お姉さまは、私の両手首と両足首を繋いでいるジョイントをそれぞれ外してくださり、まず両腕が自由になりました。
それから、私のアソコの目前にしゃがみ込み、ラビアにとりついている悪魔のオモチャを取り外し始めました。
噛みついたクリップのねじが緩むたびに、ラビアに血流が戻りズキンと痛みます。
クリップが全部はずされ、オレンジ色のリングが取り除かれて、私のアソコはようやく唇を閉じることが出来ました。
棒枷は、外していただけませんでした。
「直子の柏餅、まだちょっと半開き状態ね」
お姉さまがからかうみたいに笑い、手に持った悪魔のオモチャを私の顔の前で揺らします。
リングやクリップに着いていた私のおツユの雫が、私の顔に数滴、降りかかりました。
「リビングのテーブルにアイス用意するから、行きましょう。飲み物のグラスを適当に借りるわよ」
シーナさまは、勝手知ったる他人の家、という感じでスタスタとリビングのほうへ消えていきます。
「わかりました。ほら、直子、立てる?」
差し伸べられたお姉さまの右手にすがりつき、仰向けの上半身を起こしました。
それから両足を踏ん張って、ヨロヨロ立ち上がります。
腰全体が重いのにフワフワもしているみたいで、ヘンな感じ。
立ち上がると今度は、上半身のほうが重く感じてフラフラとよろけてしまいました。
自由になった両手で髪をかき上げると、顔中汗びっしょり。
不自由だったとき気になっていた部分、おっぱいや乳首やアソコやお尻を、実際に手で触れて、無事を確かめます。
お尻がまだ少しヒリヒリしている以外は、異常無し。
乳首もおマメも敏感なまま。
ただし、全身が汗やいろんな体液でヌルヌルでした。
「あの、お姉さま?私もちょっとシャワーを浴びてこようかと思うのですが・・・」
立ち上がってからの私の振る舞いを、傍らでずっと無言で眺めているお姉さまに、おずおずとお願いしました。
「ああ、確かにからだ中ベトベトね。でもいいわよ、浴びなくて。どうせ休憩の後、またすぐ同じ状態になっちゃうのだから」
お姉さまに、取り付く島も無い口調で却下されました。
「このタオルで軽く拭いとけばいいわ」
私の頭部分の下敷きになっていたバスタオルを手渡してくだいました。
「それにあたし、匂いフェチのケもあってね。直子がヌルヌルになったときに鼻をくすぐる、なんて言うか、だらしのない臭い?も意外と好きなのよ」
お姉さまがイタズラっぽく笑い、私の手からバスタオルを取り上げてお顔を埋めました。
「さあ、行きましょう、シーナさんがお待ちかねよ」
お姉さまに左手を引っ張られ、私はツツッと前につんのめります。
両足に棒枷を施されたままの私は、ズルズル摺り足のロボット歩行しか出来ないのです。
「ねえねえ、早く来ないと、アイス溶けちゃうわよ?どうせふたりでイチャイチャしているんでしょ?まったく!つきあい始めのカップルは、サカリのついた猫と一緒なんだから・・・」
待ちかねたらしいシーナさまが、サンルームに戻っていらっしゃいました。
摺り足ロボット歩行でちまちま進み始めた直後でした。
「何しているの?足に棒枷着けているドレイが、立って歩こうなんてナマイキよ?」
シーナさまったら、私の姿を見た途端、愉しそうな罵声です。
「ちょっとそのまま待ってて」
シーナさまは、床に散らばっているお道具の中から、何かを拾い上げ、私に近づいてきました。
手にされているのは細い鎖。
私の赤い首輪の正面のリングに鎖の端のジョイントをカチリと繋ぎ、もう片方の端をお姉さまに握らせました。
「ほら、直子さんは四つん這いになって、エミリーはそのリードを引っ張って。それが飼い主とドレイの正しい関係よ」
「わかったらさくさく、リビングに集合しなさい」
それだけ言い渡すと、再びスタスタ、リビングのほうへ戻られました。
「なるほどね。直子?」
「あ、はい」
お姉さまの問いかけに、その場でしゃがみ込んで両手を床に着けました。
お姉さまがグイッと鎖を引っ張ると、私は四つん這いで歩き始めます。
右手、右膝、左手、左膝と順番に出せば、摺り足より断然早いのは確かです。
四つん這いになると、突き上げている腰と、棒枷によって無理矢理開かれている無防備な股間への羞恥心が増大します。
室内のあちこちにある鏡やガラスに、お姉さまに鎖で引かれて四つん這いで歩く、自分のみじめな全裸姿が映ります。
住み慣れた自分の部屋なのに、私、どうしてこんな格好をしているのだろう?
