2023年10月7日

彼女がくれた片想い 05

 木曜日の二限目が終わった後、私は彼女の行動に注目していた。
 彼女は親しい友人三人と楽しげに何か話しながら教室を出ていく。
 二階端の教室から廊下を少し進み、階段を下りて一階へ。
 昼休みの人波に紛れ、気づかれないように後を追う。

 やがて建物の正面玄関。
 先週はここで友人たちと別れ、彼女はひとり学外へと消えていった。
 今日もそうであれば先週無事にレポート提出も済ませたことだし、四限目の講義をパスして彼女を尾行するつもりだった。

 彼女がプライベート時間をどう過ごすのか、あわよくば彼女の住まいまでつきとめられるかもしれない。
 そう思って気づかれぬように変装する準備まで用意していた。

 だが彼女は友人たちと玄関を素通りし、その奥へと進んでいく。
 この廊下の果てにあるのは学食ホール、どうやら今日の彼女は友人たちとランチを済ませていくらしい。
 その後どうするつもりなのかはまだわからないが、私ももちろん付き合うことにする。
 気づかれぬようにこっそりとだが。

 今日の彼女は珍しく茶系の膝丈キュロットスカート。
 同系色のトップスを合わせて薄手のベージュのカーディガンを羽織っていた。
 彼女にしてはいつになく垢抜けたコーデなので、ひょっとするとこの後カレシとデート?なんていう懸念も生まれる。

 予想通り彼女たちは学食に入り、四人がけテーブルを確保すると食券売り場に並び始める。
 私も自分の定位置である出入口近くのぼっち飯相席ひとつを確保し、彼女の監視体制に入った。
 彼女と同じのものが食べたいと思ったので、彼女の注文を確認してから食券を買うつもりだ。

 やがて彼女がトレイをしずしずと捧げ持って所定の位置に着席する。
 トレイ上の平皿に盛られた料理はドライカレー。
 私が彼女を追いかけ始めてから彼女がそれを学食で食べる姿を見るのは二度目だから、気に入ったメニューなのだろう。
 私はよやく立ち上がって同じものを手に入れるべく食券売り場に並んだ。

 食事中の彼女はほとんど聞き役。
 他の三人がかまびすしいのもあるが、スプーンを動かしながら適度に相槌を打ち適度に笑っている。
 友人たちも彼女をより笑わせようとしているように感じた。
 ドライカレーは適度にスパイスが効いて美味だった。

 彼女たちは食事後、隣接している喫茶スペースに移り雑談続行。
 彼女はアイスミルクティーを飲んでいた。
 私は彼女を見失わないように注意しつつ食器を片付け、同じ場所で読書のフリを始めた。

 やがて昼休み終了、三限目の講義開始時刻が迫り、友人らが席を立つ。
 私も席を離れ、人混みに紛れて彼女らの近くまで近づいた。
 別れ際に、それじゃあまた明日ね、の声も聞こえたので彼女がこの後に講義が無いのは確定だ。
 が、彼女はひとり喫茶スペースに残り、持っていたトートバッグから文庫本を取り出して読書モードに突入した。

 私も喫茶スペースまで踏み込もうかとも思ったが、ランチタイムが終わり空席の目立つ学食の喫茶スペースに近い位置に無料のお茶片手に陣取り読書のフリで、そっと彼女を見守る。
 素通しガラスで仕切られた喫茶スペースで彼女が読んでいる文庫本は表紙カバーも取り外され表紙もやや黄ばんでいて、ずいぶん古い本のように見えた。
 私は広げている文庫本の活字も追わないまま、彼女が本から顔を上げ周りを見渡すような仕草をする度に頭を下げ、読書に没頭するフリをしていた。

 三限に入って食堂も喫茶スペースも閑散としてきた二十分を過ぎた頃、彼女が動いた。
 飲み終えたグラスを返却口に戻し、文庫本をトートバッグに押し込んで学食出口のドアに向かう。
 私も慌ててお茶のコップを戻し、気づかれないように彼女がドアの向こうに消えるのを待ってから追尾した。

 学食のドアを出ると彼女の背中が10メートル先くらいに見えた。
 三限の講義中だが、私のようにその時間が空いている学生もいるので廊下にはそこそこの人影があった。
 少し早足な彼女は正面玄関も素通りした。
 その先にあるのは先程下ってきた階上へつづく階段である。

