2016年8月14日

オートクチュールのはずなのに 54

 楽屋口で迎えてくださったのは、ほのかさま。
 剥き出しになった私のおっぱいを一刻も早く隠さなくては、とでも言うような困惑された表情で、バスタオルを広げて待ち構えていてくださいました。

「お疲れさま」
 労るようなおやさしいお声とともに、背中から包み込むように、大きなバスタオルで私の裸身をくるんでくださいます。

 ほのかさまと抱き合うような形で、されるがままになっていたとき、ほのかさまの右肘が私の尖った左乳首にチョンと触れました。
「あうぅ」
 途端にビリリってそこから全身に電気が走り、思わずはしたない声が洩れました。
 ほのかさまが小さくビクンと震えて一歩退きました。

 私、すごく感じやすくなっちゃっている・・・
 全身の皮膚すべてが性感帯のよう。
 背中に触れているタオル地のザラザラした感触にさえ、ムラムラ昂ぶってしまいます。

「あらら。夕張さん、だいぶ出来上がっちゃったみたいね、顔がトロンて蕩けてる」
 少し離れたところで私たちを見守っていたしほりさまが、愉快そうにおっしゃいました。

「ああ、びっくりしたぁ」
 楽屋口のドアを開けて、リンコさまが戻っていらっしゃいました。

「まさか小夜ちんが、あんなに盛大に濡らしちゃっているとは、思わなかったよー」
「本当はステージでショーツまで脱がせちゃう段取りだったんだけどさ、あんなビチョビチョじゃ、お客様に引かれちゃうと思って、急遽中止した」
 
 呆れたようなニヤニヤ笑いを浮かべたリンコさまに手を引かれ、鏡の前に連れて行かれました。
 せっかくほのかさまが巻いてくださったバスタオルは当然のように剥がされ、おっぱい丸出し女の姿が鏡に映ります。

「ほら、ぐずぐずしないで、ショーツも脱いで!」
 リンコさまの口調、エス度が増しているみたい。
「は、はい・・・」
 みなさまが見守る中で身を屈め、自らショーツをずり下げました。

 私のマゾマンコとソコが密着していたショーツの裏側とのあいだに、か細くて粘り気のある、喩えて言うと納豆の糸のような線が何本も引いては途切れました。
 ショーツを足元まで降ろしても、まだがんばって引きつづける糸も何本かありました。

 そんな光景をじっと見つめている楽屋のみなさまの目。
 そして辺りに漂い始める私にとっては嗅ぎ慣れた、薄っすら磯臭いような淫靡な発情の臭い。
 ショーツの裏側にたっぷりねっとり染みついた、この夥しい粘液こそが、私の淫らなヘンタイ性癖を可視化する動かぬ証拠となっていました。

「チーフが前貼りを却下した理由がわかったよ」
 私の股間をタオルでぞんざいに拭いながらリンコさまがおっしゃいました。
「こんなにベチョベチョにしちゃったら、すぐ剥がれちゃうし、ベージュの前貼りは濡れ染みになると茶色く目立ってみっともないもんね」

 タオルを私のマゾマンコに押し付けて、ギュウギュウと膣の中にまで押し込むように、おツユを拭ってくださるリンコさま。
 私はもちろん服従ポーズで、その刺激の快感に耐えていました。
 リンコさまの傍らではほのかさまが、私が汚してしまった透明ショーツの裏側を真剣なお顔で、丁寧に濡れタオルで拭ってくださっていました。

「このショーツも会場のマネキンに穿かせなくてはいけないのでしたよね?」
 私の淫汁を拭い去り、なんとか透明度95パーセントくらいに戻ったショーツをつまみ上げ、ほのかさまがリンコさまに尋ねました。

「マネキンは仕方ないから諦める。本当は水洗いしたいところだけれど、しちゃうと終わりまでに乾かなそうだし。その感じでいいから、あとは楽屋で干しといて」
「商談会でお客様からご希望があれば、実物を手に取ってもらうことになるからさ」

 リンコさまがタオルを私の股間に押し当てたまま私の顔をじっと見てつづけました。
「濡れタオルで拭いただけじゃ、臭っちゃうかもしれないけどね」
 私に向けて、ニマッと笑うリンコさま。

 そのお言葉を聞いた途端、からだ中の血液がカッと燃え上がり、押し付けられたタオルに恥辱の元凶である淫汁がまた、性懲りもなくトロリと溢れ出たのがわかりました。

 次に着せられたのは、同じ透明素材にうっすら赤色が入ったドレスでした。
 よく海外の映画女優さんなどが華やかなパーティでお召しになっているのを見かける、肌の露出部分の多いセクシー系のイブニングドレス。

 ホルターネックのVラインが大胆に下腹部あたりまで切れ込んでいるので、正面からはおへそ下まで、側面からも横乳がほとんど丸見え。
 少し動いただけでもすぐ、乳首がコンニチハしちゃいそう。
 背中も、お尻の割れ始めくらいまで大胆に開いています。
 スレンダーラインの裾はかかとまであるのですが、左側に入ったスリットが腰骨のあたりまで切れ込んでいるので、脚を踏み出すたびに翻り、キワドイところまで露になりそう。

 そしてもちろん、赤みがかっているとは言え透明素材ですから、ドレスの下の私の裸は丸わかり。
 幅5センチくらいの布地の下で息づく乳首の硬直具合までも、肉眼でハッキリわかりました。

 今度は、こんなのを着て、みなさまの前に出るんだ・・・
 ドキドキとワクワクが、頭と心と下半身に充満します。
 私にはすでに、理性はほとんど残ってなく、自分のヘンタイ性癖の基準で物事を判断し始めていました。
 
 恥ずかしい姿の私を、みなさまに視ていただける・・・
 その悦びだけで全身が疼きます。
 一刻も早くステージに出て、お客様がたを私の姿で驚かせたいという気持ちで一杯になっていました。

 そんなふうにしてショーは進んでいきました。

 シースルー素材の次は、ボンデージ系。
 キャットスーツというのでしょうか、ラテックス素材で首から下すべて、手の先から足の爪先までピッタリと覆われるボディスーツ。

 本当にピッタリ誂えたように、私の裸のボディラインそのまんまに素肌に吸いつく極薄ボディスーツ。
 これは本来、絵理奈さまのサイズに合わせて作られたのですから、他の人には着こなせません。
 だけど私にも見事にピッタリで、そのことを見極められた綾音さまのデザイナーとしての眼力に、今更ながら感心してしまいました。

 こういうアイテムは着たことがなかったので、鏡に映った姿を見たときは衝撃でした。
 最初に着せられたのは、真っ白な地にところどころラインの入った、超有名な人気SFアニメに出てくる、プラグスーツを思わせるデザインでした。

