私と目が合うと、ニッコリ笑いかけてくださいました。
「ずいぶんと熱心にフロアを観察していたじゃない?何か興味を惹くものでもあった?好みな女性がいたとか?」
カウンター越しに、からかうように尋ねてくるやよいママさま。
「あ、いえ、そいうのではなくて、お客様がいっぱいだなー、って・・・」
真正面から見つめてくるやよいママさまにドギマギしつつ、あわてて付け加えます。
「それに、暗いし恥ずかしいしで、お客様ひとりひとりのお顔まで、ちゃんと見ていられません・・・」
お答えしながら気がつくと、お姉さまは左隣の、里美さまとしほりさまは右隣の、それぞれお隣に座られた見知らぬお客様がたと、私にお背中を向けて楽しげにおしゃべりされていました。
その隙を窺って、という訳ではないのでしょうが、すごく近くまでお顔を近づけてくるやよいママさまと、お久しぶりの親密ムード。
私の格好が恰好なので、胸はドキドキからだはソワソワ、懐かしい羞じらいがよみがえってきます。
「そうね。お店始めたばっかりの頃は、どうなることやら、とも思ったけれど、おかげさまで徐々に常連さんが増えてきて、最近やっと軌道に乗ってきたところ」
「ミーチャンやシーナが顔広いからね。連れてきてくれたお客様からの口コミで輪が広がった、って感じかな」
傍らに置いた薄いレモン色のお飲み物が入ったグラスを、ときどき唇に運び舌先でチロチロ舐めつつ、ご説明してくださるやよいママさま。
ミイコさまを、ミーチャン→と、平坦にアクセント無しでお呼びになる、地元の頃と同じやよい先生のイントネーションが懐かしい。
「あ、でも、お外には看板もネオンも出ていませんでしたよね?それで中に入ったら、こんなにたくさんいっらっしゃったので、単純にびっくりしたんです」
会話を途切らせてはいけないと、店内に入ったときに感じた素直な感想を、そのまま言葉にしてみました。
「ああ、だからさっき言ったように、今日は特別なの。普段はちゃんと7時には表の階段前に看板出して、入り口の二重扉も外側は開け放しにしているわ」
なぜだか可笑しそうに微笑混じりのご説明。
「ドアには会員制って書いたけれど、一度でも来てくださったお客様と一緒の女性ならば、基本的にオールウェルカム。レズビアンではないノンケ女性でもね」
「イベントの日だけは、表向きお休みにしているの。フリのお客様が入ってこれないように」
唇に運ばれたグラスが少し傾き、やよいママさまのなめらかな喉がゴクリと上下します。
「いろいろイベント企画しているのよ、月に2度くらい。あたしらも愉しみたいじゃない?」
「軽めのカップリングパーティから、夏だったら水着デーとか。ディープなほうだとセクシー女優さん呼んでトークショーとか女性緊縛師の緊縛講座とか」
「中でも今夜のイベントはトップシークレット扱いだから、今居るお客様はうちのVIP待遇なお得意様と言えるわね」
「つまり、今ここにいるお客様たちは、マニアックなスケベさん揃い、ってわけ」
少しご苦笑気味に、イタズラっぽい笑顔をお見せになるやよいママさま。
「まあ、あたしたちのことはいいとして、直子はどうなの?エミリーと、いろいろ楽しくやってる?」
やよいママさまの視線が、私の顔から丸出しなおっぱいへと、あからさまにゆっくり移動しました。
「あ、はい。お姉さまはお忙しくてオフィスでも毎日はお逢い出来ないのですが、そんなときでも他の社員のみなさまから・・・」
私ったら、やよいママさまに何をお話しようとしているのでしょう。
はたと口をつぐんだ私の言葉を、聞かれていたのかいないのか、唐突にこんなことをおっしゃってきました。
「ねえ?直子のおっぱい、乳輪が一回り以上大きくなったんじゃない?あたしと遊んでいた頃に比べて」
私の右の乳首をまじまじと見つめつつの、やよいママさまのお声。