 それを見て私は確信した。
 彼女はあの日のようにあのトイレに向かっているのだろうと。
 三階まで階段を上って廊下を少し行ったところにあるトイレ。
 私が時間潰し用に使っている空き教室の斜め前。
 この時間のその階はほとんどの教室で講義中、おまけに三階なので余計な人も来ず、非常に静かなのである。

 私が階段の麓までたどり着いた時、彼女は折返し階段の踊り場を曲がったところだった。
 背中しか見えなかったので気づかれてはいないはずだ。
 静寂の中遠ざかる彼女のパンプスの控えめなヒールの音が小さく聞こえる。
 学外への尾行にも備えてスニーカーを履いてきたのは大正解だった。

 ヒールの音が垂直の高さでどんどん小さくなっていくのを聞きながら、二階へ三階へと極力静かに階段を上がっていった。
 三階に辿り着き、壁に隠れてそっと廊下を見遣ると、まさしく彼女がトイレのドアを開けているところだった。
 いつの間にかカーディガンを脱いで左手に持っている。
 あれ?あれってコンビネゾン?

 やっぱり、という気持ちで私は静かに興奮していた。
 ここまで来ればもう焦る必要もないだろう。
 いつもの空き教室に忍び込み、いつもの席に荷物を置いて一息ついた。

 机の上に文庫本を置きながら考える。
 彼女が意図的に人のいないトイレを目指していたのは明白だ。
 それは悲嘆に暮れる為ではなく別の目的で。
 あの日彼女が洩らしていた艶っぽいため息から思うと、おそらく自慰行為。

 今日も彼女はトイレの個室で自慰行為に耽るのだろうか?
 それは脅迫者の命令で?それとも自発的に?
 いずれにしてもこんな時間に意図的にトイレに籠るのは単純に排泄の為だけではないだろう。
 逸る気持ちを束の間落ち着けてから私もトイレに向かった。

 極力音をたてないように内開きのドアを押す。
 今日は彼女の隣の個室で、こっそりじっくり耳をそばだてるつもりだ。
 スニーカーを履いてきた自分をもう一度褒め称えた。

 抜き足差し足でトイレ内を進み個室が5つ並ぶフロアへ。
 おや?
 5つある個室のうち2つの扉が閉じている。
 一番奥と、ひとつおいてその隣、真ん中に位置する3番めの扉が。

 彼女がトイレ内へ入ってから5分くらいが過ぎている。
 先客がいたのか、はたまた私が一息ついているあいだに誰かが駆け込んだのか。
 どちらにしても私には好都合、両方の個室の様子を窺える4番めの個室に忍び込む。
 内開きのドアは今は閉めず、ドアの陰に隠れるように身を潜めた。

 結論から言えば3番めの個室内では普通に排泄行為が行われているようだった。
 私が入ったときにはすでにチョロチョロという水音がそちらの壁の向こうから聞こえていた。
 やがて水音が止まり少しの沈黙の後、新たな大きめな水音はビデを使う音だろう。

 それにしても聴覚に集中すると個室の薄い壁の向こうの様子が手に取るようにわかるものだ。
 水音が止まりカラカラとトイレットペーパーを引き出す音。
 小さな咳払い、つづいてショーツを上げているのであろう衣擦れの音。

 それに比べてもう一方の端の個室は物音ひとつしない静寂がつづいている。

 排泄物を流したのであろうザザーッという一際大きな水音が流れた時、私は個室の内開きのドアをそっと閉めた。
 間髪をいれずガタンと個室のドアを開ける音。
 カツンカツンと大袈裟なヒールの音が遠ざかっていき、小さくザザーッと手を洗っているのであろう水音。
 少しの沈黙の後キーッバタンと廊下に出ていく足音。

 これでこのトイレ内には隣同士の個室で彼女と私の二人きりとなったはずだ。


2023年10月1日

彼女がくれた片想い 04

 翌日から彼女のことが気になって仕方なくなっていた。
 こんなにも誰かのことが気になるという状態は私にとって久し振りの感覚だった。
 講義中のトイレや体育授業のロッカーで彼女が見せた不可解な行動が、眠っていた私の好奇心という名の猫を起こしてしまったようだ。

 一見気弱そうな彼女の笑顔と、していることとのアンバランスさ。
 その本当の意味を知りたいと切望に近い感情を抱いていた。
 かといって唐突に馴れ馴れしく話しかけることなど到底出来ない性分なので、講義中は離れた後方の席に座り彼女の背中を注視していた。

