2011年11月20日

ピアノにまつわるエトセトラ 15

 印象的なテーマにつづいて、ゆうこ先生のしなやかな指が鍵盤の上を軽やかに踊っています。
 右へ左へと縦横無尽。
 その見事な演奏は、SMアソビも忘れて聞き惚れてしまうほど。

 と、3度目のテーマのとき、曲をうろ覚えの私でもすぐにわかる、明らかなミストーンが聞こえました。
 ゆうこ先生の演奏もピタッと止まってしまいます。
 私は、ここだ!と思い、全身がカーッと急激に火照りました。

 七分袖から覗いているゆうこ先生の手首の甲のあたりの肌を狙って、持っていた定規を軽く振り下ろしました。
 ピシッ!

「あぁんっ!」
 
 シッペをしたときみたいな音につづいて、ゆうこ先生の色っぽいためいき。

「先生、今ミスしましたね?先生なのにミスしたら駄目じゃないですか?」

「はい。ごめんなさい」
 
 素直に謝ってくるゆうこ先生。

「先生と私のお約束では、先生は間違えたら一枚づつ、お洋服を脱がなきゃいけないっていうルールでしたよね?」

「は、はい…」
 
 私のほうに振り向いて、私を上目遣いでジーッと見つめてくるゆうこ先生の表情のえっちなことと言ったら…

「でも今回は初回ですから、そのチュニックのボタンをはずすことで許してあげます」
 
 襟元から両方のおっぱいの間くらいまで、ピッチリ留めてあるチュニックのボタン。
 私はとりあえず、ゆうこ先生のチュニックの下がどんな状態なのか、知りたくてたまりませんでした。
 ノーブラなのか、あの水着のブラを着けているのか、はたまた普通のブラジャーとかキャミソールなのか。

「は、はい。お心遣い、ありがとうございます」
 
 ゆうこ先生は、ピアノのほうを向いたままうつむいて、チマチマとボタンをはずし始めました。
 胸元まで全部。

「はずし終わったら、また最初っから弾いてください。今度は間違えないように」
 
 ゆうこ先生の胸元を覗きたい…
 はやる気持ちを抑えながら、私は極力冷たい声で、ゆうこ先生に告げました。

 ゆうこ先生が両手を鍵盤の上に置いて、再び弾き始めました。
 腕が激しく動くにつれてゆうこ先生のからだとチュニックの布の間に隙間が出来て、背後に立つ私から、ゆうこ先生のむっちりとしたバストの谷間が覗けるようになりました。
 
 ドキンッ!
やっぱりゆうこ先生は、紐状水着ブラを着けていました。
 ブラジャーとしてほとんど意味を成していない、ただ乳首だけを覆う小さな涙型の布。
 ゆうこ先生の形の良いおっぱいが、襟ぐりの中にほとんど見えていました。
 でも…

 そのときまた、ミストーンが聞こえました。
 さっきの場所より少し早い小節です。
 私はすかさず、今度はゆうこ先生の左腕を定規で打ちすえました。

「あんっ!ごめんなさいぃ」
 
 うつむいたままのゆうこ先生の両肩が細かくプルプル震えています。

「2度目ですよね?今度は容赦はしませんから。お洋服を何か一枚、脱いでもらいます」
 
 背中をゾクゾクさせながら、お芝居っぽい冷たい口調で言い放ちました。

 ゆうこ先生が今、身に着けているのは、上半身には膝上丈のチュニックと紐水着、下半身にはスリムジーンズとおそらくストッキングとあと何か。
 靴はピアノのペダル操作がしやすいように白いフラットシューズに履き替えていました。
 何か一枚と言ったら、必然的にチュニックかジーンズになるでしょう。

「そのお靴は、ピアノ演奏に必要でしょうから、お洋服にカウントしません。履いたままでいてください」
 
 私は念のため、そう釘を刺しました。

 ゆうこ先生は、どちらを先に脱ぐでしょうか?
 以前のお話から考えると、下半身、つまりジーンズになりそう。
 でも、おそらくその下は、アソコのワレメ周辺だけが隠れる程度の小さな布片ビキニのはずです。
 
 難しい曲のピアノ演奏では、足元のペダルの操作もけっこう忙しくて、大きくではないにせよ足を頻繁に動かすことになります。
 両脚が開いたり閉じたりすれば、股間の紐状の布はどんどん中央の溝に食い込んじゃうはず。
 加えてゆうこ先生、もう股間はビチャビチャのはず。
 濡れた布地は、乾いているときより、より細い紐状になりやすいことは、私も経験上知っていました。
 
