2015年9月13日

オートクチュールのはずなのに 19

「どこかでビニール傘でも買って、一応の準備はしておいたほうがよさそうね」
 私の手を引いて、のんびり歩き始めるお姉さま。
 幹線道路ぽい幅広い車道沿いの歩道には、休日ファッションに身を包んだ老若男女が行き交い、そのほとんどが繁華街らしき方向へと楽しげに進んでいきます。
 首輪に感じる視線の数もグンと増えていました。

「傘ならいつも何本か車のトランクに入っているのだけれど、今日はうっかり、持って出るの忘れちゃった」
「一応そのバッグの中に、レインコートは入れてあるの。でも、もしも小雨くらいだったら、わざわざ出すのもめんどくさいでしょう?」
 
 ふたり並んで手をつないで、人混みに紛れます。
 お姉さまの爪先も繁華街のほうへ向いているようです。

「この通りならコンビニとかあるから、ビニール傘くらい買えるでしょう」
 お洒落っぽいお店が立ち並ぶ華やかな通りは、かなりの人通り。
「ずいぶん人が多いですね?」
 さっきから盛んに首や胸元を通り過ぎていく視線にドキドキしながら、お姉さまに尋ねました。
「ここをまっすぐ行けば赤坂だからね。休日だもの、それなりには賑わうわよ」
 そんなのあたりまえ、とでもおっしゃりたげな、お姉さまの突っ慳貪なお声。

「あ!そうそう、トランクの中と言えばね、あたし、この連休中に信州にも出かけたでしょう?そのとき乗馬をしたのよ」
 話題が思いもよらない方向へ跳びました。
「乗馬・・・ですか?」
「うん。お得意先の社長さんの招待で、2時間くらい遊ばせていただいたの」

「お姉さま、ご経験がおありなのですか?」
「学生の頃、何度か乗ったことはある。今回はかなり久々だったけれど、ああいうのも水泳とかと同じで、一度覚えちゃえば忘れないみたい。なんとか無事に楽しめたわ」
 ゆっくり歩きながらおしゃべりをつづけるお姉さま。

「それで、その後、その社長さんと食事したときに出た話題なのだけれど、彼女の趣味が、乗馬鞭のコレクションだったの」
「彼女の乗馬歴はずいぶん長くて、それはもう奇麗に乗りこなすの。でもまあ、それはそれとして、彼女にも、あたしにとっての直子みたいなパートナーがいるんだって」

「だから、そのコレクションは彼女のパートナーのためでもあるのね。そんな話題で盛り上がっていたら、彼女がね、そのコレクションのうちの一本を譲ってくれる、っていうことになったのよ」
「それが、車のトランクの中に入れっ放しになっているのを今、思い出したの。直子専用の乗馬鞭」
 お姉さまが立ち止まり、薄く微笑んで私の顔を覗き込みました。

「エルメスの乗馬鞭よ。嬉しいでしょ?」
「エルメスって、あのバッグやスカーフとかの、エルメスですか?」
「もともとが19世紀の馬具職人の工房だったらしいから、乗馬鞭を作っていても何の不思議も無いのよ」

「グリップとベロのところが鮮やかな赤で可愛いの。エルメスの鞭の中ではそんなに珍しいものではないらしいけれど、それなりの御礼で譲っていただいたの。もちろん未使用の新品よ」
「帰ったら早速、直子に使おうって思っていたのに、たまほのを空港まで送ったりいろいろあったからすっかり忘れていたわ。車に戻ったら見せてあげる」
「はい・・・」
 私のためにお姉さまが鞭をご用意してくださった、それもなんだかとても高級そうなものを。
 甘酸っぱくて気持ちいい疼きに、下半身全体がじんわり包み込まれました。

「あ。あそこに出ている。あそこで買っていきましょう」
 お姉さまが指さされたのは、お店の前に雑多に品物が並んでいる、量販店ぽいお店の店頭でした。
 曇り空にいち早く反応したらしく、色とりどりのたくさんの傘が店先に並べられていました。

「とりあえず大きめのを一本でいいわよね?降るか降らないかわからないし」
 駅を出たときに比べると、少しお空が明るくなっていました。
 降りそうな雰囲気は充分なのですが、意外とこのまま保っちゃうかもしれません。
 並んだ傘の群れの中から、透明ビニールの傘を無造作に一本抜いたお姉さまは、そのままお店の入口ドアのほうへ進みました。

「あら、ここってドラッグストアなんだ」
 自動ドアが左右にスーッと開き、店内を見渡したお姉さまが独り言みたいにおっしゃいました。
 店内は奥行きがあって意外に広く、お買物カゴを提げたお客様がけっこういました。
「ちょうどよかったじゃない?昨日直子が、家にもあとひとつしかない、って言っていたアレも、ついでに買っていきましょうよ」
 お姉さまはレジとは反対方向の商品棚のほうへ進み、棚を順番に探し始めました。

 お姉さまがおっしゃったお言葉だけで、アレ、が何を指すのか、私にはわかっていました。
「ああいうのはどこのコーナーにあるのかしら?自分で買ったことないから、見当もつかないわ」
 カテゴリー分けされた商品棚の川をあちこちさまよい見て回るお姉さま。
 私は大体わかっているので、誘導しようと思った矢先、お姉さまがおっしゃいました。

「これ以上探すのめんどくさいから、あそこの店員さんに聞いてみましょう」
 私たちが見ている川の一番端で商品を整理されていた20代位っぽい女性店員さんを指さすお姉さま。
「は、はい・・・」
 おそらくそうなるであろうと予測していた私は、覚悟は出来ていたものの、ものすごく恥ずかしいことに変わりはありません。
 ふたりでその女性店員さんに近づきました。

「ほら、直子?」
 お姉さまに右肩をこずかれ、促されました。
「あのう・・・」
 背後から突然声をかけられた女性店員さんの肩がピクッと震え、こちらへ振り向きました。
 目元がくりっとした、すごく可愛らしい感じの女性でした。

「あ、はいっ!何か・・・」
 お声もすごく可愛い。
「あのう、えっと、あの、お、お通じのお薬は、どのへんに置いてあるのでしょうか?」
 大きな瞳に見つめられてドギマギしながら、小さな声で何とか言えました。

「あ、はい・・・お習字?ですか?」
 女性店員さんの視線が私の顔から首輪に移り、そのまま下がって胸元に貼りつきました。
「はい・・・」
 私から目を逸らした女性店員さんの思案気なお顔。
「ちゃんとはっきり言わないと、店員さんだってわからないのじゃない?」
 横からお姉さまが、愉しげなお声でイジワルなアドバイス。

「あの、えっと、つまり、お、お浣腸のお薬・・・です・・・」
 さっきより小さな声で、コソコソ告げました。
「ああ、お通じですね・・・」
 女性店員さんの視線は、お姉さまのお顔を見て、それからまた私の首輪に移り、更に私が提げているバッグの表面に釘付けになってから、何か納得されたような、でもまだ少し困っているような、フクザツな表情に変わりました。

「それでしたら、こちらですね」
 努めて平静を装った女性店員さんの私へのご返答に、蔑みのニュアンスが混ざっていることを、私のマゾ性は聞き逃しませんでした。
 お浣腸薬のコーナーまで誘導してくださった女性店員さんは、すぐに私たちから離れましたが、その後も近くの棚でお仕事をされながら、私たちの様子をチラチラ窺がっているのが視界の端にわかりました。

