスでお姉さまも断言されたじゃない?
 むしろ、ここまでコートを着せていただけたことに、感謝しなくちゃダメ。
 自分に叱るように言い聞かせ、コートの残りのボタン3つを、思い切るように手早く外しました。

 脱いだコートはニヤニヤ顔のお姉さまにお渡しし、今度はマンションの廊下で全裸。
 サングラスも一緒に外されました。
 お部屋へたどり着くまでに通り過ぎる、他所様のドアふたつが開きませんように、とドキドキお祈りしながら、携帯電話のカメラをこちらへ向けているお姉さまを追いました。

 お部屋へ入るとすぐ、お姉さまが着ていたスーツをスルスルと、お脱ぎになり始めました。
 そのとき、きっと私は、不思議そうな顔になっていたのでしょう。
 お姉さまが照れ隠しみたいに微笑みつつ、おっしゃいました。
「言ったじゃない?部室に着いたらご褒美上げる、って」

 ブラジャーも取り、ストッキングもショーツもお脱ぎになって、生まれたままのお姿になられたお姉さまが、そのままギュッと私を抱きすくめてくださいました。
「はぅぁぁー」
 お洋服を着ていらっしゃらなくても、いい匂いなお姉さま。

「これから直子を、シャワー浴びながらとことんイカせてあげる」
 耳元をくすぐる甘いささやき。
「今日は、あたしをイカせようとか、余計なことは考えないで、自分がイクことだけ考えていなさい」
 おっしゃるなり、お姉さまの右手人差し指が私のマゾマンコへズブリ。
「はぅっん!」

「相変わらずグッショグショなのね。スケベな子。モールでの注目がそんなに良かった?」
「イベントでは、それ以上の熱い視線が待っているからね」
「あうっ!あっ、あっ、あーっ}
 しばらくグチョグチョ掻き回されてから、唐突に指が抜かれました。

「おっと、その前にすることがあった。直子、今日のお通じは?」
「あん、えっ・・・お通じ、ですか?えっと、普通ですけれど・・・」
「いつしたの?」
「えっと、起きて、シャワーして、朝ごはん食べて、その後、です」

「朝食は何?」
「あのえっと、レタスとキュウリのサラダにジャムトースト一枚。あとミルクティで、食後にバナナを一本・・・」
「ふーん。ヘルシーね。今日は、イベント終わるまで何も食べられないけれど、我慢してね」
「はい。それは、構いません・・・」

「終わったら何食べてもいいから。あたしが何でもご馳走してあげる。だけど今はお腹の中、すっからかんにしちゃいましょう」
 おっしゃりながら全裸のお姉さまは、ご自分のバッグの中を物色されていらっしゃいました。

 バッグから引っ張りだされたのは、オフィスを出るときに綾音さまから手渡された小さなショッパー。
 その中から出てきたのは、私もお姉さまも見慣れている青地に白十字の箱に入ったあのお薬でした。

「そこに四つん這いになりなさい」
 お姉さまの右手が、ご自分の足元のフローリングの床を指しました。
「は、はい・・・」
 冷たさが戻ったお姉さまのご命令口調に、ゾクゾクっと鳥肌を立たせつつ、床に手を着きました。

 確か綾音さまは、あのショッパーをお姉さまに渡されるとき、絵理奈さまのためにご用意された、とおっしゃっていたっけ・・・
 ということは、本来なら絵理奈さまがイベントの前に、綾音さまの手でお浣腸されるはずだったんだ・・・

 ふと、そんな考えが浮かび、思わずその図を妄想していました。
 絵理奈さまの急病が無かったら今日の綾音さまは、盗聴のときとは打って変わって、絵理奈さまに対してエスのお役目をされていたんだ・・・
 その妄想は、私を凄く興奮させました。

「さっきアヤに診せていたときも思ったのだけれどさ、直子の肛門、確実に拡がっているわよね?少なくとも連休のときよりは」
 ギクッ!
 お姉さまのその一言で、綾音さまと絵理奈さまについての妄想が消し飛びました。

「連休明けからずっと、アヌスばっかり弄ってオナニーしていたんじゃない?凄い開発具合だもの」
 からかうようなお姉さまのあけすけなお言葉に、身を縮こませながらもキュンキュン感じちゃう私。
「・・・は、はい・・・そ、その通りです・・・」
 お姉さまに嘘をつくことは出来ません。

 アヌスばっかり、というワケではありませんが、ムラムラがひどくて激しくオナニーするとき、シャワーしながらお浣腸をして、がまんしながらイクこと、イッた後、シーナさまから就職祝いでいただいた柘榴石のアナルビーズを出し挿れすることが、ルーティーンワークとなっていました。
 
 さすがにまだ、直径40ミリの珠が付いたランダムなほうのアナルビーズは無理でしたが、直径10ミリから5ミリづつ大きくなるほうのであれば、8個の珠全部を収められるようにまでなっていました。
 あのなんとも言えない、もどかしい圧迫感がクセになっちゃったみたいなんです。

 そんなことを途切れ途切れに白状しました。

「ほら、もっと高く、お尻突き上げなさい、このヘンタイ女」
「はうっ!」
 ピシャっとお尻を叩かれて、ビクンとお尻が突き上がりました。

 お姉さまの指が私のマゾマンコから愛液をすくい取り、お尻の穴周辺になすりつけられます。
「あっ、はぅぅぅっ」
 お尻の穴が抉じ開けられ、指が内部へと埋没してくるのがわかります。
「ずいぶん挿れやすくなっているわよ?淫乱ケツマンコ」
「あう、あう、あうぅ」

「あたしにも開発の余地、残しておいてよね。一番大きな珠は、あたしの手で挿れるんだから。今度すっごく太いアナルバイブでも、買ってあげるわ。この穴が引き裂かれちゃうくらいのやつ」
 指がしばらくグリグリしてからスポンと抜け、代わりに今度は、何かもっと細いものが奥深く挿入されたのがわかりました。

「あああぁぁ・・・」
 間髪を入れず、直腸の中に冷たい刺激が注ぎ込まれてきます。
「今日は念のため、3つ入れておくわね」
 代わる代わるに細いものを突き立てられ、最後に何か柔らかいもので穴を塞がれました。

「うふふ。アナルプラグまで用意しちゃって、あのふたりも、かなりヘンタイな遊びを日常的にしているみたいね?」
 愉快そうなお姉さまのお声。
「そっか。あたしのプレゼントもアナルプラグにしようっと。これの2倍位太いやつ」

 挿入されたものは、柔らかいのですが中で膨らんでいる感じで、その圧迫感が妙に心地良くムズムズするものでした。
 でも、これの2倍って言ったら・・・
 本当に私の、裂けちゃうかも。

「直子って、マゾマンコにならあるでしょうけれど、ケツマンコに何か挿れっ放しで歩いたことって、あったっけ?」
「あ、いえ、お尻には、ないです・・・」
「今日のアイテムの中には、アナルにプラグ挿れっぱのものもあるから、それならいい練習にもなるわね。さ、バスルームへ行きましょう」

