2024年4月28日

彼女がくれた片想い 13

 個室に鍵を掛けるのは卑怯だと思った。

 自宅PCの黒歴史フォルダに自撮りの破廉恥画像や動画がそこそこ溜まってきた頃。
 三限から五限途中にかけて個室やトイレ内で脱衣、撮影、自慰を、途中に休み時間中の声押し殺し自慰、をも含めて三セットたっぷり愉しんだ後、心地良い疲れで着衣しつつ唐突にそう思った。

 これだけ破廉恥な行為を個室内でしでかしているのに鍵一つで安全が守られているのはフェアじゃないと考えたのだ。
 何に対して、誰に対して卑怯なのかはわからないが、これだけ背徳的な愉しみを謳歌しているのならそれなりのリスクも背負うべきだと。
 自分を追い込む謎理論だが私には正論だと思えた。

 着衣を終え、あらためて個室の鍵をしげしげと見る。
 スライドバー式、いわゆる閂方式の鍵で、ドア部分に可動な凸、壁部分に凹があり、凸部分を凹部分にスライドさせることで閉めたドアに鍵がかかる。

 開いている時は青いプレート、閉じると赤いプレートがドア表面に提示され、使用中か空室かの判断がトイレ通路側から出来る。
 空室の時はドアの自重で個室の内側に開きっ放しとなる仕組みだ。

 すなわちドアを閉じて鍵を掛けないとドアは自然に開いてしまう。
 開かないようにする一番容易な方法はドアの前にバッグ等重しになる物を置いて押さえることだが、トイレの床に自分のバッグを直に置くのは衛生上嫌悪感がある。
 鍵のスライドバーをカタカタ弄りつつ色々考えたのだが、良いアイデアは浮かばなかった。

 結局、ごく浅く施錠することでよしとすることにした。
 スライドバー凸部分の先端を1、2ミリ程度凹部分に引っ掛けてかろうじて閉まる状態にし、強く押せば開いてしまうかも、というスリルを愉しむことにする。
 実際にこの感じにスライドバーを動かすとドア表面のプレートは青と赤が半々づつ表示される。

 次から鍵はこの仕様にしてトイレが混み合う休み時間をまたぐ時は、休み時間の10分間、後ろ手全裸でドアに向き合って立っていなければいけないことにする。
 トイレが満室の時の順番待ちは出入口付近でフォーク並びがルールだし、ドアが閉じていれば普通は使用中と思うので無いとは思うが、切羽詰まった人や列を無視したやんちゃな学生に開けられてしまう可能性も皆無ではない。
 そう考えただけでドキドキと性的に昂った。

 また、すべての空き時間で個室遊びを行なった中で、五限目、とくに金曜日の五限目がすこぶる安全だということもわかった。
 この時間帯にはこのトイレから遠く離れた端の二教室でしか講義が行なわれてなく、そちらの側にも昇降階段があり学生たちもそちらを主に使うのでトイレ前にはほとんど誰も近づかないみたいなのである。
 スリルを味わうという意味では物足りなさもあるが、安心して行為に没頭出来る貴重な時間でもある。

 とある金曜日の午後。
 三限目の講義が終わって本日の全講義終了となり、四限の途中まで空き教室で羞恥調教メインのラノベを読み耽った後、バッグを携えて誰もいない例のトイレに忍び込んだ。

 最近は膝丈位のスカートを着用することが多くなった。
 これは個室遊びの後、その余韻のままにノーパンでいたいが為である。
 性器を無毛にしたことで、その欲求はより激しいものとなっていた。

 ノーパンスカートのまま人前を歩き、ノーパンで帰宅することで、自分が本当にどうしようもない変態だということが実感出来る。
 テニス授業の後、あえて下着を穿かなかった彼女の気持ちがわかる気がした。
 この日は二限目にもトイレで全裸になっていたが、四限目以降にもう一度脱ぎたいがために穿き直していた。

 鍵をルール通りごく浅く掛けた後、ゆっくりと脱衣して全裸になる。
 後ろ手を組んで立ち尽くし羞恥と背徳感をしばらく愉しんでから自撮り。

 悩ましい顔を作ってみたり四つん這いになってお尻の方から狙ってみたり、何回も何回もシャッターを押す。
 最近はシャッター音を聞くだけで膣の粘膜が潤むようになっている。
 自慰行為に移りたいと思った時、四限目終了のチャイムが非情に響き渡る。

 お預けを食らった私はドアが開いても当たらないギリギリの位置にドアを向いて立ち尽くす。
 開いてしまうかもしれないという不安と期待を胸に抱いて。

 このときふと考えて後ろ手にしていた両腕を後頭部に持っていってみた。
 海外のSMサイトでよく見かける性奴隷が主人に対峙する時にやらされている捕まった犯罪者のようなあのポーズだ。
 こうすることで両腋の下までが全開となり、乳房も誇示するように突き出すこととなるので、秘部はすべて絶対に隠せないという屈辱感が倍増する。

 トイレ内が賑やかとなり、あちこちからドアを開閉するバタンという音が聞こえてくる。
 友人同士連れ立って来たのだろう、止まらないおしゃべりと弾けたような笑い声。
 やがて、お先にー、とどこかのドアが閉まったと思うとどこかのドアが開く音。

 ごくありふれた日常的な生活空間で私一人、何もかも剥き出しの全裸となり性奴隷のポーズで立ち尽くしている。
 目の前のドアが開いてしまうのは死ぬほど怖いのだが、何も起こらないのもつまらないというアンビバレントな感情。
 内腿の交わりが蕩けそうなほど潤んできて早く弄りたくてどうしようもなくなってくる。

 やがて時間とともに喧騒が徐々に鎮まりトイレ内にはおそらく二名の滞在者を残すのみ。
 もう少しすると五限開始のチャイムが鳴るだろうという頃、出入口ドアをバタンと乱暴に開閉する音がした。
 そのままコツコツと足早な靴音が響き、私の隣の個室に吸い込まれてゆく。

 隣の個室のドアがバッタンとやけに乱暴に閉ざされる音が響き、その振動が私の個室の壁も大げさに震わせた。
 と同時にこちらの個室でもカタッと小さな音がしてドアが静かに開き始める。

 あっ、と思わず大きな声が出て身体がビクンと戦慄き、何とも言えない目の眩むような快感が全身を駆け抜け、軽く絶頂に達していた。
 目の前にトイレの通路が見えているのを後頭部に両手を当てたまま為す術もなく呆然と眺めている私。

 やってしまった、もう終わりだ、という残酷な後悔が甘美な快感の余韻と一緒になって頭を埋め尽くす。
 二、三秒後ハッと我に返り、慌てて腕を伸ばし、大きな音を立ててドアを閉め直した。

