エントランスホールには誰もいませんでした。
柏木のおばさまに帰ってきたことを一応ご報告しておこうと、管理人室のインタフォンのボタンを押しました。
「はーい」
「あ、森下です。今戻りましたので、荷物をお部屋にいったん置いてからまた・・・」
言っているあいだに、柏木のおばさまがエントランスに出ていらっしゃいました。
「おかえりなさい。意外と早かったわね」
私のものであろう大きなダンボール箱を両手で抱えた柏木のおばさまが、ニッコリ笑いかけてくれます。
「ありがとうございます。いったん荷物を置いてからまた降りてきますので、それはそのへんに置いておいてください」
「あら、直子ちゃん、両手が塞がっているのね。だったらおばさんが一緒にお部屋まで持って行ってあげるわよ」
おばさまがそう言って、スタスタとエレベーターのほうへ歩いていってしまいました。
「あっ、ありがとうございます。お手数おかけしてごめんなさい」
「いいの、いいの、ヒマだから」
狭いエレベーターの中でおばさまとふたりきり。
今自分がしていることに負い目があるので、すっごく緊張してしまいます。
「やっぱり今の季節じゃまだ、そういうコートだと少し暑いのかしらね?直子ちゃん、お顔が火照っているわよ?」
「は、はい・・・けっこう歩いたので、ちょっと疲れちゃったみたいかな・・・」
ドキドキしながら答えます。
「あら?あそこの商店街まで行ってきたのね?」
私が肩に提げたトートバッグから覗いている、お肉屋さんの包み紙に目をやるおばさま。
「はい。以前お散歩していてみつけて、今日、ふと行ってみようかなって・・・」
マンションの門をくぐる前に、お薬屋さんの包みはバッグの奥底にしまい、から揚げの包みを一番上にしておいたんです。
エレベーターが私のフロアに着きました。
「わたしもたまに行くわよ。やっぱり自家製、作りたては美味しいものね。そういう揚げ物とかパンとか」
「あそこはとても古くからあって、昔はもっと賑わっていたのよ。お店も今の倍以上あって、わたしもその頃は、ちょっと遠いけれどよく行っていたの」
「今は高齢化と再開発で、閉めちゃったお店のほうが目立つけれどね。わたしが子供の頃からだもの」
「うちもここに住んで長いから、お知り合いもいっぱいいるのよ。そのお肉屋さんとも顔なじみよ」
私のお部屋のドアまで歩きながら、おばさまが懐かしそうにおっしゃいました。
私は、柏木のおばさまが、あのお薬屋さんのおばさまともお知り合いなのかどうか、聞いてみたくて仕方ありませんでした。
でも、脈絡なく突然そんなことを聞くのは絶対ヘン。
逆に、なぜだか尋ねられて、やぶへびになっちゃいそうなのでやめました。
「そのから揚げも絶対美味しいから、また、たまに買いに行ってあげてね」
おばさまが我が事のようにお肉屋さんの応援をして微笑みます。
「はい。あっ、荷物はそこに置いてください。後は自分でやりますから」
「そうね。よいしょっと。それじゃあまたね」
「わざわざありがとうございました」
「ううん。いいのよ。何かあったらまたいつでも言ってね」
ドア脇の棚の花瓶に活けたセイタカアワダチソウの束をちょいちょいと直してから、おばさまは優雅に会釈してエレベーターのほうへと戻っていかれました。
お辞儀をした頭を下げたまま、おばさまの背中をお見送りします。
おばさまがエレベーターの中へ消え、扉が閉じるとすぐに、エレベーターのほうに駆け出しました。
エレベーターの表示が3、2、1と変化して、1のまま動かなくなったのをしっかり確認してから、コートのボタンをはずし始めました。
お部屋のドア前に戻るまでに、一番下までボタンをはずし終えました。
コートの前を開いて、自分の裸を覗き込みます。
全身が満遍なくじっとりと汗ばみ、淡いピンク色に上気しています。
左右の乳首は、これでもかというくらいに背伸びして、その存在を誇示しています。
両脚の付け根付近は、ぱっと見でもわかるくらいテラテラと濡れそぼっています。
欲情している女のからだ、そのもの。
ゆっくりと両腕を袖から抜き、コートを脱ぎました。
脱いだコートを軽くたたんで、おばさまに運んでいただいたダンボール箱の上に置き、その場にしゃがんでショートブーツを脱ぎ始めます。
しゃがんだ途端に、通路の床にポタリとおツユが垂れました。
今日履いていたショートブーツは、ブーツの筒部分と足との隙間に余裕があるデザインだったので、腿から滑り落ちたいやらしいおツユは、みんなふくらはぎを伝ってブーツの中に消えていました。
そんなブーツの中は、まるで雨の日に誤って水溜りにはまってしまったように、左右ともじっとりと濡れていました。
裸コートになってお外を歩いているあいだに、こんなにもえっちなおツユを垂れ流していたんだ・・・
今更ながら、強烈な恥ずかしさがこみ上げてきました。
ブーツを両足とも脱ぎ終えたら、完全な全裸です。
これでお部屋に入れます。
通路のグレイな大理石風タイルの上を裸足で歩くと、濡れた裸足の足跡がうっすらと残ります。
このブーツ、よく洗ってからじゃないと履けないな・・・もしも臭っちゃったらどうしよう・・・
そんなことを考えながら、玄関の鍵を開けました。
夕方5時前。
薄暗い玄関の電気を点けました。
同時に目に飛び込んできたのは、鏡に映った自分の姿。
今、お外からお部屋に戻ってきたばかりなのに、なぜだか全裸な私。
まるで全裸のままお外を歩いてきたみたい。
鏡に映っている自分の顔は、私がよく知っている、えっちなことで頭がいっぱいになっているときの、トロンとした目で口許に締まりの無い、いやらしい私の顔でした。
今すぐにでも、全身をまさぐって気持ち良くなりたい欲求を懸命にがまんして、買ってきたものを所定の場所にしまいました。
実家からの荷物は、開けもせずそのままウォークインクロゼットへ。
ブーツは、中を乾拭きしてから除菌消臭スプレーをして窓際に日陰干し、コートも裏返しにしてサンルームの窓際に吊るしました。
そんな作業をしているあいだも、乳首はずっと尖ったまま。
早くさわって、って私を急かします。
ちょっとつまんでみたくなる気持ちを必死にこらえて、片づけを終えました。
汗ばんだからだにシャワーを浴びたい感じもありましたが、とりあえず一度慰めてから、ゆっくり浴びることにして、すぐさま快楽への準備に移りました。
ベッドルームに行き、ローソクプレイのときに使ったレジャーシートと他数点のお道具を取り出して、サンルームに向かいました。
お外が暗くなると窓全面が鏡張りになる、マジックミラーのサンルーム。
今回は久しぶりに、ここでしてみるつもりでした。
もちろん、この時間帯に中で電気を点けると、お外からは素通し丸見えになっちゃうことは知っています。
でも、よほど私が窓際に近づかない限り、中で何をしているのかがわかるような建物は、近くに無いことも確認していました。
これからする行為は、鏡があるほうが都合がいいし、ずっと寝そべっていれば遠くのビルからでも見えないだろうし。
裸コートをしたためなのか、すっごく気持ちが大胆になっていました。
それに、ここのほうがリビングよりおトイレに近いし・・・
ところどころに赤いローソク痕がこびりついている銀色のレジャーシートを、サンルームの入口付近に敷きました。
ここからおトイレまでは、直線で5メートルくらい。
サンルームのドアもおトイレのドアも開け放しておきます。
それから、お外の地面が駐車場なバルコニーに面した側の大きな窓にかかるブラインドを、次々に開いていきました。
鏡と化した大きな窓ガラスが、私の全裸な全身を映し出しました。
もしも今、バルコニーに誰かいたら、オールヌードの私がガラス越しの至近距離で、暗闇に煌々と浮かび上がって見えているはず。
そう考えただけで、キュンキュン感じてきちゃいます。
レジャーシートを少し窓のほうに寄せ、窓にお尻を向けて四つん這いになってみます。
大丈夫。
ちゃんとお尻が映ってる。
位置が決まって、その手元となるあたりに準備したお道具を並べました。
今日買ったお浣腸のお薬、ベビーオイル、バスタオル、お水を溜めたバスボウル、念のための木製洗濯バサミ数個とピンクローター。
そう。
これから私は、あのお薬屋さんのおばさまからお浣腸をされる妄想で、シミュレーションオナニーをしてみるつもりなのです。
両手に極薄の白っぽいゴム手袋をはめます。
看護婦だったというあのおばさまなら、絶対そうするはず、と思って用意したものでした。
この手袋をして自分のからだをさわると、自分の手でさわられているのではないような感触がして、好きなグッズのひとつでした。
その手で、今日買ったベビーオイルを開けました。
おばさまにお浣腸していただくなら、やっぱり四つん這いだろうな。
スカートを捲り上げられるのと、ズボンを下ろすのとでは、どっちがより恥ずかしいだろう?