 一年生のうちは必修科目が多いので、ほとんどの講義は彼女と同じ教室だったが、一部の選択科目では彼女と別れることになる。
 私の知らないところで彼女が何をしているのかまで気になってしまい、自分の講義はそっちのけで選択科目教室までこっそりついていき、彼女が教室に入るのを確認してから自分の講義に遅刻して入るということも何度かあった。

 そんな感じで一週間、もちろん学校が休みの土日は除いてだが、彼女に注目しつづけた。
 その結果、彼女は木曜日のみ午前中の授業だけで午後は丸々空いていることがわかった。
 これは彼女が友人たちとそのような事を話していたのも聞いたし、実際その週の木曜日に彼女は午前中の講義の後、学食で昼食も取らずに駅の方へと消えていった。

 木曜日の午後と言えば私が最初にトイレで彼女に遭遇した昼休み後の三限から四限にかかる時間帯である。
 その時間帯、私には四限に講義が一つあった。
 その日は課題のレポート提出期日だったため尾行を断念したのだが、講義を無駄にしてでも木曜の午後は要チェックと心に書き留めた。

 他の曜日には彼女に不審な行動はなく、一週間後にまた体育の授業を迎えた。
 彼女は相変わらず隠れるように隅のロッカーでこそこそと慌ただしく着替えをしていた。
 慌ただしくブラウスを脱ぎ、慌ただしくウエアをかぶり、相変わらず下着を脱いでからアンダースコートを穿いていた。

 ん?

 授業前の彼女の着替えを眺めながら、ほんの小さな違和感が私の五感のどこかにひっかかった。
 目で見たことなのか、音で聞いたことなのか、はたまた匂いなのか、それはわからない。
 ただ、素肌のどこかに一本のか細い抜け毛が貼り付いたような、家を出て五分も歩いた頃にそう言えばエアコンのスイッチをちゃんと切ったか思い出せない、といった類のもどかしい違和感に苛まれる。

 授業終わりの着替えでもう一度確認しよう。
 そう決めた。

 テニスの授業中、彼女は実質的には下着であるアンダースコートを盛大に露出しながら体育館を走り回っていた。
 私はそれをドキドキしながら横目で視ていた。
 そして授業は終わる。

 例によって更衣室の隅っこに壁向きで、私に背中を見せながら着替えをする彼女。
 かぶりのウエアから先に両腕を抜き、頭まで一気にたくし上げる。
 ここで露わとなった彼女の背中を見て、もどかしい違和感の正体があっさりわかった。
 やはり視覚であった。

 真っ白な彼女の背中、今日のブラのストラップも白。
 その白い肌に幾筋かの細いラインがうっすらピンク色に横切っていた。
 俗に言うミミズ腫れのような痛々しい感じではなく肌が白いがゆえに目立つ、といったうっすら加減なので上気しているようでもあり妙に艶めかしい。

 その背中も瞬くうちに白いブラウスで隠され、つづけて彼女のスコートが外される。
 すぐに薄青色花柄の膝丈フレアスカートに素足が包まれ、前屈みの状態で裾から両手が差し込まれてアンダースコートが降ろされる。

 彼女の着替えは今日もそこで終了した。
 今、彼女はウエア類を丁寧に畳んでいる。
 つまり今日もこの後はノーパンで過ごすということである。

 すっかり身支度を整え私の横を歩き去っていく彼女の背中を見つめながら私は、今まで経験したことの無いサディスティック寄りな性的高揚を感じていた。
 彼女の正体を暴いてやりたい、みたいな感情だ。

 学食、午後の講義と気づかれぬように彼女の挙動に注目しつつ講義そっちのけで彼女について考えていた。

 まず、彼女の背中を飾っていた幾筋かの横向きなピンク色の痕。
 私の頭に真っ先に浮かんだのは所謂SMプレイで行われる鞭打ち行為だった。
 もちろん私は実際にしたこともされたこともなかったが、ネットでその手の動画は積極的に漁り、いくつも見ていた。

 その他の可能性、たとえば虫に刺されたとか何かにかぶれたとか、あるいは痒くて自分で掻いた等では、あの程度のうっすら加減では終わらないだろうし、痕ももっと部分的になる筈だ。
 
