2016年7月24日

オートクチュールのはずなのに 52

 舞台袖までリンコさまが付き添ってくださいました。
 カーテンの陰から垣間見える会場が明るいことに、まずびっくり。
 
 さっきモニターで見たステージ、お姉さまがお話しされていたときは、薄暗い中にライトで照らし出されていたのに。
 今はステージ上もお客様がいらっしゃるフロアも、このビル階下のショッピングモール並に会場全体、電気が煌々と照っています。

「ず、ずいぶん明るいのですね?」
 思わず小声でリンコさまに尋ねてしまいました。

「うん。今はアイテムの前説だからね。お客様も配られた資料をご覧になっているから」
「このショーは、お客様にアイテムを実際に肉眼で見て検討していただく説明会的な位置づけだから。でもまあ演出で、たまに暗くなったりもするよ」
 リンコさまのご説明でなんとなく納得ですが、私としてはもっと暗いほうが気が楽なのに。

 この明るさでこのワンピース、ということは、両脇からおっぱいが覗けちゃいそうな乳首ツンの薄物一枚で、ショッピングモールを歩くのと同じこと。
 さらに、ここにいるお客様がたすべての視線を私だけに惹きつけて、ということになります。
 さっき楽屋で全裸が隠せた安堵感で頼もしく思えたエスニックワンピが急に頼りなく思えてきました。

「・・・ということで、準備が整ったようなので、そろそろショーに移りたいと思います」
 私たちから見てステージの向こう端。
 仲良く肩を並べて司会をされている、ドレス姿の綾音さまとスーツ姿の雅さま。

「それではアイテムナンバー1番・・・」
 雅さまが告げると、BGMがインド音楽っぽいエスニックな曲に変わりました。
 小気味よい太鼓の音に絡まるシタールの音色が、かなり大きめに響き始めます。
 そのあいだに綾音さまがリンコさまにアイコンタクトされ、リンコさまがジェスチャーでオーケーサイン。

「それでは、じっくりお愉しみください」
 雅さまのお声と同時にリンコさまが私の背中を軽く叩きました。
「ほら、お仕事開始。行っといで」
「は、はいっ」

 視線を前方一点に定め、軽くアゴを引いて背筋を伸ばすこと。
 足を前に出すのではなく、腰から前に出る感じ。
 体重を左右交互にかけ、かかっている方の脚の膝を絶対に曲げない。
 両内腿が擦れるくらい前後に交差しながら、踵にはできるだけ体重をかけない。
 肩の力を抜いて、両腕は自然に振る。

 ステージの真ん中へと歩くあいだ、やよい先生から教わったモデルウォークの要点を必死でおさらいしました。
 視線はまっすぐに定めていましたが、どこにも焦点を合わせないよう、敢えて周りを見ないように努めました。
 それでもぼんやりと、会場の状況はわかりました。

 ステージ中央から会場奥へとつづくレッドカーペットを挟んだ両側に、たくさんの方々が着席されているのがわかります。
 昨日並べられたお客様用の長テーブル席すべてが埋まり、更にその外側までテーブルと椅子が増えているみたい。
 50人くらいっておっしゃっていたけれど、なんだかもっといらっしゃる感じ。
 その視線のすべてが自分に注がれているのを肌で感じていました。

 ステージ中央の階段を下り、お客様が並ぶフロアに降ります。
 ここからは、赤い絨毯を一直線。
 お姉さまからのアドバイスに従って、一歩踏み出すごとに歩数を数えながら進みます。
 お客様を意識しちゃうと途端にパニクりそうなので、視界を極力ぼんやりさせたまま、前へと歩くことだけに集中しました。

 それでもやっぱり明るすぎるせいか、場内の雰囲気がわかります。
 私の両脇1メートルくらいの至近距離からジーっと私の姿を目で追ってくる目、目、目。
 ノースリーブの脇からきっと、横おっぱいが覗けているのだろうな・・・
 腕を振りながらテーブルをひとつひとつ通過するたびに、心臓のドキドキが高まっていきました。

 48、49.50・・・
 51歩めで、ランウェイの先端に到達。
 ふぅ、と一息ついた途端、場内の明かりがすべて消え、真っ暗になりました。

「おおっ」
 お客様の小さなどよめきが合図だったかのように、頭上前方から一筋のスポットライトが私めがけて飛びかかってきました。
 暗闇の中ですでに回れ右をしていた私は、真正面から眩し過ぎるライトを全身に浴びました。