 うわー、それはかなり恥ずかしそう…スジにどんどん食い込んじゃう…
 あ、でも、チュニックの裾でかろうじて隠せちゃうかも?
 それともパンストを上に穿いているのかな?
 ドキドキしながらも瞬時にいろいろいやらしいことを考えて、自分で盛大に恥ずかしがっていました。

 エスの人がこんなことではいけません。
 気を取り直して、つい同調しがちなエムの気持ちを抑えこみ、エスの気持ちを思い出します。

「座ったままでは先生も脱ぎにくいでしょう?こちらに出てきて、ここに立って、脱いでください」
 
 ピアノから一歩退いて、ゆうこ先生の肩を定規でポンと軽く叩き、振り向いたゆうこ先生の目線を、定規の動きで私の正面の位置に誘導しました。

 おずおずと私の前に立ったゆうこ先生は、上気したお顔で私を5秒くらい見つめてから、ふっと目を伏せて、おもむろにチュニックの襟元に手をかけました。
 
 えっ?
 それを脱いだらゆうこ先生は、乳首だけかろうじて隠れたあの紐水着姿で、豊満なロケットおっぱいをプルプル揺らしながらピアノを弾きつづけなければなりません。
 その場面を想像して、自分がするわけでもないのに、またまた恥ずかしさに身悶えしてしまう私。
 
 さすがにご自分で、わたしは直子ちゃん以上のヘンタイさんだから、って豪語するだけあって、視てもらいたくって仕方ないんだなー、ゆうこ先生ったら…
 少し呆然としてから、私の心の中に、ますますゆうこ先生をめちゃくちゃに虐めてみたい、という衝動がフツフツと湧き起こってきました。

 ゆうこ先生は、両腕をモソモソさせてチュニックの両袖から腕を抜こうとしています。
 裾をまくって頭からチュニックを脱ぐのではなく、両腕を抜いて肩先から下へ落とす脱ぎ方をしたいようです。
 
 そうですよね。
 その脱ぎ方なら、束の間でも両腕で胸をかばって隠すことが出来ますから。
 そう考えているうちに、ゆうこ先生の足元に淡いブルーの布がひとかたまり、パサッと落ちました。

「ぅわっ?!」
 
 私のほうがそう一声大きな声をあげた後、文字通り絶句してしまいました。

 私の一メートルくらいの目の前に立っているゆうこ先生。
 からだを前屈みにちぢこませて、両手を胸の前で交差させて、紐ビキニからはみ出ているおっぱいを恥ずかしそうに必死に隠しています。
 
 視線は上目遣いで、私を見ているような見ていないような…
 プラスティック定規でゆうこ先生の腕を叩いて、

「どうして隠すのですか?えっちなからだを見てもらいたいから、そんな水着を着ているのですよね?ほら、早く腕をどけてください!」
 
 なんてお約束の科白を言うのさえ忘れて、私の視線は、ゆうこ先生の下半身に釘付けでした。

「そんなジーパン、どこで売っているのですか?」
 
 私は、ゆうこ先生の内股気味にくの字に交差した両脚の、付け根付近をまじまじと見つめながら、好奇心剥き出しの声を投げかけていました。

「ネットショップでみつけて、少し遠かったけれど、わざわざお店まで買いに行きました…」
 
 ゆうこ先生のか細いお声。

 ゆうこ先生が穿いていたジーンズは、ローライズにもほどがある、って言いたくなるほどのローライズな、見るからに悩ましいジーンズでした。
 股上なんてほんの5センチくらい。
 
 腰骨から両腿の付け根へと集まる左右の腿のVラインがくっきり見えていて、おへその下の下腹部からいわゆる土手がぷっくりして性器の始まるすぐ手前あたりまで、の素肌が丸々露出していました。
 
 そしてまた、ゆうこ先生のお腹から下が綺麗で、なおかついやらしいんです。
 画用紙みたいに真っ白でまっすぐで、土手のあたりだけ艶かしくぷっくりしていて。

「先生、ちょっと後ろを向いてみてください」
 
 前屈みのまま、お尻をこちらに突き出すように後ろ向きになったゆうこ先生。
 思った通り、お尻の割れ始めからくっきり3センチくらい、お尻のスジも丸見えでした。
 これでもししゃがんだら、お尻の穴までお外に出ちゃうんじゃ…
 ピッチリしたジーンズなので、柔らかいお尻のお肉や太股の皮膚がジーンズ地に締め付けられてたゆたゆとふくらみながらはみ出ていて、すっごくいやらしい。

