2022年3月27日

肌色休暇二日目~いけにえの賛美 16

 「あ、でもごめんなさいね。わたくし、食事中の顔を誰かに見られるのって苦手なの。だから、取り分けてこちらの机に持ってきてくださると嬉しいのだけれど」

 名塚先生が本当に申し訳なさそうにおっしゃいます。

「あ、はい。そういうことでしたら、もちろん喜んで」
 
 居住まいに品があり、かつフレンドリーな名塚先生のご様子にすっかり崇拝者と化した私は、寺田さまを前にされたジョセフィーヌさま並にシッポが振れています。

「わたくしはとりあえず、レバーペーストのとトーストしたハムチーズ、あとレーズン入のスコーンにベリージャムでいいわ。あとはあなたがお好きにお上がりなさい」

「かしこまりました。ご用意させていただきます」

 レバーペーストらしきものが挟んであるのは小ぶりのフランスパンでレタスがはみ出しているやつみたい。
 薄いイギリスパンをトーストしたハムチーズ、それにスコーンをそれぞれ三つづつ取皿に移し、ガラスのジャム入れにブルーベリージャムとバターをたっぷり入れてバターナイフを添えます。
 ティカップに注いだ冷たいミルクティと小さなビニール袋に入った使い捨てお手拭きを銀盆に乗せて、机上に空きスペースを作ってくださった名塚先生の文机へ。

「ありがとう」

 文机の脇で膝立ちであれこれやっている私の姿をご興味深げにジーッと眺めていらっしゃった名塚先生が、ニッコリ微笑まれます。
 すべてを机上にお乗せしてから、膝立ち歩きで座卓前に戻る私。

「あら、裸エプロンではないのね?それも寺田の指示かしら?」

 座卓の前に正座姿で落ち着いた私に、名塚先生からお声がかかります。
 昼間のときとは似ても似つかない、ごく普通のご中年女声の柔らかな声音です。

「あ、はい…」

 寺田さまたちがディスカッションされていた名塚先生のご嗜好に忖度された思惑をバラしてしまっていいものかわからないので、肯定するだけに留めました。

「そう…まあ、それはさておいて、いただきましょう。美味しそうなものばかり目の前に並べられて、わたくしもお腹が空いていたことを急に思い出しちゃった」

 一瞬、やれやれ、みたいなお顔になられ、すぐに照れ隠しのようにお道化たようなお顔を私に向けられ、お手拭きで両手を拭われる名塚先生。

「いただきます」
「いただきます」

 名塚先生の涼やかなお声に少し遅れて私の声も重なり、まずはティカップを唇に運びます。
 目の前の大皿には、取り分けたのにまだ三分の二くらいは埋まっているサンドイッチ類の群れ。
 タマゴサンド、ハムチーズキュウリ、BLT、何かフライが挟まったのなどなど。
 とても全部は食べ切れなさそう、と思いつつハムチーズキュウリをひとつ口に運ぶと…

   美味しい!
 パンはフワフワしっとりで、芥子バターがピリッと効いて、具材もどれもが新鮮で…
 ひとつ食べ終えると同時にふたつめに手が伸びていました。
 みっつめにBLTサンドを食べ終えて、そっと名塚先生のほうを盗み見ました。
 
 名塚先生は文机の正面、ラップトップパソコンのモニターを凝視されたまま、左手にサンドイッチを持たれ、右手は軽やかにキーボード上を跳ね回っておられます。
 ときどき何か思案されるように少し上をお向きになられ、そのときは右手の動きもピタリと止まります。
 どうやらお食事中もご執筆の手は止められないご様子。

 文机の左脇、すなわちサンドイッチのお皿が乗っていないほうには、何かの資料なのでしょう、積み重ねられた数冊の書籍。
 お顔は前に向けたまま時折右手がお皿に伸び、手探りでサンドイッチをつまみ取って左手に持ち替えられ、再びキーを叩き始める右手。
 ふたりとも沈黙したまま、しばし無言のお食事タイムがつづきます。
 
 そろそろ空腹も落ち着いてきたかな、と思いつつ、まだ手をつけていなかったスコーンにジャムを塗るべく私がバターナイフに手を伸ばしたとき…

「そう言えば森下さん?昼間はごめんなさいね?」

 名塚先生から唐突にお声がかかりました。
 それもなぜだか謝罪のニュアンス。

「えっ、あの、な、何がでしょうか?…」

 バターナイフまで届きかけていた手をあわてて引っ込め、スコーンもお皿に戻して名塚先生のほうへと向き直ります。
 名塚先生はいつの頃からか半身をこちらに向けられ、私のほうをずっとご覧になられていたみたい。

「わたくしって、お話のプロットを練り始めるとそれだけに夢中になっちゃって、登場人物に同化しちゃうところがあるから」
「書き始めたらもう、その世界に入り込んじゃうの」

 ティーカップを優雅に傾けつつ、私を淡い笑顔でじっと見据えてご説明くださる名塚先生。

「昼間のときも、誘拐してきた深窓のご令嬢を辱めるのが趣味な有閑マダムになりきっていたの。だからあなたを手加減無しに引っぱたいたりしちゃって」
「痛かったでしょう?本当にごめんなさいね」

 本当に申し訳無さそうに私を見遣る名塚先生。
 昼間とは完全に別人に思える、その品のある物腰に私のほうが恐縮してしまいます。

「あ、いえ、大丈夫です…あの、先生もお気づきだとは思いますけれど、私は、あの、そういう性癖、あ、いえ趣味を持つ、マ…じゃなくて、お、女…はしたない女ですから…」

 いただきます、と宣言してからつづいた沈黙に対する何て言うか、重苦しさ?からの開放感もあったのでしょう、有名な作家さまでいらっしゃる名塚先生にいろいろお聞きしたい、という好奇心が渦巻いていました。
 でも、名塚先生の優雅なオーラにあてられて、先生の前で、はしたない言葉は使いたくない、みたいな気持ちにもなっていました。

「私のほうこそ、先生があのご高名な小説家でいらっしゃるということを知らなくて、ずいぶんご無礼なことを言ったりしたりしてしまったと思います。本当にごめんなさい」

 名塚先生は曖昧な笑顔を私に向けたまま、先を促すように私を見つめています。

「私が大好きな、高校生の頃にすごく感銘を受けた小説を書かれたかただと知らなくて…」

 やよい先生と前後して出会った、私が大好きだった年上の素敵な女性が貸してくださった、今思えば生涯初めての本格的なレズビアン官能小説でした。

「あら、わたくしの作品、読んでいてくださったの?それは何だったのかしら?タイトル覚えていらっしゃる?」

 名塚先生が嬉しそうな笑顔で尋ねてくださいます。

「あ、はい、忘れるはずありません。鬼百合と姫小百合、っていうタイトルの文庫本で、全寮制の女子学園が舞台のお話でした」

 少し驚いたようなお顔になられる名塚先生。

「あらあら、それはまたずいぶん昔の作品ねえ。百合薔薇学園サーガは、わたくしの初めての少女向け文庫本描き下ろしシリーズだったの。もうン十年前ね」
「それまでSF寄りなお話ばかり書いていたのだけれど、ファンタジーに逃げないシスもの、今で言う百合ね、同性愛的な少女小説の学園ものを書いてみようと思って書いたの」

