2010年11月27日

図書室で待ちぼうけ 01

私は、中学生の三年間、ずーっと図書委員をやっていました。
中学入学と同時に他県から引越してきたため、知っている同級生が一人もいなかった一年生のとき、おそらく小学校からの引継ぎ書類に、読書好き、って書かれていたためだと思いますが、そのときの担任の先生に推薦で任命されてから、三年生まで、一期も欠かさず図書委員でした。

三年生になってクラス替えになっても、愛ちゃんたちのグループ5人とまた一緒のクラスになれました。
そしてクラス委員決めのホームルームのとき、あべちんの推薦で私はまた、図書委員を務めることになりました。

ずっと同じ委員をやっていれば、お仕事は全部わかっています。
新しい本の購入を検討したり、読書新聞を作ったりというお仕事もありましたが、メインになるお仕事は、お昼休みと放課後の図書室の管理、貸出しや返却の処理とか蔵書の整理、本棚の整頓とかでした。
三年生になって、私は火曜日の図書室当番担当になりました。
一年生か二年生の委員が一人、補佐について、図書室の受付のカウンターで、利用する生徒のお世話をします。

私が通っていた中学校の図書室は、けっこう広めで、普通の教室の2倍くらいの広さでしょうか。
3階建て校舎の3階の西の突き当たりにありました。
入口を入ってスグのところに、貸し出しや返却受付用の机が置かれたカウンターのようなスペースがあり、私たち図書委員は、そのカウンターの中で作業をします。
カウンター側以外の壁際全面にぎっしり書庫が並べられていて、ドア側手前のスペース、全体の半分くらいの広さ、が図書閲覧用のスペースになっています。
4人掛けの机と椅子が8組置かれて、利用者は、そこで本を読んだり勉強することができます。
お部屋の奥の残ったスペースには、たくさんの本棚が見やすいようにジャンル分けされて整然と並べられていました。

具体的なお仕事の手順を一応説明しておきます。
たとえばお昼休み。
うちの学校のお昼休みは、お昼の12時半から1時半まででした。
そのうち12時半から1時まではお弁当の時間。
図書室を利用出来るのは、1時5分から1時25分までの20分間。
その日の図書室当番の人は、1時5分に間に合うように職員室から鍵を借りてきて図書室のドアを開けて、5時限目の授業に間に合うように図書室を閉めて、鍵を職員室に戻しておかなければなりません。
放課後だと、利用時間は午後の3時半から4時半までの一時間になります。

図書室にいる間は、本の貸出しや返却の処理、返却の遅れている人をリストアップして校内放送で流してもらうリストを作ったり、本棚の整理整頓や騒がしくしてる人への注意などをします。

試験前なら、けっこうそれなりに利用者がいましたが、普段の日は、昼休みなら本を読みに来る人より寝に来る人のほうが多い感じで、日に10人そこそこくらい。
放課後でも15~30人くらい。
ややこしいことを言ってきたり、騒ぐ利用者もまったくいなくて、私は、図書室にいるときは、いつも比較的まったりできました。

読書好きな私ですから、初めて図書委員になった頃は、当番の日でなくてもヒマをみつけては図書室に来て、面白そうな本を片っ端から読んでいました。
でも、さすがに2年以上も同じ図書室にいると、年に二回入ってくる新入荷の本以外、読みたい本も無くなってしまい、二年生の後半頃からは、当番の日には私物の文庫本を持ち込んで、貸し出し受付の机に広げて利用者を待ちながら、ゆっくり読んでいました。

三年生になって最初の中間試験も終わり、のんびりムードの漂う5月下旬の火曜日放課後。
その日はほとんど利用者がいなかったので、下級生の図書委員には先に帰ってもらって、まったり一人、文庫本を読んでいました。
ふと顔を上げて壁の時計を見ると4時15分。
図書室内に利用者は一人もいません。