「先生…ずっとこんなの穿いていたんですね…」
 
 再び正面を向いたゆうこ先生に近づいて中腰になって、遠慮無くゆうこ先生の下半身に顔を寄せました。
 ノーパンで穿いているのか、それともあの水着も着けているのか?
 パンストは穿いていないことだけは、明らかになりました。
 
 あの水着を着ているなら、もともと本当にスジの部分にあてがう位の布の分量しかないので、こんなローライズな股上でも水着は隠れてしまうでしょう。
 どちらにしろ、いずれはわかることなので、ここでは質問しないことにしました。

 それよりも、もっと気になることがありました。
 ぷっくりとふくらんでいる、いわゆる土手の部分がジーンズの布地からほとんど覗いていて、そこにはまったく毛がありません。
 剃ったような痕も、新しく生えてきそうな気配も、まったく無いのです。

「先生は、ここのヘア、処理しているのですか?それとも…」
 
 ゆうこ先生の下半身の目前に子供のようにしゃがみ込んで、その部分をじっと見つめてあげながら、イジワルっぽく投げかけました。

「わたし、ずいぶん前にソコ、永久脱毛しちゃったのです…マゾですから…」
 
 頭の上から、ゆうこ先生の恥じらいに満ちたか細いお声が降ってきました。

「知り合いのエステの先生に相談して…整形外科の女性の先生、紹介していただいて…」
「マゾには、毛なんか必要ないですから…そのほうが、よーく見てもらえますから…」
「レーザーで、すごく痛くて、すごく恥ずかしかった…です…」
 
 今にも泣き出しそうに、羞恥に染まって掠れたささやきの告白を聞きながら、私は気がつきました。
 ジーンズの太股の付け根付近の狭い布地が湿って、左右内腿のかなりの範囲にわたってシミのように色が濃くなっていることを。

 私の頭はクラクラしていました。
 もう、コーフンしすぎて、今すぐにもゆうこ先生を丸裸にして、私も裸になって、思う存分抱き合いたい、弄り合いたい、って思いました。

 でも、それじゃだめなんです。
 まだふたりのレッスンは始まったばかり。
 もっともっとゆうこ先生を虐めれば、もっともっと私も気持ち良くなれるはずなんです。


ピアノにまつわるエトセトラ 16

2011年11月19日

ピアノにまつわるエトセトラ 14

 歩きながら考えていたのは、ゆうこ先生は今日ご自宅で、どんな格好をしてお出迎えしてくれるのかな?ということでした。
 
 前回のゆうこ先生のお家でのレッスンの帰り際、私はゆうこ先生に、あの水着を着てレッスンしてください、ってお願いしていました。
 いいえ、あのときにもう二人のSMのプレイが始まっていたとしたら、命令、と言ってもいいかもしれません。

 私が中学2年生の夏休み。
 我が家でのガーデンパーティでゆうこ先生が身に着けていたベージュのビキニ水着。
 
 上下ともほとんど細い紐状で、必要最低限の箇所だけ、かろうじて隠せるくらいの過激過ぎる水着。
 いっそのこと脱いで裸になっちゃったほうがいやらしさが減るだろう、って思うほど恥ずかしすぎるえっちで露出狂な水着。

 あれを着て玄関先で迎えられたら、私は思わず抱きついて、ゆうこ先生を押し倒してしまうかもしれません。
 だけど、確かゆうこ先生は、プレイはいつものレッスンが終わってから、ともおっしゃっていました。
 
 ということは、まずは普通にレッスンをして、それから着替えてくれるのかな?
 普通のお洋服の下にあらかじめ着ておいてストリップしてくれる、っていうのも考えられるかな…

 そんな勝手な妄想をしつつ、両足は着実にゆうこ先生のマンションに近づいていました。
 ゆうこ先生が教えてくれた目印になる建物が的確だったので、けっこう複雑な順路なのですがまったく迷わずにマンションの入り口までたどり着けました。