 今度は鍵もしっかり掛けた途端、全身の血液が煮えたみたいにカーッと熱くなり、心臓がドッキンドッキン跳ね回る。
 おそらく隣の個室のドアが激しく閉まった振動でこちらのドアのスライドバーがズレて外れてしまったのだろう。

 誰もいなかったよね?視られてないよね?自己防衛の為の自問自答。
 幸い見える範囲に人影は無かったので誰かに視られてはいないようだが、他人がまだ複数居るトイレ内で自分の裸身を無防備に晒してしまったことは事実だった。

 鍵で守られた個室内でハアハア息を荒くしている間に五限目始業を告げるチャイムは鳴り終わっており、それに前後してバタンバタンと個室やトイレ出入口のドアが開閉する音もいくつか聞こえていた。

 再び静まり返ったトイレ。
 もう我慢出来なかった。

 鍵を外してそっと顔を覗かせると残り四つの個室はすべて扉が開いている。
 自撮り棒を装着したスマホを片手にトイレの通路に出る。

 自撮り棒を三脚状にしてスマホを動画モードに切り替え、自分が映るスマホ画面の前に立つ。
 両足を休めの姿勢位に開き、恥丘を画面に差し出すみたいに上体を軽く反らして無毛の股間に右手をあてがう。

 中指と薬指は濡れそぼった膣口に、親指はパンパンに腫れ上がり皮から半分顔を出した肉芽の上に。
 右手が活発に動き始める。

 すぐにクチュクチュジュブジュブと卑猥な水音がトイレ内に響き渡る。
 左手は腕ごと胸に押し付け、両乳房を乱暴に上下に揺さぶり嫐っている。
 上体を大きく仰け反らしてオーガズムに達するが、まだ全然足りていない。

 今度は後ろ向きになってお尻を映しながら膣中を責める。
 前屈してお腹の方から伸ばした右手が膣粘膜の奥深くまで潜り込む。
 垂れ下がった乳房の硬く尖立した乳首を左手で痛いほど捻り潰す。
 間断なく続くオーガズムラッシュ。

 …自分で課したルールでドアが開いちゃうなんて、バカな女ね…
 …もう外の様子も全然気にしてないんじゃない。イクことだけしか眼中にないって感じ…
 …視てもらえなく残念だったわね。いっそのことそのドア開けて廊下まで出ちゃってみれば…

 想像上の彼女から浴びせられる侮蔑の言葉に反発を感じながらも止まらない自涜。
 トイレ出入口のドアを横目で見ながら、廊下に出てみようか、とは考えていた。
 が、瞬時にさっき個室のドアが開いてしまった時の絶望感がよみがえる。
 私にはまだ、そんな勇気は無い…

 梅雨が本格的になりそうな気配漂う曇り空の日曜日。
 昨日から生理が来てしまった私は性的な遊びも出来ないので暇つぶしに繁華街でもぶらつこうと考えた。
 池袋に行って同人誌漁ったり新刊コミックをチェックしたり。

 昼過ぎに着いて一通り見て回った後、服も一応見てみようと思い駅改札やファッションビルに続く広い地下街に入った。
 時間は三時過ぎ、休日なので大勢の老若男女がそれぞれの目的で右往左往している。
 地下街のとあるカフェの前を通り過ぎようとした時、意外な人物を視界の端に捉えた。
 彼女だった。

 彼女はちょうどカフェから出てくるところで、ベージュのブレザーにチェックのスカートと大学でよく見た服装をしている。
 その横にはスラリとしたジーンズ姿の女性がいて、店の前で二人にこやかに談笑している。

 その女性はさっぱりめのウルフカットでシャープな顔立ち、ヨレたGジャンに薄化粧、全体的にラフな感じで、なんとなくオフの時の水商売ぽい雰囲気があった。
 年齢は明らかに彼女より上、二十代半ばから後半、いわゆるアラサーな感じだ。
 楽しそうにおしゃべりしている感じも彼女の笑顔が媚を含んで甘えているように見えた。

 カフェ入口前で立ち話していた二人にカフェ内から遅れて出てきたもう一人の女性が合流した。
 大きなバッグを肩に提げ、デニムのショートパンツ生足に膝下までのブーツ、身体に吸い付くようにピッタリしたボートネックの黒いTシャツが胸の隆起と身体の線を浮かび上がらせている。

 年齢は彼女と話している女性と同じくらいだろうか。
 小顔にショートボブで憂いを帯びたような顔立ちは誰もが振り返るような美形振りで、現にその場でも行き交う人が一度はチラ見していく。
 ひょっとしてモデルかタレント?いかにもカタギの女性ではないという感じだ。

 更にその女性は首にチョーカーを嵌めていた。
 真っ白で正面に大きめなリングが一つぶら下がった、まるで犬の首輪のようにも見えるチョーカー。
 それは私に、性奴隷、マゾヒスト、肉便器という単語群を容易に連想させた。

 彼女を真ん中にして三人がゆっくりと地下街を進んでいく。
 私の今日の服装はいつもよりかなりくだけたTシャツにジーンズというラフなものだし、アポロキャップもかぶっていた。
 思いがけずに彼女の私生活を垣間見るチャンスが訪れたので念のため伊達メガネもかけてバレないように尾行を開始した。

 人混みをすり抜けて進む三人の背中を見つめながら考える。
 あの三人はどういう関係なのだろう。
 友人と言うには彼女と年齢が離れている気もするし、でも雰囲気は何か親密そうだし。
 女性同士だからエンコーというわけでもないだろう。

 ひょっとするとどちらかが、あの日個室で彼女が口走った、やよい先生、なのかもしれない。
 ショートボブの女性はマゾっぽくもあるからウルフカットの方になるのか。
 そうだとするとこれからどこへ行くのか益々気になるところだ。

 地下街をずいぶん長く歩いた三人はやがて階段を上り地上へ出る。
 曇天模様の休日でもそれなりの数の人々が行き交う池袋。
 三人は線路沿いの道をゆっくりと進んでいく。

 この辺りは北池袋と呼ばれる一画で、確か裏に入ると風俗店やラブホテルが林立しているのではなかったっけ。
 ネットで仕入れた情報を思い出す。
 だとすると…下世話な好奇心がムクムクと騒ぎ始める。

 果たして彼女たちは路地を一つ曲がり、派手めというかいささか品に欠ける大きな建物の入口に吸い込まれていった。
 時刻はまだまだ明るい午後三時半前、どう見てもラブホとしか思えない建物に女性三人で消えていったのである。
 入る直前に、彼女が嬉しそうに上気した顔でショートボブの女性に何か語りかける様子が見えた。