あと15分か・・・
さっきからちょっとオシッコがしたくなっていました。
利用者が誰もいないから、ちょっとトイレ、行ってきちゃおうかな。
女子トイレは、図書室の入口のドアの向かいにあります。
だいじょうぶだよね、2、3分だし・・・
私は、読んでいた文庫本を閉じて貸し出し受付の机の中に入れ、小走りに図書室の入口の横開きのドアを開いて廊下に出て、女子トイレに飛び込みました。

トイレから戻ると4時20分ちょっと過ぎ。
今日はもういいか・・・
私は、図書室を閉める準備にとりかかりました。
閲覧スペースのほうにだけある窓のカーテンを全部閉じて、椅子や机の乱れを直します。
落ちているゴミや誰かの忘れ物がないか、一通り机の中や床を見てから、鍵と自分のバッグを両手に持ちました。
入口のドアの脇にある電気の集中スイッチをパチンと押すと、蛍光灯が全部消えて、図書室内は夕方の薄闇に沈みます。
そう言えば、窓際の左側の蛍光灯が切れてたな、先生に言わなくちゃ。
そんなことを思いながら、入口のドアを開けて廊下に出ます。

ドアの鍵をかけようとしたとき、貸し出し受付の机の中に、自分の文庫本を忘れてきたことに気がつきました。
もう少しで読み終わるから、家に帰って読んじゃいたいな・・・
もう一度ドアを開けて、電気は点けずに、受付のカウンター内に入りました。

本をバッグの袖ポケットにしまい、バッグに手をかけようとしたとき、
カタンっ・・・
ずっと奥の本棚のほうで何か物音がしました。
私は、ビクっとして、物音がしたほうに目をこらします。
「誰かいるんですかあ?」
大きな声で呼びかけて、しばらく様子をうかがいます。
返事はありません。

ネズミでもいるのかしら?
まさか、オバケとか・・・?

ちょっと怖かったのですが、好奇心のほうが勝って、物音のしたほうへ行ってみようと思いました。
念のため、ドアのところに戻り電気を点けました。
蛍光灯が灯り、室内が再び明るくなります。
入口の脇にある掃除用具入れを開き、床拭きモップを片手に持って、そーっと音がしたほうに近づきます。
「誰かいるんですかあ?」
「もう図書室は終わりですよおー」
問いかけながら、一番奥の本棚に近づくと、左側の本棚の陰に隠れるように誰かいるようです。
「もう鍵をかけるので、退室してくれますかあ?」
人間らしいとわかり、ちょっと安心して、本棚の陰を覗き込みました。

「キャッ!」
声をあげたのは私です。
持っていたモップを思わず取り落として、カターンという乾いた音が図書室に響きます。
そこには、誰か、たぶん裸の人が、白くてまあるいお尻をこちらに向けて、しゃがみ込んでいました。

顔は、うつむいて膝にうずめていてわかりません。
からだのまろやかさや肩までのキレイな髪を見ると、女の子のようです。
「えっ?あれ、あの、あなた、なにしてるん・・・?」
私は、すっかりうろたえてます。
「あなた誰?なんでそんな・・・」
その人は、しばらくうずくまったままでしたが、やがてゆっくりと背中を向けたまま立ち上がりました。
上履きと黒のニーソックスだけを身に着けて、あとは裸でした。
背はそんなに高くなく、華奢と言っていいからだつきですが、細いウエストから柔らかいカーブを作って広がっていくお尻の丸みがすごくセクシーです。
そしてその人は、右腕で胸、左手で内腿の間を隠したまま、ゆっくりと振り向きました。

「あ、あなた・・・!?」


図書室で待ちぼうけ 02

2010年11月21日

トラウマと私 25

居酒屋さんを出て、反対側の駅前ロータリーまで、やよい先生とゆっくり歩いていきました。
私は、やよい先生と手をつなぎたかったのですが、万が一、知っている人に見られたらメンドクサイことになっちゃうのでがまんしました。
その代わり、やよい先生に寄り添うように、ピッタリとからだの側面をくっつけて歩きました。
やよい先生のからだのぬくもりを感じながら。