そうだ、オールインワンのサロペットやコンビネゾンを着ていけば、上半身もろとも脱がなきゃいけなくなっちゃう。
そういうのもいいかな?
でも、お浣腸してもらおうって訪問してるのに、そんなややこしい服を着てくるのは、ちょっとわざとらし過ぎるかも。
どうするか、行くときまでに服装をちゃんと真剣に考えたほうがいいな・・・
銀色のレジャーシートの上で実際に四つん這いになってから、ベビーオイルをゴム手袋の右手のひらにたっぷり垂らしました。
それから下着を取られて、最初は肛門の消毒かな?
それからオイルでマッサージ。
おばさま、どんなふうにマッサージしてくれるだろう?
四つん這いのまま右手を背中からお尻に回し、穴のあたりをオイルまみれにしました。
あっ、その前に、私のその周辺に毛が無いこと、絶対聞かれるだろうな。
今はとくに、入念にお手入れしちゃった直後で、まったく無い状態だからなー。
何て答えようか?
生まれつき薄いからかっこ悪いと思って、いっそのこと、って思って全部剃っちゃいました、で、ご納得してくださるかな?
看護婦さんなら、そういうのも見慣れているだろうし、あら、そうなの、って、あっさり流してくれるといいな・・・
そんなことを考えながら、お尻の穴を中心に周辺を右手でヌルヌル愛撫しています。
指先が肛門に触れると、肛門がヒクっとすぼまるのがわかります。
お浣腸器を挿れやすくするためのマッサージなのだから、滑りをよくするために、当然おばさまの指が穴に、アナルに入ってくるのだろうな。
どんな感じなんだろう?
自分でお尻に手をやって、広げたほうがいいのかな?
昔、やよい先生にタンポンを突っ込まれたことがあったけれど、アナルに何か挿れるなんて、あれ以来かな。
そう言えばアナルって、響きがなんともいやらしい感じだな。
そうそう、アヌスっていう言葉もいやらしい・・・
頭の中の妄想を具現化するように、私の右手人差し指がそろそろと、肛門の中に進入してきました。
「んっ!」
ヌルヌルしているから別に痛くは無く、むしろ、むず痒い官能にゾクゾクしていました。
指が少しづつ、より深く前進するたびに、肛門がキュッと締まるのがわかります。
「んんーっ」
埋まった指を中で少し動かすと、下半身全体がモゾモゾ悶えてしまいます。
考えてみると私は今まで、さほど積極的に自分のアナルを虐めたことはありませんでした。
お浣腸のほかは、ローターを当てて震わせたりがせいぜい。
やよい先生のタンポン挿入が一番ハードな責めだったかもしれません。
やっぱり、そこから出てくるもの、に対する禁忌感、嫌悪感が大きかったのだと思います。
だけど今、なんだかすごく気持ちいい。
人差し指は、第二間接くらいまで埋まっていました。
指先をクイクイ動かすたびに新鮮な官能を感じていました。
「んあんっ、んーぅんっ」
やだっ、私ったら、ここでこれに目覚めちゃったら、おばさまとの本番でもマッサージだけであんあん喘いじゃいそう・・・
気持ちはいいのですが、四つん這いという格好に無理がありました。
これだと疲れるし、右手しか使えないし、鏡を見るにも首を大きく捻らなければなりません。
そこでいったん手を止めて、別の体勢になることにしました。
おばさまがおっしゃっていた、もっとも恥ずかしいお浣腸の体勢。
でんぐり返しの途中みたいな、赤ちゃんがオムツを取り替えるときのような格好。
窓に足を向けて仰向けになった私は、そのまま両脚を大きく開いて自分の肩のほうにぐるんと跳ね上げ、代わりに上体を少し起こしました。
後転の途中みたいな格好、と言うよりも、俗に言うまんぐり返しの格好、と言ったほうがわかりやすいでしょう。
からだが柔らかい私は、この姿勢になると自分の目で、自分のアソコもお尻の穴もほぼ正面から目視することが出来ました。
ああんっ!なんて恥ずかしい格好・・・
そしてもちろん、窓である鏡にも自分の姿がバッチリ映っていて、突き出したお尻越しに鏡の中の自分とバッチリ目が合っちゃいました。
もしもこの姿勢でおばさまからお浣腸を受けたなら、私は始終おばさまとお顔を合わせたまま、束の間の恥辱に耐えなければならなくなるのです。
こんな姿勢だと、私の開いたアソコからとめどなく溢れ出るいやらしいおツユを、おばさまの目から隠すことも出来ません。
お浣腸されながら愛液を垂らす女・・・
さすがの純粋なおばさままも、私のそんな姿を見たら、この女は淫乱な変態娘だ、と思い知ることになるでしょう。
それはたぶん、私の身の破滅、でもやってみたい・・・
そんな妄想にいてもたってもいられなくなり、自由な両手が私の下半身に伸びていきました。
左手は性器、右手はアナル。
そのとき何を思ったのか、右手をお尻に伸ばす前に何の気なしに自分の鼻先に持ってきて、人差し指の匂いを嗅いでしまいました。
手袋のゴムのケミカルな匂いに混じった、形容し難い、ケダモノじみたお下品な匂い。
匂いと書くより臭いと書くべき、はしたない臭い。
それを嗅いだ瞬間、私の中で何かがバチンと、音をたてて弾け跳びました。
*
*コートを脱いで昼食を 10へ
*
直子のブログへお越しいただきまして、ありがとうございます。ここには、私が今までに体験してきた性的なあれこれを、私が私自身の思い出のために、つたない文章で書きとめておいたノートから載せていくつもりです。
2013年9月14日
2013年9月8日
コートを脱いで昼食を 08
その人は、私の姿を見て一瞬、ギクリと立ち止まりましたが、すぐに艶やかな笑顔を向けてきました。
「あらあ、お客さんがいらしてたのね。ごめんなさいね。大きな声出しちゃって」
妖艶に微笑むその人は、お顔立ちもいでたちも全体的に派手めで肉感的な女性でした。
幾重にもウエーブした豊かな髪を頭の上に盛り上げ、なぜだか目の周りだけ入念にお化粧しています。
そのせいか、綺麗だけれど、気の強そうなお顔立ちに見えました。
青いハイネックのピッタリとした長めニットの上に、全体的に銀色な、ヒラヒラがいっぱい付いたショールを軽く羽織り、下はレギンス。
「これからお店?」
「そうなんだけどさ、お化粧してたら突然、アレをきらしてることを思い出してさ、あわてて取りにきたってワケ」
私に軽く会釈をしてから、おばさまのご質問に明るいお声で答えるその人。
私も会釈を返しながら、その人をそっと上目遣いに観察します。
お年は・・・ちょっとわからない。
白衣のおばさまよりはお若いと思うけれど、30代か40代か・・・
何て言うか、女ざかり、っていう雰囲気で、からだ全体から、お色気、みたいなものが滲み出ている感じ。
そう思ったのは、その人の全身から盛大に香っている、ローズ系の甘いパフュームのせいも多分にあるとは思います。
「この人はね、西口のお店でチーママやってらっしゃるの。クラブのね」
白衣のおばさまが教えてくれます。
「あっ、クラブって言っても、若い子が集まる踊れるほうのじゃないわよ。中年の殿方が鼻の下伸ばして通ってくる、いわゆるナイトクラブのほうね」
その女性がすかさず冗談ぽく訂正をいれてくれました。
ああ、夜のお仕事の人なんだ、なるほど。
「そう。だからお嬢ちゃんには、ぜんぜん縁の無いお店だけれどね」
「そんなことないわよ」
白衣のおばさまの私に向けたお言葉を、チーママさんが即座に否定しました。
「働くって手があるもの。あなただったらすぐに、いいお客さんがつきそう」