 やっぱり、と思いながらスマホでそのホテルの名を検索するとSMルームもある正真正銘のラブホテルであった。
 いつぞやに見た彼女の白い背中を染めていた鞭の痕をまざまざと思い出す。
 同時に私の中で何かが確実に終わった。

 線路沿いの道を引き返しながら考える。
 おそらく彼女はあそこで色々、性的快楽を享受するのであろう。
 女性二人がかりでか、それともショートボブの女性も虐められる側なのかはわからないが。

 年上の女性たちから性的調教を受ける彼女、私がまだ知らない快楽をたくさん知っているのであろう彼女。
 彼女は学校のトイレ個室で自慰行為をするような変態性癖者であるだけではなくレズビアンでありマゾヒストでもあることは確実だった。
 
 あんな顔をして彼女は私の何倍もしたたかで何倍も変態だった。
 彼女には敵わないと思った。
 彼女への片想い的に惹かれる想いは、私に変態的な快楽だけを残して、呆気なく潰え去っていた。

 私は今、空き教室で裸になることを計画している。
 
 私がよく読書をしている空き教室はプロジェクターを使う講義が主な為、窓際には分厚い暗幕カーテンがかかっており、常時窓の三分の一が暗幕に覆われている。
 そのため使用していない教室のドアは開いておくルールでも中は適度に薄暗く、木曜、金曜の四、五時限目であれば滅多に人は来ない。

 ここですべて脱いで全裸になり、席に座って読書をしたり、あわよくば自慰行為をしたり廊下に出たりもしてみたい。
 鍵で守られていない普段講義で使用している教室で全裸になったら、どんな気持ちになるのだろう。

 万が一人が来てしまった場合は暗幕の裏に隠れれば良い。
 その場合、窓が素通しガラスゆえ外からは丸見えとなってしまうが、梅雨時なので雨が降っていれば外にいる人は皆傘を差しているはずだし、三階を見上げたりもしないだろう。
 なので生理が終わリ次第、雨の降る木曜日か金曜日に決行するつもりだ。

 私が破滅する日は意外と近いのかもしれない…

*END

2024年4月21日

彼女がくれた片想い 12

 それにしても彼女に話しかけてしまったのはつくづく失敗だった。
 あれ以来彼女は、テニスの時は必ずショーツの上からアンダースコートを穿くようになり、木曜日も午前中で帰ってしまうことが続いている。

 更に、彼女が会釈をくれても目を逸らすといった塩対応を続けていた結果、最近では何かの拍子で視線が合っても彼女の方から気弱な笑みで先に目を逸らす、というギクシャクした関係に陥っていた。
 その上、彼女が私を一個人として認識してしまったという事実は変わらないので、うかつに彼女の姿を追うことも出来ず、監視まがいの行動が思うように出来なくなっていた。

 ただ、私も彼女の行動を注視するよりも心惹かれる悩ましい遊びをみつけていた。
 講義中のトイレで人知れず全裸になることに嵌ってしまったのだ。
 あの日初めて行なって以来、その背徳感と恥辱感、そしてみつかったら終わりだという薄氷を踏むようなスリルの虜になってしまっていた。

 講義と講義の間の空き時間は今までならどこかの空き教室に忍込み専ら読書に耽っていたのだが、今ではいそいそと誰もいないトイレに赴き、個室で全裸になるようになっていた。
 自慰行為までは出来なくても全裸になって佇むだけで得も言われぬ陶酔が感じられる。

 また、今までは三限や四限でその日の講義が終わったらそそくさと学校を後にしていたのだか、最近は五限目の時間まで学内に居残ってトイレに籠もることも普通になった。
 火曜日と水曜日は一限ないしは二限目からびっしり五限まで講義があるが、月曜日は四限以降、木曜日は三限と五限、金曜日も二限と四限以降がお愉しみタイムとなった。

 トイレ個室全裸デビュー翌日金曜日の二限目が空き時間となった私は講義開始のチャイムとともに三階のトイレに入った。
 五つ空いた個室のうち出入口から一番遠いいつもの個室に入り鍵を掛ける。
 すぐに想像上の彼女の命令によって衣服を脱いでいく。

 今日の服装は昨日と同じジーンズにモスグリーンのフリルブラウス。
 下着はオーソドックスな白のフルカップブラにフルバックのショーツにした。
 普通のありふれた下着の方が脱いで裸になった時との落差が大きくてより興奮出来ると思ったからだ。

 下着姿になってから一呼吸置き、おもむろにブラジャーとショーツを脱いでいく瞬間は、全身の細胞が総毛立つようにゾクゾクと感じてしまう。
 全裸になってしばし後ろ手を組んで佇んでからスマホを取り出して記念撮影。

 前回はスマホをバッグにしまい込んでしまったため時間配分がよくわからなかったので、今回からスマホを手元に置いておくことにした。
 うちの大学は90分授業、その時間内で終了チャイムが鳴る前に退散するための安全策だ。

 しゃがみ込んで右腕を伸ばし恥ずかしい自撮り開始。
 これから必ず自分の変態行為をセルフィーで撮影し、自分の黒歴史ライブラリーを貯めていこうと自虐的に決めていた。

 シャッター音が鳴るたびに股間の粘膜がヒクヒク疼いてくる。
 左手は当然のように陰毛の上、大きく割った両腿の中心部分をコソコソと愛撫している。

 私は今、恥ずかしい自慰行為を撮影されている…
 そう考えただけでもう我慢は効かず、中指と薬指が膣中深くに吸い込まれていく。

 二度三度と身体の奥から蕩けそうなほどの絶頂感を味わった後、小休止。
 弾む吐息が収まるのを待ってから今度は個室の外に出てみようと思い個室の鍵に手を伸ばす。

 その時、バタンとトイレ出入口のドアが開閉する音がした。
 伸ばした手をすぐに引っ込めて昨日のようにしゃがみ込むまではいかないが、やはり盛大にドキドキしている。
 すぐにどこかの個室が閉まるバタンという音も聞こえてきた。

 さっきすぐに外へ出ていたら危なかった。
 全裸の私と見知らぬ誰かが完全に鉢合わせしていたはずだ。
 収まらないドキドキで性的に翻弄されながら個室からの退出を待つ。

 ジャーという水洗の水音で退出間近と心躍った瞬間、また別の物音、トイレ出入口のドアが開閉するバタンという音が聞こえてきた。
 また別のトイレ利用者のようだ。
 個室のドアを閉じるような開くような音が立て続けに二回聞こえ、しばらくしてトイレの出入口ドアがバタンと閉まる音がした。

 昨日とは違ってどうにも落ち着かない。
 個室のドアの鍵をそっと外し、ドアも少しだけそっと開けて顔だけ覗かせ通路を見ると真ん中の個室のドアが閉じていた。
 それだけ確認して顔を引っ込め個室の鍵をそっと掛けた。
 スマホで確認すると時刻は11時42分。