「あんっ、いやんっ・・・」
触られたわけでもないのに、若干の揶揄をも含んだようなそのおっしゃりかたに、ヒクッと疼いてしまう私のマゾマンコ。
「いやん、じゃないわよ。いい感じじゃない?いい感じにいやらしさが増しているわ」
嬉しそうに再び私の顔に視線を戻されたやよいママさま。
「直子って元から乳首、大きめだったじゃない?それがもっと大きくなっていて、それにつれて乳輪も広がったって感じ。左右ともほぼ完全な鴇色の円を描いていて、とても綺麗よ」
今度は左の乳首を凝視してくるやよいママさま。
「あたしと会えないあいだに、いろんな人にいろいろ弄られたのでしょうね。今だって、あたしに向かって痛々しいくらい尖っちゃって、弄って欲しくて堪らない、って感じ。すんごくビンカンそう」
「隣にエミリーがいなかったら、なりふり構わず両腕伸ばして、ギューっとわしづかみしちゃっているでしょうね。そのくらいふしだらにえっちで、魅力的よ」
少しお声を落とされ、とんでもないことを笑顔でおっしゃるやよいママさま。
マゾマンコの奥がまたヒクヒクととわななき、少し開いたラビアをトロリと濡らします。
「あ、あの、やよい先、あ、いえ、百合草先生は、私が学校行っているうちは、お店に来てはいけない、っておっしゃいましたよね?あれは何か意味が、あったのですか?」
動揺をごまかしたくて焦って話題を逸らそうと、ずっと気にかかっていたことが口から出ていました。
以前と変わらない、いえ、以前にも増して魅力的になられたやよいママさまのお顔を見ていると、そんなことおっしゃらずに、どうぞ、わしづかんでください、なんて口走ってしまいそう。
今の私、すごく物欲しげな顔をしているはずです。
「あれ?そんなこと言ったっけ?」
しばし上目遣いで記憶を辿るやよいママさま。
「あー、思い出した。あの頃、うちの店に直子の行っていた女子大の関係者がよく来ていたのよ、40代手前くらいで先生なのか事務方なのかは知らないけれど。見た目にも気を使っていて、まあまあ美人」
完全に思い出されたようで、スラスラとお答えくださいます。
「いつもおひとりで来られて、若い子中心に声かけていたわ。話題も豊富みたいで、浅い時間はまあ楽しいお酒なんだけれど、量が過ぎると豹変するの。簡単に言えば酒癖が悪かったのね」
綺麗な眉間に少しシワを寄せられたやよいママさま。
「悪酔いすると、やたら他の子のからだベタベタ触りたがってさ、そのへんのキャバクラで飲んでるスケベオヤジみたいになっちゃうんだ。それで拒否ると居丈高に怒り出すし」
「他のお客様も、最初は笑って相手していたんだけれど、段々もてあましちゃってさ。絡み方がしつこいんだこれが」
「ジェンダーの話題になると声高になっちゃうような人でね、そのへんもちょっとめんどくさかったかな、お酒の席だしね」
「他のお客様から、彼女は女子大にお勤めらしいって聞いて、その学校名が直子の通う学校だったから、直子が彼女と鉢合わせしちゃったらマズイと思ったのよ」
困ったような苦笑いのやよいママさまも、アンニュイな感じでお美しいです。
「それで直子が東京に出てきたとき、一番最初に釘を刺しておいたんだ。あたしの店には近づくな、って」
「直子、彼女の好みっぽかったし、顔を覚えられて学校内で関わったりしちゃったら、相当面倒なことになりそうでしょ?」
「一年くらい熱心に通ってくれていたんだけれど、いつの間にか来なくなって、噂で聞いたら別のお店に鞍替えしたみたい。ステディな子をみつけらしいわ」
「だから今夜はもちろんここには来ていないし、これからも安心して遊びに来ていいわよ、エミリーと一緒に」
「それと、あたしのことを百合草先生って呼ぶのはやめてね。もう先生でも何でもないんだし、やよいママ、でいいからね」