私の全身を上から下まで舐めるように見た後、ニコッと微笑みます。
「あなた今バイトとかしてる?お金に困ってない?カレシはいるの?そのコートいい色ね?」
「あっ、あの、えっと・・・」
チーママさんの脈絡の無い矢継ぎ早のご質問についていけないでいると、おばさまが助け舟を出してくださいました。
「こらこら。うちの大切なお客さんを悪の道に引きずり込まないでちょうだい。このお嬢ちゃんは真面目な大学生さんなんだから」
「あらあ、悪の道なんて失礼ね。水商売はヘンなバイトよりも断然、お金が溜まるし社会勉強にもなるのよ?」
「前に働いていた子なんて、お店でいいお財布みつけて、オーストラリアに留学しちゃったんだから。それに・・・」
おばさまとチーママさんの、冗談とも本気ともつかない言い争いをドキドキしながら聞いていたら、不意にチーママさんが沈黙しました。
視線が一点をじっと見つめています。
その視線をたどると・・・
「スゴイものが置いてあるわねえ・・・」
チーママさんの目は、ガラスケースの上で白い箱の中に横たわるガラスの浣腸器を凝視していました。
それに気づいた私は、なぜだかピクンと小さく震えてしまいました。
「ああ、それはね、このお嬢ちゃんがお通じの悩みでいらっしゃってね」
「ほら、そういうのって恥ずかしいじゃない?だからわざわざ遠くからうちのお店まで来てくださったのよ」
「それでいろいろご説明していたの、やりかたとか」
おばさまったら、何もそんなに詳しくご説明なさらなくても・・・
「えっ!ていうことは、これ、こちらさんが、あなたが買うの?」
チーママさんが驚いたお顔で、浣腸器と私を交互に見ています。
私も、えっ!?ていう顔をしていたはず。
確かに欲しいとは思っていたし、今度来たときおばさまがこれを使ってくださる、っておっしゃったから、私のもののようなものでもあるけれど、でも・・・
言い訳にもならないことをくどくど考えながら顔だけが熱くなって、何も言えない私。
再びおばさまに助けられました。
「まさかー。お嬢ちゃんが買ったのはお薬よ。これはお話しの流れでお見せしていただけ」
「なるほどねー。納得。シモの悩みは恥ずかしいからねー。ワタシも若い頃、買うの恥ずかしいもの、いくつかあったっけなー」
チーママさんが束の間、遠い目をされてから、再び私の全身をしげしげ眺め、ニッと笑いました
「それならさ、あなた、恥ずかしいついでに買いにくいもの、みんなここで買ってっちゃえば?たとえばコンドームとかさ」
「えっ?そ、それは別に・・・」
「あれ?あなた、カレシいないの?」
「は、はい・・・そういうのは、まだ・・・」
「えー?おっかしいーなー。あなた、若くて可愛らしい感じなワリに、ヘンに色っぽいフェロモンみたいのが漂っているから、絶対オトコいると思ったんだけどなー」
チーママさんがニヤニヤ笑っています。
「そっかー。カレシもいないのにコンドームだけ準備してるオンナってのも、ちょっと切ないわね。それならさ水虫はどう?あれも買いにくいわよね?大丈夫?」
私は、からかわれているんだと思いました。
それで、ちょっとムッとした顔になっていたかもしれません。
「ほらほら、またうちのお客さんイジメてー。だめよー?このお嬢ちゃんは、まだこっち来て半年くらいなんだから。あんまりいじくりまわさないでちょうだい」
「お嬢ちゃんごめんなさいね?この人いつもこんな調子なの。口は悪いけれど悪気はないから許してね?」
おばさまのフォローに少しホッとして、チーママさんにお愛想笑いを向けながら、
「み、水虫は、なってないから、大丈夫です」
とお答えしました。
チーママさんが、あはは、と笑ってから再び浣腸器に目を向けました。
「でもさ、世の中にはこういうものを、けしからんことに使う輩もいるのよね」
チーママさんがおばさまに向けて話題を振りました。
私は、お店を出るきっかけを探しつつも、チーママさんの振った話題に惹かれてしまいます。
「ああ。エスエムっていうのでしょ?女の子を縛り付けて無理矢理、みたいな」
お上品なおばさまのお口から、意外な単語が飛び出しました。
「そうそう。あの手が好きな人たちにとっては、こういう浣腸器って、それ用のえっちな道具のひとつなのよね」
「まったく。他人が排泄してるの見て、何が楽しいのかしら?」
おばさまが真剣に憤ってらっしゃいます。
「まあ、俗に言う変態っていうやつよね。うちの店にもそういう話題が大好きな客がひとりいてさ、来るたびにその手のことばっかり言ってたから、女の子が席に着きたがらなくて、そのうち来なくなっちゃった」
おばさまとチーママさん、ふたりで、あはは、と笑っています。
「でもさ、オンナの恥ずかしがる姿を見て悦ぶオトコってけっこういるのよ。恥ずかしさって、えっちな気分と直結してるっていうかさ」
そこで、チーママさんがなぜだか私をチラッと見ました。
それに気がついて、私の心臓がドキン。
「恥ずかしがる姿を見て悦ぶオトコの変態が、オンナの子の両脚を大きく広げたまま縛り付けてみたり、無理やり浣腸して人前で漏らさせたりするんだけどさ」
「同じように、そういう姿を見られて興奮する人、っていうのも、この世にいるのよ」
「つまりね、オンナの変態っていうのも、世の中には意外といるみたい」
チーママさんのひそめたお声を、おばさまが、あらまあ、というお顔で真剣に聞いています。
もちろん私もドキドキしながら耳をそばだてています。
「これは別のお客さんの話なんだけどね・・・」
「その人の以前のカノジョっていうのが、そういう類のオンナだったらしくてさ」
「普通の内気そうなOLさんで、そこそこ美人だったらしいんだけど、ふたりでハワイに海水浴にいったとき、すごいキワドイ水着持ってきてたんだって」
「もうえっちも済ませてて、それが最初からすごく激しかったし、辱めれば辱めるほど乱れちゃうみたいな兆候もあったんで、ひょっとしてと思って聞いたら、白状したそうなの」
「やっぱりそうだったんだって。いわゆる露出狂ってやつね」
「どうもその前のオトコに仕込まれちゃったらしくてさ、そのお客さんも、その手が好きなほうだったから、それからはもういろんなこと、シタそうよ」
「ドライブのときは助手席でオッパイ丸出し。観覧車で裸にしてみたり、シースルーで買い物させたり、覗きで有名な公園でシタり」
「デート、イコール、そのオンナの屋外露出調教散歩みたいな感じだったそうよ」
「脱げ、って言われた途端に目がウルウルしちゃうんだって。そのオンナ。それも人の目があればあるほど」
「しばらくは楽しかったんだけれど、そのうち不安になってきたんだってさ」
「このオンナ、別に俺じゃなくても、誰に言われても、その場で服脱ぐんじゃないか、って」
「縛った覚えが無いのに肌に縄の痕がついていたことがあったんで問い詰めたら、ひとりで全身ロープで縛って、コートひとつで深夜のコンビニとかにお散歩にも行ってたんだって」
「まあ、セフレならいいけど、真剣にはつきあえないわよね、そんなオンナ」
「だから、適当に遊んで、そのうち会わなくなっちゃったらしいわ」
それでチーママさんのお話は終わりのようでした。
私の全身はカッカと火照り、同時に今すぐにこの場から逃げ出したいような居心地の悪さを感じていました。
ひょっとして私、チーママさんから見透かされている?
