2015年4月19日

面接ごっこは窓際で 10

 ハンガーに掛かったまま手渡されたのは、シックなワインレッド色のロングカーディガンでした。
 ふうわりとしたルーズなシルエットで、たぶんウールかな。
 太めの毛糸をざっくり手編みした感じが、とても素敵でした。

「昨シーズン、けっこう出た人気アイテムよ。これは素材を選ぶために作らせた試作品でウールだけれど、製品版はコットンになったの。クリーニングがラクだからね」」
「これ羽織っておけば監視カメラも問題ないでしょう?直子の大好きな裸コートのニット版よ。着てみて」
 お姉さまに促され、カーディガンを注意深くハンガーからはずし、袖に腕を通しました。

 丈は膝上5センチくらい、袖も一折すれば問題ありません。
 でも、それ以外は問題山積みでした。

 前合わせがおへそのちょっと上くらいの、かなり深めなVネックなので、胸元がほとんどはだけて覗いてしまいます。
 ボタンはふたつ、おへその少し上と腿の付け根あたり、だけ。
 透かし編み、と言うのでしょうか、隙間を多用したざっくりした編み方なので、全体にそこはかとなくシースルーな感じ。
 その上、ルーズフィットなだぶっとしたつくりなので、少しからだを屈めただけで生地と素肌に大きく隙間が出来、胸元からおっぱいが丸見えになってしまいます。

「あの、お姉さま、これ、少し私には大きいような・・・」
「あら、いい感じよ。甘えんぼ袖でかわいいじゃない」
「それに、胸元が開きすぎでは・・・」
「だってカーディガンって、本来何か着ている上に羽織るものだもの、仕方ないわ。チェーンネックレスが胸元を飾っているから、それはそれでセクシーな感じになっているわよ」
 確かに首からかけたチェーンが胸の谷間で三方に分かれ、左右の乳首へと繋がっているであろうことまでバッチリ丸わかりでした。

「安心なさい、ボタンは留めちゃダメ、なんてイジワルは言わないから。さ、行きましょう」
 ロッカーを閉じ、バーキンを肩に提げてモップ片手のお姉さまが、ツカツカとドアに向かいます。
 私もあわててショートジャケットとハンドバッグをショッパーに押し込み、もう片方の手に重いバケツを持って、お姉さまの後を追いました。
 からだを動かすと裏地が肌に擦れ、ウールのチクチクが尖った乳首を挑発してきて私はモヤモヤ。
 股下以降ボタンが無いスリット状態な裾は、歩くたびに大きく割れ、太股から付け根まで、大胆にキワドク覗いてしまいます。

「あっ!いっけなーい!」
 オフィスの電気を全部消して、あとは廊下に出るだけ、とドアノブに手をかけたお姉さまが、真っ暗な中で小さく叫びました。
「えっ!?」

「直子の履歴書、あたしの机の上に出しっ放しだったわ」
「えーーーっ!?」
「あたし、出張から帰るの火曜日の予定だから、そのあいだずっと置きっ放しになっちゃうわね」
「あの、そのあいだに誰か社長室に入ったりはしないのですか?」
 焦ってお姉さまに尋ねました。

「もちろん入るわよ。今はたまほのがあたしの仕事の補佐だから、あたしの代わりにね」
 何言っているの、この子は?みたいなニュアンスの笑いを含んだお声が、暗闇から聞こえました。
「でも、たまほのなら気を利かせて、黙って机の抽斗にでもしまってくれるだろうから、まっ、いっか?」

「いくないですっ!!」
 お姉さまの語尾が消えないうちに、覆いかぶせるように抗議の声をあげました。
 私のイキ顔が添付された、あんな破廉恥な履歴書を早々と社員のかたに見られちゃったら、私はどんな顔をして初出勤すればいいのでしょう。