「先生、ごちそうさまでした。今日は本当にありがとうございました」
「ううん。あたしも楽しかったから、いいのよ。なおちゃんのヒミツもバッチリ知っちゃったしね。お料理は美味しかった?」
「はい。すっごく美味しかったです」
そんなことを話しながら、ロータリーに到着しました。
私は、まわりをキョロキョロして小さめな白い車を探します。
ライオンのマークが付いた白い車・・・
「まだ母は着いてないみたいですねえ?」
やよい先生にそう言ったとき、駐車していたバスの陰からスルスルっと、母の白い車が近づいてきました。

「百合草先生。今日はうちの娘が、本当にお世話をおかけしてしまって・・・」
言いながら、母が運転席から降りてきました。
母は、白くて襟がヒラヒラしたブラウスの上に、ネイビーの薄手な秋物ジャケットを着て、下はジーンズでした。
大きな紙袋を手に持っています。
「森下さんのお母さま。ご無沙汰しています。あたしこそ、娘さんを遅くまでひき止めてしまって、申し訳ございません」
やよい先生がペコリとお辞儀します。
「いえ、いえ、いつもいつも直子がお世話になって・・・」
言いながら母が大きな紙袋をやよい先生に差し出しました。
「百合草先生が甘党か辛党か存じ上げないので、両方持ってきました。直子がお世話になったお礼です。シュークリームとワインなんですけど・・・」
「あら、あらためて考えるとちょっとヘンな組合せだったわね」
母が一人でボケて、ツッコンで、あははと笑っています。
「お帰りのとき、お荷物になっちゃって、ごめんなさいね」
「いえいえ、かえってお気を使わせてしまって、では、遠慮なくちょうだいいたします」
やよい先生がまたお辞儀をして、紙袋を受け取りました。

「それじゃあ森下さん。また来週、お教室でね。お母さま、ありがとうございました」
「はーい、先生。今日はごちそうさまでした」
「百合草先生、こちらこそ本当にありがとうございました」
3人でお辞儀合戦をした後、やよい先生は、右手を上に挙げてヒラヒラさせながら改札口に消えていきました。

車に乗り込んで、駅前の渋滞を抜けるまで、母と私は無言でした。
車がスイスイ滑り出してから、母が口を開きました。

「なおちゃん、今日は何をご馳走になったの?」
「うーんと、イタリアンかな。パスタとかサラダとか」
「美味しかった?」
「うん。トマトソースがすっごく美味しかった」
「それは、良かったねえ」
そこで少し沈黙がつづきました。

「それで、なおちゃんの悩みごとは、解決したの?」
「えっ?」
「あらー、ママだって、ここ数週間、なおちゃんがなんだか元気ないなあー、って気がついてたのよ?」
「何か悩みごとでもあるのかなー、って」
母が私のほうを向いて、ニッと笑いました。
「でも、もうどうしようもなくなったら、ママに言ってくるでしょう、って思って放っといたの」
「でも、なおちゃんは、百合草先生をご相談相手に選んだのね・・・」
「・・・ママ」

「ううん。誤解しないで。怒ってるんじゃないの、その逆よ。ママ嬉しいの」
「なおちゃんのまわりに、なおちゃんのことを心配してくれる、家族以外の人が増えていくのが、嬉しいの」
「なおちゃんにも、だんだんと自分の世界が出来ていくんだなー、って、ね」
「それで、百合草先生とお話して、その悩みは解決した?」
「うん。だいたいは・・・ううん、スッキリ!」
「そう。良かった。百合草先生、さまさまね」
「こないだいらっしゃった、なおちゃんのお友達も、ママ好きよ。みんな明るくて、素直そうで」