 その剥き出しなボディラインとラテックス素材の光沢が艶めかしくて、まさに裸よりエロティック。
 これも独自開発した新素材のラテックスだそうで、本当に極薄で、乳首の形も、股間のスジの食い込みも、まるで何も着ていないかのように見事に浮かび上がっていました。

 着心地も衝撃でした。
 水泳の水着やバレエのレオタードとも違う、肌に吸いつくような悩ましい密着感。
 初めはひんやり感じた素材が、体温で温まって一体化し、それでなくても敏感になっている全身の肌の触感がざわめきだします。
 どこもかしこも常に誰かに触られている感じ。
 これを身に着けたまま、麻縄でギュウギュウに縛られたら、すっごく気持ちいいだろうな、なんて、ふと考えちゃいました。

 2着めのキャットスーツは渋いモスグリーン。
 こちらはご丁寧にも、おっぱいのカップ部分と下半身のクロッチ部分だけ別素材で、特殊なジッパーで着脱出来るようになっていました。
 そしてもちろん、ステージ上で服従ポーズになり、リンコさまの手でその部分を外されました。

「絵理奈さんだったら当然、ニプレスと前貼り、してあげたんだけどね」
 外す寸前、リンコさまが小声で、からかうようにおっしゃいました。

 明るいステージの上。
 ボディラインも露なエロティック衣装の私に、お客様がたの視線が集中する中。
 全身モスグリーンの中で剥き出しとなった3箇所の、誰の目にもあからさまに欲情しているとわかる生身の肌色部分は、さぞかし卑猥に目立っていたことでしょう。

 つづいては、カジュアルラインコーナー。
 街中でも着て歩けるエクスポーズ服、というコンセプトなのだそうですが、どのアイテムも、とてもそうは思えませんでした。

 まずは、ロリータっぽいハイウェストジャンパースカート。
 ドイツの可愛らしい民族衣装=ディアンドル風の、おっぱいのすぐ下にハイウエストの切り替えが来て、おっぱいをドーンと強調しちゃうアレです。
 赤、緑、黒のチェック柄でメルヘンチックなジャンパースカートに白のフリルブラウスを合わせます。

 襟元にえんじのリボン、パフスリーブでふうわり王子様袖という、超可愛らしいデザインのフリルブラウスなのですが、丈だけが異様に短いんです。
 おっぱいの乳首、そのすぐ下くらいまで。
 下乳丸出し。

 ベリーダンスの人がよく着ている、両袖を通した胸が隠れるくらいのボレロ、を思い浮かべてくださるとわかると思います。
 それのボレロ部分がおっぱいの半分までしか届いてないわけです。
 ジャンパースカートの胸当て部分が、そのすぐ下に来て、半分だけ隠れたおっぱい部分をボーンと強調するみたくウェストを引き絞っています。
 ノーブラでそれを着ると、まっすぐ立っていればスレスレでやっと乳首が隠れる感じでした。

 おまけに、ジャンパースカートも超ミニで、膝上20センチ以上。
 ちょっと前屈みになればお尻丸出しになるのは確実でした。

「本当は、可愛い見せパンも穿くんだけれど、小夜ちんが穿いてもまた汚しちゃうだけだから、ノーパンでいいよね」
 リンコさまのイジワル声でステージに送り出されました。

 次に着せられたのは、一見、ストンとしたラウンドネックのシンプルなワンピース。
 色は肌色に近いベージュで七分袖の膝丈。
 なのですが、両サイド裾から腋下のところまでスリットが入っていました。

 つまり、このワンピースを素肌に着ると、一枚の細長い布地を両肩で折り返して、からだの前後に長方形の布を一枚づつぶら下げているだけ、みたいな状態。
 繁華街などでたまに見かける、からだの前と後にお店の広告看板をぶら下げて宣伝されているサンドイッチマンの人みたいな格好を、裸でしていることになるんです。

 その状態でウエスト部分を黒いベルトでキュッと絞られました。
 ウエストを起点にして、上半身は、胸側に一枚、背中側に一枚、下半身は、お腹側に一枚、お尻側に一枚の布に分割されました。
 横から見たら、前後の布のあいだから横乳、脇腹、太腿まで丸見えです。

 おまけに生地がとてもスベスベ柔らかくて軽いこともあり、からだにくっつけばラインがクッキリ、少し動いたらヒラヒラして、裾が大げさにフワリという仕様。
 腕を振ってランウェイを歩くと、上半身の布がベルトを起点にどんどんせり上がってきて、楽屋に戻る頃には、側面がら空き、横からなら乳首までおっぱい見え放題な状態となっていました。

 その次のアイテムは、パンツルック。
「今日の中ではこれが一番、完成まで試行錯誤したんだ」
 と、リンコさま一推しのアイテムでした。

 渡されたのは、一見普通のブルージーンズ。
 でも股上が異常に浅い?
 まず右脚から通すと、足周りはジャストフィットなスリムジーンズ。
 つづいて左脚を通して腰まで上げました。

「えっ!?」
 思わず絶句してリンコさまを見ました。
「凄いでしょ?」
 ご満足そうなリンコさまの笑顔。

 ほとんど股上がありませんでした。
 両腿の付け根から上には、ほんの数センチほどの布地しかありません。
 前は、性器のスジ覗き始めから、後ろはお尻の穴がギリギリ隠れるくらいだけしか覆ってくれていません。
 例えて言うなら、腿までのストッキングをそのまま右左縫い付けて、股上として幅数センチの腰周りをくっつけた、という感じ。
 ウルトラスーパー超ローライズジーンズ。

 かろうじて恥丘の上に来たボタンを留めます。
 当然ジッパー部分は無し。
 鏡には、左右の大腿骨付け根からのラインが作る三角形の下腹部すべてが露出した私の下半身が映っていました。
 後ろを向くと、お尻の割れスジも三分の一以上はみ出しています。

 このジーンズって、絶対しゃがめないよね・・・
 しゃがんだ途端に股上が腿の方にずり下がって、前の穴も後ろの穴も丸出しになっちゃうはず。
 鏡の自分を視つめながら、ステージ上でしゃがんだ自分の姿を想像していました。

「いかにギリギリまで攻めるか、苦労したんだ。弾力のいいコットンとか探してさ」
 私のほぼ剥き出しな下半身を至近距離からじーっと見つめつつ、リンコさまが感慨深げにおっしゃいました。
 確かに腰の動きに合わせて生地が伸びる感じで、穿き心地はすっごくいいんです。
 それを伝えるとリンコさまは、がんばった甲斐があった、って喜んでくださいました。