 うちの学校の学食が11時から始まるので、それに合わせて早めに昼食を摂る学生や午後から講義の学生が空いているトイレを探してここを利用するのかもしれない。
 そんな風に考えた矢先にまたトイレ出入口のドアがバタンと開閉する音が聞こえてきた。
 もうあと30分くらいで二限終了のチャイムが鳴って昼休みとなるし、ここではもう落ち着けそうにないと判断した私は名残惜しいけれど着衣して早々と退散することにした。

 空いた学食で早めの昼食を摂り、少し長めの昼休みはいつものように読書で潰した。
 三限目の講義で彼女と一緒になった時、友人らに向けたいつも通りの彼女の笑顔を盗み見て、なぜだか少し気恥ずかしく感じた。

 四限目以降、暇となった私は三階の例のトイレより人の出入りが少なくて落ち着ける場所があるかもしれないと思い、他の階のトイレも見て回ることにした。
 四階建ての本校舎には各階のほぼ同じ位置にトイレがある。
 もちろんその他にも教職員用や来客用のトイレも点在していたが、それらに忍び込むほどの度胸は無かった。

 一階は正面玄関があり講義中、休み時間を問わず人の出入りが不規則でトイレにも時間を問わず頻繁に出入りがあるようだった。
 二階には各教授の研究室と呼ばれる小部屋が集まっており、ここも時間を問わず出入りがあり、また万が一変態遊びが学生以外に露見してしまった時のリスクが大き過ぎる。
 四階は比較的に閑散としてはいるのだが、講義の空き時間に利用できるピアノの練習室が五部屋と歓談出来る広いラウンジルームがあるため、トイレ利用者も時間を問わずのランダムとなる。

 結局、講義のための教室だけが集まった三階が講義中であれば一番落ち着いて利用出来るトイレであった。
 彼女がそこまで見極めて三階を利用したのであれば慧眼だなとあらためて彼女のことを見直してしまった。

 明けて月曜日は四限目から暇となるので私はいそいそと三階トイレに向かった。
 例によって全個室ガラ空きの一番端に入り込み鍵を掛ける。
 想像上の彼女の命令によって衣服を脱いでいく。
 その間中、私は前回や前々回よりもひどく興奮していた。

 実は前日、正確に言うと休日だった土曜日の夜に自宅のバスルームで全裸になり、自ら陰毛を剃り上げていた。
 土曜日の午前中にネットで安全な陰毛の剃毛について調べ、午後に繁華街の家電量販店等でシェーバー他を買い求め、夜間に決行したのだ。

 夕飯後の午後七時過ぎ、全裸になってバスルームに入った。
 まずはハサミで伸びすぎた陰毛を五分刈り程度に剪定する。
 下半身をシャワーのぬるま湯で洗浄し、よく拭き取った後、慎重にシェーバーを当てていく。

 みるみる赤裸々となる私の恥丘。
 肛門周りまで生え茂ったヘアーは、ネットに書いてあった、手鏡を床に置き、その上にしゃがみ込む、という恥ずかし過ぎる方法で行なった。
 バスルームのタイルの床に置かれた手鏡に映った陰毛で囲まれた性器と肛門をしげしげと覗き込み、ラビアをあちこち引っ張って赤面しつつシェイブした。
 終わる頃には滲み出た愛液で性器の周囲がヌルヌルになっていた。

 すっかり剃り終えると衝撃の事実が待っていた。
 私の小陰唇は左右対称ではなかったのだ。
 今までは毛に隠れっぱなしで気にすることはなかったが、赤裸々になると一目瞭然だった。

 自分から見て左側の小陰唇が右よりも全体的に2センチ位長めで、普通に真っすぐ立っても割れ筋から1センチ位、常時外にはみ出しているのだ。
 おそらく積年の自慰行為がもたらした結果なのだろうが、ワレメからラビアがはみ出ているという事実を目の当たりにして自分がやはりかなりふしだらな女だったのだと思い知らされた。

 性器を無毛にしたことで確実に性感は上がってしまい、日曜日は一日中部屋に籠もり頻繁に下半身に右手を滑らせてツルツルな感触を愉しみ、結局自慰行為に至ってオーガズムを貪るというくり返しだった。
 剥き出しになった性器はかなり恥ずかしく、それでいて淫靡にエロティックだ。

 そんな週末を過ごした翌月曜日、待ちに待った個室に籠った私であるから、その興奮ぶりもわかってもらえるだろう。
 ブラジャーを外す前から両乳首が尖りきっているのがわかる。
 ホックを外し緩んだ瞬間に、そんなに大きな乳房ではないが、布地を撥ね付けるようにプルンと弾むのがわかった。

 次はいよいよショーツだ。
 ウエストゴムに指を掛けただけで性器の奥が潤むのがわかった。
 思い切ってそのまま膝辺りまで一気にずり下げる。
 無毛の土手を個室内の空気が直に触れてくる。

 …あら?この間まであった毛が無くなってるじゃない?どうしたの?…

 想像上の彼女が目ざとく気づき、からかうように詰問してくる。

 …綺麗サッパリ剃り落としちゃって。自分で剃ったの?やっぱりソコをよーく視てもらいたいからなのかしら…
 …あら、普通に立っていてもビラビラがはみ出しちゃっているじゃない。オナニーのしすぎでラビアが伸びちゃったのね…
 …ふしだらなおまえにはよーくお似合いの変態ぶりだこと。ほら、もっと足を広げて中身まで見せなさい…

 ますます下品になった想像上の彼女の嘲りを浴びながら後ろ手全裸の私は屈辱に震える。
 悔しいのに、あがらいたいのに、気持ちの良い電流が全身を駆け巡る。

 スマホを手に取り自撮り棒を取り付ける。
 これも土曜日に家電量販店で買って用意しておいたものだ。
 これでしゃがみ込まなくても全身をカメラに収めることが出来る。

 想像上の彼女に命令されるまま恥ずかしいポージングで撮影が始まる。
 全身、大股開き、M字開脚、無毛な局部のドアップ、自らの指で開いた膣口と肛門のドアップ…
 シャッターが鳴るたびに性感がグングン高ぶり、遂には自慰行為に埋没してしまう。

 幾度かのオーガズムの余韻の後、個室の外に出てみようと考える。
 今日は幸運なことにこれまで一人も闖入者がいない。
 個室の鍵を外し顔を覗かせても他の個室の扉はすべて開いたままだ。

