「し、失礼しまーす」
自分の格好が格好ですから、どうしても声は小さくなってしまいます。
リンコさまに軽く背中を押され、そっと楽屋に足を踏み入れました。
「はーい。きたきた。時間通りだね」
明るいお声、たぶんしほりさま、が聞こえ、こちらに背を向けて立ったまま談笑されていた3つの背中が一斉に振り返りました。
私の姿を見た瞬間の、しほりさま、ほのかさま、そして里美さまの呆気に取られたお顔は、今でも忘れられません。
えっ!?という形のままお口をポカンと開けられ、目を見開いて数秒間フリーズしつつ、私の裸を見つめていました。
「まさか、その姿のまんまでマンションから来た、のではないよね?」
フリーズが最初に解けたしほりさまが、ひどく真面目なお顔で尋ねてきました。
「あっ、いえ、これは・・・」
おっぱいと股間を両腕で隠し、ゴニョゴニョと弁明しようとしているところに、リンコさまの快活なお声がかぶさりました。
「あはは。実はねナオコ、じゃなくて小夜さん、チーフたちに服を全部取り上げられたまま部室に残されちゃったわけ。だからさー・・・」
リンコさまが私の隣に並ばれ、嬉しそうにダンボール箱の顛末を面白おかしく、みなさまに説明されました。
楽屋になったお部屋は、いろいろ物があってけっこう狭く、寄って来られたお三人が私を取り囲むようにして、リンコさまのお話に興味津々に頷きながら、チラチラ視線を送ってきます。
股間に添えた手のひらが、ジワジワ熱くなってきていることに気がつきました。
「やっぱり直子さんだったんだ。メイクとウイッグで雰囲気違うから、誰かと思っちゃった」
ベージュのパンツスーツをシックに着こなされた里美さまが少し呆れたようにおっしゃいました。
その好奇に満ちた視線が私の剥き出しの肌を刺してきます。
ほのかさまは、困ったような笑顔を浮かべ、まぶしそうに私の顔ばかり見つめていました。
羞じらいに身を固くしながらも、あらためて楽屋内を見渡してみました。
6帖くらいの長方形な空間の壁際にテーブルが設えられ、その上にしほりさまのメイクアップお道具が整然と並べられています。
その横には今日ご披露するアイテムなのでしょう、衣装がズラリと掛かったハンガーラックとシューズボックス。
奥のほうに三人掛けくらいのソファー、あと折りたたみ椅子が数脚。
スタッフのみなさまの私物らしきバッグやカートがソファーの上に山積みなっていました。
お化粧品の甘い香りが充満した蛍光灯が明るく煌めく室内で、華やかに着飾られた4人に囲まれ、ただひとり全裸の惨めな私。
それは、さっき箱詰めにされたときに浮かんだ妄想とも相俟って、お伽話によくある、これから魔物の生け贄に差し出されるお姫様のような、ひどく切ない気持ちとなり、私の被虐願望を強烈に煽り立ててきました。
みなさまにはすでに、私の全裸姿はおろか性癖までも知られちゃっていますし今更隠しても仕方ないのですが、その屈辱的な状況がとても心地良く、ふしだらなおっぱいとマゾマンコを隠す腕にいっそう力を込めて、羞恥に酔い痴れていました。
「さ、それじゃあメイクの最終チェックをしちゃいましょう。小夜さん、ここに腰掛けて」
しほりさまが壁際の大きな鏡の前にある椅子を指さされました。
「今、社長さんがご挨拶されているから、あと15分ぐらいで出番よ」
しほりさまのその一言で、それまで和やかだった雰囲気がピリッと張り詰めました。
私も急激にドキドキしてきました。
本当に私、これからショーのモデルをして、見知らぬたくさんのお客様に裸同然の姿を視ていただくことになるんだ・・・
両方の乳首にグングン血液が集まってきているのがわかりました。
促されるままに鏡の前に座りました。
「背筋伸ばして、まっすぐ鏡を見ていてね・・・」
それから、しほりさまが鏡越しに私と目が合ったのを確認されてから、ニヤッと笑ってご自分の顎をクイッと前に突き出す仕草。
ああん、しほりさまのイジワル・・・
でもお約束したのだから、その仕草=ご命令をされたら逆らうことは出来ません。
私の両手は、おずおずとおっぱいと股間から離れ、頭の後ろへと。
リンコさまの愉しそうなお顔と、ほのかさまと里美さまの不思議そうなお顔が、正面の鏡の端に映っていました。
もはやおっぱいも股間も隠すことは出来ません。
それどころか、視て、と言わんばかりのおっぱい突き出しポーズ。
鏡の中で自分の大きめな乳首が痛々しいほど背伸びして尖っているのがわかります。
そして背後から鏡の中を覗き込むみなさまの視線が、そこに集中していることも。
「まっすぐ前向いていて。よかった。そんなにメイクは崩れてないわね」
おっしゃりながら、リップやシャドウをチョコチョコっと足してくださるしほりさま。
ほのかさまもブラシで入念にウイッグを整えてくださっています。
