2015年12月27日

オートクチュールのはずなのに 30

「着けてあげる」
 リンコさまがスルスルっと近寄ってきて、私の背後に立ちました。
「ちょっと上向いててくれる?」
「あ、はい」
 首筋を伸ばすように顎を前に突き出していると、喉にヒヤッと冷たいものが触れました。

「はふぅん・・・」
 その瞬間、からだ中にゾワゾワっと不穏な電流が走り、思わずヘンな声を洩らしてしまいました。
「ひんやりした?スベスベのレザー使っているからね。どう?キツクない?」
「あ、はい。大丈夫です」
 首の後ろをコソコソさわるリンコさまの指にうっとりしそうになるのを、ここはオフィスで今はお仕事中なのだから、と自分に言い聞かせて戒めました。

「なるほど。こうして見ると、チョーカーっていうのも悪くはないわね」
 リンコさまからチョーカーを着けられる私を、じーっと見つめていた早乙女部長さまが、感心したようにおっしゃいました。

「着けると何て言うか、その子が従順そうに見えてくる。何でも思い通りになりそうな。着ける子の雰囲気にもよるのでしょうけれど」
 部長さまの視線が私の全身にもう一度、素早く走りました。

「生意気そうな子が着けていたら、それはそれで征服感みたいなものを感じるかもね。確かにオタク受けは良さそうだわ」
 部長さまの傍らに戻ったリンコさまも、そのお言葉にウンウンと真剣に頷いていらっしゃいます。

「一応、上着も着てみましょう」
 部長さまに促され、テーブルの上の上着を手に取りました。
 これも思っていたよりペラペラ。
 ほのかさまが着ているブレザーとデザインや色使いは同じですが、布地が違うみたい。
「着終わったら、ふたり並んでみて」
 部長さまのお声で、ほのかさまが私に近づいてきました。

「これにあと、ソックスとシューズ、よね?」
 ほのかさまと並んで直立不動の私の前に、早乙女部長さま、リンコさま、ミサさまが立ちはだかるように並び、私たちをジロジロ見つめていました。
「はい。Aタイプは白のハイソ、Bタイプは三つ折です。靴はどちらもブラウンのローファー」
 リンコさまが何かの書類をめくりながら、部長さまの質問にテキパキお答えされています。

 ほのかさまとこうして並んでみると、あらためて私の穿いているスカートの短かさが際立ちました。
 私より少し背の高いほのかさまのスカートの裾と私のとを較べると、身長差を差し引いても10センチ以上の差がありました。
 股下0センチ、クロッチ部分ギリギリ丈の頼りないペラペラなスカート。
 少し背伸びしただけでも覗いてしまうその部分が今、どんな状況になっているのか、気が気ではありませんでした。

 朝からいろいろと発情していた私ですから、この試着を始める前からすでに、たとえばもしも真下からスカートの中を覗かれたらわかる範囲には確実に、銀色ショーツに黒い濡れジミを作っているはずでした。
 問題は、その後でした。
 このお着替えを始めてからも、何度も奥の潤みを感じていました。
 溢れ出したおシルは確実に前へ後ろへ、ショーツの布への侵食を広げているはずです。
 おそらく正面から見ても、クロッチ部分の先端が黒ずんでいるのがわかるほどには。

 だけど今のところ、みなさまからそういうご指摘はありません。
 知ってか知らずか・・・
 たとえ気づいていたとしても、事が事ですからご指摘を憚られているのかもしれませんが。

 チョーカーを嵌められてマゾ性へ大きく傾きがちになっている私は、みなさまにそんな姿を気づかれ呆れられることを欲していましたが、辛うじて残っている理性の部分では、この試着が一刻も早く終わり、普段の服装に戻れることを願っていました。

「おーけー。ここは狭いから、ちょっと広いところへ行きましょう」
 リンコさまとあれこれ打ち合わせをされていた部長さまがおっしゃるなり、スタスタ歩き始めました。
 ぞろぞろと後につづく私たち。
 会議室のドアを出て、オフィスのメインフロアのデスクやロッカーが置いていない、窓際の広めなスペースに誘導されました。
 ロールカーテン全開の大きな素通し窓からは、抜けるような青空。

「窓を背にして、ふたり並んで立ってくれる、あ、もう少し間隔を空けたほうがいいわ」
 五月らしい晴天の明るい陽射しが差し込む大きな窓を背に、ほのかさまと私が2メートル位の間隔を空けて並びました。
 窓は、私の膝よりも低い位置から始まっていますから、お尻ギリギリのスカート直下から剥き出しな私の生足が、ガラスを挟んでお外へ丸見えとなっていることでしょう。
 もっとも、地上数百メートルの高さですから、見上げて目を凝らさなければわからないでしょうが。

 お近くのデスクに寄りかかるように、私たちの前で並んだお三方。
 部長さまを真ん中に、私の側にリンコさま、ほのかさまの側にミサさま。
 これから何を始める気なのだろう・・・
 怖いような待ち遠しいような、ヘンな胸騒ぎを感じていました。

「ここであなたたちに、いろいろ動いてもらいたいの。ほら、アイドルって、かなり激しいダンスをしながら歌うから、それ風なダンスっぽい動きをね」
 部長さまが私とほのかさまを交互に見ながらおっしゃいました。
 ウンウンとうなずくほのかさま。
 つられてうなずく私でしたが、心の中は大騒ぎ。

 こんな、少し背伸びしただけでも下着が出てしまう衣装でダンスなんてしたら・・・
 ひるがえるスカート、丸出しのショーツ、一目瞭然な銀色と黒のグラデーションを描く恥ずかし過ぎるシミ・・・
 そんな光景が即座に頭に浮かび、あきらめにも似た陶酔感に襲われます。
 視られちゃう・・・
 心の中の大部分が、もはやマゾ色に染まっていました。

「それではまず手始めに、その場で軽くジャンプしてみてくれる?ぴょんぴょんぴょん、って感じで」
 部長さまは、普通におっしゃっているのでしょうが、私の耳にはエスなかたからの冷たいご命令口調に変換されていました。

「はい」
 ほのかさまがお返事と共に、ぴょんぴょんと軽やかにジャンプし始めました。
 ミニスカートが微妙にひるがえり、ブレザーの中でバストが波打っているのがわかりました。
 うわっ!可愛い!
 ジャンプに合わせて髪の毛がフワフワ揺れて、跳び方もいかにも女の子っぽい可憐さで、本当のアイドルさんみたい。

 しばし見惚れていると強い視線を感じ、部長さまが私をじっと見ているのに気づきました。
 私もあわてて、ほのかさまに合わせて跳ね始めました。

 思っていた通りでした。
 膝を軽く曲げて跳び上がると同時に、ペラペラの頼りないスカートが風を受け、おへそのところらへんまでフワリと舞い上がりました。
 当然のことながらショーツ丸出し。
 2度3度、ジャンプするたびに、面白いくらい大げさにスカートがはためきます。
 着地すると、腿の付け根辺りに辛うじて布の感触が戻ります。

 そしてついに、自分の目で確認出来てしまいました。
 銀色ショーツの正面下部、クロッチ部分で言うとほぼ全体、銀色の布地が濡れて黒く変色しているのを。
 私が、こんな恥ずかしいことをさせられながらもはしたなく感じて、淫らに濡れてしまっている決定的な証拠。
 私がマゾであることの証。
 目前に並んだ六つの瞳に、バッチリ視られている・・・・

 パンパン!
「はい、いいわ。ありがとう。どこか動きづらいところとか、あった?肩や袖が窮屈とか」
 私たちの動きを真剣に見つめていた部長さまが手を叩き、尋ねてきました。
「いえ、これといって・・・」
 ほのかさまが即答。
 内心ドキドキな私も顔を上下にコクコクうなずきました。

「今度は、ジャンプすると同時に両腕を上に挙げてくれる?こんな感じで」
 部長さま自ら、上半身だけでお手本を示してくださいました。
 パチン!
 小気味の良い拍手の音が響きました
 それはなんだか、コンサートの最後で両手を頭の上に挙げて、アンコール!ってやっているような動きでした。

「こうですか?」
 ほのかさまがすかさず、その場でやってみせてくださいました。
 ぴょんと跳び上がりながら水平に開いた両腕を左右から上げていき、ジャンプの頂点のときに頭上で拍手をパチンッ。
「そうそう。うまいわ」
 部長さまが満足そうに微笑みました。

「それと、森下さんは上着、取ってくれる?」
 突然、部長さまがおっしゃいました。
「えっと、はい?」
「Bタイプはステージ用で、ブレザーは最初の数曲で脱いじゃうのよ。ステージの大部分はインナーだけで踊ることになるから」
 あくまで真面目なお顔でご説明くださる部長さま。
「あ、はい。そういうことでしたら、わかりました」

 薄っぺらなブレザーを脱ぐと、ノースリーブのボディコンビスチェ風。
 大胆に開いた胸元からおっぱいの谷間が、ハーフカップのブラジャーの布まで見えそうなほど、これ見よがしに露出していました。
 両腕は腋まで丸出し、おっぱいの谷間丸出し、おへそ丸出し、両脚も付け根まで丸出し。
 それが今の自分の格好でした。
 そして私は、みなさまの前でそんな格好になることを、心地良く感じ始めていました。

「それではやってみて。いい?はいっ!ワンツー、ワンツー」
 部長さまの手拍子と号令に合わせて、ほのかさまと一緒に跳び始めました。
 跳ねるたびに丸見えになるショーツ。
 薄い布越しのバストも露骨なほど上下に跳ねています。

 更に、両腕を大きく動かしていると、上半身に貼り付いていたインナーの布がどんどん肌をせり上がって行くのがわかりました。
 おへそ上だった丈がウエストをせり上がり、お腹丸出しになって、遂にはアンダーバストのすぐ下あたりまでたくし上がってしまいました。
 
 まるでスポーツブラをしているみたいな見た目。
 伸縮性のあるピッタリ布地なので、一度せり上がってしまうとそこで留まったまま、自然には直りません。
 その分、胸元の布がたるみ、私の視界には、余裕の出来た隙間からハーフカップブラの浅めな布地まで丸見えになっていました。

 さすがにこれは直したほうがいいだろう、と思い、いったん動きを止めようとしたら、すかさず部長さまから鋭いお声。
「直しちゃだめっ!そのままでもう少しつづけて!」
 真剣な目で睨まれました。
「はいっ!」
 あわててほのかさまの動きに合わせました。

「おーけー。ちょっと止まって。森下さんはインナー直していいわ」
 部長さまのお言葉に、すばやく布地を引っ張って、お腹を隠す私。
 部長さまは何かコソコソ、リンコさまとご相談。

「今度は上半身の動きはさっきと同じ。ただし、ジャンプじゃなくて、拍手のタイミングで脚を左右交互に蹴り上げて見せて。いくわよ。はいっ、ワンツー、ワンツー」
 少し戸惑ったようなご様子だったほのかさまが、部長さまのリズムに乗って唐突にからだを動かし始めました。
「こんな感じでいいですか?」
 ほのかさまが再び、率先してお手本を見せてくださいました。
 
 拍手のタイミングでラインダンスのように右、左と交互に蹴り上がるしなやかなおみ足、ひるがえるスカート。
 真正面に陣取るお三方には、そのたびにほのかさまの純白ショーツが露になっていることでしょう。
 
 絶望的なのに、なぜだか甘美な被虐感が全身をつらぬき、私もいつしかほのかさまの動きに合わせていました。
 たちまちせり上がるインナー。
 全開になる両腿の付け根。

「うん、いい感じよ。もう少しテンポを上げてみましょう。ワンツーワンツー」
 部長さまの手拍子に合わせて、若干遠慮がちに脚を上げる私。
「森下さんはバレエ経験者でしょう?もっと高く脚を上げられるのじゃない?」
 手拍子を打ちながら部長さまが叱責するようにおっしゃいました。
 その目は真剣に私たちの動きを追っています。
「は、はいっ!」
 それにお応えするべく、もう、なるようになれ、という気持ちで、グランバットマンのように高く右脚を蹴り上げました。

 もはや絶対、完全に気づかれている。
 こんな短かい、スカートの役も果たしていないような布を腰に巻き、盛んに脚を高く振り上げている私。
 丸出しとなっているはずの銀色ショーツの布地に隠された、女性の女性たる部分。
 その部分を中心として外へと広がっているはずの黒い濡れジミ。
 こんなに至近距離で、これだけ高く脚を振り上げていれば、その異変に気がつかない人がいるはずがありません。

 それでも、部長さまもリンコさまもミサさまも、そのことについては何もおっしゃらず、真剣な表情で私たちの即興ラインダンスを凝視しつづけていらっしゃいました。
 ときどき何かメモを取り、私たちの前に回ったり後ろに回ったりしながら。
 私が脚を振り上げるたびに、そのシミは今もジワジワ広がっているはずなのに。

 両脚を激しく動かしているせいで、フルバックなショーツの後ろ側も、お尻の割れスジに沿って布地が集まってきてしまい、食い込むようなTバック状態になっていました。
 お尻の皮膚に当たる空気の感触が増えたせいで、それがわかりました。
 もちろん、前も食い込んできているはずです。
 結果、シミの範囲も広がって・・・
 そこまで考えたとき、ストップがかかりました。

「Bタイプのインナーは少しフィットさせ過ぎたかしら?」
「そうですね。でも、たくし上がりは、妙にエロティックで、見方によってはクライアントの要望に沿っているとも言えますよ」
「それはそうなのだけれど・・・確かもう少しルーズなタイプも作ったわよね?」
「その場合、襟ぐりや腋の余裕の調整が難しそうですね。隙間からポロリ問題が」
「Aタイプのほうは、問題無さそうね。スカートのひるがえり方もそこそこだし」
「重めにつくりましたから。あの程度のチラリなら、メディアでも許容範囲かと・・・」
「ミスリードさせたいなら、両タイプ共Tバック着用が必須のようね・・・」

 私たちに休憩を命じた部長さまは、リンコさまにミサさまも加わって、何やら真剣にディスカッションされています。
 私は急な運動で乱れた呼吸を整えるため、窓と窓のあいだの柱に背中を預けてうなだれていました。
 そこへ、こちらも少し息を切らせた感じのほのかさまが、お声をかけてくださいました。

「こんな衣装を着て歌って踊らなきゃならないなんて、アイドルさんて、意外と大変な職業なのね」
 顔を上げると、ほんのり火照ったような、ほのかさまの可憐な笑顔。
 私の顔を嬉しそうに覗き込んできます。
「あ、はい。私もそう思います・・・」
「わたしは、この衣装、すごく恥ずかしいわ。こんな超ミニ、私生活では絶対に穿かないもの」
 おっしゃってから私の下半身にチラッと視線を投げるほのかさま。

「でも直子さんが着ると、セクシーですっごくいい。やっぱり若いっていいな。肌もプルンプルンでうらやましい。プロポーションだって抜群だし」
 インナーのせり上がりで丸見えになっているまま直しそびれていたお腹を中心に、ほのかさまからの熱い視線を素肌に感じ、モジモジするばかり。
「そ、そんなこと・・・ほのかさんのほうがずーっとお綺麗ですし・・・」
「ここに入ってからいろんな衣装を着せられたけれど、今日のはかなりキワドイ部類。直子さん、よくがんばったわ」
 ほのかさまがニッコリと微笑み、イタズラっぽくウインクまでしてくださいました。

「それに直子さんて、お若いわりにずいぶんイロっぽい表情されるのね。隣で踊っているとき、横目でチラチラ見ながら見惚れちゃった」
「そ、そんな・・・」
「ううん。すごくいじらしいお顔だったわよ。なんだかギュッと抱きしめたくなっちゃうような」
 憧れのほのかさまのお言葉に何てお答えすればいかわからず、ただドギマギするだけの私。
「ねえ?ちょっとお腹、さわっていい?」
「えっと、あの・・・」

 そんな会話に、部長さまが不意に割り込んできました。
「はいっ、おつかれさま。Aタイプのほうには、大きな問題は無いみたい。たまほのはそのまま、休んでいていいわ」
 ほのかさまへ向いて、おやさしくおっしゃる部長さま。

「Bタイプのほうは、もう少し見てみたいの。悪いけれど、森下さんはもう少しつきあってください」
 部長さまがいつもの業務命令と同じ口調でおっしゃいました。
「は、はい・・・」
「上をこっちに着替えてくれる?」
 今着ているのと同じようなインナーを差し出されました。

「今のよりルーズフィットなサイズ。これに着替えてもう一度踊ってみて」
 私の顔を真正面から見つめて、無表情でおっしゃる部長さま。
「わかりました」
 その手から衣装を受け取り、部長さまの端正なお顔を見つめてうなずきました。
 部長さまの形の良い唇が、つづけて確かにこう動きました。
「今度はブラも取ってください」

「えっ!?」
 着替えようとインナーのジッパーに伸ばしかけていた指が宙ぶらりんに止まりました。
「ブラって、ブラジャー、も、ですか?」
「そう。ユニットの中に何人かノーブラを売りにする子もいる、っていう話なのよ。だからそっちの具合も見ておきたいの」
「は、はい・・・」
 突然の羞恥責め的なご命令に、とりあえずそう答える以外の言葉が出てきませんでした。


オートクチュールのはずなのに 31


2015年12月20日

オートクチュールのはずなのに 29

 ふと横を見ると、ほのかさまがワンピースをすっかり脱ぎ終えていました。

 ペールホワイトと呼ぶのでしょうか、ひんやりとした雰囲気の色素薄めな肌色の素肌が、応接室の窓から差し込む日差しにクッキリ照らし出されていました。
 どちらも少しだけフリルで飾られた、清楚という言葉がぴったりな真っ白なハーフカップブラとフルバックのショーツ。

 ほのかさまって、確実に着痩せするタイプです。
 思っていた以上にボリューミーなバスト、キュッとくびれたウエスト、そこから流れるような曲線を描いてツンと上を向く逆ハート型のヒップ。
 早乙女部長さま、リンコさま、ミサさまも、見惚れたようにほのかさまの神々しいまでの肢体を凝視していました。

 私も吸い寄せられるように見惚れかけたのですが、ハッと、自分が今置かれている状況を思い出しました。
 ええい、もうなるようにしかなりません。
 
 もしもノーパンだったら、ついうっかり、で思い切りドジっ子になって、なんとかお笑いでごまかそう。
 幸いなことに、私の本性をご存知なチーフもいらっしゃらないことだし。
 ほのかさまに注目が集まっているうちに、と思い、急いでシャツブラウスのボタンを上から外し始めました。

 ブラウスのボタンを3つまで外し、着けていたブラジャーがチラッと見えたとき、はっきり思い出しました。
 大丈夫、今日はちゃんとショーツも穿いている。
 ホッと一息、胸を撫で下ろしました。
 今朝、なぜこの下着たちを身に着けることにしたのかまで、ハッキリ思い出していました。
 と同時に、昨夜、どんなオナニーをしたのかまでも。

 昨夜は、お姉さまとの連休中のあれこれの思い出し自虐オナニーシリーズ。
 お姉さまのお部屋のベランダで白昼、人間洗濯物干しにさせられる妄想でした。

 全裸でベランダに連れ出された私は、ベランダの下からもよく見えるところに立たされ、両腕を左右へ水平に挙げるよう命令されます。
 お姉さまが私の腕に、タオルやハンカチを洗濯バサミで留めていきます。
 皮膚とお洗濯物を一緒に挟んで留めるのです。
 
 更に、長い紐を結んだ洗濯バサミを私の乳首に噛みつかせ、紐のもう一方の端を洗濯物干しの柱に結び付けて、その紐にもお洗濯物をどんどん掛けていくのです。
 お洗濯物の重さで乳首が引っ張られ、ついには激痛と共に外れてしまいます。
 外れてしまってお洗濯物を落としてしまったら、もちろん更にキツイお仕置きが待っているのです。

 そんな妄想をしながら、自分のからだにたくさんの洗濯バサミをぶら下げました。
 私の大好きな、おっぱいを絞り出すような形に麻縄で乳房を縛り、ツンと尖った乳首に洗濯バサミを噛ませて引っ張りました。
 クリットローターとバイブレーターはずっと震わせっぱなし。

 頭の中には、私の恥ずかしい姿をベランダにみつけた通行人やお隣の女子校の窓から、情け容赦の無い嘲りや蔑みが絶えず聞こえていました。
 棒枷で大の字に開きっ放しのマゾマンコからは、愛液が始終ポタポタと床に垂れていました。
 そんなふうに私は、鏡張りのお仕置き部屋で首輪から垂れたリードの鎖をユラユラ揺らしながら、夜が更けるまでアンアン身悶えしつづけたのでした。

 その流れで、今朝起きて下着はどうしようかと迷ったとき、実際にもその後、お姉さまからご指示いただいて身に着けたアレにしよう、と決めたのでした。
 元々はお姉さまの持ち物であった、シルバーのオシャレなブラジャーとショーツ。
 そこまで思い出したとき、急に別の不安が頭をもたげてきました。

 昨夜の痕跡が肌に残っていないだろうか?
 たとえば縄の痕とか、洗濯バサミの小さな鬱血とか、鞭で叩いたミミズ腫れとか・・・
 オナニー後はゆっくりお風呂に入って素肌マッサージはしましたが、今朝はまったくそんなことを気にせずお洋服を着てしまいました。
 自分でもどうなっているか、脱いでみなければわかりません。

 ブラウスのボタンはすべて外し終えていました。
 開いた隙間から肌を見た感じでは、大丈夫そう。
 他のみなさまは、インナー、ブレザー、スカートとすでに身に着け終えたほのかさまに、今度はアクセサリー類を着けるお手伝いをされています。
 そのあいだに、ささっと脱いで、ささっと上だけでも着てしまおう。
 ブラウスの前を開き、あたふたと袖を抜きにかかりました。

「あら、森下さんは、うちのランジェリー、着けてくださっているのね?」
 いきなり早乙女部長さまからお声がかかって、盛大にドッキン!
 いつの間にか部長さまが私の前に来られていました。
 
 不意を突かれた私は、脱いだブラウスをテーブルの上に置くのが精一杯。
 咄嗟に自分の上半身に視線を走らせ、左脇腹に赤い点みたいのが見えた気がしてサッと右手で隠しました。
 それだけでは不自然なので左腕をその上に交差させ、お腹の前で両腕を組むような格好、その格好でフリーズ。

「でもおかしいわね。そのシリーズはまだ流通に乗っていないはずじゃなかったかしら?」
 部長さまが私のバストをまじまじと見つめながらおっしゃいました。
 お腹の前で両手を組む格好ですから、見方によっては、おっぱいをこれ見よがしに突き出して強調しているふうに見えちゃったかもしれません。
 部長さまのお声につられるように、リンコさまとミサささま、そしてほのかさまの視線も私を追いかけてきました。

「あ、あの、これは、お休み中にチーフのお家のお掃除のお手伝いに伺いまして、そのときに貸していただいたと言うか、譲っていただいたと言うか」
 フリーズしたまま説明する私の上半身を、みなさまの視線が舐めるように這い回るのがわかりました。
「そんなことがあったのね。着け心地はどう?」
「はい、とてもいいです。やわらかで軽くて・・・」
 布地がソフト過ぎて、私の尖った乳首が露骨に布を押し上げているのが、生々しくわかる程でした。

「そうでしょう。いいシルクなのよ、それ。でもそのサイズでは、森下さんにはちょっとキツイでしょう?合わないブラ着けていると、バストの形が崩れちゃうわよ?」
「あ、そ、それはチーフからもご助言いたただきましたけれど、そんなに気になるほどではなかったので・・・」

「だーめ。せっかく奇麗なバストしているのだから、丁寧に育てないと。確か森下さんに合うサイズでそのカラーのサンプルも倉庫にあったはずだから、後ほどわたくしが交換してあげます」
「あ、はい。それは、ありがとうございます」
 部長さまと会話をしているあいだ中、みなさまの視線が私のバストに集中しっぱなしで、それを感じて乳首は益々尖り、早く何か着たくてたまりませんでした。

「たまほののほうはだいたい終わったから、今度は森下さん。まずそれを着て」
 リンコさまがほのかさまの着付けに戻り、部長さまが直々に私を担当してくださるみたいです。
 ミサさまは、私とほのかさまを交互に見ています。

 部長さまが指さされたのは、真っ赤をベースに緑のチェック柄を散りばめたノースリーブのシャツ、と言うよりタンクトップみたいな形の前開きのインナーでした。
 前開きは、ダミーのボタンがデザインで付いているものの、実際はジッパーで開閉する形。
 あらためて手に取ってみると、ずいぶん薄い生地で若干伸縮性もあるみたい。
 一刻も早く脇腹を隠したいという一心で、ささっと両袖を通し、テキパキとジッパーを上げました。

 ジッパーを閉じると、かなりピチピチフィットなボディコンシャス。
 両腋、胸元、背中のどれもが大胆に開いていて、雰囲気的にはビスチェに近い感じ。
 丈も短くて、おへそがもろに覗く長さで終わっています。

「うん。いい感じ。それにブレザーを羽織ってアクセを付けるのだけれど、とりあえず先にボトムを穿いてしまいましょう。ジーンズ、脱ぎなさい」
 部長さまがおっしゃった口調がお姉さま、いえ、チーフに似ていてドキンとしたとき、同時にふっと新たな懸念が急浮上してきました。
 そうだった・・・
 ドキドキが急激に高まる中、リンコさまからお声がかかりました。

「部長、Aタイプのほうは、最終こんな感じでよかったでしょうか?」
 見ると、ほのかさまの着付けが終わり、リンコさまと連れ立って部長のそばにお立ちになりました。
「うん。いい感じね。アクセも全部着けた?」
「はい。ソックスと靴以外は仕様通りのはずです」

 私が着ているのと同じ色柄のインナーの上に、緑と赤をオシャレに配色したブレザーを羽織っています。
 ただし、ほのかさまの襟元にはYシャツ風のカラーが付いていて、ソコから結んだフワッとした赤いリボンが、大きく開いた胸元を絶妙に隠していました。
 なるほど、最終的には、ああいう形になるんだ・・・
 自分のがら空きな胸元を見下ろして、少し安心しました。