 そして鞭打ちの結果だとすると、一本鞭での打擲痕ではあの程度で終わる筈が無いので、おそらくバラ鞭で付けられたものだろう。
 彼女の背中を横向きに染めていたピンクの筋群はネットで見た、四つん這いな裸の背中に振り下ろされたバラ鞭の打擲痕によく似ていた。

 この憶測で何よりも私を興奮させたのは、自分の背中を自分であんな風に痛めつけるという行為は不可能ということから、彼女とは別の人間の存在、すなわち彼女は誰か第三者の手によって鞭打たれのではないかということだった。
 そこから私の妄想がとめどなく広がり始めた。

 おそらく彼女は先週末に誰かとSM的なプレイをしたのだろう。
 では誰と?
 
 援助交際が出来るようなタイプには到底見えないから、ステディな恋人がいるのかもしれない。
 でも、それでは学内での彼女の不可解な行動の理由までは説明できない気もする。
 ここからは私の個人的な願望も入り混じってはいるのだが、内気そうな彼女が傍目に見てアブノーマルと言える行動を繰り返すような設定を私は知っている。

 脅迫。

 脅迫者に何かしらの弱味を握られ、抗いたい命令にも従うしか無い状態。
 それが彼女にはピッタリだと思えた。

 では、その脅迫者は誰か。
 自然に思い浮かぶのは、嫌らしい笑みを湛えた冴えない名無しの中年男性。
 ひょんなことから彼女の弱味を握り、その後は好き放題。
 呼び出しては彼女の身体を貪り、離れているときも破廉恥な命令を下して劣情を煽る。
 
 この設定は私が今まで見聞きしてきたエロい創作物の影響を多分に受け過ぎているようにも感じたが、彼女が醸し出している雰囲気にしっくりと馴染み、どんどん妄想は広がっていった。

 ノーパンなはずの彼女は、その後はおかしな素振りも見せず普通に夕方まで講義を受け、友人数人らとキャンパスを去っていった。
 一瞬、尾行することも考えたが、今日は頭に渦巻く妄想のせいで自分の部屋に一刻も早く帰りたかった。

 週末に脅迫者の薄汚いアパートの一室に呼び出された彼女。
 すぐに服を脱がされ、縛られたりもしたかもしれない。
 嫌がる彼女に一方的な性行為の後、四つん這いにされ鞭打たれる彼女。
 ひょっとするとアナルまでも涜されたかもしれない。
 学内のトイレでの自慰行為も体育後のノーパンも命令されてのことであり、スマホでの自撮りや送信を強要されている。

 自分の部屋に着くなり服を脱ぎ捨てた私は、妄想の中の彼女と同化し、卑劣な脅迫者に嬲られ陵辱されるという、私にしては被虐的な自慰行為に没入していった。

 その週の木曜日。
 彼女は友人たちと学食で昼食を取っていた。


2023年9月18日

肌色休暇三日目~避暑地の言いなり人形 18

 愛しのお姉さまの、これは中指一本。
 根本までズッポリ挿入され、指先がクネクネ蠢いています。

「ほら、直子は右手は本に伸ばして、オマンコへのイタズラに耐えてる感じで」

 五十嵐さまのご指示に顔がいっそう悩ましく歪みます。
 お姉さまの指は丁寧に膣壁を撫ぜる螺旋運動。
 チュプチュプチュプチュプいやらしい音が鳴り響いています。

「ねえこれ、イカせちゃったほうがいいの?」

 お姉さまがのんびりと五十嵐さまにお尋ねになられます。
 私は必死に右手を上に伸ばしながら快感に耐えています。

「うーん、このシーンはそこそこいい感じに撮れたから、これでいいや」

 五十嵐さまの非情なお答えであっさり指は引き抜かれ、私は不完全燃焼。
 脚立の上で思わずしゃがみ込んでしまいます。

「そのままの姿で床に降りてきてなさい。裾もバストも直してはダメ」

 ご命令口調の五十嵐さまがスマホを構えられたままおっしゃいます。
 ひょっとすると動画も撮られているのかもしれません。
 私がご命令通りの姿で脚立を降り切ると、五十嵐さまが角田さまにお声掛け。

「ねえユカリン、余ってて売れそうもないSM雑誌とか4、5冊貸して欲しいんだけど。うんと古いやつとか」

 そのお言葉を聞かれ、角田さまが眉を少し曇らせます。

「あのね、大昔のSM本とかゲイカルチャーの雑誌とかって風俗資料としても貴重だから意外と良い値で売れたりするものなの。まあ、マニア限定だから探してる人も少ないけどさ」