「最初の二、三冊までは普通の少女小説だったのよ。でもちょうどその頃、とある女性と初めて肌を合わせてね、それがとても刺激的だった…」
「そうしたらどういうわけかSF寄りからSM寄りになっていってしまったのよ」

 嬉しそうに、懐かしそうにお顔をほころばせて教えてくださる名塚先生。
 そのままのお顔で、こんなことをおっしゃいました。

「それにしてもあのタイトル、意外と人気あったのね。発表当時は確か賛否両論で、売上もあまり芳しくなかった記憶があるのよね…」
「それで、先週遊びに来られた人も同じようなことをおっしゃっていたのよ。あなたより一回りくらい年上の女性だったけれど」

 私の顔をまっすぐに見つめられる名塚先生、そしてつづけられます。

「その人もあなたと同じくらいマゾっ気撒き散らしていたの。ずいぶん前に一度結婚したこともあるらしいのだけれど結局すぐ離婚、その後は男性の前ではエスっ気全開でセックスなんて以ての外、でも同性相手だと虐めて欲しくて仕方ないんだって。それで、数日お相手してもらったの」

「そのM女さんは器用でね、ピアノが物凄くお上手なの。ここにいるあいだもお仲間にせがまれて、オールヌードの両乳首からクリップで重たそうなチェーンを垂らした奴隷姿で、ホールのピアノで見事な演奏を聞かせてくださったのよ。ラベルやドビュッシー、ストラヴィンスキーやラフマニノフまで」
「彼女のおかけでわたくし、今月入稿の小説誌の短編、一気に書き上げられちゃったもの」

 そこまでおっしゃって私にニコっと微笑みかけられた名塚先生は、お皿に残っていた最後のサンドイッチを右手でひょいっとつままれ、パクっとお口にしたかと思うとフイっとパソコンの画面に向き直られました。
 名塚先生の右手がしばらく口元に留まっていたと思うとすぐ、両手が凄い勢いでキーボードを叩き始めました。

「…そうなんですね…そのかたにはどんな……」

 会話をつづけたくて名塚先生のお背中に語りかけますが、先生には聞こえていないみたい…
 それきり再び沈黙の時間が訪れ、私は仕方なく何も付けないスコーンをモソモソと咀嚼します。

 スコーンを食べ終え、もうお腹いっぱいかなとトレイを見ると、まだサンドイッチが四、五片残っていました。
 これ、どうすればいいのかな?と思いつつ、振り向いてくださらない名塚先生のお背中に視線を遣ると、座椅子に座られたお尻の数十センチ後ろに見開きにされた肌色ばかりで少しピンク色が散りばめられた大きめなご本、写真集?
 
 そちらに焦点を合わせたら何やら横文字と、見開きの片側はベッドに磔姿で縛られた綺麗な西洋女性の写真、もう片側は紛れもなく、その女性のものであろう無毛の女性器をクスコで拡げられた無修正どアップの写真でした。
 おそらく外国のそういう写真集なのでしょう、それを見たとき、ああ、この先生は本当に、そういうお話を書くことをお仕事にされているのだな、とあらためて思いました。

 それから5分間くらいでしょうか、手持ち無沙汰の沈黙がつづきました。
 
 聞こえるのは名塚先生がキーボードを叩かれるカタカタという音と、相変わらず薄っすらと漂うように流れている女声の旋律。
 耳を澄まさなければ聞き取れないくらいの微かなお声が、雨の日と月曜日は気分が沈むの、って物憂げに歌っています。
 実家にいた頃、母に教えてもらって大好きになったその曲を聞き取ることに、自然と意識が集中していました。
 
「オナ子は、ジバクは出来るわよね?」

 不意に名塚先生からお声がかかりました。
 慌てて先生のほうを見遣ると、先生は相変わらずお背中を向けたまま、お顔もモニターに向かわれたまま。 

「オナ子?そこに居るのでしょ?返事は?」

 名塚先生の声音がお食事中のときとはまったく違っていました。
 ここに着いてすぐに、ここでいたぶられたときと同じ高圧的なご口調。

「あ、はい、先生。ナオ子、あ、いえ、オナ子はここにいますっ!」

 私も無駄に声が上ずってしまいます。

「何が先生だい?わたくしはおまえの何だったっけ?」

「あ、はい、ごめんなさいっ、あ、あるじさまっ!」

 名塚先生ったらどうやらまた、ご創作中の登場人物とご同化されてしまったみたい。
 本当に私を参考にしてご執筆くださっているんだ…
 なんだか嬉しくなってきました。

 今この瞬間から、私のお相手をしてくださるのは、官能小説家・名塚毬藻先生ではなくて、有閑マダムでサディストで容赦の無い本気ビンタをくださるあるじさま。
 そして私は慰み者にされるために誘拐されてきた、憐れな令嬢マゾ娘。
 すでに昼間の壮絶なご調教で完全服従状態、何もかも言いなり人形と化しているのです。

「ふん、で、質問に答えなさい」

「あ、はいっ。ジ、ジバクですか?…ジバク出来るかとおっしゃられても…」

 私の頭の中では、自爆、という単語が渦巻いていて、爆発物をからだに巻いたゲリラさんの姿が浮かんでしまい、軽いパニック状態。

「ジバクはジバクだよ。自分で縛ると書いて自縛。それともおまえみたいな若いのにはセルフボンデージとか横文字のほうがいいのかい?」

「あ、いえ、はいっ、せ、セルフボンデージなら一通りのことは心得ています…ひ、菱縄縛り亀甲縛りとか後ろ手縛りとか…エ、M字開脚縛りだって自分で出来ます…」

 うろたえてしまい、自分でもかなり恥ずかしいことを口走っている自覚はありました。

「ふん、いやらしい女だね。それなら股縄なんて目を瞑っていても出来るね?」

 また一段階、名塚先生のお声が冷たくなりました。

「あ、は、はい…大丈夫です…」

 私の両腿の付け根がヒクヒク疼き、はしたないよだれがジュクジュク分泌されています。

「それならエプロン取って、その恥ずかしい肌着のまま、そこの箪笥の下から二段目を開けなさい。おまえみたいな淫乱マゾ娘が好きな道具がたくさん入っているから」

 お顔は正面を向かれたまま後ろ手に、お部屋の左壁際の立派な総桐箪笥を指さされる戸塚先生。
 私が初めてこのお部屋に通されたとき、寺田さまがその箪笥をガサゴソしておられたのを覚えています。