 自撮り棒の付いたスマホを持って個室を出てトイレの通路に立つ。
 出入口脇の洗面台上の鏡に裸の自分のおへそから上、乳房から上気した顔までが映っている。
 外廊下の様子に注意深く聞き耳を立てつつ自撮りしながら鏡に近づいていく。

 こんなところにまで全裸で出てしまう自分。
 洗面台に足を掛け、無毛の性器を鏡に映す。
 すぐ横に出入口のドアがあることに気づき、あわてて後ずさる。

 性器から愛液が零れて太腿伝いに床へと滑り落ちる。
 自分で剃り上げてツルツルに露出した剥き出しのふしだらな性器。
 そんな行動の一つ一つをつぶさに、客観的に見せてくれる鏡とセルフィーのカメラ。
 私って本物の変態だ…

 我慢しきれなくなり、その場で立ったまま性器を弄り始める。
 トイレ通路のほぼ真ん中。
 自撮り棒は三脚にもなるのでカメラは動画にして自分の股間に向け、私は鏡で自分の顔を視ながら声を殺して快感を貪る。

 …あれ、こんなところでもオナニー始めちゃうんだ。誰か来ちゃっても知らないよ…
 …クチュクチュクチュクチュ凄い音だこと。またラビアが伸びてもっとはみ出しちゃうんじゃない?…
 …ほら、もっとおっぱい揉んで、乳首つねって、クリトリスつまんでオマンコ掻き回しなさい…
 …おまえ本当はそんな浅ましい姿、誰かに視られたいんじゃないの?視られて破滅したいんじゃないの?…

 イッてもイっても湧き上がるオーガズムの渇望。
 足下に小さな水溜りが出来るほど愛液を垂れ流して身悶えていたとき…

 キーンコーンカーンコーン…

 突如チャイムが鳴り響いた。
 最初のキの音が聞こえたときにビクンとはしたが、それが何を意味する音なのかはわからなかった。

 が、次の瞬間、これは四限目終了を告げるチャイムの音だと瞬時に理解し、それからは早かった。
 目の前に置いた三脚代わりの自撮り棒をひったくるように片手に持ち一目散に端の個室に逃げ込んだ。
 個室の鍵を掛けるのとトイレ出入口のドアが開く音が聞こえたのがほぼ同時だった。

 心臓が飛び出てしまいそうなほどの危ういスリルと同じくらいに高ぶる性的興奮。
 他の個室に利用者が居るのはわかっているのに性器を弄ることが我慢出来ない変態の性。
 喉奥から迸る歓喜の喘ぎを必死に押し殺しつつ断続的なオーガズムに身を委ねる自分…

 そんな感じで、暇をみつけては禁断の個室遊戯に耽っていた私は回を重ねるごとに自分に課す要求も自虐的にどんどんエスカレートしていった。


2024年4月13日

彼女がくれた片想い 11

 今度の闖入者は割とがさつな性格の人物なようで、靴音もやけに大きくドアの開け閉めも乱暴で、私のいる個室の二つ隣、すなわち真ん中の個室に陣取ったことまで手に取るようにわかった。

 さすがに脱衣の衣擦れの音までは聞こえてこないが、しばらくしてから無遠慮にプゥーという間抜けな放屁の音が聞こえてきた。
 どうやらその人物は大きな方に取組んでいるようだ。

 そんな音を響かせるくらいだから端の個室のドアが閉じていたことにも気づいていないのだろう。
 途中で聞こえてきた、これまた無遠慮な咳払いの声もしゃがれ気味だったので本当に教授、准教授か講師の先生なのかもしれない。

 しばらくしてからザーッと水を流す音が聞こえ、つづけてカタカタとトイレットペーパーを引き出す音、もう一度水を流す音。
 しばしの沈黙の後、バタンと個室のドアを開ける音、カツカツと通路を歩く足音、ジャーッと手を洗う音、化粧や身だしなみを直しているのであろう長い沈黙を経てギーバタンと出入口のドアを開閉する音がつづいた。

 その間中ずっと私は想像上の彼女の命令通り個室のドアに向いたまま後ろ手の全裸で立ち尽くしていた。
 何かの間違いでドアが開いてしまってもそのままでいろ、という命令だ。
 現実の彼女も絶対、個室の外に裸で出ることもしていたのだろうなと、ふと思う。

 闖入者が去ってホッとすると共に私の心はなんだか落ち着いてきてしまった。
 慣れない興奮がつづいたせいもあり心地よい疲れが、今日はここまで、と告げていた。

 トイレットペーパーと持参のウェットティッシュで全身をよく拭ってから普通に着衣し個室を後にした。
 個室のタイル床のちょうど便座の前辺りを白濁液の混ざる水溜まりが汚していたが、それはそのままにしておいた。
 トイレ内の通路に出ると、洗面台でさっきの闖入者が噴霧したのであろうローズメインなパフュームの残り香が漂っていた。

 四限の途中、午後四時過ぎという半端な時間に帰宅するため電車に乗った。
 まばらな空席の一つに腰掛けて揺れに身を任せながら、さっきまで自分が行なっていた痴態の数々を頭の中で反芻していた。
 寝たふりをしてうつむいていたから周囲にはわからなかっただろうが、思い出すこと一々が赤面を呼ぶものだった。

 自分で一番驚いたのは自分の中に隠れていたマゾヒスト的な資質だった。
 どちらかと言えばM寄りかなとは自分でも思っていたのだが、高圧的な態度や理不尽な命令には反発を覚えるタイプだとも思っていたので。

 だが、想像上の彼女から無理な命令を受けて恥ずかしい状態に追い込められるほどに性的興奮をしている自分がいた。
 変態な姿が誰かに視られてしまうかもしれないというスリルに、より淫らに反応してしまう自分の身体があった。
 しかしながらこれらを屈辱的と感じている自分も常にいたわけで、これはマゾ性というよりも破滅願望的な傾向に近いのかもしれない。

 午後五時前に自宅のマンションに着き、倒れるようにそのまま小一時間仮眠した後、夕食を買い置きの冷凍食品で軽く済ませてからゆっくりお風呂に浸かった。
 シャワーを浴びながら自分の身体を撫ぜているとどうしても昼間の興奮を思い出してしまう。

 お風呂から上がると下着も着けず肌の手入れもそこそこに全裸のままベッドにダイブした。
 昼間の興奮を蘇らせたくて四つん這いになり自分の性感帯を執拗に愛撫した。
 大きな姿見の前で乳房を揉みしだいたり膣口を広げてみたり、思い切り恥ずかしいと思える自分の姿を模索した。
 やっぱり陰毛は邪魔だなと思った。

 そんな思い出し自慰の終盤で私は結局、想像上の彼女、の言いなりになっていた。
 なにしろ想像上の彼女には私の恥ずかしい写真という切り札があるので、言いなりになるしか道は無いのだ。