左右に切れよく揺れるお姉さまのかっこいいヒップを見上げながら、私の被虐心がみるみる満たされていきました。
リビングに着くと、L字ソファーの前のテーブルにアイスクリームと飲み物がセッティングされていました。
シーナさまはすでに腰掛けられています。
「やっと来たわね。ほら座って座って。直子さんも、今は休憩だから立ち上がっていいわよ」
飲み物は、シャンパンらしきボトルとスポーツドリンクのペットボトル。
アイスクリームは、何やら高級そうなカップアイス。
お姉さまがL字のもう一方の奥へ、私はそのお隣に、棒枷の足で苦労して腰掛けました。
「このアイス、なぜだかけっこうシャンパンに合うのよ。さ、とりあえず乾杯しましょう」
シーナさま自ら、それぞれの細いシャンパングラスに注いで、かんぱーい!チーンッ!
私は死ぬほど喉が渇いていたので、一気にゴクゴク飲み干してしまいました。
「ああ、やっぱりね。直子さんたちはきっと死ぬほど喉が渇いていると思ったから、もう一本冷やしてあるの」
「あ、でも直子さんは、それだけにしておいたほうがいいわ。この後も大変だから。あとはこのスポーツドリンクを好きなだけお飲みなさい」
私のグラスにスポーツドリンクを注いでくださりながら、シーナさまが愉しそうにおっしゃいました。
そのアイスクリームは、フルーツの果肉やチーズクリームとかも詰まっているようで、濃厚なのにさわやかで、すっごく美味しかった。
まだ充分に固いアイスをスプーンで突っつきつつ、スポーツドリンクを何杯もゴクゴク飲んで、おふたりのお話に耳を傾けました。
「それにしてもエミリー、見事なご主人さまっぷりじゃない?充分よ。わたしが教えることなんて、もう無さそう」
「いえいえ、まだぜんぜん自信が無くて。だからこの後、シーナさんにいろいろご教示いただこうと思っています」
「部屋に入って、直子さんの姿を一目見たとき、やるなー、って思ったわよ。この子のマゾ心を的確に突いた拘束具合だったもの」
「あたしなりにけっこう考えたんですよ。直子に悦んで欲しくて」
「おおお、いいわねー、お熱いこと!」
シーナさまにおどけてひやかされ、お姉さまと私が盛大に照れます。
「やっぱりロープの使い方はマスターしたいな、って思っています。直子が好きそうだし。あとは責めの加減がまだまだわからなくて」
「それは、場数をこなせばだんだんわかってくるはず。直子さんは、かなりハードにしてもネを上げないし」
「そうそう、鞭って、愉しいですね。ふるっているうちにどんどん興奮しちゃって、止まらなくなりそうでした」
「それを愉しめるのなら、もう立派なエスよ。素質充分」
「最初は、打たれてどんどん赤くなるお尻が痛々しくて、可哀想に思えていたのに、だんだんと、もっと赤くしてやるっ、てなっちゃう」
「わかるわかる。その上、直子さんて、ゾクゾクするほどいい声あげるでしょ?あの声聞くと、もっと啼かせてやるっ、てなるわよね?」
「あの鞭はお高いのですか?すごくしっかりとした造りですよね?」
「ああ、わかる?あれはかなりいいものよ。バラ鞭も乗馬鞭も職人手造りの一点もの。もともと直子さんのために用意したものだから、これからも自由に使っていいわよ」
「本当にいいのですか?」
「うん。エミリーにあげる。わたしからのお祝いと思って。あとで名前も入れてあげるわ」
「うわー。ありがとうございます」
私も一緒にお辞儀をします。
「そう言えば、直子のオモチャ箱を見て思ったのですけれど、口枷類、ボールギャグとかは、まったくありませんでしたね?」
「ああ、気がついた?わたしはあまり、その手は好きではないのよ。エミリーは、そういうの、してみたいほうなの?」
「あ、いえ、あたしはイキ顔フェチですから、相手の顔面を故意にいじくるのは好きではないです。口枷とかマスクとか」
「へー。そのへんでもわたしたち、気が合うようね。直子さんもその手は好きじゃないみたいよ。せいぜい手ぬぐいで猿轡とか、舌を洗濯バサミで挟むくらいでしょ?許容範囲」
突然私に問いかけられて、はいっ!と、あわてて答えます。
「あたしが見たいのは、可愛い顔が苦痛や快感で淫らに歪む様子なので、顔は絶対見えていなきゃだめだし、声も、ボールギャグとかで塞ぐのではなくて、がまんさせるほうが好みです」
「うん。わたしも同じ感じ」
「欧米のボンデージものとか見ていると、絶対すぐに、ボールギャグとか口枷をかましますよね?縛りものはどれも。その上、ひどいのになると目隠しやら全頭マスクまで」
「うんうん。でも、あちらの人は、ヨガリ声も大きいから、口塞いでおかないとうるさくて仕方ないのかもしれないわよ?、ビデオの収録だと」
シーナさまが笑いながらの相槌。
「せっかく綺麗なモデルさん使っているのに、真っ先に顔崩してどうする!? ってあたしなんか思っちゃいますけれど」
「欧米のエスエムは、ドミネーションアンドサブミッション、支配と服従だから、口答えの自由なんて真っ先に封じたいのかもしれないわね」
