イベント明けの月曜日。
出勤前の朝、とてもドキドキしていました。
お約束通り土曜日の午後に私のお部屋にいらしてくださったお姉さまから、私が帰った後のことをお聞きしました。
凄い迫力のショーだった、とお客様がたにも大好評で、イベントでご披露したアイテムの売上も昨年の倍以上いきそうなこと。
うちでもモデルで使いたい、とか、イメージビデオをぜひ撮らせてくれ、というご依頼も多く、ごまかすのが大変だったこと。
夕張小夜の本業は学生で、現在イギリスの名門大学に留学中の身なので、日本で表立った活動は出来ない、と断ったそうです。
お客様がたの中で夕張小夜を森下直子だと見破っていらしたのは、アンジェラさまたちとシーナさま御一行だけだったよう。
でも、スタンディングキャット社の男性たちは、薄々勘付いていたかもしれない、とお姉さまはおっしゃいました。
「彼らって、同性でも異性でも、自分たちと同じような個性と言うか異端性を嗅ぎ分ける嗅覚、異常に鋭いからね」
笑いながらおっしゃるお姉さま。
「あと、シーナさんの古いご友人、あ、残念ながら百合草女史ではなくてよ、も数名いらしていたわ。ひょっとしたら直子も知っている人たちかもね」
どなたなのかすっごく知りたくてお姉さまにお尋ねしたのですが、そのうちわかるわよ、うちともつながりが出来たから、とイタズラっぽく微笑むだけで教えてくださいませんでした。
そして私が一番気にかかる、社員スタッフのみなさまのご反応。
これはもう絵に描いたような、興味津々、の一言だったそうです。
パーティが終わって、それぞれお得意様がたとの二次会までのあいだ、スタッフ宿泊用に取ってあった隣接するホテルのお部屋でスタッフだけの軽い打ち上げをなさったそうなのですが、みなさま、お姉さまに対して、ご質問攻めだったそうです。
「あたしも気分良かったから、いろいろ包み隠さずしゃべっちゃった。あの子はこうしたら悦ぶとかこんな妄想しているとか」
「みんな真剣に聞いてくるから、つい言っちゃったのよね。これからも業務に支障がない程度になら、みんなも好きに虐めていい、って」
「ほら、あたしは忙しいからあまり直子をかまってあげられないでしょう?それで直子を放っておくと、無茶なひとり遊びとかしちゃいがちじゃない」
「だからどうせなら、安全なオフィス内で直子が適当にスタッフたちのオモチャになって発散するのもいいかな、って思ったの」
バスタブに身を寄せ合って浸かり、私の股間をチャプチャプ弄りながらニヤニヤ笑いのお姉さまがおっしゃいました。
「オフィス内で裸にするくらいはぜんぜん構わない、って。それで直子のムラムラが幾分でも解消出来るのなら、あたしも安心だし」
「外に連れ出すときやお客様が来社されるときは、社のイメージを損なわない程度にほどほどに、とは言っておいたから、そんなにひどいことはされないと思うわ」
「まあ、取引先の中にもノリのいいかたいらっしゃるし、いつもお茶を出してくれるあの社長秘書の子はエロい、って評判になっても、あたしはかまわないって思っているのだけれど」
そんなふうにして、私の扱いについて、社内的にいくつかのルールがみなさまのあいだですでに決められていました。
私がムラムラして誰かにかまって欲しいときは、首にチョーカーを着けてくること。
お姉さまとの秘密のお約束が、スタッフ全員とのお約束となっていました。
逆に、お仕事が猛烈に忙しいとか集中したいとか、そういう気分になれないときはチョーカーを着けずに出社し、スタッフも手を出さない。
チョーカーを着けて出社したからには、スタッフ全員が私のご主人様となり、性的なご命令には絶対服従すること。
こういうのは慣れ過ぎてビッチぽくなってしまうと面白くないので、出勤時や退社時など、お外でひとりで行動するときは、きちんとした清楚な服装でお淑やかにしていること。
当然、屋外での危ないひとり遊びは休日でも一切禁止、どうしてもしたいときはスタッフの誰かに必ず相談して同伴していただくこと。
そのときはみんな気を配って、好色なドスケベ男性たちにつけいられる隙は、絶対に見せないこと。