鏡の横には、会場の様子が映った大きめのモニター。
薄暗がりの中、スポットにライトに照らしだされた艶やかなお姉さまが、マイク片手に何かお話されている映像が映っていました。
「おっけー。完璧よ。小夜さんは立って。リンちゃん、最初のアイテム着せちゃって」
しほりさまがテキパキとご指示を出され、リンコさまが茶色っぽい布地を持って傍らにやって来ました。
「そう言えば、マエバリは?するんでしょ?」
リンコさまが私に最初のアイテムを着せようとして、ふと思いついたように傍らのほのかさまに尋ねられました。
「あ、それなのですけれど、こちらに来てからのミーティングでチーフが部長たちとお話し合いされて・・・」
「今日は小夜さんがモデルだから、パスティースもマエバリも、しなくていいでしょう、って・・・」
ほのかさまがおっしゃりづらそうに、私の顔と尖った乳首を交互に視ながら、小さなお声でおっしゃいました。
「そのほうが、お客様に与えるインパクトが強くなるし、モデルさん、つまり小夜さんだってノルはず、って、きっぱりと」
「へー。チーフったら、勝負賭けてきたじゃん」
リンコさまが嬉しそうにおっしゃったとき、不意にお部屋一番奥の壁の一部分が開き、盛大な拍手の音が楽屋内に雪崩れ込んできました。
どうやらそこがステージへ出るドアのよう。
つづいて、バッチリメイクをキメたお美しいお姉さまの少し上気されたお顔がひょっこり。
「はあぁぁ、これでお役ご免。あとはゆっくりショーを愉しむだけね」
うっすらと汗の浮いたお顔でニッコリ微笑まれたお姉さま。
「おつかれさまでーす」
「おつかれさまでーす」
お姉さまに向け、口々にご挨拶されるみなさま。
「お、来てたわね、期待のスーパーモデル小夜ちゃん。あとはしっかり頼むわよ」
私だけに向けてニコッと笑って人目も気にせず、まだ全裸のままの私を抱き寄せてギュッとハグしてくださるお姉さま。
パフュームの心地良い香りに包まれ、スーツの布地に剥き出し乳首がザラッと擦られてマゾマンコがキュン。
数秒間の抱擁が解けると、お姉さまが至極真面目なお顔で、みなさまに向けておっしゃいました。
「さあ、このあと司会のふたりがざっと最初のアイテムの説明したら、ショーの始まりよ。準備はいい?」
「あ、はいっ!」
あわてたようにリンコさまが私に最初のアイテムを着せるために私の右腕を取りました。
里美さまはインカムを装着し、ほのかさまはズラリと衣装がぶら下がったハンガーラックへと駆け寄ります。
リンコさまの手でかぶりのワンピースのようなお洋服を着せられながら、傍らのお姉さまからレクチャーを受けました。
「ランウェイは片道だいたい50歩くらい。先端まで行ったら5秒ほどポーズ決めて、回れ右ね」
「戻ったらステージでまたお客様に向けてポーズ決めて、ここに戻る、基本的にそれのくりかえし」
「最初のうち緊張気味だったら、頭からっぽにして歩数だけ数えながら歩くといいわ」
「後半のアイテムは、ステージに戻ってから仕様によってはステージ上に残ることもあるけれど、それは事前にリンコが教えてくれるわ。ステージ上ではアヤに従いなさい」
「朝にも言ったように、モデルは基本高飛車ね。ポーカーフェイスをキープ」
「モデルウォークに関しては、まったく心配していないけれど、照れ笑いとか困惑顔は絶対見せちゃだめよ。あくまでもエレガントにね」
そこまでおっしゃってから、そっと私の耳に唇を寄せてきました。
「思う存分愉しんできなさい。大勢の人前で恥ずかしい姿を晒すの、ちっちゃい頃からの夢だったんでしょ?」
私の耳朶をくすぐるお姉さまのヒソヒソなイジワル声。
「顔にさえ出さなければ、どんどん感じちゃっていいわよ。直子がずっと溜め込んでいたヘンタイ性癖を今日のお客様に見せつけてやりなさい」
「日曜日には直子の部屋で、ふたりきりでたっぷり反省会してあげる」
コショコショっと早口でおっしゃって、唇が離れました。
「営業部のがんばりのおかげで、今日は今までで一番たくさんお客様が来てくだっさったし、絶対成功させましょう」
普通のお声にお戻りになったお姉さまが、みなさまにお聞かせするようにおっしゃいました。
「はいっ!」
綺麗で力強いユニゾンが楽屋に響きました。
「あたしはミサのところで見てるから、何か急な連絡があったら里美、イヤモニで呼んで」
「はい。了解です」
里美さまのお答えに頷かれてから、さっき私たちが入ってきたドアの向こうへと、お姉さまが消えました。
ドアを閉じる前、
「頼んだわよ、夕張小夜さん?あたしを悦ばせてね」
というお言葉とウインクをひとつ残して。
私は、いつの間にか最初のアイテムを着せられていました。
それは、グリーンと茶色をベースにしたアーシーな色合いのワンピースでした。