 お姉さまが差し伸べてくださった右手にすがって立ち上がり、手を引かれてバスルームに向かいました。
 お浣腸されたお尻の穴に、プラグを挿し込んだたままで。

 バスルームでのお姉さまとの行為は、いつもとちょっと違ったものになりました。
 ぬるめのシャワーを勢い良く全開にして、まず、その下で抱き合いました。
 髪の毛が顔にベッタリ貼りつくのもおかまいなく、唇を貪り合いました。
 湯気で曇る前の鏡に映った私のお尻には、赤ちゃんのおしゃぶりの先っちょのような輪っかが、滑稽に覗いていました。

 抱き合った胸元にボディソープを垂らし、からだを擦りつけ合います。
 やがて泡立つと、いったんシャワーの雨から避難して、お姉さまが私を愛撫し始めました。
 シャワーは出しっ放しで、相変わらず激しい水音がふたりを包んでいました。
 
 お姉さまは、これからモデルをする私の肌に痕を残してはいけない、と思われたのでしょう。
 いつものように叩いたりつねったり、もちろん縛ったりも無く、マッサージするみたいにやんわりジワジワとした愛撫がつづきました。
 おっぱいが念入りに揉みしだかれ、腋やうなじなど私が弱い場所を集中的に弄られたり。
 
 私の大好きな、痛い、という刺激は皆無なものの、お姉さまのおやさしいマッサージは執拗につづき、私が人肌に飢えていたこともあって、どんどん高揚してきました。
 焦らされていた乳首への責めで、最後はあっという間に昇りつめました。

 一度私がイッてからは、お姉さまの右手が、ずっと私の股間に吸い付きっ放し。
 最初から私の腫れた肉芽を執拗にいたぶってきました。
「んぐっ、んぐぅーーーっ!!!」
 お姉さまの唇で塞がれた自分の喉奥から、くぐもったような歓喜の嗚咽。
 それをかき消すような、激しいシャワーの水音。

 私がビクンビクンとイクたびに、お姉さまは攻撃の仕方を変えてきました。
 指が2本、マゾマンコ奥まで潜り込んで掻き回され、尖った乳首が噛み切られるくらい歯を立てられました。
「あああーーっ、あんあんっ、いぃぃーーーっ!!!」

 私の両手もお姉さまの乳房や秘唇をまさぐってはいるのですが、お姉さまは気にも留めていらっしゃらないご様子。
 ひたすら私を責め立てて、そして私はどんどん、お腹が痛くなってきました。

「あん、お姉さま、そ、そろそろダメです・・・出、出ちゃいそうですぅ・・・」
「うん、知っているわ。さっきから直子のお腹、グルグルゴロゴロ、煩いくらい鳴っているもの」
「だ、だから、あんっ、いったん離れてくださいぃ・・・でないと、お姉さまのおからだまで、わ、私の汚いもので汚してしまいますぅ・・・」

 私の膣壁をしたい放題いたぶってくる、お姉さまの指が与えてくださる快楽に飲み込まれそうになりながらも、なんとか必死に訴えました。
 そのあいだ下半身はずっと、プルプル震えっ放し。

「大丈夫よ、お尻に栓をしているのだから。直子の意志や諦めだけでは、派手に漏れだしたりしないはず」
「それに、出してもシャワーがすぐに流しれくれるから、あたしのことも気にしなくていいわよ」
 お姉さまが激しいシャワーの下で私のマゾマンコを責める手は止めず、クールにおっしゃいました。

 おっしゃる通りでした。
 一生懸命ガマンはしているのですが、お姉さまがくださる快感に気を許すと、どうしてもガマンのほうの力が緩んでしまうのです。
 栓をしていなかったら、もはやとっくに垂れ流してしまっていたはずでした。

「それに、もうちょっとがんばってみなさい。ほら、アヌスに力を入れて」
 ご命令通り、キュッと肛門を締め上げると、同時にお姉さまの指に陵辱されている穴の方も締め上げることになります。

「そう、その調子。あたしの指が奥へ奥へと咥え込まれていくわ。もう一本挿れちゃおうかしら、ほら締めて」
「んんーーっ!」
 膣壁がパンパンに圧迫され、尿意みたいなものまで催してきました。
 耐え難いお腹の痛みさえ、快感に変換されています。
 もちろん昂りも、頂上まであと一息のところまで。

「あうっ!お、お姉さま・・・もう、もうダメです・・・もう、もう・・・いやぁーー」
「なあに?イキそうなの?いいわよ、イっちゃいなさい、ヘンタイ直子らしく、あたしの目の前でウンチ垂れ流しながら、イっちゃいなさい」
 
 お姉さまの左手でグイッと抱き寄せられると同時に、膣内への摩擦も最高潮になりました。

「いやーーーっ、あっ、あっ、いや、いや、だめ、はぁっ、はぁっ、でちゃう、イッちゃぅぅぅ」
 膣内への刺激が一瞬途切れ、同時に肛門に筆舌に尽くし難い爽快な開放感が訪れました。
 栓を抜かれた瞬間、スポンという音さえ聞こえたような気がしました。
 間髪を入れず膣内への摩擦が戻り、昂りが何十倍にも増幅して戻ってきました。

 すさまじい快感が全身を駆け巡っていました。
 私の肛門は、自分でも制御不能。
 からだ中の穴という穴から、何かしらの液体が放出されているような感じでした。
 自分自身が液体となって、溶け出しているような絶頂感でした。

 集中豪雨のようにけたたましいシャワーの水音の中でも、自分の下半身から断続的に発せられた、はしたない破裂音は聞こえていました。
 そして、そこはかとなく香ってくる、懐かしくも不穏な臭い。
 それらの恥ずかしささえ、そのときの私には快感の増幅を呼ぶスパイスに過ぎませんでした。

「ああああーーーごめんなさいぃ、イキます、イキます、もうイキますうぅぅぅぅ!!!」
 お姉さまのおっぱいに顔を擦りつけ、シャワーの音に負けないくらいに叫びました。
 シオなのかオシッコなのか、マゾマンコからも何らかの液体がほとばしる感覚がありました。

 いつの間にか両膝が崩れ、シャワーの下で四つん這いに力尽きたまま、それでもたてつづけに何度もイキました。
 シャワーが背中に、お尻に当たる、その打擲の刺激だけで、果てしなくイッちゃいそう。
 そのくらい全身の肌がビンカンになっていました。

 シャワーの勢いがだんだん弱まり、やがて止まりました。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
 水音が消えたバスルームに、自分の荒い息遣いだけがエコーしていました。

「どうだった?あたしからのご褒美」
 裸のお姉さまがしゃがみ込んで、四つん這いでうなだれている私の顔を覗き込んできました。
「は、い・・・ありがとう、ございます・・・さ、サイコーでした・・・」
「これで底無しな直子のムラムラも、いくらかは落ち着いたでしょう。からだ拭いちゃって、イベントの準備に移りましょう」
「は、はい・・・」