夏休み、8月の初め頃に、愛ちゃんたちのグループがみんな来て、私の家では初めて、お泊り会をしました。
お庭で花火をやったり、リビングでゲームをしたり、私の部屋でウワサ話大会したり。
ちょうど父も家にいて、家の中に女性が母も含めて7人もうろうろしているので、少しびびりながらも張り切っていたのが可笑しかったです。
愛ちゃんたちには、なおちゃんのお家すごーい、って冷やかされて、ちょっと恥ずかしかった。

「なおちゃんも、もうママにヒミツを持つ年頃になったのかー」
「これからどんどん、ヒミツが増えていくんだろうなー」
母は、運転しながら独り言にしては大きな声で、そんなことを言っています。

「百合草先生やお友達、大切にしなさいね」
信号待ちのとき、母が私のほうを向いて、真剣な顔で言いました。
「はいっ」
私も真剣に、大きな声で答えます。

車が走り出して、母の横顔を見つめていたら、少し寂しそうに見えたので、私は一つ、ヒミツを教えてあげることにしました。
「ねえ、ママ。私ママにヒミツ、一つだけ教えてあげる」
「あら、いいの?なになに?」
「あのね、私、夏休みに入る前の日にね、ラブレターもらっちゃった」
「あらー。スゴイわね、直接手渡されたの?」
「ううん。学校の靴箱に入ってたの」
「それはずいぶん古典的な人ね。それで?」
「でも私、今、そういうことに全然興味がないから、断っちゃった」
「あはは、そうなの。なおちゃんらしいわね」

母は、それ以上、どんな人だったの?とか、何て言って断ったの?とか追求しないで、ハンドルを握りながらニコニコしていました。
私はそれを見て、母はやっぱりカッコイイなあーって思いました。

「ありがと、ママ」
「どういたしまして。それより、ともちゃんが、直子おねーちゃんがお帰りになるまで起きてるー、ってがんばってたけど、もう、さすがに寝ちゃったかしら?早く帰ってあげましょう」
「うんっ!」

国道の信号が赤から青に変わり、先頭にいた母がアクセルを踏み込みました。
もうあと少しで我が家です。
フロントグラスの向こうに、左側が少し欠けている楕円形のお月さまが、明るく輝いていました。



トラウマと私 24

「それは、とても光栄なことね」
やよい先生も私の目をまっすぐに見ながら、魅力的に微笑んでくれました。

「それで、私、その週のバレエのレッスンのとき、すっごく先生を意識してしまって・・・ご迷惑をおかけしてしまって・・・」
「そういうことだったのね。なんだかずっとそわそわ、モジモジしてるから、どうしちゃったんだろ?この子、って思ってたのよ」
やよい先生がイタズラっぽく笑います。
「で、どんな風に、あたしとのソレ、想像したの?」
「そ、それは・・・」

私は、恥ずかしさで、もうどうしようもないくらい、からだが火照っていました。
乳首も痛いほど、アソコもショーツに貼り付いてしまっています。
「鏡に・・・鏡に向かって・・・自分のからだ映して・・・私の胸や、アソコを・・・先生の手で可愛がられてるって想像しながら・・・」
私は、自分で言っている言葉に、恥ずかしがりながらコーフンしていました。

「そう。それがすっごく気持ち良かったんだ・・・なおちゃん、カワイイわね」
やよい先生がえっちっぽく笑いかけてくれます。
私は、すっごく嬉しい気持ちになります。
オナニーをしたときとは別の種類の、心地よい快感がからだをじーんと駆け巡りました。

「先生、私、レズビアンになれるでしょうか?」
快感の余韻が収まるのを待って、私は、これ以上無理っていうくらい真剣な気持ちで、やよい先生に問いかけました。
「うーん・・・そんなに真剣な顔で聞かれてもねえ・・・」
やよい先生は、はぐらかすみたいにお顔を少し背けます。
ちょっと考える風に上を向いてから、また視線を私に戻しました。