「あんな履歴書、早くどっかにしまっちゃってください!いえ、会社に置いておかないで、お姉さまがお家へ持って帰ってください!」
 お姉さまとの面接ごっこで自分の恥ずかしい性癖をひとつひとつ、自筆で書き加えさせられたときの恥辱感が全身によみがえり、いてもたってもいられなくなって、強い調子で抗議してしまいました。
「おー怖い。でも直子って、怒ったときさえマゾっぽい感じなのね。嗜虐心をくすぐるって言うか。あたし、そういうのも好きよ」
 余裕のお姉さまが再び灯りを点けました。

「わかったわ。そんなに言うならしまってくる。可愛いスールからの切羽詰ったお願いだもの」
 社長室に向かうお姉さまを、私も追いかけます。
「でもね、社員の履歴書を持って帰ることは出来ない決まりなの。社外秘書類は持出禁止。これは会社のルールだから」

 ご自分のデスクの上に無造作に置いてあった履歴書をつまみ上げ、一瞥してからクスッと笑い、たくさんある抽斗のひとつに、これまた無造作に放り入れました。
「今は金庫の鍵持っていないから、とりあえずね。大丈夫よ。たまほのはこの抽斗、絶対に開けることはないから」

「あの・・・もしも社員のかたが、私の履歴書を見たい、っておっしゃってきたら、お姉さま、あ、いえ、チーフは、お見せになるおつもりですか?」
「そうねえ・・・取締役のアヤか雅が見たいって言ってきたら、断る理由は無いわね。もっとも今までそんなこと、ふたりとも言ってきたこと一度もないけれど」
 とりあえず少しだけホッとする私。
 だけど私のあの破廉恥な履歴書は、この会社の正式な社外秘書類になってしまったようでした。

 なんとなくモヤモヤしたままオフィスを出て、給湯室に用具を戻し、片手が空くとすぐにその手でカーディガンの大きく開いているVゾーンの襟端を両方握って隠しました。
 そのままエレベーターホールへ向かいます。

「こうしてあらためてよく見ると、全体にけっこう透けるのね、それ。でも色っぽくて、いい感じよ」
 お姉さまが私を振り返り、しげしげと見ながらおっしゃいました。
 手をどけなさいって叱られるかな、と思ったのですが、胸元Vゾーンを隠していることについては、とくに何も触れられませんでした。

 エレベーターの箱はみんな一階で待機しているようでした。
 お姉さまが呼び出しボタンを押し、やって来るのを黙って待ちます。
 ここには監視カメラがあるはずなので、お姉さまの陰に寄り添うようにくっつきました。

 やがて1基のエレベーターがやって来て、扉が開きました。
 正面に大きな鏡。
 そこに映った自分の姿に思わず息を呑みました。

 エレベーター内の明るい光に照らし出されたワインレッド色のストンとしたシルエット。
 その内側に私のからだのライン全体がハッキリわかるほど、白くクッキリ透けていました。
 その上、網目が詰まった部分と粗い部分で交互に、忙しくボーダー模様になっているデザイン。
 私が着るとちょうどバスト部分と土手部分が粗いほうの網目に当たっています。
 なので、バストに目を凝らせば、私の乳首の位置も色も、ちゃんとわかります。
 下半身も、両腿の付け根部分が、見事に透けています。

 お姉さまをにぴったり寄り添い、来るときに教えていただいた監視カメラに背を向けるように、横歩きで乗り込みました。
 お姉さまのおからだが監視カメラの盾になるような位置で背中を向け、じっとちぢこまります。
 この際、お尻ぐらいは映っちゃっても、仕方ありません。

「お姉さまの会社って、こういうえっちなお洋服ばかり作っているのですか?」
 ヒソヒソ声で少し嫌味っぽく愚痴ってしまいました。
「あら失礼ね。直子だからそうなるのよ。サイズがちょっと大きめだから。あたしが着たらちゃんと、見せたくないところは見えないデザインよ」
 愉快そうなお姉さまのご反論。
 お姉さまったらやっぱり、計算されてこのカーディガンを選ばれたんだ。