 ぶつくさおっしゃいつつもその手の本のコーナーであろう大きな書架、この古書店で一番大きいかもしれません、に取りつかれ、物色くださっています。

「このへんなら、古いけどページ抜けとかあって一律百円のだから、汚されても構わないか」

 数冊の判型もバラバラな雑誌を五十嵐さまに手渡される角田さま。
 そのあいだ私はなぜだか服従ポーズになり、おふたりを眺めていました。
 もちろん裾はせり上がって下腹部丸出し、おっぱいも両方ともはだけたままの姿です。

「それじゃあ直子、そうだな、そのレジ前の広いところで座っちゃって。お尻を床に着けて大股開きのM字開脚で」

「えっ!?」

 思わず上げた私の戸惑いの声は、五十嵐さまの冷たい視線に睨まれて即却下。
 脚立を離れ、ご指定いただいた場所へと服従ポーズのまま、すごすごと移動します。

 来たときに角田さまが座っておられたレジカウンターの前は、そこだけ二メートル四方くらいポッカリと空間になっていて、その周囲にはまだ整理されていないらしい紐でくくられた古本の山。
 そこにしゃがみ込むと真正面が古書店の入口です。

 コンクリートのひんやりとした床に生尻を置き、ためらいがちにゆっくりと両脚を開いていきます。
 五十嵐さまは手にした雑誌類を適当に開いては、乱雑に私の周囲に置いています。
 いつしか私の周りは、縛られた裸の女性のグラビア写真だらけになっていました。

「そこでオナニーしなさい。オカズは周りのエロ写真。直子好みっぽいのを見繕ってあげたつもりだから」

 こんなところで、みなさまが視ておられるその前で、という羞恥はもちろんありましたが、その前の脚立での不完全燃焼が一斉に小躍りする愉悦の声のほうが上回りました。
 私の一番傍にあった写真に目を遣ると、古民家風な和室の太い柱に縛り付けられ、片脚だけ大きく広げて吊るされた全裸女性の絶望で諦めきったお顔。
 私の大好物シチュエーションな絵面ですぐにあらぬ妄想が広がり、右手は押し拡げた股間へまっしぐら。

「んっ!」

 親指と人差し指で肉芽をつまみ、中指と薬指を膣内に潜り込ませればもう止まりません。
 さっきみたいな不完全燃焼はもう御免とばかりに、快楽絶頂へ全集中です。

「客のいない古本屋の床にエロ本ばら撒いてひたすらオナニーに耽る少女、っていうのも、うちの具現化したかった妄想のひとつなんだ」

 そんなことをおっしゃりながらスマホのレンズを私に向けてくる五十嵐さま。
 もちろんその背後には角田さま、中村さま、そしてお姉さまの六つの瞳も、驚愕や呆れ、軽蔑の色を湛えて私を見つめています。

 電車の中でお姉さまから言わされたはしたないセリフが、幾分アレンジされて思い浮かびます。
 …ああん、直子がマゾマンコをいやらしく弄ってに淫らにイキ果てるところを、みなさま存分にご覧ください…
 このかたたちの視線は安全だということがわかりきっていますので、ずいぶん大胆になっています。

 左手は服からはみでた両おっぱいの乳首を重点的に虐め、右手の指はクチュクチュピチャピチャ淫靡な音を立てて暴れまわっています。
 両脚は180度に近いくらい大きく開き、幾分のけぞり気味に無毛の女性器をみなさまに差し出すような格好で行為をつづけます。

 …ん、んふぅ、くっ、んーーーーっ!!いいぃぃぃっ!!!…んふーーーっ!!いいっ、いいっ、いいいっ、くぅーーーーっ!!!…
 声を押し殺して立てつづけに二度三度、絶頂を迎えました。

「うん、いい絵がたくさん撮れた。直子のスケベ顔はサイコーだわ」

 ハァハァ息を荒くしている私を横目に見つつ、そんなことをおっしゃりながら散らばった雑誌類をかたづけられる五十嵐さま。
 私の股間周辺はお漏らしでもしたようにビチャビチャでしたが、幸いシオを吹くまではイカなかったみたい。