「へー、けっこういろんな種類があるんだ。子供用とか。知らなかった」
 お姉さまが興味深げに、並んだお薬を眺めています。
 私は、いつも買っているふたつ入りの青い箱に手を伸ばしました。

「ああ、それがいつも直子が使っているやつね。一度にいくつくらい買うの?」
「あの、えっと2つ入りですから2箱か3箱くらい・・・」
 私は、早くお買い物を済ませて、この場を立ち去りたくてたまりません。

「でも、こっちに10個入りっていうのがあるじゃない。こっちのほうが断然お得じゃない?」
 お姉さまが一際大きな青い箱をお手に取り、しげしげと眺めました。
「使用期限もずいぶん長いから、直子なら余裕で使いきれるわよ。あ、でもこっちのほうが容量も多くて、もっとお得ぽい」
 青い箱を元の場所に戻し、今度はその横の紫色の大きな箱をお手に取りました。

「ノズルが長くて使いやすいんですって。長いっていうことは奥まで入るっていうことでしょ?バッチリ直子向きじゃない。こっちにしなさい。あたしが買ってあげるから」
 お姉さまの独断で、その紫色の大きな箱を手渡されました。
「ちょっとバッグ貸して」
 お姉さまにビニールトートを渡すと、その中からお財布を出し、お札を数枚渡されました。
「バッグはあたしが持っていてあげるから、直子はレジに並んでお会計済ませてきて。はい、これ」
 バッグの代わりにビニール傘を渡されました。

 左手にビニール傘、右手にお浣腸薬の箱を剥き出しで持ち、レジへ向かいました。
 レジは3箇所でフォーク並び。
 行列にはすでに6人並んでいて、私は7番目。
 なるべく文字が見えないように、手を大きく広げた不自然な形で箱を持ち、順番を待ちました。
 
 お姉さまは薄い微笑を浮かべて出入口近くに立ち、私を眺めていらっしゃいます。
 もちろん、肩に提げたビニールトートの表側には私のヌード写真。
 行列に並んでいるあいだ中、晒し者にされている気分でした。

 レジの場所がお店の出入り口付近だったため、たくさんのお客様が私の近くを通り過ぎました。
 首輪に気づき、そのふしだらな服装に驚き、手に持っているものを見て、私が何を買おうとしているのかまでわかった人も、何人かいたことでしょう。
 先ほどの女性店員さんが私のほうを見て、他の店員さんと何やらヒソヒソしているのも見えました。
 なかなか進まない列にジリジリしながら、それでも一生懸命普通の顔を作って、順番を待ちました。

「お待たせいたしましたー」
 やっと私の番。
 レジ係さんは、若奥様風の派手めな女性でした。

 私がビニール傘とお浣腸薬の箱をレジカウンターに置くと、その女性は一瞬うつむいたまま固まったように見えました。
 取り繕うみたいにすぐに箱に手を伸ばし、ピピッとしてからお顔を上げ、私にニッコリ笑いかけてきました。
 かなり奇麗めのお顔でしたが、その舐めるような視線は、私の首からバストにかけてを何度も行き来し、何かを値踏みしているような感じでした。
 つづいて傘を、同じようにピピッ。

「今すぐお使いになりますか?」
 不意にそう尋ねられ、意味が掴めずポカンとしてしまう私。
「えっ?」
「えっ?」
 レジ係さんも一瞬呆気にとられ、傘とお浣腸薬の箱を見比べた後、すぐに、なんともいえないイジワルな笑みをニヤッと浮かべました。

「傘ですよ?」
「あ。はいっ!」
 お答えすると同時に、いてもたってもいられないほどの恥ずかしさがドッと押し寄せました。

 レジ係さんは、ビニール傘を覆っていたセロファンを外してくださり、値札も取ってくださいました。
 お浣腸薬は小さな黒いレジ袋に入れられました。
 お金を払いお釣りをもらいました。
 そうしているあいだ中、レジ係さんのお口元にはニヤニヤ笑いが浮かんでいて、明らかに軽蔑されていることがわかりました。

「ありがとうございましたー。またご利用くださーい」
 レジ係さんのからかうような軽いご挨拶に送られ、お姉さまの元に戻ったときには、このドラッグストア内にいるすべての人たちから後ろ指をさされているような、いたたまれない恥辱感に泣き出しちゃいたいような気分でした。

「ずいぶん注目されていたわね。お店にいた人のほとんどが、直子のことチラチラ見ていたわよ」
 お店を出たお姉さまの嬉しそうな第一声。
「直子も必死に普通にしようとしていたでしょう?その顔がいじらしくってさ、ローター震えさせたくて仕方なかったけれど、これ以上はヤバイと思ってどうにか我慢したの」
 来た道を戻りながら、お姉さまが私にビニールトートを差し出してきました。
 私が受け取り、今貰った黒いレジ袋も中に入れようとすると、お姉さまが立ち止まりました。

「それじゃあ直子らしくないでしょう?袋から出して剥き出しのまま入れなくちゃ」
「あ、はい・・・」
 レジ袋から箱を取り出し、ビニールトートのお道具が見えるほうの側に押し込みました。
 麻縄や鎖に混じってお浣腸薬のパッケージも、みなさまに見ていただけるようになりました。
 今度はそちら側を表に出して左肩に提げ、ビニール傘はお姉さまに渡し、再び歩き始めました。

「これで準備も整ったし、そろそろあまり人目の無いほうへ移動しましょう」
 お姉さまが私の右手をグイッと引っ張りました。
 人目の無いほうへ、ということは、すなわちそこで私は裸にされるのでしょう。
 ついに都会の街中で全裸になるときが近づいてきたようです。
 ドキドキとビクビクが心の中で綱引きを始めました。
 やがてさっきの幹線道路が見えてきました。

 幹線道路を渡るため、大きな交差点で信号待ち。
 目の前を車がビュンビュン走り去り、人もどんどん周りに溜まってきました。
 赤い首輪に視線が集まっているのがわかります。
 ビニールトートをじっと見ている人もいるようです。
 私はまっすぐ前を向き、どこにも焦点を合わせず宙を見据えたまま、信号が青になるのをジリジリと待ちました。

「ここを渡って向こう側行くと、かなり人が減るはずよ」
 信号が変わって歩き始めると、お姉さまが教えてくださいました。
「この先にあるのは、外国の大使館とか、国会議員の公邸とか大きな建物ばかりだから、その周辺の人通りは少ないの」
 交差点を渡り切り、そのまま路地へと入っていきます。
 確かに人通りはグンと減り、目の前に凄く長い上り坂。

「この辺りって、坂道ばかりなのですね?」
「それは、赤坂っていうぐらいだからね。この坂を上りきったところに有名な高校があるのだけれど、そこの生徒はこの坂のことを、遅刻坂って呼んでいるらしいわよ」
 ビニール傘を杖みたいにして坂道を行くお姉さまが、少しバテ気味のお声でおっしゃいました。
「でも、確かに歩いている人がぜんぜんいませんね?」
 自分が裸になるときが刻一刻近づいている気がして、坂道の辛さにその興奮も加わって、ドキドキが何倍にも増幅している私。

「そうね。でもあまり油断は出来ないの。この辺りには公的な建物が多いから、要所要所にオマワリサンが警備で見張っているから」
 ようやく坂を上りきり、かなり息が上がって一休み。
 石の壁と緑に囲まれた落ち着いた雰囲気の一画でした。

「だからとりあえずここで、直子は胸のボタンをひとつ外しなさい」
 お姉さまが突然、脈絡の無いことをおっしゃいました。
 思わず、えっ!?と聞き返しそうになり、あわてて飲み込みました。