 エレベーターはどの階にも停止することなく、あっという間に地下の駐車場に到着しました。
 駐車場内は、フロアに較べればずいぶん暗めで一安心。
 人っ子一人いないようで、しんと静まり返っていました。
 コンクリートをカツカツ叩くお姉さまのヒールの音。
 私も早く自動車内に逃げ込みたい一心で、ショートブーツの底をパタパタ鳴らしました。

 やがて一台の乗用車の前で立ち止まったお姉さま。
 それがお姉さまの愛車のようです。
 薄暗いので紺色なのか青色なのかハッキリしませんが、割と大きめな車でした。
 ずっと昔からある美味しいサイダーのマークに似たエンブレムを、お顔に付けていました。
 自動車のことはほとんど何も知らない私でさえ、そのマークが付いた車は高級外国車であるということは知っていました。

「すごいですね。さすが社長さん、っていう感じです」
「それって皮肉?これ、実家から借りているのよ。こっちに出てきて借りっ放し。ナンバー見てごらん、横浜でしょ?」
「あ、本当だ。ご実家もすごいのですね」
「うーん、どうだかね。そんなことより、早く乗りなさい」
 お姉さまが運転席のドアを開けてローファーみたいなお靴を取り出し、履き替えられています。

 助手席のドアを開けて乗り込もうとしたとき、躊躇いが生じました。
 私は今ノーパン。
 そしてもちろん、今の自分の恥ずかし過ぎる格好で、充分に潤んでいます。
 このまま座ればカーディガンのお尻を汚してしまうし、生尻じか座り、するならタオルを敷かなくちゃ。
 懐かしい言葉を久しぶりに思い出して、ちょっと顔がほころびました。
 それから持っていたショッパーを覗き込んで、キレイめのタオルを探し始めました。

「どうしたの?早く乗りなさい」
 訝しげなお声でお姉さまが尋ねてきます。
「えっと、あのですね、私は今ノーパンで濡れているので、このまま座ったらカーディガンを汚してしまうし、お尻をまくって直に座ったらお車のシートを汚してしまうし・・・」

「へー。ずいぶんな気配りさんなのね。それで直子はどうしようとしているの?」
「なので、シートの上にタオルを敷いてから、生尻じか座りをすれば、カーディガンもシートも汚れないから・・・」
「生尻じか座り、って面白い表現ね。あたしは別に、そのカーディガンは直子にあげたつもりだし、助手席に直子のおツユが染み込んで車内が直子臭くなっちゃっても、別に構わないのだけれど」
 そこまでおっしゃって、少し考えるふうに視線を宙に向けるお姉さま。

「おっけー。決めたわ。生尻じか座り、っていう言葉が気に入ったから、それでいきましょう」
「タオルも敷かなくていいわ。どうせその中のタオルはみんな、直子の愛液がたっぷり染み込んでいるのだもの、敷いたって同じよ。文字通り、生尻じか座り、でいいわ」

「でも、これって本革では・・・」
「そうかもしれないけれど、いいわよ。どうせ乗ったら、ものの5分もしないうちに着いちゃうもの」
「それとも直子は、何か期待しているの?車に乗って家に着くまでに、車内中が直子臭くなっちゃうほどおツユが溢れちゃうような出来事を」
「いえ、そ、そんなことないです。わ、わかりました」
 お姉さまのイジワル口調にキュンとなってトロリ。

 車に乗り込んで腰を下ろす前に、お尻側の裾に両手を遣って思い切りまくり上げました。
 それからストンと、裸のお尻をシートに沈めました。
「ひゃぁっ」
 ひんやり冷たい感触と、ちょうど良い柔らかさの革の肌触りがお尻を包みました。
 お姉さまは、そんな私の一挙一動をじーっと見つめていました。

「直子?」
「あ、はい?」
「左のおっぱいが襟から全部零れ落ちていてよ。それともワザと?」
「あ、いえ!」
 からだを折り曲げた拍子におっぱいがはみ出てしまっていたようです。
 あわててカーディガンの前をかき合わせました。