いつもの笑顔にお戻りになられたやよいママさま。
すると、ちょうどそこにミイコさまがおいでになり、やよいママさまのお耳にコショコショっと何事かお耳打ちされました。
「おーけー。直子もそろそろ落ち着いたでしょうから、始めましょうか」
私に同意を促すように、おだやかな微笑を向けてくるやよいママさま。
「えっと、始める、って、何を始めるのですか?」
私の問にお答えくださったのはミイコさま。
「何って決まっているでしょ?イベントの第2部、みなさんお待ちかねのスレイブバトルショーよ」
とても嬉しそうなミイコさまのお声。
「まずはこれから対戦するお相手にご挨拶しなくてはね。わたしが紹介してあげる」
ミイコさまが私の肩に手を置き、立ち上がるように促してきます。
「えっ、えっと、どういうことなのでしょう?バトルショーとか対戦とか・・・」
薄々予感はしていたのですが、やっぱり私はこのお店でも、みなさまの見世物にされちゃうみたい。
でも、あまりに突然で単刀直入だったので、戸惑いが言葉になってミイコさまを見上げました。
「あれ?エミリーに聞かされていなかったの?ナオちゃんはこれから、うちのお店で一番人気なマゾスレイブと公開バトルをするの。ぶっちゃけて言えばSMショーみたいなものね。あんな格好で現われたから、てっきり覚悟の上だと思っていたわ」
ミイコさまのご説明に、ウンウンとうなずかれるお姉さま。
「直子ならすんなり空気を呼んでくれると思ってさ、あえて何も説明しなかったんだ。それにもし嫌がったとしても、あたしの命令は絶対だもの」
お姉さまがお得意げに笑って、リードを手に立ち上がられました。
「あらあら、羨ましいくらいの姉妹愛ね。日頃のトレーニングの成果をじっくり鑑賞させてもらおうっと」
やよいママさままで、からかうようにおっしゃいます。
「ト、トレーニングって・・・バ、バトルとかSMショーとか、私、別にこれといって・・・」
「トレーニングっていうのはね、あたしら的に訳すと、調教、って意味なの。直子はエミリーにマゾペットとして調教されているんでしょ?その調教がどのくらい進んだのか、見せてくれるってエミリーが言ってきたから、今夜のイベントを組んだのよ、ね?」
ご説明してくださったやよいママさまとお姉さまが、愉しげにお顔を見合わせてニッコリ微笑みました。
トレーニングって、そういう意味もあったんだ・・・
私はお姉さまやオフィスのみなさまといろいろえっちな遊びをしていても、調教されている、という自覚はありませんでした。
たまにお芝居っぽく、調教、というセリフを使うこともありましたが、それはロールプレイでの役割分担のようなもの。
でも、傍から見ると私は、お姉さまにSM調教されている、ということになるのでしょう。
そうするとこれから私がやらされるのは、SM公開調教?
アダルトビデオでしか見たことの無かった、見ず知らずの大勢の方々の目の前で恥ずかしくも惨めな痴態を晒し、侮蔑と嘲笑の的となる生贄マゾ女。
妄想やフィクションの世界だけのことと思っていた状況が、現実になっちゃうんだ・・・
やよいママさまがおっしゃるところの、マニアックなスケベさん揃いなお客様がたの前で、きっとすっごく恥ずかしいことをさせられちゃうんだ・・・
興奮なのか怯えなのか、心の奥底からゾクゾクっとくる震えが全身を駆け巡りました。
「ほら、直子?立ちなさい。里美?また後ろで両手、繋いじゃって」
お姉さまのご命令でストゥールから立ち上がると、里美さまによって有無を言わせず、再びチェーンで後ろ手錠にさせられた私。
「それでは行きましょう。アキちゃん?電気点けて」
ミイコさまがフロアに呼びかけると、薄闇だった場内がサーッと明るくなっていきます。
ああん、だめっ、明るくしないで!
