2015年7月6日

オートクチュールのはずなのに 10

 座ったまま、あらためてリビングルームを見回してみました。
 すっごく広い。
 確実に20帖以上ありそう。
 玄関からまっすぐ入って突き当たったドアが、リビングルームの横幅のちょうど真ん中あたりに位置して、その先に横長な長方形の空間が広がっています。

 お部屋の突き当たりは、横長な一面全体が白いカーテンで覆われているので、おそらく全面窓なのでしょう。
 だとしたらすごく陽当たり良さそう。
 窓を背にすると左側にダイニングテーブルセット。
 右側は、床にライトブラウンのふかふかそうなシャギーラグが敷かれたソファーコーナー。
 大きなモニターの壁掛けテレビが側面に掛かっていました。
 たとえば8帖のお部屋を横並びに三つ並べて、全部の仕切りを取り払った感じ。
 そのくらい広々とした空間でした。

 私は、そんなお部屋のほぼ中央、周りに何も無いフローリングの上に座っていました。
 私とお姉さまが転げまわったとおりに、床のあちこちに小さな水溜りが出来ていました。
 お姉さまと私の、欲情の落し物。
 大変!まずはお掃除しなくちゃ。
 立ち上がろうとしたとき、お姉さまが戻ってこられました。

「はい、これでとりあえず汗を拭くくらいで、しばらく我慢してね」
 ふかふかのバスタオルをくださいました。
「あと、お料理で油や熱湯を扱うときは、これだけは身に着けてもいいことにするわ」
 折りたたんだ真っ白い布を手渡されました。

「エプロンよ。飛沫が跳ねて、肌を火傷したりしちゃったら可哀相だからね」
 お姉さまが、そこまでおっしゃって、いたずらっぽくニッて微笑みました。
「もっとも、直子みたいな子なら、そういう痛ささえ愉しめるのかもしれないけれど」
「あの、いえ、お気遣い、ありがとうございます」
 まだ全裸のままのお姉さまの、形の良いバストに目が泳いで仕方ありません。

「さっき入ってきたドアを抜けて、左側の最初のドアが洗面所、その向かいのドアがトイレ。トイレ側にある別のドアはあたしの寝室だから開けちゃだめ」
「キッチンは、見れば分かると思うけれど、ダイニングの奥ね。掃除用具とかは洗面所に入ってすぐのロッカーにあるから」
「ということで、あたしはシャワーしてくるから、後はよろしくお願いね」
 左手にまだ何か持ったままの全裸なお姉さまが、今度は玄関のほうへつづくドアへとスタスタ歩いて行かれ、ドアの向こうへ消えました。

 いただいたタオルでざっとからを拭ってから、えいやっ、と家政婦モードに切り替えました。
 まずは、床に脱ぎ散らかしたお姉さまのお洋服一式を回収。
 お姉さまの残り香にアソコがキュン。
 玄関口に置きっ放しだったお買物のレジ袋やふたりの私物をリビングへと運び、片隅にひとまとめ。
 
 キッチンに移動して、お買い物の成果を所定の位置へ。
 キッチンも広々としていて使いやすそう。
 大きな冷蔵庫には、お姉さまがおっしゃった通り、数本の飲み物と調味料類しか入っていませんでした。

 教えていただいた洗面所へのドアを開けると、これまた広々。
 洗面所というより、パウダールームと呼びたいお洒落な内装でした。
 その奥がバスルームらしく、お姉さまがシャワーを使う音が微かに聞こえていました。

 ロッカーから拭き掃除のお道具一式をお借りし、玄関からずーっと廊下を雑巾がけ。
 確かにあまりお掃除していなかったみたいで、バケツに汲んでいたお水がみるみる汚れていきました。
 リビングに戻って、広大なフローリングを四つん這いで這い回りました。

 今日初めて訪れたお宅の床を、なぜだか全裸で雑巾がけしている私。
 自宅でしていた、妄想ごっこ、ではなくて、正真正銘、ご主人さまにお仕えする全裸家政婦状態。
 念願が叶っちゃった、なんて考えたら、四つん這いで垂れ下がったおっぱいの先端へと、血液がぐんぐん集まってきました。

 床のお掃除を終えてキッチンへ。
 お姉さまは軽くとおっしゃっていたけれど、冷凍ピザだけではさみしいので、簡単な野菜サラダを作ることにしました。
 レタスやキュウリを洗い、使いそうな食器類も念のため丁寧に水洗いしました。

 食器棚のガラスやステンレスに、自分の赤い首輪だけの全裸姿が映っています。
 使い慣れていないよそさまのシンクで、お腹の辺りの素肌を濡らしてくる水しぶきの飛沫に、ピクピク反応してしまいます。
 これから二日間、私はずっと裸のままお姉さまのお部屋で過ごすんだ・・・
 艶かしくも甘酸っぱい、エロティックな気分でレタスをちぎりました。

 ダイニングテーブルに食器やドレッシングを並べていたら、リビングのドアがバタンと開きました。
「ふぅー。いい気持ち。さっぱりしたぁー」
 頭にタオル、からだにバスタオルを巻きつけただけのお姉さま。
「サラダも作ったんだ、気が利くじゃん。洗面所で髪乾かしてくるから、もうピザ焼き始めていいわよ。あと、飲み物はビールね」
 それだけ言い残して、再びドアの向こうに消えました。

 ツヤツヤした布地、たぶんシルク、で薄いベージュ色のバスローブを羽織ったお姉さまがダイニングテーブルに着席するのと、二枚目のピザを入れたオーブンレンジがチーンと一声鳴いたのがほぼ同時でした。
 お風呂上りのほんのり上気した艶やかなお顔に、ついさっき、ふたりで貪り合ったときの、悩ましいお顔がオーバーラップします。

「カンパーイッ!」
 チンッ、とガラスが触れ合う音が響いた後、黄金色の液体がなみなみと注がれたくびれグラスをゴクゴク一気に飲み干したお姉さま。
「あーーっ美味しいっ!やっと休日が来た、っていう気分になれたわ」
 ピザをつまみ、サラダをつつき、楽しいおしゃべりタイムの始まりです。