「タオルを敷くとか、そんな気配りが出来る、っていうことは、似たような格好で誰かの車に乗ることが過去に何回かあったのよね?」
 私が座り終え、助手席側のドアをバタンと閉めても、お姉さまはまだエンジンをおかけにならず、私に質問してきました。

「はい。やよい、あ、いえ、百合草先生と、あとシーナさまのお車にも」
 かき合わせた胸元をギュッと握り締めてお答えしました。
「ふーん。そのときはいつも、生尻じか座りのタオル敷き、だったわけね?」
「はい・・・」
「ふーん」

 意味ありげに私の顔を覗き込んでから、やおら前を向き、車のエンジンをおかけになるお姉さま。
 車内を低くエンジン音が包み込み、その中を綺麗なバイオリン曲が小さく漂い始めました。

「直子?」
「はい?」
「シートベルトをしたら、そのニットのボタン、全部外しなさい」
「えっ?」

「直子さっき、そのニットに絡めて、あたしの会社に対して失礼なこと言ったわよね?それに、この車見たときも、何か皮肉っぽいことを」
「あ、いえ、決してそんなつもりでは・・・」
「ううん。言ったことは間違いないわ。あたしに馴れ過ぎて直子は、自分の立場を忘れかけているのよ。だからこれは躾。お仕置きよ」
「直子とあたしがどういう関係なのか二度と忘れないように、命令します。ボタンを外しなさい」
 私の顔をじっと見据えて、冷たいお声でおっしゃいました。

「は、はい・・・申し訳ございませんでした・・・」
 おずおずと右手を下腹部に伸ばし、ボタンを外し始めました。

 カーディガンの裾はまくり上げているのでお尻に敷かれていず、シートの背もたれと私の背中のあいだでクシャクシャになっています。
 そんな状態でボタンを外せば、前合わせはそこに留まっていることが出来ず、左右にハラリと簡単に割れてしまいます。
 一個外すと土手と割れ始めのスジが覗き、2個目で太腿から下腹部まで、完全に露になってしまいました。
 その影響は上半身にも及び、左側はシートベルトでも押さえられているので無事でしたが、右側は襟部分までペロリとめくれて、右おっぱいがチャームをぶら下げた乳首まで顔を出していました。

「そのまま、絶対直しちゃだめ。これはお仕置きなのだから」
 おっしゃりながらお姉さまの左手が背後から、私の左肩を抱くように伸びてきて、左おっぱいを覆っていた布地が肩先から引っ張られ、せっかく隠れていた左乳首も、こんにちは、してしまいました。
 左おっぱいの上部分を斜めにシートベルトが締め付け、少し歪んだ肌の先に、尖った乳首にチャームをぶら下げた左乳首。
 つまり、私の肌でニットに隠れているところは両袖だけ、という状態になってしまったのでした。

「そのまま夜のドライブよ。もう深夜だから、いくら土曜の夜でも、人も車もたいしていないでしょう。直子の家までなら大通りを通るわけでもないし」
「ずっとこのままで、ですか?」
「そう。おっぱいも下も丸出しで。と言っても外から下半身は見えないでしょうけれどね。どう?ドキドキしちゃう?シート、思う存分汚していいわよ」

「あの、あの、えっと、以前、やよい先生に教えていただいたのですけれど・・・あ、えっと百合草先生です」
 お姉さまご提案の大冒険にワクワクしつつも、万が一の危険性がどんどん脳内で膨らんできて、動揺と共に言い出せずにはいられませんでした。

「んっ?」
 お姉さまの眉がピクリと動いて、先を促す仕草。
「えっと、こういう車の中での露出では、みんな周りばかり気にするけれど、一番注意しなくちゃいけないのは前を走っている車だ、って」
「前?どういうこと?」
「あの、これ、えっとバックミラーでしたっけ?これで後ろの車の運転席のことは丸見えだから、もし前の車が覆面パトカーだったりしたら・・・」
 フロントグラスの上真ん中くらいに付いている小さな鏡を指さしながら、おずおずとご説明しました。