さっき私をチラッと見て以来、一度もこちらにお顔を向けなかったチーママさんが振り返り、まっすぐに私を見て、こうつづけました。
「だからあなた、オトコには充分気をつけなさい。ロクでもないオトコに捕まったら、あなたもヘンな道に目覚めちゃうかもしれないから、ね?」
冗談めかした感じでそう言って、あはは、って笑いますが、その目だけは笑っていないように見えました。
て言うか、シーナさまと同じ、冷たいエスの目。
私に対してのご忠告も、さっきのお話からは、ぜんぜん脈絡のない結論です。
やっぱり、チーママさん、ある程度私の性癖に勘付いている・・・
それで、言葉責めして、愉しんでいる・・・
「・・・は、はい・・・」
私はチーママさんから目をそらし、うつむいて答えました。
トゥルル、トゥルル・・・
そのとき、お店の奥の電話が鳴りました。
「あっ、はい、はいー」
白衣のおばさまが、あわててお店の奥に駆けていきました。
レジの前に私とチーママさんだけ、取り残されました。
チーママさんは、私のほうは見ず、浣腸器のガラスの表面を指で撫ぜています。
「そっか。これからあなたは、お家に帰ってひとりで、浣腸するんだ?」
チーママさんがそのままの体勢で、独り言みたいにポツンと言いました。
「えっ?あっ、えっと・・・」
私は、そのお言葉にビクンとして、ドキンとして、キュンとして・・・
「そうよね?これからお家に帰って、ひとりでお尻を出して、浣腸するのよね?」
浣腸器から指を離し、こちらを向いたチーママさんの目が、イジワルく私を見つめています。
「・・・は、はい・・・」
チーママさんの目から、今度は目をそらすことが出来ず、見つめたままやっとお返事をしました。
チーママさんが私の傍らにそっと寄ってきました。
「そう。まあいろいろと、がんばりなさい、ね?」
私の耳元に唇を寄せて低い声で囁いてから、私の右肩を軽くポンと叩きました。
その低くてセクシーなお声にゾクゾクしつつ、コートの下で裸のおっぱいがプルン、内腿をおツユがツツツー。
「ごめんなさいね。お得意さまからだったわー」
電話を終えたおばさまが、あたふたとレジ前に戻ってらっしゃいました。
「あらー、もうこんな時間。早く帰ってお化粧のつづきしなくちゃー」
チーママさんがわざとらしく腕時計を見て、大きなお声をあげました。
「それじゃあこれは、もらっていくわね。お代は月末にまとめてねー」
それからもう一度私を見て、ニヤッと笑いました。
浣腸器の横に置かれた、チーママさんのために用意された紙袋を取るとき、チーママさんの右肘が私の胸をコートの上から思い切り擦りました。
コートの中でおっぱいがグニュッとひしゃげるくらい。
ワザとだと思いました。
なんとなく、チーママさんが何かしてくると予期していたので、グッと唇を噛んで、なんとかいやらしい声をあげずにすみました。
「それじゃあまたねー」
「はーい、毎度ありがとうございましたー」
「そっちのカノジョも、縁があったらまたお話ししましょうねー、お大事にねー」
「お嬢ちゃんもまた来るって言ってるから、またきっと会えるわよー」
「それじゃーねー」
来たときと同じような、おばさまとチーママさんの大きめなお声の応酬が、ガラガラッという引き戸を開ける音とバシッという閉じた音を合図に、終わりました。
「ごめんなさいねー。夜のお仕事の人とのおしゃべりだと、いつの間にか話題がお下品になっちゃって」
「いいえ。大丈夫です。何て言うか、派手なかたでしたね?」
「そうね。けっこうお高いお店に勤めているみたいだし、お住まいもほら、地下鉄の駅の近くの高層マンションらしいから」
「へー」
「なぜだかうちでいろいろ買ってくれる、いいお客さんなのよ」
「そうでしたか・・・お話、楽しかったです。それでは私もそろそろ・・・」
「あっ、そうね。ごめんなさいね。長いあいだお引止めしちゃって」
「いえいえ。今日はありがとうございました」
私が買ったものを入れた手提げ袋をおばさまから受け取り、出て行こうとしたとき、
「あっ、そうだ。お嬢ちゃん、本当にカレシ、いないの?」
背後からまた、お声がかかりました。
「あ、はい。本当ですけれど・・・」
出口に向って2、3歩踏み出していた私は、立ち止まり振り返ります。
「それだったら、うちの息子どうだろう、って思ってね。今、医大に通ってるの、北海道だけど」
「えっ、あっ、いえ、それは・・・」
あまりの想定外なご提案にあたふたしてしまう私。
「あっ、ごめんなさい。わたしったらまた不躾なことを・・・」
困惑している私を見て、おばさまもまたあたふたしてしまい、すぐに自らご提案を却下。
「会ったこともない相手に、どうもこうもないわよね。ごめんなさい今のは忘れて、ね?」
「それはそれとして、いつでもいらっしゃいね?恥ずかしがらずに」
「いつでもしてあげるから、遠慮なさらずにいらしてね。これも消毒しておくから」
「あっ、はい。ありがとうございます。そのときはよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げながらも、またもや内腿が濡れていました。
逃げるようにお薬屋さんを出て、走るように我が家を目指しました。
一刻も早くひとりになって、今日あったことを整理したいと思っていました。
会う人みんなにいろんなことを言われ、それがいちいちいやらしいことに結びついてしまって、下半身のウズウズが暴発寸前でした。
歩きながら、魔除けのおまじないを、両耳に突っ込みました。
もう誰ともお話したくありませんでした。
あっ、そうだった。
お部屋に入る前にもう一度、柏木のおばさまと会話をしなければならないんだった。
今の私のいでたちがあまりお買物帰りに見えない気がして、自宅のそばのドラッグストアでボックスティッシュとトイレットペーパーのパックを無言のまま買い、それを両手にぶら下げてマンション入口のアーチをくぐりました。
*
*コートを脱いで昼食を 09へ
*
「あらあ、お客さんがいらしてたのね。ごめんなさいね。大きな声出しちゃって」
妖艶に微笑むその人は、お顔立ちもいでたちも全体的に派手めで肉感的な女性でした。
幾重にもウエーブした豊かな髪を頭の上に盛り上げ、なぜだか目の周りだけ入念にお化粧しています。
そのせいか、綺麗だけれど、気の強そうなお顔立ちに見えました。
青いハイネックのピッタリとした長めニットの上に、全体的に銀色な、ヒラヒラがいっぱい付いたショールを軽く羽織り、下はレギンス。
「これからお店?」
「そうなんだけどさ、お化粧してたら突然、アレをきらしてることを思い出してさ、あわてて取りにきたってワケ」
私に軽く会釈をしてから、おばさまのご質問に明るいお声で答えるその人。
私も会釈を返しながら、その人をそっと上目遣いに観察します。
お年は・・・ちょっとわからない。
白衣のおばさまよりはお若いと思うけれど、30代か40代か・・・
何て言うか、女ざかり、っていう雰囲気で、からだ全体から、お色気、みたいなものが滲み出ている感じ。
そう思ったのは、その人の全身から盛大に香っている、ローズ系の甘いパフュームのせいも多分にあるとは思います。
「この人はね、西口のお店でチーママやってらっしゃるの。クラブのね」
白衣のおばさまが教えてくれます。
「あっ、クラブって言っても、若い子が集まる踊れるほうのじゃないわよ。中年の殿方が鼻の下伸ばして通ってくる、いわゆるナイトクラブのほうね」
その女性がすかさず冗談ぽく訂正をいれてくれました。
ああ、夜のお仕事の人なんだ、なるほど。