「すごくステキなお部屋ですね。あんまり広いのでビックリしちゃいました」
「うん。西洋型1LDKっていう触れ込みだったの。最初はあたしもただっ広くていいな、って思ってたのだけれど、最近は持て余し気味かな。なんだか逆に寒々しい感じしない?」
「そんなことないです。うらやましいです」
「住み始めの頃は、こんな家具を置いてとか、いろいろ夢膨らませていたのにね。帰ってくるヒマがないから、ぜんぜん弄れなくて。結局今でも、ほとんど引っ越してきたときのまんまなの」
「だからあまり物が置いていないのですね?」
「たまに帰って来ても、結局寝室に閉じ籠っちゃうからね」
「ああ・・・」
「ここは誰かに貸しちゃって、会社のそば、って言うか直子んちのそばにでも引っ越そうかなって、最近は考えたりしてる」
「えーっ!?そんなのもったいないです、こんなにステキなお部屋なのに。あ、でもお姉さまが近くに住まわれたら、すっごく嬉しいですけれど」

「ところで直子、あのエプロンは着けてみた?」
「あ、いいえ。まだ・・・」
「あら残念。あれはなかなかの傑作なのよ。直子なら絶対気に入ると思う。もともとはアユミ用に作ったんだけれど」
「アユミさん?て?」
「忘れちゃった?あたしの学生の頃の友達」
「ああ、服飾部で、なんて言うか、私と同じような感じのかたっていう・・・」
「そう。思い出した?彼女のために作ったお下劣衣装のうちのひとつ。ほとんど彼女が持っていったはずだったのだけれど、なぜだかあれだけ、あたしの手許に残っていたの。捨てなくてよかった」
「へー。ちょっと着けてみましょうか?」
 席を立ち上がろうとして、お姉さまに止められました。
「いいわよ、焦らなくても。明日ゆっくり見せてもらうから」

「直子は、あっちのソファー周辺を陣地にして。一応ゲストテリトリー。背もたれ倒せばベッドになるから。毛布と枕は持ってきてあげる」
「あ、はい」
「ほとんどの電気製品は、あっちのテーブルのリモコンでオンオフ出来るから、勝手に使って」
「わかりました」

「明日起きたら、この部屋に直子が裸でいるのよね?なんだか不思議な感じ。いつの間にかあたしがマゾのメス犬ペットを飼うはめになっているのだもの、って、そうか!直子はゲストじゃなくてペットっだった」
「はい・・・それにそれは、私がお願いしたことですから・・・」
「うん。あたしもかなり愉しみではあるの、直子のマゾっぷり。明日はめいっぱい虐めちゃうつもりだから、覚悟しておきなさい。持ってきたグッズ類は全部出しておいてね」
「はいっ!お姉さま」

「モップもあったのに、わざわざ雑巾がけしてくれたのね?」
 リビングの隅に置きっぱなしの、雑巾を掛けたバケツをご覧になっての一言。
「やっぱりメス犬だから、四つん這いになりたがるのかしら?」
 愉しそうに笑って、グラスを飲み干すお姉さま。
「直子がこの部屋にいるあいだ、身に着けていいのは、さっきのエプロンと、拘束用にロープとかチェーン。あ、手錠と足枷もおっけー。あとは、そうね、洗濯バサミならいくつでもいいわよ」
「明日起きたとき、全裸家政婦直子がどんな姿で迎えてくれるか、今からとっても愉しみ」

 パクパク食べてビールもグイグイ飲んで、いっぱいしゃべる絶好調なお姉さまも、やがてだんだん、なんだかトロンとおねむさんなお顔になってきていました。
「ふぁーっ。なんだか気持ち良く酔ってきた。グッスリ眠れそう」
「少しのあいだ仕事は忘れて、直子をたくさん虐めなきゃ・・・」
 テーブルの上のお料理も、あらかたなくなっていました。

「この感じが消えないうちに、今夜は休ませてもらうわね。あたしって、ホロ酔いが醒めちゃうと、一転して寝付けなくなっちゃうタチだから」
 お姉さまがユラリと立ち上がりました。

「明日は多分、お昼頃まで起きてこないと思って・・・ブランチはホットケーキがいいかな・・・バスルームにはあたしのシャンプーやらが置いてあるし、ドライヤーとかもご自由に」
「あたしが寝ているあいだは、何をしていてもいいから・・・寝室は防音してあるから掃除機でも洗濯機でも使って大丈夫・・・オナニーも許しちゃう・・・あ、もちろん疲れていたら寝ちゃってもいいけれど」
「直子、歯ブラシとか、お泊りセットは持っているわよね?・・・ああ、眠い・・・」
 心底眠たそうなお声で、ゆっくりゆっくり思い出すようにおっしゃるお姉さま。

「あと、あたしの下着とかタオルとかを、洗濯しておいてくれると嬉しいかな、明日でいいから・・・えっと、あたしの服は・・・」
「はい。あそこにまとめてあります」
 部屋の隅を指さす私。
「ああ。ありがとね・・・スーツはクリーニングに出さなきゃだめかな・・・洗濯機は洗面所の奥、洗剤もそのあたりにあるはず・・・ふわーぁ」
 ご自分のバッグと衣類を手にしたお姉さまがフラフラ、ドアの向こうへ消えていきました。

 テーブルを片付け食器類を洗っていると、ドアの開く音。
 あわててリビングに出ると、お姉さまが毛布類を抱えて、ドアの前に立っていらっしゃいました。
「あ。わざわざありがとうございます」
「うん・・・それじゃあ、おやすみー」
 お姉さまのからだが、ふうわりと私を包みました。
 シルクのなめらかな感触に包まれる、私の天使さまからのハグ。

「あー、直子、かなり臭うわよ・・・えっちな臭い・・・寝る前にこんなの嗅いだら、いやらしい夢見ちゃいそう・・・早くシャワーしなさい」
 からだを離したとき、お姉さまがからかうみたいにおっしゃって、ふわーっと大きな欠伸。
 いくら眠くても、イジワル口調を忘れないお姉さま、
「おやすみー」
「おやすみなさい、お姉さま。良い夢を」
「愛してるよ、直子」
「私もです」
 
 今にも崩れ落ちそうなくらい眠たげなご様子だったので、それ以上のわがままは言わず、ドア口でお姿が消えるまでお見送りしてから、キッチンに戻りました。

 洗い物を片付けてから、お姉さまのお言いつけ通りバスルームへ直行。
 赤い首輪は濡らさないように脱衣所で外し、今さっき嗅いだばかりの、お姉さまと同じ香りのローションやシャンプーをお借りして、全身を入念に洗いました。
 お姉さまの香りに包まれながら全身を撫ぜ回していると、自然と今日一日、お姉さまとお逢いしてからのあれこれを思い出してしまいます。

