2021年8月14日

肌色休暇二日目~いけにえの賛美 05

 大広間最奥にある幅の広い階段は、広間を見下ろせる円形の中二階バルコニーへとつづき、その先へ上がる階段が左右二手に分かれて曲線を描いていました。
 そのうちの左方向の階段へと足早に歩を進めます。
 お姉さまのトランクケースは、使うから、と階下に残され、私が、うんせ、と運んでいたキャリーケースを中村さまが一見軽々と運んでくださっています。

 階段が終わって二階へ到着。
 左方向へ広くて長い、これまた市松模様の床材が敷かれたお廊下。
 お廊下の右側にはところどころに大きな出窓、左側には瀟洒な扉が間隔をあけて三つ。

 外観の割にお廊下はあんまりゴテゴテしていなくてシックな感じ。
 白を基調とした石造りの落ち着いた雰囲気は、高校生の頃に訪れたことのあるパリのホテルのお廊下に似ている気がしました。

「このフロアの部屋はどこを使ってもいいんだけれど、ここが一番広いから、とりあえずここに落ち着いて」

 寺田さまがお廊下一番奥の扉を開けられます。
 ベージュを基調としたその広いお部屋の雰囲気は、まさにパリで泊まったホテルのスイートルームをよりシックにした感じ。
 お部屋の奥に寝相のいいかたなら並んで10名くらい余裕で寝られそうな、巨大なダブルベッドが見えます。

「これが先生からのご要望。そこがバスルーム。遅くとも2時50分までに階下へ降りてきて」

 中村さまが一枚の紙片をお姉さまに手渡され、私には軽めな風呂敷包みが渡されました。

「それじゃ、くれぐれもなるはやでお願いよ」

 寺田さまがお姉さまの肩を軽くポンと叩かれ、お部屋を出ていかれるおふたり。
 紙片を渡されると同時に読み始められていたお姉さまがお顔を上げられ、私を見ました。

「直子、今朝ちゃんとトイレで出した?大きいほう」

「あ、えっ?あ、はい…」

「いつも通り?」

「あ、は、はい…」

 昨夜のお酒のせいか、いつもより少し緩めではあったのですが…

「そう。じゃあすぐに服全部抜いでバスルームに入って。首輪も外して」

 服全部とおっしゃられても、もともとこのワンピース一枚しか身に纏っていないのですが…
 有無を言わせぬご命令口調に気圧されて、ワンピのボタンを急いで外します。
 首輪を外していると、お姉さまもそそくさと脱衣されているご様子。

 バスルームは窓際にあり、お部屋とを隔てる壁は全面ガラス張り。
 すなわち、お部屋内からバスルーム内部は丸見え状態。

 中に入ると広い脱衣所と小洒落たシンク、素通しガラスで区切られて広いバスルーム。
 バスタブ際の外壁となる側面には大きな鏡が嵌め込まれていて、全裸の私が等身大で映り込んでいます。
 そこに全裸のお姉さまも入っていらっしゃいました。

 シャワーキャップをかぶせられ、いきなりぬるま湯シャワーの洗礼。
 激しい水圧の飛沫が顔と言わずからだと言わず、全身満遍なく浴びせかけられました。
 
 汗ばんだからだが洗い流されて気持ちいいと言えば気持ちいいのですが、お姉さまが終始無言なので映画で見たことのある戦争中の捕虜の消毒風景をなぜだか思い出してしまい、ちょっと不気味な感じも。

「排水口にお尻を向けて、四つん這いになりなさい」

 ひとしきりシャワーを浴びせられた後、お姉さまから冷たいお声でのご命令。

「はい…」

 お姉さまの右手にはいつの間にか、200ミリリットルのガラスのお浣腸器が。
 それが見えた瞬間、これから何をされるのかを察します。
 ゾクゾクっと身震いしつつ、えっと、排水口は…

 シャワーのお水が流れる方向を辿ると排水口はバスタブの手前にあり、つまりお外に面した窓の側。
 その窓はバスタブと同じ高さから天井まである素通しの大きなガラス。
 お外の庭園が完全に覗けていますから当然、庭園からもバスルーム内が見えていることでしょう。

 そんな窓に背中を向けてひざまづき、両手をタイル床に突いて四つん這いに。
 両腕をたたんで肩を沈め、そのぶんお尻を窓に向かって高く突き上げます。

「もう少し前へ」

 ご指示され、その格好のままタイル床を這うように前進。
 お姉さまが私のお尻側に回られた、と思ったらお尻を襲うぬるま湯シャワー。

 でもそれもすぐ終わり、少し間を置いて唐突にブスリと、私の肛門に何か硬くて冷んやりした異物が挿し込まれます。
 すぐに体内に液体が流れ込んでくる感覚。

「あーーーっ…あーっ、あっ、あっ…」

 お尻の穴から注ぎ込まれる人肌より少しぬるめな水流に、思わずいやらしい声が漏れ出してしまいます。

「まだ入りそうね…」

 お姉さまのつぶやきの後、いったん抜かれたガラスの異物が再び私の肛門に挿し込まれます。

「あっ、あっあ、あーーーっ!」

 こうして浴室で四つん這いになりお姉さまにお浣腸をされていると、まだ梅雨の頃、会社のファッションショーイベントで急遽モデルを務めなければならなくなったときのことが思い出されます。
 あのときも、これから自分がどうなるのか、何をされるのかまったくわからないままお姉さまにお浣腸を施されたのでした。
 事の顛末はみなさまも御存知の通り、私のヘンタイ性癖の華々しすぎるお披露目会となってしまったのですが。

 あのときはお姉さまが私のマゾマンコを指で蹂躙してくださりながら、絶頂と同時の排泄だったのですが、今回は慰めてくださる気配もありません。
 私の素肌には指一本触れようともされず、ぬるま湯をたっぷり注入し終えた私のお尻に、ひたすらぬるま湯シャワーを浴びせかけるだけ。
 
 その淡々と流れ作業をこなすかのようなお振る舞いが却って不気味と言うか、妙な緊張感を醸し出しています。
 この後、先生、と呼ばれているかたとご対面することになるのでしょうが、私、どうされちゃうのでしょう…

「とりあえず5分我慢ね。あたしが、いい、って言ったらその場にしゃがんで、床にぶちまけなさい。くれぐれも四つん這いのままではダメよ。直子のお尻からの水流が放物線描いてバスタブ飛び越えちゃうから」

 お姉さまがガラス窓を開け放しながら可笑しそうにおっしゃいます。
 スーッといい風が入ってきて私の剥き出しなお尻を撫ぜていきます。
 でも、もしも大きな音まで出ちゃったら、お外まで聞こえてしまうかも…

 そのまま刻々と時だけが過ぎ、私のお腹はどんどん切羽詰まってきます。

「んんっ…あうっ、んんーっ…」

 ゴロゴロ荒ぶる苦痛をはしたない唸り声で耐え忍びながら、お姉さまからのお許しをひたすら待ち侘びます。
 ただし、お許しをいただいたところで今度は、無様に排泄姿をお見せしなければならない、という屈辱が待ち受けているのですが。

 やがてお姉さまがシャワーヘッド片手に私の正面に来られました。
 土下座のように突っ伏している私の眼前にお姉さまのスラッとしたお御足。
 上目遣いに見上げるとお姉さまのイジワルそうな笑顔とぶつかりました。