「は、はいっ」

 正座のまま両手を背中に回し、まずはエプロンの腰紐を外します。
 それから左右の肩紐をずらすと、ハラリと外れたメイドエプロン。

 その下にはピッタリと素肌に吸い付くように貼り付いたブルーグレイの薄い布地に包まれた私の肢体。
 おっぱいの丸みも乳首の位置も、裸でいるのと同じくらいクッキリとわかります。
 
 立ち上がろうと腰を上げた途端、ヌルっと食い込んでくる股間のVの字。
 その一帯の布地はあからさまに色濃く変色していて、それを着ている人物が紛れもなく発情していることを周囲に伝えてしまっています。

 お言いつけ通りの姿になってから、壁際板の間の箪笥へしずしずと向かいました。
 箪笥の目の前で腰を下ろすと、桐の香りがほのかにプーン。
 中腰になり下から二段目の抽斗の、銀製らしき重厚なふたつの取っ手を両手にそれぞれ握ります。

 んっ!
 力を込めてグイッと引っ張ると、最初は重そうな抵抗を感じたものの、大きさの割に建て付けが良いのでしょう、スルスルッと抽斗が飛び出しました。

 横幅一メートルくらいの抽斗の中は半分で仕切られていて、奥行き50センチくらいの片側には膨らんだ麻袋の束、もう片方には20センチ四方くらいのカラフルな不織布ケースが様々な形に膨らんで整然と並んでいました。

「その段には、おまえみたいなマゾ女が大好きな麻縄と張形類がしまってある。これまで数え切れないほどのマゾ女を虐げてきた道具たちだけれど、安心しな。使用後の手入れと殺菌はしっかり施してあるから」

 幾分お芝居がかった凄みのあるおっしゃりようにあるじさまのほうを見遣ると、あるじさまは未だモニターに向かれたまま。
 私はそのお背中をじっと見つめています。

「そこから7メートルと書いてある麻袋をひとつ手にして、中の縄を取り出しなさい。抽斗は閉めなくていいよ。まだ使うものもあるから」

「は、はい…」

 あるじさまのお背中に促されて抽斗の中身に目を戻すと、各麻袋の結い紐部分にプラスティックの札が付いていて7mとか10mとか書いてありました。
 7mの札の付いた袋をひとつつまみあげ、結い紐を解いて中身を取り出します。

 相当使い込まれている感じな浅黒い生成りの麻縄。
 油でまんべんなくテラテラに光っていて見た感じゾクっと凶々しいのですが、手にしてみると軽くてしっとりしなやか肌馴染み良さそうで…
 別の意味でゾクゾクっと感じてしまいました。

「その縄でまず、股縄をしなさい。三つ折りにして、四本の縄を並べておまえのマンコを包み込むような感じで」
「骨盤の上で一度しっかり結んで後々緩まないように。あと、余計なコブとか作らなくていいよ。食い込まない程度にギッチリ締めればいい」

「はい、わかりました…」

 あるじさまのご指示通り麻縄を持って立ち上がり、あるじさまのお背中のほうを向いて、おずおずと股縄縛りの準備を始めます。
 
 まずは紐のように食い込んでしまい、大陰唇が完全に左右にはみ出してしまっていたハイレグレオタの股部分を直しました。
 お漏らししてしまったように濡れそぼっているのに火照る熱を帯びたその部分、指先が触れるたびに糸を引く粘液、薄い布越しにクッキリいきり勃つはしたない肉の芽…
 自分のからだながら、恥ずかし過ぎて仕方ありません。
 
 股縄の縛り方は基本的にお褌の締め方と同じです。
 お言いつけどおり長い縄を真ん中からまずは二つ折り、さらにその真中を折ると二メートル弱な四本の縄の束となります。
 おヘソの下、骨盤の上辺りに回した縄の束をまずおヘソの下で一度縛って垂直に垂らし、股の間をくぐらせてからお尻の側で結ぶだけ。

 最後に余った縄をお尻の側で結ぶとき、いつもなら刺激を欲して食い込ませる感じに締め付けてしまうのですが、あるじさまは、包み込む感じ、とのご命令でした。
 グッと我慢して内股にピッタリ密着する感じにとどめます。

「締め終えたらわたくしの机周りの食器類を片付けなさい、オナ子の食べ残しもね。全部廊下に出しちゃって」

「はい…」

 裸同然レオタードの下半身に股縄だけ締めて、おずおずとあるじさまのお机へと近づきます。
 私のマゾマンコを覆う極薄生地の上には、ぴったり寄り添った四本の麻縄が通っています。
 一番外側左右の縄目が内腿なのか大陰唇なのかに擦れて、一歩踏み出すたびにもどかしい…
 それでもあるじさまの文机近くでひざまずき、食器を片付け始めました。

「あ、それはいいわ、そこに置いておいて」

 あるじさまのお飲みかけのティーカップに私が手を伸ばしたとき、あるじさまが振り向かれ、初めて私を視てくださいました。
 私の顔から始まって、首筋、胸の谷間、両乳首の突起、おヘソ、胴を絞る縄目、恥丘を這う縄、股間を覆う四本の縄を濡らす今にも滴りそうな雫…

 そこまで視線が下ろされて、もう一度私の顔に戻られたとき、あるじさまが凄く嗜虐的にお口の両端を歪められ、ニッコリ笑いかけてくださいました。


2021年12月19日

肌色休暇二日目~いけにえの賛美 15

 「あ、でも髪は洗ったほうがいいね、見た目でもかなりベタついちゃってるし。脱衣所の収納にシャンプー類やドライヤーが入っているから」

 バスルーム小屋へ向かおうと向けた背中に、中村さまからお声がかかります。

「あ、はい、ありがとうございます」

「全身をいったんすっかり清めてリフレッシュするといいわ。夜はまだまだ始まったばかり、これからが長いんだからさ」

 意味深なお言葉を残されて、プイッと踵を返された中村さま。
 どうやらこの後も、普通に過ごさせてはもらえなさそうです。

 目隠し樹木を抜けてガラス張りお外から丸見えバスルーム小屋へ。
 室内の電気を点けると夕方の薄闇にそこだけボーッと浮かび上がる感じ。

 もしお外にどなたかがいたら、灯りに照らされた私の入浴姿をまるで映画館で映画を観ているみたいに赤裸々かつ鮮明に鑑賞出来ることでしょう。
 どなたも覗いていないとわかっていても、凄く気恥ずかしい雰囲気です。