「い、いいのですか?さっきオマワリサンが見張っている、っておっしゃいましたけれど・・・」
「大丈夫よ。別に全裸になるわけでもないし、スカート短かいけれど、ちゃんとパンティだって穿いているじゃない?」
「ボタンひとつ外して、おっぱいチラチラしているくらいなら、たぶん何も言われないわ。ただの胸元緩い服を着た隙だらけの女、っていう感じで、公然ワイセツまでにはあたらないはずよ」
 ようやく息が整ったらしいお姉さまが私を、エスのまなざしでまっすぐ見つめてきました。

 ハーフカップのブラジャーを下にずらし、おっぱい全体を持ち上げている今の状態で三番目のボタンを外したら、かなりキワドイ状態になるのは間違いありません。
 四番目のボタンはみぞおちの下辺りですから、バスト部分を覆い隠すべき布を留めるボタンはひとつもなくなり、ちょっとしたことでもたやすく左右に割れ、Vゾーンがグンと広がってしまうのですから。
 その上、ブラジャー左右のストラップで中央にも寄せられているので、乳首の位置も中央に寄り、よりポロリしやすくなるはず。
 お姉さまったら、そこまで計算されて、私にこんなブラジャーの仕方をさせたのかしら?

「わ、わかりました」
 いずれにしても私に、お姉さまのご命令を拒む権利はないのです。
 左手で三番目のボタンを外すと案の定、胸元が急にラクになり、前立てがフワリと浮いて割れました。
 
 まっすぐ立っている分には大丈夫そうですが、少し身を屈めると、浮いた布地の隙間から尖った両乳首が、うつむいた自分の視界の中に丸見えでした。
 この感じだと、たぶん脇からもチラチラ見え隠れしていることでしょう。
 正面から風が吹いたらきっと、ひとたまりもありません。
 絶望的な気分になりました。

「うん。セクシー。いい感じね。そのまましばらく歩きましょう」
 お姉さまが右手を握ってきました。
「歩いているあいだ、どんなに胸がはだけても、あたしがいいと言うまでは、絶対直してはだめよ?わかった?」
「はい・・・・わかりました、お姉さま」

 私たちが歩き始めるとすぐに、前方からカップルさんらしき男女が腕を組んで歩いてきました。


オートクチュールのはずなのに 20


2015年9月6日

オートクチュールのはずなのに 18

 緑色のカーテンをきっちり閉めて、ドキドキを鎮めるために深呼吸をひとつ。
 側面の壁に貼ってあった操作説明に目を通すと、さっきの機械とは違う種類でした。
 でも、撮り方自体は大体同じで一安心
 先にウェットティッシュでショーツと股間を拭ってしまおう、とベンチ状の椅子に腰掛けたとき、大問題に気がつきました。

 このブース、さっきのブースに比べて目隠しカーテンの丈が異様に短かいのです。
 腰掛けると下半身、腰から下部分がすべてカーテンの下にきてしまい、お外からまったく隠せていません。
 あわてて立ち上がり確認してみたら、まっすぐ立った状態でカーテンの裾が私の太腿付け根の少し下くらいでした。
 腰掛けて股間を弄っていたら、その様子は途切れたカーテン下の空間から、行き交う人たちに剥き出しの太腿ごと丸見えとなることでしょう。
 
 さっきのブースは確か、膝のあたりまであったのに。
 かなり動揺してしまいました。
 どうしよう・・・?
 
 いつまでこうしていても仕方が無いので、立ったままミニワンピースの裾をめくり、ウェットティッシュをショーツの股間にあてがいました。
「はぅん」
 ひんやりとしたティッシュ越しに、乳液みたくヌルンとした液体が滴らんばかりに、布地を湿らせているのがわかりました。
 ティッシュを何度か折り直して丁寧に拭うと、ウェットティッシュ全体がベトベトになりました。

 渡されたウェットティッシュは、あと三枚ありました。
 お姉さまがこれだけの枚数をくださった、ということは、それだけ丁寧にキレイにしてきなさい、という意味なのでしょう。
 ショーツの裏側、あとやっぱり膣内も、拭っておかないと。

 だけど、ショーツの裏側を拭うには、いったんショーツをずり下げなければなりません。
 まっすぐ立っていても腿の付け根辺りまでしか隠してくれないカーテンですから、ここでショーツを下げたりしたら、その一連の動作がお外から丸わかりになってしまう上、拭いているあいだ中、下着を中途半端にずり下げた生足を、行き交う人たちにご披露しっぱなし状態になっちゃうはずでした。

 私はそれを、お姉さまからのご命令と受け取りました。
 お姉さまは、ここのカーテンがこんなに短かいことを知った上で、私にそういう辱めを受けることを望んでいらっしゃる、と。
 そして、お姉さまの言いなりドレイである私には、従う以外の選択肢はないのです。
 覚悟を決めました。

 カメラのほうを向いてまっすぐに立ち、ミニワンピの裾に潜らせた両手でショーツのゴムをつまみました。
 私、これから、こんな場所で下着を脱ごうとしている・・・
 そう思った途端に、辺りの雑踏と喧騒のボリュームが盛大に上がった気がしました。

 ひっきりなしに行き交う靴音、人々のざわめき、電車の到着を告げるアナウンス・・・
 ごくありきたりの正常な日常生活の中で、ひとり、異常なことをしようとしている私。
 見知らぬ人がいつ気づいてもおかしくない、下半身までカーテンが届かないブースの中、自ら下着を下ろして性器を露出しようとしているヘンタイ。

 そんな恥ずかしい姿、絶対誰にも視せたくないのに、なんでこんなに昂ぶっているのだろう?
 視られたくない気持ち以上に、視られてしまうことを期待している、もうひとりの自分がいました。
 被虐のジレンマで張り裂けそうな自分の心に焦れたみたいに、両手が勝手に動き始めていました。

 ショーツを裏返すみたく縁から丸め、ゆっくり腿のほうへとずり下げます。
 まずは太腿の中間くらいまで。
 ショーツが股間を離れるにつれ、股間とショーツの裏地との空間を、か細い糸が何本も引いては切れました。
 ずり下げられて丸まった銀色ショーツの布地は、左右の太腿を束ねて縛る一本の黒い縄のよう。
 その黒い縄はもちろん、途切れたカーテンの下から、お外に丸見えとなっていることでしょう。

 上半身を少し屈め、二枚目のウェットティッシュでショーツの裏地を拭います。
 左手をショーツに添えてクロッチ部分を広げ、右手のティッシュを裏地に押し付けました。
 ヌルヌルの感触で、すぐに二枚目も満遍なくベトベト。
 それをベンチ端に置いた使用済み一枚目の上に重ね、三枚目に手を伸ばしました。

 この三枚目のウェットティッシュは、自分の性器、いえ、直子のはしたない剥き出しマゾマンコを直に拭うためのもの。
 そう考えたら、被虐のジレンマが昂ぶり側にグラリと傾き、これから自分がすべきことが決まりました。
 マゾならマゾらしく。
 こんな場所で剥き出し性器を弄ろうとしているヘンタイ女は、それにふさわしい格好にならなければいけないのです。

 立ったまま、ミニワンピースのボタンを上から外し始めます。
 おっぱい写真を撮るだけならおへそくらいまで外せばいいのですが、全部外します。
 そのほうが私らしいから、そのほうがお姉さまに悦んでいただけるはずだから。