心の中では叫べても、実際に口に出すことなんて出来ません。
明るくなりかけたとき、おおっ、というどよめき、つづいて沈黙、少ししてヒソヒソ声のさざ波が広がりました。
真昼のように明るくなった店内すべての方々の視線が、ボディハーネスだけな私の全裸に集中していました。
おひとりおひとりの好奇に満ちたご表情がハッキリと見えてしまい、いたたまれずに思わずうつむいてしまいます。
店内のBGMはカイザーワルツ、皇帝円舞曲に変わっています。
「直子?うつむいちゃダメよ?ランウェイのときみたいに優雅に、音楽に乗って歩きなさい」
私の首輪に繋がるリードのチェーンをお持ちになったお姉さまが、ご自身もゆっくりとモデルウォークされながら、小声でご命令。
後ろ手錠で背筋を伸ばすと、剥き出しのおっぱいを誇示しているみたいになっちゃいますが、ご命令なので仕方ありません。
顔をまっすぐ前に向けていると、否が応にも店内のお客様のご様子がハッキリ視界に入ってきます。
ある人は唖然としたお顔で、ある人はニヤニヤ笑いで、20名以上の見知らぬ女性の方々が私の姿を目で追っています。
サマードレスで着飾ったかた、ラフにジーンズとTシャツなかた、ブラウスにスカートなOL風のかた・・・
ミイコさまと同じようなメイド服姿の女性もいらっしゃいます。
当然ですがみなさまちゃんと何かしらきちんとお洋服を召されている中で、たったひとり、おっぱいも性器もお尻も丸出しな私。
文字通りの見世物状態。
急に明るくなってしまった分、恥ずかしさとみじめさが倍増です。
会社のイベントショーでモデルをしたときの、今すぐ逃げ出したくなるような恥ずかしさがよみがえります。
ただ、あのときとは、私を見つめる視線の強さが違っていました。
イベントショーのときは、あきらかに戸惑ったような、照れたように伏し目がちになってしまうご遠慮がちなかたも目立ちましたが、今は皆無。
すべての視線が私の裸身を、食い入るように、値踏みでもしているかのように、好奇と嗜虐と侮蔑を感じ取れるまなざしで、注目していました。
顔とおっぱいと性器周辺とお尻に痛いほどの視線を感じつつ、ゆっくりと歩きます。
先導されるミイコさまは、ステージ脇の大きめなテーブル席に向かわれています。
その頃には店内におしゃべりが戻り、始まるみたいね、とか、ずいぶん若そうな子じゃない?などの弾んだつぶやきも聞こえていました。
待ちに待ったコンサートがこれから始まる、みたいな雰囲気と同じ、みなさまのワクワクな高揚感が伝わってきます。
近づくにつれ、そのテーブルの壁際のほうのお席に、見知ったお顔の女性が私をニヤニヤ眺めていることに気づきました。
その壁際のお席だけ、3人並んで座れそうなゆったりとしたソファー。
そこにおふたり並んで座られている、すごくよく知っているお顔と、もうひとりのかたは確か・・・
「ごめんさいね、ちょっとジャクリーンに今日のゲストの子を紹介するので、この席一瞬、空けてくれる?ショーが始まったらまた戻っていいから」
ミイコさまが、テーブル席の壁とは反対側のストゥールにお座りになられていたおふたりの女性にお声をかけました。
「ハーイ!いよいよ始まるんですねっ!?」
色違いのピチピチタンクトップにショートパンツというセクシーな格好をされた可愛らしい系なおふたり連れが、ご自分たちのグラスを手にそそくさと立ち上がられ、お席を空けてくださいました。
「やっと来たのね?もう待ちくたびれちゃったわよ」
ぶっきらぼうにお声をかけてくださったのは、ざっくりした白いTシャツ姿の、いつになくラフなファッションのシーナさま。
そのお隣で涼し気な微笑をお見せになられているシルクっぽいブラウスの凛とした女性は、確か小野寺さま。
私が脱毛などですっかりお世話になっているエステサロンにお勤めのかたで、支配人さまの秘書をなさっています。
そのエステサロンには、シーナさまが連れて行ってくださいました。
そこでも私は、施術中に幾度となくあられもない痴態をさらけ出し、小野寺さまは、そんな私をつぶさにご観察なさっていたはずなのですが、最後まで冷静沈着で理知的に接してくださった、まさしくクールビューティな女性です。
お珍しい組合わせ、と思いつつも思わぬ見知ったお顔のご登場に、今の私のまさしくマゾドレイな格好を思い出し、あらためて羞じらいが再燃。
だけど、それ以上にショッキングな光景が視界に入り、唖然としてしまいました。
先にお座りになられていたおふたりが退かれ、二脚のストゥールの脚のあいだから覗くテーブル下に、身を縮こませてうずくまっているらしい人影が見えました。
全体的に肌色なので、おそらく裸、そしておそらく女性。
乱れた髪がお顔の側面にかかり、お顔はわかりません。
土下座でひれ伏したように身を屈められ、艶かしくカーブを描く剥き出しのお背中の上に、シーナさまの伸ばした生脚が乗せられていました。
そのお姿を見た途端、ビクンと全身が震え、すぐに直感的に、あ、このかたもマゾドレイなんだ、と確信しました。
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*三人のミストレス 19へ
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