「ああ、なるほど。確かにね。あたしも以前、信号待ちのあいだキスしてるバカップルをルームミラー越しに見たことあるわ」
「さすが百合草女史ね。あたしそんなこと考えたこともなかったわよ」
 心底感心されたご様子のお姉さま。
「もっともあたしは今まで、助手席で裸になりたがるようなヘンタイを、自分の車に乗せたこともなかったけれどね」
 お姉さまの左手の指が、私の右乳首のチャームをチョンとつつきました。
「やんっ」

「おーけー。それならこうしましょう。前の車との車間距離が詰まっているときと、狭い道で対向車とすれ違うときは、直子は腕でバストを隠してもいいわ。腕組むみたいにして」
「車を降りるまで、それ以外の動作は一切禁止ね。まっすぐ前を見て、大人しく座っていること」
「それにせっかくのチャンスなのだから、まるべく隠さないように努力しなさい。視られたって一過性なのだから」
「直子だって誰かに視られたほうが興奮するのでしょう?あたしが隣にいるのだから、大丈夫よ」
「は、はい・・・」
 なんとなく覚悟が決まりました。

 ヘッドライトがパッと点いて、車が音も無く動き始めました。
 薄暗い駐車場に人がいる気配はまったく無く、音楽はクライスラーの愛の喜びに変わっていました。
 段差を乗り越えるたびに車が少し揺れて、私の剥き出しのおっぱいもチャームごとタプンと弾みました。
 長いスロープをゆっくり登りきると、駐車場の出口が見えました。

 駐車場出口で一旦停止。
 ここから先は、私が慣れ親しんだ生活圏内の一帯です。
 そんな場所を、車の中とは言え、おっぱい丸出しの上半身をガラス窓から覗かせて走っていくのです。
 喩えようのない恥ずかしさと背徳感が全身をつらぬきました。

 出口から出て左折したお姉さまの車は、数秒も走らないうちに最初の信号に捕まりました。
「ここは右折できないから、ビルをぐるっと一周することになるわね」
 幸い交差点には人も車もいません。
 と、思う間もなく対面からヘッドライト。
「大丈夫よ。もう信号変わるから」
 腕を組みたくてムズムズしている私を制するように、お姉さまのハンドルがゆっくりと左に切られました。

 片側二車線の右寄り路線をゆっくりと直進するお姉さま。
 そのあいだ、2台の対向車がけっこうなスピードですれ違っていきました。
 私は呆気に取られ、腕で隠すヒマもありませんでした。
 やがて見えてきたのは、通い慣れたアニメ関係のお店が立ち並ぶ通りです。
 お姉さまが車を左へ寄せていきます。
 この辺りははまだ少し人通りもあり、私の腕がまたムズムズし始めますが、今度は信号に捕まることも無く左折出来たので、隠すタイミングを失なっていました。

「そう言えば、さっきの信号の手前あたりに交番があったはずよね。もう通り過ぎちゃったけれど。ちょっとヤバかったかな」
 愉快そうにおっしゃるお姉さま。

 お姉さまのお言葉で、その交番の佇まいが瞬時に思い出せるほど、しょっちゅうその前を歩いていました。
 私、あの交番の前でも、おっぱい丸出しだったんだ・・・
 右に目を遣れば立ち並ぶ、見慣れたアニメショップ群。
 自分が今していることのあまりのヘンタイさに、からだがどんどん熱くなってきます。

 次の交差点も捕まらずに左折すると、今度は24時間スーパーがある通りです。
 スーパー側、つまり対向車線側の舗道には、けっこう人が行き来していますが、お姉さまが選んでくださったこちら側の舗道側路線は、照明も暗く、人もぜんぜんいません。
 この通りを抜ければ住宅街。
 人も車もガクンと減るはずです。