 ほのかさまもいる前でのリモコンローター責め。
 人前での首輪姿ご披露。
 後部座席での全裸オナニーと四つん這いお尻露出行為。
 スーパーでの前開きボタン外しと自発的露出。
 駐車場での下半身丸出し。
 
 どの行為でも、今まで感じたことの無いほどの強烈な羞恥と恥辱、喩えようもないほどの興奮と快感を感じていました。
 とくに、裾の一番下のボタンを外してから、レジカウンターのみなさまに向けての自発的なお尻露出、そして、そのままの格好で駐車場までの夜道を歩いていくときに味わった被虐と羞恥は、このまま世界が終わって欲しい、と思うほどの恥辱感とともに、私でもここまで出来るんだ、という、達成感を伴う淫靡な高揚感で気がヘンになりそうなほどでした。

 同時に思い出す、大好きなお姉さまの蠱惑的なお言葉とその口調、お顔や振る舞い、その愉しげな表情・・・
 そして最後にたどり着いた、ケダモノの交わり。
 私の両手は自然に敏感な場所へと伸び、そこを中心に泡まみれの全身を執拗に、いつまでもいつまでも責め立てつづけました。

 バスルームを出てリビングに戻り、横になったのは夜の11時過ぎ。
 いつもの私なら、まだ眠るには早い時間でした。
 精神的にはとても高揚していて、もう少し起きていたかったのですが、全身が心地良い疲労感でぐったりしきっていました。
 今夜は早く寝て、明日は早く起きて、お姉さまが起きてくるまで家政婦のお仕事をがんばろう!
 そう心に誓って、目をつぶりました。

 さっき脱衣所でからだを拭った後、ごく自然に、当然のように、お化粧台の上に置いておいた赤い首輪に手が伸びていました。 
 今は枕に押し付けられて首周りに当たるそのレザーの感触を、とても愛おしく感じ始めていました。


オートクチュールのはずなのに 11


2015年6月28日

オートクチュールのはずなのに 09

 時間にしたらほんの10秒足らずのことだったでしょう。
 上半身を前に傾け、ワンピース背中側の裾がせり上がるのを意識し、裸のお尻が布地の外へ露出していることを感じて・・・
 前開きの一番下のボタンも外したので、前側の裾はもちろん思い切り左右に割れ、自分の視界には生々しい下腹部の白い肌が、女性器の割れ始めまで大胆に見えっ放しでした。
 
 右手を伸ばして床の500円玉を拾い上げ、ゆっくりと上体を起こすまで、いえ、起こした後も、私のからだは、制御不能の被虐的快感にプルプル打ち震えていました。

 そのあいだ、私の頭の中も大騒ぎでした。
 私、レジカウンターに向けてノーパンのお尻をわざと見せちゃっている・・・
 見知らぬ人たちに注目されていることを承知の上で、破廉恥なことをしている・・・
 剥き出しマゾマンコまで丸出しで・・・
 私のお尻、どんなふうに視えているのだろう・・・
 本当に、正真正銘の露出狂になっちゃったんだ・・・
 でも、気持ちいい・・・

 考えてみれば、公共の場で自らすすんで、まったく面識の無い人たちに自分の恥ずかしい箇所を見せつけるような行為をするのは、生まれて初めてのことでした。
 
 それまででも、同じような状況を味わったことはあります。
 神社やファミレス、デパートの屋上や試着室、営業中のセレクトショップなどで、キワドイ格好になったことが何度もありました。
 だけどそれらの体験では、マゾですからもちろん、そんな状況にゾクゾク感じてはいましたが、生来の臆病さからくる、やっぱり不特定多数の人には視られたくない、公衆の面前でそんな、はしたな過ぎる姿は見せたくない、という健全な羞恥心のほうが、いつも大きく勝っていました。

 今回、決定的に違っていたのは自分自身の意識でした。
 レジにお尻を突き出して500円玉を拾う、という動作をしているあいだ中、上に書いたように頭の中がパニックになりつつも、同時に心の中でずっと、視てください、視て呆れて、蔑んでください、私はこんな行為をして悦ぶヘンタイ女なんです、もっと良く視て、って唱えつづけていたのです。
 これまで無理矢理抑えつけていた自分の欲求に正直になったことで、それまでとは違った種類の、凄まじい性的高揚を感じていました。

 実際に何人くらいの方々が私のお尻を視てくださったかは、振り向かなかったのでわかりません。
 でも、空調の効いた少しヒンヤリとした外気にさらされた裸のお尻に、いくつもの粘り付くような視線を感じていました。
 
 その視線たちが、お尻や性器の穴を蹂躙するように突き刺さり、私の内面までもが犯され、陵辱されているように感じていました。
 500円玉を拾う直前には、ゆっくり拾いなさい、一秒でも長くみなさまに直子のいやらしい姿を視姦していただけるように、という、お姉さまからではなく、私自身からの内なる命令の声が聞こえていました。

 からだをまっすぐに直し、500円玉を手渡すためにお姉さまに顔を向けました。
 お姉さまは、少し唖然としたお顔をされていましたが、私が500円玉を握った右手をゆっくり差し出すと、唇の両端をキュッと上げて、すっごく妖艶な微笑を見せてくださいました。
 その笑顔で、私の恥辱は報われたような気持ちになりました。

 何度も同じことを書いてしまって申し訳ないのですが、私がこんなに大胆に自分の性癖嗜好を素直に曝け出せるのは、偏にお姉さまのおかげでした。
 お姉さまがご一緒してくださるからこそ、今までなら怖くて尻込みしてしまう大胆な行為が出来るのです。

 お姉さまは、大きなレジ袋を左手で持ち、空いている右手で私の右手を500円玉ごと握ると踵を返し、そのまま無言でスタスタとスーパーの出口のほうへ歩き始めました。
 右手を引っ張られる格好の私も、左手に大きなレジ袋を持って、よたよたと着いていきます。
 足を交互に動かすたびに裾が割れ、白い素肌がチラチラ覗きました。

 スーパーの自動ドアを抜け、灯りが届かない大きな木陰のところまで歩いて立ち止まりました。
 お外はすっかり夜。
 人影は、ビル周辺の明るいところにチラホラと見えるだけ。