「それじゃあ、なおちゃんは、お友達、たとえばあなたとすごく仲の良さそうな川上さんとかとも、そういうことしたいと思う?」
「いえ。それは考えてみたんですけど、そういう気持ちにはなれませんでした。もちろん愛ちゃんは大好きなお友達なんですけれど・・・」
「でも、あたしとならそうなってみたい?」
「はい・・・」
「それは、なおちゃんがあたしを大好きだから?」
「はい」

「ほら。つまりそういうことよ」
やよい先生が明るい声で言います。
私は、きょとん、です。

「なおちゃんがそうなってみたいと思った相手は、あたしだった。それで、あたしは女だった」
「その前に知らない男性にヒドイことされて、男性がイヤになっていたのもあるんだろうけど、なおちゃんは、あなたが大好きだと思った人、えっちな気持ち的に、したい、と思った人としか、そういうことはしたくないんでしょ?」
「はい・・・」
「それなら、別にレズビアンになる、ならないなんて考えないで、今まで通り、そういう気持ちのまま過ごしていけばいいのよ」
「大多数の人たちは普通、恋愛をする相手、セックスの相手は異性と考えている。でも、大好きになった人、したいと思った人が同性だったとしても別に何も悪いことじゃないの。たまたまそうなっちゃっただけ」
「なおちゃんがされたみたいな、自分の欲望のためだけに無理矢理、関係ない誰かをひどいメに合わせたり、カンタンに言うと痴漢とか強姦とか婦女暴行とか監禁とかのほうが、よっぽど非難されるべきことなの」
「だからあなたも今の気持ちのまま、男性が苦手なら苦手でいいから、大好きになれて、したいと思える人を探したほうがいいわ。レズビアンがどうとか特別に考えずに、ね」

「それに・・・」
「ひょっとしたら何年か先に、なおちゃんのアソコにピッタリなサイズのペニスを持った、やさしくてカッコイイ男の子が現われるかもしれないし、今は深刻に思えるそのトラウマも、ひょんなきっかけで治るかもしれない・・・」

そこまで言って、やよい先生はテーブル越しに両手を伸ばしてきて、私の両手をやんわり掴みました。
そのままテーブルの上で二人、両手を重ね合います。
私には、やよい先生が今、最後に言った言葉とは裏腹に、そのまま男性が苦手なままでいて、っていう私への願いを、無言で態度に表したような気がしました。
私の胸がドキンと高鳴ります。

「それでね・・・あたしは今、なおちゃんを抱いてあげることはできないの」
やよい先生は、私の手を取ったまま、声を落として言いました。
「今はちょっと喧嘩中だけど、あたしは今のパートナーが大好きだし、大切に思っているし、彼女とだけそういうことをしたいの」
「彼女は、あまり束縛するタイプではないけれど、今はやっぱり、彼女とだけそういうことをしたいの」
「それになおちゃん、今中二でしょ?中二って言うと何才だっけ?」
「14才です・・・」
私は、やよい先生の言葉にがっかりして、力なく答えます。
「14才なら、まだまだこの先たくさん、出会いがあるはずよ。女性とも男性とも」
「それで、なおちゃんが本当に大切に思える人ができたら、本格的にえっちな経験をするのは、そのとき・・・今よりもう少し大人になってからのほうがいいと思うの、なおちゃんのためにも」

「でも、今、私はやよい先生のこと、本当に大切に想ってるんです・・・」
小さな声でつぶやきました。
私は、あからさまにがっかりした顔をしていたんだと思います。
やよい先生がまた少し考えてから声のトーンを上げて、こんな言葉をつづけてくれました。