「おーけー。起き上がってしゃがみなさい」

 お姉さまのご指示で上半身を起こし、その場にしゃがみ込みます。
 蹲踞の姿勢、和式トイレの便器に跨る格好です。

 ふと振り返って排水溝を見ると、さっきはかぶせてあった網目状のカバーが取り外してありました。
 もしも大きめな固形物が排泄されても、すんなり下水溝へと流れ去っていくように、というご配慮でしょう。
 そのご配慮がますます羞恥心を煽り立ててきます。

「腰を充分浮かせて跳ねや飛沫に注意しなさい。オシッコも一緒に出しちゃっていいから、思い切り踏ん張って、入ったお水は全部出しちゃいなさい」

 おっしゃりながら激しいシャワーの水流を私の両足のあいだのタイル床に流し始められるお姉さま。
 お姉さまに真正面から見つめられる形となり、とてつもなく恥ずかしいのですが、腹痛を伴う便意は容赦なく下腹部をヒクつかせてきます。

「ああん、出ちゃいます…お姉さま、見ないでください、あっ、出る、出ちゃう、いやーっ!見ないでくださあい、恥ずかし過ぎですぅーっ!」

 両手で顔を覆っても目の前にお姉さまが居られる現実は覆せません。
 タイル床を勢い良く叩くビシャーっという音は、シャワーの水流の音だけではありません。

 しばらくつづいた水音が治まった、と思ったらすかさず襲い来る排泄欲求の第二波、第三波…
 ときどき混ざる間の抜けた破裂音と、ほんのり漂い始める何とも言えない臭いが死ぬほど恥ずかしい…
 力を入れ過ぎたのかオシッコも一緒にチョロチョロ漏れちゃったみたい…
 お姉さまの水圧強めシャワーは、いつの間にかしゃがんだ私のマゾマンコに直接当たっていました。

「全部出した?もう何も出なそう?そしたらもう一度四つん這いになりなさい」

 お姉さまがシャワーは止めずに床を打ち付けつつ、再び私の背後に回られます。
 濡れたタイル床に再度突っ伏す私。
 シャワーの水圧が私の肛門周辺を乱暴に打ち据えてくださいます。

「あうっ!」

 何の前触れもなく再び私の肛門に挿入されたガラスの異物。
 抜かれては挿され、手早く注入された液体はさっきよりも多い感じ。
 
 どうやらお姉さまは私の腸内を出来るだけ空っぽにされるおつもりみたい。
 私がお浣腸に興味を持った頃、どなたかが教えてくださった、まさしく腸のうがい状態。
 お腹が張ると同時に、すぐに腹痛と排泄欲求も膨らんできました。

「今度は我慢しなくていいわよ。すぐにしゃがんで吐き出しちゃいなさい。もう何も出てきません、って思えるまで」

 お姉さまのお言葉が終わるや否や起き上がります。
 少し慌てたご様子で私の正面に回られるお姉さま。

 しゃがむや否や下腹部の違和感を解消しようといきむ私。
 ブッシャーっと勢い良く床を跳ねる水飛沫、マゾマンコ直撃なお姉さまからのシャワー。
 やがて恥ずかし過ぎるお腹の咳払いも落ち着いて、私はぐったりうなだれました。

「うん。吐き出す水も濁らなくなったし、こんなもんでいいでしょう。お疲れさま」

 そのお言葉に、やっぱり始めの頃の私の排泄物は茶色く濁っていたんだ、と今更ながらの羞恥で打ちのめされる私。
 そんな私を知ってか知らずか立ち上がるように促され、もう一度全身に水圧高めなぬるま湯シャワー。
 
 お姉さまにおやさしく肩を抱かれ、脱衣所でふうわり蕩けそうに柔らかなバスタオルに包まれました。
 お姉さまもご自分のおからだを拭かれ下着を着けられた後、上下真っ黒で細く白いサイドラインが二本通ったスリムフィットなスウェットスーツ、お姉さまが来るときの電車個室で私を愛してくださったときの服装、に着替えられました。

 そこからはまさに電光石火でした。
 私が家から着けてきたブラとショーツを久しぶりに着けさせられ、上半身には真っ白な半袖フリルブラウス、下半身にはこれまた真っ白なミモレ丈のプリーツスカート。
 ご丁寧に真っ白なハイソックスまで両脚に履かせられました。

 ここまでで終われば、避暑地を訪れた清楚なお嬢様、的な出で立ちなのですが、もちろんそこでは終わらず、お姉さまと私で育んできたヘンタイ性癖ゆえのアクセサリーが追加されます。
 首にはいつもの赤色首輪、両手首足首に黒いレザーっぽいベルト、金属の輪っかが複数付いていて先ほどの広場でのとは違うものっぽい、を嵌められました。

 ここでやっとシャワーキャップが外され髪を梳かれた後、私の顔面をチョチョイと薄化粧。
 ただし口紅だけは物欲しそうに濡れ気味なコーラルピンクでした。

 そんな格好でバタバタと階下へ降りるふたり。
 円形大広間に着地したとき時計を見たら2時48分を指していました。

「おおっ、エミリー直っち、意外と早かったじゃん」
「直子ちゃん、可愛いっ!素晴らしい!バラスーシっ!これなら弁天さまもお悦びになるわーっ!」
「先生は今ヘアドライヤー中。謁見も10分くらい押すそうだから、どうやら余裕で間に合いそう」

 口々に謎なことをおっしゃりながら、ズンズン急かすように私たちを誘導される寺田さまと中村さま。
 円形大広間の階段下の扉の向こう側に通路があり、そこから建物左側へと向かうお廊下へと連れ出されました。

 二階と同じように左横へと張り出した建物に伸びるお廊下。
 二階と同じように左側にいくつかの扉が並び、その行き止まりが更に右側へと直角に折れていました。
 これが二階とは違うところ。

 折れ曲がった先は、それまでとまったく趣を異にしていました。
 市松模様の欧風床材からいきなり木の板張りのお廊下。
 そのお廊下は10数メートルくらい先で突き当りとなっています。
 
 お廊下沿いのお部屋の外観も純和風。
 灯籠を模した照明器具が並ぶ木目の奇麗な壁に横滑りで立派な木製の敷居戸。
 まるで昨日の和風旅荘に舞い戻ってしまったかのよう。

 先頭を歩かれていた寺田さまがスルスルっと敷居戸を開けられました。
 薄暗い中からモワッと香る畳の匂い。
 お姉さまと私はそこで室内履きを脱ぎ、畳の上に上がります。

 寺田さまはそのままお部屋の奥まで行かれ、障子張りの引き戸をスルスルっと開かれました。
 途端に差し込む眩しい陽射しにお部屋の中もグンと明るくなりました。
 障子戸の向こう側は少しの板の間を経て、お庭へ出られる縁側になっているみたい。
 半分以上がガラス窓の木戸の向こうに鮮やかな緑が覗けて見えました。

 そのお部屋は10畳くらいの畳のスペースがメインで、各壁際は板の間となっています。
 入り口に背を向ける形で大きめな文机がポツンと置かれ、その後ろに座椅子。
 壁際の板の間には総桐の重厚立派な箪笥とオーディオセット、そこから少し離れた壁際に一人がけの黒いソファーがこれまたポツンと置いてあるだけ。

