2024年1月1日

彼女がくれた片想い 07

 結論から言うと、その日それ以降の彼女の尾行は出来なかった。

 トイレの個室を出てすぐに向かいの空き教室に入りトイレの出入りを監視していた。
 と言っても、どうせ休み時間中は出てこないだろうと高を括り、チャイムが鳴るまでの監視がおざなりになっていたことは否めない。
 スマホをチェックしたりノーパンが気になってジーンズのジッパーを少し上げたり下げたりもしていた。

 次の講義開始のチャイムが鳴り再び辺りが静けさに包まれて5分10分、いっこうに彼女は出てこない。
 15分を過ぎた頃に、これはおかしい、それともひょっとして2回戦に突入しているのかも、と考え、再びトイレへ忍び込むことにした。

 トイレの出入口ドアをそっと押して中を窺う。
 中はもぬけの空。
 5つある個室のドアはすべて内側に開いていた。

 束の間途方に暮れた。
 いつ見過ごしたのだろう?
 でもすぐに思い当たる。
 油断していた休み時間中に出ていったのだろうと。

 尾行のための変装用小道具まで用意していた身としては残念ではあったが、すぐに仕方ないと諦めもついた。
 結局私のミスなのだから。

 それよりも先程のトイレ内での彼女の一部始終である。
 衝撃的だった。
 その興奮はまだ私のからだを奥底からしつこく疼かせていた。
 そのまま家路につき自分の部屋に戻ってから、彼女が洩らした一字一句を思い出しつつ遅くまで自慰行為に耽った。

 次の体育の授業の日、私はひとつの決意を心に秘め、黒い膝下丈スカートを穿いて臨んだ。
 いつもより早めに人影まばらな更衣室に入り、彼女がいつも着替えをするロッカー脇の物陰でまずショーツを脱ぐ。
 もちろんスカートは穿いたまま素早く脱いだショーツをバッグに隠し、間髪をいれずアンダースコートを穿いた。

 穿き終えた後にいつもの自分の着替え定位置に戻り、ゆっくりと着替えを続行する。
 ブラウスを脱いでウエアを被り、スカートを脱いでスコートを着ける。
 これで私も彼女とお揃いだ。

 そうしているあいだに更衣室が賑やかになってきた。
 着替えをほぼ終了している私は近くにあった椅子に腰掛け、ゆっくりとテニスシューズに履き替えている。
 両脚を幾分大きく広げてスコートを無駄に翻し、中のアンダースコートを周囲に見せつけるような格好になって。
 誰にも気づかれない秘めやかな恥ずかしさ。
 その高揚感にゾクゾク感じていたら彼女が現われた。

 いつものように隅のロッカー脇、さっき私がショーツを脱いだ場所、に陣取った彼女はバッグから着替え一式を取り出し、一つ一つ確認した後に着替えを始める。
 
 濃いベージュ色の薄手のジャケットを脱いだ後、七分袖で淡いピンクのニットの袖から両腕を抜いて頭から抜く。
 間髪を入れずテニスウエアを被って上半身は終了。
 本日のブラはピンクで背中にこれといった痕はなし、というのは、シューズの紐を整えるフリをしながら凝視していた私の見解。

 つづいて下半身。
 少し背後をキョロキョロしてから彼女は完全に背中を見せる。
 茶系でエスニックな柄の膝下丈スカートに両手が差し入れられ、ショーツがスルスルっと下げられる。
 今日も長めのスカートを穿いているということは、今日も授業の後はノーパンで過ごすつもりなのかもしれない。

 それから彼女がアンダースコートを手にし、これから脚にくぐらせようと屈んだ刹那、私はどうにも我慢が出来なくなってしまった。
 彼女に本当のことを伝えたら彼女はどんな反応を示すのか?
 幾分サディステイックな衝動とともに、それが知りたくてたまらなくなったのである。

 自分でも思いがけないほどからだが自然に動いていた。
 すっかり着替えの終わった私は彼女と私の間にいる数人の女子を掻き分け、背中を向けている彼女の前に立つ。
 どうしようかと少し迷ったが、背中を向けた彼女の左肩甲骨辺りを右手の人指し指でチョンチョンと軽くつついた。

 彼女は屈んでアンダースコートをずり上げている途中だった。
 彼女のからだが一瞬ビクンと震え、アンダースコートは中途半端なまま両手を離してこちらに振り返る。

「それ、下着の上に穿くもの」

 小声でもちゃんと意味がわかるように滑舌は良くしたつもりだ。
 彼女は瞬間、呆けたような顔して、えっ!?と絶句した。
 無言で私の顔を見つめながら言葉の意味を吟味しているようだ。

「アンスコは下着を隠すためのもの。だから下着は脱がなくていい」

 そう追い打ちをかけると、あっ!と大きな声を上げて見る見る顔が赤く染まっていく。

「あっ、あっ、そ、そうなのっ?」

 私が告げた言葉の意味を完全に理解したらしい彼女は、羞恥に身悶えるように顔を歪めてうろたえている。
 顔全体をバラ色に染め、目尻には今にも零れ落ちそうな涙まで溜めて。
 膝まで上げたアンダースコートはそのままだ。

 私に指摘された後の彼女の狼狽ぶりが演技だとは思えない。
 どうやら彼女はアンダースコートの何たるかを本当に知らなくて、その行為をやっていたらしい。

「そ、そうなんだ、教えてくれてありがとう…」

 とても小さな声でつぶやいた彼女をすごく可愛いと思った。
 同時にサディスティックな気持ちももう一段階加速して、余計な一言を追加してしまった。

「でも、したくてしているなら、それでもいいと思う」

 授業後にノーパンになることも知っているから、という意味を持たせた皮肉だが、言い過ぎたかな、とも思い、私はそそくさとラケットを持ってその場を離れた。

 テニスの授業中、私はソワソワ落ち着かなかった。
 ショーツを脱いでアンダースコート一枚ということは、下着を常時丸出しで授業を受けているのと同じこと。
 他の人にはわからないけれど、している本人にはその認識となる。
 からだを動かしてスコートが派手に翻るたびに、得も言われぬ恥ずかしさが下腹部を襲い、濡れにくい私でも秘部の奥から粘液がジワジワ潤み出ているのがわかった。

 彼女はと見ると、彼女も今までとは違っていた。
 いつもなら無邪気にコートを駆け回っていた彼女が、今日はなんだかモジモジ恥ずかしげ、しきりに自分の下半身を気にしている。
 ということは、あの後彼女は下着を穿き直さずにそのままコートに出てきたのだろう。

 テニス授業を受けている者の中で彼女と私だけが恥ずかしい下着丸出し状態。
 その事実がなんだか嬉しかった。

 授業後の着替えでは、さすがに彼女をジロジロ観察することは躊躇われた。
 話しかけてしまった手前、彼女も私を意識しているだろう。
 なので彼女から見えない場所に陣取ったため、アンダースコートを脱いだ彼女がショーツを穿き直したのかは確認出来なかった。
 その代わり私が、スカートを着けてからアンダースコートを脱ぎ、そのままのノーパン状態でその後を過ごした。

 三限目の授業前の教室で、彼女がわざわざ私のところまで来て律儀に再度お礼を言ってくれた。
 私はそんな彼女がますます好きになったけれど、ねえ今あなたもノーパン?って問い正したかったのも事実だ。