「直子、あたしらがいなくなった部室や楽屋でも、いろいろしでかしたらしいじゃない?ルール決めるとき、リンコが一番ノリノリだった」
「それに、あの下ネタ耐性の低いアヤまで愉しそうにニヤニヤしていたのだから、直子が放つマゾオーラの魅力って相当なものよね」
私が一所懸命に隠し通そうとしていた恥ずかしい性癖の数々は、あのイベントの日一日でスタッフのみなさま全員に知れ渡ってしまいました。
モデルをすると決まったときから帰るときまで、どなたの前でもほとんど全裸で過ごし、おっぱいも無毛なマゾマンコも、お尻の穴までスタッフ全員にじっくり観察されました。
初対面のしほりさまには、全身隅々までもてあそばれ、リンコさまの目前で強制的に自虐オナニーをさせられ、楽屋では、ほのかさまや里美さまにまでペットボトルに全裸で放尿する姿を目撃されました。
そして本番では72名、お姉さまからお聞きしたお手伝いのスタッフさんがたも除いた、純粋なお客様としてイベント会場にお越しいただいた方々の数です、ものお客様がたの前で、キワドイ衣装に感極まってオーガズムに達してしまう姿を何度もご披露したのです。
私という人間の淫乱さ、ヘンタイさ、ドマゾさは、その場にいらっしゃった全員の脳裏に深く刻み込まれたことでしょう。
もはや後戻りは出来ません。
私がこの会社に勤めつづける限り、夕張小夜が森下直子だとご存知なみなさま全員が私を、そういう目、で視つづけることでしょう。
レッテルは貼られてしまいました。
このレッテルから逃れたいのなら、お姉さまとのスール関係を解消して、この会社から離れるしかありません。
そしてもちろん私は、お姉さまとお別れするくらいなら死んだほうがまし、とずっと思っています。
「そう言えば直子、しほりさんとも何か約束したんだって?絵理奈さんが退院されたら快気祝いに、どこかで一席設けなくちゃね」
のんきにそんなことをおっしゃるお姉さまのしなやかなからだに、バスタブの中、無言でギュッとしがみつきました。
月曜日から始まるオフィス勤務がどんなものになってしまうのか、不安六、期待四くらいの割合に胸を震わせながら。
「でもね、うちのスタッフ全員、直子にすっごく感謝しているのは事実よ。あんなアクシデントがあったのに、直子のおかげでイベント大成功だったのだから」
お姉さまが私に負けないくらいの力で抱きしめ返してくださいました。
月曜日の朝出社したら、お昼までには羽田へ行って九州行きの飛行機に乗らなければならないというお姉さまは、旅支度のために日曜日の夜9時頃、いったんご自宅に戻られました。
玄関口まで全裸でお見送りした私にお姉さまは、今までで一番長かったかもしれない、くちづけをくださいました。
玄関ドアを開け放したまま、全裸の私とスーツ姿のお姉さまは5分以上、互いの舌を絡ませ合いました。
唇が離れると、したたるよだれを舌でベロっと舐めあげてから私の目を見つめ、ありがとう、と小さなお声でおっしゃり、最後にニッコリと素敵な笑顔をくださいました。
玄関ドアが閉じるとひとりぼっち。
でもタイミング良く急激な睡魔が襲ってきました。
イベント当日から今日まで、張りつめつづけていたドキドキと、滾りつづけていた劣情が、まるで映画で観たことのある燃料切れの飛行機のように失速しつつありました。
加えてこの三日のあいだ、数え切れないほどの回数昇りつめた、その体力の消耗も相当のものだったはずです。
なんとか目覚まし時計をセットしてそのままベッドに倒れ込み、すぐに意識が失くなったようでした。
そうして迎えた月曜日早朝、梅雨の晴れ間。
朝9時集合を言い渡されていましたから、8時半までには行かなくちゃと7時に合わせていた目覚ましが鳴る前に、目が覚めていました。
全裸のままシャワーへ直行、ゆっくりと全身を洗いました。
二の腕にうっすらと縄の痕、鏡に映したらお尻にも鞭のミミズ腫れが薄く残っていました。
その淫靡な痕跡を見て性懲りもなく疼き出すからだには、自分のことながら、その快楽に対する貪欲さに呆れてしまいます。
丁寧にからだを拭き髪をまとめてから、下着を手に取ります。
考えてみると、まともな下着を身に着けるのって丸四日ぶり?