 お部屋の右側が襖四枚で仕切られていますから、それらを開け放てばお廊下の長さから言って、この倍くらいの広々とした和室になるはずです。
 障子戸や襖を仕切る柱や鴨居はどれも太くて年季の入った頑丈そうな木材。
 さっきまで居た欧風宮殿や高級ホテルみたいな空間と本当に同じ建物内なのか?と混乱するほどのギャップ空間です。

「エミリーたち、靴のサイズ、いくつ?」

 中村さまから唐突なご質問。

「あたしは24、直子は23だわね」

 サクッとお姉さまがお答えくださいました。

「おっけ。クロックス用意しとくから庭に出るときはそれ履いて。エミリーは青、直っちはピンクね」

 おっしゃりながら中村さまが私の手を引っ張られます。
 寺田さまは総桐箪笥に取り付かれ、何やら物色されています。

「ここに座って」
 
 中村さまに手を引かれた私。
 お部屋の壁際の板の間、仕切りの襖を向こうに見る位置に置かれた黒いソファーに座らされます。
 
 そのソファーは、鉄のパイプで椅子の形を造り、そこに合皮のクッションを乗せたようなタイプ。
 座面が低く安定して頑丈そうで、背もたれはたっぷり、クッションも適度な柔らかさで座り心地はとてもいいのですが…

 いつの間にか傍に来られた寺田さまが、やにわに私の左手首を掴まれました。
 えっ!?と思っているうちに左腕を背もたれの裏側に回されてカチリ、同じように右腕もカチリ。
 おそらく背もたれの裏側にそれ専用の金具か何かが取り付けられているのでしょう、あれよと言う間に背もたれを挟んだ後ろ手錠状態にされてしまいました。

 つづけて左足首が持たれてソファーの左前方の金属足部分にカチャリ、同じように右足首もカチャリ。
 かなり大きく股を開いた状態で固定されてしまい、最早どう足掻いてもソファーから抜け出せない状態に。

「どうする?膝も支柱に縛って固定しちゃう?」
「うーん、少しくらいジタバタ抵抗出来る状態のほうが先生も悦ぶんじゃないかな?」

 中村さまと寺田さまが愉しげにそんな不穏な会話を交わされています。

「あ、あの、お姉さま?わ、私、これから…」

 私が手足の自由を奪われる様子を傍らで愉しそうに眺めていらっしゃったお姉さまに、縋る思いで助けを求めます。

「だから言ったでしょ?直子はこれから宿泊費をカラダで払うのよ。いけにえになるの」

 ソファーの前にはお姉さまのトランクケース、その上にレポート用紙のような紙片が一枚、そしてふうわり柔らかそうな紫色のお座布団が一枚。
 その横に立たれたお姉さまが、怯える私を嬉しそうに見つめています。

 その視界が不意に塞がれました。
 背後から目隠しされたみたい、頭の後ろで布片がきつく結ばれる感触がありました。

「んぐぅ…」

 つづけて鼻をつままれ、思わず開けた口腔に強引に、硬過ぎず柔らか過ぎずな球形の何かが詰め込まれます。
 同時に首上後ろ側にストラップぽい何かがきつく巻き付けられました。
 詰め込まれた異物を舌で触ると、球形のところどころに穴が空いているみたいなので、硬さから言ってシリコン製のボールギャグ?

「あたしが先生に、直子のカラダをお金で売ったのよ。先生はそういうお仕事だから」
「これから先生がいらっしゃって、身動き出来ない直子のカラダにいろいろイタズラなさるはず」

 お姉さまのお声が正面から聞こえてきます。

「いつもだったら、直子はマゾドレイなのだから先生には絶対服従、って命令するところだけれど、今回はその命令は無し」
「嫌だったらどんどん抵抗して反抗なさい。そのほうが先生も盛り上がれるでしょうから」
「これからあたしはかなちゃんと車で町に買い出しに出かけてくるから、何が起きても金輪際助けは来ないから、先生のご機嫌を損ねないようにせいぜいがんばりなさい」

 視覚を奪われているせいかお姉さまのお言葉の感情が読み取れず、とても冷淡冷徹に響いてきます。
 すぐに複数のかたが動く気配がして引き戸がカタンと閉まる音がし、その後は耳をそばだててもずっと無音。
 エアコンの静かな振動音以外しんと静まり返った室内に、手足を拘束されたままひとり取り残されてしまいます。

 ここへ来る途中の広場につづいて今日二回目の放置プレイ。
 広場のときとは違って屋内ですし着衣もきちんとしているところは救いですが、お姉さまご不在な上に、先生と呼ばれている見知らぬかたと差し向かいのお相手というところに、却って屋外全裸放置よりももっと何かおぞましい、得体の知れない不気味さを感じてしまっています。

 そのゾクゾクっとする不安感にすぐさま私のどうしようもないマゾ性が感応してしまい、スカートの下で大きく広げた股の付け根部分がショーツの中心部の裏地をジワジワ湿らせ始めていました。


2021年8月7日

肌色休暇二日目~いけにえの賛美 04

「すげえ…」

 助手席の橋本さまがお独り言みたいにつぶやかれて絶句。
 運転席の本橋さまも前方を見つめて呆気に取られていらっしゃるみたいで、車のスピードが徐行に近いくらいダウンしています。

 緩い上り坂の道をアーチのように囲む左右の木々が徐々にまばらになり、平地になった途端眼前に広がる大庭園。
 敷地を囲う塀とかフェンスは建ってなく、広大なお庭を森の木々たちが遠巻きに囲んでいる感じ。

 庭園の広さはさっきの広場と同じくらい?
 とても丁寧にお手入れされた生け垣で区分けされたスペースごとに木々と植物が端正に配置され、その合間に大きな石や岩を優美に並べたロックガーデン風。
 車道も石畳となり、その行き着く先に聳え立つのが…

「お城?」
「いやちょっと、ヤバいな、コレ…」

 男性がたおふたりが絶句されているということは、おふたりもここを訪れたのは初めてなのでしょう。
 お城と言っても天守閣とか金のシャチホコとか和風な造りではなく、中世ヨーロッパ風味、剣と魔法のRPGでいかにも王様が住まわれていらっしゃいそうな佇まい。

 正面玄関とおぼしき大きな扉の前に広い石の階段が三段あって、玄関部分が手前へと、長方形に盛大に出っ張っています。
 出っ張り部分と建物の一番高い部分の屋根は半円のドーム状。
 出っ張りの左右にも凸の字を逆さにした形に建物が横に広がっています。
 ただ、二階建てなのか三階まであるのか、高さはそれほどではなく塔のような高い施設も隣接していないので、お城というより宮殿という印象かな。

「こんな建物、建てちゃうやつがいるんだ」
「見た感じずいぶん年季入っているみたいだから、けっこう昔に建てられたんだろうね」
「大金持ちっていうのは、いつの時代にもいるんだよな」
「この辺りにこんなヤバイ別荘があったなんて、全く知らなかったよ」

 ご興奮気味な運転手席側のおふたり。
 私も呆気にとられています。

「でもさ、なんとなくちょっと昔の、田舎の国道沿いとかにありがちだったバブリーなラブホ的テイストも感じなくね?」

 ずいぶん失礼なことをおっしゃるのは橋本さま。

「いや、そんなにセンス悪くないよ。このお庭とか建物の感じとか、ゴシックとかルネッサンスとかバロックとか、史実に沿っていろいろ考えられている気がする…」

 なぜだか真剣に擁護に回られる本橋さま。

「こんな山間の別荘地にこんなの建てちゃうなんて、金だけじゃなくて権力も相当持っていないと無理だよな?」
「うん。それにこのメルヘン寄りなデザイン、男だけの発想じゃない気がする。惚れた女にねだられてイイ格好したくて、とかだったりして」
「ああ、ありうるわな。金に糸目はつけないって言われて、設計任されたデザイナーが暴走しちゃった感じ?」

 なんだか嬉しそうにおふたりで妙にご納得されいるご様子。
 そうこうしているうちに車が玄関前までたどり着きました。
 橋本さまがエンジンをお切りになると、お待ちかねたように我先にとドアを開けられたお姉さま。
 私も手を引かれ、丁寧な幾何学模様が優美に描かれた石畳に降り立ちます。

 ワンッ!