 赤と緑の可愛らしいチェックのミニスカートは、けっこうローライズでほのかさまもおへそが見えています。
 丈は膝上20cm位。
 これで激しく歌って踊ったら、下着が見えてしまうことは確実です。
 だけどああいう人たちは、俗に言う、見せパン、を穿いているはずだから。

 そんな姿でスクッと立っているほのかさまは、見るからに可憐で、チラッと見えるおへそが小悪魔的にセクシーで、本当に芸能人タレントさんと言われても誰も否定出来ないほど、華やかなオーラを放っていました。

「たまほのって、どんなファッションしてもそれなりにすっごく似合っちゃうんだから、反則よね」
 リンコさまの本気半分からかい半分のお声に、頬をポッと染めて反応するほのかさま。
「でも、わたし、これはかなり気恥ずかしいです・・・おへそが・・・」
 スカートの裾を引っ張りつつ照れたお声でポツンとつぶやいたほのかさまの、その可愛らしさと言ったら。
 魅入られたようにほのかさまを見つめているミサさまのお顔が、子猫のようにデレていました。

「おーけー。たまほのはちょっとそこで待っていて。森下さんのほうも片付けてしまいましょう」
 部長の一声に、再び4人の視線が私に集中しました。
 途端に私の懸念も再浮上。

 これから私は、みなさまの前でジーンズを脱ぐわけですが、ノーパンでないことはわかり、サイアクの事態は避けることが出来ました。
 でも、穿いてきたショーツが問題でした。
 頭の中で、お姉さまとのあの日の場面が、まざまざと再生されました。

「出発前に、もうひとつだけネタバレしてあげる。あたしがなぜ、直子にグレイのパンツを穿かせたと思う?」
「・・・わ、わかりません・・・」
「グレイのシルク地だとね、直子がいやらしい気持ちになってマゾマンコを濡らしちゃったとき、そのシミが一番クッキリ目立つのよ。黒々と、遠くから見てもわかるくらい」
「・・・」
「そんなのみんなに見られたら、ある意味ノーパン見られるより恥ずかしくない?サカっている証拠だし、ぱっと見でもお漏らしみたいだし。だからせいぜい濡れないように、がんばりなさい」

 手遅れでした。
 その日は朝から、マゾマンコがキュンキュンしちゃう出来事が何度もありましたし、今だって窮地に立たされた自分の被虐に、自分の意志とは関係の無いところで、ウルウル疼いていしまっています。
 自分のからだですから、今現在私が濡れていることはわかっていました。
 問題は、それが今、どのくらいまでショーツに滲み出てしまっているか、でした。

 逃げ場所のないこともわかっていました。
 私は、何がどうしたって今ここで、みなさまの目前でジーンズを脱がなくてはならないのです。
 でも、そんなふうに考えるほど、余計に濡れてきてしまうマゾな私・・・
 いっそのこと、誤ったフリをして、ショーツごとジーンズを脱いでしまい、剥き出しパイパンマゾマンコをみなさまにご披露してしまおうか・・・
 そんな自虐的な妄想まで浮かんでくる始末。
 
 もはや仕方ありません。
 覚悟を決めて靴を両方脱ぎました。

 ゆっくりとボタンを外し、ジッパーを下げました。
 それから大げさに身を屈め、縮こまるみたいな体勢でゆっくりとジーンズを下ろしていきました。
 視界にショーツの銀色な布地が見えました。
 パッと見では、それとわかる程の変色は無いみたい。
 大急ぎで足元まで下ろし、両脚を抜きました。

 再び立ち上がると、目の前にスカートが差し出されました。
「はい、これ」
 リンコさまが差し出してくれています。
 他のかたがたの視線は、私の下腹部に集中しているように感じました。

 手にしたスカートも、思ったよりも薄くて軽い生地でした。
 広げてみると巻きスカート。
 ボタンで調節するようです。

 いつものスカートの感じでウエスト少し下にあてがうと、丈がぜんぜん短くて、ショーツがほとんど隠れません。
 あれ?
「あ、それはね、ローライズだからもっと下で穿くの。腰骨のちょっと上くらい」
 リンコさまが寄ってこられ、私の足元にひざまづきました。
「やってあげる。ここにこうして・・・」
 私の右側にひざまづいたリンコさまが私の腰にスカートをあてがい、ボタンを留めてくださいました。
 
 スカートを持ったときから気がついていたのですが、私のスカートはほのかさまのに較べて、格段に短かい仕様のようでした。
 現に、リンコさまに穿かせていただいた後でも、スカートの裾は股の付け根ギリギリ。
 ちょっとでも動けばお尻全開、クロッチ丸見えとなることでしょう。

「うん。そんな感じね。デザイン通り。あとは小物」
 部長さまが満足そうにうなずきました。
 えーーーっ!?
 私の心中、大騒ぎ。

「あのあの、でも、このスカート、ほのかさまのと較べて、すごく短かすぎませんか?」
 我慢出来ずに思わず言ってしまいました。
 あわて過ぎたので、いつも心で思っている、ほのかさま、と呼んでしまいました。

「問題は無いの。Bタイプはその仕様」
 部長さまが真面目なお顔で、キッパリとおっしゃいました。
「でもこれでは、何て言うか、動くたびに、し、下着が丸出しになっちゃいますけれど・・・」
「いいのよ。彼女たちはそれを見越して、見せるための下着を身に着けるから」
 さも当然という感じでお澄まし顔の部長さま。

 そんなこと、私だって知っています。 
 これを着るタレントさんは、そうなのでしょうけれど、そんなキワドイものを今ここで着ている私は、見せパンではなくて、自分の日常的な下着なのですけれど・・・
 そう抗議したいのですが、もちろん出来るはずありません。
 そんな自分の可哀相な立場に、被虐大好きマゾの私がまた反応して、という悪循環。
 奥の潤みを感じて、そっとスカートの裾を引っ張るように股間を両手で隠しました。

「この衣装はね、基本、同じデザインで2タイプ作れっていう依頼なの。たまほのが着ているのがAタイプ。森下さんのがBタイプ」
 部長さまが出来の悪い生徒を諭す先生みたいに、ゆっくり説明してくださいました。

「アウェイとホームみたいなものよ。Aタイプは、テレビや、スポンサー主催のイベントライブで数曲披露するとか、言わばメディア用。Bタイプは、彼女たちの事務所が企画するライブステージ用」
「事務所は、彼女たちを色っぽい感じ、セクシー路線で売り出すつもりなの。それで口コミでファンを増やす作戦。だから基本的に露出度多め。でもテレビとかのメディアはいろいろと小うるさいから、Aタイプみたいにおへそまで。スカートも見えるか見えないかくらいに抑えたチラリズム路線」
「その分、ホームではキワドイくらい大胆に挑戦したい、っておっしゃるから、こうなったの」

「そ、そうだったのですか。それでは仕方ありませんね」
 クライアント様のご要望なら、私が文句を言ってもはじまりません。
 そういうことであれば、早くこの試着テストを終えて普通の服装に戻ろう、と頭を切り替えました。

「そういうことですと、ほのかさんのようなカラーや胸元のリボンも、私のには無いのですね?」
 自分の、えげつないくらい大胆に開いた胸元を見下ろしながら、一応お聞きしました。
 ハート型に開いたゾーンにはおっぱいの谷間がクッキリ三分の一くらい露出して、おまけにブラジャーもインナーも生地が薄めなので、私のやんちゃな乳首は、外から見ても生地越しにうっすら位置がわかりました。

「そうね。アウェイ用はブレザー着たままが前提だから、ホルタートップにしてカラーを付けてリボンを結ぶことにしたの。その代わり、背中側は全開よ」
 部長さまがおっしゃると、待ってました、とばかりに、ほのかさまがつづけました。
「それなんです。わたしが一番落ち着かないのは。上着を脱いだら背中側のブラのストラップが丸見えですよね?」
「それは、さっきも言ったようにAタイプは本番中ブレザーを脱がない前提なので、たまほのは気にしなくていいの」
 ほのかさまの抗議を、部長さまがあっさり退けました。

「あ、それでBタイプのネックアクセは、これね。チョーカー」
 部長さまがテーブルからつまみ上げ、私の目の前に突き出してきたのは、以前、シーナさまが私にプレゼントしてくださったのとよく似た形の、エンジ色に近い濃い赤色のチョーカーでした。
 男性の腕時計のベルトくらいの幅の、ワンちゃんの首輪にそっくりなチョーカー。
 中央付近にハート型のリングが三つ、ぶら下がっていました。

「アイドルオタクの人たちに受けそうだからって、事務所のプロデューサーのゴリ押しで決まったの。なんだか気味の悪い分析をしていたわ。わたくしたちは、もっとエレガントなアクセをいくつか推薦したのだけれど」
 部長さまがさもつまらなそうにおっしゃいました。

 私は、それを見た瞬間にゾクゾクっとからだが震え、まずシーナさまにいただいたチョーカーが思い浮かび、それが消えるとすぐ、今も社長室の自分のバッグの中にこっそり忍ばせている、お姉さまへの服従の証である愛用の首輪を思い出していました。
 そして、私がそれを着けて行なった、破廉恥な行為の数々。

 私、これからみなさまの前で、このチョーカーを着けるんだ・・・
 私の中のマゾを具現化してしまう、禁断の装飾具。
 からだがカッと熱くなり、その日最大の奥の潤みを股間に感じていました。


オートクチュールのはずなのに 30


2015年12月13日

オートクチュールのはずなのに 28

 応接室へお茶をお持ちすると、ほのかさまとご来客の男性おふたりが熱心にお話しされていました。
 テープルの中央に何かの図面を広げ、みなさまその図面を見るためにうつむいておられました。

「失礼します」
 私の声にほのかさまがお顔を上げました。、
「あら、ありがとう」
 つられるように、お客様おふたりもお顔を上げました。
 かなり緊張しつつ、それぞれの前にお茶を置いていきます。

 お客様の男性おふたりは、テーブルにお茶を置くと私にお顔を向け、座ったまま真面目なお顔で会釈を返してくださいました。
 おひとりは、がっしりした体格で短髪の、俗に言う体育会系タイプ。
 おひとりは、スラッと細身でやや長髪気味なクセッ毛に銀縁メガネの、インテリ理工系タイプ。
 おふたりとも、お歳は30手前くらいでしょうか、イケメンと言って良い男性らしい整ったお顔立ちで、ピッタリめのビジネススーツがそれぞれよく似合っていらっしゃいました。

 お茶を置くために近づいたとき、女性とは明らかに違う匂いが微かにして、それに気づいた途端、急激に胸がドキドキし始めました。
 お茶を置き終えてお辞儀をひとつ、逃げるように応接室を後にしました。
 社長室へと小走りに駆け込み、ドアは開け放したまま入口のところでホッと一息。
 呼吸を整えてお部屋の奥に目を遣ると、私のデスクの椅子にミサさまが座って私を見ていました。

「息抜き」
 ミサさまがポツンとおっしゃり、私の席を立って窓際の応接に移動されました。
「あ、そうでしたか」
 ミサさまの動きに誘われるように、私もミサさまの隣に座りました。

「彼ら、来ているんだ?」
「はい。ほのかさんがお相手されています」
「直子はオトコ、苦手?」
「えっ?」
「さっき入口のところで、動揺してるような、フクザツな顔、していたから」
「あ、はい。入社前のチーフのお話では、お取引先は女性ばかりと聞いていたので、びっくりしてしまって・・・」
 ミサさまがニッと笑ってうなずきました。

「でも、安心して。彼らはぜんぜん、問題無い」
 ミサさまが少し声を落として、その童顔をイタズラっぽくほころばせました。
「えっ?」
「オンナ、という意味で、彼らが直子に興味を持つことはまったく無いから」
「えっと・・・」
「彼らは、うちと提携しているスタンディングキャットっていう会社の社員」
 そう言えば、ご来客の予定表にはSC社と記されていました。

「そのお名前からすると、ペット用品か何かの会社さまですか?」
 ペット用品、と自分で口にした瞬間、唐突に愛用の首輪が頭に浮かび、一瞬ビクン。
 私の質問にミサさまは、愉快そうに首を左右に振りました。

「ううん。寒いダジャレ」
「ダジャレ?」
「キャットは?」
「猫、ですよね?}
「スタンディングは?」
「うーんと、立つ、とか立っているとか・・・」
「立つ、と、猫。そういう種類の男性。つまり、だんしょくか」
「だんしょくか?」
 ミサさまのお言葉を鸚鵡返しして、ハッと気がつきました。

「あっ!」
「そう。彼らはホモセクシャル。タチとネコっていう痛いダジャレの社名」
 愉しそうに微笑むミサさま。

「スタンディングキャットは、うちの会社の男性版。同性愛男性による同性愛男性のためのファッションブランド」
「うちと同じで、社員は全員同性愛者。流通やデザインで以前から相互交流している。生地を共同購入したり」
「だから、彼らが直子に対して異性愛的な興味を持つことは、あり得ない」
「そうだったのですか・・・」
 ミサさまのご説明を聞いて、一気に緊張が解けました。

「イベントの打ち合わせに来たのだと思う。会場の設営や場内整理、主に力仕事を手伝ってもらうことになるから」
 ミサさまは、私を慈しむような柔らかい微笑を浮かべ、私の顔を見つめながら、説明してくださいました。

「彼らは、とてもユニーク。ファッションやメイクにすごく詳しいし、並みの女性より女子力高いのが何人もいる」
「基本、ナルシスト。だけど、コミュ能力も高いから、話すと面白い人が多い。女性に対する人当たりがギラギラしていないから」
「それに、ナマのビーエルを間近でライブで見れるから、とても貴重」
「直子も、彼らをオトコとして意識しないで、ボクらに対するみたく普通に接すればいい」

 ミサさまのご説明で、かなり気が楽になりました。
 そういうことであれば、男性といっても普通程度には接することが出来そうです。
 体臭と体毛は、やっぱり苦手だけれど。

 それに、お休み中のお姉さまとのえっちな冒険で、男性からの視線にずいぶん耐性がついていました。
 えっちな妄想のときに、不特定の男性の視線を思い浮かべることが出来るくらいに。
 もしも、それ以前の私だった頃に今日のお客様が現われたら、怖気づいてしまって、お茶をお出しすることさえ出来ず、ほのかさまに大きなご迷惑をおかけしてしまったかもしれないと思うと、それだけでも、お姉さまとの三日間は有意義なものだったと、あらためて思いました。
 
 不意の男性襲来に対する警戒心が完全に解け、打って変わって、男性同性愛者、という存在に好奇心さえ湧いてきました。
 と同時に、ふともうひとり、最近になって頻繁にオフィスを訪れる謎なお客様のことを思い出しました。
 ついでと言っては失礼ですが、この機会にそのかたのこともミサさまに尋ねてみることにしました。

「お客様と言えば、最近よく、早乙女部長さまを訪ねてこられるお綺麗な若い女性がいらっしゃいますよね?」
「?」
 誰だろう?というふうに可愛らしく小首をかしげるミサさま。

「えっと、背格好は私と同じくらいで、でも、いつもセンスの良いファッションで、何て言うか、華があるって言うか、芸能人ぽいオーラがあって・・・」
「このところ毎日のようにアポ無しでお見えになって、早乙女部長さまとお話しされた後、デザインルームにお入りになったりもして・・・」
 そのかたのお名前は、ご来客予定表にも無く、いつも突然いらしていました。

「ああ。絵理奈のこと?アヤ部長、直子に紹介してない?」
「ええ。いつもお茶をお出しするとき会釈するくらいで」
「彼女は、今度のイベントでモデルしてくれるグラビアアイドル。アヤ部長がどっかからつれてきた」
「へー。やっぱりモデルさんでしたか。お綺麗なかたですものね。絵理奈さんていうんだ」

「元は地方でレイヤーしていたらしい。ボクらは知らなかったけれど。それでどっかの事務所にスカウトされてイメージビデオを違う芸名で数本出してる。絵理奈は着エロビデオのときの芸名。そこそこ売れているらしい」
「歳も、直子と同じか、一個上くらい。ネット界隈ではけっこう人気ある」
 ミサさまが淡々とご説明してくださいます。

「うちのイベントで披露するアイテムはけっこうキワドイから、あまり有名なモデルは使えない。かと言って、AV女優を使うとキワモノっぽいイロがついちゃう危険性がある。そういう意味でアヤ部長はいい人を捕まえたと思う」
「うちのイベントは業者向けで非公開だし、会場で一切写真は撮らせないから、彼女の経歴にも傷はつかない。カタログにも顔は出さないし」
「今回のイベントのアイテムは、すべて彼女のからだに合わせて作った。デザインルームの中では、彼女はいつも、ほとんど裸同然。かなりえっちなからだつき」
 ミサさまが思い出し笑いのような、艶っぽい笑みを浮かべました。

 早乙女部長さまが絵理奈さまとデザインルームにこもっているときは、ミサさまとリンコさまも交えて、そんなことになっていたんだ・・・
 お仕事とは言え、着衣三名に囲まれた裸の美人モデルさん。
 その様子を想像したら、ウルウル疼いてきてしまいました。

「ちょっと生意気だけれど、プロ根性はある。どんなアイテムでもひるまなかったし」
「イベント終わったらリンコと3人で何かコスプレイベントに出ようって話してるから、そのときは直子も誘う」
「あ、はい。って言うか、うちのイベントのアイテムって、プロのモデルさんもひるむ程、キワドイのですか?」
「うふふ。それは当日になってのお愉しみ。今年のテーマは、エロティックアンドエクスポーズ、だから、なおさら」
 イタズラっぽく微笑むミサさま。

「あっ、彼らが帰りそうだから、ボクもそろそろ仕事に戻る」
 応接室のほうがガタガタしているのに気づいたミサさまが、そうおっしゃって立ち上がりました。

「もう少しゆっくりされてもいいですよ。せっかく早乙女部長さまもいらっしゃらないのだし。ほのかさんがミサさんとお話ししたがっていましたよ?」
 そう伝えると、ミサさまの頬にポッと紅が注しました。
「いい。照れ臭い」
 可愛くおっしゃって、逃げるように社長室を後にするミサさま。
 そのお背中を見送ってから、私もテーブルのお片付けをしなくちゃと、応接室へと向かいました。

「お土産いただいたの。先週北海道へ行かれたのですって。後でいただきましょう」
 お客様をドアまでお見送りになり、応接室に戻られたほのかさまがテーブルの上の紙包みを指されておっしゃいました。
 北海道土産として超有名なビスケットに白いチョコを挟んだお菓子の、大きな包みでした。

「あのかたたちは、うちと交流のある会社のかたたちだそうですね。ミサさんにお聞きしました」
「そうなの。ゲイ男性向けアパレルのかたたち。今度のイベントでお手伝いいただくから、直子さんもお顔を憶えておいたほうがいいわ。あ、さっきご紹介すればよかったわね」
 ほのかさま、なんだかとても楽しそう。

「メガネのかたが橋本さん。マッチョなほうが本橋さん。当日は、あと数名つれてきてくださるそうよ」
「ゲイのかたたちのお話って、本当にためになるの。今日も橋本さんから、お肌がスベスベになるドイツのボディシャンプーのブランド、教えてもらっちゃった」
 あくまで無邪気なほのかさまを見て、私も見習わなくちゃと思います。

 応接室を片し終えて一息ついていると、早乙女部長さまとリンコさまがお戻りになりました。
「お帰りなさいー」
 リンコさまは大きなカートを引っ張っていました。

「ああ疲れた。悪いけれどお茶煎れてくれる?その急須の二番煎じでいいから」
 デスクの上に置きっぱなしだった急須をみつけた早乙女部長さまが、おっしゃいました。
「はいはいー。ただいま」
 急須を持って給湯室へ駆け込む私。
 オフィス内のまったり空気が、一気に引き締まりました。

「たまほのと森下さんがオフィスにいてちょうど良かったわ。あなたたたち、今、手空いている?」
 ご自分のデスクでお茶を美味しそうに飲み干した早乙女部長さまが立ち上がり、私たちにお声をかけてきました。
「あ、はい。これといって急ぎの仕事は・・・」
 ほのかさまのご返事。
 使っていたラップトップパソコンを社長室に戻そうとしていた私も、立ち止まって振り返りました。

「よかった。ちょっと応接に集まってちょうだい」
 手招きしながら、部長さまご自身も応接室へ向かいます。
 その後をリンコさまがつづきました。

「今度うちでね、今年の春にデビューした女子アイドルユニットの衣装を担当することになったのよ」
 応接に集まった4人は、部長さまがお座りにならないので突っ立ったまま。
 私たちの顔を交互に見渡しながら、部長さまがご説明してくださいます。

「それの仮縫いサンプルが今日上がって、これからいろいろ煮詰めていくのだけれど、あなたたちの意見も聞きかせて欲しいの」
 リンコさまがカートを開き、ビニールに包まれたその仮縫いサンプルとやらをテーブルの上に置きました。

「大所帯のユニットで、一軍二軍みたいな選抜制もある、っていう何番煎じ?って感じのコンセプトなのだけれど、まあ、それなりに宣伝にお金はかけるらしいから」
 部長さまが苦笑い混じりでつづけます。

「地下アイドルのめぼしい人に片っ端から声をかけて集めたらしいわ。だから年齢にもけっこう幅があるって。もちろんオフレコだけれど」
「メンバーが多いということは、それだけたくさん作るっていうことだから。わたくしたちにとっても良いことではあるわけ」

 リンコさまがビニールを開き、テーブルの上に衣装を広げています。
 赤と緑に白と黒、そこに金と銀を散らしたきらびやかな衣装でした。
 基本的には、ブレザーとインナーにスカートという、学校の制服のような構成。
 それにリボンとか、キラキラしたアクセサリーが加わるようです。

「11月発売のクリスマスターゲットな新曲だから、この色遣い。ありきたりだけれど事務所からの指定だから仕方ないの」
 部長さまの苦笑いはひっこみません。

「これをあなたたちに実際に身に着けてもらって、何でも気づいたことを教えて欲しいの。基本的に踊りながら歌うことを念頭に置いて、とくにそういった機能的な面をね」
 ふと気づくと、ミサさまもいつの間にか、部長さまを囲む輪に加わっていました。

「こっちがたまほので、こっちが森下さん。それぞれの体型に近いはずだから」
 一見、同じように見えるふたつの衣装を、わざわざ指定されました。
「それじゃあちょっと、着替えてくれる?ソックスは履き替えなくていいから」
「はい」
 ほのかさまとユニゾンでお答えしました。

 指定されたほうの衣装パーツをかき集めて両手に持ち、更衣室へ向かおうと背中を向けると、部長さまからお声がかかりました。
「ちょっと森下さん、どこへ行くの?」
 振り向くと呆気にとられたような不思議そうなお顔の部長さま。

「えっ?どこへって、着替えるために更衣室へ・・・」
 お答えしながら他のかたたちを見ると、リンコさまもミサさまも、部長さまと同じように不思議そうなお顔。
 ほのかさまは、さも当然のようにその場でワンピースのボタンを外し始めていらっしゃいました。

「あっ!あの、えっと・・・」
 それで状況が呑み込めて、盛大に焦る私。
「ここには同性しかいないのだから、別にわざわざ更衣室まで行って着替えることないんじゃない?」
 リンコさまが、心底不思議そうにおっしゃいました。

「森下さんて、極度の恥ずかしがり屋さんなのかしら?それとも何か、わたくしたちに見られたくないからだの傷跡とかがあるの?だったら無理には引き止めないけれど」
 部長さまに至っては心配そうに、すごくおやさしく尋ねてくださいました。

「あの、いえ、別にそういうわけではなくて・・・」
 パニクった私はしどろもどろ。
「そ、そうですよね・・・いつものクセでつい・・・お着替えというと更衣室っていう、何て言うか、こ、固定観念があるみたいで・・・」
 弁解しながら、衣装一式をそそくさとテーブルに戻しました。
 幸いみなさま、あはは、と笑ってくださいました。

 どうしよう?
 えっと私、今日、どんな下着、着けてきたのだっけ?
 って言うか、そもそもショーツ、着けてきたっけ?
 パニクった頭では、そんなことさえすぐに思い出せませんでした。

 その日私は、ジーンズに長めのフリルシャツブラウスという軽装でした。
 ブラジャーを着けているのは確実ですが、ショーツの記憶は曖昧。
 ムラムラ期真っ只中の私は、頻繁にノーパンジーンズを愉しんでいました。

 やっぱり、お願いして更衣室へ行かせてもらおうか・・・
 だけどさっき、更衣室へは行かないと宣言したばかり。
 それに、仮に更衣室へ行ったところでノーパンだったら、着替える衣装はスカートで、それもかなりミニっぽいですから、その先はもうごまかせません。
 
 甘美ながらも絶望的な被虐の陶酔が、ツツツツッと背筋を駆け上りました。
 

オートクチュールのはずなのに 29


2015年12月6日

オートクチュールのはずなのに 27

 その日は珍しく早乙女部長が午前中から、リンコさまと一緒に外出されていました。
 オフィスに残っているのは私とほのかさま、そしてミサさまがデザインルームに。

 午前11時頃に来社されたお客様のお相手のために、ほのかさまが応接室にこもったので、私は電話番も兼ねてラップトップパソコンをメインルームへ移動し、空いているデスクでお仕事をつづけました。
 そのお客様がお帰りになって、応接室でランチタイム。
 持参したお弁当を広げ、久しぶりにほのかさまとのおしゃべりを、ゆっくり楽しみました。

「イベントの準備も大詰めみたいですね?」
 私が尋ねると、ほのかさまがニッコリ微笑まれました。
「そうね。アイテムの準備は順調みたい。でも、営業にとっては、これからが正念場なの。ひとりでも多くのお得意様に見に来ていただかないと」
「大変そうですね。間宮部長さまは、今日は仙台ですね?」
「そう。あのかたのおからだも、心配だわ。連日ハードスケジュールだから」
 ほのかさまのお顔が少し曇りました。

「今日、早乙女部長さままでお出かけになられたのも、そういう理由なのですね?」
「ううん。早乙女部長は別件よ。他のお仕事のサンプルが上がるから、都内のアトリエへ行っているはず」
「へー」