 ぐったり疲れきったからだをお姉さまに助け起こされ、フラフラたどり着いた脱衣場では、ただ立ち尽くす小さな子供状態。
 お姉さまにからだの隅々まで丁寧に拭いていただきました。
 ブラジャーの跡もパンストのゴム跡も、跡形もなく消え去り、両手の指なんてもうシワシワ。

 頭にタオルを巻いてもらい、私は裸、お姉さまは真っ白なバスローブ姿で部室のメインルームであるリビングルームに移動しました。
 お姉さまがグラスに冷たいスポーツドリンクをたっぷり注いで、持ってきてくださいました。
 
 お部屋壁際のソファーにタオルを敷いて裸のお尻で腰掛け、最初はそれをグイッと、残りはゆっくりといただきました。
 お姉さまは、脱ぎ散らかしたご自分のスーツ類を拾い集めてはハンガーやトルソーに掛け、それからバスローブのまま和室に入られました。

 バスルームで、何回くらいイッたのかしら?
 さすがに今は大人しくなっている自分の乳首を見下ろしながら考えました。
 数えてみようか、とも思いましたが、イキグセがついてからはずっと、頭の中が真っ白に吹っ飛んでいて正確には思い出せないことに、すぐ気づきました。
 そのぐらいたくさんイッたはずです。

 だんだん冷静になるとともに、この場でまだ自分が全裸であることを恥ずかしく思い始めた頃、ご来客を告げるチャイムが室内に鳴り響きました。
 すぐにバスローブ姿のお姉さまが和室から出てこられ、インターフォンの受話器を取られました。

「はい。あ、どうも。わざわざありがとうございます・・・」
 その後、フロア階数とルームナンバーを告げられ、受話器を置かれました。

「メイクのしほりさんがみえたわ。今エントランスだから、ほどなく上がってこられるはず」
「あたし今、手を離せないから、次にチャイムが鳴ったら、直子、玄関でお迎えしてあげて」

 それだけ告げて、再び和室に戻られるお姉さま。
 和室の引き戸がピシャリと閉じられます。

 私、どうやら全裸のまま、見知らぬお客様をひとりで、お出迎えしなくてはいけないみたいです。


オートクチュールのはずなのに 45


2016年3月27日

オートクチュールのはずなのに 43

「あたし今、本気で外に出るところだった!」
 ご自分でもびっくりされたようなお顔で、お姉さまが私の顔をまじまじと見つめてきました。

「なぜ直子も何も言わないのよ?あなた今、真っ裸なのよ?普通は、何か着せてください、とか、あたしを引き留めるものでしょ?まさか、そのまま外に出ても構わなかったの?」
「いえ、あの、だって・・・」

 お姉さまにあまりに自然に手を引かれ、戸惑いながらも抗議出来る雰囲気でもなく、ただただパニクっていたのでした。
 あのままお外へのドアを開けようとされたら、さすがに声をあげていたことでしょう。
 だけど、それをどうお伝えすればいいのか適切な言葉が浮かばず、黙って顔を左右にブンブン振って否定の意思を表しました。

「ねえ・・・」
 やれやれ、というお顔をされたお姉さまが、ご自分のデスクでこちらに背を向けている綾音さまに呼びかけようと、お声をかけかけたのですが、綾音さまがお電話中とわかり尻すぼみで終わりました。
 すぐにお電話は終わり、綾音さまが受話器を置くのを待って、もう一度呼びかけるお姉さま。

「ねえ?デザインルームに何かガウンみたいな羽織れるもの、なかったかしら?コートとかジャケットとか。この際カーディガンでもバスローブでも、何でもいいわ」
 お声に呼ばれてこちらをお向きになった綾音さまが、私を見てニッと笑いました。

「あら?ナオコはこれから本番までずっと、裸で過ごさなくてはいけないのではなかったかしら?」
 イタズラっぽい目つきでからかうようにおっしゃる綾音さま。

「なーんてね。いくらなんでも、このビルからマンションまでオールヌードで歩き回らせる訳にはいかないわよね。大騒ぎになってイベントどころじゃなくなっちゃう」
 立ち上がった綾音さまがデザインルームに向かいかけ、すぐ立ち止まりました。

「そうだわ。今日わたくし、レインコート着てきたから貸してあげる」
 おっしゃってから、綾音さまのお顔が少し曇りました。
「夜明け前からずっとシトシト降りつづけているのよ、このイヤな雨」

 絵理奈さまは今日の明け方に苦しみ出したと、お姉さまがおっしゃっていたので、きっとそのときのことを思い出されているのでしょう。
 小さくお顔をしかめながら綾音さまが、更衣室のほうへと向かわれました。

 ほどなく戻られた綾音さまから、少しくすんだグリーンのオシャレなコートを手渡されました。
 裏地を見たら一目でわかる、イギリスを代表する有名なブランドものでした。

「あ、ありがとうございます・・・」
 うわー、このコート、おいくらぐらいするのだろう・・・なんて下世話なことを考えながら恐縮しつつ、おずおずと袖に腕を通しました。

 見た目よりもぜんぜん軽い感じのトレンチコート。
 綾音さまのほうが私より5センチくらい背がお高いので、ちょっぴりブカブカ気味なのはご愛嬌。
 羽織ると、いつも綾音さまがつけていらっしゃるミント系のフレグランスが香りました。

「ショートコートだからギリギリかな、と思ったけれど、ナオコだと股下5センチくらいは隠れるのね」
 綾音さまがからかうみたいにおっしゃいました。

 確かに、6つあるボタンを全部留めると、ミニのワンピースを着ているような着丈でした。
 うっかり前屈みにはなれないくらいの、微妙なキワドさ。
 生地が薄めで柔らかいので、乳首の出っ張りも微妙にわかります。

「おお。いい感じ。じゃあ行こうか」
 お姉さまが再び私の右手を握りドアへ向かおうとすると、綾音さまに止められました。
「待って。これもしていくといいわ」

 差し出されたのは、見覚えのある派手なサングラス。
 絵理奈さまがオフィスへお越しになるときいつも着けていた、いかにもタレントさんがオフのときにしていそうな、茶色いレンズでセルフレーム大きめなサングラスでした。

「昨日から東京に来られている地方のお客様が、イベントまでの暇つぶしに、下のショッピングモールとか観光されているかもしれないでしょ?」
「ナオコはともかく、絵美の顔は知られているから、みつかったらちょっとはお相手しなきゃ。そのときナオコの顔も覚えられちゃったら、後々マズイじゃない?」
「もしそうなったら、ナオコは失礼して、先に部室に行っちゃいなさい。くれぐれもお客様に、うちの社員とは思わせないこと」