「そう。だからお嬢ちゃんには、ぜんぜん縁の無いお店だけれどね」
「そんなことないわよ」
白衣のおばさまの私に向けたお言葉を、チーママさんが即座に否定しました。
「働くって手があるもの。あなただったらすぐに、いいお客さんがつきそう」
私の全身を上から下まで舐めるように見た後、ニコッと微笑みます。
「あなた今バイトとかしてる?お金に困ってない?カレシはいるの?そのコートいい色ね?」
「あっ、あの、えっと・・・」
チーママさんの脈絡の無い矢継ぎ早のご質問についていけないでいると、おばさまが助け舟を出してくださいました。
「こらこら。うちの大切なお客さんを悪の道に引きずり込まないでちょうだい。このお嬢ちゃんは真面目な大学生さんなんだから」
「あらあ、悪の道なんて失礼ね。水商売はヘンなバイトよりも断然、お金が溜まるし社会勉強にもなるのよ?」
「前に働いていた子なんて、お店でいいお財布みつけて、オーストラリアに留学しちゃったんだから。それに・・・」
おばさまとチーママさんの、冗談とも本気ともつかない言い争いをドキドキしながら聞いていたら、不意にチーママさんが沈黙しました。
視線が一点をじっと見つめています。
その視線をたどると・・・
「スゴイものが置いてあるわねえ・・・」
チーママさんの目は、ガラスケースの上で白い箱の中に横たわるガラスの浣腸器を凝視していました。
それに気づいた私は、なぜだかピクンと小さく震えてしまいました。
「ああ、それはね、このお嬢ちゃんがお通じの悩みでいらっしゃってね」
「ほら、そういうのって恥ずかしいじゃない?だからわざわざ遠くからうちのお店まで来てくださったのよ」
「それでいろいろご説明していたの、やりかたとか」
おばさまったら、何もそんなに詳しくご説明なさらなくても・・・
「えっ!ていうことは、これ、こちらさんが、あなたが買うの?」
チーママさんが驚いたお顔で、浣腸器と私を交互に見ています。
私も、えっ!?ていう顔をしていたはず。
確かに欲しいとは思っていたし、今度来たときおばさまがこれを使ってくださる、っておっしゃったから、私のもののようなものでもあるけれど、でも・・・
言い訳にもならないことをくどくど考えながら顔だけが熱くなって、何も言えない私。
再びおばさまに助けられました。
「まさかー。お嬢ちゃんが買ったのはお薬よ。これはお話しの流れでお見せしていただけ」
「なるほどねー。納得。シモの悩みは恥ずかしいからねー。ワタシも若い頃、買うの恥ずかしいもの、いくつかあったっけなー」
チーママさんが束の間、遠い目をされてから、再び私の全身をしげしげ眺め、ニッと笑いました
「それならさ、あなた、恥ずかしいついでに買いにくいもの、みんなここで買ってっちゃえば?たとえばコンドームとかさ」
「えっ?そ、それは別に・・・」
「あれ?あなた、カレシいないの?」
「は、はい・・・そういうのは、まだ・・・」
「えー?おっかしいーなー。あなた、若くて可愛らしい感じなワリに、ヘンに色っぽいフェロモンみたいのが漂っているから、絶対オトコいると思ったんだけどなー」
チーママさんがニヤニヤ笑っています。
「そっかー。カレシもいないのにコンドームだけ準備してるオンナってのも、ちょっと切ないわね。それならさ水虫はどう?あれも買いにくいわよね?大丈夫?」
私は、からかわれているんだと思いました。
それで、ちょっとムッとした顔になっていたかもしれません。
「ほらほら、またうちのお客さんイジメてー。だめよー?このお嬢ちゃんは、まだこっち来て半年くらいなんだから。あんまりいじくりまわさないでちょうだい」
「お嬢ちゃんごめんなさいね?この人いつもこんな調子なの。口は悪いけれど悪気はないから許してね?」
おばさまのフォローに少しホッとして、チーママさんにお愛想笑いを向けながら、
「み、水虫は、なってないから、大丈夫です」
とお答えしました。
チーママさんが、あはは、と笑ってから再び浣腸器に目を向けました。
「でもさ、世の中にはこういうものを、けしからんことに使う輩もいるのよね」
チーママさんがおばさまに向けて話題を振りました。
私は、お店を出るきっかけを探しつつも、チーママさんの振った話題に惹かれてしまいます。
「ああ。エスエムっていうのでしょ?女の子を縛り付けて無理矢理、みたいな」
お上品なおばさまのお口から、意外な単語が飛び出しました。
「そうそう。あの手が好きな人たちにとっては、こういう浣腸器って、それ用のえっちな道具のひとつなのよね」
「まったく。他人が排泄してるの見て、何が楽しいのかしら?」
おばさまが真剣に憤ってらっしゃいます。
「まあ、俗に言う変態っていうやつよね。うちの店にもそういう話題が大好きな客がひとりいてさ、来るたびにその手のことばっかり言ってたから、女の子が席に着きたがらなくて、そのうち来なくなっちゃった」
おばさまとチーママさん、ふたりで、あはは、と笑っています。
「でもさ、オンナの恥ずかしがる姿を見て悦ぶオトコってけっこういるのよ。恥ずかしさって、えっちな気分と直結してるっていうかさ」
そこで、チーママさんがなぜだか私をチラッと見ました。
それに気がついて、私の心臓がドキン。
「恥ずかしがる姿を見て悦ぶオトコの変態が、オンナの子の両脚を大きく広げたまま縛り付けてみたり、無理やり浣腸して人前で漏らさせたりするんだけどさ」
「同じように、そういう姿を見られて興奮する人、っていうのも、この世にいるのよ」
「つまりね、オンナの変態っていうのも、世の中には意外といるみたい」
チーママさんのひそめたお声を、おばさまが、あらまあ、というお顔で真剣に聞いています。
もちろん私もドキドキしながら耳をそばだてています。
「これは別のお客さんの話なんだけどね・・・」
「その人の以前のカノジョっていうのが、そういう類のオンナだったらしくてさ」
「普通の内気そうなOLさんで、そこそこ美人だったらしいんだけど、ふたりでハワイに海水浴にいったとき、すごいキワドイ水着持ってきてたんだって」
「もうえっちも済ませてて、それが最初からすごく激しかったし、辱めれば辱めるほど乱れちゃうみたいな兆候もあったんで、ひょっとしてと思って聞いたら、白状したそうなの」
「やっぱりそうだったんだって。いわゆる露出狂ってやつね」
「どうもその前のオトコに仕込まれちゃったらしくてさ、そのお客さんも、その手が好きなほうだったから、それからはもういろんなこと、シタそうよ」
「ドライブのときは助手席でオッパイ丸出し。観覧車で裸にしてみたり、シースルーで買い物させたり、覗きで有名な公園でシタり」
「デート、イコール、そのオンナの屋外露出調教散歩みたいな感じだったそうよ」
「脱げ、って言われた途端に目がウルウルしちゃうんだって。そのオンナ。それも人の目があればあるほど」
「しばらくは楽しかったんだけれど、そのうち不安になってきたんだってさ」
「このオンナ、別に俺じゃなくても、誰に言われても、その場で服脱ぐんじゃないか、って」
「縛った覚えが無いのに肌に縄の痕がついていたことがあったんで問い詰めたら、ひとりで全身ロープで縛って、コートひとつで深夜のコンビニとかにお散歩にも行ってたんだって」
「まあ、セフレならいいけど、真剣にはつきあえないわよね、そんなオンナ」
「だから、適当に遊んで、そのうち会わなくなっちゃったらしいわ」
それでチーママさんのお話は終わりのようでした。
私の全身はカッカと火照り、同時に今すぐにこの場から逃げ出したいような居心地の悪さを感じていました。
ひょっとして私、チーママさんから見透かされている?