「でも、こんなことを言うと怒られちゃいそうだけれど、早乙女部長がいらっしゃらないと、オフィスの空気がなんとなくまったりしちゃうわよね?」
 ほのかさまがイタズラっぽくおっしゃいました。

「はい。いつになくのんびりって言うか、リラックスって言うか」
「うふふ」
 ふたりで顔を見合わせて含み笑い。
「逆に言うと、それだけオフィス内で、あのかたの存在感が大きいっていうことよね。いらっしゃるだけで、背筋が伸びる、みたいな」
 
 確かにそうでした。
 早乙女部長さまが電話や対面でキビキビとお仕事の指示を出されたり、キッパリ駄目出しされたりするのを見ていると、この人には叱られたくない、ミスをしてはいけない、という思いが募り、良い意味での緊張感をもたらしていました。

「直子さんは、ずっとオフィスにいるから、けっこう毎日、気が抜けないでしょう?」
「そうですね。でも私、たいてい午後からは社長室にこもっちゃいますから」
「チーフのお手伝いしていた頃は、わたしもそうだったわ」
 再びふたりで、うふふ。

「いけない。少しまったりしすぎちゃった。この後1時半にまたお客様がいらっしゃるから、急いで食べなくちゃ」
 ほのかさまが少しあわてたように、ちまちまお箸を動かし始めました。

 お休み明けから連日のように、さまざまなお客様がオフィスにお見えになっていました。
 問屋様、小売店様、製縫を請け負ってくださるアトリエのかた、生地問屋様、海外買付のバイヤーのかた、エトセトラ、エトセトラ。
 そんな中に、私が見知ったお顔がおふたり、いらっしゃいました。

 おひとりめは、ちょうど一週間前、早乙女部長を訪ねてこられた里美さま。
 里美さまというのは、私とお姉さまの出逢いの場となった横浜のランジェリーショップで、マヌカンをされていたかたで、フルネームは愛川里美さま。
 
 私とお姉さまが狭い試着室の中で人知れずえっちなことをしていたとき、ずっとお店番をしてくださり、その後に、私がお姉さまに全裸オナニーショーをご披露して、あまりの気持ち良さに気を失ってしまったときには、お姉さまと一緒に介抱してくださった、私とお姉さまとの秘密を共有する、言わば共犯者みたいな存在のかた。
 お姉さまによると、私が全裸で気絶しているとき、膣に指を挿れられるイタズラをされた仲でした。

 その可愛らしい小顔な童顔を応接室でみつけ、呼吸を忘れるほど驚いて、持っていたお紅茶を載せたトレイを危うく取り落としそうになりました。
 ご来客の予定表には会社名しか記してなく、その会社からはいつも別のかたがお見えになっていたので、まさに不意討ちでした。

「うわー。お久しぶりー。三ヶ月ぶりくらい?お元気そうね?」
 里美さまが屈託の無い笑顔を向けてくださいました。
「あら、ふたりは面識、あったの?」
 早乙女部長さまが私たちの顔を交互に見て、訝しげに尋ねます。
 里美さまは、うちと親密なお取引先会社のひとつに勤められていて、うちのブランドのネットショップを担当してくださっているので、お仕事上のメールは何度か遣り取りしていました。

「あ、はい。今年の春先に渡辺社長さまがリサーチで、ショップに五日間ほど詰められたことがありましたよね?あのときにわたくしもご一緒して。そのとき偶然、お客様としてお見えになられました」
 里美さまがスラスラっとお答えになりました。

「そ、そうなんです。あのとき、店長さんをされていたチーフからご紹介いただきました」
 私もすかさず首をコクコク縦に振りました。
「ああ、横浜のショップのマーケティングリサーチね。へー。そんなことがあったの」
 部長さまが心底驚いたお顔をされています。

「人の縁て不思議なものね。だけどよくそんな、一度お店で会っただけの人を憶えていたわね?森下さんが何か印象に残るようなことでもしたの?」
 部長さまは、本当に不思議そうなお顔で、里美さまにお尋ねになりました。

「いえ。とくにそういったことはないのですが、お綺麗なかたでしたし、渡辺社長さまにインナーのことで熱心にご相談されていましたから、印象が深かったのかもしれません」
「だから、森下さんが御社に入られて、更にネットショップのご担当になられるとお聞きしたときは、わたくしも不思議なご縁を感じました」
 里美さまは笑みを絶やさずにシレッと、そんなふうにおっしゃいました。
 私はもう、居心地の悪さに胸がドキドキ。

「そう。やっぱり愛川さんは、マヌカンとしても優秀なのね。接客業で一番大切なのは個々のお客様に対する記憶力ですもの。それがキメ細かい接客につながるのだから。そんなかたがブレーンにいてくださって、わたくしも心強いわ」
 部長さまは、里美さまにそうおっしゃった後、私のほうへ向きました。

「今回のイベント、愛川さんもわたくしたちの側でお手伝いしてくださるのよ。不思議な縁同士のふたりで力を合わせて、がんばってください」
「は、はいっ!精一杯がんばります」
 おふたりに向けて、思わず深々とお辞儀する私。

「それで、当日なのだけれど・・・」
 部長さまが里美さまに向き直ったのを合図に、静々と応接室を後にする私。
 里美さまは、人懐っこい笑顔を浮かべて私を見送ってくださいました。

 その数日後には、シーナさまがお見えになりました。
 シーナさまとお会いするのも、就職祝いをいただいたとき以来でしたから、ずいぶん久しぶりでした。

「あら、直子さん、ごきげんよう。お仕事がんばってる?」
「あ、ごきげんよう。お久しぶりですシーナさま」
 大きなカートを転がして入ってきたシーナさまは、勝手知ったる他人の家みたいな感じで、ズンズン、おひとりで応接室へ入っていきました。

 社内的に私は、シーナさまのご紹介で入社したことになっていますから、こんなふうに親密さを醸し出しても不自然ではないのですが、お姉さまとパートナーになる以前は、私をさんざん虐め抜いた私の元ご主人様であり、つい数ヶ月前にお姉さまへマゾペット譲渡された身からすると、オフィス内でお会いすることに少なからぬ心のざわつきを感じてしまいます。
 その上、間の悪いことにその日私は、湧き上がるムラムラを抑えきれずに、ジーンズの下はノーパンで出社していました。

 お相手をされる早乙女部長さまは、お電話が長引いていて、私にジェスチャーで、シーナさまのお相手するようにと促してきました。
 応接室へお紅茶をふたり分持って行くと、スススッとシーナさまが寄ってこられました。
「直子さん、少し見ないうちに一段とイロっぽくなったんじゃない?」
 ここまでは普通のお声で、その後、私の右耳に唇を寄せてコショコショつづけました。

「イロっぽく、って言うよりはエロっぽく、ううん、むしろドマゾっぽくかな?」
「どう?エミリーにちゃんと虐められてる?彼女、仕事忙しいのでしょう?」
「寂しかったら内緒でわたしに電話して。直子だったらいつでも虐めてあげるから」
 からかうように私の耳に息を吹きかけて唇を離すと、近くにあった椅子にゆっくり腰掛けて、優雅な仕草でティーカップを軽く傾けました。

 ムラムラ真っ最中の私は、そのお声だけでゾゾゾッと背筋に電流が走り、ジンワリ潤んでしまいます。
 座っているシーナさまが目の前に突っ立っている私を見透かすかのように、頭の天辺から爪先まで、全身を舐めるように見つめてきました。
 
 シーナさまのマゾオーラセンサーは優秀なので、私が今ムラムラ期なことは、きっと出会った途端に見抜いていることでしょう。
 ノーパンなこともバレちゃうかもしれない・・・
 そう思ってシーナさまを見ると案の定、シーナさまの視線は私のジーンズの股間に留まっていました。
 
 シーナさまによる耳元でのささやきお言葉責めと不躾な視姦で、私のマゾマンコはキュンキュンむせび泣き、膣壁からは後から後から、歓喜のよだれがヌルヌル分泌されていました。
 自分でも内股がヌメっているのがわかるほどでしたから、至近距離のシーナさまの瞳なら、ジーンズ地に滲み出してインディゴブルーを色濃く湿らせるシミに難なく気づかれたことでしょう。
 もちろんそのお鼻で臭いにも。

「慣れないお仕事で大変でしょうけれど、がんばりなさい。せめて、紹介したわたしに恥をかかせないくらいには、ね」
 シーナさまが少し大きめなお声で、冗談ぽくおっしゃいました。
 たぶん、まだお電話中の早乙女部長さまにお聞かせするため。

「はい。最近段々、お仕事の面白さがわかってきたような気もしています」
 私も調子を合わせて、普通の声でお答えします。
「来月はイベントだものね。わたし、ここのイベント、毎年すごく楽しみにしているのよ・・・」

 そんな当たり障りの無いの会話をしながら、シーナさまの右手が、私のジーンズのジッパーフライ部分をほぼ隠しているライトブルーのチュニックの裾を、ピラッとまくり上げてきました。
 あっ!? とは思ったのですか、私は、されるがまま、突っ立っているだけ。
 やっぱりバレていた、という羞恥と、これからどうされちゃうのか、という期待、万が一部長さまに見られたら、というスリルなどがごちゃまぜとなって、ヘビさんに睨まれたカエルさんのように、身動きが出来なくなっていました、

 座ったままのシーナさまが私を見上げ、見覚えあり過ぎる、妖しいエスな瞳で薄く笑いました。
 そのお顔を見たら私には、もはや一切の抵抗の術はありません。
 それどころか、無意識にマゾの服従ポーズを取ろうとしていて、知らず知らず中途半端に上がりかけていた両腕をあわてて下ろしました。
 
 そんな私の様子を愉快そうに見ていたシーナさま。
 おもむろに左手を私の下半身へと伸ばし、当然のことのように私のジーンズのジッパーをジジジッと半分くらい下げました。
  
 もう一度無言で私を見上げるシーナさま。
 チュニックをめくる手を左手に変え、私の顔をエスな瞳で見据えたまま、開いたジッパーのあいだに右の人差し指と中指を添えました、
 やがて指二本がVサインの形にゆっくりと開き、抉じ開けられた隙間から覗く、私の無毛な肌色の土手。
 私の視線は、ジッパーのあいだから覗く、自分の恥丘に釘付けになってしまいます。

「あ、ちょっとメールチェックしなくちゃ」
 再び大きめのお声でわざとらしくおっしゃりながら、私に隣に腰掛けるよう、右隣の椅子を指さしました。
 無言で腰掛ける私。
 すかさず私の左耳に唇を寄せてきました。

「やっぱりノーパン。そうだと思った。今日の直子の顔、ドマゾ全開だもの」
「社会人になっても相変わらずなのね?エミリー、かまってくれないの?」
 小さく顔を左右に振る私。

「ま、いいや。わたしが帰るまで、そのジッパー直しちゃだめ。これは命令。そういうのが欲しいのでしょう、今の直子は?エミリーには内緒よ」
「こんなところでパイパンマンコ、外気に晒している気分はどう?」
 ジッパーの隙間から指を挿れられ、付け根付近までサワサワ撫ぜられながら、からかうようにささやかれました。
 ジッパーはもはや、ほぼ全開でした。

「ごめんなさい。電話が長引いちゃって。お待たせしましたシーナさん。例の石は手に入った?」
 ごめんなさい、の最初の、ご、のお声が聞こえた刹那、私のジーンズ上にチュニックの裾が戻り、シーナさまの指が去りました。
 早乙女部長さまが書類の束を抱くように持って応接室へ入ってこられ、いきなりシーナさまの左隣に腰掛けられました。
 幸か不幸か、部長さまにとって私の存在は、まったく眼中に無いようでした。

 私はそーっと立ち上がり、火照った顔を部長さまに見られないようにうつむいたまま、トレイの上のもうひとつのティーカップを部長さまの前へそっと置きました。
「それでは、失礼します」
 お辞儀しながらご挨拶すると同時に部長さまたちに背中を向け、応接室のドアへ向かいました。
「ありがとう」
 部長さまのおやさしいお声が、私の背中にかけられました。

 もちろん、その日は帰宅するまで、そのままジッパーほぼ全開で過ごしました。
 辛うじてチュニックで隠れる範囲でしたし、ジーンズのジッパーフライって、しゃがみでもしない限り、たやすく割れちゃうようなものではないですから。
 
 その後はご来客も無く、お仕事はずっと社長室でしました。
 ジッパーの隙間からときどき指を挿し入れて、自分の恥丘のスベスベを指先で味わいながら、ちゃんとお仕事もしました。

 お仕事を終えて帰るとき、部長さまのデスクの前に立ってご挨拶したときは、かなりドキドキして、さすがにチュニックの裾を押さえたままお辞儀しました。
「お先に失礼させていただきます」
「はい。お疲れさま。ごきげんよう」
 部長さまは、いつものようにおやさしくおっしゃって、私の顔をチラッと見上げて微笑まれ、すぐにパソコンのモニターへと視線を戻されました。

 街中を歩いて帰るときは、緊張し放しでした。
 シーナさまのご命令は、シーナさまが帰るまで、だったので、解除されているはずでしたが、陽も暮れていたので、思い切ってやってみました。

 ノーパンなのにわざとジーンズのジッパーを全開にしている、というヘンタイ被虐行為に全身が蕩け出しそうでした。
 うつむいたまま、すれ違う人がいてもチュニックの裾は敢えて押さえず、足早に家路を急ぎました。
 その夜の自宅でのオナニーが普段より数倍、激しかったことは言うまでもありません。

 おっと、ずいぶん脱線してしまいました。
 お話をその日のことに戻します。

 そんなふうに、連日お見えになるお客様の中で、その日の午後、ほのかさまを訪ねていらっしゃったお客様は、明らかに異質でした。
 ドアチャイムが鳴り、インターフォン越しに聞こえてきたその第一声に、私はギョギョッと立ちすくみ、思わずホワイトボードのご来客様一覧を見直しました。
 納品書か請求書で見覚えのある気がする会社ではあったものの、ご来社いただくのは、私にとっては初めてのかたのようでした。

 私が入社以来そのときまで、来社されるお客様はすべて女性でした。
 年齢に多少幅はあるものの、お得意先様でもお取引先様でも、すべて女性のかたがいらっしゃいました。
 お姉さまからの勧誘のときも、お取引先はすべて女性で、女性による女性のためのファッションがポリシーと伺っていたので、安心しきっていましたし、そんな空間を私は、とても居心地が良いと感じていました。

「玉置さまと1時半にアポイントを取りました橋本と申します」
 インターフォンから男性のお声でそう聞こえたとき、私はびっくりし過ぎて、軽くフリーズしてしまいました。
「あ、はいはいー。どうぞ、お入りください」
 ほのかさまが当然のように応答され、私を振り向きました。

「あのかたたちは、確か緑茶がお好みだから、それでお願いね」
 なんだか嬉しそうにおっしゃるほのかさまにも、軽い眩暈。
「あ、は、はい。わかりました・・・」
 そう答えたものの、喩えようの無い理不尽な気持ちが心の中でモヤモヤしていました。

 オフィスへのドアが開き、スーツ姿の紛れも無い男性がおふたり、オフィス内に入ってきました。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
 資料のファイルらしきものを小脇に抱え、いそいそと応接室に向かうほのかさま。

 フリーズしていた私は、男性たちの姿がチラッと見えた途端にフリーズが解け、彼らに背中を向けて社長室から給湯室へ一目散。
 恐れとも不安とも、はたまた怒りとも言い切れない、得体の知れない感情で心の中が盛大にざわついていました。


オートクチュールのはずなのに 28


2015年11月29日

オートクチュールのはずなのに 26

 翌朝からまた、お仕事の日々が始まりました。
 会社内は、あと一ヶ月少しに迫った新作発表イベントに向けて、とてもあわただしい雰囲気となっていました。

 オフィスには連日、数組のお客様が入れ代わり立ち代りお見えになり、すべて早乙女部長さまがお相手をされていました。
 営業の間宮部長さまは、ほとんどお顔を拝見出来ないほど、日本各地を飛び回っているご様子。
 ほのかさまも朝はオフィスへ出社されますが、すぐにどこかへお出かけになり、夜遅くにお戻りになるのがザラでした。
 リンコさまとミサさまは、デザインルームにこもりっきり。
 もちろんお姉さま、いえ、チーフも外出がちで、お話出来るのは一週間に一度あればいいほう、という状態。

 そんな中で私はと言えば、午前中に通常の業務を終わらせ、午後からは、5月末の決算に備えて当期過去分の必要書類や数字の再点検というお仕事を任され、社長室に遅くまで閉じこもる毎日でした。
 
 なので、ずっとオフィスに残っている私と一番頻繁にお顔を合わせるのは、早乙女部長さま。
 その早乙女部長さまもたいていお客様のお相手をされていたので、実質私は、ひとりきりみたいなもの。
 誰かと無駄話もたまにしか出来ず、孤独にパソコンのモニターとにらめっこする毎日がつづきました。

 お休み明けすぐの頃は、久しぶりのお仕事ということもあり、心身を引き締めて余計なことは一切考えずに、ひたすらお仕事に没頭しました。
 一週間くらい過ぎると通常業務の要領も思い出し、余裕が出てきました。
 余裕が出てくると、どうしても思い出してしまうのが、連休中の出来事。
 お姉さまとの濃密な三日間で、私の中の何かが、確実に変わっていました。

 実を言うと私のムラムラは、連休明け以降もずーっと継続していました。
 オフィスにいるあいだは我慢していましたが、帰宅してエレベータを降りるとすぐ、お姉さまからいただいた赤い首輪を嵌めました。
 首輪はずっと通勤バッグにしのばせ、持ち歩いていました。

 首輪がもたらす首筋の異物感が、妙に心を落ち着かせてくれるのです。
 首輪を嵌めている、イコール、離れていてもお姉さまと一緒にいる、ような感覚。
 首輪をしている自分こそが本当の自分、とさえ思うようになっていました。
 それから当然のように全裸になり、リードを付けて鎖を素肌に絡ませ、満足するまで自分を虐めました。

 思い浮かべる妄想にも変化が起きていました。
 それまで、私を妄想の中で虐めてくださるお相手は、今まで私を虐めてくださった知っているお顔の誰か、だったのですが、それがお姉さまに固定しました。
 そして、いつも周りを不特定多数のギャラリーが囲むように変わっていました。
 以前なら絶対に思い浮かべない男性の姿も、虐められている私を蔑む視線として自然に思い浮かびました。

 虐められる場所も、人通りの多い街中ばかり。
 交差点とかレストランとか公園や電車の中とか。
 そういった場所で首輪にリードで全裸の私は、四つん這いやM字姿で、お姉さまの手により徹底的にイカされるのです。
 大勢の見知らぬ人たちが、好奇の視線で見守るその前で。

 つまりは、あの三日間にお姉さまからされたこと、それがもっとエスカレートすることを、私は望んでいるようでした。
 そんなこと出来るはず無いと、イキ疲れて理性が少し戻った頭でなら、臆病者の私が思うのですが、次の日、また自分のからだを虐め始めると、同じ妄想に身を焦がすくりかえし。

 首輪を着けたまま眠りにつき、翌朝、出勤のために首輪を外すときに感じる一抹の寂しさ。
 私の激しいムラムラ期は、生理を迎えてさえ鎮まることなくつづいていました。

 お休み明けに出社したとき、社長室の応接テーブルの上に、一本の乗馬鞭が箱を開けて中身が見える状態で無造作に置かれていました。
 オレンジ色の箱の中、一際目立つ鮮やかな赤色の持ち手とベロ、その他の棒部分はお上品なクリーム色というオシャレな乗馬鞭。

 社長室に入ってロールカーテンを開けようとしたときにそれをみつけ、私の心臓はドキンと跳ね上がりました。
 お姉さまが私のために誰かから譲っていただいた、私を虐めるための高級ブランドもの乗馬鞭。

 お姉さま、どうしてこんなところに無造作に置き放しにしたのだろう?
 あの日、私に見せることが出来なかったから、わざわざ置いておいてくれたのかしら?
 だとしたら、誰かにみつかる前に、どこかに片付けたほうがいいのかな?
 しばし迷っているうちに、ノックとともにドアが開き、出社されたほのかさまが社長室へ入ってきました。

「おはよう、直子さん。おひさしぶりね。チーフのお手伝い、上手くいった?」
 たおやかな笑顔で近づいて来るほのかさま。
「あ、おはようございます。それでえっと、はい。なんとか・・・」
 ほのかさまに向き直り、乗馬鞭を隠すように両手をバタバタ振って、しどろもどろな私。
 かまわずもっと近づいてきたほのかさまが、おやっ?という感じでテーブル上へと視線を遣りました。

「あら?素敵な乗馬鞭。ああ、そう言えばチーフ、信州で乗馬されたっておっしゃっていたわね」
 私の隣に並び、乗馬鞭をしげしげと覗き込むほのかさま。

「あ、はい。ほのかさんもご存知だったのですね」
「うん。空港へ送ってもらう前にここに寄ったとき、おっしゃっていたわ。久しぶりだったけれど、とても気持ち良かったって」
 ほのかさまが乗馬鞭を見つめながらおっしゃいます。
「きっとそこで、手に入れられたのね」
 ほのかさまの手が乗馬鞭に伸び、箱ごと持ち上げられました。

「あら、有名なブランドもの。すごーい。これなら可愛いし、お客様との話題の種にもなりそうだから、インテリアとして飾っておいても良さそうじゃない?」
 おっしゃりながら、すぐにテーブルの上に箱を戻されました。

「きっとチーフもそのおつもりよ、こんなところにわざわざ出しっ放しのまま出張に出かけられたのだもの」
 そうおっしゃると、ほのかさまはあらためてゆっくりとお部屋を見渡し、もはや乗馬鞭への興味は失くされたようでした。

「さあ、今日からイベントの日まで、やることたくさんあるけれど、一緒にがんばりましょうね」
 私の両手を取り、さわやかにおっしゃったほのかさまは、私の返事は待たず、来たときと同じ優雅な足取りで入ってきたドアに向かわれました。

「はいっ!がんばりますっ!」
 ほのかさまに聞こえるように、その背中に大きめな声をかける私。
 出る寸前に振り返り、ほのかさまはニコッと可憐な笑顔を向けてくださいました。
 
 結局、ほのかさまのお言葉で、私はその乗馬鞭をテーブル上から片付ける理由を失くしました。
 お仕事に集中しなくてはいけないあいだは、あえてその乗馬鞭を見ないようにし、存在を忘れるように努めました。

 連休明けから四日後の夜、どうやら私が帰った後にチーフが立ち寄られたらしく、その翌朝、応接の壁際に設えられた、刀剣を飾るような台に恭しく飾られた乗馬鞭を発見しました。
 ほのかさまの推理は、大当たりだったのでした。

 その数日後。
 お仕事に余裕が出来、煩悩の塊となった私は、その乗馬鞭が気になって仕方なくなっていました。
 お姉さまが私を虐めるためだけに手に入れてくださった、私専用の乗馬鞭。
 そんな乗馬鞭が私の仕事場に堂々と飾ってあるのです。
 気にならないわけがありません。
 
 オフィスに早乙女部長さましかいなく、その部長さまもご来客さまと応接にこもっておられるようなときを見計らって、そっとその鞭を手に取り、軽く振ってみたりしました。
 軽く振っただけで、ヒュンという心ざわめかせる被虐的な音が鳴り、マゾマンコがキュンと疼きました。
 扇情的な赤いベロでジーンズの腿を軽くペシペシ叩いたり、股間を撫でたり。
 
 ああん、早くお姉さまの手でこの鞭を振るわれて、剥き出しのお尻が真っ赤になるまでいたぶられてみたい・・・
 そんな妄想で人知れず、ショーツの股間を濡らしていました。

 そのまた数日後のある日の午後。
 今度は、リンコさまとミサさまが息抜きのため、社長室を訪れました。
 おふたりとも乗馬鞭のことは知らなかったようで、最初のいきさつから、ここに飾られるまでを全部、ご説明しなくてはなりませんでした。
 もちろん、私専用というはしたない秘密だけは隠して。

「へー。乗馬なんて優雅な遊び、インドア派のアタシらには縁の無い世界だわねえ」
 おっしゃりながらリンコさまが乗馬鞭を手に取り、力強く一回振りました。
 ヒュンッ!
 と妙に甲高い、私にとっては身震いしちゃいそうなほど官能的な音が室内に鳴り響きました。

「うわっ。なんだかこの音って淫靡な感じしない?アタシらみたいな輩には、鞭っていうと乗馬よりも、どうしてもアッチ関係のイメージが強い道具だからさ」
「ヒュンていう音の後に、キャッとかアウッとかイヤンなんて言葉がつづきそうな感じ」
 そんなことをおっしゃって、ミサさまに乗馬鞭を渡すリンコさま。
「うん。だけどボクの調査だと、乗馬鞭はあまり使えないらしい。プレイならバラ鞭、本気で痛めつけるのなら一本鞭が至高、らしい」
 おっしゃりながらヒュンヒュン良い音を響かせるミサさま。

 ミサさまは、普段、あまりお話しされません。
 お仕事中、チーフや部長さまたちと必要最低限の会話をされるときには、ご自分のことを普通に、私、と称されますが、こういったくだけたお仲間とのおしゃべりのときは、一人称が、ボク、に変わります。
 
 最初にそれに気づいたとき、ボーイッシュなリンコさまではなく、ロリ&ボインなミサさまのほうが、ボク、とおっしゃることに、新鮮な驚きを感じたものでした。
 慣れるとそれがとても可愛らしく聞こえて、私は大好きでした。
 今も、無邪気に鞭を振るうミサさまの豊かなお胸が、ふんわり気味のブラウスの下でもわかるくらい、ブルンブルン揺れています。
 さすがおふたりとも、俗に言う腐女子系なオタク趣味をもお持ちなだけあって、その手のSM的知識も豊富にお持ちのようでした。

「アタシもコスプレの小道具でちゃちいのを何本か持っているけれど、さすがに元馬具メーカーのブランドものだと、作りがしっかりしてるよね。今度そっち系のコスプレするとき、チーフに貸してもらおう」
 ミサさまから戻された鞭を指揮棒みたいに振るリンコさま。
 今日はゆったりめなグレーのTシャツの下で、控えめな乳首が浮き沈みしています。