 ボタンをひとつ外すごとに、割れた前立ての隙間から覗く肌の比率が増えていきます。
 おへその下まで外し終えると、残ったボタンはふたつだけ。
 それらも外してしまえば、すでにショーツは下ろされているので、私のふしだらな剥き出しマゾマンコがブースの中で、文字通り剥き出しになってしまうのです。

 今までにも、駅や学校の公衆トイレやブティックの試着室など、公共の場のかりそめの密室で人知れず裸になり、その被虐的、背徳的な状況をひとりこっそり愉しんだことが何度もありました。
 でも、この証明写真ブース内は、それらの経験を軽く凌駕するほどの、危う過ぎるスリルに満ち溢れていました。
 
 現実世界とヘンタイな私を隔てるには、あまりに短かく薄っぺら過ぎるヘナヘナなカーテン。
 そんな頼りないカーテンのすぐ向こうを、ひっきりなしに行き交う大勢の人たち。
 今だって、誰かちょこっとこちらに目を遣れば、写真ブースの中でなぜだか下着を下ろしている女性がいる、ということは一目瞭然でしょう。
 スリルがもたらす興奮は、理性と呼ばれるブレーキをまるっきりの役立たずにして、今や完全に、視て欲しい、の側にシフトした私に、更にもっとヘンタイなことをさせようとしていました。

 今の私がこれほど大胆になれるのは、ひとえにお姉さまが傍らにいてくださるおかげでした。
 独り遊びでオドオドビクビクしていたときとは違い、お姉さまから見守られているという安心感に、どっぷり甘えている私。
 だからこそ、お姉さまの前では自分の性癖に忠実になって、そのことでお姉さまにも愉しんでいただきたい、という使命感をも感じていました。

 ボタンをすっかり外し終えると前立てがハラリと左右に割れ、銀色のブラジャーから下腹部、そして布に覆われていない無毛の恥丘までもが、ワンピース布地の隙間から細い長方形にさらけ出されていました。
 躊躇せず、袖から両腕も抜き、脱ぎ去ったネイビーブルーの布地をベンチ状の椅子右端に置きました。
 これですっかり下着姿。
 と言ってもショーツはすでに腿まで下ろしていますし、ブラジャーだってこの後すぐ、本来の役目を放棄させられる運命なのです。

 立ったままブラジャーのハーフカップに手を掛けます。
 そのままおっぱい全体をブラジャーから引き剥がすみたいに、カップをお腹側にずり下げました。
 ブルンと揺れながら姿を現わすぽってり下乳と、自分で見ても痛々しいほどに尖りきって宙を突く乳首たち。
 ブラジャー左右の肩ストラップに挟まれ、カップの縁で上のほうへと持ち上げられ、全体が窮屈そうに中央付近へ寄せ集められたおっぱいは、谷間クッキリ、ボリュームアップ、いつもより肉感的で卑猥な感じ。
 そのままからだを前屈させ、ショーツも膝のところまで更にずり下げました。

 これが私の望んだ、私らしい姿。
 下着は上下ともちゃんと着けているのに、隠すべきところは一箇所も隠せていない、ある意味全裸より浅ましい、ヘンタイ露出狂女の脱げかけ半裸姿。
 正面の鏡におへそを中心とした白い肌が、艶かしく映っています。
 
 その画像を見ながら腰をゆっくりと落とし、再びベンチ状の椅子に腰掛けました。
 裸のお尻に椅子がひんやり。
 おそらくお外には、何にも覆われていない肌色の腰部分が、カーテンの下から覘いていると思います。
 もちろん、膝まで下ろした紐状ショーツも。

 背筋を伸ばしてまっすぐ座り、あらためて正面の鏡と向き合いました。
 そこには、赤い首輪を嵌められて不自然な形におっぱいを露出した、見るからに発情しきった淫ら顔マゾ女の悩ましげな表情が映っていました。

「・・・必要な証明写真の種類をお選びください」
 料金の投入口にお金を入れると突然、甲高くチャイムが鳴り、かなり大きな女性のお声が!
 えっ!?何これ?しゃべるの!?
 さっきのブースはしゃべらなかったので、ちょっとしたパニック。
 て言うか、そんなに大きなお声を出されたら、お外からも注目されちゃいそう。
 女性のお声で急に現実に引き戻され、同時に今自分がしていることのとんでもなさ、こんなところでほぼ全裸になっている現実を、あらためて思い知りました。

 俄然不安になって、カーテンの下から見えているお外に視線を走らせると、ブースのすぐ近くに見覚えのある細くしなやかなジーンズのおみ足。
 そう、お姉さまが見守ってくださっているから大丈夫。
 その周辺に他の足元は一切見えなかったので、かなり安心しました。

 と同時に股間のローターが激しく震動し始めました。
「んふぅーっ!」
 きっとお外にいらっしゃるお姉さまにも女性のお声が聞こえ、私が写真を撮り始めることを知り、イタズラを仕掛けてきたのでしょう。
 
 別の見方をすれば、お姉さまが私にイタズラ出来るくらい、今のところブースは注目されていない、とも考えられます。
 もしも、ブースの中で誰かが裸になっている、って何人かに気づかれて周囲がヒソヒソしていたら、お姉さまにもイタズラ出来る余裕なんてないでしょうから。
 その考えは、私をずいぶんホッとさせてくれました。

 操作方法を教えてくださる女性のお声に従って操作をしているあいだ中、お外から注目されやしないかと気が気ではありませんでしたが、それでも考えていたことは、実行に移しました。
 写真を撮られるあいだ、顔は正面を向けたまま、左手のウェットティッシュでずっと股間を拭っていたのです。

 腫れ上がった肉芽にティッシュが触れるたびに、眉間にいやらしくシワが寄りました。
 強く押し付けたティッシュ越しにもわかるほど、股間全体が熱くなっていました。
 ローターは相変わらず、中で激しく震えています。
 お姉さまったら、そんなふうにローターを震わせていたら、せっかくティッシュで拭っている意味が無いですよ?
 
 ああん、このまま指を潜り込ませて、クリトリスをつまんで、最後までイっちゃいたい・・・
 さすがにそこまでは出来ませんでしたが、ティッシュを押さえる指がモゾモゾ動いてしまうのを、止める事も出来ませんでした。

 鏡の中の自分の顔が、自分でも恥ずかしくなるほど淫らに歪んでいました。
 からだ中が疼き悶え、大興奮していました。
 拭っても拭ってもジワジワ溢れ出てくる粘性の液体。
 そんなさ中、パシャン、とシャッターが切れたらしい音が聞こえました。

「ありがとうございました。写真は外の取り出し口から出ます」
 女性のお声と同時にローターも止まり、達し切れなかった私はガクンとうなだれます。
 あぁんっ、また生殺し・・・
 股間を押さえていたティッシュは前の二枚以上にグッショリ濡れそぼっていました。

 ブースに入って撮影まで、時間にすれば、ほんの5、6分のことだったのでしょうが、私には小一時間もかかったように思えるくらい、グッタリ疲れていました。
 でも、あまりお姉さまをお待たせしてはいけない。
 すぐに気持ちを切り替えました。

 よろよろと立ち上がり、膝のショーツをモゾモソずり上げます。
 ショーツのクロッチはまだ湿っていて、そこに新しいシミが更に広がっていくのがわかりました。
 ミニワンピースを羽織り、下から順にボタンを留めていきます。
 お言いつけ通りブラジャーは直さず、おっぱいを飛び出させたまま。