 その信号を抜ければ住宅街、という交差点で信号待ちに捕まりました。
 片側2車線道路の右寄りに車が一台信号待ち。
 お姉さまの車は左寄り車線を進んでいます。

「どうしよっか?後ろにつくか、隣に並ぶか」
 信号待ちをしている車は、黄色くて可愛らしい感じの車でした。
「あの車の感じだと、女性ドライバーぽいわね。それなら後ろについてみましょう。直子はまだ隠しちゃだめよ」
 お姉さまが右寄りに車線変更して、ゆっくりと黄色い車の後ろに近づいていきます。

「ああ、やっぱり女性みたい。それもけっこう若そう。初心者マークまで付けているし」
 お姉さまが身を乗り出すようにして、黄色い車のリアウインドウ越しの車内に目を凝らしています。
「これも何かの縁だわ。これは直子、見せてあげるしかないわね。いい?絶対隠してはだめよ」
 おっしゃりながら、黄色い車の後ろにゆっくりと、ご自分の車を停車させました。

「あ、なんだか気がついたみたい。ルームミラーを弄って角度変えている」
 気にはなりますが、私はそれどころではありませんでした。
 うつむいてギュッと目を閉じ、胸を庇いたい欲求と一生懸命戦っていました。
 自分の乳首にグングン血液が集まってきているのがわかります。
「視てる視てる、信号が変わったのも気づかないみたいね」

 パァッ!
 お姉さまが鳴らしたのであろう短く鋭いクラクションの音に、私もビクンとして顔を上げ、自然と前を見ました。
 なんだかあわてたみたいに黄色い車がよたよた発進して、交差点を渡りきったところでウインカーを左に出し、路側帯に停車しました。
 その脇をお姉さまがゆっくり通過していきます。
 通過するとき、黄色い車のドライバーさんと助手席の私とのあいだは1メートルも離れていませんでした。

 お姉さまがおっしゃった通り、まだお若そうな学生さんぽいボブカットの女性ドライバーさんは、運転席脇の窓ガラスに顔をくっつけるようにして、私を見送ってくださいました。
 私のバストに、目を皿のようにした好奇の視線が、2枚のガラスを隔ててまっすぐに浴びせられるのを肌に感じていました。

「やれやれ。あの黄色い車の彼女、びっくりし過ぎちゃって、このあと事故ったりしなきゃいいけれど・・・」
 黄色い車を追い越して住宅街の路地に入った頃、お姉さまが苦笑い気味にポツンとつぶやきました。

 いつの間にか車は、私のマンションの入口前に横付けされていました。
「ほら直子、着いたわよ?おっぱい出しっ放しでいいの?」

 私も黄色い車との一件でなんだか呆けてしまい、おっぱい丸出しのままボーっとしていました。
 お姉さまのお声で、あわてて前をかき合わせました。
 まわりをキョロキョロ見渡すと、さすがに住宅街、しんと静まり返って人影はありません。

「直子もずいぶん度胸が据わってきたのかしら、一度もおっぱい隠さなかったわね。偉かったわ」
 お姉さまが私のほうを向いて、ニッと笑いかけてくださいました。
「でも、あの女の子ドライバーだけではなくて、他にも舗道からとか、けっこう注目されていたみたいよ?こっちを二度見してくる人が数人いたもの」
「えーっ!?」
「その様子じゃ気づいていなかったみたいね。露出マゾの境地に達していたみたいだったし」
 うふふと笑ったお姉さまが、私のシートベルトをカチッと外してくださいました。

「少し腰を浮かせてごらんなさい?」
 おっしゃるままに従うと、股間は身悶えして逃げ出したいほどヌルヌルで、革のシートにもベッタリ垂れていました。
「うわー、予想以上の大洪水。これじゃあ拭き取ったくらいじゃ直子臭さは取れないかしら?」
 お姉さまが笑いながら私の頬を軽くつつきました。

「ああん、ごめんなさい、お姉さま・・・」
「いいのよ。それだけ気持ち良かったのでしょう?どう?車での露出の思い出で、あたしとのが一番になりそう?」
「もちろんです。こんなにすごかったの、初めてです」
 自分の生活圏内の街で、こんなに大胆なことが本当に出来るなんて、思ってもいませんでした。
 ああん、今すぐお姉さまに抱きつきたい!