さっき私をチラッと見て以来、一度もこちらにお顔を向けなかったチーママさんが振り返り、まっすぐに私を見て、こうつづけました。
「だからあなた、オトコには充分気をつけなさい。ロクでもないオトコに捕まったら、あなたもヘンな道に目覚めちゃうかもしれないから、ね?」
冗談めかした感じでそう言って、あはは、って笑いますが、その目だけは笑っていないように見えました。
て言うか、シーナさまと同じ、冷たいエスの目。
私に対してのご忠告も、さっきのお話からは、ぜんぜん脈絡のない結論です。
やっぱり、チーママさん、ある程度私の性癖に勘付いている・・・
それで、言葉責めして、愉しんでいる・・・
「・・・は、はい・・・」
私はチーママさんから目をそらし、うつむいて答えました。
トゥルル、トゥルル・・・
そのとき、お店の奥の電話が鳴りました。
「あっ、はい、はいー」
白衣のおばさまが、あわててお店の奥に駆けていきました。
レジの前に私とチーママさんだけ、取り残されました。
チーママさんは、私のほうは見ず、浣腸器のガラスの表面を指で撫ぜています。
「そっか。これからあなたは、お家に帰ってひとりで、浣腸するんだ?」
チーママさんがそのままの体勢で、独り言みたいにポツンと言いました。
「えっ?あっ、えっと・・・」
私は、そのお言葉にビクンとして、ドキンとして、キュンとして・・・
「そうよね?これからお家に帰って、ひとりでお尻を出して、浣腸するのよね?」
浣腸器から指を離し、こちらを向いたチーママさんの目が、イジワルく私を見つめています。
「・・・は、はい・・・」
チーママさんの目から、今度は目をそらすことが出来ず、見つめたままやっとお返事をしました。
チーママさんが私の傍らにそっと寄ってきました。
「そう。まあいろいろと、がんばりなさい、ね?」
私の耳元に唇を寄せて低い声で囁いてから、私の右肩を軽くポンと叩きました。
その低くてセクシーなお声にゾクゾクしつつ、コートの下で裸のおっぱいがプルン、内腿をおツユがツツツー。
「ごめんなさいね。お得意さまからだったわー」
電話を終えたおばさまが、あたふたとレジ前に戻ってらっしゃいました。
「あらー、もうこんな時間。早く帰ってお化粧のつづきしなくちゃー」
チーママさんがわざとらしく腕時計を見て、大きなお声をあげました。
「それじゃあこれは、もらっていくわね。お代は月末にまとめてねー」
それからもう一度私を見て、ニヤッと笑いました。
浣腸器の横に置かれた、チーママさんのために用意された紙袋を取るとき、チーママさんの右肘が私の胸をコートの上から思い切り擦りました。
コートの中でおっぱいがグニュッとひしゃげるくらい。
ワザとだと思いました。
なんとなく、チーママさんが何かしてくると予期していたので、グッと唇を噛んで、なんとかいやらしい声をあげずにすみました。
「それじゃあまたねー」
「はーい、毎度ありがとうございましたー」
「そっちのカノジョも、縁があったらまたお話ししましょうねー、お大事にねー」
「お嬢ちゃんもまた来るって言ってるから、またきっと会えるわよー」
「それじゃーねー」
来たときと同じような、おばさまとチーママさんの大きめなお声の応酬が、ガラガラッという引き戸を開ける音とバシッという閉じた音を合図に、終わりました。
「ごめんなさいねー。夜のお仕事の人とのおしゃべりだと、いつの間にか話題がお下品になっちゃって」
「いいえ。大丈夫です。何て言うか、派手なかたでしたね?」
「そうね。けっこうお高いお店に勤めているみたいだし、お住まいもほら、地下鉄の駅の近くの高層マンションらしいから」
「へー」
「なぜだかうちでいろいろ買ってくれる、いいお客さんなのよ」
「そうでしたか・・・お話、楽しかったです。それでは私もそろそろ・・・」
「あっ、そうね。ごめんなさいね。長いあいだお引止めしちゃって」
「いえいえ。今日はありがとうございました」
私が買ったものを入れた手提げ袋をおばさまから受け取り、出て行こうとしたとき、
「あっ、そうだ。お嬢ちゃん、本当にカレシ、いないの?」
背後からまた、お声がかかりました。
「あ、はい。本当ですけれど・・・」
出口に向って2、3歩踏み出していた私は、立ち止まり振り返ります。
「それだったら、うちの息子どうだろう、って思ってね。今、医大に通ってるの、北海道だけど」
「えっ、あっ、いえ、それは・・・」
あまりの想定外なご提案にあたふたしてしまう私。
「あっ、ごめんなさい。わたしったらまた不躾なことを・・・」
困惑している私を見て、おばさまもまたあたふたしてしまい、すぐに自らご提案を却下。
「会ったこともない相手に、どうもこうもないわよね。ごめんなさい今のは忘れて、ね?」
「それはそれとして、いつでもいらっしゃいね?恥ずかしがらずに」
「いつでもしてあげるから、遠慮なさらずにいらしてね。これも消毒しておくから」
「あっ、はい。ありがとうございます。そのときはよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げながらも、またもや内腿が濡れていました。
逃げるようにお薬屋さんを出て、走るように我が家を目指しました。
一刻も早くひとりになって、今日あったことを整理したいと思っていました。
会う人みんなにいろんなことを言われ、それがいちいちいやらしいことに結びついてしまって、下半身のウズウズが暴発寸前でした。
歩きながら、魔除けのおまじないを、両耳に突っ込みました。
もう誰ともお話したくありませんでした。
あっ、そうだった。
お部屋に入る前にもう一度、柏木のおばさまと会話をしなければならないんだった。
今の私のいでたちがあまりお買物帰りに見えない気がして、自宅のそばのドラッグストアでボックスティッシュとトイレットペーパーのパックを無言のまま買い、それを両手にぶら下げてマンション入口のアーチをくぐりました。
*
*コートを脱いで昼食を 09へ
*
2013年9月2日
コートを脱いで昼食を 07
知らず知らずに、自分の胸を両腕で抱くような仕草をしていました。
尖りきった乳首がコートの裏地に擦れ、今現在の自分のコートの中身を思い出させます。
そう、私は今、裸コート中。
今日ここでおばさまにお浣腸をしてもらうとしたら、否が応でも、このコートの中をおばさまにお見せしなければならなくなります。
どうしてそんな格好をしているの?
どうしてコートの下に何も着ていないの?
困惑されるおばさまのお顔が目に浮かびます。
その答えとして、私が正直に自分の性癖を告げたとして、それからおばさまがどうされるかは未知数。
呆れられるのか、蔑むのか、叱られるのか、はたまた逆に好奇心をそそられるか。
ひょっとしたら、こんな性癖に理解を示していただける可能性も無いことはないかも。
試してみたい気持ちもありましたが、一方では、少し距離があるといってもここは私の生活圏内、 おばさまに嫌悪され最悪の事態になって、ご近所中のウワサの的になっちゃう可能性も大いにありました。
そして何よりも、こんな私のろくでもないヘンタイ性癖を無駄に露にして、心優しいおばさまの純粋な親切心を踏みにじるのはいけないな、と思いました。
もしも今、私が普通の服装、コートの下に何がしかのお洋服をちゃんと着ている状態、なら、おばさまのご提案を嬉々として受け入れていたことでしょう。
もちろん表向きには思い切り恥じ入りながら、でも内心はワクワクで。
それくらい心躍る、あがらい難いご提案でした。
だけど、そもそも裸コートでなかったら、お浣腸薬をお薬屋さんで対面で買ってみよう、なんていう大胆な冒険は、思いつかなかったことでもありました。
普通の服装だったら、こういう展開はありえず、裸コートだったからこそ、こうしておばさまに出会えたのです。
すっごく残念だけれど今回は、お断りするしかないだろうな・・・
私が長いあいだ考え込んでしまっているのを見てあわてたのか、おばさまのほうが先に、ご自分のご提案を白紙に戻そうと思われたようでした。
「ごめんなさいね。わたし、ずいぶんとデリカシーの無いこと言っちゃったわよね?」
本当にすまなそうなお声で、おばさまが私の顔を覗き込んでおっしゃいます。
「年頃の女の子が、こんな知らないおばさんの前でお尻なんて出せるワケないわよね?そんな恥ずかしいこと」
「お嬢ちゃんとお話ししてたら、看護婦時代のこと思い出しちゃって、懐かしくなって、ついそんなこと言っちゃったの。ごめんなさい。許してね」
おろおろされているおばさまを見ていると、私の心がズキズキ痛みました。
悪いのはぜんぶ、私なのに。
「いえっ、あの、本当にありがとうございます・・・」
私は、ご提案を無かったことにしたくありませんでした。
覚悟を決めて、今の気持ちを正直にありのまま、おばさまに伝えることにしました。
「・・・見ず知らずの私に、こんなにご親切にしていただいて、本当に嬉しいです」
「だけど今日はちょっとあの、アレなので・・・だ、だからお家に帰ったら、とりあえずひとりで、お、お浣腸をしてみます・・・」
自分で口に出したはしたない言葉に、キュンキュン発情しちゃっています。
「それで・・・それでもし、うまくいかなかったり、ひとりでは無理だなって思ったら、また、ここに来ますから、そのときは・・・」
おばさまをすがるように見つめてしまいます。
「そのときは私に、お、お浣腸、してくださいますか?」
言った瞬間に、アソコがヒクヒクと波打ち、内腿をおツユがすべり落ちました。
私の頭の中には、おばさまの前で四つん這いになって裸のお尻を突き出し、お浣腸された後も、おばさまに見守られて一生懸命がまんしている恥ずがし過ぎる自分の姿が、まざまざと浮かんでいました。
「えっ!?」
おばさまは一瞬たじろいで絶句した後、すぐにホッとしたお顔になり、ニッコリ微笑みました。
「それはもちろんよ。いつでも言ってちょうだい。絶対お力になれるから」
「看護婦だった頃は、それこそ数え切れないほどお浣腸したものよ。子供にも大人にも」
「とくに小学校高学年くらいの子供が恥ずかしがるのが可愛かったのよね。男の子って恥ずかしいと、怒った顔になっちゃうの」
クスッと笑うおばさま。
「好きだったなー、お浣腸するの」
懐かしそうに目を細めたおばさまが、そのまま私をまっすぐに見つめてきました。
「だから恥ずかしがらずにいつでも言ってきてちょうだい。わたしにとっては、誰かにお浣腸することって、普通にずっと仕事でしていたことだから、ね?」
ニッと笑ったおばさまは、さっきのおろおろから完全に立ち直っていました。
実際には便秘でも何でもない私がお浣腸を欲するのは、自分のいやらしい被虐心を満足させるため、です。
そんなヘンタイ行為に、おばさまの手をお借りすることは、おばさまの親切心を利用することになってしまうのは、わかっていました。
それが後ろめたくもあったのですが、今のお話の感じだと、おばさまは、お浣腸を施す行為自体がお好きなご様子。
それなら、ふたりの利害関係は一致します。
最初におばさまからご提案いただいた瞬間に、このおばさまにお浣腸をされる自分、という妄想から抜け出せなくなっていた私は、幾分気持ちが軽くなって、次はどのタイミングでこのお店に来ようか、なんて考え始めていました。
SMの関係ではなく、まったくそういう資質の無い人から受けるお浣腸って、された自分はどんな気分になるのだろう?