 ここに入ってきたときと同じように、上から三番目の胸元ボタンまでを、きっちり留めました。
 そのときより、バスト全体の位置がせり上がっている感じ。
 アンダーをカップで持ち上げられていつもより高い位置になった乳首が、胸元に貼りついた布地をポッチリ浮き上がらせ、ひと目でノーブラと分かる状態となりました。
 ボタンふたつ外れた状態のVゾーンからは、盛り上がったおっぱいの谷間が不自然なくらいクッキリ覗いています。
 こんなふしだらな格好で、今度は街中をお散歩するんだ・・・
 どうしても目が行ってしまうほど自分の胸元で派手に目立っている恥ずかしい突起にクラクラしながら、ゆっくりとカーテンを開きました。

「・・・お待たせしました、お姉さま」
 お姉さまは、私と目が合うとニッと笑い、私の眼前に今撮ったばかりの写真を突きつけてきました。
 そこには、半開きの目と唇で、なんとも悩ましく顔を歪ませたおっぱい丸出し女のバストアップが、同じ構図で四枚写っていました。

「ずいぶんと大胆なことしていたわね?まさか中でワンピまでさっくり脱いじゃうとは、思ってもいなかったわ」
 写真をつかもうと思わず伸ばした私の右手をヒラリとかわすお姉さま。
 置いてきぼりになったその右手をご自身の左手で捕まえると、引っ張るみたいにホームのほうへとスタスタ歩き始めました。
 
 電車が出て行ったすぐ後のようで、ホームにはけっこうな人波が右へ左へと行き交っていました。
 お姉さまはずっと無言。
 人混みに紛れてしばらくしてから、ようやくお姉さまが歩調を緩めました。

「カーテンの下から直子の生足、丸見えだったわよ?もちろん下げたパンティまで」
 階段をゆっくり上りながら私にヒソヒソ耳打ちしてくるお姉さま、
「座ったときは裸の腰まで見えていたし、見ているこっちのほうがハラハラしちゃったわよ」
 階段を上りきると10メートルくらい先に改札が見え、その向こうは都会らしい駅ビル地下っぽいたたずまいでした。

「歩きながらブースの中をチラチラ見ていく人もいたから、けっこうな人数の人がブースの中の生足とパンティには気がついていたみたい」
「でも、普通の人は立ち止まらないからね。そのまま通り過ぎるだけなのだけれど」
「ひとりだけ、中年のリーサラっぽいオジサンが、一度通り過ぎたのにわざわざ戻ってきたのよ。直子が座って撮影が始まった直後だったな」
「あたしがブース前に陣取って、次の順番待ちで並んでいるようなフリをしていたから、近づいては来れなかったみたい」

「それでそのオジサン、ブースが見える対面の壁にもたれてケータイを弄り始めたの。頻繁に視線をこちらに投げながら、まるで張り込みの刑事みたいに」
 人混みをすり抜けながら、お姉さまがヒソヒソしてきます。
「ブースに注目しているのは丸わかりだったから、ちょっとヤバイかなと思って、直子が出てきたらすぐ逃げることにしたの。見るからにスケベそうな顔していたから、そのオジサン」
 お姉さまが呆れたようなお声でそこまで教えてくださったとき、改札口にたどりつきました。

 いったん互いの手を解き、改札を抜けました。
 そのまま通行の邪魔にならない壁際までふたりで退避。
 お姉さまと向かい合いました。

「それにしても、直子もいい度胸よね。カーテンが短かいの、わかっていてやったのでしょう?」
「・・・はい」
「どうだった?あんなところで裸になったご感想は?」
「それは・・・」
「この写真見れば一目瞭然よね。いやらしい顔しちゃって」
「・・・」
 お姉さまが再び私に写真を突きつけ、その向こうからじっと私を見つめてきます。

「命令どおり、ブラはずり下げたままのようね?」
 お姉さまの視線が私のバストを凝視。
「はい・・・」
「そんなに露骨にワンピの前を尖らせていたら、街中の人たちに、わたしはノーブラです、って宣言して歩くようなものよ?それでもいいの?」
「あの、えっと、はい・・・」
「そうよね、直子はそういうので悦ぶマゾ女だものね?」
「・・・はい」

「剥き出しマゾマンコはちゃんと拭いた?」
 お姉さまの視線が更に下がりました。
「はい・・・」
「知ってて聞いたのよ。直子がマゾマンコ弄りながら写真撮られてるとこ、外から丸わかりだったもの」
「・・・あれは、ただ拭いていただけです・・・」
「ふーん。どうだか」
 お姉さまの蔑むようなお声。

「それで、キレイになったの?」
「えっと、それは・・・」
「でしょうね。相変わらずクロッチがグショグショだもの。あとからあとから滲み出る愛液に追いつかなかったのでしょう?」
「はい・・・そうです」

「あたしもそう思って、いっそ一度イってしまったほうがいいのかなとも考えてさ」
「・・・」
「せっかくローターで助けてあげたのに、イケなかったんだ?」
「・・・はい」
「それはご愁傷様。でも、あたしの経験上、イキたくて仕方ない状態の直子ほど、面白いオモチャはないのよ。これからのお散歩がますます愉しみになったわ」
 そうおっしゃって、愉快そうに微笑むイジワルお姉さま。

「使用済みのウェットティッシュは、どうしたの?」
「あ!いけない!椅子の上に置きっぱなしでした」
 すっかり忘れていました。
「あーあ。次に使う人はいい迷惑ね。うっかり触らなければいいけれど」
 ドロドロヌルヌルのティッシュの感触を思い出し、ひとり強烈に赤面してしまう私。

「あ、でも、さっきの張り込みオジサンが戦利品としてとっくに回収していったかもしれないわね。今夜のオカズに」
「オジサンの脳裏には座った直子の艶かしい裸の腰のラインが焼きついているはずだからね。きっといろいろ捗るはずよ」
 お姉さまがお下品に冷やかしてから唇を寄せてきて、私の耳にフッと熱い息を吹き込みました。
「ぁぁんっ!」

「おーけー。では行きましょう。この周辺は繁華街も近いし、今までよりずっとたくさんの人たちに、そのいやらしい姿を視てもらえるはずよ」
「でもその前に、あたしにいつまでバッグを持たせておく気?」
「ご、ごめんなさい、お姉さま」
 あわてて左手を差し出しました。

「バッグは直子の係って最初に伝えておいたのだから、さっさと気を利かせなさい」
 おっしゃりながらご自分の左肩からビニールトートの提げ手を抜き、私に渡す前に中を何やらガサゴソされました。
「さ、これでいいわ。どちらを表に向けても、直子の好きにしていいわよ」

 渡されたバッグには、絶望的な仕掛けが施されていました。
 片面に麻縄や鎖、洗濯バサミや銀色ディルドなど、私を虐める不健全なお道具たちが、薄いブルーのビニール越しに透けて見えているのは相変わらずでした。
 もう片面の、今まではまっ白いバスタオルのタオル地だけが見えていて健全だったほうに、今さっき撮影された私の淫ら顔証明写真が表向きで見えていました。

 ハガキ大の紙に四分割で、同じ構図の写真が四枚。
 ビニールとバスタオルのあいだに挟まれ、バッグ側面のほぼ中央部分に配置されたそのカラー写真は、真っ白なタオル地の中、青色を背にした肌色ばかりの写真が唯一のアクセントとなり、否が応でも目を惹き、かなり鮮やかに目立ちました。
 その写真を見て、それから、そのバッグを持っている人物に目を遣れば、写真の中でいやらしく顔を歪めているおっぱい丸出し女と、バッグの持ち主が同一人物だとすぐにわかってしまうことでしょう。
 