「さあ、名残惜しいけれど、今夜はここでお別れね。出張から帰ってきたら電話入れるから、そのとき初出勤の日時を決めましょう。無論、早いほうがいいからね」
「はいっ!」
「ほら、一応お股拭いて、自分の部屋に入るまではきちんとしておいたほうがいいのではなくて?もっとも、そのニットではあまりきちんとは出来ないけれど」

 お姉さまの笑顔に促され、ショッパーからタオルを取り出し、まず自分の股間を拭いて、それから裏返して車のシートを拭いて、再びショッパーにしまおうとしたら、お姉さまの手で阻まれました。
「それはまだ、しまわなくていいから、ボタンを留めて先に身繕いしちゃいなさい」
 背中の裏でくしゃくしゃになっていたカーディガンの裾を引っ張り出し、今度はその中にお尻を隠してから、ボタンをふたつ留めました。

「いいみたいね。忘れ物もないわね?」
「お姉さまったらなんだか、ママ、あ、いえお母さんみた・・・」
 いですね?って軽口を叩こうと思ったら、お姉さまに唇を塞がれました。
 お姉さまの唇で。
「むぅぐぅう・・・」

 お姉さまの両手が私を抱きしめ、お姉さまの舌が私の口腔すべてを舐め尽してくる、そんな情熱的なくちづけでした。
 もちろん私もお姉さまに縋りついてお応えし、お互いの舌をニュルニュル絡ませ合いました。
 長い長いくちづけでした。

「はぁー・・・気持ち良かった。これでスッキリ仕事モードに入れそうだわ。直子はどうせ部屋に着いたら、すぐに始めちゃうのでしょうけれど」
 ご自分のお口の周りをテカらしているふたり分のよだれを、タオル、私のおツユがたっぷり染み込んだタオルで拭いながら、笑顔のお姉さま。
 その後、私の口の周りも、そのタオルで丁寧に拭いてくださり、指で髪を軽く梳いてくださいました。
「このタオルはあたしが持って帰るわね。出張中に直子に会いたくなったら、クンクン嗅ぐの」
 冗談めかしておっしゃって、丁寧にたたんでからバーキンの中にしまい込みました。

「それじゃあごきげんよう。おやすみ。良い夢を」
「はい。おやすみなさい。くれぐれもお家までの運転、お気をつけてください」
「うん。わかっているわ。直子の初出勤、楽しみね」
「はいっ!」

 テールランプが見えなくなるまでお見送りしてから、マンションに入りました。
 幸いにも、そのあいだずっと路上に人影はありませんでした。
 今更ですが今の私は、知っている人に見られたら絶対に言い逃れ出来ない、ヘンタイ過ぎる格好なのです。

 エレベーターに乗り込むと監視カメラに背を向けてうつむきます。
 管理人さんがこんな時間まで起きていらっしゃるとは思わないけれど、たぶん録画もされているはずなので。

 エレベーターから降りて扉が閉じると同時に、カーディガンのボタンを外し始めました。
 お部屋のドアの前に立ったときは、カーディガンも脱ぎ去っていました。
 バッグから鍵を取り出すのももどかしく、ショートブーツを脱ぎ始めます。
 扉を開けたときには、両乳首から垂れ下がったチェーンのリングを左手で引っ張り始めていました。
 もう一方の右手は、ショッパーの中にあるはずのあるものを、一生懸命探しています。
 みつけて引っ張り出すと同時に、玄関ホールの上がり框に全裸で倒れ込みました。

 私がその夜、と言うかもはや朝方、何時頃に眠りに就いたのかは、ご想像にお任せします。


オートクチュールのはずなのに 01

0 件のコメント:

コメントを投稿