 脱衣所で首輪を外し、シャンプー類とドライヤーを確認してから浴室へ。
 今回は気兼ねなく頭からシャワーを浴び、ソープを入念に泡立ててボディアンドヘアケア。

 やっぱりずいぶん陽射しを浴びちゃったみたいで、白く残した恥ずかしい日焼け跡部分の肌がうっすらピンクに変わり始めています。
 この感じならお尻上の恥ずかし過ぎる自己紹介文も、東京へ戻る頃には読めなくなっていそう。

 余計なことは一切しないで丁寧にお手入れだけしてから、再び脱衣所へ。
 バスタオルでからだを拭った後、全裸のままドライヤーで髪を乾かしました。
 それからからだにバスタオルを巻きつけて首輪を嵌め、オールバックに髪をまとめたすっぴんでお外に出ます。

 お外は入浴のあいだに一層暮れなずみ、湿度の低い高原のそよ風がお湯で火照った素肌に心地良い。
 目隠し樹木を抜けて石畳を進み、正面玄関前へ。

 お屋敷の扉を開けた途端、美味しそうな匂いが鼻腔に飛び込んできました。
 ホールに入ると、中央付近の大きめな楕円形テーブルに色とりどりのお料理が並べられています。
 それを見た途端、グゥ、とお腹が小さく鳴り、お腹が空いていることにあらためて気がつきます。

「おお、戻ってきたね。さっぱりした顔しちゃって。髪上げた感じも色っぽくていいじゃん」

 おひとりだけ早々とお席に着かれていた五十嵐さまがお声をかけてくださいました。

「今日のメインディッシュは寺っち特製のスタミナカルボナーラパスタだよーっ」

 中村さまがホテルのルームサービスで使うみたいな銀色の配膳カートを押され、厨房のほうから現われます。
 つづいてワインボトルが2本刺さったクーラーを片手に提げられた寺田さま。
 最後にもう一台、何かが乗ったカートを押されてこちらへと近づいてこられるお姉さまのお姿が見えました。

「でも残念。直子はみんなと一緒には食べられないの。先生からご指名、入っちゃったから」

 カートを私のそばまで押してこられ、私に向き合わられたお姉さまの右手が、スッと私のほうへと伸ばされます。

「あんっ、いやんっ!」

 スルッと当然のように剥ぎ取られる私のバスタオル。
 またまたみなさま着衣の中で私ひとり全裸。

「直子は先生のお部屋にお食事を持っていって、一緒に食べなさい。それでしばらくまたお相手ね」

 お姉さまが運ばれたカートの上には山盛りのサンドイッチとスコーン、そしてミルクティのペットボトル2本にティカップがふたつ。
 つまり、このカートを先生、いえ、あるじさまのお部屋まで運びなさい、ということなのでしょう。

「この格好で…ハダカのままで、ですか?」

 他のお三かたからニヤニヤ見つめられる中、今更隠すのもワザとらしいし…とモジモジ尋ねる私。

「もちろんよ。直子を虐めてから先生、創作意欲がビンビンらしいから、いい作品になるように精一杯ご協力差し上げてきなさい」

 お姉さまが私を覆っていたバスタオルを丁寧に折りたたみながら素っ気なくおっしゃいます。

「あ、でもちょっと待って」

 異を唱えられたのは寺田さま。

「うちの先生、M女を脱がせていくシチュにも拘るほうだから、最初から全裸じゃないほうがいいかも…」

「そうだね、確かに」

 ご賛同されたのは中村さま。
 それからおふたりでしばしディスカッション。

「先生、今は何に取り掛かっているのかな。女教師凌辱もの?令嬢もの?時代もの?」
「直子とアソんでインスピレーション湧いたっていうんなら、令嬢誘拐ものじゃない?」

「令嬢ものか…でもさっきのブラウスはボロボロだし、スカートもヨレヨレだったよね?何着せよう」
「でも逆にさ、さっきのプレイで外にマッパで連れ出すまでしちゃったから、先生の中でその令嬢はもうM女奴隷状態にそこそこ堕ちてるんじゃない?」

「そっか、直子ちゃんも凄い乱れっぷりだったし、もう本格調教に移行しているかもね。それなら裸エプロンくらいでいいのかな」
「それだとエプロン外して即全裸でつまんないじゃない。脱がせる愉しみが味わえない」

「そっか、じゃあエプロンの下に先生好みのアレでも着せとこっか?」
「ああ、アレね。いいんじゃない、賛成。この子にピッタリそうにエロいのが確かあったはず」

 おっしゃった中村さまがタタタッとホールの奥のほうへと駆けだされます。
 そのお姿を呆気にとられて見ている私の背後で、寺田さまが後ろに結んだ私の髪を解かれました。

「そういう格好ならオールバックよりこっちの髪型のほうが似合うはず」

 そんなことをおっしゃりつつ、手慣れた感じで私の後ろ髪を分けられる寺田さま。
 あっという間に両耳の上で結んだツインテールヘアに早変わり。
 そこへタイミング良く中村さまが戻られます。

「ほら、まずはこれ着て」

 差し出されたのはクタッとしたブルーグレイの布片。
 手に取って広げてみると、これは水着?それともレオタード?
 ワンピース型で襟ぐりと背中が大きく開いていて、たぶんハイレグ。
 凄く軽くて薄くて伸縮性があって、しかもたぶん私には少し小さい…

 なにはともあれご命令ですので着てみます。
 両脚を通してからだを布片で覆い、肩紐を両肩へ。

「んっ!」

 やっぱり私には少し小さいみたい。
 伸縮性のある布地が早くも股のあいだへと食い込み、おっぱいを押し潰すように貼り付いてきます。

 やっぱり超ハイレグで骨盤の上ぐらいまでの素肌が露わ。
 股間を通る布片は幅5センチにも満たないくらいなので、大陰唇を隠すのがやっと。

 襟ぐりはおろか両脇も盛大に開いているので谷間はおろか横乳までもろ見え。
 更に薄くて伸びる生地のため、両乳首はもちろん前ツキな私の陰核の位置まで、布地がこれ見よがしに突き出され、正確にそれらの位置はおろか形状までを教えてくださっています。

「おお、やらしいねー。裸より断然えっちだ」
「早速股間が濡れてきちゃってるじゃん。ほら、色が濃く変わってる」
「これなら先生も、ヤル気倍増じゃない?」

 代わる代わる囃し立ててこられる寺田さまと中村さま。
 五十嵐さまはお姉さまのビデオカメラをずーっと私に向けておられます。

「このレオタって、確かエミリーんとこの製品よね?」

 寺田さまがお姉さまに尋ねられます。

「うん。うちで扱った素材みたいね。製品ではないけれど、たぶん新素材の試作で余った布地でリンコたちが作ったんじゃないかな?何かのコスプレ用に」

「ああ、エミリーんとこの社員の可愛い子たち、コスプレ写真撮りたいって女の子おおぜいで来たときあった。確かにあの子たちが先生へのお礼兼ご参考にって、エロい衣装たくさん置いて行ったような記憶があるわ」