 キンコーン。
 エントランスでゆうこ先生をお呼びしてロックを解除してもらい、エレベーターで7階まで上がります。
 
 エレベーターホールから向かって左側のドアの前に立ちました。
 高鳴る胸の鼓動を、深呼吸を一回して落ち着かせてから、ドアチャイムを押しました。
 ピンポーンッ。

 ゆっくりと開いてくる外開きのドアの向こうに現われたゆうこ先生は、きわめて普通の格好をしていました。
 膝上10センチくらいの柔らかそうな生地でゆったりとしたシルエットの、淡いブルーの七分袖チュニック。
 
 ボトムは、たぶんこの間と同じ、ウォッシュアウトのスリムジーンズ。
 スリッパと裾の間からは黒のストッキングが覗いていました。

 私は、ですよねー、って感じで少し落胆しつつも、ゆうこ先生のニコニコ微笑んでいる綺麗なお顔を見て気を取り直し、今日これから、いったいどんなことになるのか、抑えようもない期待が新たにどんどん膨らんできて、ゆうこ先生につられるように自然と満面の笑顔になっていました。

 お部屋の中は、心地良い温度に暖まっていて、私はコートとブレザーも脱ぎ、制服の赤いリボン付き長袖ブラウスと膝丈スカート、白のハイソックスという姿になりました。
 レッスン前のお茶とケーキで雑談のときは、二人ともわざとらしいくらいに普通のお話をして、えっちな話題にはいっさい触れないようにしていました。
 まるでそこに暗黙の了解でもあるように。

 今日のゆうこ先生は、髪の毛をアップにしてサイドで束ねて、その端正なお顔立ちがなおさら際立ち、すっごく綺麗な上に、いつもよりいっそう若々しくも見えました。
 私とゆうこ先生は、20センチの距離を保って隣り合って座り、私は、沈黙を怖がっているみたいにいつもよりよく動くゆうこ先生の唇を中心に、その美しいお顔にずっと見蕩れていました。

 いつもより短かめで切り上げたお茶会の後、お隣のお部屋に移ってピアノレッスンが始まりました。
 このお部屋は土足仕様なので、私は茶色いローファーを、ゆうこ先生は黒くてヒールの低いパンプスを履いています。
 こちらのお部屋も準備良く、すでに適温に暖められていて、これなら裸になっても寒くありません。

「今日のレッスンはちょっと、番外編ね。直子ちゃんにコード弾きのこと、教えてあげる」
 
 ゆうこ先生がご自分で作られたらしい何枚かのプリントを私に手渡してくれて、ご説明が始まりました。

「クラシックピアノだけを習っている人は、意外と教えてもらえないのよね、コードの概念」

「楽譜に書かれた音符と記号通りに間違えずに弾くのはもちろん大切なことだけれど、各メロディに呼応する和音を知って、それを応用して自分っぽくアレンジ出来ることを知ると、ピアノを弾くのがますます楽しくなるわよ」
「もちろん、クラシック曲の演奏ではそんなことは、ご法度だけどね。でも、ポップスやロック、ジャズの世界ではこっちが主流。コードに慣れておくと、バンドとかでいろいろ楽しく遊べるわよ」
 
 ご説明されながら、ゆうこ先生が私の背後から両手を伸ばし、私の背中にご自分の胸を押し付ける体勢で、手ほどきが始まりました。

 長調と短調の三和音と四和音。
 曲全体の基本音階、キー音のみつけ方とその調で使える音階、スケールのこと。
 トップノートを動かすことで響きががらりと変わったりすること。
 などなどをわかりやすく解説してくださいました。

 背中に押し付けられるゆうこ先生の胸に、始めのうちはドギマギして気が散りがちな私でしたが、ゆうこ先生のご説明をお聞きしながら、実際に鍵盤を叩いているうちに、どんどんコード弾きに興味が湧いてきて、いつのまにかレッスンに集中していました。
 
 あっ、という間に2時間近くが経ち、私は、楽譜も見ずにコード譜だけで、ビートルズのレットイットビーをそれらしく弾けるようになっていました。
 最後にゆうこ先生にピアノを譲り、ゆうこ先生がジャズ風とバロック風に即興アレンジしたステキなレットイットビーを披露してくださいました。

「はい。これで今日の直子ちゃんのレッスンはしゅうりょおーーーっ!」
 
 明るく大きなお声で宣言して、ピアノのペダルから足を外したゆうこ先生。
 時刻は午後の5時ちょっと前。
 サスティーンしていた和音が途切れ、沈黙が訪れたレッスンルーム。
 