 向かって左側の木立の陰のほうからワンちゃんが一声吠えるお声が聞こえた、と思ったら、茶色くて大きなワンちゃんがお姉さまに飛びかかってきました。
 あっ、と思う間もなくワンちゃんに後ろ足立ちでしがみつかれたお姉さま。
 お姉さまも中腰になられ腕と言わず顔と言わず、ワンちゃんにベロベロ舐められています。

「ジョセもやっぱり来ていたんだねー。ほぼほぼ一年振りなのに覚えていてくれたんだ?どう?元気だった?」

 とても嬉しそうなお姉さま。
 ワンちゃんのフサフサなしっぽも千切れそうなくらいブンブン振られています。
 盛んに飛びついてくるワンちゃんの頭や首や背中をワシワシ撫ぜながら、お姉さまがご紹介してくださいます。

「この子はジョセフィーヌ、先生の数年来のパートナー。会う度に大歓迎してくれるの」
「ジョセ?こっちはあたしのパートナーの直子、よろしくね。あ、首輪の色がおそろいじゃない」

 ご指摘されてあらためて見ると、確かに首輪の色も形も私が嵌めているのとよく似ています。
 お姉さまが指さされる私を見つめられ、束の間思案顔だったワンちゃんが、今度は私めがけて飛びついてきました。

「あんっ!」

 ワンちゃんのしっぽが相変わらずブンブン振られていますから敵意は無いのでしょう。
 思わずしゃがんでしまった私の両肩に前足を乗せてこられ、顔をベロベロ舐められます。

「おお、ジョセも直子のこと気に入ってくれたみたいね。これから数日だけれど、よろしくね?」

 お姉さまがワンちゃんに語りかけられると、すぐさまお姉さまにまとわりつかれるワンちゃん。
 私の顔はワンちゃんのよだれでベトベト。

「直子も怖がらなくていいわよ。この子は今年確か三歳か四歳のとても賢い女の子。先生が愛情たっぷり注ぎ込んでいるパートナー。この子の犬種、わかる?」

 お腹を見せて寝転がっちゃったワンちゃんとじゃれ合われているお姉さまから突然クイズのご出題。
 えっと、テレビで見たことあって、確か人間のためにもすごく役立って盲導犬にも多い犬種で、お名前が何かSFっぽい感じで…そうだ、レが付くんだった、レ、レト、あ、レトリバー!

「あの、えっと、ラ、ラブドールレトリバー!」

「ブッ、ブー。惜しいけれど不正解」

 お姉さまが若干及び腰になってしまっている私に近づいてこられ、ワンちゃんも起き上がって今度は私にまとわりついてくださいます。
 相変わらず嬉しげにしっぽをブンブン振られながら。

「レトリバーは合っているけれど、この子はゴールデンのほう。ゴールデンレトリバー」
「それにラブドールって何よ?等身大美少女ダッチワイフじゃないんだから」

 からかうように私の顔を覗き込まれるお姉さま。

「正確にはラブラドールね。ラブラドールレトリバー。でもこの子はゴールデンレトリバー。見分け方は毛足の長さかな。ジョセみたいにモコモコなのがゴールデンね」

 お姉さまのご説明中もずっと私にじゃれついてくださっているワンちゃん。
 背後に回られたワンちゃんが私のワンピースの裾に頭を突っ込まれ、剥き出しのお尻をフワフワの毛でくすぐってこられます。
 ああん、そんなー、気持ちいいー。

 バタン、バタン…
 ドアが開閉する音がして男性陣も車を降りられました。
 すぐにトランクに取り付かれ、お姉さまのであろうお荷物を引っ張り出されました。

 物音で気づかれたのでしょう、ワンピの裾から頭を抜かれたワンちゃんも、男性陣のほうを見遣っています。
 ただし、しっぽは垂れ下がったままスーンとしたご興味なさげなお顔で。
 このワンちゃんも私と同じく男性は眼中に無いのかな。

 お姉さまのお荷物は、いつも出張時にお持ちになっている大きめのキャリーケースとアンティークなトランクケース、それといつものバーキンと先ほどお持ちになられたトートバッグ。
 それらを玄関の前まで運んでくださった本橋さまと橋本さま。

「荷物はこれだけでいいですかね?」

「あら、ありがとう。うーんと、あれ?直子のポシェットは?…あ、バッグに入っていたわ」

 本橋さまとお姉さまの会話。

「それじゃあぼくたちはここで。車は明日の昼過ぎまでに戻しますから」

「うん、本当にありがとね。道わかる?」

「あ、はい、ナビありますから」

「そっか。気をつけて。良い休日を」

「チーフたちも良い休日を。森下さんもね」

 おやさしいお言葉を残されて車に引き返されるおふたり。
 ゆっくりと方向転換され、滑るように木立の中へと消えていったお姉さまの愛車。

 再びしっぽをブンブン振り回して私のワンピのお尻側の裾に潜り込んでくるワンちゃん。
 ああん、そんなところ舐めないで…

 そのとき荘厳な玄関の観音開きな扉が、スーッと外開きになりました。

 どなたが開けられたのか、そのお姿は大きな扉と壁の影になってしまい最初は見えませんでした。
 ただ、その空間から垣間見えた内部のゴージャスさに目を奪われました。

「あ、お出迎えよ。行きましょう」

 お姉さまに促され石の階段を上がります。
 ワンちゃんは入らないように躾けられているみたいで、階段下にチョコンとお座りになられ名残惜しそうにしっぽが揺れています。
 玄関と同じ高さまで上がったとき、目の前に広がる壮麗な空間。

 床は大理石、高い天井から優美なシャンデリアが大小五基も吊り下がっています。
 横幅だけでも10メートル以上はありそうな空間の左右の壁際には、ゴシックデザインのシックなクロゼット?靴箱?がズラリ。
 更に一段上がった床は、ベルサイユ宮殿でおなじみのヘリボーン柄。

 ずっと奥にもう一枚観音開きの扉があり、その扉の左右脇に弓矢を構えた愛らしいキューピッドの彫刻。
 明かり採りらしき高い場所にある窓には万華鏡を覗いたみたいな模様のステンドグラスが貼られ、今まさに淡い光を床に落としています。
 