「でもさ、チーフがこの鞭持ってる図って、かなりお似合いだと思わない?かっちり系スーツ姿で仁王立ち」
 リンコさまの問いかけにコクンとうなずくミサさま。
「早乙女部長も似合いそう。赤フレームのつり目メガネあれば、なおよし」
 ポツンとつぶやいたミサさまにキャハハと笑うリンコさま。
 そんな会話を、ドキドキしながら聞いている私。

「それでさ、ナオっちが何かミスしたら、このテーブルの上に這いつくばらされて、突き出したお尻をペロンと剥かれてペシペシ叩かれちゃうの」
 リンコさまのお言葉に、
「それは、かなり、エロい」
 と、すかさず返すミサさま。

「ねえ?ナオっちって、鞭で叩かれたことある?」
 不意な突然唐突の直球一直線なご質問に一瞬絶句して、ワンテンポ遅れて盛大に首を左右に振る私。
「だろうねえ。普通ないわな。そんな感じにも見えないし。ナオっちとたまほのは、お嬢様まっしぐらっていう感じだもんね」
 私に向けたのかミサさまに向けたのか、独り言ぽくおっしゃったリンコさま。

「でもね、気をつけたほうがいいかもよ?チーフって絶対エスっ気あるから」
 今度ははっきりと私に向かって、からかうようにおっしゃるリンコさま。
「ボクもそう思う。なぜなら、ボクもそうだから」
 ミサさまがまた、ポツンとつぶやきました。

「でもアタシらはさ、妄想を絵や言葉にしているだけじゃん。二次創作で既存のキャラ借りて。最近凝ってるのはね、ビーエルを、敢えて女体化」
「ボクはナマモノも好物。チーフ×直子は、かなり萌える」
 真面目なお顔で答えるミサさま。

「あはは。いいね。うちのスタッフだと雅部長×たまほのとか、アヤちゃん×たまほのとかね。部長同士だと雅ちゃんが受けかな?」
「ボクの中では、間宮部長は誘い受けっぽい。だから、たまちゃんがどうなるか心配。攻めるたまちゃん、たまミヤは想像出来ない」
「あはは、ひどーい。ミサミサ、たまほののこと大好きだもんね?」
「うん。素敵」

「ナオっちは受けだよね?」
 ミサさまに尋ねるリンコさま。
「うん。総受け」
 きっぱり言い切るリンコさま。
 どんな表情をすればいいのかわからない私。

「あはは。でもナオっち、アタシらがこんなこと言ってるなんて、チーフたちに告げ口しちゃイヤよ。あくまで勝手な妄想なんだから」
 イタズラっぽく笑うリンコさまに、あやふやな笑顔をお返しして、コクコク真剣に頷きました。

「ところで先週のアレは見た?」
 そこで話題は唐突に変わり、その後はひとしきり他愛も無いアニメ関係のおしゃべりをした後、おふたりが出て行ってから考えました。
 果たして今の会話は、カマをかけられたのか、それとも単純に乗馬鞭から連想された冗談なのか。

 だけど、いくら考えても正解なんかわかるはずもなく、一抹の不安を頭の片隅に保留して、お仕事に戻りました。
 この日の会話で、リンコさまとミサさまのおふたりに、今まで以上に興味が湧いたのは事実でした。

 お休み明けから二週間過ぎても、私のムラムラは治まるどころか、ひどくなる一方でした。
 そのあいだ、家に帰れば毎晩、遅くまでオナニーしていたにも関わらずです。

 街を歩いていて、コインランドリーや証明写真ブースを見かけると、それだけでからだが反応し、下着を汚してしまうほど。
 公園の公衆トイレやコンビニ、地下鉄の階段、見知らぬマンションのベランダを見上げただけでも、そうなってしまうのでした。
 
 そこでお姉さまがしてくれたこと、いただいたご命令、自分が感じた恥辱感などが鮮明によみがえり、いてもたってもいられなくなってしまうのです。
 今すぐ、あのときと同じ快感を味わいたい、そこで恥ずかしい姿を晒して、たくさんの人に嘲り蔑んでもらいたい、という欲求に呑み込まれそうになってしまうのです。

 ジーンズや長めのスカートを穿いたときは、ノーパンで出社するようになっていました。
 そうでないときでも、お仕事の合間に人知れず、意味も無くブラジャーを外したり、ショーツを脱いでみたり、女子トイレで全裸になってみたり。
 もちろんすぐに元通りにはするのですが。
 社長室に絶対誰も入ってこないとわかっているときは、ノーブラのブラウスのボタンを全部外したまま、パソコンに向かったりもしました。

 過去の納品書や請求書をチェックするために、自社ブランドのカタログをパソコンで照らし合わせていると、エロティックなアイテムがいくつも出てきます。
 ボディコンシャスなドレス、ローライズジーンズ、マイクロビキニの水着、シースルーの下着、キャットスーツ、ヌーディティジュエリー・・・
 それまで極力、それらをそういう目で見ないように努めていたのですが、今の自分には無理でした。
 
 そういったものがモニターに映るたび、それを身に着けた自分を妄想し、そんな恥ずかしい格好の自分を街中へと放り出してみます。
 すると、ふしだらではしたない妄想が頭の中で延々と連らなり、全身の血液が乳首と下半身に集まってしまったかのように、ジンジン痛いくらい火照ってしまうのです。

 それでもさすがに、オフィスでオナニーまでは出来ませんでした。
 チーフから、会社はお仕事をする神聖な場所、と釘を刺されていた私でしたが、その頃のムラムラ状態であれば、もしも出来るチャンスがあったら、ためらわず内緒の行為に及んでいたことでしょう。
 出来なかった理由は単純に、オフィスで完全にひとりきりになることが無かったからでした。

 別室とは言え、必ずデザインルームにはリンコさまかミサさまがいらっしゃいましたし、夜の八時を過ぎてからひょっこり間宮部長さまが現われるようなこともありましたから。
 遅いときは夜の十時過ぎまでお仕事をしていたときもありますが、オフィスには誰かしら、私の他にいらっしゃいました。
 
 私の本性をまだご存知ないスタッフの誰かが一生懸命お仕事をされている、そんなところで構わずオナニー出来るほどの大胆さと言うか僭越さは、持ち合わせていませんでした。
 なので、その日オフィスで育んだ妄想を大事に持ち帰り、お家に帰った途端、何かに憑かれたようにオナニーに励む毎日を過ごしていました。

 チーフ、いえ、最愛のお姉さまとは、そのあいだに二日ほどあったはずの休日も急な出張となり、デートのお約束もお流れ、2週間のあいだ、ほとんどお顔さえ拝見出来ない状態でした。
 連休以降にお姉さまとふたりだけでおしゃべり出来たのは、連休翌週火曜日のランチのときだけ。
 初めてこのオフィスを訪れたとき連れていってくださったエスニックレストランで、小一時間だけおしゃべり出来ました。
 でも、そのときも、お姉さまがひどくお疲れのご様子だったので、無難にお仕事関係のお話しと世間話しかしませんでした。
 その代わり、メールで毎日、オナニーしましたのご報告だけは入れていました。

 そんな悶々とした毎日を送る私に、ちょっとした事件が起きたのは、5月もそろそろ終わろうとする頃のある日。
 とある昼下がりのことでした。


オートクチュールのはずなのに 27



2015年11月23日

オートクチュールのはずなのに 25

 私のからだには、ピッチリと白いバスタオルが巻かれ、首輪のリードは外されていました。
 仰向けに寝かされたお腹の上に、ハガキ大のメモ用紙が一枚。
 手に取ると、お姉さまのお綺麗な走り書きで、伝言が書かれていました。

 ぐっすり眠っているようなので起こさず、先に用事を済ませてきます。
 いない間にもし起きてもあわてたりしないように。すぐ帰ってくるから。

 ここはどこなのだろう?
 からだを起こして後部座席のシートに座り直し、恐る恐る窓からお外を覗きました。
 薄暗闇に目を凝らすと、周囲は殺風景なコンクリート打ちっ放しの地下っぽい雰囲気。
 どうやらどこかの駐車場みたい。

 何気なく右手で胸元を押さえたら、タオル地越しの柔らかな感触。
 当然のことながら、バスタオルの下は何も身に着けていないようです。

 私、こんなところにバスタオル一枚の、裸同然な姿でひとり取り残されちゃったんだ・・・
 後部座席や助手席を見回しても、持っていたバッグや衣服は見当たりません。
 怖さと心細さが押し寄せてきたと同時に、こんなふしだらな格好で放置されてしまったという被虐的な官能が全身に広がり、性懲りも無く股間が潤んでくるのがわかりました。

 遠くのほうでキュルキュルと、タイヤが軋むような音が聞こえました。
 ここが駐車場だとすれば、いつ他の車が近くにやって来てもおかしくはありません。
 お姉さまが愛車を停めたスペースは、コンクリートの壁のあいだを3台分に区切った一画で、窓から覗ける右側は丸々2台分空いていました。
 ここに他の車が駐車しに来ないという保障は、どこにもありません。

 バタン、バタン!
 遠くのほうで、ドアを開け閉めするような音が響きました。
 つづけてまた、別の方向からキュルキュルとタイヤが軋むような音。
 
 私は、ゆっくりと背もたれの背中を滑らせ、シートに再び寝そべりました。
 いくら密閉された車の中とは言え、今はひとりきり。
 バスタオル一枚の無防備な姿を見知らぬ人に発見されてしまうのはマズイと、本能が告げていました。

 寝そべっていれば、窓に顔を近づけて覗き込みでもしない限り、中に私が居ることはわからないはず。
 後部座席の窓には、スモークのフィルムも貼ってあるし。
 ドキドキ脈打つ胸を両手で庇うように押さえ、車の天井を見上げました。

 仰向けになって両膝を軽く立てると、両内腿のあいだが直に外気に晒されていることが、スースーする感覚で露骨にわかりました。
 自分が置かれた状況がわかってから、時折聞こえる外部からの物音がもたらすスリルに、私のマゾ性はキュンキュン感じっぱなしでした。

 自然と右手が下半身へと伸びてしまいます。
 その部分に軽く触れただけで、溢れんばかりに濡れそぼっていること、そして、風邪引きさんのおでこみたいに熱く火照っていることがわかりました。

 寝そべっていればみつからないだろうという安心感からか、大胆な思いつきが理性を侵食し始めます。
 このまま指を動かして、オナニーしてしまおうか・・・
 いっそバスタオルも外して、裸になっちゃおうか・・・
 お姉さまがお戻りになったとき、私が全裸で身悶えてたら、お姉さま、どんなお顔をされるだろう・・・

 この三日間、お姉さまと一緒に体験した、めくるめく快感のあれこれがフラッシュバックしてきました。
 とくに、今日の体験は強烈でした。
 雨の中で人通りは少なかったとは言え、日中の街中で全裸になってしまったのですから。
 車の中でしたオナニーの気持ち良さといったら。

 少し眠って休んだのに、私のマゾマンコは超敏感なままみたい。
 ちょっと弄ったらすぐイっちゃいそう。
 今の状況がもたらすスリルと被虐とで興奮した疼きともごちゃまぜとなり、私は呆気なく発情しきっていました。

 思うより早く左手が、胸元にあるバスタオルの折り返しに伸びていました。
 全裸になる気満々。
 マゾマンコに密着させた右手のひらの人差し指と中指を、ゆっくりと内側に折り曲げ始めます。

「あふぅん!」
 指の付け根辺りに熟した突起が当たり、電流が頭まで突き抜けました。
 指先にヌルリと、粘液の感触。

 そのときでした。
 すぐ近くで一瞬、何か電子音みたいなのが鳴ったと思ったら、すぐそばでガチャンという大きな物音。
 ビクンと震えた私は次の瞬間、バックシートに胎児のような形で縮こまりました。
 バタンという音と共に車内が少し揺れ、今度は私の頭側の後部ドアがバタンと開きました。

「お待たせー。起きたー?」
 半開きになった後部ドアから身を屈ませてお顔を覗かせたのは、もちろんお姉さま。
 そのまま後部座席に乗り込もうとしてきました。

 あわてて奥へずれようと身を起こした途端、バスタオルがハラリと外れ、おっぱいが露に。
「あっ!いやんっ」
 焦ってバスタオルを乱暴に掻き合わせると、今度はお尻側が全開になってしまいました。
 そんな私の様子を愉快そうに眺めているお姉さま。

「何を今更恥ずかしがっているの?街中を走っているあいだ中、真っ裸でマゾマンコ掻き回して、ずっとアンアン喘いでいたクセに」
 私のトートバッグだけ持ったお姉さまがニヤニヤ笑いながら、私の横に腰掛けようとしています。
「ちょっとそのタオル貸して。シートが汗とかいろんなもので濡れちゃってる」
 私からバスタオルを容赦無く剥ぎ取ったお姉さまは、ご自分が座るシートをそのタオルで拭き始めました。
 お姉さまは、お仕事のときっぽいシックな濃茶のパンツスーツに着替えていらっしゃいました。

「なんだか車内にいやらしい臭いが充満しているわね、紛れも無い直子の臭いが」
 シートに腰掛けたお姉さまがお鼻をヒクヒクして、苦笑いを向けてきました。
 からだを起こして、お姉さまの隣に全裸で腰掛ける私。
 お尻の下がヌルリと濡れているのがわかりました。

「あの、ここは、どこなのですか?」
 私の左隣はコンクリートの壁なので、お外から覗かれる心配も無さそうなのですが、それでもやっぱり両手でおっぱいを庇いながら、恐る恐るお聞きしました。

「あら?気づいてなかったの?ここはうちのオフィスがあるビルの駐車場よ。つまり池袋」
「えーっ?」
「直子は、車が走り出した途端にここでオナニー始めて、イキまくって、静かになったと思ったらスースー寝息立てて眠りこけちゃったの」
「もう一時間以上前に、ここに着いていたのよ?どうしようかと思ったけれど、あんまり気持ち良さそうに眠ってたから、あたしだけ降りて、オフィスで一仕事済ませてきたの」

「つまり今直子は、自分が勤める会社が入っているビルの地下駐車場で、なぜだか素っ裸なの。恥知らずにも程があるわよね?」
 からかうようなお姉さまのイジワル声。

「直子のオナニー、凄かったわよ。バックミラーでチラチラ見ていたら、ひっきりなしにビクンビクン、イキまくってた。眠った後も、ときどきヒクヒクして、いやらしい声出していたし」
「裸で放っておくのも可哀相だと思ってバスタオル巻いてあげたら、寝惚けているのか、あたしに抱きついてきたの。憶えている?」
 お姉さまが可笑しそうにククって笑いました。
 全然憶えていません。

「今も乳首がそんなに尖っているっていうことは、起きて、取り残されたってわかった後も、何か良からぬ妄想していたのでしょう?」
「あの、えっと、はい・・・少しだけ・・・」
 一応正直にお答えしましたが、お姉さまが戻られる寸前まで、オナニーする気満々だったことは、さすがに言えませんでした。

「まったく。一度火が点いた直子の性欲って、底無しよね。だけどあたしは、今は性欲よりも食欲なの。お腹空き過ぎて死んじゃいそう」
「今からお店選ぶのも面倒くさいし、手っ取り早くビルの上にあるお店で打ち上げディナーしましょう。もう運転もしないからお酒も飲めるし」
 お姉さまが私のバッグの中から、何かを引っ張り出しました。

「直子との全裸家政婦契約も、ここで終了。ここからはうちのスタッフ、あたしの秘書に戻るの。はい、直子のワンピース。下着もちゃんと着けるのよ」
 私の衣服一式を手渡してくださったお姉さまは、私の髪を解き、丁寧にブラッシングを始めてくださいます。
「テリトリーに戻ってきちゃったから、ヘンタイ遊びはおしまい。休日とは言え、誰に見られているかわからないから、きちんとしないと」
 手渡された下着は、行きに着けてきたフロントホックと紐パンティでした。

 バスタオルでからだを拭い、それぞれをゆっくりと身に着けました。
 肌が布地にくるまれる、久しぶりの感覚におっぱいやお尻が戸惑っている感じ。
 コインランドリーでお洗濯したワンピースを纏い、ボタンを留めていきます。
 私が放置されているあいだにお姉さまが付け直してくださったのでしょう、一番下のボタンが復活していました。
 私がお洋服を着ているあいだ、お姉さまはずっと私の髪を梳いてくださっていました。

「雨や汗で完全にスッピンになっちゃっているけれど、メイクは軽めでいいわよね?あたし、直子の素顔、好きだから」
 嬉しいことをおっしゃってくださるお姉さま。
「おっと、あぶないあぶない。首輪、外さなきゃ」
 お姉さまが苦笑交じりに腕を伸ばしてきました。
「すっかり馴染んじゃっていたから、気づかないところだったわ」
 その通りでした。
 
 この三日間ですっかり首に馴染んでしまった首輪は、もはやからだの一部のようでした。
 お姉さまの手で外され、首からその感触がなくなったとき、ひどく寂しい気持ちが盛大に襲ってきました。
 首輪を外すことによって、お姉さまとの関係も薄まってしまうような。
 もちろん、よく考えればそんなことはぜんぜん無いのですが、出来ることならずーっと、他人の目なんか気にせずに首輪を着けつづけて、お姉さまとの関係、エスとエムの関係だけを常に意識しながら生活していたい、と思ったのは事実でした。

「あ、それと、今夜は直子の部屋に泊めてね」
 不意にお姉さまがおっしゃいました。
「ごはん食べたら直子と別れて、部室に行ってゆっくり休んで、明日の出張に備えるつもりだったのだけれど、さっきオフィスへ行ったらリンコとミサがまだ仕事していて、今夜は部室に泊まるって言うから」
 部室というのは、スタッフの寝泊り用としてオフィスビルの近くに借りているマンションの一室の通称です。

 私も、今夜お姉さまは、おひとりで部室にお泊りになるのだろうな、ごはんを食べたらお別れなのだろうな、と思っていたので、思いがけない延長戦に俄然元気が出てきました。
「もちろんです。お姉さまとまだまだずっと一緒にいれるなんて、すっごく嬉しいです」
「でも、あたし、明日朝早いから、あまり遅くまではつきあえないよ。あたしがぐっすり眠れるように、スッキリさせてよね?」
 イタズラっぽく笑うお姉さまに、コクコクうなずく私。

 成人女性ふたりがあれこれするには少し狭い後部座席ですっかり身繕いを終えてから車を降り、エレベーターでエントランスへ。
 エレベーターを乗り換えて高層ビルのてっぺん近くのレストラン街。
 お姉さまは、和食をお選びになりました。

 落ち着いた感じの、窓から見下ろす夜景がとても奇麗なお寿司レストラン。
 お姉さまは、何度か訪れたことがあるようで、手馴れた感じでてきぱきご注文されました。
 お食事のあいだは、主にお姉さまたちが会社を起ち上げた当時のエピソードを面白おかしく聞かせてくださいました。

 私のからだは、ずっと疼いていました。
 お姉さまとお食事となれば、またいつかみたいに個室に入り、人知れずえっちなイタズラを愉しめるかも、という期待も少なからず持っていました。
 だけど、案内された席は窓際で、お仕事の出来そうな仲居さんが私たちの注文にすぐ対応するべく、ずっとさりげなく見守ってくださっていました。
 他のお客様もまばらで静かめでしたし、えっちな話題などとても出来るような雰囲気ではありませんでした。

 それがちょっぴり残念でしたけれど、お姉さまが私の部屋にお泊りになる、帰ったらまた抱き合える、とわかっていたので余裕はありました。
 余裕を感じると、お姉さまと同じように、すごくお腹が空いていたことに今更ながら気づき、お料理が美味しかったせいもあり、お寿司やお造りを私にしてはたくさん、ご馳走になりました。
 お姉さまは、お酒もけっこう呑まれていました。
 つられて私もほろ酔い気分。

 お店を出たときは、夜の9時を回っていました。
 ふたり並んで、てくてくと私のマンションへ。
 お姉さまはお酒のせいかご陽気で、話題もこの三日間に私が見せた痴態をからかうような、シモネタに移っていました。
 住宅街に入ってからはずっと、手を繋ぎました。
 お姉さまも私も手まで火照り、じんわり汗ばんでいました。

 マンションに到着し、エレベーターに乗り込んだとき、お姉さまが急に思い出したようにおっしゃいました。
「そう言えば、証明写真の賭け、確認しに行くの忘れちゃったわね?」

 そうでした。
 すっかり忘れていました。
 顔だけ隠して撮った私のおっぱい写真、駅の証明写真ブースに置きっ放しにしたのでした。
 つい数時間前のことなのに、なんだか何日も前の出来事のように感じていました。
 それだけ、この三日間に体験したあれこれは、ひとつひとつの密度が濃かったということなのでしょう。

「きっと誰かが持って帰って有効利用してくれているわよ」
 からかうようにおっしゃるお姉さま。
 まったく見ず知らずの誰かが、私のおっぱい写真を持っている、ということを想像すると、からだがじんじん疼いてきました。
 お姉さまをすがるように見つめて目が合ったとき、エレベーターのドアが開きました。

「瞳ウルウルさせちゃって、何?またサカってるの?本当にいやらしい子」
 先にエレベーターを降りたお姉さまが振り返り、私の顔を覗き込みました。
 そうおっしゃるお姉さまだって、アルコールのせいか瞳が充血して、すっごく色っぽい。

「ほら、直子がサカっているときは、ここで服を脱いで、部屋に入る前に裸になるのが決まりなのでしょう?早く脱ぎなさい」
 背後でエレベーターの扉が閉じると同時に、お姉さまの冷ややかなお声。
 その口調で、お姉さまもエス性に支配されつつあることがわかりました。

「は、はい、お姉さま」
 歩きながらワンピースのボタンを外し始める私。
 お姉さまはスタスタと前を歩き、ご自分の合鍵で私の部屋のドアを開けました。
 開け放したドアの内側でご自分も上着を脱ぎ、スラックスのベルトに手をかけています。
 私もブラジャーのフロントホックを外し、通路の途中でショーツの紐を解きました。

 私が全裸になってドア前にたどりついたとき、ドアの陰からお姉さまの右手が伸び、そのまま引っ張られて抱きすくめられ、ドアの中へと連れ込まれました。
 お姉さまもすでに、黒い上下の下着姿になっていました。

 激しいキス。
 乱暴に抱きすくめる両腕の力。
 裸のお尻を鷲掴むお姉さまの手。
 そのまま廊下に押し倒され、私の唇に押し付けられるお姉さまの剥き出しな秘唇。
 まさぐり合う指が幾度も相手を仰け反らせ、わななかせました。

 抱き合ったままバスルームへ。
 熱いお湯とシャボンでずぶ濡れ泡まみれのまま、互いの肌を執拗に密着させました。
 バスルーム内をハモるようにエコーする、音程の違うせつなげな喘ぎ声。
 ひとしきり鳴り響いた後、徐々に熱い息遣いが鎮まっていき、やがてぐったりと湯船に浸かるふたつの裸身。

「ああスッキリした。これでグッスリ眠れそうよ」
 脱衣所でふたり、からだを拭いていると、お姉さまが晴れやかなお声でおっしゃいました。
「もうおやすみになられますか?」
「うん。スッキリしたら疲れがどっと襲ってきた。本気でサカッてる直子の相手するのは、けっこう大変なのよ?」
 イタズラっぽくおっしゃってニッて笑うお姉さま。
「そうですか・・・」

 残念だけれど、わかままは言えません。
 もう三日間も、ずっとお相手をしてくださったのだから。
「ベッド占領しちゃって悪いわね」
「いえ、お気になさらないでください。お姉さまは明日、早朝からお仕事なのですから」
 ふたりとも裸のまま、リビングに戻りました。

「あたしが寝ても、どうせ直子はまだ眠らないのでしょう?」
 髪にタオルを巻いたお姉さまが、見透かすみたいにおっしゃいました。
「あの、えっと、はい・・・」
 バスルームでも何度も達したのに、私のからだはまだまだ疼きが薄れていません。
 お姉さまがおやすみになってひとりになったら、マジックミラーのサンルームで思い出しオナニーを、思いっ切りするつもりでした。

「だったら、いいものあげる」
 お姉さまが壁に架けたご自分のスーツのポケットから、何かを取り出しました。
「今日だったか昨日だったか、味覚の辛さは痛みと同じ、っていう話をしたの、憶えてる?だから檄辛好きはドマゾなのかも、っていう話」
「はい・・・」
 確かにそんな話をした気がします。

「それで、さっきのお寿司屋さんで帰り際、これを頒けてもらったのよ」
 お姉さまが差し出されたのは、ビニール袋に入った緑色の生ワサビの根茎でした。
 確かにさっきお造りを食べたとき、すっごく辛くて、でも美味しくて、歪んで涙が滲んだお互いの表情にふたりでお顔を見合わせて、大笑いしたものでした。
 そのビニール袋にはご丁寧に、小型のわさびおろし器まで入っていました。

「お店の板さんが言うには、その鮫皮のおろし器で丁寧におろしたワサビが至高なのですって。丁寧にゆっくりと、念入りに擂り潰すほど、鮮烈な辛さになるらしいわよ」
 お姉さまが眠たそうな瞳で教えてくださいました。
「は、はい?・・・」
 今ひとつおっしゃる意味がわからない、鈍い私。

「だから、それを擂り潰して、直子がこれからするオナニーのおかずにしなさい、っていう話よ。そのワサビを直子のビンカンなところに擦り付けてみなさい」
 お姉さまが怒ったようにおっしゃいました。
「あっ!はいっ!」
「後でどんなだったか教えてねー。だけどやりすぎて、明日会社遅刻したら駄目よ。それじゃあおやすみー」
 お姉さまがお口に手を当て、欠伸を噛み殺しながらベッドのある私の寝室へと消えました。

 お見送りしてから、すぐにザリザリとワサビの根茎をおろし器でおろし始める私。
 見るからに辛そうな、見ているだけで鼻にツンときそうな、鮮やかな黄緑色の小山が出来ました。
 その頂上付近を右手人差し指の指先ですくい上げます。
 床にぺったりお尻を着き、M字になった内腿付け根の中心に、指先のワサビを恐る恐る近づけました。