 スクッと立ち上がり私のほうに振り向いたゆうこ先生のお顔は、さっきまでとは打って変わって、目尻に涙を湛えているような、潤んだキラキラお目目になっていました。
 何て言うか、訴えかけるような、媚びるような、淫らな、でもすごく美しいお顔…

 ゆうこ先生は、そのままスタスタと奥の窓際の応接セットのところまで歩いて行き、ソファーに置いてあったバーキンバッグを手に取って提げ、また戻ってきました。

「直子ちゃんに、これを…」
 
 ゆうこ先生がバッグから取り出して私に差し出してきたのは、プラスティックの30センチ定規でした。

「ここからは、直子ちゃんがわたしの先生で、わたしは出来の悪い生徒、ね?わたしを厳しく、躾けてください」
 
 ゆうこ先生がみるみるうちにマゾのお顔になっていきました。

 頬から首筋にかけて薄桃色に染まり、眉が悩ましげに寄って、伏目がちに睫毛が瞬き、お口が少しだけ開き、唇がテラテラと濡れそぼっています。
 中二のとき、父が隠し持っていたSM写真集で見て、私の性癖を目覚めさせてしまった、縛られたモデルさんたちの儚くも美しいお顔。
 
 やよい先生に撮られた写真や自分で撮ったビデオで、自分もそういう表情になることを知っている淫らさ全開の顔。
 ゆうこ先生は今まさに、そんなお顔になっていました。

「あ、でも虐めてもらうのに、直子ちゃん、て馴れ馴れしく呼ぶのはおかしいわよね…かと言って、ご主人様とか、なんだかお芝居じみていて、かえって白けちゃうし…うーん…」
 
 ゆうこ先生がお悩みモードに入ってしまいました。

「うーん…まあ、ここは普通に、森下さん、って呼ぼうか…でも森下さんだと、お母様のほうのお顔も浮かんじゃう…」
「わたし、年下の女の子に虐められたいっていう願望もずっと持っていたから、ストレートに直子さま、にしよっか」

「わたしはずいぶん年上だけれど、直子さまには絶対に逆らえないの。直子さまは、わたしがドMの露出狂なことを知っていて、それを世間に暴露されたらわたしは破滅してしまう…ふたりはそんな関係という設定で、ね?」

「はい」
 
 私が考えてきた妄想でも、ふたりはそんな感じの関係だったので、私も即答で従いました。

「それでは直子さま。まずは、わたしのピアノ演奏を聴いてください」
 
 さっきの私のレッスンのときとは打って変わって、ピアノに向かってもなんだかモジモジ頼りないご様子なゆうこ先生が、一呼吸置いてからおもむろに演奏を始めました。
 
 ストラヴィンスキーのペトリューシュカ。
 私にはまだまだ、とうてい弾きこなすことの出来ない難曲です。
 
 そして、この曲にまつわるゆうこ先生のエピソードと言えば…
 つまり、ゆうこ先生は、ゆうこ先生が高校生の頃に受けたドSな女性講師さんとの思い出のレッスンを、まず再現してみることにしたみたいです。

 私は、腰掛けているゆうこ先生の背後に立ちました。
 ゆうこ先生は、チュニックの襟元のボタンを一番上までキッチリ留めていたので、上から見下ろす格好になっても、ゆうこ先生の胸元の素肌を覗きこむことは出来ませんでした。
 
 ゆうこ先生は、このチュニックの下にあの水着を着けているのかしら?
 いずれにしてもまずは、お約束通りゆうこ先生にあの水着姿になってもらって、羞じらう姿をじっくりと見せてもらわなければなりません。

 ゆうこ先生の背後で、手渡されたプラスティック定規で自分の左手のひらを軽くパチパチ叩きながら、ワクワクする気持ちがどんどん高まっていく私でした。


ピアノにまつわるエトセトラ 15

2011年11月13日

ピアノにまつわるエトセトラ 13

「なおちゃん、ずいぶん大貫さんに気に入られちゃったみたいね?」
 
 帰宅する車の中で母に、からかうみたいな口調で笑いながら言われました。

「飲み込みが早いし、一度注意すれば同じミスはくりかえさないし、って、ずいぶん褒めていたわよ」
「なおちゃんは、先生運がいいのね。百合草先生にしても大貫さんにしても」
 