 想像上の彼女がえげつない命令を次々に下してくる。
 それは私が今までマンガやラノベ、アニメや映画やAVやネットで好んで摂取してきた潜在的欲求の塊なのかもしれない。

 …こんなところで素っ裸なのだから、視られる覚悟も出来ているのよね?オマンコを自分の指で広げなさい…
 …そのまま目を瞑って恥ずかしい全裸で五分間、そこに立っていなさい。誰か来た気配がしても絶対隠してはだめよ…
 …あら、ここはずいぶん人通りが多いのね。誰もがおまえの全裸を凝視していくわ。あの人なんか立ち止まってしゃがみ込んで、おまえのオマンコを食い入るように奥の奥まで下から覗き込んでいるわよ…

 想像上の彼女は容赦無く公衆の面前に裸の私を連れ出す。
 言いなりな自分はまるで彼女の性奴隷玩具だなと私は屈辱の中で思う。

 …ここでおまえが大好きな自慰行為をしなさい。イクときはみなさんに許しを乞うてからイクこと…
 …オチンチンを出してくる人がいたら悦んでしゃぶって気持ち良くさせて上げなさい…
 …セックスを望む人がいたらどんな人にも従順に応じなさい。たとえ避妊具無しの中出しだとしても…

 そんな自分の股間を熱くする破滅的な妄想で何度も何度もイキ果てた。
 そこはかとない満足感と絶望感の中、私はいつしか全裸のまま眠りに就いていた。

 想像上の彼女に大人しく従っている私だったが自分はレズビアンではないと思う。
 現実の彼女と肌を寄せ合って一緒に気持ち良くなりたいとかは全然思わないし、初めての性行為も高校の頃、同級生の異性だった。

 高校一年の夏休み後に告白されてつきあった同じクラス同い年の男子。
 顔がその頃そこそこ人気のあったややイケメンお笑い芸人に似ていたため女子にもそこそこ人気のあった男子ではあった。

 最初の頃こそよく気の利くやさしいカレシであったが、プラトニックで迎えた次の年のお正月後、何かの弾みでディープキスを許してからはただのヤリタイお化けに豹変した。
 ことあるごとに二人きりになりたがり、ことあるごとに私の身体を触りたがった。

 セックスに対しては好奇心も有り不安も有りのやじろべえ状態な自分だったが、執拗な懇願に、そんなに言うのならと好奇心が僅差で勝った結果だった。
 二年生進級目前の春休み前、彼の両親が親戚の不幸で一晩帰ってこないという彼の一軒家の彼の部屋でであった。
 自分の両親には仲の良い女子四人でのお泊り会と嘘をつき、その頃の友人にも口裏を合わせてもらっていた。

 初めて勃起した男性器を見たときは驚愕だった。
 こんなものが私のソコに本当に入るのかと思った。

 それ以前から自慰行為はしていた。
 中学二年の春頃から性器の周辺を弄ると時々凄く気持ちのいい電流が全身をつらぬくことを知っていた。
 ただ、あまりに気持ち良すぎるので逆にあまりシてはイケナイことだとも思っていた。

 それでも何度かシているうちに、これは陰毛に隠れた性器の割れ始め付近にある包皮をかぶった硬いしこりのせいだとも気づいていた。
 そのしこりは何でも無い時にはひっそりとしているのだが、生理と生理の間に訪れる自分では制御不能なムラムラ期間のときには少し大きく包皮を持ち上げ、触ると感電したようにビリビリと気持ち良い快感がつらぬくのである。
 そんな感じで私のそれまでの自慰行為はクリトリス一辺倒であった。

 その日は夕食の時間頃に彼の家に行き、彼の母親が彼の為だけに作り置きしてくれた夕食と買ってきた菓子パンを二人で分け合って食べ、九時半くらいまでゲームで遊んだ後、お風呂にも入らず唐突に彼が部屋の電気を暗くした。
 常夜灯の焦げ茶色い薄闇の中、彼が私の着衣を脱がせていくがブラジャーの外し方はわからなかったらしく私が自分で外した。
 彼も焦ったようにパンツ一つの裸になり、いきなり抱きついてくる。

 性急に唇を合わせてきて性急に私の胸を激しく揉んだ。
 彼の口内は夕食に食べたトンカツのせいかなんだか獣臭かった。
 その間に彼は自分のパンツを脱ぎ、私のショーツも脱がせた。

 それから身体を離した彼は前屈みになりコソコソと避妊ゴムを着けた。
 そのとき私は生まれて初めて勃起した男性器を見た。

 私に覆いかぶさった彼は闇雲に硬く充血した男性器を私の股間に押し付けてくる。
 粘膜を押してくる異物は痛いだけだった。
 少しの間そうしているうちに私の粘膜中に収まりの良さそうな窪みがみつかり、そこへ強引に異物を捩じ込んでくる。
 入口近辺がヒリヒリ痛くて不快なだけだった。

 自分の性器に熱くて硬い何かがめり込んで来る感じ。
 意外と深くまで挿さるものなんだな。
 不快な痛みに顔を歪めながら、そんなふうに思った。
 彼にはおそらく感じている顔に見えたことだろう。

 無我夢中な彼は目を瞑って私にしがみついたまま数秒間無闇に腰を押し付けてきたかと思ったら静かになった。
 果てたようだった。
 私から身体を離し仰向けになってハアハアと息を上げていた。
 性器からの出血はなかった。

 その三十分後くらいにもう一度望まれて従ったのだがやはり痛くて不快なだけだった。
 彼は満足げに眠りに落ち、私は釈然としない気持ちでなかなか寝付けなかった。
 セックスってこんな程度のものなのかと失望していた。

 高校二年へ進級のクラス替えで彼とは違うクラスとなったが、つきあいはまだ続いていた。
 仲の良かった女子たちとも散り散りとなってしまいクラスでは孤立気味だった。

 彼の両親が夜まで不在のときに度々彼の部屋に誘われたが、のらりくらりと断っていた。
 五月の連休の頃、ヤリタイだけお化けからの度重なる誘いにしょうがなく一度だけ乗ってあげたのだが、やっぱり痛いだけで、もうしたくないと喧嘩になった。
 それで完全に諦めがつき彼を避けるようになって、いつの間にか交際は自然消滅していた。

 その頃からクラスの同性数人による軽いイジメのようなものが始まった。
 イジメと言っても無視されたり悪口陰口のような可愛らしいものだったが。

 ある日には教室の黒板に私の名前と、マグロ女、という文字が大きく書かれていた。
 おそらく彼があることないこと言いふらして、それを書いた人物は彼を好いていたのだろう。
 男性の身勝手さと女性の陰湿さを身を以て体験した私は諦観して内に籠るようになり、教室の隅で読書ばかりしている陰気な女になっていった。