「こんなの、普通にヘアのある人は、ショーツ着けたって恥ずかしくて穿けないでしょう?まさに生涯パイパンなナオコ、じゃなくて小夜ちんのため、みたいなデザインじゃない?」
「小夜ちんの性器、絵理奈さんより上付き気味だから、ボタンがスジにギリギリだけど、きっと小夜ちんには、そのほうが嬉しいでしょう?」
 イジワルっぽくおっしゃったリンコさま。

「モデルが絵理奈さんだったら、白いTバックショーツを下に穿く段取りだったんだ。ノーパンだとあまりに生々し過ぎるし」
 独り言っぽくつぶやかれてから、まっすぐ私の顔を見て、つづけられました。

「どうせ小夜ちんが会場歩いて帰ってきたら、股上の裏、ベチョベチョに汚しちゃうんだろうから、この試作品は小夜ちんにあげる。オフィスでもよくジーンズ穿いているじゃん。普段着で使うといいよ」
 その口調にエスっぽいニュアンスを感じて、私にはそれがリンコさまからの、オフィスでもこれを穿きなさい、というご命令に聞こえました。

 上半身には、アンダーバストギリギリ丈のパツパツな白チビTシャツをノーブラで着せられ、その上に前開きのラフなデニムジャケットを羽織りました。
 ジャケットのボタンは、おへそから裾まで留めます。
 ボタンを留めている限りは、下のジーンズの股上がどうなっているのか、お客様にはわかりません。

「ランウェイの端に行ったら自分でジャケット脱いで、肩に担いで颯爽と帰って来なさい」
 リンコさまからのご指令。
 ジャケットを脱いで無毛な恥丘丸出しになったときの、驚きと戸惑いが入り混じったような会場のざわめきは、一際大きいものでした。

 そんなふうに、破廉恥な衣装を取っ換え引っ換え着替えさせられては、お客様がたの前に出るという行為を、私は愉しんでいました。
 どんなにキワドイ衣装を着せられても、早くみなさまに視ていただきたい、と思う気持ちのほうが、戸惑いや羞じらいよりも、あきらかに勝っていました。
 私のマゾ的妄想の中でも、幼い頃から一番根強く巣食っていた公然羞恥露出願望が遂に実現して、ヘンタイ性癖の塊と化してしまった私は、今のこの状況に酔い痴れていました。

 私の一挙手一投足を熱っぽく視つめてくださるお客様がたの視線。
 私が動くたびに、一斉に動くたくさんの頭。
 一枚脱ぐたびに、起きるどよめき。
 ステージを去るたびに、鳴り響く拍手。
 それらすべてが私を性的に興奮させていました。

 お客様がたの表情を見渡す余裕も出来ていました。
 私が出てくるたびに身を乗り出すように見つめてくる、最前列にお座りの艶やかに着飾ったご年配のおばさま。
 ランウェイの中ほど左側にお座りの、私と年齢がそう変わらないであろうビジネススーツの女性は、私が前を通るたびに傍目でわかるほど頬を紅潮させ、気恥ずかしそうに、それでも真剣なまなざしで私の姿を追っていました。

 目線は私に向けたまま、お隣の人と何かヒソヒソ話されている人。
 私の顔とからだを交互に見ては、ずっとニヤニヤ笑っている人。
 何度かオフィスでお見かけしたことのあるお顔もいくつかありました。
 驚嘆、好奇、侮蔑、憐憫、嗜虐・・・
 すべてのまなざしが私に何かを訴えかけていました。
 
 そんな中を私は、外見は努めて無表情を装いながら、内心では淫らなことばかりを考えていました。
 
 もう少し胸を張ったほうが、ノーブラ乳首のポッチが目立つかも。
 もっと大きく腕を振れば、生乳首がお外に飛び出したままになるかな。
 ランウェイ端の回れ右のとき、勢い良くターンしてスカートの中身まで視ていただこう。
 歩いているうちにジーンズのボタンが弾け飛んで、マゾマンコ全部見えちゃえばいいのに。

 とにかく自分のもっともっと恥ずかしい姿を、みなさまにさらけ出したくて仕方ない気持ちになっていました、
 私のどうしようもない、ふしだらなヘンタイ性癖を余すこと無く見せちゃいたい・・・

 楽屋に戻るたびに、はしたなく濡らした股間をリンコさまにからかわれながらギュウギュウ拭かれました。
 乳首が勃ちっ放しでスゴイね、ってしほりさまに感心されました。
 次々とふしだらな格好をさせられる私を見る、ほのかさまの憐れむようなまなざしに、マゾの血がキュンキュン疼きました。
 火照って火照って喉が乾くので、戻るたびにスポーツドリンクをゴクゴク飲み干しました。

 カジュアルラインコーナーの次は、プレイルーム編。
 ショーも終盤にさしかかっていました。
 ここからは、よりエロティックさを追求した、女性のためのセクシープレイアイテムばかりとなるそうです。

 最初のアイテム、文字通り乳首と股間のスジをギリギリにしか隠せない極小マイクロビキニを着せられた私は、とてもシアワセそうに見えたと思います。

 ああ、今度はこんな恥知らずな水着を着た私のからだを、お客様がたに視姦してていただけるんだ・・・
 今までに味わったことのある、どんな種類の気持ち良さとも違う、恍惚とする性的高揚感に、身も心もすっかり支配されていました。

 今さっき身に着けたばかりなのに股間をわずかに覆う小さな白い布地は、しとどに濡れそぼり、スジをクッキリ浮き上がらせてベッタリ陰唇に貼り付いていました。


オートクチュールのはずなのに 55


2016年8月8日

オートクチュールのはずなのに 53

 大きな拍手を背に受けながら楽屋に戻りました。
 全身がカッカと火照って、頭がボーッとしています。

「おつかれー。はい、これ飲んで」
 バスタオルで迎えてくださったリンコさまが、冷たいスポーツドリンクのペットボトルを渡してくださいました。
「あ、ありがとう、ございます」

 ゴクゴクゴク。
 美味しいー。
 熱が篭った体内に冷たい水分が沁み渡っていくよう。
 半分ほど飲み干すと、ほのかさまがペットボトルを受け取ってくださりテーブルに置いてくださいました。

「バンザイして」
 リンコさまのご命令。
「あ、はい」
 右襟から腋にかけてのホックが手早く外され、裾を盛大に捲り上げられ、あっという間に全裸。
 すかさずしほりさまがウイッグを整えてくださいます。

「からだ、ホッカホカじゃない。お客様の視線で、そんなに感じちゃったんだ」
 からかうようにおっしゃりながら、タオルで汗をぬぐってくださるリンコさま。
「はうっ」
 硬くなっている乳首をタオル越しにつままれて、思わずはしたない声が漏れてしまいました。