 母は、なんだか上機嫌でいろいろ話しかけてきます。
 私は、曖昧にお返事しつつも、お尻がくすぐったいような、ビミョーな罪悪感を感じていました。

「大貫さんは、いろいろご苦労されたみたいだけれど、音楽家みたいな華やかなお仕事をされていてもだらしないところはないし、きちんとしたかただから、ママも大好き」
「うちでピアノを買うことになったときも、なおちゃんの前でいきなり弾いてびっくりさせちゃおうと思って、大貫さんにご相談して、彼女のお家でこっそり練習させてもらったのよ」

「あれってやっぱり、そうだったんだ?」

「それに、あのかた、ファッションセンスいいでしょ?プロポーションもバツグンだし、あんなお美しい方と離婚される旦那さまがいるなんて、信じられないわ」
 
 母は、まるでご自慢の身内の人みたいな感じで、ゆうこ先生を褒め称えていました。
 裏話を聞いてしまったばかりなので、若干の居心地の悪さを感じながらも、なんだっかすっごく嬉しい気持ちにもなっている私でした。

 その週の金曜日にも、ゆうこ先生が我が家を訪れました。
 月曜日のことなんて無かったみたいに、いつも通り母と3人で雑談して、いつも通りピアノのレッスン。
 
 レッスンの最後に恒例となっているゆうこ先生の模範演奏は、ドビュッシーの月の光でした。
 透明感のある素晴らしい演奏にうっとりしました。

 レッスンが終わってお夕食待ちの雑談中、やっと月曜日の流れに沿った話題がゆうこ先生のお口から出てきました。

「それで、次のうちでのレッスンはいつにしよっか?」
 
 ゆうこ先生が綺麗な瞳をキラキラさせて、私に聞いてきました。

 私の期末試験が控えているので来週、再来週は無理だから、12月の第一週、私のお誕生日が間近に迫った金曜日、ということになりました。
 17歳寸前に、私はエスデビューするのか…
 そんな、よく考えてみればすっこく意味の無い可笑しな感慨が、ふと湧きました。

「ところで、あの本は読んでみた?」
 
 ゆうこ先生のひそひそ声に我に返りました。

「あ、はいっ」

 ゆうこ先生のお家でのレッスンの帰り際にこっそり渡された一冊の文庫本。
 私は、いただいた日の寝る前から、すぐ読み始めました。
 その夜に、その本は持ち歩いて読むような種類の本ではないとわかったので、机の鍵のかかる抽斗にしまって、次の日からは、学校から帰って寝るまでの間にワクワクしながらじっくり読みました。
 
 紙面が少し変色し始めるくらい古い発行の本のようで、くりかえし何度も読まれたのでしょう、文庫本全体がなんだかクタッとくたびれていました。
 それは、一般に官能小説と呼ばれる類のえっちなシーン満載のSMチックな物語でした。

 とある全寮制の女子学園でくりひろげられる愛欲や嫉妬、策略や陰謀に満ちた百合物語。
 主人公的立場のSとMのカップルに加えて、ドSな美貌の女性寮長や気弱で言いなりの可憐な新入生などが、学園内や寮内でさまざまな痴態をくりひろげていました。
 
 性的な表現をわざとらしく過剰にお下品に書いているようなところもありましたが、全編、お上品な良家のお嬢さま風雰囲気を基本として進行し、物語としても普通に面白く、二晩で一度目を読み終えました。
 
 ゆうこ先生がおっしゃった、参考になる、っていう意味もすぐ理解出来ました。
 それから、M属性の登場人物に感情移入しつつもう一度読み終えて、今度はS属性の人の気持ちになって、更にもう一度読み返していました。

「あの本はね、わたしが先生からもらったものなの。高校1年のとき」
「それまでそんな小説、一度も読んだことなかったから、当時は文字通り、ぶっとんじゃった。それで夢中になって、何度も何度も読み返したの」
「レッスンのときに先生が登場人物と同じ科白を言ったりしてね。二人の共通言語だったな」
 
 ゆうこ先生が懐かしそうに目を細めて宙空を見つめました。

「直子ちゃんは、気に入ってくれた?」

「はい。すっごく」

「参考になった?」

「はい。とっても」

「そう。よかった。レッスン当日が楽しみね」

 ゆうこ先生宅でのレッスン以前に、その後2回、我が家でのレッスンがありました。
 そのとき、レッスン後の雑談の流れで聞かせていただいたのが、私の母について、ゆうこ先生から見た印象でした。