「もったいないなー、って、いつも思います」
「まあ、あちらだと、それが、正統派ボンデージ、っていう風潮があるみたいだからね。とくにラバーコスチューム系フェチにとっては、肉体すべてを覆って無機質になること、が最上らしいし」
「ああ、なるほどねー」
「このあいだ他の人と似たような話題をしたときに出たのだけれど、鼻フック、ってあるじゃない?鼻の穴に引っ掛けて豚鼻にしちゃうやつ」
「はい、わかります」
「あれってオトコの発想だよねー、って話になって」
「あれもあたしは、嫌いです。あんなの、何が愉しいんだろ?」
「女同士であれをすると、相手の顔を醜くしてやりたい、っていう、やる側の願望が露骨に見てとれちゃうから、責めている側が一回り小さく見えちゃう。嫉妬?コンプレックス?みたいな。それか、愛の無いエスエム、ただのイジメプレイ。単純に醜くなった相手を嘲笑するっていう」
「日本のエスエムは、一部を除いてイジメっぽいのがはびこっていますからね。愛のある責め、が一番見受けられる日本のフィクションて、たぶん女性作家が書いたボーイズラブの世界なんじゃないかな?薦められたのをいくつか読んだだけだけれど」
「まあ、でも、知り合いには、けっこう美人なのに、あの手のプレイを好むマゾ女もいるから、一概には言えないけれどね」
「へー」
「それが言うには、こんなに醜くされた顔を世間様に見られて恥ずかしい、っていう美人ゆえの自虐の愉悦らしいけれどね。ある意味高慢」
「ふーん。そういうのもあるのですね」
「わたしも、どうでもいい相手なら、全身拘束してボールギャグに鼻フックで鏡の前に放置プレイ、ってラクでいいな」
シーナさまとお姉さまが、あはは、と笑いました。
「ところで直子さんは、エミリーの会社にお世話になること、決めたの?」
「えっ?あっ、えっと・・・」
シーナさまとお姉さまのエスエム談義に、真剣に聞き入っていた私は、突然の話題転換に面食らってしまいました。
「一応勧誘して、資料渡して、返事は後日、ということになっています」
お姉さまが代わって答えてくださいました。
「ふーん。直子さんは、迷っているの?」
私をじっと見つめて、シーナさまが尋ねます。
「あ、いえいえ。ぜんぜん迷ってないです。お話を伺ったときから、お世話になることに決めていました」
本心をありのままに、焦り気味早口でお答えしました。
「そう。よかった。エミリーの会社なら、わたしもたまに出入りしているし、わたしと直子さんとは、まだまだ友情を深められるというわけね」
「シーナさんには、海外のアパレルの動向や生地の買いつけなんかで、何かとお世話になっているのよ。このあいだもインドネシアからすっごくいい生地をひいてもらって」
「ああ、あれね。どんなドレスになるのか、楽しみだわ」
お姉さまとシーナさまが仲睦まじく微笑み合います。
そっか、おふたりには、そんな接点もあったんだ。
「だったらこれは、就職祝い、として渡せるわね。わたしから直子さんへの手切れ金かな?」
冗談めかして笑いながら、シーナさまがネックレスケースのような大きめな紫のビロードの平たい宝石箱を取り出し、テーブルの上に置きました。
「最初に、上のメス犬用に、わたしのデザイン画を渡して現地の職人に作らせたの。そしたらその出来栄えがすごくいいから、ふと思って、直子さん用のもついでに作ってもらったの。冬に南アジアを巡ったときのお土産よ」
シーナさまが天井に顎をしゃくりながらおっしゃっいました。
メス犬というのは、このマンションの階上に住んでいらっしゃるお金持ちなマゾおばさまで、シーナさまのパトロンさん兼ドレイさん兼恋人さんです。
「ただ、これ作っても、わたしが直子さんにこれを使う機会は来ないとも思っていたのよ。百合様との約束があるから」
「でも、直子さんにちゃんとした恋人が出来る気配も無いし、わたしも使ってみたくてウズウズしてきて、百合様には内緒でこっそり使っちゃおうか、って考えていた矢先だったから、エミリー、あなた超ラッキーよ」
「それで、直子さんが選んだパートナーがエミリーだったおかげで、百合様との約束は破らずに、わたしもその場に立ち会えるというわけ。世の中って意外と上手くできているものね」
「うちのメス犬に使った感じだと、かなり具合いいみたいよ?ヒーヒー啼いて悦んでいたわ」
「でも直子さんの場合は、未知との遭遇だからねー。どうなるのかしら?」
シーナさまの一方的な思わせぶりで謎だらけのご説明に、私とお姉さまの目は、ビロードの宝石箱に釘付けです。
いったい何が入っているの?
私たちふたりのワクワクな様子にご満悦な笑みを浮かべたシーナさまが、おもむろにケースの金具をパチリと外しました。
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*就職祝いは柘榴石 09へ
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