 中村さまが相槌を打たれます。
 こんなに遠くまで来ても、私はリンコさま特製の辱め衣装から逃れられないようです。

「あとはこれを着て、仕上げにこれ、ね」

 ジョセフィーヌさまとのお散歩のときに着せられたのと同じようなミニ丈のヒラヒラ純白なメイドエプロンを着せられ、仕上げはメイドカチューシャ。
 真っ白なヒラヒラが付いたカチューシャが私の頭に嵌められました。

「おお、かわいーっ!」
「エロメイド、一丁上がりっ!」
「エプロン着けても勃起乳首が布地に響いていて、どっからどう見ても性的オモチャなM女召使いって感じ」

 今度は五十嵐さままでご一緒になられ、お三かたから囃し立てられます。

「さあ、それじゃあ先生のところへ行ってきなさい。場所はわかるわよね?直子が拘束された和室。あそこが先生のお仕事部屋」

 お姉さまが私を、お姉さまが押してこられたカートの押手の前に誘導しつつおっしゃいます。

「あ、カートは部屋の中まで入れてはダメよ。廊下に置いてお料理類だけ部屋に運ぶの」

 寺田さまがお優しく教えてくださいます。

「先生がお仕事している文机のそばに、もうひとつ座卓があるはずだから、まずその上のポットや湯呑を下げて、そこに置くといいわ」
「下げたポットとかは廊下のカートの上に置いといてくれれば、後でアタシらが回収するから」
「それで、ご一緒するように寺田に言われました、って言えば、先生も察するはずだから」

 細やかなご指示をくださる寺田さま。
 でも先生、つまりあるじさまは何をお察しになられるのでしょう…

「くれぐれも粗相の無いようにね。先生のご要望には何でもはい、はいって応えるのよ」

 なんだか母親のようなことをおっしゃるお姉さま。

「うふふ。今のエミリーの言い方って、タレントを枕営業に送り出す芸能マネージャーみたいよね」
 
 そんなふうに混ぜ返されたのは寺田さま。

「あたしたちもこれからディナータイムだから、食べ終えて一息ついて気が向いたら救出に向かってあげる。それまでがんばってきなさい」

 ずいぶん無責任なお姉さまのお言葉に送り出され、カートをしずしずと押しながらホールの奥へと向かい始めました。
 裸エプロンは免れましたが、ラバースーツ並みにからだを締め付けてくる極薄ハイレグレオタードに首輪とメイドカチューシャの格好で。

 ホールの扉を抜け左に折れると市松模様の瀟洒なお廊下。
 押しているシルバーのカートは高級品なのでしょう、軽々と音も無くスイスイ進むのですが、私のほうがなんだか歩き辛い。

 ハイレグ仕様の股布が一歩進むたびに食い込んでくるみたいに、恥丘から会陰までを刺激してくるんです。
 両乳房に貼り付いた伸縮性に富む薄布も、からだが動くたびに乳首先端が擦れる感じ。

 市松模様が途切れると今度は右に折れて一気に和風な板張りのお廊下。
 あるじさまのお部屋も、もうすぐそこです。

 あるじさま、今度は何をしてくださるのだろう…
 また本気なビンタをいただけるかな…
 今度はあるじさま自らお手を下され、あれこれされちゃうのかも…

 お部屋の敷居戸の前までたどり着いたときには、不安と期待の入り混じった妄想に布地からの肉体的刺激も加わって、狂おしいほど淫らな気持ちになっていました。

 いけないいけない。
 まずはちゃんとお勤めを果たさなくては。
 一度深く深呼吸してから強めにトントンと木の敷居戸をノック。

「失礼しまーすっ。お食事をお持ちしましたっ!」

 ハッキリゆっくりよく通るように大きめな声でご挨拶。

「あらあらハイハイ、どーぞー」

 思いがけずも、ずいぶんお優しげな柔らかいお声が返ってきました。

「あ、はいっ!失礼しまーすっ!」

 もう一回大きめの声でご返事してから、敷居戸をスルスルっと開きます。
 最初は寺田さまのお言いつけ通り、何も持たずに沓脱ぎへ。

 内側の障子戸はすでに開け放されていて、煌々と照っている照明。
 畳部屋のずっと奥の文机のところに、お背中を向けられたあるじさまが見えました。
 私の視線があるじさまを捉えると同時に振り返られるあるじさま。

「あらあら、あなたが持ってきてくださったの?えーっと、森下さん、直子さんだったわよね?」

 私に向けてたおやかな笑顔をくださるあるじさま。
 あれ?さっきと雰囲気が全然違う…

「あ、はい。森下直子です。今日からこちらにお世話になります。よろしくお願いいたします」

 お部屋にはどこからともなく薄っすらと女声の流麗で清楚な歌声が流れています。
 これって確かカーペンターズさんだっけ…

「はい、こちらこそ。ちょうどいいタイミングでしたわ。ちょっと待っててね。この段落だけ書き上げてしまうから」

 畳に正座して頭を下げ上げした私にニコヤカな微笑みをくださった後、スッと文机に向き直られ、それきりまた後ろ姿なあるじさま。
 ノートパソコンのキーを叩かれているのであろうカタカタという音が聞こえます。

 待って、とご指示され、その場で正座のままお部屋内を見渡します。
 昼間のときとは打って変わってずいぶん乱雑。

 あるじさまの文机を中心に畳に散らばるたくさんの本、本、本。
 開きっ放しもあれば閉じているのも、厚いの薄いの、数冊積み重なっていたり。

 あるじさまから少し離れた右隣にはもうひとつの座卓。
 そして寺田さまがおっしゃった通り、大きめな銀盆の上にポットと湯呑、それに何かを召し上がられたのであろう数枚のお皿も。
 まずはそれらを片付けるのが私のミッションその一なのでしょう。

 他にも何か変わったところは…と見渡したときに、気づいてしまいました。
 あるじさまのお背中側で開きっ放しになっている本の何冊かが写真集なことに。
 そしてその写真が悉く、裸だったり縛られていたりのSM系写真なことに…

 そのときあらためて、私の目の前で執筆作業に没頭されているこの女性は、私が高校生の頃にM心とマゾマンコをキュンキュンときめかせてくださった、鬼百合と姫小百合、の名塚先生なのだな、と実感しました。
 同時に得も言われぬ不思議な感動が…