「直子って、本当にからだが柔らかいのね」
 暗闇で見つめ合ったお姉さまからの第一声は、そんな拍子抜けするようなものでした。
「小銭を拾うとき、完璧な立位体前屈だったじゃない。膝をまったく曲げないで、手のひらを床にべったり着けて」
「そ、そうでしたか?」
 暗くて表情がよく見えないお姉さまに、そんな間の抜けたお返事しか出来ませんでした。

「さあ、あとは車に戻って、愛しの我が家へ一直線。だけどこの荷物、重いわね。ちょっと買いすぎちゃったかな」
 お姉さまが持っていたレジ袋を舗道に置きました。
 いったん右手を解いて500円玉をお姉さまがスーツのポケットに突っ込んでから、再びつなぎ直しました。

「そのワンピの裾、ボタン留め直さないでいわよね?駐車場まですぐだし」
「あ、えっと・・・」
「暗いし、人通りも無さそうだし、そのまま行きましょう」
「も、もしも私が、ボタンを留めさせてください、ってお願いしたら、お姉さまは許可してくださいますか?」
「うーん・・・許可しない」
 お姉さまのお声に、少し笑いが混ざっています。
「それでしたら、このままでいです・・・」

「あっ、直子、そうやってあたしに責任をなすりつけようとしているでしょう?何か起きたら、あたしの命令のせいだって」
 今度は、お姉さまのからかうようなイジワル声。
「いえ、そうではなくて、何て言えばいいか、私はお姉さまがお望みになること、悦ばれることを、したいだけなんです・・・」
 お答えしながら、なぜだか泣き出しちゃいそうな気持ちになっていました。

「ふーん。さっきのスーパーから直子、なんだか雰囲気が変わったわね。大胆になったというか、目覚めちゃったというか・・・」
 お姉さまのお言葉が少しのあいだ途切れ、私も無言でうつむいていました。
 つないだ手と手が、どちらのせいなのか、ジンワリと汗ばんでいました。

「おーけー。それじゃあこのまま行きましょう。そのお買物袋を左右にひとつづつ持ちなさい。ちょっと重いけれど、直子はあたしの使用人なのだから」
 私の手を離したお姉さまのお言葉に、冷たい響きが戻りました。

「わかっているとは思うけれど、両手に荷物を持ったら、ワンピの裾を押さえることは出来ないわよ?」
「はい。わかっています・・・」
「前から誰か来ても、隠すことは出来ないのよ?それでもいいのね?」
「・・・はい」
「つまり直子は、誰とすれ違うかわからない夜道を、剥き出しマゾマンコが覗いてしまう格好で歩きたいのね?」
「・・・はい」
「それは、私の命令だから?それとも直子がそうしたいから?」
「そ、それは、私がそうしたいから、です・・・」
 お答えしたとき、今日何度目かの快感電流がからだをつらぬきました。

 木陰を出て、暗い舗道を歩き始めました。
 両手に大きなレジ袋をぶら下げた私の左隣にお姉さま。
 先に立って私を隠してくださる気もないようです。
 
 うつむいた視線の先に、始終自分の下半身の白い肌がチラチラ見え隠れしています。
 こんなに無防備な、少し風でも吹いたらたちまち裸の下半身剥き出しになってしまうような服装で、夜の街を歩いている私。
 荷物の重さなんて感じる暇もありませんでした。

 歩き始めてすぐ、ビル側の明るい舗道を行くサラリーマン風の男性とすれ違いました。
 お姉さまを挟んで、その人との距離は2メートルくらい。
 私のワンピースのハタハタひるがえる裾を、明らかに凝視しながら近づいてきて、行き過ぎていきました。
 暗いせいなのか、今ひとつ、視られた、という実感が湧いてこなくて、一度振り向いたときに、その人も振り返っていてドッキーン!
 自分が今していることのヘンタイ性を思い知りました。
 
 ビルの敷地外にある歩道から聞こえてくるヒールの音や話し声。
 その向こうにある車道を行く車のヘッドライトが、私を横からぼんやり照らし出して走り去ります。
 そんな些細なことのひとつひとつに、背徳感を感じてしまいます。

 今度はOLさんらしき二人連れ。
 さっきの男性より近い距離ですれ違いました。
 暗い中でも、おふたりが私の下半身の異常に気がついているのがわかりました、
 私は一層身を縮こませながらも、必死に何でもない風を装います。
 私をチラチラ窺がいながら、ヒソヒソ耳打ちし合う、その内容が聞こえてくるようでした。
 お姉さまは私の横をゆっくり歩きながら、そんな私をじーっと視ていらっしゃいました。

 やっとたどりついた駐車場入口。
 しかしながら、駐車場内は夜になると、照明のせいで舗道よりもずいぶん明るく感じます。
 駐車場に向かう坂道に入ると弱い向かい風が吹いていました。

 「やんっ!」
 下り坂に一歩踏み出すと裾が風に煽られ、始終開きっ放しになってしまいました。
 お尻のほうへとマントのようにひるがえるワンピースの裾。
 全開剥き出し状態の私の下半身。
 お姉さまは振り向いたまま、私のそれをずっと視ながら下りていかれます。
 強烈な恥ずかしさに全身が包まれました。
 幸か不幸か、まわりに人影はまったくありませんでした。

 坂道を下りきると風は弱まり、裾が戻りました。
 静まり返った駐車場を進みます。
 さっきの坂道のあいだ数秒間の出来事に、胸のドキドキが収まりません。
 お姉さま以外に、その姿を視てくださる人がいなかったのを、残念と感じていました。

 お姉さまの車の助手席に乗り込んだとき、緊張が一気に解けました。
 からだ中が今更のようにカッカと火照り、心臓が早鐘のように脈打っています。
「あまり視てくれる人がいなくて、つまらなかったのじゃない?」
 ずっと無言だったお姉さまがポツンとおっしゃった一言で、私の欲望が爆ぜ迸りました。

 運転席のお姉さまに飛びついて、しがみつきました。
「私をめちゃくちゃにしてください、お姉さま!ぶって、虐めて、蔑んで、どうか無茶苦茶にしてください!」
「私、このままでは気がヘンになってしまいます!どうか、見捨てないでくださいっ」
 半泣き声で叫んで、やみくもにお姉さまの唇を求めました。