近い将来、それを知ることが出来そうです。
「そうだ。お嬢ちゃんは、お医者さんが使う浣腸器は、見たことある?」
完全復活したおばさまは、包んだ荷物をまだ渡してくれず、また新しい話題を振ってきました。
「えっ?」
「ガラスで出来ていて、注射器みたいにお水を吸い上げる方式のやつよ。知らない?」
「えっと・・・」
もちろん知ってはいますが、実物ではなく、SMの写真やビデオで見たことがあるだけでした。
けっこう太い注射器みたいな器具に何かの液体を一杯に吸い込み、太めな先っちょを嫌がる相手のお尻の穴へと無理矢理突き刺して・・・
そんな禍々しい印象がありました。
でも、そんなことおばさまには言えません。
「えっと、写真で見たことがあるような、ないような・・・」
「ちょうどね、ずっと売れ残ってるのがひとつあるのよ。何かの話のネタになるかもしれないから、見せてあげるわね」
おばさまがそう言って、ご自身の背後の棚をゴソゴソし始めました。
「あった、あった。はら、これ」
おばさまが大きめな白い紙箱の蓋を開けると、ガラス製のそれが横たわっていました。
やっぱりけっこう太い。
見るからにひんやりしていそうなガラス製のそれは、ガラスの肌に容量の目盛りが打ってあり、まさしく、医療器具、という感じ。
なんとなく、手に取ることがためらわれる雰囲気を醸し出していました。
その浣腸器を見たと同時に、唐突に思い出したのが、幼い頃、ご近所のお友達とひそかにしていたお医者さんごっこ。
その行為が意味することはまったくわからず、ただ、お浣腸、という名前で施された見よう見まねのシンサツ。
あのときに浣腸器の代わりとなったオモチャの大きめなプラスティック製注射器と、目の前に横たわっているガラスの浣腸器の姿が重なりました。
お医者さんごっこのお浣腸では、今でも忘れられない、すっごく恥ずかしい思いをしたことがあったっけなー。
懐かしさと一緒に、頬が火照ってきました。
「ほら。持ってみて」
大昔の恥ずかし過ぎる思い出に頬を染めている私に、おばさまが箱から取り出した浣腸器を差し出してきました。
「は、はい」
恐る恐る、両手で慎重に、浣腸器を受け取りました。
けっこう重い。
「大きい、ですね?」
「そうね。それは100ミリのやつだから普通かな。その倍の200ミリっていうのもあるわよ」
「こんなに全部、お薬を入れちゃうんですか?」
「ううん。グリセリン浣腸だと多くても5~60ミリくらい。お嬢ちゃんが今日買った市販のお浣腸薬が30ミリだから約2個分ね。普通の便秘なら1個で充分のはずよ」
「だけどぬるま湯浣腸なら、100ミリからその2、3倍も入れるときもあるわね」
「ぬるま湯、ですか?」
「そう。腸への刺激が少ないぬるま湯なら、たくさん入れても大丈夫なの。限度はあるけれどね」
手の中にある浣腸器をまじまじと見つめてしまいます。
自然と目がいってしまうのは、お尻に挿すのであろう先端部分。
緩く楕円にカーブを描く意外に太め長めなその部分を、知らず知らずに指で撫ぜていました。
「そう、そこのところをお尻の穴に挿れるの」
おばさまが私の顔を覗き込むようにして、いたずらっぽく微笑みました。
やだ、見られてた!
私の頬がますます赤く染まります。
「ぬるま湯浣腸はね、便秘とかに限らず、大腸の洗浄にも使うの。腸の、うがい、みたいなものね」
「だからグリセリンのお浣腸で出した後、今度はぬるま湯でお浣腸しておくと、お薬も中に残らなくて腸がすっきりするはずよ」
「そうだ。今度来たときにやってあげるわ。この浣腸器で」
「今は市販のお浣腸薬が定着していて、こういう大げさな浣腸器はこの先も売れないだろうから、これはお嬢ちゃんのために、熱湯消毒して大事に保管しとくことにするわね、今度来たときのために」
おばさまが再び微笑んで私を見つめてきました。
おばさまったら、私にお浣腸する気満々です。
「こんにちはー!」
そのとき、表の引き戸がガラガラっと開く音がして、元気のいい女性のお声が飛び込んできました。
「あらー、いらっしゃいー、そろそろ来る頃かなって思っていたわ。いつものやつね?」
持っていたガラスの浣腸器をあやうく落としそうになるほどビクンとしてしまった私とは対照的に、おばさまは慣れた調子で大きくそう答えてから、私に背を向けて棚をガサゴソし始めました。
私が慎重に浣腸器を紙の箱に戻していると、おばさまが何かを詰めた紙袋を浣腸器の横に置きました。
「お店のほうはどう?」
「だめだめねー。不景気で。お客さんがぜんぜんお金使ってくれないのよー」
「でも、新しい子も入れたのでしょう?」
「て言うか、お店に来てくれる人の数が減っちゃってるのよねー」
おばさまと、こちらへ近づいて来る常連さんらしき女性のお客様との大きめなおしゃべりの応酬の後、その女性が棚の陰から姿を現わしました。
*
*コートを脱いで昼食を 08へ
*
尖りきった乳首がコートの裏地に擦れ、今現在の自分のコートの中身を思い出させます。
そう、私は今、裸コート中。
今日ここでおばさまにお浣腸をしてもらうとしたら、否が応でも、このコートの中をおばさまにお見せしなければならなくなります。
どうしてそんな格好をしているの?
どうしてコートの下に何も着ていないの?