 綾音さまのご説明に、はい、とうなずいてはみたものの、こんな目立つサングラスに、ミニワンピ状態のトレンチコートって、かえって人目を惹いちゃうのでは?と思いました。

「それと、メイクのしほりさんは、今原宿だから、大急ぎでこちらへ向かうって。3、40分てところね」
「おっけー。それじゃあ、後のことは任せたから。行こう、直子」

 期せずして、こんな平日のお昼前に勤務先のビル内で裸コートを敢行することになってしまった私は、お姉さまに右手を引っ張られ、オフィスを出ました。

「思いがけず、面白いことになっちゃったわね」
 エレベーター内はふたりきりでした。
 お姉さまが私の全身をニヤニヤ眺めながらおっしゃいました。

「まさかこんなことで、直子のヘンタイ性癖をうちのスタッフにカミングアウトすることになるなんて、思ってもみなかった。その上、ショーでうちのアイテムを身に着けるモデルまで直子になっちゃうなんて」
「こんなに大っぴらに、勤務中にみんなの前で堂々と直子を辱められるなんて、あたしもう、愉しくって仕方ないわ。ある意味、こんな機会を作ってくれた絵理奈さまさまね」

 本当に嬉しそうなご様子のお姉さまを見ていると、私も嬉しくなります。
 ただし、心の中は不安で一杯ですが・・・
 ほどなくしてエレベーターが一階へ到着しました。

 オフィスビルのエレベーターホールは、ずいぶん賑わっていました。
 お昼が近いからかな?
 大部分はスーツ姿のビジネスマンさんやOLさんたち。
 右へ左へ、忙しそうに行き交っていました。
 サングラスをかけるときに思ったことは杞憂に終わらず、エレベーターを降りた途端に、いくつもの不躾な視線が私に注がれるのを感じました。

 今までいた身内だけの空間から、見知らぬ人たちが大勢行き交う、公共、という場にいきなり放り出され、裸コートの私は途端に怖気づいてしまいました。
 こんな場所に私、コートの下は全裸で、短かい裾から性器まで覗けそうな格好で、立っているんだ。
 東京に来てから、頻繁にショッピングやお食事で立ち寄り、会社に入ってからは毎日通勤している、こんな場所で。
 怯えながらも甘く淫らな背徳的官能に、被虐マゾの血がウズウズ反応していることも、また事実でした。

「何早くもビビッているのよ?」
 私の緊張をいち早く察したお姉さまが、エレベーターホールの柱の陰へ私を連れ込みました。
「このくらいで怖気づいていたら、ショーのモデルなんて到底務まらないわよ?」
 壁ドンの形でヒソヒソ諭されました。

「いい?今日の直子はいつもの直子じゃないの。このビル内のオフィスに勤める一介のOLじゃなくて、これからファッションイベントで主役を務める、デザイナーから選ばれたモデルなの」
「直子にショーモデルとしての心得を教えてあげる。まず、モデル、つまり服を魅せるマネキンになりきりなさい。一流のモデルは人前で喜怒哀楽を出してはダメ。高飛車なくらいのポーカーフェイスが基本よ」

「恥ずかしさに照れ笑いとか困惑顔は、見ているほうがかえって気恥ずかしくなっちゃうの。それでなくても今日直子が着て魅せるアイテムは、一般論で言えば恥ずかし過ぎるようなものばかりなのだから」
「心の中では、どんなにいやらしく感じていてもいいから、表の顔はポーカーフェイスをキープ。不機嫌なくらいでちょうどいいわ」

「練習のために、ここから部室まで、ふたりでモデルウォークで歩いていきましょう。あたしもつきあってあげるから」
「当然、人目を惹くけれど、臆してはダメ。逆に人目を惹かなければ、モデルとしての価値なんて無いのだから。注目浴びて当然、あたし綺麗でしょ?って感じで澄まして颯爽と歩くこと」

「昨日、ランウェイでふざけてやっていたじゃない?雅と一緒に。上手いものだったわ。あの感じで歩けばいいから」
 そこまでおっしゃって、お姉さまの目が私の着ているコートへと移りました。

「それにしてもずいぶんキッチリとボタン留めたのね?こんなジトジト湿度なのに」
「それ、かえって不自然だわ。暑苦しい。上のボタン、二つ外しなさい」

 でも・・・と思ったのですが、ご命令口調には逆らえません。
 お姉さまのお顔をすがるように見つつ、首元まで留めていたボタンとその下を、そっと外しました。

「ほら、すぐそんなふうに嬉しそうな顔する。どんな命令にも淡々と無表情で従いなさい。内心はどんなに悦んでもいいから」
 叱るようにおっしゃりながら、ボタンを外した襟を開いて、整えてくださるお姉さま。
 視線を落とすとコートのVゾーンが、おっぱいの谷間が覗けるくらい、肌色に開いていました。

「うん、トレンチはやっぱり、この襟を開いた形が一番恰好いい。胸元が風通し良くなったでしょう?」
 いえ、お姉さま、前屈みになると隙間から乳首まで覗けちゃいそうなのですけれど・・・

「ついでに裾のほう、一番下も、外しましょう」
 えっ!?と思っても、表情に出してはいけないのでした。
 こんなに短かくて、生地が柔らかいから裾だって割れやすそうなのに、モデルウォークで歩いたら足捌きで・・・と思いつつも、努めて無表情で外しました。

 6つあるボタンのうち3つを外してしまいました。
 今留まっているのは、下乳の辺りからおへその辺りまでの3つだけ。
 何かの拍子で、いとも簡単にはだけてしまいそうな、なんとも頼りないコートになってしまいました。

「大丈夫よ。トレンチだからダブルだし内ボタンも留めているのでしょう?それにベルトもしているし、おいそれと全開にはならないわ」
 コートの裾をピラッとめくるお姉さま。
 内腿の交わりに外気が直に当たりました。

「うん。エレガントだし肌の見え具合もちょうどいい。やっぱり老舗のブランドものはシルエットが違うわね」
「直子も負けないでちゃんと着こなしているじゃない。そのド派手なメガネといい、もう立派なスーパーモデルね」
 お姉さまから、からかわれ気味に褒められても無表情。
 だけど心臓はドキドキで、今にもバクハツしそうでした。

「準備万端。モデルウォークの練習は、と・・・せっかくだし、こっちから行きましょう」
 えっ!?
 お姉さまが選んだのは、ショッピングモール側の通路。
 エレベーターホールから近い、道路沿いの通路のほうが人通りが少ないのに。

「せっかくの裸コートなのだから、見物人が多いほうが直子も嬉しいでしょ?」
 私の戸惑いを見透かしたみたいに、耳に唇を寄せてささやくお姉さま。

「さあ、行きましょう。ここからは手はつながないからね。まっすぐ前を見て視線は散らかさず、大きめのストライドで颯爽とね」

 おっしゃるなり、お姉さまが胸をスッと張った美しい姿勢で、颯爽と歩き始めました。
 うわー。
 お姉さまのモデルウォーク、なんて華麗で優雅。

 見惚れている場合ではありません。
 あわてて私も背中を追います。

 視線を前方一点に定め、軽くアゴを引いて背筋を伸ばすこと。
 足を前に出すのではなく、腰から前に出る感じ。
 体重を左右交互にかけ、かかっている方の脚の膝を絶対に曲げない。
 両内腿が擦れるくらい前後に交差しながら、踵にはできるだけ体重をかけない。
 肩の力を抜いて、両腕は自然に振る・・・
 