 玄関だけでテニスコートが一面分、余裕で取れそうな広さ。
 ただ単に玄関という一言では至極失礼な、敬意を込めて、玄関の間、とも呼ぶべき絢爛豪華な空間。

「エミリー、ひっさしぶりーっ!相変わらず美人さんだねー」

 私が内装に見惚れていると左脇のほうからお声が聞こえ、あわててそちらへ顔を向けます。
 絢爛豪華な玄関の間にはあんまり似つかわしくない、見るからに庶民の普段着な姿の女性がお姉さまとハグされていました。
 おからだを離されたので、その女性のお姿を見ると…

 上はゆったり長めな黄色い半袖Tシャツ、下は真っ黒ピチピチのレギンスだけで裸足。
 ゆるふわなショートボブヘアが細面のくっきりした目鼻立ちによくお似合いな美人さん。
 背はお姉さまと同じくらいで、スラッとスレンダーながら出るべきところはしっかり出ていらっしゃる感じ…Tシャツがゆったりなので確かなことはわかりませんが…

「何言ってるの?6月だったか7月だったかに仕事で会ったじゃない」

「で、こちらがエミリーがぞっこんのプティスールちゃんね。へー可愛い子じゃない?」

 お姉さまのツッコミにはお応えされず私のほうへと近づいてこられたその女性。
 間髪を入れずギュッとハグされました。

「きゃっ!」

「うーん、いい抱き心地、合格よ。よろしくね」

 何がどう合格なのかはわかりませんが、からだが離れてニコッと微笑みかけられます。

 抱きすくめられてわかりました。
 この女性もTシャツの下は素肌なことに。
 しっかり大きくて弾力に富んだふたつの膨らみが私の胸にギューッと押し付けられました。
 女性にも私がノーブラなことはわかってしまったでしょうけれど。

「直子、こちら寺田さん。先生の秘書と言うかマネージャーと言うか、お仕事全般を取り仕切っている偉いかた」

 お姉さまがご紹介してくださり、私はペコリと頭を下げます。

「あ、森下直子です。このたびはお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」

 偉いかたと聞かされ、いささか緊張気味にご挨拶。

「もちろんよ。直子ちゃんっていうんだ?じゃあ、直っちだね。アタシのことは寺ちゃんとか寺っちとか気軽に呼んでいいから、さあ、早く中へ入りましょう」

 フレンドリーにご対応くださる寺田さま。
 正面で見るとTシャツには、ポケットなんとかっていう大流行中ゲームのキャラクターのお顔のイラストが大きく描かれていました。

「あ、スリッパ履く?アタシら的には裸足でも全然構わないのだけれど」

「一応いただくわ。何しろ暑くって足の裏も汗かいちゃっているだろうから」

 お姉さまがお応えになり出てきたスリッパも見た目レザーっぽい有名ブランドロゴマーク付きの高級そうなもので、室内履きとかルームシューズなんて呼びたくなっちゃう。
 お姉さまがバーキンとトランクケース、私がキャリーを畳んで手持ちにして、うんせと運びながらもう一枚の扉の前へ。

 その扉が開いた途端に絶句…うわっ、とか、凄い、とかの声も出ませんでした。

 広大に拡がる円形の空間。
 どこのコンサートホール?って言いたくなるほど高い天井。
 フロアは黒と白の床材で奇麗な市松模様を描き出しています。
 
 奥のほうにはグランドピアノまで置いてあり、今すぐにでもオーケストラを入れて宮廷大舞踏会が開けそう。
 これだけ広いのに玄関の間も大広間もちゃんと涼しいのですから、エアコン代が凄そう。

「いつ見ても凄いわよね、この大広間。来るたびに圧倒されちゃう」

「無駄に広くてね。お客さんがいなくてアタシらだけだと寒々しいだけだよ。アタシらが使うのはあの辺一帯だけだしね」

 お姉さまの感嘆に素っ気なくお答えになられた寺田さまが指さされた方向にもうおひとかた。
 入り口から見て右45度の位置ら辺にシックなワインレッドの立派な三人がけソファー。
 それが向かい合わせに置いてあり、あいだに大きな楕円形のテーブル。
 家具全部が猫足でクラシカルかつお洒落なデザイン。

 そのソファーの私たちが見える位置に、寺田さまとおそろいぽいTシャツを召した妙齢の女性がこちらに軽く手を振っていらっしゃいます。
 ぞろぞろとそちらに移動する私たち。

「こちらは中村さん。しゅっぱ、あ、かなちゃんは会社やめたんだっけ?」

「はーい。7月からプー太郎でーす。寺っちに食べさせてもらってまーす」

 お道化たご様子でお姉さまにお応えになられた中村さまは、肩までのウルフカットがよくお似合いなこちらも小顔な美人さん。
 ボトムはグレーのジャージに裸足。
 寺田さまよりも目と唇が大きめで、なんとなくやんちゃそう、って言うか、ロックバンドでボーカルとかしていそうな印象です。

「でもフリーで同じようなお仕事、つづけられるのでしょう?」

「うん。そのつもりだけど、まあしばらくは寺っちのヒモでいるのもいいかなー、なんてね」

 屈託なく笑われた中村さま。

「ま、そんなことよりここは再会を祝してカンパイといきましょうや。さ、座って座って」

 中村さまに促され対面の高級そうなソファーにお姉さまと並んで腰掛けました。
 テーブルの上にはシャンパングラスとアイスペールに刺さった真っ黒なボトル。
 大きなお皿の上にチーズやクラッカー、キスチョコ、ピスタチオ…

 中村さまがアイスペールから黒いボトルをお抜きになり、両手でお持ちになりました。
 瓶の飲み口のところをチマチマされた後、その部分に白い布地をかぶせられます。
 片手で瓶の底、もう一方で飲み口のほうを持たれ、何やら慎重に作業をされている中村さま。

 やがて、ポンッ!という小気味の良い音がして、中村さまが並んだグラスに飲み物を注ぎ始めます。
 あれって、多分とてもお高いシャンパンだ…

 中村さまが私に飲み物が注がれたグラスを差し出してくださいます。
 受け取った途端に、自己紹介がまだだったことを思い出しました。

「あ、ありがとうございます。森下直子と申します。このたびはお世話になります。よろしくお願いいたします」

 慌てて立ち上がりペコリとご挨拶。
 あはは、と笑われる中村さま。

「うん。知ってる。エミリーから話聞いているし、写真もたくさん見せてもらったし」

 イタズラっぽく笑われる中村さま。
 うわっ、お姉さま、どんな写真をお見せになったのだろう、と急激にモジモジしてしまう私。

 カンパイの後はしばしご歓談。
 お姉さまと寺田さま中村さまの共通のお知り合いのお話がしばらくつづきました。
 私は、このシャンパン美味しいな、とチビチビ舐めつつ蚊帳の外。

「ところで先生は?」

 お話が一段落されたのか、お姉さまが投げかけられた素朴な疑問にかますびしくお応えになられる寺田さまと中村さま。

「昨夜遅くまで仕事されていたみたいで、さっき起きられて今はシャワーでも浴びてるんじゃないかな?」
「先週、百合草ママ御一行が来ていて凄かったのよ。酒池肉林。絵に描いて額に飾ったような酒池肉林」
「それで先生もご愉快が過ぎちゃって、お仕事がちょっと押しちゃった感じ?」