「まあ、こんなものでしょう、ふぅーっ。それではわたくしも一息入れましょうか。森下さん?お待たせしちゃったわね」

 私が感動でジーンとしている真っ最中に、名塚先生からお優しいお言葉がかかります。

「あ、はいっ!それではご用意させていただきますっ!」

 ご尊敬の念にすっかり一ファンと化した私は、ご崇拝六割、マゾ性四割の召使いとなり、急にソワソワとお勤めを遂行し始めます。
 まずは座卓上のポットやお皿類を銀盆ごとカートに撤去、持参したおしぼりで丁寧に座卓上を拭ってから、あらためてサンドイッチ山盛りお皿をセット。
 それからお紅茶のペットボトルとティーカップ二組も座卓に乗せます。

 極薄レオタード一枚のメイドエプロン姿でドタバタと働く私の姿を名塚先生が嬉しそうに眺めていらっしゃいます。
 私は名塚先生に視られていることを必要以上に意識してしまい、マゾ性がグングン昂ぶってしまいます。

「あら、今夜はずいぶんとたくさんサンドイッチを持ってきたのね?」

 純粋に驚かれたお顔でご質問される名塚先生。

「あ、はい。寺田さまからのご提案で、私も名塚先生とお食事をご一緒しなさいと…」

 寺田さまのお言いつけ通りに、ワクワクとビクビクが一緒くたになった気持ちでお答えします。

「そう。寺田がそう言ったの…それならそうしましょう。わたくしも執筆中に誰かと一緒に食事するなんて久しぶりだから嬉しいわ」

 あくまでもたおやかに名塚先生はおっしゃいました。
 あれ?
 でも、そもそも私は名塚先生直々のご指名でお給仕を任されたのではなかったでしたっけ…???


2021年11月7日

肌色休暇二日目~いけにえの賛美 14

 自分が今どこに居て何をしているのかもわからないほどの痺れるような快感が、全身を駆け巡っていました。
 両腿の付け根奥から絶え間なくほとばしる微電流で、からだが金縛りにあっているみたい。

 遠ざかりそうになる意識を理性なのか本能なのか、何かが必死に引き留めようとしています。
 そのとき、仰向けの私のからだを地面に押しつけるようにのしかかっていた重しが、フッと軽くなった気がしました。
 いつの間にかギュッとつむっていた両目を恐る恐る開けたとき、聴覚と嗅覚と視覚が一気に戻りました。

 寝そべっている私の視界に見えるのは…ワンちゃんの脚?あ、ジョセフィーヌさま…
 おそらくジョセフィーヌさまが私のからだの上に乗られていたのでしょう。
 今は、だらしなく寝そべった私のからだを大きく迂回され、投げ出している私の左手のほうへと芝生の上をゆっくり歩かれています。

 右のほうは?と視線を動かしたとき、不意に私の首輪が軽く左のほうへと引っ張られました。
 中村さまだな、と思い、たわむリードを先へと辿っていくと…ジョセフィーヌさま。

 リードの持ち手をお口に咥えられ、起きてよ、とでもおっしゃりたげなお顔で私を見つめてきます。
 私がからだを起こすのを促すように、二歩三歩の前進後退をくり返され、そのたびに遠慮がちに張り詰めるリード。

 見上げる空は、ああ、もうすっかり夕方だな、と思えるくらいには翳っていました。
 帰らなくちゃいけない時間なんだな、と朦朧とした頭で考え、ゆっくりと上半身を起こします。

 あらためて眺めた自分のからだはひどいありさま。
 汗なのかジョセフィーヌさまのよだれなのか、テラテラ満遍なく濡れた素肌のあちこちに点々と浮かぶワンちゃんの茶色い足跡。
 膝を立ててだらしなく広げきった両腿、膣口に中途半端に挿さったままのバナナ。

「あふぅんっ!」

 立たなくちゃ、と思い、股間のバナナを抜くために手を掛けたとき、柔らかい異物が膣壁を刺激して思わず声が洩れてしまいます。
 快楽の余韻、の一言では片付けられないくらい、未だにからだのあちこちがヒクヒク引き攣って疼いています。

 手に持ったバナナは人肌くらいに生温かくなっていて、外側の皮がふやけてずいぶん柔らかくなっていました。
 そんなバナナを右手に持ち、両足に力を込めてよろよろと立ち上がりました。

 私が立ち上がるまで辛抱強く待っていてくださったジョセフィーヌさまが、わたしのほうを振り返りつつゆっくり歩き始めます。
 お口に咥えられたリードが張り詰め、私の首輪が引っ張られます。

 幾分前屈みになってジョセフィーヌさまに先導される全裸の私。
 ワンちゃんと人間の立場が完全に逆転していました。

「淫乱マゾ女を起こして連れてきてくれたんだ?本当にジョセは賢いねー」

 東屋のベンチでひと足先に待たれていた中村さまが両手を広げてジョセフィーヌさまを迎え入れられ、ジョセフィーヌさまも尻尾をブンブン振られ応えられています。
 お口からリードの持ち手が外れ、引き綱が私の両脚のあいだに戻ってきました。

「ずいぶん派手にアクメってたじゃない、どう?スッキリした?」

 中村さまが紙コップに何か液体を注いでくださり、差し出しつつ尋ねてこられます。

「あ、はい…もう何がなんだか…危うく気を失ないそうでした…」

 あらためてお尋ねされると逃げ出したいほど恥ずかしいのですが、小声で正直にお答えしました。

「だろうね。いやらしい声が広場中に響き渡っていたもの。凄い映像が撮れたからエミリーも満足なはず」

 レンズを私に向けながら呆れたような笑顔をお見せになる中村さま。

「まあとりあえずそれ飲んで、あなたを悦ばせてくれたバナナをいただいて、いったん落ち着きなさい」
「食べられる性具は粗末にしない、っていうのがお姉さまとのお約束なんでしょ?」

 からかうようにおっしゃって紙コップが手渡されます。

「あ、はい…」

 渡された紙コップは冷たくも温かくもない常温で、メープルシロップを薄めたような薄茶色の液体が入っています。

「ブランデーの水道水割よ。直子はイキ過ぎると気絶することがあるってエミリーが言ってたから、気付け薬代わりに小瓶を持ってきてたの」

 そう教えられると、軽くツンと鼻を刺しはするけれどほのかに甘いアルコールの香りがする気がします。
 唇を付け紙コップを傾けると舌に甘い味わい、喉を滑り落ちる液体が心地良い。
 渇きにあがらえずゴクゴク一杯飲み干してしまいました。