 お姉さまのお背中を見つめ、一歩下がる感じで着いていきました。

 これからショッピングモールが本格的に始まる、という地点でお姉さまが立ち止まれました。

「ここからは、直子が先に歩きなさい。あたしは後ろに着くから」
 耳元でささやかれ、背中を軽く押されました。
 ご命令には絶対服従。
 そこからは、数メートル先の宙空に視点を置き、極力周りを見ないようにして進みました。
 
 ショッピングモールは、オフィスビルよりもっと賑わっていました。
 週末平日のお昼前。
 小さなお子様連れの若奥様風のかたたちが多いようでした。
 他には学生さん風とか、隣接のホテルの外国人宿泊客さんたち。
 モールのお店が若い人向けばかりなので、お年を召されたかたはあまり見かけません。

 そんな中を、場違いに気取ったモデルウォークで進んでいく女性ふたりの姿は、明らかに異質でした。
 前を行くのは、タレント然としたド派手なサングラスに、妙に肌の露出が多いトレンチのレインコートを着た若い女。
 その後ろに、仕立ての良いビジネススーツを優雅に着こなしたスラッとした美人さん。
 芸能人の端くれとそのプロダクションのマネージャー、くらいには、見えたかもしれません。
 
 すれ違う人たちの視線を惹きつけていることが、みなさまの頭の動きで如実にわかりました。
 私たちに気がつかれたみなさまは誰も、首がこちらのほうへぐるっと動くのです。
 私たちの姿を数メートル先で見つけ、すれ違うまでその場で固まったまま不思議そうに見つめつづける若い男性もいました。

 一歩進むたびに短かい裾を腿が蹴り、そのたびに裾が不安定に、股間ギリギリで揺れているのがわかりました。
 歩き始めると、ウエストで絞ったベルトを境に、下部分は少しづつせり上がり、上部分は胸元がたわんで広がってきました。
 見下ろす形の自分の視界的には、胸元のVゾーンからおっぱいのほとんどが見えていました。
 かと言って、必要以上に胸を張ると、乳首が裏地に張り付き、布を押し上げるのがわかります。

 いったい私の姿、周りの人にどんなふうに見えているのだろう・・・
 胸の谷間は?浮き出た乳首は?裾のひるがえりは?

 一番気になるのは裾でした。
 コートの布地が末広がりなので、自分では確認出来ませんが、歩いている感じでは、両腿のあいだを空気が直に通り過ぎていました。
 正面から見たら、すでにもうソコが露になっちゃっているのかもしれない・・・

 視線をまっすぐに定めていても、視界にはこれから通り過ぎる場所の情報が飛び込んできます。
 あそこのお店は、先週ワンピースを買ったところ、あそこのお店のマヌカンさんとは顔見知り、あそこのカフェのケーキは美味しかった・・・
 そんな日常的な場所を私は、キワドイ裸コート姿で、何食わぬ顔で歩いているのです。

 心の中はもう、収拾のつかないくらいの大混乱でした。
 視ないで、と、視て、の相反する想い。
 視られたくないのに視られているという被虐と、視せつけたいから視せているという自虐。
 ヘンタイマゾの願望を実践している自分に対する侮蔑と賞賛。
 それらが一体となった羞恥と快感のせめぎ合いで、全身にマゾの血が滾っていました。

 歩きつづけて周囲の視線に慣れてくるほどに、羞恥よりも快感が上回ってきました。
 あそこでふたり、こちらを見てヒソヒソしている。
 あの人、すごく呆れたお顔をされている。
 こっちの人は、なんだか嬉しそう・・・
 視線を動かさなくても、周りの雰囲気を肌で感じ取ることが出来ました。

 両腿のあいだは、自分でもわかるほどヌルヌルでした。
 このまま溢れ出た雫が腿を滑り落ちても構わないと思いました。
 むしろそのほうが、マゾな自分にはお似合いです。

 視ないで、と思うより、もっと視て、と思うほうがラクなことにも気がつきました。
 そのほうが私自身が悦べるし、皮膚感覚がどんどん敏感になって、ちょっとした視線の動きだけで、触れられたのと同じくらいに感じられるのです。
 どんどん視ればいい、舐めまわすように私を視て、ふしだらなヘンタイ女って蔑めばいい、それこそが私の望みなのだから。
 そんな気持ちになっていました。

 それは、ある種の開き直りなのかもしれません。
 恥ずかしさが極まり過ぎて、そこから逃げ出すよりも、いっそ身を委ねてしまおう、という選択。
 その選択をしてからの私は、人とすれ違うたびに、そのかたに、視てくださってありがとうと、と心の中でお礼を言いつつ、マゾマンコの奥をキュンキュン疼かせていました。
 
 いつの間にかモールを通り過ぎ、ビルの出口まで来ていました。
「いい感じよ直子。いい感じにトロンとして、すごく色っぽい無表情になっている」
「さあ、ここからは外、あと一息ね。部室に着いたらご褒美あげるわ」

「はい。ありがとうございます、お姉さま」 
 最愛のお姉さまにも褒められた、ということは、私の選択は間違っていなかった、ということ?
 
 思わずほころびそうになる口元を引き締めて無表情に戻り、再び歩き始めます。
 高速道路の高架下の薄暗い広場を抜け、スーパーマーケットのある通りへと。
 その裏が部室のあるマンションです。

 お外には、ビルの中とはまた違った種類の人たちが行き来していました。
 ご年配のスーパーへのお買い物客らしきおばさま、疲れた感じの初老なサラリーマンさん、何かの工事の人たち、宅配便の配達員さん・・・
 いっそう日常的となった空間を再び、場違いなモデルウォークで歩き始めました。
 視て、もっと視て、って心の中でお願いしながら。

 スーパーマーケット側へ渡るための横断歩道で、赤信号に止められました。
 お姉さまの傍らで、うつむかずまっすぐに立ち、信号が変わるのを待ちます。
 向こう側にも数人のかたたちが待っていて、そのあいだを時折、トラックやタクシーが走り抜けていきます。
 
 強めのビル風がコートの裾を乱暴に揺らしても、いつもみたいにあわてたりしません。
 もっと吹いて、マゾマンコが露わになっちゃえばいい。
 そう考える、私の中にいるもうひとりの私、自分を辱めたがる嗜虐的なほうの私の声が、思考を支配していました。

 道路の向こう側にいるご中年のサラリーマン風男性は、明らかに私のコートの下のことに気づいているようでした。
 遠くから、たとえ目を瞑っていてもわかるほど強烈に、熱い視線が私の下半身へと突き刺さっていました。
 信号が変わり、お互いが歩き出してからも、じーっと粘っこい視線が私の胸元と下半身にまとわりついていきました。
 
 私はそれを、身も心もとろけちゃいそうなほど、心地良く感じていました。


2016年3月20日

オートクチュールのはずなのに 42

「せっかく直子のために手に入れたのに、ずっと使いそびれていたのよ」
 
 お姉さまが魔法少女の変身シーンみたいに、魔法のステッキならぬ乗馬鞭を軽やかに振り回すと、ヒュンヒュンッ!と空気が切り裂かれる煽情的な悲鳴が私の鼓膜を揺らしました。
 私はもうそれだけで、全身鳥肌立つほどゾックゾクッ!