 指先が肉芽に触れた束の間、最初は何も感じなかったけれど、徐々にジーンと痺れるような、喩えようも無い甘美な刺激がジワジワ広がり、あん、何これ痛い、と思ったときには視界が真っ白になり、いてもたってもいられないような快感を引き連れて、クリトリスから全身へと陶酔が広がっていったのでした。

「んんーーーーーーーーっ!!!」
 頭の中に火花が飛び散り、自分の意志とは関係なく腰がガクガクと震えました。
 間髪を入れず、おろし器に残ったワサビを指先ですくう私・・・

 そんなふうにして、私とお姉さまの濃密過ぎる淫靡な連休は、幕を閉じたのでした。


オートクチュールのはずなのに 26


2015年10月18日

オートクチュールのはずなのに 24

 フードをかぶり終えると、お姉さまに右手を握られました。
「忘れ物は無いわね?じゃあ、行きましょう」
 半開きだったガラス戸をガラリと全開にされるお姉さま。
「あの傘は・・・悪いけれどここに置き去りにさせてもらいましょう。修理したら置き傘として使えるかもしれないし、ね?」 
 悪戯っ子みたいに笑うお姉さまが、とってもキュート。
 
 すっかり暗くなったお外には、相変わらず雨が降りつづいていました。
 ただし、一時の嵐のような豪雨の勢いはいくぶん弱まり、普通のザーザー降りな感じ。
 赤い庇の軒下に立ち、少しのあいだお空を見上げていたお姉さまが、ガラス戸を閉じながら今度は、私の全身をしげしげと見つめてきました。

「明かりが近くにあると、コートの下が真っ裸って、もろにわかっちゃうわね」
 お姉さまの視線につられて、自分のからだに視線を落としました。

 背後から漏れているコインランドリー内の照明が、薄闇の中、私のボディラインを透明ビニール内にクッキリと浮かび上がらせていました。
 ビニールに吸い付くように擦れる乳首の辺りだけが一際濃い影を作り、存在を誇示するように目立っていて、すっごく卑猥。
 裸を隠せるよう、一刻も早く闇に紛れてしまいたい・・・
 そう思う反面、自分の恥さらしな姿に被虐心が極まって、泣いちゃいたいほど感じてもいました。

「たぶんこっち」
 お姉さまが庇の外へ一歩踏み出しました。
 一歩遅れて、右手を引かれた私も。

 庇を出た途端、頭の中がザザザザザという騒音だけで一杯になりました。
 かぶっているフードを打ちつけてくるエンドレスな雨音。
 鼓笛隊のドラムロールのようなその音が、左右の耳元でやかましく鳴り響きつづけ、まるで激しい耳鳴りのよう。
 脳内を満たすその音が、何の音かもわからなくなるゲシュタルト崩壊状態。

 聴覚を奪われたおかげなのか、代わって触覚がより敏感になっていました。
 ビニール越しにからだを打ちつけてくる雨粒の感触が、もどかしい愛撫のようで超気持ちいい。
 とくに、尖ってビニールを押し上げている乳首の辺りに雨粒が当たると、衣服越しに指の先で撫ぜられる感触とそっくりで、ムズムズ身悶えてしまいます。
 なるべくそこに雨が当たるよう、おっぱいを突き出すようなモデルウォークもどきで、お姉さまにつづきました。

 路地の両端は水が溜まり気味なので真ん中寄りを、お姉さまが歩道側、私が車道側になって手を繋ぎ、ゆっくり歩きます。
 ポツンポツンと立っている外灯の光が近づくと、ビニール内の私の裸身がぼんやり浮き上がります。
 そのたびにビクッとしますが、幸か不幸か人も車も全然通りません。
 警戒心が薄れると共に、こんな姿で街中を歩いているというスリルと興奮がぶり返し、全身の疼きが火照りを呼び戻します。

 コインランドリーから100メートルくらい離れたところに十字路。
 お姉さまが立ち止まり、何かを確認するみたく周囲を見渡しました。
 フードを打つ雨音のうるささに、お姉さまも会話は諦めているらしく、私には何も告げずに右手を引っ張られました。
 どうやらそのまままっすぐ進むようです。

 そのとき、数十メートル前方の右端から、突然光が現われました。
 そこにも曲がり角があるらしく、左折してきた車の眩しいほどのヘッドライトが、あっと思う間も無く私を正面から明るく照らし出していました。
 光を浴びた瞬間から、うつむいた私の目には、自分の裸が透明ビニール越しにクッキリ浮き上がって見えていました。
 思わず、いやんっ!と抗議の声をあげる私。

 一テンポ遅れて、右手をグイッと引っ張られました。
 つんのめるようにお姉さまに引き寄せられ、気がつくとお姉さまに抱きすくめられていました。
 ビニール同士が擦れるガサガサという音の中、私のからだはお姉さまの両腕の中。
 いつの間にかふたりのからだは道路の右端まで寄り、お姉さまの背中がヘッドライトに向いている状態。
 つまり、お姉さまは咄嗟に、ヘッドライトの魔の手から私を救い出してくれたのでした。

「こうしていれば、恋人同士だと思って、たとえ直子の裸に気づいたとしても、ちょっかいは出してこないでしょう」
 フードの隙間から唇を突っ込んだお姉さまの囁きは、雨音の中でもハッキリ聞こえました。
 とてもとても熱くて、官能をくすぐる甘い囁き。
 私も両腕をお姉さまの背中に回し、ギュッと抱きしめると同時に、濡れたビニール越しのお姉さまの胸に顔を押しつけました。

 その車は、白のスポーツタイプ。
 徐行するみたいにゆっくりと、私たちの傍らを通り過ぎて行きました。
 ヘッドライトは、近づくにつれ私たちを照らさなくなり、通り過ぎる寸前の私たちは闇の中。
 光が移動していくのだけ、視界の端に見えていました。

「直子のからだ、ずいぶん熱くなっているのね?こんな冷たい雨なのに」
 耳朶を震わすお姉さまの吐息に、小さくイッてしまったのは内緒です。

「あっ!直子、あれ見て」
 お姉さまの両腕の力が緩み、もっと抱き合っていたい私は不服で顔を上げると、お姉さまの右手が通り過ぎた車の赤いテールランプを指していました。

 車はさっきのコインランドリー手前までさしかかり、ヘッドライトがちょうど、その軒先を照らし出していました。
 庇の下にひとつの人影。
 遠い上に雨にも霞んで性別まではわかりませんが、紛れもない人影が今まさに、コインランドリー内へ入ろうとしていました。

「あたしたち、かなり危機一髪だったみたいね。出るのがあと5分も遅れていたら、直子はあの人に、オールヌードを鑑賞してもらうはめになっていたのよ」
「たぶん、乾燥機に残っていた洗濯物の持ち主でしょう。雨脚が弱まったから出てきたのかな。下着とか置きっ放しは気持ち悪いものね」
 抱きついたままの私の耳元を舐めるみたいに、唇を寄せて囁くお姉さま。

「テーブルは拭いてきたけれど、床のおシオはそのままだから、臭い、気づかれちゃうかもね。若干オシッコも混ざっていたみたいだし」
 イジワルなお姉さまのショッキング暴露で、みるみる顔面に血液が集まっちゃう私。
 そんなこと、わざわざ教えてくださらなくていいのに。

「マゾっ子直ちゃんとのデートって、スリル満点、ドキドキしっぱなしで本当に愉しいわ。次に車が来たら、今度は隠れないで、そのまま歩いてみよっか?」
 からかうように囁いてから、その唇が私の唇にチュッと軽く重なり、すぐに左手を引っ張られました。

 おやさしいお姉さまは、私に歩道側を歩かせることにしたようでした。
 そのまままっすぐ進み、さっき車が出てきた路地を右へ。
 相変わらずゆっくりと、雨音に包まれながら進みました。

 私はと言えば、完全にオカシナ状態になっていました。
 突然のヘッドライト、お姉さまの抱擁、甘い囁き、コインランドリーの危機一髪、おシオとオシッコ、柔らかい唇の感触・・・
 それらのことが一度に押し寄せて思考が完全に停止し、ただただ、めちゃくちゃになりたいという、マゾの本性だけが荒ぶっていました。

 こんなレインコートなんて脱ぎ捨てて、まっ裸で街を歩きたい。
 その裸を見知らぬ人たちに視られて、ヘンタイ露出女って蔑まれたい。
 そんな蔑みの中でお姉さまに抱きすくめられ、マゾマンコを思い切り掻き回して欲しい。
 お姉さまがお悦びになるのなら、どんなに恥ずかしいことだって出来るから。

 全身を叩く雨粒の愛撫と、左手から伝わってくるお姉さまの体温に、からだ中が淫らに疼きまくり、火照りが止まりません。
 コインランドリーで味わった立てつづけの絶頂感を、全身の細胞が思い出しているみたい。
 くすぶっていた股間の奥が再び急激に昂ぶり、素肌の感度がよみがえり、敏感さが復活していました。

 頭の中は真っ白、雲の上を歩いているようなフワフワした足取りで、握っているお姉さまの手の感触だけを頼りに歩きました。
 胸も背中もお尻も腿も、素肌に擦れるビニールが身悶えするほど気持ち良過ぎて、少しでも気を抜いたら、その場にしゃがみ込んじゃいそうでした。
 
 途中、反対方向から青い傘の人が近づいてきました。
 お姉さまと私は、そのままゆっくり、普通にすれ違いました。
 その人が私の裸に気づいたのか、はっきりはわかりません。
 でも私は、視られている、と確信していました。
 そして、そう考えたと同時に、ビクンと小さくイキました。

 その後も、赤い傘の人、黒い傘の人、そして宅配便のトラックとすれ違いました。
 誰かが現われるたびに、私のマゾ性が悦んでいました。
 視られていること前提で、それらの人影や車が視界から消えるまで、ずっとヒクヒク感じまくっていました。
 握り合った手の感触で気づかれたのでしょう、お姉さまがそんな私を振り返り、意味深な微笑を投げかけてくださいました。

 いくつかの路地を曲がった末、やがて、見覚えのある黄色い看板が、ライトアップされているのが見えてきました。
 露出お散歩出陣前に、ワンピースの前を自らまくり上げ、はしたないおツユで汚れたパンティ丸出しで記念撮影した、コインパーキングの看板でした。
 低いビルに囲まれたパーキング内は、その看板と料金清算機の前だけ煌々と明かりが灯り、路地よりも少し明るめでした。

 お姉さまがまっすぐに、ご自分の愛車に歩み寄ります。
 お姉さまが停めたのは、パーキング入口を入り向かって左側の奥から2番目。
 その右側二台分置いて白いワゴン車。
 駐車場内に停まっている車は、その2台だけでした。

 前向きに停めたお車の左脇から後部へ回り、トランクを開けるお姉さま。
 ほどなくエンジ色のおしゃれな傘が一本、取り出されました。
「ちょっとこれ、さしておいて」
 お姉さまから渡された傘を開くと、お姉さまはその下で、まず頭のフードを外し、つづいてレインコートを脱ぎ始めました。

「ふうー。雨音って、思った以上にうるさいものなのね。耳がヘンになりそうだったわ」
 確かに、傘をさした途端に耳元の轟音が頭上へと消え、お姉さまのお声もハッキリ聞こえてきました。
 お姉さまは、脱いだレインコートをその場でバサバサと振っています。

「レインコートは丸めて車のトランクに入れておけばいいわ。あとであたしが干してたたむから。でも入れる前に一応、軽く水気は払っておいてね」
 お姉さまがトランクのほうへ進まれたので、私も傘をさしかけつつお供します。

「ほら、今度はあたしが傘さしててあげるから、直子も脱ぎなさい」
 脱ぎなさい、というご命令口調にマゾマンコがヒクヒク。
「はい・・・」
 覚悟は出来ていたので、ゆっくりフードを外しました。

「直子ったら、からだが相当火照っているでしょう?ビニールが内側から曇っているじゃない」
 そんなお声に視線を落とすと、おっしゃる通り、透明なはずのビニールが沸きたてのバスルームの窓ガラスのように、内側からどんより曇って半透明になっていました。

 行きは、裾をまくってパンティ丸出しまでだったけれど、帰りはとうとう全裸になるんだ、こんな街中の駐車場で・・・
 マゾの昂ぶりがピークを超えそうでした。
 行きのときみたいに、前の通りを誰か通ってくれないかな・・・
 ヘンタイ露出狂そのものな願望が頭に浮かんだとき、あっさり望みが叶いました。

 コインパーキングの入口付近にカラフルな傘の花が三本、開いていました。
 大きな青い傘と赤い傘、そしてネコさんのキャラが描かれたピンクっぽい小さな傘一本。
「わざわざ雨の中、出て来た甲斐があったわね」
「ああ、いいものが買えたな。驚くほど安かったし・・・」

 そんな会話と共に、傘の群れがどんどんこちらに近づいてきました。
 合間には、小さな子供さんがキャッキャはしゃぐお声。
 私は、レインコートのボタンを胸元下まで、すでに外し終えていました。

「子供連れは、ちょっとマズイかな」
 お姉さまが独り言のようにおっしゃいました。
「直子、向こう側に回りましょう」
 お姉さまに手を引かれ、トランクの側を通ってお姉さまの愛車の右側面側、オフィスビル際で一台分の空きスペースがある側、つまり、お姉さまの愛車の陰に避難しました。

 そのご家族連れは、私たちに気がついているのかいないのか、そのままガヤガヤと、さっきまで私たちがいたスペースに集まっていました。

「パパ、早くドア開けてよー」
 可愛らしい女の子のお声。
「ちょっと待ちなさい。まず荷物を入れてから。ほら、カオリの新しいお人形さんも後ろに入れちゃいなさい」
「やだ。持ってる。持ったまま乗るのっ!」
「それなら貸しなさい。ビニールに付いた雨を拭いて上げるから」

 お姉さまのお車の陰に隠れた後も、私はそのままボタンを外しつづけました。
 一刻も早くお姉さまのご命令に従いたかったのです。
 一番下まで外し、両腕を抜き。
 脱いだレインコートをお姉さまに渡して、私は全裸になりました。

「いい度胸じゃない?このまま、あの車が先に出て行くのを待ちましょうか」
 嬉しそうなお姉さまのお声に、黙ってうなずく私。
 お姉さまと並んで相合傘のふたりは、お姉さまの愛車の後部座席の辺りに立ち、白いワゴン車のほうを見守りました。

 敷地の端のほうなので明かりは無く、道路から柵越しに覗いても、私が裸なことはわからないでしょう。
 ただし、背後にそびえるオフィスビルの窓から覗かれたら、裸の背中とお尻で一目瞭然。
 
 チラッと振り向いて見上げると、ビルの二階と三階に電気の灯った窓がありました。
 私は、決して二度とビルを振り返らないと決めた上で、どちらかの窓からふとした弾みで、誰かが裸の私に気づいてくださることを願いました。

 お姉さまは私にピッタリ寄り添い、左手で裸のお尻をスリスリ撫ぜてくださっています。
 ご家族間の他愛も無い会話、ワゴン車のドアがバタンバタン開閉する音。
 それらを聞きながら私は、どうしようもなく疼きまくっていました。

 お姉さまの愛車の屋根のてっぺんが私の鎖骨くらいの高さなので、そこから上はワゴン側からも見えているはずです。
 私の剥き出しの両肩を見て、こんな雨の日なのに、妙に薄着な女だと思われているでしょうか?
 もちろん首に巻かれた赤い首輪と、そこから垂れ下がる鎖だって見えるはず。
 それに気づいたら、どう思われるのでしょうか?

 傘をさしているせいか、しばらくはこちらに目もくれず、ドタバタワイワイやっていたご家族。
 それぞれドアを開けて乗り込もう、となったとき、買ってもらったばかりのお人形なのであろう包みを大事そうに抱えた女の子が、唐突にこちらに視線を向けてきました。
 雨の薄暗闇の中でもそこに誰かいるのがわかったようで、人懐っこい笑顔を浮かべ、無邪気に手を振ってきました。

「オネーサンたち、バイバーイ」
 傍らにいたママさんが子供さんの挙動に気づき、つられて視線をこちらに向けてきました。

 そのとき私とお姉さまは、女の子に向けて笑顔で小さく手を振っていました。
 ママさんは、そんな私たちを見て愛想笑いのようなものを浮かべ、軽く会釈をしてくれました。
 ただ、会釈し終えてもう一度こちらへ向けたそのお顔には、何か不思議なものでも見たような、怪訝な表情が浮かんでいるように見えました。

 女の子に傘をさしかけつつ後部座席のドアを開け、女の子を先にして乗り込んだママさん。
 きっと運転席のパパさんに、私のことを教えていることでしょう。
 私はずっと笑顔を作り、白いワゴン車が駐車場を出て行くまで見送りました。
 首輪にリードだけの全裸で、お姉さまにいやらしくお尻を愛撫されながら。

「やれやれ。直子ったら、もはや本当に、立派なヘンタイ露出狂女になっちゃったのね。こんな街中で全裸のクセに、平然と笑っていられるのだもの」
 お姉さまが呆れたようにおっしゃり、私の剥き出しの右乳首をチョンとつつきました。

「あんっ!お、お姉さま・・・私・・・、私もう、がまんが・・・」
「わかっているわよ。直子は後部座席に乗りなさい。そこに寝そべったらもう、オナニーでもなんでも好きにすればいいわ。あたしはそこの清算機で清算してくるから」
 後部座席のドアが開かれ、お姉さまの手で少し乱暴に、そこへ押し込まれました。

 バタンとドアが閉じ、レザーシートに寝そべった途端、私の右手は一直線に股間の洞窟へと潜り込んでいました。
 洞窟には熱い粘液が充満し、逸る指先を奥へ奥へと誘いました。
 左手は乳房を鷲掴み、尖る乳首の側面へ乱暴に爪を立て始めます。
 たちまちのうちに、ほんの数十分前にコインランドリーで味わったあの、めくるめく立てつづけの絶頂感の陶酔が戻ってきました。

 次に気づいたとき、車はどこか薄暗い場所に停車していました。
 エンジンも切られ周囲はしんと静まり返り、車内にも他の人の気配は無く私だけ、後部座席に寝かされていました。


オートクチュールのはずなのに 25


2015年10月12日

オートクチュールのはずなのに 23

 私が上がるべきテーブルの大きさは、広さも高さも一般的な事務机と同じくらい。
 テーブルの上にあったビニールトートとお姉さまのレインコートは、椅子の上に移動され、表面を飾る合板の木目模様の片隅に、真四角に折りたたんだ白いバスタオルだけが置いてありました。

「四つん這いでも寝そべっても、好きな格好でやっていいわよ」
 ビニールトートの中身を物色しながら、お姉さまがおっしゃいました。
「これとか、これも使えそうね」
 私のオナニー用お道具をチョイスされているようです。
「状況が状況だから縛ったりするヒマがないのが残念ね。ほら、早くテーブルの上にお乗りなさい!」
 首輪のリードをグイッと引っ張られ、テーブルの縁につんのめりました。

 テーブルに背を向けて立ち、後ろ手の両手をテーブルの表面につきました。
 ミュールから両足を浮かせると同時に、テーブルについた両腕を踏ん張って腰を持ち上げ、お尻をテーブル上に乗せました。
 
 それから、お尻を奥へ滑らせつつ両脚を折りたたみ、テーブル中央付近へと移動しました。
 からだの動きに合わせて、両乳首を噛んでいる洗濯バサミがフルフルと揺れます。
 テーブル上に上げた両脚は、期せずしてM字開脚の形となり、はしたなく割れた股間から恥ずかしいおツユが内腿をトロトロ零れました。

 いざテーブルの上に乗ってしまうと、そこは思っていたよりも狭くて高い感じ。
 少し暴れたら床に落っこちてしまいそうな恐怖感を覚えました。
 更に、蛍光灯が近くなったためでしょう、からだに当たる光が強くなって、からだの隅々までより鮮明に照らし出されている感じがします。
 後ろ手をついたM字開脚状態な私の真正面で、お姉さまがカメラのレンズを向けてきました。

「一段高く上がったおかげで、とても撮影しやすくなったわ。これなら明るいまま、余裕で全身を映せるもの」
 カメラのモニターを覗きこみながらおっしゃいます。
「もっと脚を開いて、マゾマンコをこっちへ突き出しなさい。そこを一番視て欲しいのでしょう?」
「は、はい・・・」

 私は素直に、両腿を150度くらいまでに開き、その中心部分をレンズに突き出すように向けました。
「うわーっ、凄い眺め。こんなところで素っ裸になっているだけでもオカシイのに、その上、そんな大股開き」
 股間にまっすぐ向けられたレンズに陵辱されているような気がして、からだがムズムズ疼きました。

「自分でマゾマンコ開いてみせてよ。奥の奥まで撮ってあげるから」
 カメラのレンズが私の顔に移っていました。
「はい・・・」
 テーブルについていた両手を離し、うつむきがちの前屈みになります。
「うつむかないのっ!顔はずっと、カメラを視ていることっ!」
 すかさずお姉さまから、叩きつけるような叱責。
「あ、はいっ!」

 顔はカメラに向けたまま、両手を性器の左右にそれぞれ添え、ラビアを左右に押し広げました。
「んーっ!」
「もっと開くでしょ?」
「んんーっ!」
「もっと!」

 ラビアに触れた指先に伝わる熱で、そこがどんなにか熱く火照っているのがわかります。
「ピンクの粘膜がウネウネうねってる。それに見るからにホカホカで湯気まで出ているみたい」
「あぁんっ!」
「いつ見ても大きなクリトリスだこと。テラテラに膨れて、今にも弾けそうじゃない」
「いやんっ!」
 お姉さまのイジワル声に反応して、粘膜がヒクヒクっと痙攣したのがわかりました。

「そのまま、こっち向いて笑ってみせなさい」
 ご命令に、マゾマンコを両手で押し開いたまま、お姉さまに媚びるような笑みを作りました。
「いい笑顔よ。ヘンタイ女そのものって感じで。直子、もしもあたしの会社クビになったら、ストリッパーになるといいわ」
 お姉さまの蔑みきった冷たいお言葉がマゾの官能をザラザラ撫で上げ、ゾクゾクが全身の鳥肌へと変換されました。

「あたしがいいと言うまで、そのままマゾマンコ開きっぱなしにしておきなさい」
 そうおっしゃると、お姉さまはいったんテーブルを離れ、私の背後に隠れました。
「いつ誰が来るかもわからないコインランドリーで、素っ裸になって自分のマゾマンコ開いて笑ってる女なんて、世界中探しても直子くらいしかいないわよね?」
 背後から、呆れ果てたようなお姉さまのお声。

 ひょっとしたらお姉さま、あらためてこのコインランドリーの内部を撮影されているのかしら?
 後からビデオを見るとき、その状況がよくわかるように。
 ラビアを押し開いて半笑いを浮かべたまま、そんなことを考えていたら、目の前にお姉さまが戻られました。

「ほら、これを使うといいわ」
 おっしゃるなり、突き出している私のマゾマンコに太いものがズブリと突き挿さりました。
 膣内を満たしていたおツユが、ジュブジュブ内腿へと溢れ出しました。
 一瞬置いて、膣内全体を震わせてくる激しい振動。
 同時に、パンパンに腫れ上がった肉芽を捻り潰される激痛。

「ぅあっ!うぁーぁぅーーーっ!!!」
 何をされたのか考える暇もなく、本能的な歓喜の悲鳴が私の喉奥からほとばしりました。
 頭の中が真っ白になって、からだがフワッと浮き上がりました。
 イッた、と頭で理解した後、すかさず今度は自分でその太いものを握り、猛烈に膣内を蹂躙し始めていました。
 お姉さまが私から離れた後も、肉芽の痛みは去りませんでした。

 両手で握り、滅茶苦茶に抜き挿ししているのは、私が持っている中で一番太い、銀色の円錐形バイブレーター。
 ヴーンという低い振動音が下半身全体に行き渡り、腰から下が自分のものではないような感覚。
 クリトリスを潰しているのは、木製の洗濯バサミ。
 激痛は疼痛に変わり、その周辺をジンジン痺れさせています。

「あんっ、あんっ、あんっ・・・」
 両手で持った銀色バイブレーターで、一心不乱に抜き挿しをくりかえす私。
 膣口が陸揚げされたお魚のお口のように、パクパク開け閉めをくりかえしています。
 滲み出るおツユは完全に白濁しています。

「いくら雨音が凄いからって、ヨガリ声はもうちょっとがまんしたほうがいいかもよ?入口が開けっ放しなのも忘れないでね。えっちな声を聞きつけて誰かが見に来ても、それは自業自得よ?」
 カメラを私に向けたまま、お姉さまの嘲笑含みなイジワル声。
 
 そのお声が耳に届き、さっきから私の両耳に響いているザザーッという音は雨音なのだと、ここは誰もが出入り自由なコインランドリーなのだと、今更ながらに理解しました。
 入口のガラス戸が開け放したままだったことも。

 すべてわかった上で、それでも手を動かすのを止めることは出来ませんでした。
 一度イって敏感になり過ぎているからだは、どこもかしこもが性感帯と化していました。
 右手でバイブレーターを抜き挿ししつつ、左手は洗濯バサミに噛み付かれた三箇所をでたらめに虐め苛んでいました。

 声を押し殺す気遣いも、まったく失くしていました。
「あ、あんっ!だめ、だめぇ、イク、イクぅぅ!」
 お部屋中にやかましく充満する雨音に煽られ、それに負けないくらいの喘ぎ声を出したくてたまりません。

「いや、だめっ、あぁぁんっ、イッちゃう、イッちゃううぅぅぅ!」
 もう一度頭を真っ白にしたくて、より高く長く舞い上がりたくて、マゾマンコを執拗に陵辱し、洗濯バサミを捻りつづけました。

 たてつづけに数回、たぶん4、5回くらい昇りつめ、やっと手が止まりました。
 マゾマンコに半挿しになったバイブレーターは相変わらずヴーンと振動しています。
 荒い息に両肩が上下し、お尻をついたあたりのテーブルはヌルヌルのビチャビチャでした。
 下半身はまだウズウズ疼いて責め苦を欲しているようでしたが、もはや責める体力のほうが残っていないような状態。
 大開脚の体育座りみたいな格好で、ぐったりうなだれる私。