「えっ?百合草ママたちが来ていたんだ?誰と?何人で?メンツは?」

 お姉さまが喰い付かれます。

「総勢八名。ママとミイチャン以外見覚え無い顔ぶれだったから比較的新しいお知り合いとかお客様がたなんじゃないかな?」
「話したらアタシたちをお店で見たことある、って人がふたりいた」

「その中にマダムレイって呼ばれてるノリのいいマダムがいてね。本人がアラフォーにはまだ早い三十路って言ってたな。子供が一人いるけど実家に預けてきたって」
「そうそう、それでそのマダムが連れて来ていたM女を先生がえらく気に入っちゃって」

 愉しそうにご説明してくださる寺田さまと中村さま。

「そのM女、たぶんマダムと同じくらいの三十路だと思うんだけど、に先生がセーラー服着せたりスク水着せたり体操服着せたり」
「滞在中何度も呼び出していたよね?で、その三十路M女の場違いなコスプレがかなり似合うんだ、ヤバイ色気で。相方のマダムも嬉しそうにあっけらかんとはしていたけれど…」

「うん、ちょっと緊張したよね?マダム、実は密かに怒っているんじゃないかって。子供いるくらいだから両刀のバイだろうけど、マダムとM女は完全に主従の雰囲気だったから。人のドレイを好き勝手に、って思ってたりしないかなって」
「で、このM女がまたえらく芸達者でさ…」

 そのとき、大広間の振り子時計が、ボーンッ、とご遠慮がちな音を響かせました。

「あ、やばい。もうこんな時間じゃん。先生には三時見当って言ったよね?」
「だね。そろそろエミリーと直っちには準備してもらわなきゃ…」

 にわかに慌て出されるおふたり。
 お席をお立ちになられ、私たちも急かされるように立ち上がります。

「二階のお部屋に案内するから段取り通り、なるはやで用意してくれると助かる」

 寺田さまが真剣なお顔でおっしゃいました。


2021年7月31日

肌色休暇二日目~いけにえの賛美 03

 お弁当はサンドイッチでした。
 カリカリベーコンチーズ、ハムカツに薄焼き卵、ツナマヨ。
 どれも辛子バターがピリッと効いていて凄く美味しい。

 保冷剤に包まれていたので冷んやり口当たり良く、そんなにお腹空いていないと思っていたのですがついつい手が伸びてしまいます。
 甘いイチゴジャムサンドとオレンジマーマーレードサンド、ピーナッツバターサンドはデザート感覚。
 凍らせてくださっていたらしいペットボトルのお紅茶もほどよく溶けて、乾いた喉を冷たく湿らせてくださいます。

 そんなランチタイムを私は全裸の横座りで、お姉さまは着衣の女の子座りで堪能しました。
 私たちをじっと見据えているレンズに見守られながら。

 お食事中の会話です。

「ひょっとしてスタンディングキャットの方々も、今夜同じ別荘に泊まられるのですか?」

「まさか。タチネコは今日から社員旅行なのよ。同じ方向だったから車の運搬をお願いしたの。帰りは車で帰りたいから」
「この山下りたところの、もっと街中に近い旅館に現地集合二泊三日だそうよ。ゲイ御用達の男臭い旅館で、近くの繁華街にその手の飲み屋もあるんだって」

「こんな山の中だとクマさんヘビさんとか、出ないのですか?」

「それはあたしも初めて別荘に来たときに聞いたことがあるけれど、熊に関しては、この山全体のどこかにはいると思うけれど、こっち側に出た、っていう話は聞いたことがないって。こっち側には熊が好きそうな木の実とか食べ物があんまり無いんじゃないか、って言っていたわ」

「蛇でたちのわるい毒持っているのは熱帯の暑いところばっかのはずだから、見たことないけれど出ても怖がらなくていいんじゃない、ってさ」
「リスとか狐、あとアライグマなんかはたまに見るって。向こうがすぐ逃げちゃうらしいけれど」

「お花摘むっておっしゃっていましたけれど、草ばっかりであんまりお花は咲いていませんね?」

「あれ?知らなかった?お花摘んでくる、っていうのは登山家のあいだで昔からある、女性が草むらで用を足してくる、ことを奥床しく告げるための隠語よ。直子も、もししたかったら、その辺の草むらでしちゃっていいからね」

「そう言えばお姉さま昨日、別荘に着いたらあれこれヤられちゃうはず、っておっしゃっていましたけれど、別荘にもうどなたかいらっしゃっているのですか?」

「それはそうよ。誰もいない別荘に行って、あたしたちふたりだけで宿泊中の衣食住全部まかなえるワケないでしょ?シーズン中管理されていて、宿泊者に食事とか用意してくれる人たちがちゃんとスタンバっているわよ」

「そういう意味ではなくて、私にあれこれするっていう…そんなに、お姉さまでも一目置いてしまうくらい偉い、って言うか怖いかたなのですか?」

「怖いかどうかは知らないけれど、偉いって言えば偉いと思うわ。とくにあたしやうちのスタッフや直子みたいな人にとっては頼もしい人。直子も名前くらい聞いたことあるんじゃないかな」

「まあ行けばわかるわ。直子はお世話になる分カラダで払うお約束だから。着いてからのお愉しみ、だね」

 そんなふうにしてお弁当もふたりでキレイにたいらげました。
 食べ終えて出たゴミを手早くまとめられ、再度風呂敷に包まれたお姉さま。
 トートバッグから取り出されたご自分のスマホをチラッとご覧になられました。

「まだ一時前なんだ。あんまり早く戻るとモッチーハッシーのあられもない姿を目撃することになっちゃいそうだし、しばらく直子と遊んであげる。リンコたちにリクエストももらってきたし」

 謎なことをつぶやかれたお姉さまが、私にお言いつけされます。
 
 軽くなった風呂敷包みと緑色のバスタオルを東屋のテーブルの上に置いてくること、そのとき風に飛ばされないようにしっかり重しを置いておくこと。
 終わったら水道でよく手を洗って、潤んでいたらマゾマンコも洗って、飲み終わったお紅茶のペットボトル一本に水道のお水をいっぱいに詰めてキャップして持って帰ること。
 水色のバスタオルの上にはお姉さまのトートバックが残されています。

「ほら、行ってらっしゃい!」

 風呂敷包みとバスタオル、空のペットボトルを持たされ、裸の背中をパチンと叩かれた私。
 再び陽光が燦々と降り注ぐ日向へと全裸で送り出されます。
 汗なのか愛液なのか、内股がとくにヌルヌル潤んでいます。

 すべてお言いつけ通りに済ませて、お姉さまのもとへ。
 お陽さまの下でオールヌードで居ることにも段々と慣れたみたいで、ちょっぴり余裕が生まれます。
 木立沿いの草花をゆっくり観察しつつ歩を進めていたとき…

「あっ!痛いっ!」

 右の足首からふくらはぎにかけて、なんだかチクチクと何箇所か同時に刺されたような痛みを感じました。
 その強い痺れにも似た感覚はジワジワと広がり、我慢できないほどではないけれどジンジンシクシク痒みに近い、なんだかもどかしい痛み。
 左のふくらはぎにも同じ痛みを感じ、一目散にお姉さまのもとへと駆け戻ります。