「おおぉーっ!」
 さっきとは比べものにならないくらいの大きなどよめきが会場全体に広がりました。

「なお、本日のモデルを務めますのは、今回がショーモデルデビュー、期待のニューフェイス、夕張小夜です。皆様、盛大な拍手をお願いします」
 綾音さまのアナウンスにつづいて沸き起こる割れんばかりの拍手。
 ライトにひるんで少しのあいだ立ち尽くしていた私は、その拍手に促されるように、今度はステージへ向かって歩き始めました。

 1、2,3・・・
 私を中心にして直径2メートルくらいを照らし出しつつついてくるライトのおかげで、赤い絨毯を踏み外す心配はありません。
 場内のお客様がたは、まだ少しザワザワされていますが、会場が暗くなったおかげで私は幾分気が楽になりました。
 視線をステージに合わせてまっすぐ前を向き、モデルウォークを崩さないように慎重に歩きます。
 11、12、13・・・

 15まで数えたときに、ふっと場内に薄明かりが差しました。
 今まで真っ暗だったステージ向かって右側上の大きなディスプレイスクリーンが点灯したようでした。
 会議室によくあるホワイトボードよりやや大きめのスクリーン中央に、私の姿が映っていました。

 カメラはステージ上から向けられているようで、だんだん近づいてくる私のバストアップが、ほぼ正面から映し出されていました。
 そして驚いたことに・・・

 着ているはずのワンピースの布地が完全に透け切っていました。
 茶とグリーンのエスニック模様を身に纏っていたはずなのに、そのお洋服が忽然とどこかへ消え失せてしまったかのように、強い光にハレーション気味な白っぽい肌色の肉体だけがクッキリ映し出されています。
 
 シースルーなんていう生半可なものではなく、まるで最初からワンピースなんて着ていなかったかのよう。
 足を踏み出すたびにプルンプルン揺れるおっぱいの弾みも、布地に擦れてなおも尖ろうとしている硬そうな乳首のピンク色までハッキリとスクリーン上に曝け出されていました。

 ど、どういうこと???
 今、お客様から私は、こんなふうに見えているの?
 少し視線を落として自分の胸のあたりを見てみますが、確かにエスニック模様のワンピースをちゃんと着ていました。
 頭の中が真っ白になりました。

 スポットライトが当たった後、どんな状態になってもあわてちゃだめよ・・・
 出の前のリンコさまのお言葉の意味がわかりました。
 お言いつけ通り、ポーカーフェースに努めながら歩きつづけます。
 視界の右端に見えるスクリーンの中の自分の姿が気になって仕方ありません。

 歩むに連れてカメラがゆっくりと引いていき、スクリーン上には私の全身が真正面から映りました。
 どう見たって何も着ていない状態。
 両脚の付け根まで鮮やかに剥き出しです。
 全裸の女性が歩いているようにしか見えません。
 光の中の私の肉眼では、確かに布地が全身をちゃんと覆っているにも関わらずです。

 私今、ここにいらっしゃるお客様全員に全裸姿をご披露しちゃっているんだ・・・
 恥辱と愉悦が入り混じったような、何とも言えないマゾ的高揚感が背筋を駆け上ったとき、不意にスクリーンが消えました。
 最後に映っていた私の白っぽい裸身の全身像が残像となって、脳裏に刻み込まれました。
 同時にスポットライトが後方からに切り替わりました。

 私は、いつの間にかステージ手前までたどり着いていました。
 あとは階段を上がり、ステージ中央でポーズして楽屋に戻るだけ。
 一刻も早く楽屋に逃げ込みたい・・・
 でも、お姉さまのイベントをぶち壊しにすることは、絶対出来ません。

 動揺を悟られないよう、一歩一歩踏みしめるように階段を上がります。
 背後から私を照らし出すライトの中、お客様がたには、全裸の女が階段を上がる丸い剥き出しのお尻が見えていることでしょう。

 ステージに戻ったら正面を向き、数秒ほど何かポーズを決めなければなりません。
 ライトの中だとこのワンピは透けている、と、わかってしまった私にとって、ここでお客様に向き直る、という振る舞いは、自ら望んでもう一度みなさまに私の全裸正面姿をご披露する、という露出狂らしいヘンタイ行為以外の何物でもありません。
 スクリーンも消え、暗闇のステージ上に私だけが浮かび上がる中、ゾクゾクしながら思い切ってお客様に向き直りました。