「たいしたイキっぷりね。何回くらいイッた?」
「はぁ、はぁ、あの、えっと、4回か、5回くらい・・・」
「ふーん。満足出来た?」
「えっと、はい・・・」
「本当に?」
 お姉さまがエスの瞳のまま、艶然と微笑まれました。

「だって、オナニー始めてからまだ5分も経っていないのよ?今日、直子はさんざん恥ずかしい体験をしてきたのだもの、その昂ぶりがたった5分のオナニーで鎮まっちゃうなんて、あたしには信じられないわ」
 お姉さまは、イジワルなお顔でそうおっしゃりながら、ご自分の背後にある洗濯機の上に、ハンディカメラを置きました。
 
 いくつかの洗濯バサミをあいだにかませて向きと高さを調整すると、こちらに向けた液晶モニターの中央に、テーブル上の私のはしたない姿がクッキリ映し出されるようになりました。
 首輪に鎖だけの汗まみれの全裸で、両脚を大股開きに投げ出したまま顔を歪め、肩で息をしている浅ましい私の姿。

「幸い雨も相変わらずで、まだここで遊んでいても大丈夫そうだし、今度はあたしが、この手でイカせてあげる」
 お姉さまが私のもとへ近づいてきました。
「そうね、あの時計が5時になるまで、あたしがそのバイブで直子のマゾマンコをかき回してあげるわよ。嬉しいでしょ?」
「は、はい・・・お姉さま・・・う、嬉しいです」

 カメラを置いた洗濯機の上の壁に掛けてある、よく学校にあるみたいな丸いアナログ時計。
 その針は、4時52分を指していました。
 ここに来たのが4時ちょっと過ぎでしたから、もう一時間近く、私は全裸でこのコインランドリーにいることになります。
 お外もかなり暗くなっていました。

「そのあいだ、あと何回イケるかしらね?もちろん5時になるまで、私はやめないから。直子が、もう許して、勘弁して、って言ってもイカせつづけるからね」
 ゾクッとするような冷たい微笑を投げかけてくるお姉さま。

「あたしが見た感じだと、直子は今、中イキのトランス状態に入っているみたいだから、面白いくらい何度もイケると思うわ」
 一歩私に近づいたお姉さまが、私の股間のバイブレターに右手を伸ばしてきました。
「あっ!お姉さまっ!」
 グイッと奥まで突かれて、瞬く間に頭の中が真っ白になりました。

 それからのことは、ほとんど憶えていません。
 どんどん気持ち良くなって頭の中が真っ白になり、もの凄い快感の中で気を失いかけると再び全身に快感が押し寄せてきて・・・
 それを何度も何度もくりかえした気がします。

 あとは、私を責める合間合間に、お姉さまがおっしゃったお言葉の断片。
「・・・うわー、こんなに奥まで咥え込んじゃって・・・」
「・・・こんなところで、またイッちゃうの?とんだヘンタイ女ね・・・」
「・・・全部出しちゃっていいのよ・・・」
「・・・ほら、今ここの前を車が通り過ぎた・・・」

 耳の中にザザーッという音がフェードインしてきて気がつくと、いつの間にか私のからだはテーブルから下り、椅子に座らされていました。
 洗濯バサミも全部外されています。
「んーっ、あっ!、あれ?お、お姉さま?」
 目を開いて自分の裸のからだを見、どこにいるのかを思い出し、次に探したのはお姉さまのお姿でした。

「気がついたのね。よかった。直子、結局、気を失っちゃったのよ」
 お姉さまは、水道のところで何か洗い物をされているようでした。

「5時になって、あたしがバイブを動かすのをやめた途端、ガクンて、動かなくなっちゃったの」
「一瞬焦ったけれど、直子がオナニーで気を失うの、以前にも見ていたからね。仕方ないからテーブルから下ろして、あたしはせっせと後片付け」
「ご、ごめんなさい!お手伝いします」
 壁の丸時計を見ると、5時15分になっていました。

 あわてて立ち上がろうとすると、腰が抜けたみたいにからだが重い感じ。
 全身に力が入らないのです。
 どうしても立ち上がれず、やむなく諦めました。

「いいのよ。もう終わるから。フェイスタオル一枚で、あのビシャビシャになったテーブルを拭き取るのは骨が折れたけれどね。バスタオルを一枚しか持ってこなかったのは、失敗だったわ」
 確かに、私のおツユでヌルヌルグジュグジュだったはずのテーブル上は、キレイに拭き取られ、ビニールトートとバスタオルが端っこのほうに置いてありました。
 
「それに今、直子のからだは普通の状態ではないと思うわ。あたしの読みが正しければ、ね?」
 水道から振り返り、謎な笑みを投げかけてくるお姉さま。
 
「何回くらいイッたか、憶えている?」
 振り向いたままのお姉さまに尋ねられ、力なく首を左右に振る私。
「直子、あたしに責められているあいだ中、ずーっと、イッちゃうイッちゃう、イクぅ、またイクぅ、しか言わなかったのよ?」
「見た感じ、たてつづけに十数回はイッていたわね。途中まで数えていたのだけれど、バカらしくなってやめちゃった」

「シオ吹いたのは?」
「あ、えっと・・・いいえ・・・」
「途中からピューピュー垂れ流し状態。あたし、からだひねって避けまくっていたんだから」
 苦笑いを向けてくるお姉さま。
 テーブル下のコンクリートの床が、打ち水をしたみたいに濡れているのは、きっとそのせいなのでしょう。

「雨も少し弱まってきたみたいだし、いつまでもこうしてはいられないから、バスタオルでからだを拭って、そろそろ帰る準備をしましょう。お腹も空いてきたし」
 お姉さまがおやさしげな笑顔で私に近づき、膝の上にそっと、バスタオルを置いてくださいました。

「あはっ、いやぁんっ!」
 バスタオルが太腿に触れた瞬間、自分でも思いがけない喘ぎ声が洩れてしまいました。
 事実、その瞬間、全身に電気みたいな快感が駆け巡ったのです。

「やっぱりね。直子はまだトランスから抜け切っていないの。今の直子は、どんなことされても全部快感になっちゃう、全身性器のトランスオーガズム状態なのよ」
 私の目前で嬉しそうに唇をほころばせるお姉さま。
「短時間で許容量を超える快感に責め立てられたおかげで、敏感になり過ぎた全身が外部からの刺激の何もかもを、性感、快楽として受け取ってしまう状態なわけ」

「たとえば・・・」
 お姉さまが私の膝からバスタオルを取り上げ開いてから、私の背中に掛けてくださいました。
「あふうぅっ!」
 タオル地が背中に触れた途端に全身を快感が駆け巡り、身悶えてしまいました。
 そのタオルでうなじを拭かれて、あうっ!鎖骨をなぞられ、あうっ!乳房を撫ぜられ、あうっ!お腹をさすられ、あうっ!・・・

「うふふ。可愛いわよ・・・」
 とどめに右耳にハスキーな囁きを熱い吐息と共に注ぎ込まれ、ビクンビクンと全身が痙攣し、呆気なくイってしまいました。

「時間が経つにつれて薄れていくはずだから、今はがんばって、自分でからだを拭きなさい」
 お姉さまが私から離れ、私はなんとか踏ん張って、ヨロヨロ立ち上がりました。
 絶頂感の余韻が、からだのあちこちにウズウズくすぶっています。
 バスタオルで恐る恐る、自分の胸元を押さえてみました。
 タオル地が素肌を撫ぜるたびにハアハア喘ぎ、ビクンビクン震えてクネクネ身悶えてしまいました。

 乳首や性器に触れなくても、肌を撫ぜ回すだけで下半身へと快感がつらぬき、小さく何度かイキました。
 と言うか、イッている状態がずーっとつづいているような感覚。
 こんなの、生まれて初めてのことでした。
 自分のからだに触れるのが怖くなり、拭うのもそこそこにバスタオルをテーブルに置いてボーっと突っ立っていると、お姉さまが近づいてきました。

 お姉さまは、もうとっくに停止していた乾燥機から私たちの衣服を取り出してきたようで、それらをテーブルの上に置きました。
「ほんのりだけれど、まだ温かいわよ」
 おっしゃりながら、ご自分のタンガリーシャツの袖に腕を通すお姉さま。
「直子はどうしようかしら?そんな状態でワンピ着ても、衣擦れだけでイっちゃいそうよね?」
 愉しそうにクスクス笑うお姉さま。

「雨もまだ降っているし、そんな状態の直子が転んだりして、また全身水浸しなんていうのも、めんどくさい話だわね。そう言えば、ビニール傘も壊しちゃったんだっけ」
「いっそ、裸のまま車に戻る?あたしの土地勘だと、ここから駐車場までは近いはず。たぶん歩いて5分くらい。ずっと路地だけ通って行けるはずよ」
「もう暗いし、こんな雨だし、意外と誰にも会わずに行けるかもよ。あ、でも裸だと雨に打たれてまた感じちゃって、直子がイっちゃうかも」

 どこまで冗談でおっしゃっているのかわからない、お姉さまのイジワル声。
 私も、疼きまくるからだをもてあまし気味に、それも面白いかも、なんて考えていたりいなかったり。

「なーんてね。さすがに全裸で街中歩くのは、発覚リスクがあり過ぎるから、こうしましょう」
 お姉さまがバッグから何かを取り出しました。
「雨宿りのとき話したレインコートよ。スケスケの。それを素肌に羽織って車まで行くの」
 目の前に無色透明ビニールのレインコートが広げられました。
「幸い外もかなり暗くなったから、ちょっと見じゃ中身が裸だなんてわからないわよ。雨も弱まったとは言え相変わらずだし、人通りも無いでしょう。たぶん大丈夫」

「ワンピに着替えるのは、車の中でゆっくりすればいいわ。池袋へ戻りがてら、どこかレストランで、全裸家政婦直子のお疲れ打ち上げディナーをしましょう」
 お姉さまがバスタオルと、乾きたての私のミニワンピースと下着類をさっさとビニールトートに仕舞い込み、左肩に提げます。
 その上から白濁半透明のポンチョ風レインコートを羽織りました。

「あら、リード付けたままだったわね。まあ、いいわ。それはレインコートの中に仕舞っておきなさい。引っ張って歩いてもいいけれど、誰かに見られたらハンザイ臭過ぎて通報されそうだから」
 笑いながらおっしゃるお姉さまに促され、スケスケレインコートに腕を通しました。
 素肌に当たるビニールの感触に、懲りもせずビクビクンと心地良い快感が全身を駆け巡ります。

 パチンと留める式のボタンを全部嵌め終えて、私のからだが透明ビニールに包まれました。
 コインランドリーの明るい蛍光灯の下では、レインコートの中身が全裸だということが一目瞭然です。

 それも、おっぱいの谷間のあいだに鈍い銀色の鎖を垂らした、見るからにマゾ丸出しの淫靡な全裸。
 透き通ったビニールの奥で卑猥に浮き出るボディライン。
 その白っぽい肌色のシルエットの中で、茶色がかった乳輪と乳首、そして銀色の鎖は、中身が裸であることを教える目印のように、一際目立っていました。

 私、これからこんな姿で、街中を5分くらい歩くんだ・・・
 近くで視られたら、明るいところで視られたら、おっぱいもお尻もマゾマンコも丸出しに等しい、こんな姿で・・・

 鎮まりかけていた性的高揚ががグングン昂ぶり、一歩からだを動かすだけでイッてしまいそうでした。


オートクチュールのはずなのに 24


2015年10月4日

オートクチュールのはずなのに 22

 全開のシャワーみたいな激しい雨。
 大きな雨粒がとめどなく、顔やはだけた胸をバチバチたたきつけてきました。
 
 走っても歩いてもどうせずぶ濡れなのにやっぱり走って、剥き出しのおっぱいをプルプル揺らしながら赤い庇を目指しました。
 一足先に到着していたお姉さまは、赤い庇の下でレインコートのボタンを外し始めていました。

「ひどい降りになっちゃったわね。空一杯雨雲だし、当分やまなそう」
 脱いだレインコートの水気を払った後、ビニールトートからバスタオルを引っ張り出して渡してくださるお姉さま。

「だけどおかげで、面白い経験が出来そうよ。思った通り、誰もいないようだし」
 お姉さまが背後のガラス戸を、私にも促すみたいに振り返りました。
 バスタオルを濡れた肌に当てつつ、私も振り向きました。

 全面素通しガラス2枚の引き戸の向こう側には、煌々と電気が灯っていました。
 私の真後ろのガラス戸中央に横書きの赤い文字で、コインランドリー。
 その下には白い文字で営業時間のご案内が書かれていました。
 お姉さまがガラガラッと、その引き戸を開けました。

 八畳間くらいのスペース壁際に、洗濯機らしき物体が整然と並んでいます。
 空いたスペースにはデコラ張りの長方形テーブルが置かれ、折りたたみ椅子が二脚。
 テーブルの上には何も置いてなく、床はコンクリート、壁に手書きで、禁煙、の大きな張り紙。
 小じんまりと古くからやっていらしたような、渋めのコインランドリーでした。

「さあ、その濡れたワンピ脱いで、そこの乾燥機で乾かしてもらうといいわ。もちろん下着もね」
 さも当然のことのように、お姉さまがおっしゃいました。
 
 濡れた髪をバスタオルで丁寧に拭いながら室内を見渡していた私は、ギョッと固まります。
 思わず出かかった反問の言葉を何とか飲み込みつつ、お姉さまのほうを見ましたが、えっ!?ここでですか?という私の心からの叫びが、顔に書いてあったと思います。

「大丈夫よ。こんな土砂降りの中、わざわざ洗濯しようって外に出て来る人なんて、いるわけないでしょ?」
 私の顔を見てクスリと笑ったお姉さまが、愉しそうにおっしゃいました。
「少なくとも土砂降りがつづいているうちは大丈夫なはず。小降りになったら、わからないけれどね?」
 イタズラっぽくおっしゃってワザとらしく動かしたお姉さまの視線を追っていくと、一台の乾燥機。

 その乾燥機は、作動終了のランプが点灯していて、丸いガラス窓の奥には、女性ものらしき下着を含む衣類がいくつか横たわっていました。
 そのまま視線を横にずらしていくと、ここのコインランドリーは洗濯機三台、乾燥機三台という陣容。
 作動中の機械はひとつもなく、使用中ランプが点灯しているのは、その乾燥機一台だけでした。

「あとはまあ、さっきのあたしたちみたいに、そこの庇に雨宿りに来る人がいるかもしれないけれど、ここって最寄り駅からけっこう離れているから、可能性は低いはず」
「だから、さっさと脱いで乾燥機動かして、雨がやまないうちにさっさと立ち去ったほうが、あたしは得策だと思うけれどね」
 お姉さまのイジワル声が、本当に愉しそう。

「わ、わかりました・・・」
 お姉さまのおっしゃることが、もっともだと思いました。
 ここでグズグズしていたら、誰かがやって来るリスクが増すばかりです。
 びしょ濡れで素肌にべったり貼り付いているワンピースも気持ち悪いし。

 バスタオルをお姉さまにお返ししました。
 お姉さまは、そのバスタオルをテーブルの上に置くと、再び私を見つめてきます。
 テーブルの上には、ビニールトートとお姉さまが脱いだレインコートが無造作に置いてありました。

 ガラス戸に背を向けて、自分の胸元を見ました。
 おっぱいは左右とも完全にお外に出ていて、痛々しい先っちょがふたつ、宙を突いています。
 右手でその下に位置するボタンを外すと残りはひとつ。
 前屈みになって裾の下のほうに手を伸ばします。

 私、こんなところで今、裸になろうとしている・・・
 今日初めて訪れた街の、明るいコインランドリーの中で・・・
 大雨とは言え、いつ誰が来てもおかしくない公共の場所で・・・

 全身を被虐の血が駆け巡り、その血がどんどん下半身に集まってきて、疼いて疼いておかしくなっちゃいそう。
 でも表情はたぶんきっと、泣きそうな顔になっていると思います。
 テーブルの端にもたれたお姉さまが左側から、そんな私にカメラを向けていました。

 濡れそぼったワンピースを素肌から剥ぎ取るみたいに、両袖を抜きました。
 現われたのは、まるでカップレスブラのようにおっぱいを下から持ち上げている銀色、今や湿って黒ですが、のブラジャーと、何にも覆われていない下半身。
 脱いだワンピースを左腕に提げて両手を後ろに回し、お役目を果たしていないブラジャーを外しました。
 それから左足のミュールを脱ぎ、足首のショーツも外します。
 すべてを終えて、お姉さまのほうを向きました。

 今、私は、全裸。
 正確に言うと、首に巻かれたマゾのシルシである赤い首輪と両足の白いミュール以外、一糸纏わぬ、全裸。
 眩しいくらいの蛍光灯の光が、コインランドリーの狭い空間に情け容赦なく、生まれたままの私の姿を鮮明に浮き上がらせていました。
 その恥ずかし過ぎる光景はしっかりと、お姉さまのカメラで記録されていました。
 意識しなくても自然に両腕が、胸と股間を隠すように動いて、全身が縮こまっていました。

「あそこに水道があるから、ワンピは軽く絞っておくといいわ。直子のおツユだらけのパンティは手洗いしてからのほうがいいわね。ブラは湿っただけっぽいから、そのままでもよさそう」
 カメラを向けたまま、お姉さまが近づいてきました。

「すっごくエロいわよ、直子。こんなところに真っ裸の女の子がいるのって。それも赤い首輪なんかしちゃってるし」
「シュールとか言うより、やっぱりエロティックね。その恥ずかしがっているところがたまらない。思わず襲い掛かりたくなっちゃう」
 カメラを下ろして、お姉さまが私の目の前に立ちました。

 前を隠すように両手で素肌に押し付けていた衣類を、少し強引に引き剥がしてご自身の左手に持ち、右手で私の左手を引くお姉さま。
 洗濯機と乾燥機の隙間に設えられた、小さな受け皿が付いた水道の蛇口まで引っ張られました。
 
 衣類をその受け皿に置くと、私の手を離しました。
「ほら、早くやっちゃいなさい。もたもたしていると、雨、やんじゃうわよ?誰か来ちゃうわよ?」
 私の後方に退いたお姉さまが、再びカメラを向けてきました。

 水道の前に立ちました。
 最初に、たっぷり雨を含んだワンピースを軽く絞り、広げてからあらためて水道水で軽く水洗い。
 それから入念に絞りました。

 次にショーツ。
 手に持ったときから全体がヌルヌルしていました。
 水を流しながら手洗いしていると、だんだんとヌルヌルが消えていきます。
 お出かけ中に、こんなに汚していたんだ・・・
 今更ながらの恥ずかしさに全身がカーッ。
 ブラジャーも軽く水にくぐらせて、軽く絞りました。

「ずいぶんご丁寧なお仕事ぶりだこと。さすが、全裸家政婦を自認するだけのことはあるわね」
 お姉さまのお芝居っぽいからかい声が背後から聞こえてきました。
 
 お姉さま、今の私は家政婦ではありません。
 だって今洗ったのは、自分で汚した自分のお洋服なのですから。
 ただのヘンタイ女の全裸お洗濯です。
 こんな場所で全裸になっていることで自分のマゾ性がどんどん膨張し、より強烈な辱めをからだが欲しているのがわかりました。

「洗濯機も乾燥機もかなり年季が入った古い型みたいね。この手だと、どのくらい回せばいいのかしら?」
 独り言みたくおっしゃって、機械に貼られた取り扱い説明文を読むお姉さま。
「まあ、ブツは少ないし、20分も回せば乾くでしょう」
 お姉さまがランプの点灯している乾燥機のすぐ横の一台に手をかけ、扉を開けました。
 私も絞り終えた衣類を持って、そちらへ移動しました。

 お姉さまに開けていただいた乾燥機の中に、衣類を入れます。
 ワンピースとブラジャーとショーツ。
 大きな円形ドラムの中に小さな布片が三つだけ。
 なんだか間の抜けた光景に見えました。

「これっぽっちだと、ちょっともったいないような気にならない?」
 お姉さまも私と同じことを思われたみたいです。
 少し考えるようなそぶりをされた後、おもむろに着ていたタンガリーシャツのボタンを外し始めました。

「このシャツも少し湿っちゃったし、汗もかいたからさ、この際一緒に乾かしちゃおう。直子、これも水洗いお願い」
 お姉さまから手渡されたタンガリーシャツは、確かに全体に薄っすら湿っていました。
 お姉さまの体温で薄っすら生温かく、お姉さまの香りが薄っすらしていました。

 そして何よりも驚いたこと。
 それは、シャツを脱いだお姉さまがノーブラだったことでした。
 黒無地の半袖ボートネックでピッタリフィットなTシャツ。
 そのバスト部分先端が左右ともクッキリと浮き上がっていました。

「あたしもあんまり外出でノーブラはしないのだけれどね。今日は直子に影響されちゃったみたい。たまにはいいかなと思ってさ」
 私の視線の先に気づかれたお姉さまは、少し照れたみたいにお顔をほころばせ、そうおっしゃいました。

「だけどあたしはノーブラでも、直子みたいに無駄に恥ずかしがったりはしないわよ。それもひとつのファッションと思っているから、照れずに堂々と出来るの」
「直子みたいに、すぐにいやらしい妄想が広がらないからね」
 言い訳っぽくつづけるお姉さまが、なんだか可愛らしい。
 すっごく嬉しい気持ちで水道まで行き、タンガリーシャツを丁寧に手洗いしました。

 乾燥機の中の布片が四つになりました。
 お姉さまが扉を閉め、コインを投入。
 タイマーは30分を示していました。
 
 ということは、私は泣いても笑っても、この場にあと最低30分間は、全裸のままいなければならないわけです。
 そのあいだ私に出来ることと言えば、このまま雨が激しく降りつづけることを祈ることぐらいしかありません。

 乾燥機を離れたお姉さまは、いったんテーブルのほうへ戻り、折りたたみ椅子をひとつ、入口のガラス戸のまん前に置きました。
「ずっとさっきから気になっていたのよ、直子のその濡れた髪。ほら、こっち来て座って」
 なるべくお外から見えないよう、ガラス戸前を避けて隅っこへ隅っこへと逃げていた私を、容赦なく呼びつけるお声。
「肌にあちこち貼りついてエレガントじゃないから、あたしが軽くセットしてあげる」

 ご命令に逆らえるはずもなく、とぼとぼ置かれた椅子のほうへ。
 椅子は、さっき入ってきたガラス戸に向けて置いてありました。
 そこへ座ると、ガラス戸に書かれたコインランドリーというカタカナが鏡文字になって目前にありました。
 ガラス戸の向こうが相変わらず、滝のように降り注ぐ大雨なことだけが、唯一の心の拠りどころ。
 狭い室内に響くザザァーッというこもったような騒音が、いつまでもつづくことを願うばかりです。

「なかなかスリリングでしょ?もしも誰かがここに入ってこようとそのガラス戸を開けたら、最初に目に入るのが直子の裸なの」
「まあ、入ってくることは無いと思うけれど。誰かが道を通ったら、ガラス越しに見えるのかな?この雨じゃガラスも曇って見えないかな?」
 
 お姉さまが背後に立ち、私の濡れた髪をバスタオルで拭いながら、世間話でもするように語りかけてきました。
 なんだかヘアサロンのオネーサンみたい。

「一番来そうなのは、あの乾燥機に残っている洗濯物の持ち主よね。女性みたいだけれど」
 お姉さまが私の髪を指で梳き始めました。

「女性なら、なんとかごまかせるかもしれないわよね。突然の雨でびしょ濡れになっちゃったんですぅ、って」
「だけど、オトコだったら、いろいろややこしくなりそう」
 そこでクスッと笑うお姉さまのご様子は、まったくの他人事のよう。

「でもまあ、あんまり大事になってもアレだから、もしも誰か来る気配があったら、そこのバスタオルをからだに巻くことだけ、許してあげる」
 お姉さまが私の後ろ髪をいくつかに分けているのがわかります。
 どうやら軽く結ってくださるみたい。

「もっとも、巻いていいか決めるのはあたしだけれどね。こんなところでバスタオル一枚っていうのも、考えようによってはかえってエロいかも」
「若い男の子だったら、かなりコーフンしちゃうでしょうね?襲い掛かってきたら、どうする?」
 からかい声のお姉さまですが、両手はテキパキと動いていました。

「はい出来た。ヘアゴム無いから応急処置だけれど。立って、こっち向いてみて」
 お声に促され、うつむきがちに立ち上がりました。
 椅子の赤いビニールレザーに、直径2センチくらいの水溜りが出来ていて、股間とのあいだに短い糸が引きました。
 思わずそれから顔をそむけると、顔の左右に毛先が揺れました。
 どうやらツインに分けて、それぞれを緩く編んでくださったようでした。

「うわー。こういう髪型にすると、直子って幼くなるのね?」
 本当に驚いたお顔で、私の顔をまじまじと見つめてきました。
「そ、そうなのですか?」
 ガラス戸にぼんやり映っていた自分の顔を見た限りでは、そんなに変わったようには見えなかったのですが。
「うん。雨でメイクも落ちちゃったから、ほとんどスッピンなせいもあるのかしら。なんだか頼りなげで、でもどこか生意気そうで、すごく虐めたくなる顔」

 なおもじっと見つめてくるお姉さまの目力に負けて目をそらすと、視線は自然とお姉さまのTシャツ胸元で目立つ突起に貼りついてしまいます。
 お姉さまもずっと私といて、ずっと感じていらっしゃるんだ・・・
 なんとも言えない甘酸っぱいものがこみ上げました。

「生意気顔の原因はそのアイラインね。こんな雨でも落ちないなんて、大したウォータープルーフぶりだこと」
「そのアイラインも落としたら、もっと幼く見えるのでしょうね。それもそれでそそるものはあるけれど」
 お姉さまの口調が早口気味になっていて、それはなんだか興奮されているようにも思えました。
 興奮というのはもちろん、性的に、と言うか、エス的に。