「あら、それって老舗のブランドもの、それもレアものじゃなくて?」
「うん。そうらしい。エイトライツの竹ノ宮さんから譲っていただいたの」
「ああ。あのかた、乗馬がご趣味だったわね」
 お姉さまから乗馬鞭を手渡された早乙女部長さまも、物珍しげにその場でヒュンヒュンさせています。

「彼女、乗馬に興味を持つ人が増えるのが、嬉しくて仕方ないみたい。あたしも鞭を一本、手元に置いておこうかな、って何気に言ったら、喜々としてこれを譲ってくださったのよ」
「まさか、馬じゃなくて人間の躾で使う、なんて思ってもいないのでしょうね」
 おっしゃってから、クスクス笑うお姉さま。

「でもまあ、これからお客様の前に出るモデルのお尻を、真っ赤に腫れ上がらせちゃうのもどうかと思うから、今日もちゃんと本格的には、使えないけれどね」
「あら、少しくらいなら、アクセントになっていいのではなくて?何て言うか、デカダンスなムードが出るかも」
 部長さまが、鞭の先のベロの部分を指先でプルプルさせながら、真面目なお顔でおっしゃいました。

「以前どこだったかで、そういう写真を見たことがあるのよ。真っ白なお尻のアップに一か所だけ、鞭のこのフラップの形の赤い痕がクッキリと残っている写真」
「形のいい綺麗なお尻の割れスジ付近に一か所だけポツンて。それはそれは耽美で退廃的で、ゾクッとするくらいエロティックだったわ」
 
 そのお写真を思い出しておられるのでしょう。
 両目を瞑って夢見るようなお顔つきで、部長さまがおっしゃいました。

 すぐに目を開けて、冷えた視線に戻られた部長さま。
「少なくとも、そのウエストにある忌々しいパンストのゴム跡とか、背中のブラのストラップ跡とかよりは、数倍マシだわ」
 視線と同じく冷えた口調で、そうおっしゃいました。

 確かに自分でも気になっていました。
 慣れないパンストを久しぶりに穿いたせいなのか、締め付けられていたゴムの跡が、薄っすらしつこくお腹に赤く残っていました。
 下乳には、ブラのカップ跡もクッキリあるし。

「うん、わかってるって。それはこの後、シャワーでも浴びさせて消すわ。それに、これから本番まで、直子には一切、下着も服を着せないつもりだから」

 お姉さまが冷静なお声で助け舟を出してくださいました。
 だけど、その後半部分にドッキン。
 えーーっ!?お姉さま、そんなおつもりなの!?
 私、裸のままで、イベント会場まで移動することになるのかしら・・・

「それはそれとして、今は直子のアヌスの話だったわよね?」
 早乙女部長さまから乗馬鞭を返してもらったお姉さまが、乗馬鞭の先を私のほうへと伸ばしてきました。
 おふたりに背を向けたまま、顔だけひねって会話に聞き耳を立てていた私は、またもやドッキン。

「ほら、その机のほうへ前屈みになって、お尻をこちらへ突き出しなさい」
 ご命令と同時に、鞭の先のベロが私の左の尻たぶを、スススッと撫でました。
「あはぁっ・・・」
 瞬間、総毛立つほどゾクゾク感じてしまい、思わず淫らな声が漏れてしまいました。

「脚はもっともっと開いて、もっと前屈みになって、お尻を高く突き上げるのっ」
「は、はい・・・」
 
 鞭の先が私の両脚のあいだに入り込んで左右に揺れ、両方の内腿を軽くペチペチ叩いてきます。
 それにつれてどんどん広がる私の両足の幅。

 最初はデスクの上に突いていた両手もデスクを離れ、今は床に着くほどの前屈姿勢。
 両足幅も1メートル近く広がり、腰高の四つん這い、と言ってもよい姿勢になっていました。

 お姉さまが操る鞭の先端ベロは、絶えず私のお尻周辺を這い回っていました。
 お尻の割れスジに沿った、と思ったら尻たぶへ。
 そこから内腿へと滑り、だんだんと左右が交わる地点へと。

 早乙女部長さまもいらっしゃるのだから・・・
 しきりに声帯を震わせたがる淫らな昂ぶりを、唇を真一文字に結んで一生懸命がまんしました。
 今は優しく撫で回すだけのベロが、いつ牙を剥いてお尻にキツイ一発がバチンとくるか、気が気ではなく怯えていました。

「ほら。これがお待ちかねの直子のアヌス」
 ベロの感触が消えた、と思ったら、お姉さまのお声。

「へー、アヌスと性器のあいだにも、まったくヘアが生えていないのねえ。毛穴さえわからないくらいツルツル」
 部長さまの弾んだお声がすぐに追いかけてきました。

「それに森下さん、絵理奈より上付き気味なのね。アヌスも少し後ろめで、穴と穴のあいだ、会陰が広いわ」
 私のお尻に微かに息がかかっているような気がするのは、部長さまがそれだけ、お顔をお近づけになっているのでしょう。

「ふふふ。それにしても、こんな午前中の明るいオフィスで、うちの社員の裸のお尻をこんなに近くで覗き込んでいるなんて、何だかキマリ悪くて照れちゃうわね」

 それは、覗き込まれている私のほうのセリフです、部長さま。
 大開脚状態ですからスジも割れ、濡れそぼった肉襞まで全部見えてしまっているはず。
 私の顔が真っ赤に火照っているのは、窮屈な前屈姿勢のせいだけではありませんでした。

「ちょっと触ってみてもいいかしら?」
 私にではなくお姉さまにお伺いを立てる部長さま。

「どうぞどうぞ、もちろん。ちょっとと言わず、いくらでも、お好きなだけ」
 半分笑っているような、お姉さまのお声が聞こえました。

 お尻に何か触れた、と思ったらいきなり割れスジが左右に割られ、肛門が押し拡げられたのがわかりました。
「ああんっ、いやんっ」

「あら、可愛らしい声だこと。驚いちゃった?」
 私の返事は期待されていないらしく、すぐにお言葉がつづきました。

「見た感じ、穴がこのくらいまで広がるなら大丈夫そうね。柔らかいし、皺の放射も慎ましくて美しいわよ、森下さんのアヌス」
 穴は押し拡げられたまま、前と後ろの穴と穴のあいだを、何かでツツツツと撫ぜられました。
 たぶん指の爪の先。