 更にご丁寧に、その前に撮影した顔を半分隠したおっぱい丸出し写真は、バッグのマチ部分、もちろんここも透明です、に移動され、正面または背後から、いつでも丸見え状態となっていました。

 自分のおっぱい丸出し喘ぎ顔ヌード写真をさらしながら街を歩くか、それとも、見る人が見ればピンときちゃう、自分を虐める破廉恥なお道具を持ち歩いていることを誇示しながら街を歩くか・・・
 どちらもあまりに恥ずかし過ぎる恥辱の選択。

 迷った末に、私は前者を選びました。
 理由は、今さっきお姉さまが敢えてそうされたのだから、つまりはそれがお姉さまのお望みだと思うから。
 それにそっちのほうが、より露出狂マゾらしいとも思ったから。
 写真の側を表に向けてバッグを提げた私を見て、お姉さまが嬉しそうに、ふふん、と笑い、私の右手をつかみました。

 お姉さまと手をつないで駅ビルっぽい通路の人波をかき分けていきます。
 改札のすぐそばが大型量販店の入口であることもあり、ひっきりなしに人とすれ違います。
 からだに感じる視線の数も、今までとは桁違いに増えていました。
 それは、今の私のいでたちに、通りすがりの人の視線を惹いてしまうような箇所が増えていることとも、無関係ではないのでしょう。

 今までもさんざん注目されてきた赤い首輪。
 少し視線を下げると、Vゾーンから覗いている盛り上がった胸の谷間。
 布地を押し上げている乳首の突起。
 もっと下げると、割れた裾からチラチラ覗く黒いクロッチ。
 おっぱい丸出し女の写真が透けて見えているビニールトート。
 少し数えただけでもこれだけあります。

 更に、お姉さまが人目を惹く超美人さんであること、女同士で手を繋いでいること、私の顔が汗ばんではしたなく上気していること、などなど。
 ありふれた街の喧騒の中で、私とお姉さまがいる空間だけが浮きまくり、目立ちまくっていることを痛切に感じていました。
 そして、その不躾な好奇の視線を受けることが妙に心地良く、全身が敏感にチクチク疼きまくってしまっているのも事実でした。

 そんな視線をすれ違う人たちからビンビン感じつつ、階段を上りきり地上に出ました。
「あら、駅ひとつぶんで、外がずいぶん暗くなっちゃってる」
 お姉さまが驚いたようにお空を見上げました。
「まだ午後3時過ぎなのにこの空の暗さは、やっぱり天気予報ってたいしたものなのね。間違いなくひと雨くるわ」
 お姉さまがなぜだかとても嬉しそうに、そうおっしゃいました。


オートクチュールのはずなのに 19


2015年8月23日

オートクチュールのはずなのに 17

 プリペイドカードを持ってきていない私のために、切符を買ってきてくださったお姉さま。
 ご自分のカードを抜いた後、私が左肩に提げているビニールトートに、お財布を戻されました。
 
 そのとき、気がつきました。
 さっきお姉さまが私の左肩にビニールトートを掛けてくださったとき、表に見える側をバスタオルではないほうにしちゃったみたい。
 今現在、バッグのシースルーなビニール側面からは、とぐろを巻いた麻縄や鎖、えっちなお道具の数々が見えているはずです。
 
 だけど私が勝手に提げ変えることは許されません。
 お姉さまがそうされたということは、それがお姉さまのご意志であり、こう提げなさい、というご命令なのですから。

 改札を抜けると、数メートル先にホームへと下りる下りエスカレーター。
 そこへ向かっている途中、ちょうどホームに電車が侵入してきて、ここでも凄い風が吹き上げてきたので、ミニワンピースの裾前を手で押さえることが許されました。

「ただし、さっきの階段のときと同じように、押さえていいのは下腹部のあたりまでよ」
 お姉さまの念を押すような耳打ち。
「はい。わかっています・・・」
 少しでも風圧がかかれば裾の前立てがあっさり左右に割れ、はしたないおツユで濡れそぼったショーツの恥丘部分を、みなさまに見せつけながら下りることになるはずです。

「今度は先に行きなさい」
 お姉さまに促され、エスカレーターのステップ左端に立ちました。
 すぐ後ろにお姉さまもつづきます。
 下りエスカレーターの右隣は、ホームから改札口へと向かう人たちのための上りエスカレーター。
 今到着した電車に乗っていたのであろう人たちが次々と、その上りエスカレーターに乗り込んできます。

 下りエスカレーターに乗っている私の前には、一番下まで誰も乗っていませんでした。
 すなわち、私が先頭状態。
 上りエスカレーターで上がってくる人のうち、うつむいている人以外は、その視界に否応無く、私の姿が入り込んでくるはずです。
 
 いくつもの視線がまず私の首に貼りつき、次に股間へと移動していくのを感じていました。
 自分では見えませんでしたが、ミニワンピの裾が絶えず左右に割れてはためいているのは、わかっていました。
 
 私は、ずっとそ知らぬ顔を作り、目の焦点をどこにも合わせさず、まっすぐ眼前の宙空を見つめていました。
 内心では、心臓が壊れちゃうんじゃないかと思うくらいのドキドキで、キュンキュン感じまくっていました。

「ずいぶんジロジロ注目されていたわね。すれ違った後もずーっとこっちを振り向いていたオジサンまでいたわよ」
 エスカレーターを降りた途端にお姉さまに肩を叩かれ、ヒソヒソされました。

 たまらず私は、お姉さまの左腕にギューッとしがみつきました。
 誰かにしがみついていないとヘナヘナとへたり込んでしまいそうなほど、下半身がジンジンかつフワフワしていたのです。
 お姉さまは、私がしがみついてくることについては別に何もおっしゃらず、そのままゆっくり、ホームの中央のほうへと進んでいかれました。

「なんだか狭いホームなのね。それなりに有名な駅なのに、ホームドアも無いし。混雑したら危なそうよね?」
 ホームをしばらく進み、何本目かの太い円柱で足を止めたお姉さま。
 私を振り向き、世間話みたいにそうおっしゃいました。
「それに、予想通りではあるけれど、人が少なすぎ。これじゃあ直子もがっかりでしょう?」
 からかうように私の顔を覗き込んでくるお姉さま。

「いえ、そんなことは・・・」
 少ないと言っても、エスカレーターを降りてからここまでで十数人の人たちとすれ違いましたし、そのうち半数以上の人から、首輪やバッグへの不躾な視線をいただいていました。
「次の駅行けば、もっとたくさんいるはずだから、もう少しの我慢よ」
 あくまでも私が残念がっていると決めつけるお姉さま。
 やがて轟音と共に電車が到着しました。

 各ドアから乗る人、降りる人、ほんの数人づつ。
 電車内も、都会の地下鉄にしては珍しいくらいガラガラでした。
 空席のほうが目立つロングシート、プラス、これだけ席が空いていてもなぜだか立っている人がドア際にポツンポツン。

「見事にガラガラね。これじゃあ痴漢ごっこも出来やしない」
 お姉さまが冗談めかしておっしゃいました。
「一駅だけだけれど、座りましょう」
「はい」
 私たちが乗り込んだドアのすぐ脇のロングシートが丸々空いていたので、私がドア脇の一番端に座る形で、ふたり並んで腰掛けました。

 この服装で腰掛けると裾がせり上がり、ショーツのクロッチ先端が見えっ放しになることは、車の助手席に座ったときにわかっていました。
 でも、私たちが座っているシートの周辺、お姉さまから向こうにも対面側にも、誰もいませんでした。
 