「いいねいいね。その悩ましい感じ。そのエロっぽさでお客様たちを残らず悩殺しちゃいなさい」
 リンコさまの視線が私の内腿周辺にまとわりついています。
 その部分だけ、汗とは違う種類の粘っこそうな体液に濡れ、お部屋の照明にテラテラ光っていました。
 
 私の下腹部にタオルを押し当て、拭ってくださるリンコさま。
 タオル越しの指が私の腫れた部分をコショコショ嬲ってきます。
 いつの間にか服従ポーズになって、必死にポーカーフェースを繕う私。

「おーけー。次のアイテムはちょっとめんどくさいんだ」
 真顔に戻られたリンコさまのお隣に、ハンガーにかかったスーツカバーを持たれたほのかさま。
「次はスーツだからね。ちゃんと下着からフル装備」
 愉快そうにニッと微笑んだリンコさまから、ニュッと両手を差し出されました。

「何ですか、これ?」
 差し出されたリンコさまの手の上に乗っていたのは、透明のビニール袋?
「だから、下着よ」
 言われてみればそんなような形をしている気もしますが、ものの見事に無色透明なんです。

「ビニール製、ですか?」
「ううん。れっきとした植物由来の繊維製。でも布地って言うより紙に近いのかな。これもうちと某社との開発品」
 ちょっぴり得意気におっしゃって、まずブラジャーから着け始めてくださいました。

 形状はごく普通のハーフカップブラ。
 でも、カップも肩紐も留め具も、みんな素通しガラスみたいに透明。
 だからブラに潰されて少しひしゃげた乳首の色まで、外から丸見え。
 ブラの中でおっぱいって、こんなふうになっているんだ・・・
 着け心地は確かに、普通の布地っぽい。

 つづいてショーツ。
 ローライズ気味のフルバックタイプ。
 ゴムのところだけ少し濁って半透明な以外、見事に無色透明。
 だから当然、中身も丸見え。
 せっかく下着を着けていても、これでは何の意味もありません。
 もしも下にヘアがあったら、黒々、すっごく目立つだろうな・・・

「おお。上も下もサイズ、ぴったりだね」
 リンコさまの嬉しそうなお声。
「それで次はこれ」
 リンコさまのお声に、ほのかさまが持たれていたスーツカバーを開けると、中にはこれまた透明なお洋服っぽいものが入っていました。
「まずはブラウス」

 これまた見事に無色透明。
 まるでビニール袋のようなそのペラペラな布地?は、確かに一般的なブラウスの形状はしていました。
 立ち襟で長袖、着丈はウエストちょっと下くらいの短かめ。
 縫製された糸に当たる部分が少しだけ半透明に濁っている以外、ボタンまで綺麗に透明。

 両袖を通すと、リンコさまとほのかさまが、おふたりがかりでテキパキとボタンを留めてくださいました。
 着心地は、普通のやわらかめなブラウスを身に着けているのとぜんぜん変わりません。

「それで、これね」
 ジャケットとスカート。
 これも透明度の高いシースルーなのですが、全体に少しだけうすーいベージュが入っていてやや濁っている感じ。
 一見してスーツのシルエットが識別できるくらいの極薄い色味が入っています。

 スカートは、膝上丈のけっこうパッツンなタイト。
 ブラウスより厚手な生地ですが、ちゃんと透けています。
 ブラウスの裾はインせず、スカートのウエスト部分、ちょうどおへそのところに数センチかかる感じ。

 ジャケットも同じ色味と生地で、シンプルなビジネスタイプのシルエット。
 ジャケットのボタンもキッチリ留めて着終えると、からだの感覚としては確かにスーツを着込んでいる状態なのですが、鏡に映った姿は赤面モノ。
 ベージュがかったスーツシルエットの下に、肌色全裸のボディラインが見事に浮き出ていました。
 肌の色と薄いベージュが同系色なので、とくにバストトップと乳輪の赤みが、全体肌色の中、強烈なアクセントとなって目立ちまくっています。

「このアイテムはね、開発部では、プロジェクトアンデルセン、って呼んでたんだ」
 私の着付けを調整してくださりながら、リンコさまが教えてくださいました。
「あの有名な、裸の王様、の服を作っちゃおう、って」
 イタズラっ子の笑顔で、ハイヒールなパンプスが足元に置かれました。
「ビジネススーツなんだから、ちゃんと足元もキメなきゃね」

 パンプスだけ透明ではなくて、薄いベージュのシンプルなデザインで、ヒールが10センチくらいと高めでした。
 造りがしっかりして、誂えたみたいに履きやすい。
 履いているときに、そろそろです、と里美さまからお声がかかりました。

 今度はこんな、最初から透明スケスケのお洋服でお客様の前に出るんだ・・・
 鏡に映った自分の姿に再度目を遣ると、下半身の奥底から羞じらいが全身にほとばしります。
 スーツをちゃんと着ているクセに、まったくの役立たず。
 隠すべき箇所がまったく隠せていない、裸体同様の破廉恥な自分の姿。

 パンプスを履いたせいで何て言うか、お外にいる感、がグッと増していました。
 だって全裸になるときって普通お家の中のはずで、そんなときに靴なんて絶対履いていないですから。
 
 ハイヒールという、お仕事とかオシャレとか社会性を連想させるものを身に着けたことで、今の自分のアブノーマルな露出症的服装のアブノーマル感がいっそう際立つように感じました。
 さっき会場のフロアに着いてダンボール箱から出て、全裸にパンプスだけ履いた格好でオフィスビルの廊下を歩いたときに感じた、喩えようのない羞恥と背徳感がまざまざと蘇りました。

 ただ、そんな恥ずかしい恰好をしているクセに、心境にポジティヴな変化が訪れていました。
 こんな姿で人前に出るというドキドキ感は止まらないのですが、そのドキドキの中に、そこはかとないワクワク感が混ざり始めていました。

 早くみなさまの前に出て、ふしだらで恥ずかしい私の姿をご披露したい。
 みなさまが驚くご様子が見たい。
 そんなヘンタイ的な高揚感が強くなっていました。

 それは、これまでランウェイを2往復してみて感じた、お客様がたの好奇に満ちた期待を、文字通り素肌で感じ取ったおかげなのでしょう。
 あっと驚くような格好で私が出てくることを、素直に愉しんでいらっしゃるみなさまのリラックスされたご様子に、私も自分の恥ずかしさを愉しむ余裕が出てきたようでした。

「スタンバイ、お願いします」
 里美さまのお声で、舞台袖に上がりました。

「今回は、往復してステージに戻ったら、そのままステージで待っていて。アタシもステージに上がるから」
 リンコさまが小声で耳打ちしてきました。
「そこからは、アヤ姉の説明に従うの。アタシもステージで手助けするから。わかった?」
 リンコさまのご指示にコクンとうなずくと同時に、場内のBGMがミドルテンポのヒップホップ風に変わりました。
「おっけー、ゴーッ!」