 お姉さまは、黙ってされるがままになっていました。
 唇を重ねても、お姉さまからの積極的な反応は無く、ただやんわりと私の背中に両腕を回してくれただけでした。
 それでも、お姉さまの体温を感じているうちに、私の激情がゆっくりと収まっていきました。
 しばらくそうして抱き合った後、どちらからともなく、ゆっくりとからだが離れました。

「もう少し辛抱していてね。あたしの部屋はもうすぐそこだから」
 お姉さまがシートベルトを締めながら、何も無かったようにそうおっしゃった後、不意に左手を伸ばし、私の股間にあてがいました。
「はぅっ!」
「グッショリ濡れているのにすっごく熱くなってる」
 私の耳奥に蕩けるようなため息を吹き込むお姉さま。
「安心なさい。今日の直子は、すごく可愛かったわ」
 私の股間で汚れた手のひらをペロッと舐めて、おもむろにエンジンをかけました。
 ブルンッ!
 同時に、性懲りも無く再び燃え上がる私のからだ。

 それからお姉さまのお家の玄関にたどり着くまでのことは、ほとんど憶えていません。
 どこをどう走り、どこで車を停め、お姉さまがお住まいのマンションがどんな形で、どういう風にお部屋までたどりついたのか。
 憶えているのは、そんなに時間がかからなかったことと、お姉さまがずっと無言だったことだけでした。

 気がついたら、お姉さまのお部屋の玄関口で、きつく抱き合っていました。
 お互いの唇を舌で貪り合い、右手を互いの股間に伸ばし合っていました。
 私はすでに全裸で、お姉さまはスーツのまま。
 お姉さまの股間は、パンストの上からでもわかるくらい濡れて、熱くなっていました。

「あうっ!お姉さまぁ、もっとぉ」
 お姉さまの右手が私のマゾマンコに深く侵入して、クチュクチュ音をたています。
 私も負けじとお姉さまのパンストを擦り上げます。
「あふうぅ」
 お姉さまの色っぽいお声。

 玄関ドア側に立っていたお姉さまにじりじりとにじり寄られ、しっかり抱き合ったままお相撲でもしているかのような形で、玄関ホールの廊下にあがりました。
 運転用のローファーを穿いたままのお姉さまも、土足であがってきました。

 そのまま抱き合った形でドアを開け、電気も点けず薄暗いリビングらしきお部屋まで入ってから、お姉さまが私に体重をかけてきて、私はそのフローリングの床へ仰向けに押し倒されました。
 私の腰の上に騎乗位の体勢になったお姉さまが、もどかしそうに着衣を脱いでいきます。
 上着を乱暴に脱ぎ捨て、ブラウスのボタンを手際良く外し、サファイア色のブラジャーも床に投げ捨てました。
 仰向けになっても私の両手はお姉さまを求め、腕を伸ばしてお姉さまの股間を擦りながら、もう片方の手でスカートのフックを外そうとしていました。

 お姉さまが上半身裸になると、片時もからだを離したくないふたりは、まずお姉さまの上半身が私に覆いかぶさってきてキスを再開。
 そのあいだに私がお姉さまの下半身を脱がせにかかります。
 両手でスカートを剥ぎ取り、つづいてパンストごとショーツをずり下ろしました。
 膝くらいまで脱げた後は、お姉さまが自らの手で足首まで一気に下ろし、靴もろとも脱ぎ捨てて全裸。
 すぐに両脚を絡ませ、きつくきつく抱き合いました。

 フローリングを上に下になって転げまわりながら、互いを精一杯悦ばせました。
 唇を貪り、乳房を揉みしだき、乳首を噛み、指を潜り込ませ、肉芽を擦り、全身を舐めまわして、指を絡ませて・・・

「あぁ、もっと、もっとぉ」
「ううっ、いいわっ、そこ、そこぉぉ」
「つよく、もっとつよくぅぅ」
「あ、イっちゃう、イっちゃいますぅぅぅぅ」
「イきそう、イキそう、そこ、そこよ、もっと、もっとぉ、イクぅぅぅぅ」

 お姉さまと私の、汗とよだれといろんな体液がひとつに混じり合い、甘酸っぱい官能的な匂いに包まれます。
 肌が密着しているだけで感じる至福感。
 お姉さまがエロっぽく喘いでくださるたびに感じる満足感。
 何度イってもイキ足りないくらいの渇望感。
 お姉さまのお部屋に入って、しばらくのあいだ、ふたりはまさしくケダモノでした。

「はあ、はあ、はあ・・・」
 フローリングにぐったり横たわっていたら、不意にパッと電気が点きました。
 思った以上に広々とした空間が目の前に広がりました。

「はあ、はあ、こんなはずじゃなかったんだけどなあ・・・」
 お声のしたほうを向くと、お姉さまが汗まみれの全裸仁王立ちで、明るい光に照らされていました。
「直子をこの部屋に迎え入れるときは、もっとこう、いろいろ恥ずかしいことをさせて、なんて計画していたのだけれど、全部パーになっちゃった」
 冷たいお水の入ったグラスを差し出してくださるお姉さま。
 そのとき飲んだお水の美味しさは、忘れることが出来ません。

「まあ、仕方ないわね。あたしもどうにも我慢出来なくなっちゃったのだから」
 お姉さまが、まだ寝そべったままの私の傍らにしゃがみ込まれました。
 目の前に濡れそぼったお姉さまのかっこいい逆三角形ヘア。
 うっとり見惚れてしまう私。

「スッキリしたからよしとしましょう。それでここから、直子の全裸家政婦の本番開始ね。家事手伝い、がんばってよ?」
 お尻を軽くパチンと叩かれました。
「あ、はい!」
 あわてて起き上がり、床に正座の形になりました。

「とりあえずあたしは、ゆっくりシャワーを浴びてくるから、そのあいだに今の後始末と、軽く何か食べるものを用意しておいて。さっき買った冷凍のピザでいいわ」
「はい」
「シャワー浴びて一息ついたら、すぐに寝るつもりだから、直子は悪いけれどその後にシャワーしてくれる?」
「はい。もちろん大丈夫です」
「ここでもダイニングでも、戸棚や物入れは勝手に自由に開けて、中のものを自由に使っていいからね。見られて困るようなものは入っていないから」
「わかりました」
「エアコンも好きに調節して。風邪引かないようにね。それじゃあ頼んだわよ」