「素子さんはね、一言で言うと、すごく出来たお嬢さまがそのままオトナになった、って感じかな」
「あの人はね、物事に対して否定的な捉え方をしないの。どんなにつまらないことでも、そこに何かしらの面白みをみつけて楽しもうとするタイプなのね」

「物腰が柔らかくて、気取ったところも無いでしょ?ちょっとフワフワしていて、一見捉えどころが無いようにも見えるけれど」
「でも、芯が一本通っているから、たとえば性格が合いそうも無い人とかとご一緒することになっても、あの人自身にはブレがないの。懐が深いのね」

「だから、いったん気が合っちゃえば、一緒にいて楽だし、楽しいし、リラックスした気持ちになれるし、おまけに包容力もあるから、自然とまわりに人が集まってくるのよね」
「実の娘さんを前にして言うのも失礼だけれど、ちょっぴり天然なとこもあって、普通の人にとっては何でもないことをすごく驚いてくれたり、感心してくれたり」
「でも、そういうところも含めて全部、可愛らしく見えてしまうのは、素子さんの人徳よね」
 
 母を盛大に褒めてもらって嬉しいのは嬉しいのですが、娘としては、すっごくこそばゆい感じです。

 ゆうこ先生が少しお声をひそめました。

「ずっと前に直子ちゃんちでやった水着パーティのときも、わたしはレイカ、あ、タチバナさんのことね、に言われて、あの水着を着たのだけれど、素子さんは、純粋にわたしのプロポーションを褒めちぎってくれたの」
「あんな水着だもん、普通だったら、何て言うか、性的な気まずさ?道徳的なはしたなさ?みたいな、こう、一歩引いちゃう感じもするじゃない?」

「直子ちゃんのお母さまは、そんなことぜんぜん気にしないで無邪気に、こういう水着がお似合いになるのは、大貫さんしかいないわ!なんて本当に嬉しそうに言ってくれるの」
「素子さんもすごくキレイなプロポーションなのにね」
 
 ゆうこ先生は、なぜだかうつむいて照れていました。

 生憎そのときは、そこまでお話が進んだときにお夕食の時間になってしまったので、あの夏の日の詳しいあれこれまでは、お聞きすることが出来ませんでした。
 
 でもいいんです。
 それは12月のレッスンのとき、あの水着を着たゆうこ先生を虐めながらじっくり聞き出そうと、即席エス役に任命された私は、夜な夜なあれこれ、計画を練っていました。

 そしていよいよ、ゆうこ先生のお宅でのレッスン日がやって来ました。

 その日は、タイミングの良いことに学校の都合により、授業は全学年、午前中で終わりの日でした。
 
 私は、お弁当を食べた後に直接、ゆうこ先生のお宅へ伺うことになっていました。
 更にその日は、母が遠出をして一泊しなくてはならない用事があり、帰宅もお迎えも出来ないので、期末試験も終わったことだし、どうせならゆうこ先生のお宅にお泊りしてじっくりピアノの極意を教えていただきなさい、ということになっていました。
 
 無人のお家のお留守番は、篠原さんが快く引き受けてくれました。
 なんてラッキーなめぐりあわせ。
 土曜日の朝まで、半日以上ゆうこ先生と二人だけで過ごせるのです。

 えっちなお道具もいくつか持っていったほうがいいかな、とも思いましたが、すぐに却下しました。
 だって、その日は学校から直行。
 ということは、お道具もまず学校へ持参しなければなりません。
 
 もしも抜き打ちで持ち物検査とかあったら…
 そんなことキケン過ぎます。
 それにきっと、ゆうこ先生もそういうお道具をいくつかは持っているはず。
 ひょっとしたら、すでに準備良く、お部屋に用意されているかもしれません。

 そんなわけで、愛用のトートバッグに着替え用の下着とジーンズ、ニットを詰め、一番底にお借りした文庫本だけしのばせて、制服にコートを羽織った姿で、ゆうこ先生の最寄り駅に降り立ちました。
 
 時刻は午後2時前。
 今日は、ゆうこ先生の駅でのお出迎えはありません。
 
 よく晴れたいいお天気でしたが、さすがに吹く風は冷たく、行き交う人も背中を丸めがちな商店街。
 ワクワクな気持ちを抑えきれない私は、そんな商店街を足早に歩き始めました。


ピアノにまつわるエトセトラ 14