 リンコさまに軽く肩を押され、ステージ上に出ました。
「おおっ!」
 軽く会場全体がざわめきました。
 照明が煌々と点いた明るいままの会場に、スケスケ過ぎる私の姿はどんなふうに見えているのでしょう。
 モデルの心得をおさらいしながらステージ中央まで進みました。

 階段を下りて赤絨毯へ。
 歩くたびに腿を撫でるスカート、腕に擦れる袖。
 身体的には紛うこと無くお洋服を着ている感覚なのに、凄い恥ずかしさ。

 まっすぐ固定した視線の両端に、こちらをじーっと見つめてくるお客様がたの瞳の大群。
 小野寺さま、アンジェラさまのお隣にお姉さまのお姿をみつけて、思わず視線がそちらへと動いてしまいます。
 
 ランウェイの端まで行き着き、回れ右。
 今回は暗転も無く、明るいままの会場をステージへと戻ります。
 視界の右端に入るスクリーンには、すでに正面からの私の姿が映し出されていました。

 大きな顔のアップから、徐々にカメラが私のからだを舐めるように下がっていき、バスト部分では、透明繊維にあがらうように背伸びしているふたつの乳首が、ハッキリ鮮明に映し出されました。
 なおも下がるカメラが、うっすらベージュのスカートウェストから透けるおへそを通り、タイトスカートの下半身アップへ。
 上付きな私の無毛恥丘の割れ始め部分も、二枚の透明繊維越しにクッキリ映っていました。

 ああん、私の恥ずかしい箇所があんなに大きく、みなさまの前に映し出されている・・・
 私が通りすぎた場所に座っていらっしゃるかたたちは、きっと生身の私のお尻とスクリーンを交互に、凝視されているのだろうな・・・

 いやん、視ないで・・・
 ああん、でも視て、視てください、どうぞ存分に、私の恥ずかしい姿をご覧になってくださいぃ・・・

 歩きながら心の中で、グングン興奮し発情していました。
 でも、お姉さまのお言いつけ通り、決して悟られないように努めて無表情を装います。
 心臓の鼓動が周りのかたたちにまで聞こえてしまうのではないかと思うくらい、昂ぶっています。
 それを必死に抑え、耐えながら、内側からゾクゾク、ムラムラ感じていました。

 ステージ中央には、リンコさまがすでに待ち構えていらっしゃいました。
 並ぶ形でお隣に立ち、お客様がたのほうへ向き直ります。

「両腕をちょっと左右に開いたポーズで立っていて。そうね、何て言うか、ペンギンみたいに」
 リンコさまの小声のご指示。
 ペンギンさん?
 ちょっと考えて、直立姿勢のまま両腋から腕を30度くらいの角度で離しました。
「うん。それでいい。あとは自分はただのマネキンだと思って、アタシに何されても無表情でいて」

「ご覧いただいた通り、このプロジェクトアンデルセンは、まったくの無色透明のまま、どんなデザインにも縫製することが出来る夢の新素材です」
 司会者演壇の綾音さまがご説明を始めました。
 と同時にリンコさまが私の前にまわり、私が着ているジャケットのボタンを外し始めました。

「今回のスーツで言いますと、ジャケットとスカートには、シルエットがわかりやすいように薄くベージュを入れてあります」
「このように、シースルーのままお好みのカラーを入れることも可能ですので、例えば、イエローのブラウスの上に青みの入ったジャケットを合わせると、透明なので重なった部分だけグリーンになる、といったカラーコンビネーショの楽しみ方も出来るわけです」

 綾音さまのご説明がつづいているうちに、リンコさまの手でスルスルッとジャケットが脱がされました。
 ジャケットの下は、完全に無色透明なブラウスと、その下のブラジャー。
 私のはしたない乳首は、ジャケットを着ていたときより、よりハッキリと、みなさまの目に見えているはずです。

 つづいてスカートウェストのボタンも外され、スカートが足元にストンと落ちました。
「ちょっと動いて落ちたスカートから両足外してくれる?」

 リンコさまのご指示に、透明なブラウスと下着姿になった私は、後ろに右足、左足と一歩づつ下がりました。
 すかさずリンコさまがスカートを拾い上げました。
 雅さまが近づいてきて、スーツの上下を演壇までお持ちになりました。

「ご覧の通り、モデルが下に着ているブラウスは、まったくの無色透明です。また、あのブラウスとこちらのスーツの生地とでは、厚さとやわらかさが違います」
 演壇からまっすぐ私を指さす綾音さま。
 その私はと言えば、リンコさまの手で今度は、ブラウスのボタンをひとつづつ外されていました。
「その下の下着類は、一番薄手の素材を使用しています」

 ブラウスを脱がされゆく私にお客様全員の視線が集中しているのがわかります。
 なにこれ?
 まるでストリップショー・・・
 それも、最初から裸は丸見えなのに、みなさまの面前で衣服を剥がされていくという倒錯した、アンビバレンツな脱衣状況。

 あれよあれよとボタンが外れ、両腕からブラウスの袖が抜かれて、透明ブラとショーツだけの姿となった私。
 それでもまだペンギンポーズで不動のままいなくてはいけないのです。
 まさか、この下着類も、みなさまの前で脱がされちゃうのかしら・・・

 最初から中身がスケスケ丸見えで、隠す、という機能についてはまるで役に立っていない下着たちでしたが、これだけの人たちの目の前で、されるがままに脱がされ生身の全裸になる、という行為は、恥辱以外の何物とも思えません。

「御覧いただいたスーツとブラウス、それに下着を、このマネキンに着せて、ステージ脇に飾っておきますので、わたくしの説明が終わリ次第、みなさまで実際にお手に触れていただいて、その生地の品質と素晴らしい透明度をご堪能いただければと思います」

 今、綾音さま、下着っておっしゃった・・・
 そのお言葉は、私への処刑宣告でした。

 リンコさまが私の背後に周り、さも当然のようにブラジャーのホックを外されました。
 バストを締め付けていた圧迫からの開放感。 
 布地に押さえつけられていたふたつの乳首が、ここぞとばかりに跳ね起き上がりました。
 同時に素肌に触れる空気感。
 とうとうみなさまの目の前で、生おっぱい丸出し状態。
 それでも動いてはいけない私。

 リンコさまの視線が私の下半身に移りました。
 公然ストリップショーも大詰め。
 リンコさまの手がショーツのゴムにかかったとき、遂に正真正銘の丸裸・・・
 でもそれは、私の中のマゾ性が、幼い頃からずっと望んでいたことでもあるのです。