「一息ついたら次は日常のお仕事編ね。そのえっちな服は脱いで、いったん全裸になっちゃって」

 床にモップをかけながら、さらっと大胆なご命令を下さられる五十嵐さま。
 再び角田さまにお声掛け。

「でユカリン、エプロン貸して。直子に裸エプロンさせるから」

 そのお声を聞いた角田さまは仏頂面。
 私は快感の余韻を感じつつよろよろと立ちあがります。

「えーーっ!?これ昨日下ろしたばっかりの新品で、気に入ってるから汚されたくないんですけどーっ!」

 それでもフッと気が付かれたように、つづけられました。

「あ、でも捨てようとしてた古いやつ、まだゴミ出ししてないからゴミ袋の中にあるわ。すごいヨレヨレだけど」

 そうおっしゃってカウンターの下をガサゴソされ、やがてクタッとした濃い緑色の布片がゴミ袋から引っ張り出されました。
 広げてみると確かにエプロン、ただしあちこちがほつれて前掛け部分には引き攣れたような穴も空いて全体的に確かにヨレヨレ。
 色もシミや擦れで濃い緑と薄い緑のまだら模様です。

「先代のバイトの人が使ってたお古をそのまま何も思わず使ってたのだけどね。ちょっと前にお腹んとこがビリッと破れちゃったから、さすがに変えようと思ってじいちゃんにお金もらって買ってきたんだ」

「でも直子ならこっちのほうが似合うよ。うらぶれて倖薄そうな感じで、昭和レトロっぽくて」

 角田さまと五十嵐さまの楽しげな会話。
 布地に鼻を少し近づけると埃っぽい匂いに混ざって、五十嵐さまがつけておられる柑橘系ぽいパフュームの香りがうっすらします。

「ほら、直子も早くそのエロ衣装脱いで、汗ばんだからだを拭ってから素肌にこのエプロンを着けなさい」

 すっかりご命令慣れされた五十嵐さまに促され、まるで衣服の役目をしていないニットを裾からまくり上げて瞬く間に全裸。
 お姉さまにニットを手渡し、代わりにバスタオルを受け取ろうとしたところで、このお店に入るときに聞いたことのあるチリンチリンという音色が聞こえた気がしました。

 間髪を置かず少し建て付けの悪い引き戸をガラガラッと開ける音。
 どなたかお客様がいらしたんだ、と思った瞬間、私は大パニック。
 お姉さまもそちらに気を取られ私に手渡そうとされていたバスタオルを引っ込めてしまわれたので、私は正真正銘の全裸のまま慌てて胸と股間を庇いビーナスの誕生ポーズ。

「あ、じいちゃん、おかえりー」

 ドキドキ最高潮な私の緊張感を嘲笑うような角田さまののんびりとしたお声。
 えっ?じいちゃん?
 うつむいていた顔をおずおずと上げ、みなさまが振り向いているお店の入口を見ると…

 パナマ帽をかぶられた少し痩せ気味な長身の男性のお隣に、杖を突かれたふくよかな感じの女性。
 男性の口ひげは真っ白で、女性のひっつめにした御髪も見事な銀髪、かなりお年を召しておられるよう。
 おふたりとも呆気にとられたご表情で私を見つめておられました。