 この位置から見える人影といえば、対面側シート脇のドア際で、手摺りにもたれかかってお外を向いている男性の背中だけ。
 その男性の両耳にはイヤホンが見え、まったく周囲を気にされていないご様子。
 なので、私も安心して座ることが出来ました。
 もちろん座ってすぐ、肩から外したトートバッグを膝の上に乗せ、剥き出しショーツを隠しました。

「エスカレーターでは失敗しちゃった。バッグを右肩に提げ直すように命令すればよかった」
 お姉さまが地下鉄の騒音に負けないように私の耳に唇を近づけ、大きめヒソヒソ声でおっしゃいました。
 視線はずっとビニールトートに注がれていて、私もつられて見たら、あら大変!
 私ってば、無造作に麻縄や鎖が見えるほうを表側に向けていました。

 あわててひっくり返そうとする手を制され、お姉さまがつづけました。
「さっきのエスカレーターって、すれ違うとき、かなりの至近距離だったでしょ。でも直子のバッグは左肩で、壁のほうに向けて提げていたから、すれ違う人に中を見てもらえなかったじゃない?」

「直子の姿を見て、このバッグの中身も見てもらえれば、直子がどんな種類の女なのか、いっそう明確にわかってもらえたと思うのよね」
 お姉さまが本当に残念そうなお声でおっしゃいました。
 お得意のお芝居とは思いますが。

 それよりも私は、膝の上のバッグにもっと恥ずかし過ぎる事実を発見していました。
 シースルーのビニールトート表面ほぼ中央左寄り、麻縄がとぐろを巻いているその上に、さっき撮った証明写真がハッキリ表向きで見えていたのです。
 顔は隠しているものの、おっぱい丸出しの自分の写真。
 
 写真が小さいので、遠目からはなんだかわからないでしょうけれど、このくらいの距離なら、えっちなおっぱい写真だとバッチリわかっちゃいます。
 私、こんなもの見せびらかせたまま、駅の中を歩いてきたんだ・・・
 今更手遅れなのですが、さりげなく右手をバッグの上に置き、写真の部分を隠しました。

「そう言えば、次の駅で小銭が必要なのだったわ。ちょっとバッグ貸して」
 写真を隠した私を見透かしたみたいに、お姉さまの手が私の膝からバッグを奪い去りました。
 再び剥き出しとなった、私のびしょ濡れショーツ先端。
 周囲に人がいないのが本当に幸いです。

 バッグの中をガサゴソして目的を果たされた後も、お姉さまはバッグを返してくださいません。
 一度周囲を見回してから、ヒソヒソ耳打ちしてきました。

「膝小僧をぴったりくっつけちゃって、ずいぶんお行儀がいいのね?どうせ誰も見ていないのだから、もうちょっとリラックスしたら?」
「えっと、あの、やっぱり一応は、電車の中ですから・・・」
「そんなお堅いこと言っても、今だってパンティ、隠しきれていないじゃない?」
「それは、そうですけれど・・・」
「ふーん。素直じゃないわね、マゾのクセに。これならどう?」
「んふぅっ!」

 ショーツの奥でローターが強烈に震え始めました。
 思わず眉間にシワが寄ってしまうほど。
「うわー。エロい顔になっているわよ?そんな顔をしていたら、遠くから見た人にだって、感じているのがバレちゃうわよ?」
 愉しげなヒソヒソ声が右耳をくすぐりました。

 両腿をピッタリ閉じてローターを締め付けていると余計感じてしまうので、仕方なく徐々に両膝を開き始めました。
 両足は揃えたまま膝だけ大きく開いたので、もしも誰かが視ていたら、すごく卑猥かつお下品な格好だったことでしょう。

 股を開いて震動は幾分ラクにはなりましたが、今まで昂ぶりつづけていたところに、今回の刺激は強烈でした。
 お姉さまは、まだローターを止めてくださいません。
 両膝が無意識に、パクパク開け閉めの動きをしちゃっています。

 私、こんな走っている地下鉄の中で、感じちゃっている・・・
 他のお客様も普通に乗っている明るい車両の中で、イキそうになっちゃっている・・・
 そんな背徳的な想いが被虐の炎に油を注ぎ、益々敏感に疼き悶える下半身。
 感じていないフリを必死に繕いながらも、どんどん高まっていました。

 間もなく次の駅に到着、というアナウンスと共にローターがピタッと止まりました。
 ああんっ、もう少しでイケたのに・・・
 ホッとする気持ちと残念に思う気持ちが半々の私。
 髪の生え際にジンワリ汗が滲むほど火照った顔は、すごくエロくなっていたと思います。

 両膝を無駄にパクパク開け閉めしちゃったせいでしょう、ワレメが割れておツユがもっと染み出してしまったようで、ショーツのクロッチは滴らんばかりのぐしょ濡れ。
 事実、座っている両腿のあいだから見える紫色のシートに少し白濁した水滴が一粒、半透明な宝石のようにキラッと光っていました。

 電車が減速し始めると、お姉さまがバッグを持ったまま、おもむろに立ち上がりました。
 私もあわててつづきます。
 立ち上がるとき、シートの水滴と私の股とのあいだに、細い糸が一本スーッと伸びて、すぐ切れたのがハッキリ見えました。
 からだ中の血液が沸騰しそうでした。

 入ってきたときと同じドアの手摺りに掴まり、電車が停まるのを待ちました。
 お外の暗闇で鏡と化した窓ガラスに映る、赤い首輪の女。
 その辛そうな顔がなんとも悩ましく淫ら過ぎて、今すぐどこかに逃げ去りたい気持ち。
 鏡の奥には、そんな私を愉しそうに見つめるお姉さまのお顔もありました。
 やがて窓ガラスが明るくなり、電車がホームへと滑り込みました。

 駅のホームに降り立つと、お姉さまが再びビニールトートを私の左肩に提げさせました。
 もちろん、タオルの側ではないほうを表に出して。
 私も再び、お姉さまの左腕にしがみつきました。
 
 広くて明るいホーム内に、聞き覚えのある日常的な雑踏と喧騒。
 閑散とした電車内から一変した雰囲気に戸惑ったのか、電車内でのローター陵辱による昂ぶりの余韻が急激に引き始めたのが、少し残念でした。

「ず、ずいぶん人が多いですね・・・」
 さっきの駅のホームとは打って変わって、それなりの人数の人たちが広めのホームを右へ左へ、忙しそうに歩いていました。
「ここの駅一帯に、確か五種類の地下鉄路線が乗り入れている一大乗換え駅だからね。ここからなら、池袋でも渋谷でも銀座でも浦安でも、なんなら神奈川にだって埼玉にだって一本で行けちゃうのよ」
 お姉さまが人波を優雅にすり抜けながら、教えてくださいました。
「でもやっぱり、普段に比べれたらかなり少ないほうね。歩いている人種も違うし。普通の日はほとんどサラリーマンだけだもの」

 確信を持った足取りで、いくつものエスカレーターや階段を上ったり下りたりしながら、歩きつづけるお姉さま。
 置き去りにされないように、私もその左腕にくっついています。
 絶えず誰かとすれ違い、追い越され、ときどき首輪に視線を感じました。
 そして歩いているうちに、さっきみたいな空いている駅よりも、このくらい混んでいたほうが気がラクなことに気がつきました。