 覚悟を決めてからもリンコさまは、しばし私の下半身を凝視したまま固まっていらっしゃいました。
 それから、ふとお顔を上げ、ちょっと呆れたふうに笑いかけてきました。
「おーけー。私がアヤ姉のほうへ向かったら、ここでいつものポーズをキメて、楽屋に戻っていいよ」
 小声で私に耳打ちしてきました。
 
 どうやらストリップショーは、最後の一枚を残して打ち切りにするみたい。
 4割の安堵と6割のガッカリ感・・・
「は、はい・・・」
 私の震える小声にうなずき、私から脱がせたブラウスとブラジャーを手にしたリンコさまがスタスタと演壇の綾音さまたちのほうへと向かって行かれました。

 綾音さまのお客様がたへのアイテムご説明はまだつづいていました。
 お客様がたは、綾音さまのお話にお耳を傾けながらも、大部分の方々が私の動向に注目しているようです。
 私は、リンコさまのお言いつけ通り、その場でペンギンポーズからゆっくりとマゾの服従ポーズへと切り替えました。
 枷を解かれて剥き出しになったふたつのおっぱいが、自由に弾むのがわかりました。

 そして、後頭部に当てた両手を頭ごと少し後ろへと引き、生おっぱいと透明ショーツ越しのマゾマンコを軽く皆さまの前に突き出すようにのけぞると、自分の目で自分の下半身を見ることが出来ました。
 ショーツのクロッチ先端に当たる周辺に白濁した液体が溢れ、透明度を曇らせているのが一目見ただけでもわかりました。
 リンコさま、これに気づいて私のショーツを脱がせるのを諦められたんだ・・・

 あまりの恥ずかしさで軽い目眩のようにクラっときたのですが、なんとか踏ん張りました。
 同時にオーガズムのような気持ち良い電流が全身をつらぬきました。
 ビクンと震えたからだと心のすべてが、更なる辱めを強烈に欲していました。
 
 視てください、視てください、視てください・・・と、そのはしたな過ぎる部分をお客様がたに見せつけるように向けたままゆっくり5回カウントしてから、ヒールをコツコツ鳴らして逃げるように楽屋へ飛び込みました。


オートクチュールのはずなのに 54


2016年7月24日

オートクチュールのはずなのに 52

 舞台袖までリンコさまが付き添ってくださいました。
 カーテンの陰から垣間見える会場が明るいことに、まずびっくり。
 
 さっきモニターで見たステージ、お姉さまがお話しされていたときは、薄暗い中にライトで照らし出されていたのに。
 今はステージ上もお客様がいらっしゃるフロアも、このビル階下のショッピングモール並に会場全体、電気が煌々と照っています。

「ず、ずいぶん明るいのですね?」
 思わず小声でリンコさまに尋ねてしまいました。

「うん。今はアイテムの前説だからね。お客様も配られた資料をご覧になっているから」
「このショーは、お客様にアイテムを実際に肉眼で見て検討していただく説明会的な位置づけだから。でもまあ演出で、たまに暗くなったりもするよ」
 リンコさまのご説明でなんとなく納得ですが、私としてはもっと暗いほうが気が楽なのに。

 この明るさでこのワンピース、ということは、両脇からおっぱいが覗けちゃいそうな乳首ツンの薄物一枚で、ショッピングモールを歩くのと同じこと。
 さらに、ここにいるお客様がたすべての視線を私だけに惹きつけて、ということになります。
 さっき楽屋で全裸が隠せた安堵感で頼もしく思えたエスニックワンピが急に頼りなく思えてきました。

「・・・ということで、準備が整ったようなので、そろそろショーに移りたいと思います」
 私たちから見てステージの向こう端。
 仲良く肩を並べて司会をされている、ドレス姿の綾音さまとスーツ姿の雅さま。

「それではアイテムナンバー1番・・・」
 雅さまが告げると、BGMがインド音楽っぽいエスニックな曲に変わりました。
 小気味よい太鼓の音に絡まるシタールの音色が、かなり大きめに響き始めます。
 そのあいだに綾音さまがリンコさまにアイコンタクトされ、リンコさまがジェスチャーでオーケーサイン。

「それでは、じっくりお愉しみください」
 雅さまのお声と同時にリンコさまが私の背中を軽く叩きました。
「ほら、お仕事開始。行っといで」
「は、はいっ」

 視線を前方一点に定め、軽くアゴを引いて背筋を伸ばすこと。
 足を前に出すのではなく、腰から前に出る感じ。
 体重を左右交互にかけ、かかっている方の脚の膝を絶対に曲げない。
 両内腿が擦れるくらい前後に交差しながら、踵にはできるだけ体重をかけない。
 肩の力を抜いて、両腕は自然に振る。

 ステージの真ん中へと歩くあいだ、やよい先生から教わったモデルウォークの要点を必死でおさらいしました。
 視線はまっすぐに定めていましたが、どこにも焦点を合わせないよう、敢えて周りを見ないように努めました。
 それでもぼんやりと、会場の状況はわかりました。

 ステージ中央から会場奥へとつづくレッドカーペットを挟んだ両側に、たくさんの方々が着席されているのがわかります。
 昨日並べられたお客様用の長テーブル席すべてが埋まり、更にその外側までテーブルと椅子が増えているみたい。
 50人くらいっておっしゃっていたけれど、なんだかもっといらっしゃる感じ。
 その視線のすべてが自分に注がれているのを肌で感じていました。

 ステージ中央の階段を下り、お客様が並ぶフロアに降ります。
 ここからは、赤い絨毯を一直線。
 お姉さまからのアドバイスに従って、一歩踏み出すごとに歩数を数えながら進みます。
 お客様を意識しちゃうと途端にパニクりそうなので、視界を極力ぼんやりさせたまま、前へと歩くことだけに集中しました。

 それでもやっぱり明るすぎるせいか、場内の雰囲気がわかります。
 私の両脇1メートルくらいの至近距離からジーっと私の姿を目で追ってくる目、目、目。
 ノースリーブの脇からきっと、横おっぱいが覗けているのだろうな・・・
 腕を振りながらテーブルをひとつひとつ通過するたびに、心臓のドキドキが高まっていきました。

 48、49.50・・・
 51歩めで、ランウェイの先端に到達。
 ふぅ、と一息ついた途端、場内の明かりがすべて消え、真っ暗になりました。

「おおっ」
 お客様の小さなどよめきが合図だったかのように、頭上前方から一筋のスポットライトが私めがけて飛びかかってきました。
 暗闇の中ですでに回れ右をしていた私は、真正面から眩し過ぎるライトを全身に浴びました。