 ただ、そんなことがあったおかげで逆に性への興味は大いに刺激され、その手の文章や画像、映像、創作物を手当たり次第摂取していった。
 ノーマルだろうがSMだろうがBLだろうがGLだろうが、そういう類の情報を主にネットで夜な夜な収集した。
 誰もが気持ち良いと口を揃える性行為なのに何故自分だけは不快だったのか、その理由が知りたかった。

 ある日、いつものようにネットサーフィンをしていると、とあるお菓子の容器で自慰行為をすると気持ち良いという記事をみつけた。
 そのお菓子とはグミで、口の中でグニュグニュする感触が好きで私もたまに買っていたお菓子だったが、その容器をそういう目で見たことはなかった。
 確かに長さも太さも私が見た勃起した男性器とほぼ同じ、ただし容器のように緩い瓢箪型にウネウネはしていなかったが。

 その記事は懇切丁寧に書かれており、ビニールの包装紙は剥がすこと、避妊ゴムを被せた方がいいこと、潤滑ゼリーを併用すること等々が書かれていて、私は素直に従った。
 避妊ゴムは彼が私に預けていた分がたくさん残っていたし、潤滑ゼリーはネット通販で入手した。

 実際にそれで自慰を行なってみて驚いた。
 避妊ゴムを被せて潤滑ゼリーを垂らしたグミ容器は難なく私の膣内に収まり、それを動かすたびにグングンと性感が高まった。
 痛みも不快感もまったく感じずに、ただただ気持ち良かった。
 凸凹した表面が粘膜にピッタリ吸着したまま滑り、出し挿れをくり返すとこれまで経験したことないほどの恍惚とした快感が股間から全身へと広がっていった。

 一度達した後は少しの刺激で前にも増した快感を味わえる。
 より強烈な快感を求めて何度も何度も貪るうちに私は膣中イキも出来るようになっていた。

 残りの高校生活を内向きなまま自慰行為とそのネタ集めに費やした私には、結婚も子供を作ることも生涯出来ないだろうなと考えた。
 それならばせめて他人様のちっちゃくて無垢な子供の世話でもして静かに暮らしていこうと思い、この女子大を志望し合格した。

 そんな根深いコミュ障をこじらせている私が久々に興味を抱いた人物、それが彼女だった。


2024年4月7日

彼女がくれた片想い 10

 物音が聞こえたと同時にその場にしゃがみ込んだ。
 ここが誰でも自由に出入り出来る場所だったということをあらためて思い知らされる。
 個室なので中まで入ってこられる恐れはないのに裸を隠すように縮こまってしまう。

 無遠慮な足音がコツコツと響き、個室のドアを閉じたのであろうバタンという音がする。
 少なくとも隣の個室ではないようだが。

 再び静けさが訪れる。
 衣擦れの音も排尿の音も聞こえてこない。
 ここからだいぶ離れた個室、たぶん出入口から一番近い個室に陣取ったのであろう、ホッと安堵の息をついた。

 しゃがみ込んでいるので手の位置が性器に近い。
 闖入者が退出するまで大人しくしていなければとわかっているのだが、考える前にすでに右手が性器に触れていた。
 それくらい身体が物理的刺激に飢えていた。

 下腹部全体がねっとりと熱い。
 陰毛に隠れた割れ始めの包皮が皮を被ったまま、しこりのように腫れている。
 その下の穴の方に中指を滑らせるとヌルッと難なく侵入した。

 思わず、んふっ、と小さな淫声が洩れる。
 ほんの入口に第一関節くらいを挿れただけなのに肉襞がヌメヌメ蠢き奥へと誘い込むようにキュンキュン締め付けてくる。
 これ以上動かしては駄目、と自分に言い聞かせて真一文字に口をつぐむ。

 右手の掌が腫れた包皮に当たっている。
 私はクリトリスがかなり弱い。
 その部分を極力刺激しないように性器を掌で包み込む。
 凄く熱くなっている。

 眉根に深いシワを刻ませたまま一分、二分とそのときを待つ。
 やがてジャーッと水を流す音が聞こえ、しばしの沈黙のあとカタン、ギーッと扉が開く音が聞こえた。
 コツコツという足音、ザーッと手を洗うらしい音が聞こえて再びしばし沈黙。
 またコツコツと足音がしてカタン、バタンでやっとトイレから退出した物音。

 その音が聞こえた瞬間、中指が私の膣を奥深くまでつらぬいていた。
 掌も腫れた包皮に思い切り押し付ける。
 あっという間に深く激しく達していた。

 今まで味わったことのないオーガズムの波が何度も何度も打ち寄せてくる。
 全身がプルプル震え、いつの間にか薬指も加わった二本の指がヒクヒク痙攣している膣壁をこれでもかと甚振っていた。
 つぐんでいるはずの口なのに、んぐぅぅっ、という嗚咽が喉奥からほとばしる。
 やがて最大級のオーガズムで頭の中に火花が弾け飛ぶ。

 やっと本望を遂げた私はこの場から闖入者が去った安堵感もありハァハァと荒い呼吸音を発していた。
 下半身を中心に今だにヒクヒクとあちこちで痙攣する全身の余韻を愉しんでいる。
 これほどまでの絶頂快感は予想していなかった。

 自分の吐息以外は再び静まり返った個室内で私は思いあぐねていた。
 続行してもう一度天国を味わうか、ここで一区切りして四限目に向けて撤収するか。
 けっこう長くこの場にいるのでそろそろ三限目終了チャイムが鳴りそうだとも思うが、スマホはバッグにしまったので時計を確かめることは出来ない。
 私の中の良識はそんなふうに比較的冷静に状況を考えているのだが、身体は勝手に動いていた。

 いつの間にか自分の部屋でいつもしている格好、すなわちお尻を突き上げた四つん這いになって行為を続行しようとしていた。
 四つん這いと言ってもトイレの中なのでいくばくかの制御が効いていた。
 両膝は広げて床に突き、顔面は便座蓋上の脱衣した着衣の上。
 お腹側から股間に伸ばした右腕の中指と薬指がグチョグチョと膣中を捏ね繰り回していた。

 一度達して敏感になっている性器はすぐに過剰反応。
 キュンキュン疼く膣中、グングン昂る性感、クチュクチュ響く膣音。
 さっきよりも強烈に寄せては返すオーガズム波に頭の中は真空状態。
 意識まで飛んでしまうかもと思った瞬間、唐突にチャイムの音が響く。
 ビクンとした拍子に膣壁がギュッと指を締め付けた。