「あれだけ喘げば、そりゃあ喉は渇くよね。酔わせるのが目的じゃないからお代わりは水だけ」

 中村さまが空になった紙コップに再び水道水を注いでくださり、テーブルの上に置いてくださいました。
 私は右手のバナナを剥き始めます。

 バナナの皮は満遍なく私の愛液に塗れ、剥いた途端に崩れそうなほどに中の実もグズグズ。
 きっと私の恥ずかしいマン汁が実まで浸透して滲み込んでいるんだろうな、なんて思いながら、そのクリームみたいに柔らかくなったバナナを頬ばります。

 生温かくて少し生臭く香るバナナでしたが、口中にはちゃんと甘味が広がりちゃんと美味しい。
 お水と交互に、あっという間にたいらげました。

「はい、よく出来ました」

 ビデオカメラのレンズを私に向けて、自分を犯していたバナナを美味しそうに食べるマゾ女、の一部始終を撮影された中村さまが、カメラをいったん下ろされ、リードの持ち手に左手を伸ばされます。

「さてと、じゃあ戻ろっか。直子、そのバッグ持って」

 中村さまがリードの持ち手を右手に握られ、左手でテーブルの上のバッグを指さされます。
 テーブルの上はキレイに片付けられ、すべての私物やゴミ類はバッグ内にしまわれた後みたい。

「あの、私が着てきたエプロンは…」

 過度な期待は抱かずに一応尋ねてみます。
 あんな布片一枚でも、前を覆ってくれるかくれないかは、気分的に大きな違いがあるんです。

「しまっちゃったわよ。泥で結構汚れていたし、誰かさんのおツユも派手に沁みていたしね。寺っちの私物だから帰ったらサクッと洗濯しなくちゃだわ」

 さも当然のように答えられた中村さま。
 それからニヤッと笑われ、こうつづけられました。

「直子も、この周辺ならハダカでいても大丈夫なことが身を持ってわかったでしょ?だから明日からは仲良く朝晩、全裸でジョセとお散歩よ」

 首輪がクイッと引っ張られます。

「ジョセフィーヌ?ヒールッ!帰りはワタシの横について。森の清々しい空気を充分味わいながら、ゆっくり帰りましょう」

 中村さまの足元に寄り添わられたジョセフィーヌさまのお鼻先に、中村さまがリードの持ち手をプラプラ指し示されます。
 それをパクリと咥えられるジョセフィーヌさま。
 中村さまの足取りに合わせるように歩き始められ、私の首輪が張り詰めた引き綱に引っ張られます。

 帰りの山道は緩い上り坂。
 翳った陽射しもほとんど差し込まず、来たときよりもずいぶん薄暗くなっていました。
 規則正しく立ち並んだ背の高い木立が導く一本道を、三つの薄い影が進んでいきます。

 一番左側にパーカーとジャージ姿の中村さまのお背中。
 その右脚にピッタリ寄り添われて進まれるジョセフィーヌさま。

 ジョセフィーヌさまのお口には輪っかになったリードの持ち手がしっかり咥えられています。
 その引き綱の後方、おふたりから二、三歩下がった一番右側を、とぼとぼついていく全裸の私。

 途中、中村さまが振り返られ、ジョセフィーヌさまの引き綱に先導される私の姿をしばらく撮影されました。
 悠然としたお足取りでリードを引っ張られるジョセフィーヌさま、首輪を引っ張られ、付き従うように後を追う私。
 どう見てもジョセフィーヌさまが飼い主で、私はペットの飼い犬でした。

 素肌を撫ぜる風を少しひんやり感じだことで、今更ながら自分が全裸なことを思い知ります。
 そうです、今私は見知らぬ山奥の夕暮れの木立道を、ワンちゃんにリードを引かれ、素っ裸で歩いているのです。

 …今まで経験した中で、一番大胆な野外露出行為かもしれない…
 幼い頃から人知れず心に秘めていた妄想を今現実に体験している、と思うと性懲りもなく性的にゾクゾク感じてしまいます。

 時折中村さまが撮影のために振り向かれる以外、終始無言で歩きつづけます。
 中村さまからからかうようなお声掛けも無いのは、私に全裸お散歩の恥ずかしさを満喫させてくださるためのお心遣いかもしれません。

 綺麗な夕焼けの山道は全裸でも寒さを感じるほどの冷えではなく、却って適温で気持ち良いくらい。
 それでもお外での全裸が心細いのは変わらず、その被虐がマゾ性をキュンキュン煽り立ててきます。

 十分くらい歩いたかな、と思った頃、お屋敷へ通じる玄関前の道に出ました。
 まださほど暗さを感じるほどではないのですが、お屋敷の正面玄関周辺は常夜灯ですでに明るく照らし出されています。
 おそらく決まった時刻に灯る仕掛けなのでしょう。
 その灯りの下に三人、たどり着きました。

「明るいところであらためて見ると、直子のからだ、ひどいありさまだね」

 中村さまがビデオカメラのレンズ越しに私のからだを見つめてこられます。

「これはみんなに見せなくちゃ。呼んでくるからちょっとそこで待ってて。記念写真を撮っておこう」

 嬉しそうにおっしゃって、中村さまがお屋敷内に駆け込まれました。
 取り残された形のジョセフィーヌさまと私。
 寄り添うお相手に立ち去られたジョセフィーヌさまが、リードの持ち手を咥えられたまま私のほうへと駆け寄ってこられました。

 私も中腰になってジョセフィーヌさまをお迎え入れます。
 素肌にフワフワ毛玉状なジョセフィーヌさまを抱き寄せると、なんとも言えず気持ちの良いことを、私はすでに知ってしまっていました。

 ジョセフィーヌさまがお口からリードの持ち手をポトリと落とされ、顔の位置を合わせている私の顎やほっぺたをペロペロ舐め始められます。
 もはや完全にしゃがみ込んでしまった私は、懐にジョセフィーヌさまの毛並みをやんわりと抱え込み、いやん、くすぐったい、なんて嬌声をあげつつイチャついていました。

 このとき私は、地面に落ちたリードの引き綱を跨いでしまっていたのだと思います。

 ひとしきりじゃれ合った後、ジョセフィーヌさまからおからだを離され、私の背後へトトトっと回られました。
 私も立ち上がろうとしゃがみ込んでいた膝を伸ばそうとしたとき…
 首輪から繋がった引き綱が、私の裸身前面のド真ん中を縦断するようにピッタリと貼り付き、股のあいだの裂けめに食い込んでくる感触がありました。

「あぁんっ!いやんっ!」

 それはまさしく、これまで何度も味わったことのある股縄の感触。
 それも二重にした麻縄よりも更に太い、ゴツゴツザラザラとした乱暴な感触。

「いやんっ、だめぇーっ!」

 下腹部から恥丘へとピッタリ貼り付いた縄が、裂けめの先端でテラテラ芽吹いていた肉芽をギュウギュウ押し潰してきます。
 私のお尻側で再びリードの持ち手を咥えられたのであろうジョセフィーヌさまの気配。