「おおぉーっ!」
 さっきとは比べものにならないくらいの大きなどよめきが会場全体に広がりました。

「なお、本日のモデルを務めますのは、今回がショーモデルデビュー、期待のニューフェイス、夕張小夜です。皆様、盛大な拍手をお願いします」
 綾音さまのアナウンスにつづいて沸き起こる割れんばかりの拍手。
 ライトにひるんで少しのあいだ立ち尽くしていた私は、その拍手に促されるように、今度はステージへ向かって歩き始めました。

 1、2,3・・・
 私を中心にして直径2メートルくらいを照らし出しつつついてくるライトのおかげで、赤い絨毯を踏み外す心配はありません。
 場内のお客様がたは、まだ少しザワザワされていますが、会場が暗くなったおかげで私は幾分気が楽になりました。
 視線をステージに合わせてまっすぐ前を向き、モデルウォークを崩さないように慎重に歩きます。
 11、12、13・・・

 15まで数えたときに、ふっと場内に薄明かりが差しました。
 今まで真っ暗だったステージ向かって右側上の大きなディスプレイスクリーンが点灯したようでした。
 会議室によくあるホワイトボードよりやや大きめのスクリーン中央に、私の姿が映っていました。

 カメラはステージ上から向けられているようで、だんだん近づいてくる私のバストアップが、ほぼ正面から映し出されていました。
 そして驚いたことに・・・

 着ているはずのワンピースの布地が完全に透け切っていました。
 茶とグリーンのエスニック模様を身に纏っていたはずなのに、そのお洋服が忽然とどこかへ消え失せてしまったかのように、強い光にハレーション気味な白っぽい肌色の肉体だけがクッキリ映し出されています。
 
 シースルーなんていう生半可なものではなく、まるで最初からワンピースなんて着ていなかったかのよう。
 足を踏み出すたびにプルンプルン揺れるおっぱいの弾みも、布地に擦れてなおも尖ろうとしている硬そうな乳首のピンク色までハッキリとスクリーン上に曝け出されていました。

 ど、どういうこと???
 今、お客様から私は、こんなふうに見えているの?
 少し視線を落として自分の胸のあたりを見てみますが、確かにエスニック模様のワンピースをちゃんと着ていました。
 頭の中が真っ白になりました。

 スポットライトが当たった後、どんな状態になってもあわてちゃだめよ・・・
 出の前のリンコさまのお言葉の意味がわかりました。
 お言いつけ通り、ポーカーフェースに努めながら歩きつづけます。
 視界の右端に見えるスクリーンの中の自分の姿が気になって仕方ありません。

 歩むに連れてカメラがゆっくりと引いていき、スクリーン上には私の全身が真正面から映りました。
 どう見たって何も着ていない状態。
 両脚の付け根まで鮮やかに剥き出しです。
 全裸の女性が歩いているようにしか見えません。
 光の中の私の肉眼では、確かに布地が全身をちゃんと覆っているにも関わらずです。

 私今、ここにいらっしゃるお客様全員に全裸姿をご披露しちゃっているんだ・・・
 恥辱と愉悦が入り混じったような、何とも言えないマゾ的高揚感が背筋を駆け上ったとき、不意にスクリーンが消えました。
 最後に映っていた私の白っぽい裸身の全身像が残像となって、脳裏に刻み込まれました。
 同時にスポットライトが後方からに切り替わりました。

 私は、いつの間にかステージ手前までたどり着いていました。
 あとは階段を上がり、ステージ中央でポーズして楽屋に戻るだけ。
 一刻も早く楽屋に逃げ込みたい・・・
 でも、お姉さまのイベントをぶち壊しにすることは、絶対出来ません。

 動揺を悟られないよう、一歩一歩踏みしめるように階段を上がります。
 背後から私を照らし出すライトの中、お客様がたには、全裸の女が階段を上がる丸い剥き出しのお尻が見えていることでしょう。

 ステージに戻ったら正面を向き、数秒ほど何かポーズを決めなければなりません。
 ライトの中だとこのワンピは透けている、と、わかってしまった私にとって、ここでお客様に向き直る、という振る舞いは、自ら望んでもう一度みなさまに私の全裸正面姿をご披露する、という露出狂らしいヘンタイ行為以外の何物でもありません。
 スクリーンも消え、暗闇のステージ上に私だけが浮かび上がる中、ゾクゾクしながら思い切ってお客様に向き直りました。

 何かポーズ・・・
 向き直った途端、会場のすべての視線が私に集中したのが闇の中でもわかりました。
 右手を脇腹に当ててちょっと気取る感じ、ってリンコさまはおっしゃっていたっけ・・・
 思い出して右手を挙げようとしたら、自然と左手もついてきてしまいました。

 あぁん、どうしよう!
 と思う間もなく両手は脇腹を超え頭近くまで挙がり、両足は休めの位置。
 気がつくと自然に、両手を後頭部で組んだ、例のポーズになっていました。

 そのまま5秒ほど数えるあいだ、ステージ近くからフラッシュが二度三度、光りました。
 そこで場内の灯りが点き、最初のときのような明る過ぎる状態に戻って、割れんばかりの拍手。
 私はポーズを解き、そそくさと楽屋へ向かいました。

「うん。上出来上出来。最初とは思えないくらい落ち着いていたじゃん」
 楽屋へのドア前で見守ってくださっていたらしいリンコさまのバスタオルに出迎えられ、楽屋に入りました。

「お疲れさまー」
 ほのかさま、しほりさま、里美さまが口々にねぎらってくださり、鏡前に連れて行かれました。

「今の感じでいければ問題無いね。ただ、ウォーキングはもう少しゆっくりめがいいかな」
「ポーカーフェース、さまになってたよ。シースルーになってもぜんぜん動じない感じで、よかった」
「最後のポーズもナオコ、いや夕張さんらしかったね。決めポーズは全部あれでいいよ」
「やっぱりけっこう汗かいているのね。興奮しちゃった?拭いてあげる」

 どなたがどれをおっしゃっているのかわからないほど、頭の中が混乱しきっていました。
 今起こったことが現実だとは思えないほど。
 鏡に映っているのが自分なのかもわからなくらい、ボーッと放心状態でした。

 そんな私から手早くワンピースを脱がせ裸にし、次のアイテムを着せてくださるリンコさま。
 同じような生地で、今度はピチピチパツパツ、ボディコンシャスなエスニック柄マキシ丈かぶりワンピースを、もちろん素肌に直で。
 
 長袖でからだのラインがクッキリ浮き出ています。
 スタンドカラーがチャイナドレス風というかアオザイっぽいというか。
 スリットは膝くらいまでで、ちよっと歩きづらそう。
 何をどう感じたらいいのか、思考がぜんぜん定まらない頭で、そんなことを考えていました。
 