 立ち上がったお姉さまが、リビングの端にある扉のほうへと全裸のまま歩いて行かれました。


オートクチュールのはずなのに 10

2015年6月21日

オートクチュールのはずなのに 08

 ハム売り場でも私は当てることが出来ず、下から2番目のボタンを外すことを命ぜられました。
 その後もいろいろお買物中、たまに私に選ばせることで、ゲームはつづきました。
 ヨーグルト選びもドレッシング選びもパスタソース選びでも、悉くハズレでした。

 前開きワンピースには、全部で10個のボタンが付いていました。
 一番上とその次は、すでに駐車場で外していたので、残り8個。
 それらのボタンたちが、パスタ売り場にたどり着いた頃には、ほとんど外されていました。
 今現在留まっているのは、胸元の上から4番目と、裾の一番下、それにおへその上辺りのひとつ、合計たったの3箇所というキワドイ状態。

 まっすぐ立っている分には、胸元が広めに開いている以外は普通のワンピース姿ぽく保たれていますが、からだを少し動かすと軽い生地がフワリと揺れ、今にも前立てが割れて隙間から肌が覗いてしまいそうな頼りなさ。
 背筋をまっすぐ伸ばし、なるべくからだが揺れないようにしずしずとカートを押して、お姉さまの後ろを着いていきました。

 胸を張るように背筋を伸ばしていると、その部分を覆う薄い生地の曲線頂点に、ふたつの大げさな突起がクッキリ浮き上がりっ放し。
 他のお客様とすれ違うたびに、気づかれませんように、と、ビクビク祈る気持ちでしたが、気持ちとは裏腹に、下半身全体がムズムズ疼き、発熱量が増しているのもわかりました。

「さあ、あとはパスタを選べばショッピング終了かな。もう留まっているボタンも残り少ないみたいだから、がんばりなさいよ」
 お姉さまが振り向いて、からかうみたいにおっしゃいました。
「今回は特別にヒントをあげる。あたしはね、太めの麺のほうが好きなの。長さはロング。あとはさっき選んだソースとの相性とで考えてみれば、たぶん外さないはずよ」

 カートから離れ、陳列棚と向き合いました。。
 六段に分けられた陳列棚の上から下までぎっしりと、さまざまなメーカーの袋入り乾燥パスタが並べられています。
 上のほうが細くて、下のほうが太いみたい。
 そして、お姉さまがお好きなのは太め。
 
 そこまで考えて、小さくキュンと感じてしまう私。
 私が当てようが当てまいが、お姉さまは最後に絶対、私にパスタを取るようにご命令されるはずです。
 そして今度は、さっき耳打ちされたように、膝を曲げない前屈姿勢を守らなければならないのです。

 パスタの太さは0.9ミリから2.2ミリまで。
 お姉さまが選ばれたのは、カルボナーラソースでした。
 カルボナーラなら確かに少し太めのほうが美味しそう。
 以前、好奇心から2.2ミリのパスタを買ったことがあって、すごく太いのにびっくりしたことがありました。
 お姉さまも、これは選ばないだろうな・・・

 陳列棚の左のほうでは、若奥様風の女性がパスタソースを熱心に選んでいます。
 私はなるべく直立不動のまま、目線だけ動かして棚のパスタたちを吟味しました。
 若奥様風女性が棚を離れて去っていくのを確認してから、一種類のパスタを指さしました。
「これ、ですか?」
 陳列棚の下から二段目に並べられた、青色の袋に包まれた1.9ミリのロングパスタ。
 指さしたままお姉さまを、すがるように見つめました。

「惜しいなあ。太さは合っているけれど、あたしが好きなのは、こっちのブランドなの」
 私が指さしたパスタのすぐ右隣を指さすお姉さま。
 緑色の袋に入った、イタリアからの輸入物でした。

「せっかくヒントあげたのに、また外しちゃったのね。直子、ひょっとしてわざと間違えて、ボタン外すの愉しんでいるのじゃなくて?」
「そ、そんなことありません・・・」
 ちっちゃな声で抗議します。
「ふーん。あと三箇所でしょ?直子の好きなところを外していいわよ」
 お姉さまが冷たく微笑みました。

 好きなところ、って言われても・・・
 胸元を外したら、おへそのところまでVゾーンがはだけてしまうし、一番下を外したら、歩くたびに裾が大きく割れてしまうはず。
 素早く周りを見渡した後、素早く真ん中のボタンを外しました。
 
 その結果、今現在ワンピースが開いてしまうのを阻止しているボタンは、もしもブラジャーを着けていたらセンターモチーフが来るであろうところくらいに位置するボタンひとつと、裾の一番下のひとつ、合計たったのふたつに成り果てていました。
「やっぱりそこよね。ま、いいか。そのパスタをふたつ取ってカートに入れてくれる?」
 お姉さまが、当然のようにおっしゃいました。

 お目当てのパスタは、私の脛くらいの位置。
 そのパスタを、膝を曲げない前屈姿勢で取らなくてはなりません。
 そんな格好になれば、現在辛うじてお尻全体を隠している背中側の裾が大きくせり上がり、営業中のスーパーマーケットの明るい蛍光灯が、私の剥き出しとなったお尻を煌々と照らし出すことになるでしょう。

「ほら、早く」
「ほ、はい・・・」

 陳列棚のそばに一歩踏み出しました。
 念のため一度通路側を振り返ると、私の背後には薄い笑みを浮かべたお姉さまだけ。
 この通路全体に他のお客様はひとりもいません。
 今がチャンスと棚に向き直り、素早く右手を伸ばして前屈みになりました。

 裸のお尻全体が外気にさらされるのが、はっきりわかりました。
 その上、上半身を折り曲げたせいで、たわんだワンピースの襟ぐりの空間が視界に飛び込んできて、その中の自分の乳房の尖った乳首まで全部見てしまいました。
 真ん中のボタンも外したので、胸元から太腿のあいだの生地も楕円に開き、その隙間から、おへそ、下腹部、土手までもが覗いていました。
 自分が今、いかに危うい服装で人前に出ているのか、ということを、一瞬のうちに目の前に突きつけられた気がしました。
 パスタを2束握って上体を起こしたとき私の顔は、火傷しそうなくらいに火照っていたはずです。

 お姉さまのほうに向き直り、カートにパスタをそっと置きました。
 お姉さまの満足そうなニヤニヤ笑い。
 その笑顔から視線を外したとき、更なる事実が待ち受けていました。