 便座の衣服に頬を埋めてハアハア言っていると講義が終わって廊下に出た学生たちで騒がしくなってきた。
 トイレの出入口ドアも各個室のドアもひっきりなしにどこかしら開け閉めされている。

 そんな中まだ私は起き上がれずにいた。
 便座蓋に突っ伏して個室のドアに両膝を割ったお尻を向けたまま。

 もしも今、切羽詰まった学生が満室な状態に血迷ってこの個室のドアに手を掛け、何かの間違いで鍵が外れて個室のドアが開いてしまったら…
 その人物は白濁液にまみれた陰唇がだらしなくパックリ開いた膣口と、その上の肛門までを真正面からドアップで視ることになるだろう。
 そう考えたらその目撃者として自然と彼女の顔が浮かんだ。
 もっと滅茶苦茶になってみたいと思った。

 休み時間中は我慢した。
 指は挿入せず、口をつぐんで足の付け根から陰唇付近をさするだけで我慢した。
 長い10分間。
 膣内に潜りたがる指をなんとかなだめ悶々とそのときを待つ。

 トイレ内の喧騒が徐々に落ち着き、やがて休み時間終了のチャイムが鳴る。
 耳を澄ましても聞こえるのは、しーん、という自分の耳の神経細胞が活動する音のみ。
 今日も四限目は自主休講となってしまうが、これで心置きなく行為が続行できると思う反面、ひとつの懸念が急浮上した。

 本当に今、このトイレには誰もいないのか…
 万が一、四限目に講義のない学生がまだ個室に籠っていたり、いないとは思うが自分や彼女のような人物が不埒な目的で個室に入っていても今の私にはわからない。
 誰かが残っていた場合、大きな物音や声を発することは当然ながら憚れる。

 懸念は不安へと変化し、どうしても確かめたくなっていた。
 確かめるのは簡単、個室が空いているときは内開きドアが開いている筈なので、そっと覗いて確認するだけだ。
 もし個室がひとつでも閉じていたら、そのときは慎重に行動して退出の物音を待てばいい。

 方針が決まり立ち上がることにした。
 顔を埋めていたジーンズがよだれで少し湿っていた。
 裸足で個室ドアの前に立つ。

 極力音を立てないようにドア鍵のスライドバーを外す。
 そのままそーっとドアを内側に引いて隙間から顔だけ覗かせ、トイレ出入り口の方へと素早く視線を走らせる。
 四つの個室はどれも内側に開いている。
 よしっ。

 安堵と一緒に顔を引っ込め、今度は音を気にせずドアを閉めて再び鍵を掛ける。
 四限目も諦めたことだし、ここでもう少し愉しんでいくことに決める。
 今度はどんな妄想にしようかと考えていたら、ある好奇心が湧き上がってきた。

 トイレ内に誰もいないということは今なら個室の外に出ても大丈夫ということ。
 個室内でこんなにドキドキするのだから、その個室からもっと広い空間に出たら、どんな気分になるのだろう。

 ただし、個室なら鍵を掛けられるがトイレ全体の出入口はオールオッケーの誰でもウェルカム状態。
 でもそれも、廊下の足音に注意深く耳を澄ませていれば大丈夫な気もする。
 危険を察知したら素早く個室に逃げ込めばいいのだから。

 少しの間、不安という理性と好奇心が逡巡していたが結局、猫をも殺す好奇心が天秤を傾かせた。
 再び個室ドアのスライドバーに手を掛ける。

 私は露出狂ではない。
 誰かに自分の裸を見せたいという願望はさらさら無いし、逆に人前では極力ひっそり同化して目立ちたくないタイプだ。
 それなら何故、個室の外に出るというような大胆な行動に惹かれてしまうのか。

 おそらく、視られてしまうかもしれない、というスリルが今まで味わったことの無い興奮を呼ぶからだ。
 自分の浅ましい姿を発見されてしまうかもしれないというリスク。
 もちろん絶対目撃されたくはないのだが、行動しなければスリルは味わえない。
 踏ん切りをつけるために、もう一度想像上の彼女にご登場いただいて命令を待つことにする。

 …ほら、さっさと表に出なさい。誰もいないんだから…

 思い切って個室ドアを開き、裸足で恐る恐る個室の外へ出る。
 この期に及んで今更だが、胸と股間は庇ってしまう。
 しんと静まり返った空間。

 …またおっぱいとオマンコを隠しているの?おまえの腕はそこでは無いでしょう?同じことを何度も言わせないでちょうだい…

 想像上の彼女に叱責された私は渋々両腕を下ろし、トイレ空間の真ん中あたりで後ろ手を組む。
 見慣れた学校の女子トイレの通路で素っ裸になっている自分。
 一時落ち着きを見せていた性感が前にも増してグングンと上がってきている。

 命令されて嫌々トイレ通路で全裸を晒している自分、の屈辱気分に浸りつつ、何気に出入口の方を向くと出入口ドア脇に並んだ洗面台の鏡に私の臍から上くらいの裸が映っていた。
 客観的に見せられる、ありえない場所で晒している自分の裸。
 自慰行為でオーガズムに達したばかりの締りのない顔で上気した裸体を晒している女。
 自分が今、いかに破廉恥な行為をしているのかを問答無用で突き付けられた。

 もはや躊躇いは無かった。
 一刻も早くこの場で性器を弄り倒し、すべてを忘れて性的快楽を貪りたくなっていた。
 後ろ手に組んだ両腕を解いて前に回し、鏡に向かって立ち尽くしたまま右手を性器に近づけていく。

 そのとき、トイレ外のどこかからカツカツと足音のような物音が微かに聞こえたような気がした。
 空耳かとも思ったが、その足音はトイレから見て左側に位置する階段の方から実態を持ったテンポで徐々に音量を上げ、どんどん近づいてくる気配。

 今は四限の講義中でずいぶん時間が経っているし足音も落ち着いていることから遅刻の学生とかではなさそうだ。
 だとすると間違いなくこのトイレが目的地であろう。
 案の定、そのハイヒールらしき靴音は高らかに響きながらこの場に近づいてくる。
 もしかすると非番の教授か講師なのかもしれない。

 慌てて個室に逃げ込んだ。
 個室ドアを乱暴に閉めてカタンと鍵を掛けた三秒後、バタンとトイレ出入口ドアが開く音が聞こえた。

 プルプル震える身体とハアハア押し殺した吐息。
 個室の外で全裸を晒したという背徳感と期せずして鏡によって視せられた自分の裸体のいやらしさ。
 ヒールの足音でなかったらみつかってしまっていただろうという危機一髪のスリルに、一切身体を触ってもいないのにビクンと小さく達していた。
 
 左太股にツツツーと白濁した愛液が滑り、頭の中で想像上の彼女が蔑みきった瞳でニヤニヤ笑っていた。