「あっ、あーんっ、そ、そんな、そんなに引っ張らないでぇーっ!」

 私の嬌声を、この友達は嬉しがっている、と捉えられたのでしょう、ますます激しくグイグイと出鱈目に引っ張られる引き綱。
 たわんでは張り詰め、私のマゾマンコに緩んでは食い込んでくる引き綱の陵辱。
 今日何度目なのか、私はジョセフィーヌさまにもてあそばれていました。

「あっ、あっ、あーんっ、いやっ、だめっ、いたいっ、そこっ、だめっ、あーーっ!!」

 裂けめから両脚が引き裂かれてしまうのではないか、と思うくらい強烈な縄の食い込み。
 でもフッと緩んだ瞬間ホッとすると同時に、もっと欲しい、と思ってしまうのは私のマゾ性ゆえなのでしょう。
 SM写真で見たことのある、三角木馬責め、っていうのはこんな感じなのかな、なんて思ってみたり。

 股間への食い込みによる刺激は、そんな私でも我慢しきれないほどの激しさになっていました。
 ジョセフィーヌさまがはしゃがれて、グイグイ引き綱を引っ張られるのです。
 しゃがみ込んだ姿勢から立ち上がろうと中腰にまではなったものの、それ以上は絶対無理。

 股間から引き綱を離すには、もう一度しゃがみ込むだけでは駄目でした。
 首輪から繋がれているので、上半身を低くして腰を高く起こさない限りからだ前面、股のあいだに密着してしまうのです。
 この状態で股間に引き綱を密着させない姿勢…それは私も四つん這いになることでした。

 しゃがんだ姿勢から前屈みになり、石畳に両手を突いて腰だけ高く突き上げます。
 ようやく股間から引き綱が離れ、首輪からジョセフィーヌさまのお口までピンと空中に一直線に張り詰める形に。

 自ら四つん這いになった私にジョセフィーヌさまも何かを感じ取られたのでしょう。
 すぐさま持ち手をお口から落とされ私に近づき、突き上げたお尻の下の太腿後ろをペロペロ舐め始められます。

「ああんっ、ジョセフィーヌさまぁ、いやんっ、くすぐったいーっ」

 そんな嬌声をあげつつ、どうせならお尻を舐めて欲しい、とジョセフィーヌさまの舌が届く位置までお尻を下げていくスケベな私。
 思惑通り、大きく広げたお尻の割れスジに沿ってペチャペチャ舐め上げてくださるジョセフィーヌさま。

「あんっ、いいっ、そこっ、いいっ、もっと下、もっと下もぉーっ!」

 あられもない淫声をあげて身悶えていると、四つん這いの眼前にそびえるお屋敷の正面玄関扉がバタンと開きました。
 現われたのはもちろん、お姉さまを筆頭に、中村さま、寺田さま、そして五十嵐さま。

「あーあー、またイチャついてるよ、この子たち、人んちの玄関先で」
「でもまあ、ペットってそーゆーもんだから、しょーがないんじゃない」
「君たちもうつきあっちゃいなよ。あ、でもそれだとエミリーが寂しいか」
「ううん、あたしネトラレのケがあるらしいから、かまわなくってよ」

 ノリが軽くてかまびすしいご様子は、みなさま多少アルコールが入っていらっしゃるのかも…
 みなさまが口々に軽口を叩かれる中、両手を地面に突いてみなさまを見上げる土下座同然な四つん這い姿の私は、その屈辱的な恥ずかしさで顔面が真っ赤っか。
 
 ジョセフィーヌさまはと言えば、みなさまのお姿が見えた途端に私のお尻をプイと離れられ、一目散に寺田さまのお足元へ。
 どうやらジョセフィーヌさまは、みなさまの中ではとくに寺田さまを慕われているようです。

「本当に全裸で散歩から帰ってきちゃったんだ!?大胆て言うかヘンタイって言うか…ほら、直子?立ちなさい」

 一歩近づいてこられたお姉さまに促され、おずおずと立ち上がります。
 お姉さまが顎をしゃくられたので、服従ポーズ。

「あららら、からだ中に犬の足跡たくさん付けちゃって。またまたジョセに手篭めにされちゃったんだねー。本当に、君たちもうつきあっちゃいなよ、だわ」

 黒スウェットの上にメイドエプロン姿なお姉さまにからかわれます。
 五十嵐さまがビデオカメラのレンズを向けています。

「これは確かに記念写真に撮っておくべき姿よね。直子もこっちに来て並びなさい」

 お姉さまの号令で五十嵐さまが素早く三脚を立てられ、立派なカメラを私が居た位置に据え付けられます。
 
 カメラのレンズに向かって一番右端にパーカー、ジャージ姿の中村さま、そのお隣に私に貸してくださったのとはまた別のメイドエプロンを召された寺田さま。
 そのお隣に寺田さまに寄り添われるようにジョセフィーヌさまがちょこんとお座りになられ、その横に服従ポーズ全裸の私、私の左隣にメイドエプロン姿のお姉さまという配置です。

「エミリーさんはもっと直子ちゃんにくっついてください。その横にうちも入るので」
「リードの持ち手はジョセに咥えさせるのがいいんじゃないかな?寺っち、お願い」

 五十嵐さまのご指示で構図が決まり、セルフタイマーをセットしてから五十嵐さまがお姉さまの横に並ばれます。
 
「レンズの横のランプがチカチカしだしたらすぐシャッターが下りるからね」

 五十嵐さまのお声でみなさまがカメラレンズに視線を合わせます。
 私もそこを見つめていると、ほどなくランプがチカチカし始めました。

「あぁんっ!」

 そのタイミングでお姉さまが私の膣口に二本指を挿入されたんです。
 私が顔を歪ませるのとフラッシュの光が同時でした。

「おっけー。うまく撮れていたら大きくプリントして額装して、ホールに飾ることにするわ」

 そんなことをのんきにおっしゃるのは寺田さま。
 他のみなさまもガヤガヤとお屋敷に戻られ、ジョセフィーヌさまもご自分の小屋のほうへサッサと駆け出されます。

 残されたのは私と中村さま。
 中村さまが首輪からリードを外してくださり、代わりに白いバスタオルだけ渡されます。

「直子はさっき行ったシャワールームでからだの汚れを落としてきなさい」

 この位置からだと目隠し樹木の向こう側にあるスケスケバスルームの方向を指さされた中村さま。

「戻ってきたら夕食だから、自分のからだまさぐってムラムラとかしてないで、さっさと切り上げるのよ?」

 見透かすみたいにおっしゃって、裸のお尻をパチンとぶたれました。