「締め切っているせいか、この部屋ネットリ蒸しちゃってちょっと不快。換気しましょう」
 おっしゃるや否や、ツカツカとガラス戸に歩み寄り、ガラガラっと50センチほど開けてしまいました。
 
 途端に盛大にボリュームが上がる雨音。
 室内よりも少しひんやりとした空気と、ザザザーッという嵐そのものな雨音が、狭いコインランドリーの中を満たしました。

「この調子なら、まだまだ邪魔は入らなそうだから、思い切ってもっと冒険しちゃいましょうか」
 雨音の騒音に負けないよう、大きめになったお姉さまのお声。
 開けた戸はそのままに、テーブルのほうへと戻っていかれました。

「直子、こっちに来なさい」
 開けたままの引き戸がすごく気になるのですが、呼ばれたからには仕方ありません。
 お姉さまは、テーブルの上のビニールトートの中をガサゴソされています。
「これ、着けて」
 差し出されたのは、首輪に繋ぐ鎖のリードでした。

「は、はい・・・」
 差し出されたリードの金具を、首輪のリングに嵌めました。
 重い鎖が垂れ下がり、胸元からお腹にかけての素肌にぴったり触れます。
 そのひんやりとした金属の感触に、背筋がゾクゾクッと震えました。

「ねえ?こういう激しい雨の音って、心を昂ぶらせる何かがあると思わない?」
 リードを着けた私を至近距離で、まっすぐ見つめてくるお姉さま。
「えっと、それは・・・」
「あたしはそうなの。台風の日とか、なぜだかワクワクしちゃうタイプ。雨の音とか風の音とかに」
 お姉さまは、私の返事なんてハナから聞く気はないようでした。
 私を見つめてくるそのふたつの瞳に、エスの炎がメラメラ燃え盛っているのがわかりました。

「そこ開けて、降りしきる雨の音を直に聞いたら、あたしもう、どうにも我慢出来なくなっちゃった」
 お姉さまの右手がリードの途中を掴み、グイッと引っ張られました。
「あうっ!」
 顔が首ごと、お姉さまのお顔にぶつかりそうなほど、引き寄せられました。

「あたし今、直子をめちゃくちゃマゾ扱いしたくて仕方ないの。虐めたくて虐めたくて」
「はうっ!」
 いつの間に手にされていたのか、木製の洗濯バサミで尖った右乳首を素早く噛まれました。
「ああんっ!」
 つづけざまに左も。

「直子、イっていいわよ。今日はずーっとイキたかったのでしょう?あたしが許すわ。ここで思う存分、イキなさい」
 ここ、とおっしゃったとき、右手の人差し指がテーブルの上をコツコツと叩きました。
「えっ?」
「だからここよ。このテーブルの上でオナニーしなさい」
 
 お姉さまのお顔が少しだけ離れ、その唇の端が少しだけクイッと上がりました。
 おそらく微笑まれたのだと思います。

「出来るわよね?」
 テーブルの上でオナニー?でもその最中に雨がやんじゃって誰か来たら・・・
 そんな思いが頭の中をグルグル駆け巡り、お返事出来ないでいると、またグイッとリードが引っ張られました。
 今度は実際に、私とお姉さまのお顔がぶつかりました。
 唇同士で。

 間髪を入れず、お姉さまの熱い舌先が私の腔中にねじ込まれました。
「んぐぅぅ」
 どちらの喉から出た音なのか、なんとも卑猥な吐息が聞こえ、その後、ヌチュヌチュピチャピチャという音に変わりました。
 その他に聞こえるのは、ただ単調でうるさいお外の雨音だけ。

 お姉さまの両手が私の背中に回り、お姉さまのTシャツ越しのおっぱいが私の洗濯バサミ付きおっぱいを押し潰します。
 噛み付いた洗濯バサミが暴れ、捻られ、食い込み、乳首がちぎれそうなほどの痛みが走りました。
「ぬぅぐぅぅぅ・・・」
 塞がれた唇からくぐもって漏れた小さな悲鳴。
 お姉さまが唇を離されたとき、私は小さくイっていました。

 バスタオルでご自分の唇を優雅に拭ったお姉さま。
 その唇が動きました。

「やりなさい」
「はい、お姉さま」
 私は、きちんとイキたくて仕方なくなっていました。


オートクチュールのはずなのに 23


2015年9月27日

オートクチュールのはずなのに 21

 横断歩道を渡り切ると、舗道を行く人影はずいぶん減りました。
 ビニール傘がパタパタとリズミカルに音をたてるくらいの雨が降る中を、お姉さまに寄り添って歩きます。
 ときどき思い出したように、車が車道を走り抜けていきます。

「やっぱり予想通り、閑散としているわね?平日だったらこの辺りも、サラリーマンとOLがひっきりなしなのに」
 お姉さまが私のほうを向いておっしゃいました。
「ここはどの辺りなのですか?」
「方向的には、来るときに乗った地下鉄の駅へ戻っている感じね。ちなみにこの右側の広くて大きな建物は最高裁判所」

「えーっ!?そうだったのですか?」
「今日は休日だからそうでもないけれど、普段はもっとものものしいわよ。入口ごとにケイカンだらけみたいな感じで」
 灰色の建物に横目を遣ると、ちょうど入口のところで、ひとりのオマワリサンが傘もささずに仁王立ちしているのが見え、ビクンとからだが震えました。

「ここを過ぎれば、もう公的な建物もないから、オマワリサンにビクつくこともなくなるわ」
 オマワリサンを見て、お姉さまにからだをいっそうスリ寄せた私をなだめるような、お姉さまのおやさしいお声。
「それにしても本当に人がいないのね。こんな感じなら、直子をここで裸にしちゃってもいいくらい」
 周りを見回すようにしてから、私の顔を覗き込んでくるお姉さま。
 剥き出しの奥がキュンと疼きました。

 街並は、低めのビルが立ち並ぶ、よくあるビジネス街っぽくなっていました。
 時折、お弁当屋さんやレストランぽい建物が混じり始めてはいるのですが、みんなシャッターが下りてお休みみたい。
 通り全体が静まり返り、聞こえてくるのは雨の音ばかり。
 この通りに入ってから見かけた人影は3人だけ。
 どなたも傘を低くさしてうつむきがち、私たちを一顧だにしませんでした。

「でもやっぱり、こんな街中で直子を丸裸にするのは、あたしにとってもちょっとハードル高いから、その代わりゲームをしましょう」
 お姉さまが前方を向いたままおっしゃいました。
「そうね・・・あたしたちの傍らをタクシーが通り過ぎたり、すれ違うたびに、直子のワンピのボタンをひとつ外す、っていうのはどう?」

 どう?とおっしゃられても、私には拒否権が一切ないわけですし。
 前方10メートルくらいにタクシーが一台こちら向きに、ライトをピカピカさせて停車していました。
 お姉さまったら、あのタクシーを見て思いついたに違いありません。
 あのタクシーが走り出すか、私たちがあそこまでたどり着いたとき、私はワンピのボタンをひとつ外すことになるわけです。
 私がコクンとうなずくのが合図だったかのように、停車していたタクシーがこちらへ向かって走り出しました。

「最初は胸元のボタンね。次からは直子の好きなところを外していいわ」
 タクシーが私たちの横を通り過ぎるとお姉さまが立ち止まり、私はご命令通り、胸元上から三つ目のボタンを外しました。
 胸元の圧迫感が消え、胸の谷間が乳輪まで、大胆に露出しました。

「うふふ。おっぱい出たわね。まあ、これからは、なるべく人も車もいなそうな路地を歩いてあげるから、安心して」
 再び歩き始めたお姉さまが愉しげにおっしゃいました。
「この辺から左のほうへずっと歩いていくと、大きめな公園があるはずなの。草木がこんもり茂って小高い山みたいになった自然公園」
「そこで直子にオールヌードになってもらうのが、あたしの当初の計画だったの。でも、この雨だから人が全然いなそうなのよね」

「視てくれる人が全然いないのもつまらないわよね?だから、そのときはボーナスステージ。あたしがたっぷり直子のからだをイタズラしてあげる。持ってきたオモチャで、イかせてあげるわ」
「直子は、都心の公園で丸裸になって、緑の自然の中でイっちゃうわけ。もちろん声だけはがまんすることになるけれど」
「どう?愉しみでしょ?」

 お姉さまがおっしゃったことを、頭の中で妄想してみます。
 雨の降りしきる森みたいな場所で、真っ裸になってお姉さまにイクまで辱められる自分・・・
 からだがはしたなく火照ってきました。
 車道を左のほうへ渡ろうとして立ち止まった私たちの目の前を、黒塗りのタクシーが通過していきました。

「意識して見ると、タクシーって意外と走っているものね。あ、また来た」
 道路渡るまでに2台のタクシーと遭遇し、私はボタンをふたつ外さなければいけないことになりました。
 
 一番影響が少なそうなおへそから股間のあいだのふたつを外しました。
 残るボタンは4つ。
 公園に着くまで、裾の一番下、実質的には下から2番目と、胸元4番目のボタンだけは死守したいところです。

 道路を渡り左に折れる路地に入ると、通りは見事に閑散としていました。
 車一台だけ通れそうな通りには、人っ子一人なく、ただ雨が地面を打つ音だけが響いています。

 その雨が、かなり強くなってきていました。
 さっきまでパラパラだったのが、今はザーザーッという感じ。
 おまけに風も出てきて、私たちが進む方向には向かい風となっていました。

 お姉さまが傘を前向きに傾け、風に逆らうように進みますが、傘をすり抜けた風が私のワンピースをはためかせ、Vゾーンを押し開きます。
 あれよあれよという間に、左右の乳首ともお外に飛び出していました。
 裾も完全に左右に割れっぱなしで、肌色が丸出し。
 ああん、いやんっ!
 胸元や裾を直すことは禁じられているので、そのまま歩くしかありません。

「本格的に降ってきちゃったわね。これじゃちょっと、傘一本じゃキツイ感じ」
「あの庇の下で、とりあえず雨宿りしましょう。あたし、カッパ着るから」
 お休みのお店屋さんらしきシャッター前の軒下を指さすお姉さま。
 私たちが庇の下にたどり着くのを待っていたかのように、雨はいっそう激しく、ザンザン降りになりました。

「せっかく直子が、とんがり乳首とマゾマンコ剥き出しの、こんなにいやらしい格好をして雨宿りしているのに、この雨と風じゃ誰も外に出てこなそう」
 傘を閉じたお姉さまが恨めしげにお空を見上げました。
 私の胸元は、おっぱいが乳首もろとも完全に露出しているので、通りに背を向けて立ちました。

「バッグ貸してくれる?」
「あ、はい」
 雨が強くなってからは左腕で庇うように提げていたので、バッグはビニールの表面以外、そんなに濡れていませんでした。

 バッグの中から半透明の白い包みを取り出すお姉さま。
 どうやらそれがお姉さまのレインコートのようです。

「直子用にも透明のビニールのコートをもってきたのだけれど・・・」
 そこまでおっしゃり、瞳を閉じて少し考えるような仕草をされるお姉さま。
 それからお顔を上げ、ふたつの瞳にたっぷりのイジワルな光をたたえて、こうつづけました。

「もしも直子もレインコートを着たいのなら、そのワンピは脱いで、素肌に直に着てもらうことにするわ」
「それか、今の格好のまま、傘さして歩くか。好きなほうを選ばせてあげる」

 折りたたまれたご自分のレインコートを広げながら、お姉さまがイタズラっぽく笑いかけてきました。
 軒先から出っ張っているビニールらしき庇を、雨粒がザザザザッとやかましく打ちつける音の中で、私はしばし考え込みました。

「お姉さま?質問、いいですか?」
「どうぞ」
「そのレインコートって、完全に透明なのですか?」
「そうよ。このビニール傘と同じようなもの。丈はそのワンピより若干長いと思う」
「これから行く公園ていうのは、遠いのですか?」
「うーん、10分も歩けば着くのではないかしら。でももう少し小降りになってくれないと、行く気しないわね」

「そこに行くまでに、また信号待ちとかありますか?」
「どうだったっけかな?わからないけれど、たぶんありそうね」
「途中で雨がやんでも、そのままなのですよね?」
「そうね。公園でヌードになった後なら、着替えさせてあげてもいいかな」
 お姉さまは、バッグから取り出した白いバスタオルで、濡れたバッグの表面を拭きながら答えてくださいました。

 真剣に悩みました。
 全裸に透明レインコートっていうのも、すっごくやってみたい気にはなっていました。
 確か、やよい先生との初野外露出のときも、ユマさんと一緒に大雨の中で透明レインコートを着ていたっけ・・・
 束の間、懐かしくも恥ずかしい思い出がよみがえりました。

 だけど、いくら大雨で人が通らないと言っても、ここは天下の往来で、時間もまだ午後の4時過ぎ。
 これから10分間歩くあいだ、誰にも会わないという保証はどこにもありません。
 曇っているとはいえ充分明るいですから、透明ビニールの下が全裸であれば、視線を向けさえすれば一目瞭然で、その肌色の意味を知られてしまうことでしょう。
 途中に信号待ちがあって、隣に誰か並ばれでもしたら・・・

「やっぱり、今のまま、このワンピースにしておきます・・・」
「そう。わかったわ。それなら、まだゲームもつづいている、ということでいいわね?こっちを向きなさい」
 
 ご命令に振り返ると、お姉さまがハンディカメラをこちらに向けていました。
 見知らぬお店の軒先でおっぱいを丸出しにしている私のふしだらな姿が、映像記録として残されました。
 そして目の前の通りを、黄色いタクシーが二台つづけてゆっくりと横切っていきました。

 今やみぞおちと土手の上しかボタンが留まっていない、私の頼りないミニワンピース。
 もう金輪際、一台のタクシーも目前に現われないで、と祈る他はありません。
 雨宿りを始めたときより、雨も風も格段に強くなっていました。

「直子が傘さすなら、バッグは濡れないように、あたしが持ったほうがよさそうね」
 左肩にビニールトートを提げて、その上からレインコートを羽織るお姉さま。
 白濁した半透明のレインコートはポンチョっぽい形で、フードをすっぽりかぶったお姉さまは、妙にスラッとしたテルテル坊主さんみたいでした。

「ゲリラ豪雨なのかしらね?ぜんぜんやむ気配が無いのだけれど」
 私にカメラを向けたまま、退屈そうなお姉さまのお声。
 大雨で誰も通らないとは言っても、昼間の街角におっぱい剥き出しで突っ立っているという状況は、あまりにもスリリング。
 充血した乳首を風が撫ぜるたびに、背筋がムズムズ感じていました。

「ここでただボーっと、雨がやむのを待っているのも、芸が無いわね」
 お姉さまがいったんカメラを下ろし、私のおっぱいを舐めるように見つめてきました。
「そうだ!直子、傘さして道路の向こう端まで行って、ゆっくりこっちに歩いてきてよ。それを撮影するから」
「篠突く雨の中、おっぱい丸出しで歩いてくる赤い首輪の女の子、なんて、なんだかアートっぽくない?」
 ご自分のご提案に、満足そうにうなずくお姉さま。
 再びカメラを私に向けてきました。

「わかりました。お姉さまがそうおっしゃるのなら」
 立てかけてあったビニール傘を手に取り、お外のほうへ一歩踏み出しました。

 庇の先端まで行って通りを見渡します。
 数メートル先も霞むほどの勢いで、雨粒の群れが地面を打ちつけていました。
 人も車も通る気配はまったくありません。
 街全体がされるがまま、ひたすらこの雨が通り過ぎるのを待っているような雰囲気でした。
 これなら大丈夫。
 傘を広げました。

 庇から一歩出た途端、頭上から盛大な騒音が響いてきました。
 見た目より風も強いようで、襟ぐりが孕み、ワンピースが素肌から浮き上がります。
 剥き出しの乳首を乱暴に愛撫する風と雨。
 湿度が高いためか、さほど寒くは感じないのが救いでした。
 ゆっくりと道の端まで歩き、回れ右をしました。

 今度は、軒先で構えているお姉さまのカメラレンズに向かって、ゆっくりと近づいていきました。
 さっきとは逆に左からとなった風が、胸元を容赦なくいたぶります。
 裾も大きく風を孕み、下腹部あたりまで露出しています。
 今、そんな自分の姿が記録されているんだ・・・
 下半身がジンジン痺れるように疼きました。

 そのときでした。
 突風が渦巻くようにヒューと鳴き、持っていた傘が飛ばされそうになって手にギュッと力を入れた刹那、あっという間にオチョコになっていました。
 ここぞとばかりに全身に襲い掛かる雨粒たち。
 一瞬にしてズブ濡れ。
 壊れた傘のビニールがハタハタとはためき、私は大慌てで軒先に駆け戻りました。

「あらあら、とんだ災難だったわね、全身ズブ濡れじゃない?」
 至近距離でカメラを向けつづけるお姉さま。
 素肌にぺったり、ワンピースの布地が貼りついたおっぱいや下半身を撮っているようです。

「すっごくエロいわよ。ワンピが肌に密着しちゃって、からだのライン、クッキリ丸わかり」
「でも直子、ここでズブ濡れになったのって、ある意味ラッキーだったのかもよ?」
 ようやくカメラを下ろしたお姉さまが、謎なことをおっしゃいました。

「通りにカメラ向けてズームを弄っていたらね、近くに面白いものがあるのを発見しちゃったの」
「こんな雨なら、たぶん誰も来ないから、ゆっくり出来ると思うわ、いろいろと」
 お姉さまはカメラをポンチョのポケットにしまい、フードを深くかぶり直しました。

「あそこの赤い庇のところね。あそこまで一気に走るわよ」
 さされた指の先十数メートルのところに、雨に煙って確かに赤い庇が見えました。

「その傘はたぶんもう使い物にはならないでしょうけれど、ここに置いていったらご迷惑だから、持ってきなさい」
「直子は、もうそれだけびしょ濡れなのだから、そのままでも平気よね?思う存分濡れちゃいなさい」
「あの、えっと・・・」
「安心なさい。すぐにサッパリ、気持ち良くなれるから。行くわよ?」

 私のほうを向いていたお姉さまがお外に向き直り、間髪を入れず軽やかに大雨の中へ飛び出していきました。
「あ、お姉さまっ!待ってください!」
 私もあわてて、壊れた傘を片手にお姉さまの背中を追いかけました。


オートクチュールのはずなのに 22

2015年9月23日

オートクチュールのはずなのに 20

 左側は長くまっすぐにつづくフェンス、右側はマンションなのかオフィスビルなのか低めのビルが立ち並ぶ、ひと気の無い直線道路。
 その突き当たり曲がり角から現われた、微妙にお揃いっぽい白と青系統のカジュアルなコーディネートで寄り添うラブラブカップルさん。
 
 そのカップルさんと私たちとの距離は、だいたい30メートルくらい。
 ひと足進むごとに、その距離がどんどん縮まっていきます。

 肩をぶつけるように歩きながら、仲睦まじくおしゃべりされていたおふたりのうち、男性のほうが先に、私たちに気づきました。
 お顔を上げて何気なく私たちのほうを見た後、いったん視線をお相手に戻し、またすぐ、今度はじーっと私だけに注目してきました。
 男性の視線が、私の首輪から胸元に移り、下半身を舐めた後、再び胸元に固定されたのがわかりました。
 男性の異変に気づいたらしい女性のかたからの視線も、私に釘付けになりました。

 お姉さまに手を引かれ車道側を歩いている私は、極力何でもないフリで無表情に努めました。
 だけど心の中は大騒ぎ。
 視ている・・・しっかり視られちゃっている・・・
 自分に対するカップルさんのご様子が気になって仕方なく、目線を動かさないようにチラチラ窺がわざるをえません。

 みぞおちの辺りを基点にして首周りのほうへとV字に大きくはだけた私の胸元。
 おっぱいの大部分がお外に露になっているはずです。
 うつむいた自分の視点では、浮き上がった布地の隙間から乳首も何もかも丸見えなのですが、布地が乳首を擦る感触もするので、乳首までは出ていないのかもしれません。
 だけど大きめの乳輪は、確実にお外にはみ出ているはず。

 包み込むものを失くしたふたつの乳房は、ひと足歩くごとにプルプル小刻みに暴れています。
 とくにビニールトートを提げている左肩のほうは、バッグの提げ手でワンピースの肩口の布が袖側に引っ張られ、右に比べて大きくはだけていて、歩くたびにそれがジリジリ広がっている感じなので、いずれ左乳首は出しっぱなしになっちゃうことでしょう。

 あと10メートルくらいでカップルさんとすれ違う、というときに、お姉さまの手が離れました。
「ちょっとそこに立ち止まっていて。撮影したいから」
 おっしゃるなりタッタッタと私の前方に駆け出すお姉さま。

「はい、こっちに目線向けて歩いてきて」
 私の5メートル先くらいで振り返ったお姉さまがハンディカメラを構え、しんと静まり返った道路に大きめのお声が響きました。
 まるでカップルさんに私の存在をあらためてアピールするような、わざとらしくもイジワルな仕打ち。
 案の定、お姉さまの背中の数メートル手前まで迫っていたカップルさんたちも、そのお声に一瞬ビクッとされましたが、それからはもう遠慮無しに興味津々な感じで、私にだけ注目して歩を進めてきました。

 お言いつけ通りトボトボ近づいていく私の姿をレンズとカップルさんがずっと見つめています。
 ふと自分の胸元に視線を落とすと、尖りきった左乳首が完全にお外へ飛び出していました。
 カップルさんがお姉さまの横を通り過ぎ、私に近づき、すれ違いました。

 すれ違いざまのおふたりの表情を、忘れることは出来ません。
 男性の、なんだか嬉しそうで好奇心丸出しの子供みたいな笑顔。
 女性の、汚らわしいものでも見るような軽蔑しきった冷たいお顔。

「なにあれ?アダルトビデオの撮影か何か?」
 私たちをみつけてからすれ違うまで、まったく会話されていなかったカップルさんのヒシヒソ声が、背後から聞こえてきました。
「かもね・・・」
「こんなところで胸出しちゃって、恥ずかしく・・・」

 その後は聞き取れませんでしたが、首輪、とか、エスエムチョーキョー、という言葉が断片的に聞こえた気がしました。
 私のマゾマンコはヒクヒク震え、お姉さまの傍までたどり着いたときには、立っているのもやっと、みたいな状態でした。

「バッチリ注目浴びちゃったわね?嬉しいでしょ?」
 お姉さまに再び手を握られ、そのまま歩きつづけます。
「すれ違った後も、何度もこっちを振り返っていたわよ。それはそうよね、こんなところにおっぱい丸出しの女がいたのだから」
 お姉さまの視線は、痛々しく尖って宙空を突いている、私の剥き出しの左乳首に注がれています。

「カレシのほうはニヤニヤしっ放しで、とても嬉しそうだったわね。バッグの中身にもピンときたみたい。カノジョのほうは呆れていた感じ」
「直子のエロい姿に刺激されて、あのおふたりさんのデートが、これから夜にかけて盛り上がるといいわね?」
 お姉さまが歩調を緩め、私の顔を覗き込みながら、からかうみたくおっしゃいました。

 私はと言えば、いつまた前方から歩行者が現われないかと、気が気ではありません。
 道はもうしばらくまっすぐですが、途中に四つ角もいくつかあるみたいなので、不意に現われる可能性は充分にありました。
 でも、幸いその後は、後ろから追い抜いていった自転車が一台あったきり誰も現われず、私は左乳首を外気に晒したまま歩きつづけました。

「ほら、あそこにオマワリサン」
 お姉さまが不意に立ち止まり、長いフェンスが途切れて門のようになっている空間の奥を指さしました。
 
 その指の先を辿ると確かに、門の車止め数メートル先の詰め所みたいな小さな建物の脇で、ひとりのオマワリサンが長い警棒を杖のように前に持ち、こちらを見ていました。
 その奥には広大な敷地。
 どうやら誰か偉い人の公邸のようでした。
 あわてて、からだごと顔をそむける私。

「そんなにあわてなくても平気よ。あの人の仕事はお邸の警備なのだから、よほど怪しげな人物でもなければ、持ち場を離れることはないはずよ」
 お姉さまがその前を平然と通り過ぎながらおっしゃいました。
「直子が全裸だったりすれば、無線で応援呼んで、別のオマワリサンがお相手してくれるかもしれないけれどね。どう?やってみる?」
 笑いながら笑えないご冗談をおっしゃるお姉さま。

「だけど、ここから先はしばらく人通りが増えそうな幹線道路沿いを歩くから、残念ながら、その乳首はしまっておいたほうがよさそうね」
 門の前を通り越して数メートルくらいのところで、お姉さまがまた立ち止まりました。
 私たちの行く手には、久しぶりの信号機と、高速道路の高架、そしてその下の幹線道路らしき幅広い道路が見えていました。

「ボタンひとつ留めて、おっぱいはしまっていいわ」
 お姉さまのお許しを得て、大急ぎで胸元を直しました。
 バストが窮屈になり、ワンピースの布を押し上げるふたつの突起が復活しました。

「だけど、それだけじゃ面白くないから、こうしましょう。その代わりパンティを脱ぐの」
 お姉さまがハンディカメラをこちらに向けながら愉しげにおしゃいました。

「えっ!?こ、ここでですか!?」
 思わず聞き返してしまってからすぐに、しまった!と後悔しました。
 お姉さまの表情が一変して、もの凄く怖いお顔をして私を睨んできます。
 ご命令に反問するなど、マゾドレイの私には、竜の顎の下の鱗に触れることよりも許されないことなのです。

「ご、ごめんなさい・・・す、すぐに脱ぎますから・・・」
 周りを見渡すと、幸いなことに人影はありません。
 でも、今さっき通り過ぎた数メートルのところにはオマワリサンが見張っていて、幹線道路を行き交う車の音もビュンビュン聞こえてくる、沿道のマンションの窓から誰かが覗いていないとも限らない、街中の無防備な一角なのです。
 こんなところでショーツを脱がなくてはいけないなんて・・・
 思った途端にマゾ性がキューッと悲鳴をあげ、快感がブルブルっと全身をつらぬきました。

「何をぐずぐずしているの!?」
 カメラを構えたお姉さまの鋭いお声。
「は、はいっ!」
 覚悟を決めて、ワンピースの裾に潜り込ませた両手を、前屈みになりながら思い切りずり下げました。
 ショーツは膝のところで紐状となり、直に外気が股間に触れて、ヒヤッとしました。