 誰かにすれ違いざま注目されたとしても、それはほんの数秒間の出来事。
 ずっと歩きつづけているので、お互い違う方向に歩き去れば、すぐに忘れてしまう。
 二度見しようとしても、私の姿はすでに人混みの中に消えているでしょう。
 そんな、人混みに紛れている感、が、安心感をもたらしてくれたのだと思います。
 もちろんたくさん人がいる分、私の首輪や股間に気がつく人数も増えているはずですけれど。

「ずいぶん広い駅なのですね?」
 優雅に歩きつづけるお姉さまにお尋ねしました。
「うん。この駅は構内で別の駅ともつながっているの。まだ改札出ていないでしょ?」
「そう言えば・・・」
「降りたのは永田町駅だったけれど、あたしが目指しているのは赤坂見附の改札。取引先がいくつかあるから、そっちから出たほうが土地勘があるのよ」
 短かいエスカレーターに乗ったところで、お姉さまが教えてくださいました。

「そんなことより直子はさ、さっき電車の中でローターに感じまくっていたとき、誰かにずっと、じーっと視られていたの、気がついていた?」
 エスカレーターを降り、まっすぐの通路になってお姉さまと並んだとき、ヒソヒソ耳打ちしてきました。
 青天の霹靂でした。

「えーっ!?だってあのときは、前にも横にも、誰も座っていませんでしたよ?」
「そうね。座ってはいなかったわね。でもひとり、直子の斜め前くらいに、いたでしょう?」
「あっ!」
 イヤホンをしてドア際に立っていた、あの男性のことのようです。

「でもでも、あの人はずっと背中を向けて、お外を見ていましたよ?窓ガラス越しに・・・」
 自分で言い訳している途中に、はっ、と気がつきました
 人混みの安心感から余裕が出て、せっかく装えていたお澄まし顔が、みるみる崩れてしまいました。

 「やっと気がついたみたいね。さっき直子も自分の顔に見惚れていたじゃない?地下鉄って外がずっと暗いままだから、窓ガラスが鏡みたいになって、車内の様子が鮮明に映り込んじゃうのよ」
 お姉さまのヒソヒソ声がすっごく愉しそう。
 ゆっくりと歩きながら、お姉さまのお話がつづきました。

「あたしが見ていた感じでは、かなり早い段階で気づいていたみたいよ。あたしが直子の膝からバッグを取り上げたとき、彼の肩が一瞬、ビクンと揺れたもの」
「たぶんその前、乗り込んで座ったとき、直子のパンティが見えていることに気づいて注目していたのだと思うわ。そうじゃなくても、そんな首輪をしているのだもの、ヘンな女だなって注目しちゃうでしょうけれど」
 ご自分でやらせたクセに、イジワルなことをおっしゃるお姉さま。

「後姿を見た感じ、若めで細身でスーツ姿でもあったし、害は無さそうって判断して、サービスしてあげることにしたの」
「あたしの姿も一緒に窓に映り込んでいるはずだから、あたしが彼に気づいていることに気づかれないように観察するのが大変だったかな。なるべく視線を動かさないようにしてね。でも見ていてすごく面白かったわよ、ふたりとも」
「直子が膝を広げ始めたとき、手摺りを握っている彼の右手に力が入って、白くなってたのが可笑しかったわ。きっと彼も充分愉しめたでしょうね」

「あたしたちが降りるまで一度も振り向かなかったのは偉かったわね。あんなの見せつけられたら、一度は肉眼で、生で拝みたかったでしょうに」
「降りる前にドアのところに立って確認してみたら、対面の端のシート一帯がガラスにバッチリ映っていたから間違いないはず。彼の位置から直子の挙動は、鏡状態で丸見えだったの」

「あれだけ長い時間視ていれば、直子の股間の黒いものがマン毛でないことも、だったらなぜ黒くなっているのかも、わかっちゃったでしょうね」
「それに、あたしたちがどういう関係で、直子が何をさせられていたのかだって、ちょっと知識があればわかったはずよ。あの女は露出狂マゾだって、彼が正しく理解してくれたら、直子も本望でしょう?」
「彼が交差点のオタク君たちみたいに、えっちな知識をたくさん持っていてくれることを祈るわ。降り際にやっとこっちを振り向いたのを見た感じでは、気弱そうなメガネ君だったけれど」

 お姉さまが愉しげにお話されているあいだ中、私はお姉さまの腕にギューッとしがみついていました。
 お話が進むごとに、いてもたってもいられなくなりました。

 全部、視られていた・・・
 周囲に目がないことに安心しきって、自らいやらしく開け閉めしていた股間も、ローターで感じているのを必死に取り繕う顔も、愛液がジュクジュク滲み出るショーツも、立ち上がったときに引いた糸までも・・・
 知らない男性に全部、視られていた・・・
 やよい先生やシーナさま、そして最近ではお姉さまにしかお見せしたことのない、マゾ女直子がイク寸前まで高まった姿、私のヘンタイな本性・・・

 恥ずかしいとか、羞恥とか、そういう言葉では到底収まりきらないほどの恥辱感が、全身を駆け巡っていました。
 でもその恥辱感には不思議なことに、今までに感じたことの無い甘美な開放感も少し、混ざっていたのも事実でした。

「ふう。やっと着いた。ここからが丸の内線、赤坂見附駅のホーム。それで、ここに寄りたかったの」
 お姉さまからのショッキングな暴露で腑抜けのようになった私を、お姉さまが引き摺るみたいに誘導してくださいました。
 通路からホームへ向かう少し広くなったスペースの片隅に、見覚えのある形がありました。
 さっきの駅にあったのと同じような、証明写真機のブースでした。

「またここで、おっぱい写真を撮ってもらうおうと思ってさ」
「はい・・・」

 どんなに恥ずかしいめに遭わされても、それを見知らぬ人に視られても、していただいたこと、視ていただいたことを、悦んで受け入れなければいけない・・・
 だってそれは、マゾでヘンタイな私のことを想うお姉さまが、敢えてしてくださることなのだから・・・
 私はそういう女なのだから・・・
 そんな気持ちになっていました。

 傍らを人々がひっきりなしに行き交う証明写真機ブースの前で、お姉さまと向かい合わせに見つめ合いました。

「おっぱいの出し方はさっきと同じ。ブラを下にずらす。わかるわよね?」
「はい」
「今回あたしは覗かないから、全部ひとりでやりなさい」
「はい」
「おっぱい出して、今度は顔を隠さないで写真を撮りなさい」
「はい」
「撮り終わったらおっぱいはしまわずに出したまま、ワンピのボタンだけ留めて出てきなさい」
「・・・はい」

「なんだか急に素直になっちゃったのね?ちゃんとわかってる?」
「はい。わかっています。直子はお姉さまの言いなりドレイですから、何でもお姉さまのおっしゃる通りにいたします」
「うふふ。あのメガネ君に視られちゃったと知って、開き直っちゃったみたいね。ますます愉しくなってきたわ」

 お姉さまの瞳がエス色に妖しく揺れて、私のマゾ度も臨界点を突破。
 今の私は心身ともにドエム一色でした。
「これ、お金ね。あと、これ」
 ウェットティッシュを数枚渡されました。

「パンティから雫が今にも垂れそうよ。直子の剥き出しマゾマンコを、中でキレイに拭ってきなさい。まあどうせ、すぐにまた濡らしちゃうのでしょうけれど」
「お心遣いありがとうございます、お姉さま」
「バッグは持っていてあげるから、早くやっていらっしゃい」
「はい、お姉さま」
 右手にお金、左手にウェットティッシュを握り締め、ブースの中に入りました。


オートクチュールのはずなのに 18