か細い糸を幾重にも織り込んだ薄手のとても軽い生地で、丈も長いストンとしたシルエット。
アジアの暑い国のほうっぽいエスニックなデザインで、シックな感じ。
今日のイベントのアイテムはキワドイキワドイって、今までさんざんみなさまから吹きこまれていたので、ちょっと拍子抜けでした。
ノースリーブの脇が大きめに開いていて横から中が覗けちゃいそうな感じな以外、さほどセクシーな印象はありません。
素肌に直で着て生地が柔らかいため、私の尖ったバストトップはあからさまに浮き出ているのは恥ずかしいけれど。
確かに素肌にこれだけ着て街中を歩け、と言われたら躊躇してしまうでしょうが、すごく久しぶりにようやく全裸の状態を隠すことが出来たので、なんだかホッとさえしていました。
「そろそろ出番です」
ラップトップのパソコンに向かっていた里美さまがこちらを振り向き、おっしゃいました。
ドキン、と心臓が跳ね上がります。
リンコさまに手を引かれ、先ほどお姉さまが入ってこられたステージへと向かうドアの前に導かれました。
「このアイテムは裸足のままで。裾をひるがえす感じで颯爽と歩いて。足の裏、汚れていない?」
すかさずほのかさまが濡れタオルを持ってきてくださり、ひざまずいて私の両足を拭いてくださいました。
「そのドアを出るとステージ下手に出るの。司会の演壇は上手。出てすぐはカーテンで隠れているから客席からは見えない」
「ステージに出たら、モデルウォーク開始ね、中央にランウェイに降りる階段が三段あるから、そこまで進んで階段降りて、そのままランウェイを端まで直進ね。出てもお辞儀とか一切しなくていいから」
リンコさまが真剣なお顔で注意事項をレクチャーしてくださいます。
「端まで行ったら場内が暗転してスポットが当たるから、少し歩調を緩めて戻ってきて」
「ステージに戻ったら、中央付近で一度、お客様のほうに向き直してポーズ。そうね、右手を脇腹に当ててちょっと気取る感じ」
「スポットライトが司会のふたりに移ったところで退場。お辞儀は無しでスタスタと。すぐに次のに着替えるから」
「は、はい。わかりました」
お答えしながら、どんどんどんどん、ドキドキが高まってきました。
いよいよショーモデルデビューです。
最初のアイテムは、脇からおっぱいが覗いちゃいそうな以外、無難なワンピース。
でも、それは最初だからで、きっとこれからどんどんキワドクなっていくはずです。
午前中に見せていただいたイベントパンフレットに載っていたアイテムたちを思い出そうとしてみますが、自分が着て人前に出たら恥ずかしさでおかしくなってしまいそうなアイテムばかりだった、ということ以外、具体的なことはまったく思い出せませんでした。
もしも思い出せたとしても、もはや逃げられません。
イベントはすでに始まっていて、私には、お客様がたの前にそれらを着て出つづけることしか選択肢は無いのです。
私がどんなに恥ずかしい思いをして、辱められ蔑まれたり嘲られても、それは私の望んだこと。
そうすることによって、愛するお姉さまに悦んでいただけるのですから、覚悟を決めるしかありません。
「スタンバってください」
里美さまのお声。
ほのかさまがドアをそっと開け、私はドアのすぐ前に立たされました。
早いビートのダンスミュージックぽい音楽が大きめなボリュームで聞こえています。
「緊張してる?大丈夫。リラックスしてがんばって」
リンコさまが私の右手をギュッと握っておっしゃってくださいました。
それからイタズラっ子のようなお顔になり、
「暗転してスポットライトが当たった後、どんな状態になってもあわてちゃだめよ。スーパーモデルはポーカーフェイス。忘れないで、ね?」
ニッとイタズラっぽく笑いかけるリンコさまに背中を押され、ステージ上に一歩、足を踏み出しました。
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*オートクチュールのはずなのに 52へ
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いつも楽しく読ませていただいてます。いよいよ本題?に入りましたね。これからすごく楽しみです。
返信削除毎週楽しみにしているのですが直子さん忙しいみたいでアップ率が下がっているのでガッカリすることシバシバです。ごめんなさいクレームではないですので…。身体に気を付けてこれからも恥ずかしい話をどんどんお願いします!!
けんけんさま
返信削除コメントありがとうございます。
私のつたないお話を愉しみにしてくださって、とても嬉しいです。
なるべくご期待に沿えるよう更新がんばりますので、どうかお時間のあるときに覗きにいらっしゃってくださいませ。
直子