「お姉さま、何かに足を刺されちゃったみたいですぅ」

「えっ?何?どうしたの?」

 面食らったお顔のお姉さまと至近距離で向き合います。

「ほら、ここなんです」

 大股開きになってしまうのも構わず、右足ふくらはぎをお姉さまのお顔まで近づける私。
 バレエのドゥバンに上げる要領で上げた足の膝を少し曲げた格好。
 突き出された私のふくらはぎを軽くお持ちになり、しげしげと見つめられるお姉さま。

「別に刺されたような傷もどこにも無いし腫れてもいないみたいよ。どこで刺されたの?」

 気のないお返事なお姉さまの手を引っ張って、さっきチクチクッとした場所までお連れします。
 剥げかかった芝生の中にちょっと背の高い草が群集している以外、地面に虫さんとかも見当たりません。

「ああ、これね。イラクサ。この辺には野生で生えているんだ」

 周囲を見渡されていたお姉さまが、そのちょっと背の高い草を指さされました。
 恐る恐る近づきながらも遠巻きに見つめます。
 お花屋さんの鉢植えで見たことがある青ジソに、葉っぱの形や生え方の感じが似ている気がします。

「茎や葉っぱに毛みたいなトゲがたくさんあるのよ。それでちょっと触っただけでもチクッとするの」
「昔の知り合いにプランターで栽培している人がいてね。その人のはセイヨウイラクサって言ってた。輸入物の種子から育てたんだって」

「こんなイジワルな草、なんで栽培なんてするんですかっ!?」

 まだけっこうジンジン痛痒いふくらはぎの疼きを感じながら、ご関係のないお姉さまに八つ当たり。

「薬草としては優秀らしいわよ。乾燥させてハーブティーにして飲むと花粉症の体質改善に効くらしいし、ビタミンや鉄分が豊富だからヨーロッパではサラダやスープにするらしいわ」
「あたしも不用意に触っちゃって手の指をジンジンさせちゃったことある。微妙な痛みと言うか痺れと言うか、不快感がけっこうしつこいのよね」

 私の隣に並ばれたお姉さまも、それ以上は近づきたくないご様子。

「大丈夫よ、直子の足は見た感じ腫れてもいないし、ちょっと掠めた程度でしょ。10分も経たないうちに不快感は消えちゃうはず」
「痒いからって掻いたりするのが一番良くないって。赤くかぶれたみたいになっちゃったらアロエのジェルを塗るといいらしいわ」

 イラクサのお話はそれで終わり、お姉さまに右手を引かれて木陰のところに連れ戻されます。
 大木の根本から少し離れたところに敷きっぱなしな水色のバスタオル、その上にお姉さまのトートバッグ。
 そのバッグが倒れていて、見覚えある不穏なあれこれがこぼれ出ていました。

「これを両手首に嵌めて」

 渡されたのは黒いレザーベルト状の拘束具。
 両手首に巻き付けてリングを短い鎖で繋げば、あっという間に手錠拘束です。

 案の定、ベルトを巻き終え、祈るように胸の前に差し出した両手首を5センチにも満たない短い鎖で繋がれます。
 その鎖に長い麻縄を結びつけられたお姉さま。
 手錠に繋がった麻縄に引っ張られ、つんのめるように大木の下に連れて行かれる私はまるで囚人のよう。

「あの枝が頑丈そうでよさそうね」

 お姉さまの目線を追うと私の身長の一メートルくらい上、大木の幹がお空へ広がるように三つに枝分かれしたあたりのことみたい。
 お姉さまに視線を戻すと、麻縄のもう一方の先に、先ほどお水を入れてきたペットボトルを結び付けておられます。
 何をされるおつもりなのかしら?

「直子、もう少し木に近づいてくれる?」

 お姉さまからのご指示で大木に寄り添うように立ちます。
 手錠で繋がれた両手は胸の前。
 ペットボトルを持たれたお姉さまが近づいて来られました。
 私の手錠に繋がった麻縄は、まだずいぶん余って地面でトグロを巻いています。

 お姉さまがペットボトルを宙空高く放り投げられました。
 地面に落ちていた縄が、ヘビさんが這うようにシュルシュルっと動きます。
 やがてペットボトルは枝分かれをした幹の又を超え、地面に真っ逆さまに落下します。

「あっ!」

 縄に引っ張られて手錠ごと両手がクイッと上へ少し引っ張られました。

「いやんっ!」

 地面に戻ってきたペットボトルを拾われたお姉さまが、縄をグイっと引っ張られました。
 私の両手も飛び込みをするときの両手のように揃えたまま、頭上高く引っ張り上げられます。
 ピンと張り詰めた縄がもう一度グイっと上に引っ張られ、私は爪先立ちに。

 お姉さまが余っている縄を緩まないように力を込めて引っ張りながら、隣の大木の幹に縛り付けています。
 私は両手を揃えたバンザイの形の爪先立ちで、大木に寄り添うように吊るされてしまいました。
 何もかもが剥き出しな全裸の姿で。

「ふーん、なるほどねえ。確かにリンコたちが口々に言っていたみたいに猟奇的な絵面ではあるわね」

 お姉さまがスマホを構えられ、カシャカシャ写真を撮りながらおっしゃいます。

「リンコたちに頼まれたのよ。熱心だったのはミサのほうだけれど、あの広場の大木に全裸の直子を吊るして写真を撮ってきてくれって」
「大自然の緑と青空と直子のいやらしい肌色ヌードとのコントラストで絶対ゾクゾクする写真になるからって」

「あたしの技量じゃ縄だけで怪我しないように木に吊るすなんて芸当出来ないからね、これは苦肉の妥協策。本当はもっとSMっぽい凄惨な姿にしちゃいたい気もするのだけれど」

 そんなことおっしゃりつつ吊るされた私の前を行ったり来たりして、色々な角度から撮影されるお姉さま。
 お姉さまの背後の三脚ももちろん私に向けられていて、この撮影のご様子もライブ動画撮影されているみたい。

 撮影されたお写真を確認されているのでしょう、三脚の後ろへと下がられたお姉さまがうつむかれてスマホ画面に見入られています。
 そのうちにふとお空を見上げられ、日向を避けるように東屋のほうへと駆け出されるお姉さま。
 えっ!?私はこのまま放置ですか?