「お邪魔していまーす」

 ご挨拶を口にされた五十嵐さまもご存知ということは、このかたがこのお店のご主人様なのでしょう、つられるように中村さまとお姉さまもお辞儀をされています。

「ああ、ショーコちゃんも来てたのか、いらっしゃい。まあそれはそれとして、なんでわしの店にまっ裸の女の子がいるんだい?」

 呆気から立ち直られたご主人様らしきかたが、怪訝五割好奇五割みたいな複雑そうなご表情で、それでもお優しく角田さまに尋ねられます。

「この子はショーコの知り合いで見せる子ちゃんだから大丈夫。ショーコのリクエストでちょっとした撮影会してた最中なんだ」

 ご主人様らしきかたにわかったようなわからないようなご説明をされた角田さまが、今度は私たちのほうを見遣ります。

「みんなにも一応紹介しておくね。このじいちゃんがこの古書店の店主。ぼくの親戚、母方の祖父の弟で斎藤常吉じいちゃん。みんなからはツネさんて呼ばれてる」
 
 そのお言葉を引き取るように店主さまがパナマ帽を取られ、深くお辞儀されました。
 パナマ帽の下は見事な禿頭でした。

「こんな田舎の古本屋にみなさんよくいらっしゃいました。どうぞゆっくり見ていってください」

 そうおっしゃいつつお顔を上げた店主さまの目は、胸と股間をガードした私の素肌に釘付けです。
 ねっとりとした視線が私の素肌に絡みついてきます。

「それで、この子だけが裸なのには何か理由があるのかい?犬の首輪まで着けて。まさかよってたかってのイジメとかじゃあないだろうな?」

 店主さまが角田さまに尋ねられると、五十嵐さまが代わってお答えになられました。

「ううん、裸も首輪も全部この子が自発的にやってることで誓ってイジメなんかじゃありません。この子、人に恥ずかしい姿を視られるのが大好物な特殊性癖、従順なマゾヒストなんです。今だって恥ずかしそうにおっぱい隠してますけど、本当は視てもらいたくってしかたないんですよ、ね?」

 最後の、ね?は、私に向けてのものでした。
 だからといってすぐ腕を外すわけにもいきませんが。

「ほう、わしももう八十過ぎだからあっちのほうは、今はただ小便だけの道具かな、なんじゃが、助平なことは相変わらず大好きでな。こんな別嬪さんの裸を間近で拝めるのは眼福だわな」

 店主さまの視線が好奇と好色100パーセントに変わり、無遠慮に私を見つめてきます。

「ほら、直子も、ちゃんと斎藤さまにお見せしてご挨拶なさい」

 沈黙を保っていたお姉さまから不意にお声をかけられ、お姉さまのお綺麗な顎がクイッと上にシャクられました。
 服従ポーズの合図です。
 
 従うしかありません。
 おずおずと両手を後頭部に持っていくと、開放された部分に痛いくらいの視線が集まります。
 完全に見世物状態です。

「あらまあ、綺麗なおっぱい」

 それまで無言でニコニコされていた店主さまの傍らの杖の老婦人さまが初めてお言葉を発せられました。

「うむ、良い乳だ。大きさも形も申し分ない」

 店主さまもご感想を述べられ、ついでにという感じで老婦人さまをご紹介されます。

「この人はわしの雀友で瑞江さん。わしよりふたつ年上じゃ。若い頃からバーのママを長いことやってた行かず後家でな、麻雀のあいだもシモネタばっかり言ってる、わしに輪をかけた助平女じゃ」

「あら、初対面の人もいるのに、そんな本当のこと言っちゃいやですよう」

 仲睦まじく笑い合う店主さまと瑞江さま。
 そんなおふたりの目がますます不躾に私の裸身を撫ぜ回します。

「それに綺麗なパイパン。太股が濡れちゃってるのはわたしたちに視られているからかしら。感じやすいのねえ」

 瑞江さまがからかうみたいにお優しくおしゃいます。
 確かに休めの姿勢で軽く開いた両脚の付け根から、粘り気のある液体が内腿を伝って滑り落ちるのが自分でもわかっていました。
 それでも服従ポーズを崩すことは出来ません。

「ねえ、ちょっと触ってみてもいい?こんな綺麗なおっぱい見せつけられたら、その柔らかさも確かめたくなっちゃった」

 あくまでもお優し気な笑顔はキープしつつ、すっかり悪戯っ子のお顔になられた瑞江さまが、この座の中心と見定めたのであろうお姉さまに向けてお願いされました。

「もちろんです。ほら、直子からも触っていただけるようにちゃんとお願いなさい」

 満面の笑みなお姉さまから促されたら、逆らうことは出来ません。

「は、はい…ど、どうぞ直子のからだを、心ゆくまで、ご自由にお触りください…」

 自分で言った言葉に感じすぎてまた一筋、粘液が内腿を滑り落ちます。
 その様子を総勢六名の瞳にしっかり目撃されています。

「あら、お許しが出ちゃったわ。ほら、ツネちゃんもご相伴に預かりなさい」

 瑞江さまが嬉しそうにおっしゃり、つづけて左右のおっぱいにそれぞれ違う感触の刺激が襲いました。
 右のおっぱいには節くれだってシワシワな店主さまの右手。
 左のおっぱいには少しふくよかで、だけど少しシワっぽい瑞江さまの右手。