「ひゃんっ!」
 思わず膝がガクンと落ちるほど感じてしまい、悲鳴に近い声まであげてしまいました。

「あらあら。姿勢が崩れちゃったわね?ここは誰でも弱いものね?いい鳴き声を聞かせてもらったわ」
 部長さまのからかうようなお声で、あわてて元の姿勢に戻ろうとすると、部長さまに手で制せられました。
「ううん、お尻はもういいから。もう一度わたくしのほうを向いてくださる?」

 絵理奈さまとの秘め事を盗聴したときは、オフィスでのお仕事ぶりがらは想像できないほど、完全に絵理奈さまの言いなりエムだったのに、今日の早乙女部長さまは打って変わって見事なエスっぷりでした。
 部長さまって、お相手次第でエムにもエスにもなれる人なんだ・・・
 おずおずと振り向くと、同じ種類の妖しい光を湛えたお姉さまと部長さまの瞳が待ち構えていました。

「最初は両脚揃えて、気をつけ、の姿勢ね。はい、気をつけっ!」
 学校の朝礼での先生みたいなきっぱりとした部長さまの号令に、あわてて直立不動になりました。
 その瞳はずっと一点、私の両腿の付け根が交わる部分、を凝視しています。

「はい、やすめっ!」
 反射的に両足を軽く開き、両手は背後へ。
 部長さまの瞳は、定位置で不動。

「最後に、その机の上にお尻乗っけて座ってみてくれる?」
「あ、はい・・・」
 振り向かずに後ずさりして、手探りでデスクにぶつかり、縁に両手を掛けてお尻を持ち上げました。

「座ったら、両足も机の上に引き上げて」
「はい・・・」
 両脚を出来るだけ閉じたまま膝を曲げ、デスクの上に体育座りするような格好になりました。

「ふふん。さすがに長年バレエをやっていただけあって、からだが柔らかいのねえ。脚閉じたまま机の上に上げられちゃうんだ」
 なぜだか愉快そうな部長さまのお声。
 だけどその瞳には、嗜虐の炎がユラユラゆらめいていました。

「だけどそれではダメなの。両脚は思い切り開きなさい」
 部長さまの、開きなさい、のお言葉が終わるか終らないかのときに、部長さまの横で成り行きを見守っていたお姉さまが、ヒュンと乗馬鞭を素振りされました。
 
 鞭は宙空を切り裂いただけでしたが、私は盛大にドッキーン!
 あわてて両腿をガバッと、盛大に開きました。
 同時にお姉さまのほうを見ると、すっごく愉しそうに笑っていました。

「もうちょっとわたくしに性器を突き出すみたいに後ろにのけぞって、アヌスまで見えるようにね」
「膝が閉じないように、両手で自分の太腿をそれぞれ、押さえておくといいわ」
 
 部長さまのご命令通りにすると、なんとも破廉恥なM字大股開脚姿になりました。
 それも、自分の両手で左右の膝を押し拡げ、大きく開いた内腿の中心に楕円の粘膜を見せて息づくマゾマンコを、自らすすんで見せつけているような。

「あたしが知っている直子に、これ以上無いくらい、お似合いな格好になっているわよ」
 お姉さまが鞭をヒュンヒュン素振りしながら、嬉しそうにおっしゃいました。

「今、直子が言いたいこと、あたしにはわかるわよ?部長さま、あ、違うな、アヤネさま、か。アヤネさま、どうぞ直子のいやらしいマゾマンコを、じっくりご覧ください、でしょ?」

 でしょ?と問われてうなずく訳にもいきませんが、まさに心の中でつぶやいていたことでした。
 お姉さまは、その先は何もおっしゃらず、薄い笑みを浮かべて私の顔をジーッと見つめていました。
 部長さまと同じ種類の炎にゆらめくその瞳が、ほら、早く言っちゃって、ラクになっちゃいなさい、とそそのかしていました。

「・・・ア、アヤネさま・・・」
 
 いつしか私の思いは声帯をか細く震わせ、唇が言葉を紡ぎ始めでいました。

「アヤネさま、ど、どうぞ、どうか直子の・・・直子のいやらしい・・・いやらしいマゾ、マゾマンコを・・・」
 
 さすがに最初は驚いたご様子だった部長さまのお顔が、私の言葉が進むうちにどんどん、嬉しそうなお顔へと変わっていきました。

「・・・マゾマンコをじっくり、じっくりとご覧になられて、く、くださいませ・・・」
 
 言い終えた途端に左の内腿をドロリと、溢れ出た愛液が滑り落ちたのがわかりました。
 部長さまのふたつの瞳は、その一部始終を、まるで脳内で録画でもされているかのように、じっと凝視されていました。

「森下さんて、本当に凄い子だったのねえ。何て言うか、ここまで性的に貪欲な子だったなんて・・・」
 
 私の恥部からやっと視線を外され、少し呆然とされたような部長さまのお声。
 だけど私にはまだ、お赦しのご命令が下されないので、自ら両内腿を押し拡げている姿勢のままです。

「絵美がさっき言っていた、部長さまじゃなくてアヤネさま、っていう呼び方の違いって、何なの?」
 部長さまがお姉さまにお尋ねられました。

「ああ、それはね、見ての通り直子はドマゾなのだけれど、肩書にかしずくのではなくて、人にかしずいて、その人のドレイになるの。そういう志の高いマゾなの」
 お姉さまが茶化すみたいに、薄い笑顔でおっしゃいました。

「よくわからないのだけれど、今さっき、森下さんはわたくしにかしずいてくれたのかしら?」
「そう。さっきはっきり直子は、アヤネさま、って言ったのだから、ダブルイーの早乙女企画開発部長にではなくて、早乙女綾音っていう個人のマゾドレイになることを宣言したのよ」

「ふーん」
 今一ご納得されていないご様子の部長さま。
 矢面の私でさえ、何が何やら・・・

「だから、アヤもいつまでも森下さんなんて他人行儀に呼んでいないで、直子!って呼び捨てにしちゃいなさい。今日からあなたのドレイでもあるのだから。そうよね?直子?」
「えっ?あっ、はいっ!」
 突然私に振られ、条件反射で肯定しちゃいました。

「絵美がそう言うのなら、そうするけれど・・・森下、あ、いえ、ナオコもそれでいいのね?」
「あ、は、はい・・・お願いします」
 部長さまのお見事な虐めっぷりに、私があがらえるはずがありません。

「直子はアヤのこと、これからは、綾音さま、と呼びなさい。今日一日直子はイベントのモデルとしての別人で、うちの社員でもないのだから。他のスタッフについては、来たら後でまた考えるから」
 お姉さまがキッパリとおっしゃり、部長さま、いえ綾音さまも、うなずかれました。

「ところで絵美?わたくし、ずっと観察して思ったのだけれど、森下、いえ、ナオコって、つくづく今日のイベントモデル、いえ、今後のうちの開発モデルとしても、まさにピッタリな人材だと思うの」
 綾音さまが姿勢解除のお赦しを出してくださらないので、私はまだデスクの上で大股開き状態。