「それでね。正直言うと、あたしもなおちゃんには、興味があるの。あなたカワイイし、ほっとけないとこがあるから」
「だから、なおちゃんがもう少し大人になって・・・そうね、高校に入ったら・・・じゃあまだ早いか・・・高校2年て言うと17才?」
「・・・はい」
「高校2年になってもまだ、今と同じ気持ちがあったなら、そのときはあたしがお相手してあげる」
「本当ですかっ?」
私に少し元気が戻ってきました。
「うん。約束する。だから、しばらくの間は、あたしを、血のつながった本当のお姉さんだと思って、なんでも気軽に相談して」
「それにもちろん、オナニーのお相手としてなら、ご自由に使ってもらって結構よ。なおちゃんがあたしを想ってしてるんだなあ、って考えるとあたしもなんだかワクワクしちゃう」
やよい先生がえっちぽい顔になって言いました。

「だけどバレエのレッスンのときは、そんな素振り見せないでね。あたしもあくまで講師として接するから。今まで通り」
「あなた、バレエの素質、いいもの持っているんだから、ちゃんと真剣にやりなさい。真剣にやればかなりの線まで行けるはずよ」
「はいっ!」

私は、なんだか気持ちがスッキリしていました。
やよい先生とかなり親しい関係になれたことを、すごく嬉しく感じていました。
それに、考えてみればこうして、セックスやオナニーのことを実際に言葉に出して、誰かと話し合ったのも初めてのことです。
なんだか一歩、大人になった気がしていました。
私のヘンな性癖に関しては、やっぱり恥ずかしくって言えなかったけれど・・・
でもその上、あと数年したら、やよい先生が私のお相手をしてくれる、って約束までしてくれたんです。
自然と顔がほころんできます。

「やっと、なおちゃんに笑顔が戻ったわね」
やよい先生は、両手で私の手を握ったまま、ニッコリ笑いかけてくれます。
「今日の二人のデートは、あたしたちだけの秘密ね。あたしは、これからも、なおちゃんと二人きりのときだけ、あなたをなおちゃんって呼ぶ。バレエのときやみんながいるときは、今まで通り、森下さん。それでいいわね?」
「はい」
それからやよい先生は、目をつぶって、お芝居じみた声を作って、こんなことを言いました。
「美貌のバレエ講師と年の離れた可憐な生徒は、お互い惹かれ合っていた。講師には女性の恋人がいて、生徒は講師を想って自分を慰めている。それでも素知らぬ顔でみんなと一緒にレッスンに励む二人は、何年後かに結ばれる約束をしていたのであった・・・」
「なんちゃって、こうやって言葉にしてみると、このストーリーでレディコミかなんかで百合マンガの連載できそうじゃない?あたしたちって。なおちゃんも、オナニーのときに妄想、しやすいでしょ?」
やよい先生が笑いながらイジワルっぽく言います。
「もうー、やよい先生、イジワルですねー」
私は甘えた声を出して、やよい先生の手をぎゅっと握りました。

「あらー。もうこんな時間」
やよい先生は、私の手を握り返しながら、私が左手首にしている腕時計に目をやって、大きな声を出しました。
8時を少し回っていました。
「そろそろお母さまに電話したほうがいいんじゃない?」
「あ、はい」
私は、もっともっとやよい先生と一緒にいたい気持ちでしたが、そうもいきません。
やよい先生が差し出してくれたケータイを受け取って耳にあてました。

「30分後にバレエ教室側の駅前ロータリーで待ち合わせです」
母との電話を終わって、ケータイを返しながらやよい先生に告げました。
「じゃあ、あと20分くらいだいじょぶね」

その20分の間に、やよい先生がなぜレズビアンなのか、っていうお話を聞かせてもらいました。
誰にも言わない、っていう約束なので詳しくは書きませんが、やっぱり、ティーンの頃に男の人に嫌な経験をさせられたことも大きいようです。
「だからなおさら、あたしは、なおちゃんのことが気にかかるし、心配なの。遠慮せずになんでも相談してね」
やよい先生は、そう言ってくれました。
私は、やよい先生と出会えて、本当に良かったと心の底から思いました。


トラウマと私 25