 それぞれがおっぱいを揉みしだいたり乳首を摘んでみたり、自由奔放に蹂躙してきます。
 私は後頭部に両手を押し当てて悦びの声を必死に押し殺したままされるがまま。

「おお、さすがに若い子の肌はなめらかで柔らかいのう。こんな瑞々しい女の素肌に触れるのはン十年ぶりじゃ」

 店主さまが感極まったようにおっしゃいます。
 私も成人男性に生おっぱいを触られるのは生まれて初めてのことでした。

 瑞江さまはもっと大胆でした。
 しばらく左おっぱいを虐めていた瑞江さまの右手はやがて持ち場を離れ、ずっと下って無毛の下腹部をスリスリさすってきました。
 その手が股下まで潜り込み、飛び出た肉芽が指の間に挟まれ、肉壷がやんわり抉じ開けられます。

「んーっ!」

 とうとう堪えきれず歓喜の淫声を洩らしてしまう私。
 それ以上のことをして欲しくて、自然に両足の幅が開いてしまいます。
 でも瑞江さまの手はそれ以上に進む事はなく、いつしか両方の手とも私のからだを離れていました。

「ツネさんも戻ってきたことだし、これでユカリンもお役御免ってことよね。さっさと残りの撮影済ませて、うちらも家路につくとしましょうか」

 タイミングを計っていたみたいな五十嵐さまの鶴の一声で、場の雰囲気が変わりました。

「それじゃあ、わしらはここでその撮影会とやらを見物させてもらうとしようか」

 店主さまと瑞江さまがレジカウンター脇のベンチに仲良く腰掛けられました。
 私にやっとバスタオルが手渡され、汗や粘液を軽く拭った後、撮影が再開されます。

 五十嵐さまのご指示で、レジカウンターでお店番をしているところ、お姉さまをお客様に見立てて接客をしているところ、お店のお外でホウキを持って掃き掃除をしているところを、それぞれ裸エプロンと全裸で2パターン、立てつづけに撮影されました。

 お店のお外に全裸で出るのは少し怖かったのですが、幸か不幸かお外にはまったく人影がなく、相変わらずギラギラ照りつけてくる晩夏の日差しに少し拍子抜け。
 五十嵐さまのテキパキとしたご指示で撮影は滞りなく終わり、古書店をお暇することになりました。

 帰り際、まだ私が読んだことのない名塚先生の百合薔薇学園作品の古書を三冊、お姉さまが買ってくださいました。
 お姉さまも古いSMの写真集か何かを何冊か買われたみたい。

 近くに来たらまた寄ってくださいな、という店主さまのお言葉を背に受けつつ、五十嵐さまのお車に乗り込みます。
 私は角田さまのお古のくすんだエプロンだけ身に着けています。
 生尻にはバスタオルを敷き、中村さまとお姉さまに挟まれての後部座席。

「意外に長居しちゃったね。この感じだと5時半前にお屋敷に着けるか微妙だな」

 ハンドルを握りながら五十嵐さまがお独り言っぽくおっしゃいます。
 助手席の角田さまは、物珍しそうに車窓を眺めています。

「5時半ってジョセのことだったら大丈夫よ。あの子、5時半頃になって家に誰もいなかったらひとりで勝手に散歩に出かけちゃうから。たぶん家の敷地内でうんちをしたくないんだろうね」

 中村さまが気怠げにお答えになられ、小さな欠伸をひとつ。

「それにしても今日は濃ゆい一日だったわ。日光に当たりすぎて眠たくなっちゃった。少し仮眠するから着いたら起こしてね」

 そうおっしゃるなり両目を瞑られる中村さま。
 左隣を見るとお姉さまも両目を瞑られ安眠モード。
 せっかく私が恥ずかしい裸エプロンなのにイタズラしてこられないおふたかた。

「あー、寝ちゃうのはずるいよ。ユカは起きて話し相手になってよね。うちだってこう見えてちょっとは疲れてるんだから。居眠り運転で死にたくないでしょ」

「あー、はいはい」

「直子も眠かったら仮眠していいよ。まだまだ夜は長いから体力温存しといたほうがいい」

 五十嵐さまの一見お優しい、でも不穏な含みのあるようなお言葉に、いえ、私は大丈夫です、と答えたものの、両隣のお二人がスヤスヤ寝息を立てているのを聞いて眠気が伝染したのでしょう。
 
 行くときに通った、道の両脇から踏切の遮断機みたいな黄色い棒が行く手を塞いでいるところで、五十嵐さまがカードをかざしていたことまではぼんやり覚えているのですが、やがて睡魔に呑み込まれたようでした。