 私の視界の右端に、まったりとカートを押していく、いかにも休日の旦那様風な若い男性の姿がありました。
 そして、その男性と手をつないだ小学校低学年くらいの女の子。
 男性は私たちから5メートルくらい離れた対面側の棚で立ち止まり、何かを選び始めました。
 
 その傍らで女の子が、手をつながれたままこちらを振り向き、私のことをじーっと見ていました。
 何か不思議なものでも目撃したような、ぽかんとした表情でした。

「直子が前屈みになったとき、ちょうどあの人たちが後ろを通過して行ったのよ」
 お姉さまが再び、私にヒソヒソ耳打ちしてきます。
「残念ながらパパは気づかなかったみたいだけれど、あの子には見られちゃったみたいね」
「お尻丸出しだったもの。私の位置からだと、スジが濡れているのも、肛門のシワまでハッキリ見えていたのよ、こんな営業中のスーパー店内で」
 私をいたぶるのが愉しくて仕方ないご様子な、お姉さまのイジワル声。

「あの子、びっくりしたでしょうね。なんであのお姉さん、お尻見せているのだろう?パンツ穿いていないのだろう?って」
「きっと今、迷っているはずよ。パパに今見たことを教えたほうがいいのかな、って」

 そんなやり取りをしているあいだにも、陳列棚の陰から学生さん風の男性が現われ、私たちをチラチラ見ながら通路を通り過ぎていきました。
 その男性の粘り気ある視線が束の間、私の首の赤い首輪に絡みついたことを、私は全身で感じていました。

 首輪を見て、あの人はどう思ったろう?
 首輪はマゾ女の象徴だと、理解してくれたかな・・・
 そう考えた瞬間、からだ中が官能的な陶酔感に包まれました。

 私はこの場の、晒し者なんだ。
 こんな目立つ首輪を嵌めて、素肌に羽織った前開きワンピースのボタンのほとんどを外したままうろうろしているヘンタイ女なのだから、注目されるのはあたりまえ。
 そしてこれは、私自身が望んだこと。
 全身を駆け巡る激しい羞恥と同じくらい、いえ、それを凌駕するほどの性的興奮を感じていました。

 もっと興奮したい、もっと視てもらいたい。
 どうせならボタンを全部外すまで、お姉さまがご命令してくださればいいのに。
 そんな自虐的な願望すら、躊躇無く湧き出てきました。
 自分をもっと辱めたくて、仕方なくなっていました。
 あれほど恐れていた男性からの視線さえ、まったく恐怖に感じていませんでした。
 それはつまり、お姉さまが一緒にいてくださるがゆえの安心感がもたらした、今まで抑え込んできた欲求の発露だったのだと思います。

「完全なドマゾ顔になっているわよ、直子。トロンとしちゃって。やっぱり視られて嬉しいのね?」
「はい・・・」
「あら、ずいぶんと素直になったのね。でも残念。ショッピングはもうおしまいよ。お会計しましょう」
 先に立ってスタスタと歩き出すお姉さま。
 ふらふらと後を追う私。

 レジカウンターへ向かう道すがら少し遠回りして、先ほどの女の子連れパパさんと、もう一度すれ違うようにしてくださったのは、お姉さまの計らいだったのかもしれません。
 女の子は私の姿をみつけると、みつけてからすれ違うまで、可愛らしいお顔を180度動かして、再びじーっと見つめてきました。
 私はドキドキしつつも、曖昧な笑みを唇に浮かべ、ゆっくりすれ違いました。
 女の子の視線が、今度は首輪に釘付けなことに、背徳感を感じてしまいます。

 レジカウンターには先客がふたり。
 ひとりは、さっきの学生さん風男性でした。
 みっつあるレジのうち、一番奥にある右端だけ空いていました。
 そちらに向かっていたお姉さまが不意に立ち止まり、少しわざとらしく大きめな声をあげました。

「あっ!ホットケーキミックス!忘れてた。あたしこれ、大好きなの!」
 レジ前の棚に方向転換。
 お姉さまのそのお声に、レジ係の店員さんとお客様、全員が私たちのほうを向きました。
 注目されている・・・
 それだけでキュンとしてしまう私。
 学生さん風の男性を含め、すべての視線が私の首輪に注がれている気がしました。

「直子んちに行ったときも作ってくれたっけね。あれ、美味しかった。うちでも作ってよ。このブランドのが一番好きなの」
「あ、はい・・・」
 お姉さまが棚に手を伸ばそうとして、なぜだかすぐひっこめました。
「直子が取って」
「あの、えっと・・・」
 お姉さまを見ると、無言のイタズラっぽい笑顔。

 ホットケーキミックスは、幸いなことに私の胸くらいの高さの棚に並んでいたので、前屈姿勢にはならずにすみます。
 お姉さまが伸ばしかけた腕の角度から推理して、恐る恐るひとつの箱を手にしました。
 ここのスーパーのオリジナルブランド製品のようでした。

「ううん。それも美味しいのだけれど、あたしの一推しは、そっちの青い箱。シロップが絶妙なの」
「以前はレモンタイプっていうのもあったのだけれど、いつの間にか見なくなっちゃったのよね。人気無かったのかな、あれも美味しかったのに」
 お姉さまの腕が横から伸びてきて、青い箱を掴み、カートに入れました。
「そうなると、ミルクも必要ね。あたし取って来る」
 普通のお声でそうおっしゃった後、嬉しそうに私の耳に唇を近づけてきました。

「また間違えた。あたしが戻ってくるまでに一番下のボタンを外しておきなさい」
 絶望的なヒシヒソ声が、私の耳奥に吹き込まれました。
 腿の付け根から脳天へと、眩暈にも似た痺れるような快感がつらぬきました。
「ぁぅぅ・・・はぃ」
 小さくうなずいた私は、小さくイってしまいました。

 お姉さまがその場を離れ、私は右手を裾に伸ばします。
 このボタンを外したら、その後は一歩、歩を進めるたびに、股間を覆う布が割れてしまうことでしょう。
 お姉さまから命名された剥き出しマゾマンコを、文字通り剥き出しにしながら、少なくともここからお姉さまの車までは、歩いていかなければなりません。
 望んだ恥辱が現実となるのです。
 そう、これは私が望んだことなのだから。
 覚悟を決めてボタンを外し終えたとき、お姉さまが戻っていらっしゃいました。