困惑されるおばさまのお顔が目に浮かびます。
その答えとして、私が正直に自分の性癖を告げたとして、それからおばさまがどうされるかは未知数。
呆れられるのか、蔑むのか、叱られるのか、はたまた逆に好奇心をそそられるか。
ひょっとしたら、こんな性癖に理解を示していただける可能性も無いことはないかも。
試してみたい気持ちもありましたが、一方では、少し距離があるといってもここは私の生活圏内、 おばさまに嫌悪され最悪の事態になって、ご近所中のウワサの的になっちゃう可能性も大いにありました。
そして何よりも、こんな私のろくでもないヘンタイ性癖を無駄に露にして、心優しいおばさまの純粋な親切心を踏みにじるのはいけないな、と思いました。
もしも今、私が普通の服装、コートの下に何がしかのお洋服をちゃんと着ている状態、なら、おばさまのご提案を嬉々として受け入れていたことでしょう。
もちろん表向きには思い切り恥じ入りながら、でも内心はワクワクで。
それくらい心躍る、あがらい難いご提案でした。
だけど、そもそも裸コートでなかったら、お浣腸薬をお薬屋さんで対面で買ってみよう、なんていう大胆な冒険は、思いつかなかったことでもありました。
普通の服装だったら、こういう展開はありえず、裸コートだったからこそ、こうしておばさまに出会えたのです。
すっごく残念だけれど今回は、お断りするしかないだろうな・・・
私が長いあいだ考え込んでしまっているのを見てあわてたのか、おばさまのほうが先に、ご自分のご提案を白紙に戻そうと思われたようでした。
「ごめんなさいね。わたし、ずいぶんとデリカシーの無いこと言っちゃったわよね?」
本当にすまなそうなお声で、おばさまが私の顔を覗き込んでおっしゃいます。
「年頃の女の子が、こんな知らないおばさんの前でお尻なんて出せるワケないわよね?そんな恥ずかしいこと」
「お嬢ちゃんとお話ししてたら、看護婦時代のこと思い出しちゃって、懐かしくなって、ついそんなこと言っちゃったの。ごめんなさい。許してね」
おろおろされているおばさまを見ていると、私の心がズキズキ痛みました。
悪いのはぜんぶ、私なのに。
「いえっ、あの、本当にありがとうございます・・・」
私は、ご提案を無かったことにしたくありませんでした。
覚悟を決めて、今の気持ちを正直にありのまま、おばさまに伝えることにしました。
「・・・見ず知らずの私に、こんなにご親切にしていただいて、本当に嬉しいです」
「だけど今日はちょっとあの、アレなので・・・だ、だからお家に帰ったら、とりあえずひとりで、お、お浣腸をしてみます・・・」
自分で口に出したはしたない言葉に、キュンキュン発情しちゃっています。
「それで・・・それでもし、うまくいかなかったり、ひとりでは無理だなって思ったら、また、ここに来ますから、そのときは・・・」
おばさまをすがるように見つめてしまいます。
「そのときは私に、お、お浣腸、してくださいますか?」
言った瞬間に、アソコがヒクヒクと波打ち、内腿をおツユがすべり落ちました。
私の頭の中には、おばさまの前で四つん這いになって裸のお尻を突き出し、お浣腸された後も、おばさまに見守られて一生懸命がまんしている恥ずがし過ぎる自分の姿が、まざまざと浮かんでいました。
「えっ!?」
おばさまは一瞬たじろいで絶句した後、すぐにホッとしたお顔になり、ニッコリ微笑みました。
「それはもちろんよ。いつでも言ってちょうだい。絶対お力になれるから」
「看護婦だった頃は、それこそ数え切れないほどお浣腸したものよ。子供にも大人にも」
「とくに小学校高学年くらいの子供が恥ずかしがるのが可愛かったのよね。男の子って恥ずかしいと、怒った顔になっちゃうの」
クスッと笑うおばさま。
「好きだったなー、お浣腸するの」
懐かしそうに目を細めたおばさまが、そのまま私をまっすぐに見つめてきました。
「だから恥ずかしがらずにいつでも言ってきてちょうだい。わたしにとっては、誰かにお浣腸することって、普通にずっと仕事でしていたことだから、ね?」
ニッと笑ったおばさまは、さっきのおろおろから完全に立ち直っていました。
実際には便秘でも何でもない私がお浣腸を欲するのは、自分のいやらしい被虐心を満足させるため、です。
そんなヘンタイ行為に、おばさまの手をお借りすることは、おばさまの親切心を利用することになってしまうのは、わかっていました。
それが後ろめたくもあったのですが、今のお話の感じだと、おばさまは、お浣腸を施す行為自体がお好きなご様子。
それなら、ふたりの利害関係は一致します。
最初におばさまからご提案いただいた瞬間に、このおばさまにお浣腸をされる自分、という妄想から抜け出せなくなっていた私は、幾分気持ちが軽くなって、次はどのタイミングでこのお店に来ようか、なんて考え始めていました。
SMの関係ではなく、まったくそういう資質の無い人から受けるお浣腸って、された自分はどんな気分になるのだろう?
近い将来、それを知ることが出来そうです。
「そうだ。お嬢ちゃんは、お医者さんが使う浣腸器は、見たことある?」
完全復活したおばさまは、包んだ荷物をまだ渡してくれず、また新しい話題を振ってきました。
「えっ?」
「ガラスで出来ていて、注射器みたいにお水を吸い上げる方式のやつよ。知らない?」
「えっと・・・」
もちろん知ってはいますが、実物ではなく、SMの写真やビデオで見たことがあるだけでした。
けっこう太い注射器みたいな器具に何かの液体を一杯に吸い込み、太めな先っちょを嫌がる相手のお尻の穴へと無理矢理突き刺して・・・
そんな禍々しい印象がありました。
でも、そんなことおばさまには言えません。
「えっと、写真で見たことがあるような、ないような・・・」
「ちょうどね、ずっと売れ残ってるのがひとつあるのよ。何かの話のネタになるかもしれないから、見せてあげるわね」
おばさまがそう言って、ご自身の背後の棚をゴソゴソし始めました。
「あった、あった。はら、これ」
おばさまが大きめな白い紙箱の蓋を開けると、ガラス製のそれが横たわっていました。
やっぱりけっこう太い。
見るからにひんやりしていそうなガラス製のそれは、ガラスの肌に容量の目盛りが打ってあり、まさしく、医療器具、という感じ。
なんとなく、手に取ることがためらわれる雰囲気を醸し出していました。
その浣腸器を見たと同時に、唐突に思い出したのが、幼い頃、ご近所のお友達とひそかにしていたお医者さんごっこ。
その行為が意味することはまったくわからず、ただ、お浣腸、という名前で施された見よう見まねのシンサツ。
あのときに浣腸器の代わりとなったオモチャの大きめなプラスティック製注射器と、目の前に横たわっているガラスの浣腸器の姿が重なりました。
お医者さんごっこのお浣腸では、今でも忘れられない、すっごく恥ずかしい思いをしたことがあったっけなー。
懐かしさと一緒に、頬が火照ってきました。
「ほら。持ってみて」
大昔の恥ずかし過ぎる思い出に頬を染めている私に、おばさまが箱から取り出した浣腸器を差し出してきました。
「は、はい」
恐る恐る、両手で慎重に、浣腸器を受け取りました。
けっこう重い。
「大きい、ですね?」
「そうね。それは100ミリのやつだから普通かな。その倍の200ミリっていうのもあるわよ」
「こんなに全部、お薬を入れちゃうんですか?」
「ううん。グリセリン浣腸だと多くても5~60ミリくらい。お嬢ちゃんが今日買った市販のお浣腸薬が30ミリだから約2個分ね。普通の便秘なら1個で充分のはずよ」
「だけどぬるま湯浣腸なら、100ミリからその2、3倍も入れるときもあるわね」
「ぬるま湯、ですか?」
「そう。腸への刺激が少ないぬるま湯なら、たくさん入れても大丈夫なの。限度はあるけれどね」
手の中にある浣腸器をまじまじと見つめてしまいます。
自然と目がいってしまうのは、お尻に挿すのであろう先端部分。
緩く楕円にカーブを描く意外に太め長めなその部分を、知らず知らずに指で撫ぜていました。
「そう、そこのところをお尻の穴に挿れるの」
おばさまが私の顔を覗き込むようにして、いたずらっぽく微笑みました。
やだ、見られてた!
私の頬がますます赤く染まります。
「ぬるま湯浣腸はね、便秘とかに限らず、大腸の洗浄にも使うの。腸の、うがい、みたいなものね」
「だからグリセリンのお浣腸で出した後、今度はぬるま湯でお浣腸しておくと、お薬も中に残らなくて腸がすっきりするはずよ」
「そうだ。今度来たときにやってあげるわ。この浣腸器で」
「今は市販のお浣腸薬が定着していて、こういう大げさな浣腸器はこの先も売れないだろうから、これはお嬢ちゃんのために、熱湯消毒して大事に保管しとくことにするわね、今度来たときのために」
おばさまが再び微笑んで私を見つめてきました。
おばさまったら、私にお浣腸する気満々です。
「こんにちはー!」
そのとき、表の引き戸がガラガラっと開く音がして、元気のいい女性のお声が飛び込んできました。
「あらー、いらっしゃいー、そろそろ来る頃かなって思っていたわ。いつものやつね?」
持っていたガラスの浣腸器をあやうく落としそうになるほどビクンとしてしまった私とは対照的に、おばさまは慣れた調子で大きくそう答えてから、私に背を向けて棚をガサゴソし始めました。
私が慎重に浣腸器を紙の箱に戻していると、おばさまが何かを詰めた紙袋を浣腸器の横に置きました。
「お店のほうはどう?」
「だめだめねー。不景気で。お客さんがぜんぜんお金使ってくれないのよー」
「でも、新しい子も入れたのでしょう?」
「て言うか、お店に来てくれる人の数が減っちゃってるのよねー」
おばさまと、こちらへ近づいて来る常連さんらしき女性のお客様との大きめなおしゃべりの応酬の後、その女性が棚の陰から姿を現わしました。
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*コートを脱いで昼食を 08へ
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