イベント当日からシーナさまと自宅に戻り土曜日にお姉さまと入れ替わりになって今朝目覚めるまで、ずっと裸で過ごしていましたから。
そのあいだに身に着けたものと言えば、突起付きCストリングとか麻縄とか手錠とかハーネスとかバイブが落ちないように穿いたショーツとか洗濯バサミとかばかり。
久しぶりの布地にやんわり包まれた乳首たちが、なんだかムズ痒い感じ。
それからお気に入りの白いフリルブラウスに濃い目のベージュの膝丈フレアスカートを合わせます。
これにリネンのショートジャケットを羽織って出勤するつもり。
出勤ファッションはお淑やかに、がルールですから。
鏡に向かってメイクを始めると、どんどんとありふれた日常生活へと戻っている感覚がありました。
それと同時に昨日までの三日間のあれこれを思い出し、確実にこれまでとは変わるであろう今日からの自分のオフィス勤務に思いが至ります。
いったい私はこれからどうなっちゃうのだろう。
オフィスに入ったらすぐに、今日から直子には全裸で勤務してもらうことにします、なんて綾音部長さまからご命令されたりして。
そこまではいかなくても、何かキワドイ制服を着せられたり、セクハラの慰み者にされたり。
出勤時間が近づくにつれ、昨夜六対四だった不安と期待は、八対二くらいにまで不安のほうが勝ってきていました。
しっかりなさい、小心者直子、お姉さまに逢いたくないの?
そう自分を叱責して私は、オフィスへと向かいました。
首には、お姉さまからいただいた涙型のチャームがぶら下がった白いレザーベルトのチョーカーを巻いて。
8時25分、オフィス到着。
ドアキーを解除しようとしたら、もう開いていました。
あれ?もうどなたかいらしているんだ・・・
ほのかさまかな?
ドアを開けて、そっと中を覗き込むと大きな拍手の音が。
すでにお姉さま以下スタッフ全員が揃っていました。
里美さまのお顔まで見えます。
みなさま、私が出社するのを待ち構えていてくださったみたいでした。
「おつかれさまー」
「おつかれー」
「ナオコにはイベント当日、きちんと御礼と挨拶、出来なかったからね」
「イベント大成功の立役者、VIPだから、ちゃんと感謝の気持ちを伝えたかったの」
みなさまニコニコ、口々に褒め称えてくださいました。
なんだか気持ち悪いくらいに。
みなさま一様に、私がチョーカーを首に巻いているのをご確認され、嬉しそうなご様子をされているような気もしましたが。
それから全員応接ルームに移動して、お紅茶とケーキで、あらためてお疲れさまー。
お紅茶も今日は、雅部長さまとほのかさまが淹れてくださいました。
ひとしきり花咲く雑談も、イベントにいらしていたお取引先様やお客様がたに関することばかり。
やがて始まった反省会議。
反省会と言っても、ネガティヴなご発言は全く無く、どのアイテムがどのお客様とご商談成立したかのご報告が相次ぎ、ショーの個人的な感想などに言及するのも一切無し。
最後に、各々の今週これからのご予定を確認して、終始和やかな雰囲気で終わりました。
10時前に会議が終了すると、お姉さまと綾音部長さま、それに営業の雅部長さまとほのかさまは、イベントで商談成立したお客様がたとの打ち合わせのために、それぞれ東京駅や羽田へと旅立っていきました。
里美さまもご自分のオフィスへとお戻りになられ、オフィスに残されたのは、私と開発部のリンコさまとミサさまの三人に。
そのリンコさまとミサさまも、ご自分たちの開発ルームにこもりきりとなられました。
私も、イベント中の経費の精算や売上見込の集計、小口現金の出し入れのために銀行へ行ったりと、一日中あわただしく過ごしました。
いつの間にか退社時刻となり、リンコさまたちに内線でご連絡をしてみました。