「おっけー。これでバッチリね。お会計しちゃいましょう」
 持ってきた牛乳パックをカートに入れて屈託ない笑顔のお姉さま。
「はい、これ」
 ご自分のバッグからお財布を取り出し、何枚かのお札を剥き出しで握らされました。
「これだけあれば足りるでしょう。あ、変な気は遣わないでね、これはあたしの買い物だから、直子は一銭も出さなくていいの」
「あたしはレジ出たところで待っているから、よろしくね」
 スタスタと私の傍から遠ざかるお姉さま。
 急に心細くなる私。

 私たちがホットケーキミックスでごたごたしているうちに、レジに並ぶお客様はいない状態に戻っていました。
 ということは、しばらくのあいだレジ係の女性店員さんたちは、私たちの挙動に注目していたかもしれません。
 私は始終レジには背を向けていたから、自らワンピースの一番下のボタンを外したことには気づかれていないはず、と自分に言い聞かせ、しずしずとカートを押してレジカウンターに向かいました。

 思った通り、一歩足を踏み出すたびに腿がワンピースの裾を蹴り、フワリハラリと生地が左右に割れてしまいます。
 カートに下半身を押し付けるみたいにして隠しながら、3名いるレジ係さんのうち、一番お優しそうなお顔をされた左端の女性店員さんを選んで、カートを進めました。

「いらっしゃいませー。ありがとうございます」
 カウンターに入ると、カートをからだから引き剥がされ、無防備になりました。
 レジ係さんは、なんだか困ったような笑顔を浮かべながら、商品を丁寧にスキャンしてはレジ袋にてきぱき詰めていきます。
 そのプロフェッショナルなお仕事ぶりの合間にときどきチラチラ、ボーっと突っ立っている私へと視線を走らせてくることに気づきました。

 首輪をチラッ、開きすぎた胸元をチラッ、生地を浮かせているふたつの突起をチラッ、外れているボタンをチラッ、そして顔をチラッ。
 湧き上がる好奇心を隠し切れないご様子。

 それはそうでしょう。
 赤い首輪を嵌めて胸元を大きく開いたノーブラ丸分かり女が、前開きワンピースのボタンをほとんど外して顔を赤らめているのですから。
 私とあまり変わらないお年頃っぽいレジ係さんでしたから、何かしら不純なえっちぽい雰囲気を感じ取っていたとしても、何の不思議もありません。
 ああん、恥ずかし過ぎる・・・早くこの場から立ち去りたい・・・
 レジを出てすぐの左斜めでは、お姉さまが壁にもたれて、そんな私を愉しそうにじっと見つめていました。

「ありがとうございます。合計で・・・円になります」
 突然の元気良いお声に、遠くのお姉さまと見つめ合っていた私は大げさにビクン。
 レジ係さんが相変わらず困ったような笑顔で、私をまっすぐ見つめていました。
 私たちが選んで買った荷物は、大きなレジ袋ふたつ分になっていました。
「あ、はいっ」
 お金払わなくちゃ、と動揺した私は、あわてて一歩踏み出しました。
 ワンピースの裾が一瞬大きく割れて、私の目にもハッキリ、無毛の土手が丸見えになりました。

 ハッとして思わずレジ係さんに視線を移すと、レジ係さんの目線はまさしく私の股間の位置。
 その可愛らしいお口をポカンと開けて、唖然とした表情になっていました。
 すぐに見つめている私に気づいたようで、こちらに向き直り、取り繕うような笑顔を無理矢理みたく引っ張り出した後、さっきよりも一層困ったような笑顔に落ち着きました。
 
 その一連の表情の変化を見ていた私のほうも大パニック。
 視られちゃった、視られちゃった、視られちゃった、視られちゃった・・・
 その言葉だけが頭中に渦巻いていました。
 それでもなんとか、お姉さまから預かったお札をトレイに置くことは出来たようでした。

「・・・円お預かりしまーす。・・・円のお返しでーす」
 レジ係さんのお言葉に反応したのはお姉さまでした。
 ツカツカと近寄ってきて、レジ袋をひとつ持ちました。
「ありがとう。お釣りとレシートはあたしにちょうだい」
 
 突然のお姉さまの登場に、レジ係さんは一瞬驚かれたご様子でしたが、店内で私がずっとお姉さまと一緒だったのをご存知だったのでしょう、すぐになんだかホッとされたようなお顔になって、お釣りをお姉さまに渡しました。
「ありがとうございましたー。またのご利用をお待ちしていまーす」
 お姉さまに向けてにこやかに微笑んだ後、私を一瞥して、憐れむような表情を見せてくださいました。

 この人、私がマゾ女だって理解してくれた。
 そのとき私は、直感的にそう思いました。
 お姉さまと私の関係性もわかっている。
 そして、私は蔑まれ、しょうがないヘンタイ女だと思われた、と。

 一番下のボタンを外しておきなさい、とご命令されたときに勝るとも劣らない快感が、再び私の下半身を震わせました。
 このレジ係さんにもっと私を視て欲しい。
 私がどんな女なのか、もっと深くわかって欲しい。
 そして心の底から蔑んで欲しい。

「ほら直子、もうひとつのほう持って。行くわよ」
「あ、はい」
 お姉さまに促され、大きなレジ袋を左手に持って、片足を一歩踏み出しました。
 もはや裾が割れるのも気にしていません。
 二歩、三歩。
 立ち止まって待っていてくださったお姉さまに追いつきました。

 チャリーン!
 私を待つあいだ、お財布にお釣りを戻していたお姉さまが、誤って小銭を落としてしまわれたようでした。
 いいえ、たぶんわざとでしょう。
 レジカウンターからはまだ3メートルも離れていない距離でした。
「あ、500円玉一個落ちちゃった。悪い、直子、拾って」

 500円玉は、レジカウンターに背を向けている私の足元50センチくらい先に転がっていました。
 さっきのチャリーンという音で、レジカウンター周辺の人たちの注目も集まっていることでしょう。
 私はレジ袋を床に置き、そのまま躊躇せずに上半身を前に傾け始めます。
 両膝は折らず、お尻をレジカウンターに突き出すように。
 心の中で、視て、視て、よく視ていて、ってレジ係さんに訴えながら。


オートクチュールのはずなのに 09