「この生地はね、うちと、とあるバイオ研究所との共同開発なの。暗いところで強い光が当たると本当に綺麗に透けるんだ」
 リンコさまが私の着付けを直しながら嬉しそうに教えてくださいました。
 しほりさまは、私の顔にくっつくくらいお顔を寄せて、アイラインを修正してくださっています。

「おお、小夜っちがボディコン着ると、やっぱかなりエロいね。とくにバスト周りが」

 リンコさまのお言葉で自分の胸元に目を遣ると、柔らかい生地が私のおっぱいそのままの形に撓み、肉感的に包み込んでいました。
 もちろん、ふたつの頂点は露骨過ぎるほど生地を派手に押し上げています。
 うわ、いやらしい・・・
 自分で思わず目をそむけちゃうほどの生々しさ。

「はい、スタンバイしてください」
 羞じらいを感じる暇もないほどのあわだたしさで、美里さまからのご指令。
 リンコさまに手を引かれ舞台袖でキューを待ちます。

「このアイテムもさっきのと同じ段取りね。ランウェイ端で暗転するから」
「さっき言ったみたいに、ウォーキングを少しゆっくりめに、音楽のリズムにノッた感じで。アイテムとその優秀な透け具合をじっくり見ていただかなくちゃ」
「このアイテムが終わったら、長めな着替え時間でちょい休憩取れるから、がんばって」

 そんなふうに教えてくださっているあいだに、早くも綾音さまからのゴーサイン。
 最初みたいな明るさに戻ったステージに、ボディラインクッキリのボディコン姿で立ちました。
 BGMは、オリエンタルなメロディのアフタービートが効いたミディアムテンポに変わりました。

 頭の中は、相変わらずしっちゃかめっちゃかなのですが、人前に出る気分はかなり落ち着いてきていました。
 たぶん、先ほどのステージ去り際にいただいた盛大な拍手が、効いたのだと思います。
 あ、私、みなさまから歓迎されている・・・
 それは、生まれて初めて味わった、と言っていいほど、とても気持ちの良いものでした。

 最初のアイテムの暗転の後、スポットライトを浴びた私は、自分では予想もしていなかった全裸姿を、お客様すべてに視られてしまいました。
 暗転してライトが当たった直後に起きたどよめきの意味を、スクリーンに映った自分の姿で知りました。
 そして、最後にステージでもう一度お客様と向かい合い、マゾの服従ポーズをご披露したときにいただいた大拍手。

 それを浴びて私は、お客様がたが私の味方だ、と思えたのでした。
 こんなヘンタイなのにみなさまが私に注目され、私の裸を視たがっていらっしゃる、ということが、とても嬉しかったのです。
 心の中の私のマゾ性=恥ずかしい姿を視られるという恥辱の悦び、が拍手という心強い援軍を得て、臆病な理性と常識を片隅に追い遣りつつありました。

 ボディコンおっぱいが露骨に揺れるのも構わずランウェイを一歩一歩踏みしめながら、お客様がたを見渡せる余裕が出来ていました。
 ざっと数えただけでも、確実に60名以上はいらっしゃるでしょう。
 お若そうなかたからご年配まで、色とりどりに着飾ったご婦人たちが私の動きを目で追っていました。

 ときどき見知ったお顔がいらっしゃるのにも気づきました。
 あそこにアンジェラさまと小野寺さま。
 こっちにはシーナさまと純さま、それに桜子さまも。
 カメラやビデオを構えているのはスタンディングキャット社の男性陣。

 お姉さまのお姿が見つからないな、と思ったとき、ランウェイの端まで来ていました。
 両手を後頭部に添えてポーズを取った瞬間、暗転。
 すかさずスポットライトの洗礼。
「おおっ!」
 どよめく会場。

 ポーズのまま回れ右。
 ポーズを解いて歩き始めます。
 まだスクリーンが映らないので、自分がお客様からどんなふうに見えているのかわかりません。

 今度のはボディコンだから、さっきよりいっそう生々しい全裸姿になっているのだろうな。
 そんな恥ずべかしい姿を、お久しぶりなアンジェラさまや純さまに視られているんだ。
 どうか私だってバレませんように・・・

 今のこんな状況を愉しむ余裕まで出てきたのか、そんなことをワクワク考えながら、さっきよりゆっくりめにランウェイを進んでいると、さっきと同じような位置で、パッとスクリーンが輝き出しました。
 そこに映しだされた自分の姿・・・

 今度は最初から全身が映っていました。
 でも、予想したような全裸姿ではありませんでした。

 首周りまで隠れたチャイナドレス、アオザイ風のボディコンマキシワンピのシルエット。
 そのバスト周りと下腹部周りだけが綺麗に透けていて、その他の部分はちゃんと隠れているんです。
 普通はひと様にお見せしてはいけない部分だけを誇示するように、あからさまにそこだけ、鮮やかに露出しているんです。

 真っ暗な中に浮かび上がる、一見、着衣姿の私。
 シルエットのコントラストで点々と白く浮き上がった私の顔と両手両足、そしておっぱいと股間。
 そんなにソコを見せたくて仕方ないの?って言いたくなっちゃうくらい、あまりにヘンタイな半裸着衣。
 予想を超えるふしだら過ぎる自分の姿に、被虐感と背徳感がギューっと凝縮され、それらが淫らな欲求へと姿を変えて下腹部をキュンキュン疼かせました。

 先ほどみつけたアンジェラさまたちの真横を通り過ぎました。
 これってやっぱり後ろから見たら、おっぱい裏の背中とお尻の部分だけ透けているのだろうな・・・
 喩えようの無い恥ずかしさがマゾマンコの奥を潤ませてきます。

 階段を上がってステージ上へ、スクリーンも消え、スポットライトが闇の中、私だけを照らし出します。
 楽屋に捌ける前に、この破廉恥過ぎる衣装にお似合いの、一番私らしいポーズをみなさまにご覧いただかなくてはなりません。

 クルッと回転してお客様がたと向き合います。
 ゆっくりと両手を後頭部へ。
 自分が今、みなさまからどんな格好に見えているのかを想像すると、羞恥にプルプル震えだしちゃいそうなほど。

 みなさま、どうぞじっくり、ヘンタイドマゾな私の恥さらしな姿をご覧くださいませ・・・
 心の中でお願いしながら、マゾマンコをみなさまに突き出すように少し弓反りになった服従ポーズで、ゆっくり5つ数えました。

 下腹部の透けた部分にじっと目を凝らしていたお客様がおられたなら、少しだけ開いた陰唇のほとりから零れ出た生温くも淫らな液体が左脚の内腿を伝って一筋、ツツツーッと滑り落ちていくのが見えたことでしょう。


オートクチュールのはずなのに 53