「全部脱いではダメよ。まずパンティを足首まで下ろしなさい」
 カメラを構えたまま、お姉さまからのご命令。
「単純にノーパンにさせるだけのつもりだったけれど、さっきの口答えに対してお仕置きをしなくちゃね。直子には一切の拒否権は無い、って最初に伝えたわよねぇ?」
 お姉さまがカメラを構えたまま、絡みつくようなお声で尋ねてきました。

「は、はい・・・」
「人通りが増えそうだから、おっぱいしまっていい、ってせっかく気を遣ってあげたのに、そのすぐ後にあれだもの。命令違反は、それ相応の辱めで償ってもらいます」
 まるで学校の先生みたいな、お姉さまの厳かなお声。

 上半身を屈めてショーツを足首まで下ろしました。
 両足首を結ぶ縄の枷のような状態となったショーツ。
 上体を起こしてお姉さま、つまりカメラのレンズを縋るように見つめました。

「そのまま右脚だけ、抜きなさい」
 もちろん、言いなりな私。
「抜いたら、パンティを左足首に巻きつけて結びなさい。落ちないように」
 心の中では、えーっ!?そんな・・・と大きく悲鳴をあげていたのですが、それを声にすることは、なんとか抑えこみました。

「あと、ローターは抜いちゃっていいわ。電池切れみたいだから」
 お姉さまがコントローラーをこれ見よがしに私に向け、指でスイッチを入れました。
 んっ、と身構えましたが、いつまでたっても震えを感じません。
「ここに来るまでに何度かスイッチ入れたのに直子が無反応だったから気づいたの。命令を守らない役立たずに用は無いわ」
 私にあてつけるみたいに、ひどく冷たく、吐き捨てるようにおっしゃるお姉さま。

「は、はい、お姉さま・・・」
 泣きたい気持ちでその場にしゃがみ込みました。
 しゃがみ込むと、自分がノーパンになってしまったことが如実にわかりました。
 閉じていたラビアが半開きとなり、股の下をスースーと風が通り過ぎて、熱を持った粘膜をくすぐっていきます。
 自分の股間を覗き込むようにすると、割れたラビアのあいだから、リモコンローターの白いアンテナ部分がタンポンの紐のように飛び出しているのが見えました。

 股間に右手を伸ばし、ローターのアンテナをつまみます。
「はうっ」
 手探りでやったので、指先が不用意にラビアに触れ、思わず甘い吐息が漏れてしまいます。
 私、こんな街中で自分の性器を弄っている・・・
 そう考えると同時に、このままマゾマンコをめちゃくちゃに弄り回して、後先考えずにイってしまいたい、という欲求が急激に湧き上がりました。

 だめ、だめ、そんなの絶対だめ。
 こんな街中で何を考えているの?
 欲求を懸命になだめつつ、ゆっくりとアンテナを引っ張り始めました。

「んん、ぬぐぅぅ・・・」
 ローターが膣壁を滑り、膣口を内側から抉じ開けてきます。
 ああんっ、もどかしい・・・
 すぐにヌルンとローターが出てきました。
 ポタポタポタッと路上におツユの雫が数滴垂れました。

「それは口に頬張ってキレイにしてからバッグにしまいなさい」
 私の葛藤を知ってか知らずか、お姉さまからの軽蔑しきったような冷ややかなご命令。
「ほら何しているの?いわれた通りにして、早くパンティ結ぶのっ!」
 
 自分のおツユにまみれたピンク色のローターを口に入れました。
 自分のどうしようもないヘンタイマゾぶりが味覚となって、しょっぱ苦酸っぱく口中に広がりました。

 ほっぺを膨らませたまま、紐状になったショーツをぐるりと左足首に巻きつけます。
 クロッチ周辺はグズグズで、つかんだ手のひらがヌルヌルベトベト。
 濡れていない銀色部分と濡れて黒くなったシミ部分がまだらになっています。
 
 両端をキュッと結んでから、急いで立ち上がりました。
 口の端からよだれが零れそう。
 ローターは、お姉さまが渡してくださったティッシュに包み、ビニールトートに入れました。

「直子、以前シーナさんに、脱いだパンティを手首に巻いておくように命令された、て言っていたでしょう?それを思い出したのよ」
 私がショーツを脱いで足首に巻くまでの一部始終を撮影されていたお姉さまがハンディカメラを下ろし、愉しそうにおっしゃいました。

 私も同じことを思い出していました。
 あれは東京で、シーナさまと初対面のとき。
 デパートの屋上でショーツを脱ぐように命令され、脱いだショーツを手首に巻いて放置されたあの日。
 それを下着だと見破った年下の女の子がくださった、軽蔑しきった憐れみの視線は、私が生涯忘れられない恥辱のひとつとなっていました。

「手首だったら、シュシュだと思わせることも出来るかもしれないけれど、足首だと言い逃れは出来ないわよね?そんなアクセなんて世界中探してもたぶん、ないもの」
 お姉さまが私の手を握り、再びゆっくり歩き始めました。

「その足首の飾りに気づいた人は、それを何だと思うかしら?勘のいい人ならピンとくるかもしれないわね?あれってひょっとして、下着じゃないか?って」
「脱いだパンティを足首に巻いて、ノーパンなことを世間様に知らしめながら散歩するの。それがあたしへの命令違反に対するお仕置き」
「乳首のポッチと足首のパンティで、ノーブラノーパンをアピールしながら歩くなんて、すっごく直子、あなたらしいと思わない?」

 イジワル声に磨きがかかり、お姉さまってば、とっても愉しそう。
 私の内腿をツツツッと、粘性の液体が滑り落ちていくのがわかりました。

 幹線道路まで突き当たると、広い舗道に人影も多め。
 そこを右に折れるお姉さまと私。
 さっき降りた地下鉄の駅へとつづくらしい階段の入口も見えました。
 
 見るからにオフィスビル街という佇まいの高架下を、車がビュンビュン走り過ぎていきます。
 一時は少し明るくなっていた空が再び暗くなり、風も少し出てきて、いよいよひと雨きそうな雰囲気を醸し出していました。
 そんな中を私は、今度はワンピースの裾を意識しながら歩かなければいけないことになりました。

 歩くたびに腿が裾を蹴り、ヒラヒラ割れるワンピースの裾。
 そこから覗くのは、さっきまでは黒っぽい布地、イコール私の愛液で汚れたショーツのクロッチ部分でしたが、今はツルンとした肌色、イコール私の抜き出しマゾマンコそのもの、になっていました。
 ただ、昨夜お姉さまもおっしゃった通り、黒っぽい股間より肌色のほうが、かえって目立たないような気もしていました。

 今の私は、ヘンタイ的な見所満載の姿になっています。
 赤い首輪、Vラインの胸のクッキリ谷間、ノーブラ一目瞭然の乳首の突起、左足首のショーツ、ビニールトートから覗くお浣腸薬を代表とする淫靡なお道具たち。
 そして新たに加わった、ミニワンピースの裾からチラチラ覗く剥き出しの股間。

 どれかひとつだけでも充分にヘンタイなのに、それらすべてを合わせたら、紛うこと無き露出過多の見せたがり、正真正銘のアブノーマルヘンタイマゾ女。
 都会的でお洒落な高層ビルが立ち並ぶ幹線道路脇の舗道を、そんな姿で歩きつづけました。
 
 時折すれ違う人はみなさま、まず赤い首輪に目を惹かれるようでした。
 一瞥してすぐ興味をなくす人、二度見する人、遠くからすれ違うまでネットリ見つめつづける人。
 さまざまな視線を浴びせかけられました。

 そして私は、そんな視線の中をミニワンピースのノーブラノーパンで、剥き出しの性器をチラチラさせながら歩いているという事実に大興奮していました。
 お姉さまの左手を汗ばむほどギュッと握り、努めて何食わぬ顔を装いつつも、心臓はずっと早鐘のよう。

 幹線道路を向こう側へ渡るための交差点。
 そこで信号待ちをしているときに、とうとうパラパラと雨が降ってきました。
 信号待ちをしている人は10人くらいで、私のすぐ横に立った40代くらいのおじさまが、私の胸元にチラチラ視線を送ってきています。
 その横のOLさんぽい女性は、私が提げたバッグの中身に目を凝らしているご様子。

「やっぱり傘買っておいて正解だったわね」
 おもむろにビニール傘を開くお姉さま。
 信号待ちの人たちのうち何人かも傘を開き、信号が青に変わると、傘を持っていない人たちが駆け出して行きました。

「ほら、もっとあたしにくっつかないと、濡れちゃうわよ?」
 横断歩道をゆっくり渡りながら、お姉さまからの思いがけないおやさしいお言葉。

 いったん手を解いてお姉さまが傘を左手に持ち替え、私はその腕に右腕をしっかり絡めました。
 私の右半身をお姉さまの左半身になすりつけるみたいにピッタリ寄り添って歩きます。
 お姉さまの体温、お姉さまの匂い、お姉さまの息遣いを感じながら。
 不意にさっきのラブラブカップルさんを思い出していました。
 
 お姉さまとの初めての相合傘に、今の自分の恥ずかしい格好のこともすっかり忘れるくらい、幸福感を感じていました。


オートクチュールのはずなのに 21

2015年9月13日

オートクチュールのはずなのに 19

「どこかでビニール傘でも買って、一応の準備はしておいたほうがよさそうね」
 私の手を引いて、のんびり歩き始めるお姉さま。
 幹線道路ぽい幅広い車道沿いの歩道には、休日ファッションに身を包んだ老若男女が行き交い、そのほとんどが繁華街らしき方向へと楽しげに進んでいきます。
 首輪に感じる視線の数もグンと増えていました。

「傘ならいつも何本か車のトランクに入っているのだけれど、今日はうっかり、持って出るの忘れちゃった」
「一応そのバッグの中に、レインコートは入れてあるの。でも、もしも小雨くらいだったら、わざわざ出すのもめんどくさいでしょう?」
 
 ふたり並んで手をつないで、人混みに紛れます。
 お姉さまの爪先も繁華街のほうへ向いているようです。

「この通りならコンビニとかあるから、ビニール傘くらい買えるでしょう」
 お洒落っぽいお店が立ち並ぶ華やかな通りは、かなりの人通り。
「ずいぶん人が多いですね?」
 さっきから盛んに首や胸元を通り過ぎていく視線にドキドキしながら、お姉さまに尋ねました。
「ここをまっすぐ行けば赤坂だからね。休日だもの、それなりには賑わうわよ」
 そんなのあたりまえ、とでもおっしゃりたげな、お姉さまの突っ慳貪なお声。

「あ!そうそう、トランクの中と言えばね、あたし、この連休中に信州にも出かけたでしょう?そのとき乗馬をしたのよ」
 話題が思いもよらない方向へ跳びました。
「乗馬・・・ですか?」
「うん。お得意先の社長さんの招待で、2時間くらい遊ばせていただいたの」

「お姉さま、ご経験がおありなのですか?」
「学生の頃、何度か乗ったことはある。今回はかなり久々だったけれど、ああいうのも水泳とかと同じで、一度覚えちゃえば忘れないみたい。なんとか無事に楽しめたわ」
 ゆっくり歩きながらおしゃべりをつづけるお姉さま。

「それで、その後、その社長さんと食事したときに出た話題なのだけれど、彼女の趣味が、乗馬鞭のコレクションだったの」
「彼女の乗馬歴はずいぶん長くて、それはもう奇麗に乗りこなすの。でもまあ、それはそれとして、彼女にも、あたしにとっての直子みたいなパートナーがいるんだって」

「だから、そのコレクションは彼女のパートナーのためでもあるのね。そんな話題で盛り上がっていたら、彼女がね、そのコレクションのうちの一本を譲ってくれる、っていうことになったのよ」
「それが、車のトランクの中に入れっ放しになっているのを今、思い出したの。直子専用の乗馬鞭」
 お姉さまが立ち止まり、薄く微笑んで私の顔を覗き込みました。

「エルメスの乗馬鞭よ。嬉しいでしょ?」
「エルメスって、あのバッグやスカーフとかの、エルメスですか?」
「もともとが19世紀の馬具職人の工房だったらしいから、乗馬鞭を作っていても何の不思議も無いのよ」

「グリップとベロのところが鮮やかな赤で可愛いの。エルメスの鞭の中ではそんなに珍しいものではないらしいけれど、それなりの御礼で譲っていただいたの。もちろん未使用の新品よ」
「帰ったら早速、直子に使おうって思っていたのに、たまほのを空港まで送ったりいろいろあったからすっかり忘れていたわ。車に戻ったら見せてあげる」
「はい・・・」
 私のためにお姉さまが鞭をご用意してくださった、それもなんだかとても高級そうなものを。
 甘酸っぱくて気持ちいい疼きに、下半身全体がじんわり包み込まれました。

「あ。あそこに出ている。あそこで買っていきましょう」
 お姉さまが指さされたのは、お店の前に雑多に品物が並んでいる、量販店ぽいお店の店頭でした。
 曇り空にいち早く反応したらしく、色とりどりのたくさんの傘が店先に並べられていました。

「とりあえず大きめのを一本でいいわよね?降るか降らないかわからないし」
 駅を出たときに比べると、少しお空が明るくなっていました。
 降りそうな雰囲気は充分なのですが、意外とこのまま保っちゃうかもしれません。
 並んだ傘の群れの中から、透明ビニールの傘を無造作に一本抜いたお姉さまは、そのままお店の入口ドアのほうへ進みました。

「あら、ここってドラッグストアなんだ」
 自動ドアが左右にスーッと開き、店内を見渡したお姉さまが独り言みたいにおっしゃいました。
 店内は奥行きがあって意外に広く、お買物カゴを提げたお客様がけっこういました。
「ちょうどよかったじゃない?昨日直子が、家にもあとひとつしかない、って言っていたアレも、ついでに買っていきましょうよ」
 お姉さまはレジとは反対方向の商品棚のほうへ進み、棚を順番に探し始めました。

 お姉さまがおっしゃったお言葉だけで、アレ、が何を指すのか、私にはわかっていました。
「ああいうのはどこのコーナーにあるのかしら?自分で買ったことないから、見当もつかないわ」
 カテゴリー分けされた商品棚の川をあちこちさまよい見て回るお姉さま。
 私は大体わかっているので、誘導しようと思った矢先、お姉さまがおっしゃいました。

「これ以上探すのめんどくさいから、あそこの店員さんに聞いてみましょう」
 私たちが見ている川の一番端で商品を整理されていた20代位っぽい女性店員さんを指さすお姉さま。
「は、はい・・・」
 おそらくそうなるであろうと予測していた私は、覚悟は出来ていたものの、ものすごく恥ずかしいことに変わりはありません。
 ふたりでその女性店員さんに近づきました。

「ほら、直子?」
 お姉さまに右肩をこずかれ、促されました。
「あのう・・・」
 背後から突然声をかけられた女性店員さんの肩がピクッと震え、こちらへ振り向きました。
 目元がくりっとした、すごく可愛らしい感じの女性でした。

「あ、はいっ!何か・・・」
 お声もすごく可愛い。
「あのう、えっと、あの、お、お通じのお薬は、どのへんに置いてあるのでしょうか?」
 大きな瞳に見つめられてドギマギしながら、小さな声で何とか言えました。

「あ、はい・・・お習字?ですか?」
 女性店員さんの視線が私の顔から首輪に移り、そのまま下がって胸元に貼りつきました。
「はい・・・」
 私から目を逸らした女性店員さんの思案気なお顔。
「ちゃんとはっきり言わないと、店員さんだってわからないのじゃない?」
 横からお姉さまが、愉しげなお声でイジワルなアドバイス。

「あの、えっと、つまり、お、お浣腸のお薬・・・です・・・」
 さっきより小さな声で、コソコソ告げました。
「ああ、お通じですね・・・」
 女性店員さんの視線は、お姉さまのお顔を見て、それからまた私の首輪に移り、更に私が提げているバッグの表面に釘付けになってから、何か納得されたような、でもまだ少し困っているような、フクザツな表情に変わりました。

「それでしたら、こちらですね」
 努めて平静を装った女性店員さんの私へのご返答に、蔑みのニュアンスが混ざっていることを、私のマゾ性は聞き逃しませんでした。
 お浣腸薬のコーナーまで誘導してくださった女性店員さんは、すぐに私たちから離れましたが、その後も近くの棚でお仕事をされながら、私たちの様子をチラチラ窺がっているのが視界の端にわかりました。

「へー、けっこういろんな種類があるんだ。子供用とか。知らなかった」
 お姉さまが興味深げに、並んだお薬を眺めています。
 私は、いつも買っているふたつ入りの青い箱に手を伸ばしました。

「ああ、それがいつも直子が使っているやつね。一度にいくつくらい買うの?」
「あの、えっと2つ入りですから2箱か3箱くらい・・・」
 私は、早くお買い物を済ませて、この場を立ち去りたくてたまりません。

「でも、こっちに10個入りっていうのがあるじゃない。こっちのほうが断然お得じゃない?」
 お姉さまが一際大きな青い箱をお手に取り、しげしげと眺めました。
「使用期限もずいぶん長いから、直子なら余裕で使いきれるわよ。あ、でもこっちのほうが容量も多くて、もっとお得ぽい」
 青い箱を元の場所に戻し、今度はその横の紫色の大きな箱をお手に取りました。

「ノズルが長くて使いやすいんですって。長いっていうことは奥まで入るっていうことでしょ?バッチリ直子向きじゃない。こっちにしなさい。あたしが買ってあげるから」
 お姉さまの独断で、その紫色の大きな箱を手渡されました。
「ちょっとバッグ貸して」
 お姉さまにビニールトートを渡すと、その中からお財布を出し、お札を数枚渡されました。
「バッグはあたしが持っていてあげるから、直子はレジに並んでお会計済ませてきて。はい、これ」
 バッグの代わりにビニール傘を渡されました。

 左手にビニール傘、右手にお浣腸薬の箱を剥き出しで持ち、レジへ向かいました。
 レジは3箇所でフォーク並び。
 行列にはすでに6人並んでいて、私は7番目。
 なるべく文字が見えないように、手を大きく広げた不自然な形で箱を持ち、順番を待ちました。
 
 お姉さまは薄い微笑を浮かべて出入口近くに立ち、私を眺めていらっしゃいます。
 もちろん、肩に提げたビニールトートの表側には私のヌード写真。
 行列に並んでいるあいだ中、晒し者にされている気分でした。

 レジの場所がお店の出入り口付近だったため、たくさんのお客様が私の近くを通り過ぎました。
 首輪に気づき、そのふしだらな服装に驚き、手に持っているものを見て、私が何を買おうとしているのかまでわかった人も、何人かいたことでしょう。
 先ほどの女性店員さんが私のほうを見て、他の店員さんと何やらヒソヒソしているのも見えました。
 なかなか進まない列にジリジリしながら、それでも一生懸命普通の顔を作って、順番を待ちました。

「お待たせいたしましたー」
 やっと私の番。
 レジ係さんは、若奥様風の派手めな女性でした。

 私がビニール傘とお浣腸薬の箱をレジカウンターに置くと、その女性は一瞬うつむいたまま固まったように見えました。
 取り繕うみたいにすぐに箱に手を伸ばし、ピピッとしてからお顔を上げ、私にニッコリ笑いかけてきました。
 かなり奇麗めのお顔でしたが、その舐めるような視線は、私の首からバストにかけてを何度も行き来し、何かを値踏みしているような感じでした。
 つづいて傘を、同じようにピピッ。

「今すぐお使いになりますか?」
 不意にそう尋ねられ、意味が掴めずポカンとしてしまう私。
「えっ?」
「えっ?」
 レジ係さんも一瞬呆気にとられ、傘とお浣腸薬の箱を見比べた後、すぐに、なんともいえないイジワルな笑みをニヤッと浮かべました。

「傘ですよ?」
「あ。はいっ!」
 お答えすると同時に、いてもたってもいられないほどの恥ずかしさがドッと押し寄せました。

 レジ係さんは、ビニール傘を覆っていたセロファンを外してくださり、値札も取ってくださいました。
 お浣腸薬は小さな黒いレジ袋に入れられました。
 お金を払いお釣りをもらいました。
 そうしているあいだ中、レジ係さんのお口元にはニヤニヤ笑いが浮かんでいて、明らかに軽蔑されていることがわかりました。

「ありがとうございましたー。またご利用くださーい」
 レジ係さんのからかうような軽いご挨拶に送られ、お姉さまの元に戻ったときには、このドラッグストア内にいるすべての人たちから後ろ指をさされているような、いたたまれない恥辱感に泣き出しちゃいたいような気分でした。

「ずいぶん注目されていたわね。お店にいた人のほとんどが、直子のことチラチラ見ていたわよ」
 お店を出たお姉さまの嬉しそうな第一声。
「直子も必死に普通にしようとしていたでしょう?その顔がいじらしくってさ、ローター震えさせたくて仕方なかったけれど、これ以上はヤバイと思ってどうにか我慢したの」
 来た道を戻りながら、お姉さまが私にビニールトートを差し出してきました。
 私が受け取り、今貰った黒いレジ袋も中に入れようとすると、お姉さまが立ち止まりました。

「それじゃあ直子らしくないでしょう?袋から出して剥き出しのまま入れなくちゃ」
「あ、はい・・・」
 レジ袋から箱を取り出し、ビニールトートのお道具が見えるほうの側に押し込みました。
 麻縄や鎖に混じってお浣腸薬のパッケージも、みなさまに見ていただけるようになりました。
 今度はそちら側を表に出して左肩に提げ、ビニール傘はお姉さまに渡し、再び歩き始めました。

「これで準備も整ったし、そろそろあまり人目の無いほうへ移動しましょう」
 お姉さまが私の右手をグイッと引っ張りました。
 人目の無いほうへ、ということは、すなわちそこで私は裸にされるのでしょう。
 ついに都会の街中で全裸になるときが近づいてきたようです。
 ドキドキとビクビクが心の中で綱引きを始めました。
 やがてさっきの幹線道路が見えてきました。

 幹線道路を渡るため、大きな交差点で信号待ち。
 目の前を車がビュンビュン走り去り、人もどんどん周りに溜まってきました。
 赤い首輪に視線が集まっているのがわかります。
 ビニールトートをじっと見ている人もいるようです。
 私はまっすぐ前を向き、どこにも焦点を合わせず宙を見据えたまま、信号が青になるのをジリジリと待ちました。

「ここを渡って向こう側行くと、かなり人が減るはずよ」
 信号が変わって歩き始めると、お姉さまが教えてくださいました。
「この先にあるのは、外国の大使館とか、国会議員の公邸とか大きな建物ばかりだから、その周辺の人通りは少ないの」
 交差点を渡り切り、そのまま路地へと入っていきます。
 確かに人通りはグンと減り、目の前に凄く長い上り坂。

「この辺りって、坂道ばかりなのですね?」
「それは、赤坂っていうぐらいだからね。この坂を上りきったところに有名な高校があるのだけれど、そこの生徒はこの坂のことを、遅刻坂って呼んでいるらしいわよ」
 ビニール傘を杖みたいにして坂道を行くお姉さまが、少しバテ気味のお声でおっしゃいました。
「でも、確かに歩いている人がぜんぜんいませんね?」
 自分が裸になるときが刻一刻近づいている気がして、坂道の辛さにその興奮も加わって、ドキドキが何倍にも増幅している私。

「そうね。でもあまり油断は出来ないの。この辺りには公的な建物が多いから、要所要所にオマワリサンが警備で見張っているから」
 ようやく坂を上りきり、かなり息が上がって一休み。
 石の壁と緑に囲まれた落ち着いた雰囲気の一画でした。

「だからとりあえずここで、直子は胸のボタンをひとつ外しなさい」
 お姉さまが突然、脈絡の無いことをおっしゃいました。
 思わず、えっ!?と聞き返しそうになり、あわてて飲み込みました。

「い、いいのですか?さっきオマワリサンが見張っている、っておっしゃいましたけれど・・・」
「大丈夫よ。別に全裸になるわけでもないし、スカート短かいけれど、ちゃんとパンティだって穿いているじゃない?」
「ボタンひとつ外して、おっぱいチラチラしているくらいなら、たぶん何も言われないわ。ただの胸元緩い服を着た隙だらけの女、っていう感じで、公然ワイセツまでにはあたらないはずよ」
 ようやく息が整ったらしいお姉さまが私を、エスのまなざしでまっすぐ見つめてきました。

 ハーフカップのブラジャーを下にずらし、おっぱい全体を持ち上げている今の状態で三番目のボタンを外したら、かなりキワドイ状態になるのは間違いありません。
 四番目のボタンはみぞおちの下辺りですから、バスト部分を覆い隠すべき布を留めるボタンはひとつもなくなり、ちょっとしたことでもたやすく左右に割れ、Vゾーンがグンと広がってしまうのですから。
 その上、ブラジャー左右のストラップで中央にも寄せられているので、乳首の位置も中央に寄り、よりポロリしやすくなるはず。
 お姉さまったら、そこまで計算されて、私にこんなブラジャーの仕方をさせたのかしら?

「わ、わかりました」
 いずれにしても私に、お姉さまのご命令を拒む権利はないのです。
 左手で三番目のボタンを外すと案の定、胸元が急にラクになり、前立てがフワリと浮いて割れました。
 
 まっすぐ立っている分には大丈夫そうですが、少し身を屈めると、浮いた布地の隙間から尖った両乳首が、うつむいた自分の視界の中に丸見えでした。
 この感じだと、たぶん脇からもチラチラ見え隠れしていることでしょう。
 正面から風が吹いたらきっと、ひとたまりもありません。
 絶望的な気分になりました。

「うん。セクシー。いい感じね。そのまましばらく歩きましょう」
 お姉さまが右手を握ってきました。
「歩いているあいだ、どんなに胸がはだけても、あたしがいいと言うまでは、絶対直してはだめよ?わかった?」
「はい・・・・わかりました、お姉さま」

 私たちが歩き始めるとすぐに、前方からカップルさんらしき男女が腕を組んで歩いてきました。


オートクチュールのはずなのに 20