開発部もイベントの余波で、たくさんのパターンを大急ぎで引かなければならず、出来るだけ済ませちゃいたいので今日はおふたりとも部室にお泊りになるとのこと。
「先に上がっていいよー。お疲れさまー、また明日ねー」
いつもと変わらないご様子で明るくおっしゃってくださいました。
私、どうされちゃうのだろう、って緊張していた分、なんだか肩透かしの気分でした。
今日されたえっちなことと言えば、雅さまがいつものようにハグしてきたとき、右腕だけふたりのからだのあいだに入れ、右手で私の左おっぱいを服の上から強くモミモミされたことくらいでした。
雅さまがそんなことをなさるのは初めてでしたが、私はほのかさまの視線が気になって仕方ありませんでした。
やられながらチラ見するとほのかさまは、背筋がゾクッとするような妖艶な笑みを薄く浮かべて私たちのことを見ていました。
ほのかさまがそんな表情をお見せになったのも、初めてな気がしました。
お家に帰ると早速全裸になり、イベントショーの思い出しオナニーをしました。
数回イッて落ち着くと、自然とまた、これからのことを考え始めてしまいます。
社員のかたたちはみなさまオトナだから、私を自由にしてもいい、って言われても、がっつくケダモノみたいに、すぐ虐めてきたりはしないのだろうな。
何かを企んで、いつか仕掛けてくるのでは、とも思うけれど。
意外とこのまま普通に、軽いセクハラ程度の平穏なオフィス勤務のままなのかもしれないな。
そう考えると、被虐を期待していた分がっかりするのと同時に、心の奥底で大きく安堵のため息をついていることにも気づきました。
お姉さまは今日から九州で、戻られるのは週末、早く逢いたいな。
数日ぶりに穏やかな眠りにつきました。
でもそれは俗に言う、嵐の前の静けさ、に過ぎなかったようです。
次の日、出社すると社長室内の壁際に、見慣れない茶色いチェック柄の不織布に覆われたスーツロッカーが設えてありました。
不審に思ってチャックを開けてみると、中に吊るされているのは紛れもなくイベントでご披露したアイテムの数々。
光が当たるとシースルーになるワンピース、透明ビニールのように見事にスケスケなベージュのスーツ上下、ぴったりフィットのキャットスーツ、恥丘丸出しな超ウルトラローライズジーンズ・・・
どれも、イベント会場でお客様がたにご披露したときの、身を切るような羞恥と甘美な昂りを思い出させる破廉恥アイテムばかり。
でもなぜ、これをこのお部屋に・・・
イベントの最中、ちょうどあのローライズジーンズをご披露するときにリンコさまがおっしゃった、あるお言葉に思い当たり、マゾマンコがキュンと疼きました。
見なかったフリをして業務に戻りました。
その日は、綾音部長さまが朝からデスクでお電話をかけまくり取りまくりなさっていて、お姉さまと営業部のおふたりは出張中、開発部のおふたりは相変わらず開発ルームにこもりきり、という状況でした。
私も綾音さまが取り切れないお電話に対応したり、そろそろ迫ってきた月末に向けてご請求とお支払の再チェックをしたりと午前中は忙しく過ごしました。
午後になり、綾音さまが、直帰するから、とお出かけされて少し経ったとき、それは始まりました。
私のお仕事も一段落して、ネットでも見で息抜きしようかな、と立ち上がったとき。
社長室のドアがコンコンとノックされ、ドアを開けるとリンコさまとミサさまがニコニコなお顔で立っていらっしゃいました。
おふたりともそれぞれ片手にひとつづつ、大きくふくらんだショッパーの紙袋をお持ちになっていました。
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