 吊るされた私から十数メートル離れてしまわれたお姉さまは東屋の、私に横顔をお見せになる位置のベンチにお座りになり、熱心にスマホの画面をなぞり始めます。
 どうやらメールを始められたみたい。
 おそらくリンコさまたちに写メを送られるのでしょう。

 かまってくださるかたがいなくなり、途端に心細くなってきます。
 今の私の為す術もない状態…

 全裸で手錠拘束された腕を上に引っ張られ、爪先立ちで足元も覚束ず。
 剥き出しのおっぱい、剥き出しの下腹部、剥き出しのお尻。
 本来お外では外気に触れさせては行けない秘部のすべてを、お陽さまの下に晒してしまっている自分。
 隠したくても隠せない生まれたままの姿。
 
 お姉さまはあり得ないとおっしゃっていましたが、もし不意にここに第三者が現われたら、私はどうなってしまうのでしょう…
 途端に思い出す幼い頃に映画やドラマ、小説で感情移入していた悲劇のヒロインたち…

 怪物に捕まったお姫様、悪人に拐われたご令嬢、敵に囚われた女スパイ…
 手足の自由を剥奪され恥ずかしい格好にさせられて、それから…
 彼女たちもきっと今の私の心境と同じだったことでしょう。
 
 今日初めて訪れた名前も知らない山中で、首輪を嵌められた囚人として真っ昼間から素っ裸で磔に晒されている私。
 罪状はもちろん、街中や公共施設内での度重なる公然猥褻罪。
 そんなに見せたいのなら、ずっとそうして見世物になっていろ、と。

 屈辱的で、絶望的で、恥ずかしくて、みじめで、無力で。
 いつものマゾ性とはまた何か違う、せつなさと言うか悔しさと言うか、早くこの状況から解放されたいという祈りにも似た感情が湧き出てきます。
 
 もう5分以上は経っていると思うのですが、戻ってきてくださらないお姉さま。
 草木がそよぐほんの小さな物音にもビクンと怯えてしまう私。
 そんな状況なのに顕著に性的興奮の萌芽が露呈している、はしたな過ぎる自分のからだ…

 知らず知らずに爪先立ちの右足だけ少し膝を曲げて宙に浮かせ、内腿同士を擦り付けてしまいます。
 予想以上にヌルヌル過ぎて恥ずかし過ぎる…
 
「ミサから駄目出しくらっちゃった」

 ようやく戻ってこられたお姉さま。
 時間にして十分も経っていなかったでしょうか。
 私にとっては体感数時間にも思えた狂おしい放置責めでした。

「って直子、またよからぬ妄想していたでしょう?凄くエロやらしい顔になっているし全身汗みずく」
「でも汗だけでもないようね?下半身で一目瞭然」

 お姉さまの恥ずかし過ぎるご指摘に自分の両脚を見ると…
 確かに内腿から滑り落ちている愛液が明らかに白濁していました。

「ミサから指摘されたのもそこなのよ、恥ずかしく晒されているのに表情に余裕あり過ぎ、怯えが足りないって。あたしは一周回ってそのアンバランスさもシュールでアートな感じでいいかな、と思ったのだけれど」

 お姉さまが三脚を畳まれ、その支柱ごとレンズを私に向けてきます。

「放置したのが正解だったみたいね。直子はどんどん自分で自分を追い込むタイプの妄想力旺盛で貪欲なマゾだから」

「ていうことで、ここからはビデオで撮影ね。直子はあたしがいないあいだに没頭していたその妄想に全フリして、やめてください、とか、下ろしてください、とか実際に口に出して真剣に抵抗しなさい。このレンズが直子を拐った悪玉だと思って」

「本当に囚われの身になった気持ちになって絶望的な感じでね。うまく出来なかったら、本当に一晩ここに吊るしっ放しにするから」

 私は本当にそんなふうな気持ちになっていました。
 お姉さまのお言葉が終わるか終わらないうちに全身をくねらせていました。
 
 下ろしてください、許してください、虐めないでください、ロープを解いてください、と大きな声で懇願しながら、激しくジタバタして内股を擦らせ、顔を歪ませ髪を振り乱し…
 
 そんなふうにしているうちに、さっき放置されていたときに感じていた絶望感、恥辱感が快楽への甘い期待と一緒に舞い戻ってきます。
 呼応するようにますますダラダラ内腿を滑り落ちる私の恥ずかしい欲情の雫。

「おーけー。いい画が撮れた。アートから180度、扇情的って言うか生臭いほうへと振り切れちゃったけれど」

 お姉さまが三脚を地面に置かれました。

「グッジョブにご褒美を上げましょう」

 私に近づかれるお姉さま。
 見つめ合うふたり。
 マゾマンコにブスリと挿し込まれる二本の指。
 ロープに吊られてゆらゆら揺れる私を抱きすくめて重なる唇、蹂躙されるマゾマンコ。
 
 青空に私の断続的な淫ら声が溶けていきます。
 お姉さまの美しく火照られたお顔に、私のマゾ性が充足感を感じています。

 縄を解かれて東屋の水道でされるがままに素肌の汗や恥ずかしい分泌物を流されます。
 私もお姉さまもかなりグッタリ。
 でもそれは達成感、清々しさ多めなグッタリ。

 緑色バスタオルでからだを拭われると、まだからだのあちこちがビクンビクン。
 お姉さまがもう一度、ギュッと抱きしめてくださいました。

「さあ、車に戻りましょう。もう一時半回っているし、タチネコの連中も落ち着いている頃でしょう」
「ワンピのボタンは全部キッチリ留めていいわ。モッチーハッシーにこれ以上サービスする筋合いも無いし」

 私のハダカがおふたりへのサービスになっているのか、という点には疑問も残るのですが…
 お姉さまがとてもお愉しそうなので私も嬉しくなります。

 帰り道は広場の正面玄関から出て、整備された歩きやすい道をふたり、手を繋いで歩きました。
 車で通ったとき私は気づかなかった横道があったようで、ああ、こういうふうに繋がっていたんだ、と腑に落ちました。

 駐車場に戻ると本橋さまと橋本さまも、頬がくっつくくらいお互いにぴったり寄り添われ、ベンチでグッタリされていました。

「お待たせ。愉しめた?」

 お姉さまがからかうようにお声がけ。
 気怠そうなお顔で、んっ?、とご反応されるおふたり。

「男性の低い唸り声っていうのも雑音のない自然の中では意外に通るのよね。車の中ではシていないっていうことはわかったわ。さ、行きましょう」

 えっ?私、何も聞こえなかったのだけれど…
 気怠そうなまま立ち上がられるおふたり。
 でもおふたりともなんだかお顔がスッキリされているような。
 あ、手を繋いでいらっしゃるし…

 運転席にはラグジャーの本橋さま、エンジンをかけると流れ出るクイーンさんの厳かなバラード。
 ちょうどいいボリュームでエアコンの涼しさも気持ちいい。

「あなたたち、ちゃんと汗拭いた?何か微妙に車内がオトコ臭いんですけど」

 私もちょっと感じていました。

「水道が無かったから完璧とは言えないけれど、ちゃんとしたつもり…」
「あ、それからサンドイッチごちそうさま。美味しかった…」

 運転しながら本橋さまが少し早口でお応えになります。

「使ったタオルとかティッシュとかゴムとかは?」

 お姉さまってば、お声にSっ気滲み出てますってば。

「出たゴミは全部コンビニ袋で密閉して助手席の下に置いてあります。持ち帰ります。ぼくら、チーフが嫌がることはしませんから…」

 お姉さまの見透かしたようなおからかいが恥ずかしいのか、段々とお声が弱々しくなられる本橋さま。
 それとは関係なく車は再び木立の道を順調に進んでいます。

「んなこと言うなら、俺らにだってアンアン甲高いアヘ声が聞こえていたし、今だってなんとも言えないサカッた女臭さを嗅ぎ取っているんすけどっ!」

 助手席でグッタリされていたチャラ男系橋本さまが、こちらも甲高いお声で突然のご反撃。
 一瞬の沈黙の後、車内が爆笑で包まれました。
 その直後…

 車のウインドウ越しの風景がガラッと変わりました。
 突然木立が途切れ、目の前に平地が広大に開け、その奥にそびえ立つ荘厳な建物。
 さっきの広場から5分も走っていないと思います。

 えっ?何これ!?凄い…