「ナオコって性器が上付き気味で、真正面からだと割れ始めが少し表に出るじゃない?まず、そこが妙にエロティック」
「この通り、ハイジーニーナも毛穴さえわからないくらい会陰まで完璧、ツルツルスベスベでしょう?恥丘も綺麗だし、清潔感だって申し分無し」

「大陰唇はぷっくりしていてラビアの外へのはみ出しが皆無だから、見た目がとてもシンプルで、ヘンに目を引く余分なアクセントが無いの」
「それにどういう意味があるかと言うと、隠しやすいのよ。幅が8ミリくらいの紐があれば、あ、パールのロザリーとかでもいいわね、そんなのがあれば、スジからアヌスまでキレイに隠せちゃう」

「こういう品のいいヴァジャイナを、オシャレに、綺麗に見せるアイテムを作って発表したら、それを見た人も、自分の性器周辺の身だしなみに、気を遣い始めると思うのよね」

 綾音さまが突如として、私の恥ずかしい箇所に関して、お姉さまに熱く語り始めました。
 服飾デザイナーをされていると、普通の人とは違うフェティシズムが生まれるのかもしれません。
 
 いまだに大開脚の体勢で見せつけている部分へ、それを指さしながらの論評でした。
 それは当然、ものすごく恥ずかしいことだったのですが、基本的には褒められているようなので、不思議と悪い気分はせず、こそばゆい感じもしていました。

「ほら、これ見てよ。この子のラビアって、アジア系にしては色素沈着が少なくて、少しも黒ずんでいないのよ。膣内が綺麗なピンクの薔薇みたいでしょ?それが柏餅みたいにぷっくりした大陰唇に包まれているの」

「だからワレメがこそっと割れたとき、中の襞のピンクが眩しいくらいで、凄くエロティックなの。初めて見たとき、驚いちゃったもの。ワザと膣内を見せちゃうのもアリだな、なんて思っちゃう」
 私がさらけ出しているマゾマンコを前に、綾音さまの熱弁がつづきました。

「ナオコの裸視ていたら、エロティックなアイテムのデザインがいくつも浮かんできたわ。来年は、もっと凄いのが作れそう」
「わたくしが知る限り、この裸と同じくらいエロティックなのって、絵理奈くらいのものね」
 最後の最後に、綾音さまがノロケられました。

「でも今回は、そのステキな絵理奈ちゃんがドジ踏んだのを、マゾドレイの直子に助けられるのよね、ダブルイーの早乙女部長さんは?」
 お姉さまにしては珍しく、わざとらしいくらい憎たらしい感じでからかうように、綾音さまを冷やかしました。
 私もハッとしたくらいですから、綾音さまもムッとされたお顔でお姉さまを睨みつけられました。

「ふんっ!来年は、ナオコを素材にどんどん凄いアイテムをデザインして、絵理奈に着せるわよ。見ていなさい。ショーでは絵理奈が完璧に着こなしてくれるはずよっ!」
 綾音さまがたたきつけるようにおっしゃり、しばらくお姉さまの涼しげなお顔を睨みつけていらっしゃいました。
 やがて、ふっと眉間の皺を緩められた綾音さま。

「でも絵美?わたくし、ひとつだけ、とても心配なことがあるのだけれど・・・」
 真顔に戻られた綾音さまが、お姉さまと私を交互に見ながらおっしゃいました。

「ナオコって、ちょっと敏感過ぎやしない?」
「正真正銘のマゾって、こういうものなの?さっきからずっと、乳首もクリットも腫らしっ放しじゃない」
 
 綾音さまの視線は、私が押し拡げている楕円形の襞の頂点で、萼をすっかり脱ぎ捨ててツヤツヤ輝いている小豆大の突起を見つめていました。

「それに、この愛液。机の上まで溢れ出しちゃって。感じちゃっているから濡らしているのでしょう?」
「ナオコはつまり、今わたくしたちに裸を視られて、まあ、こんな恥ずかしい格好もさせられて、それで感じちゃって、興奮しちゃってこうなっているのよね?そういう種類のマゾなのよね?」
「今でさえこうなのに、うちのアイテム身に着けて、たくさんのお客様の前に出たとき、この子、正気でいられるのかしら?興奮しすぎちゃって、何か大変なことになったりしないかしら?」

「うん。それはあたしも一抹の不安があるのだけれど・・・」
 お姉さまが少し動揺されたように私を見ました。
 でもすぐに、無理矢理な明るいお声で、こうつづけました。

「でもきっと大丈夫。これから直子を部室に連れて行って、あたしなりに対策も取るからさ」
「今回のアイテムに関してのアヤのお墨付きももらえたし、直子をモデルにして行けるところまで行きましょう。何か起きたらその都度の現場主義でいいじゃない?」
「本番は待ってくれないから、どうなるかわからないことで悩んでいるよりも、とにかく動きましょう」
 
 お姉さまが私に右手を差し伸べてくださり、私のマゾマンコさらけ出しタイムがようやく終わりました。

「絵理奈さん担当のヘアメイクさんは、手伝ってくれるのだったわね?」
「ええ。呼べば30分以内に駆けつけてくれるはずよ」
「じゃあ、すぐ電話して直接部室にきてもらって。黒髪のウイッグを何種類かお願いね」
「わかったわ」

「これからあたしは、直子と部室にふたりきりでこもるから、他のスタッフが来ても、こちらからいいと言うまで部室には来させないで、ここで待機していて。メイクさんだけ寄越して」
「わかったわ。うちのスタッフには経緯を、わたくしから説明しておくわ」

「あたしがアヤに教えたことは、全部言っちゃっていいから。直子がどんな女なのかも含めてね。それで、対外的には、直子は本日、急な家庭の事情で欠勤ね。里美たちやスタンディングキャットの連中にも、そう伝えて」
「シーナさんにはバレちゃいそうだから、頃合い見てあたしから言うわ」
「それも了解。これ、持っていくといいわ。今日、絵理奈に使うはずだったものだけれど」
 
 綾音さまが小さめのショッパーをお姉さまに手渡されました。
 お姉さまは中身も見ずに、それをショッパーごと、ご自分のバッグに詰め込みました。

「アヤもちゃんとお召かししなさいよ?ヘアサロンは残念だったけれど、ドレスは持ってきているのでしょう?」
「ええ。わかっているわよ。絵美もね」

 急にあわただしく時間が動き始めました。
 時計を見ると午前11時を5分ほど過ぎたところでした。
 でも、お姉さまと綾音さまの会話をお聞きするだけで、全裸の私は何も出来ません。

「おっけー、直子?それじゃあ、部室に行こうか」
「えっ!?」
 
 私の右手を握って引っ張って、強引に一歩ドアへと向かいかけ、不意にお姉さまが振り向いて私をまじまじと見てきました。
 全裸の私をオフィスの外へ連れ出そうとしていることに、今更ながら気づかれたようでした。


オートクチュールのはずなのに 43