 何かポーズ・・・
 向き直った途端、会場のすべての視線が私に集中したのが闇の中でもわかりました。
 右手を脇腹に当ててちょっと気取る感じ、ってリンコさまはおっしゃっていたっけ・・・
 思い出して右手を挙げようとしたら、自然と左手もついてきてしまいました。

 あぁん、どうしよう!
 と思う間もなく両手は脇腹を超え頭近くまで挙がり、両足は休めの位置。
 気がつくと自然に、両手を後頭部で組んだ、例のポーズになっていました。

 そのまま5秒ほど数えるあいだ、ステージ近くからフラッシュが二度三度、光りました。
 そこで場内の灯りが点き、最初のときのような明る過ぎる状態に戻って、割れんばかりの拍手。
 私はポーズを解き、そそくさと楽屋へ向かいました。

「うん。上出来上出来。最初とは思えないくらい落ち着いていたじゃん」
 楽屋へのドア前で見守ってくださっていたらしいリンコさまのバスタオルに出迎えられ、楽屋に入りました。

「お疲れさまー」
 ほのかさま、しほりさま、里美さまが口々にねぎらってくださり、鏡前に連れて行かれました。

「今の感じでいければ問題無いね。ただ、ウォーキングはもう少しゆっくりめがいいかな」
「ポーカーフェース、さまになってたよ。シースルーになってもぜんぜん動じない感じで、よかった」
「最後のポーズもナオコ、いや夕張さんらしかったね。決めポーズは全部あれでいいよ」
「やっぱりけっこう汗かいているのね。興奮しちゃった?拭いてあげる」

 どなたがどれをおっしゃっているのかわからないほど、頭の中が混乱しきっていました。
 今起こったことが現実だとは思えないほど。
 鏡に映っているのが自分なのかもわからなくらい、ボーッと放心状態でした。

 そんな私から手早くワンピースを脱がせ裸にし、次のアイテムを着せてくださるリンコさま。
 同じような生地で、今度はピチピチパツパツ、ボディコンシャスなエスニック柄マキシ丈かぶりワンピースを、もちろん素肌に直で。
 
 長袖でからだのラインがクッキリ浮き出ています。
 スタンドカラーがチャイナドレス風というかアオザイっぽいというか。
 スリットは膝くらいまでで、ちよっと歩きづらそう。
 何をどう感じたらいいのか、思考がぜんぜん定まらない頭で、そんなことを考えていました。
 
「この生地はね、うちと、とあるバイオ研究所との共同開発なの。暗いところで強い光が当たると本当に綺麗に透けるんだ」
 リンコさまが私の着付けを直しながら嬉しそうに教えてくださいました。
 しほりさまは、私の顔にくっつくくらいお顔を寄せて、アイラインを修正してくださっています。

「おお、小夜っちがボディコン着ると、やっぱかなりエロいね。とくにバスト周りが」

 リンコさまのお言葉で自分の胸元に目を遣ると、柔らかい生地が私のおっぱいそのままの形に撓み、肉感的に包み込んでいました。
 もちろん、ふたつの頂点は露骨過ぎるほど生地を派手に押し上げています。
 うわ、いやらしい・・・
 自分で思わず目をそむけちゃうほどの生々しさ。

「はい、スタンバイしてください」
 羞じらいを感じる暇もないほどのあわだたしさで、美里さまからのご指令。
 リンコさまに手を引かれ舞台袖でキューを待ちます。

「このアイテムもさっきのと同じ段取りね。ランウェイ端で暗転するから」
「さっき言ったみたいに、ウォーキングを少しゆっくりめに、音楽のリズムにノッた感じで。アイテムとその優秀な透け具合をじっくり見ていただかなくちゃ」
「このアイテムが終わったら、長めな着替え時間でちょい休憩取れるから、がんばって」

 そんなふうに教えてくださっているあいだに、早くも綾音さまからのゴーサイン。
 最初みたいな明るさに戻ったステージに、ボディラインクッキリのボディコン姿で立ちました。
 BGMは、オリエンタルなメロディのアフタービートが効いたミディアムテンポに変わりました。

 頭の中は、相変わらずしっちゃかめっちゃかなのですが、人前に出る気分はかなり落ち着いてきていました。
 たぶん、先ほどのステージ去り際にいただいた盛大な拍手が、効いたのだと思います。
 あ、私、みなさまから歓迎されている・・・
 それは、生まれて初めて味わった、と言っていいほど、とても気持ちの良いものでした。

 最初のアイテムの暗転の後、スポットライトを浴びた私は、自分では予想もしていなかった全裸姿を、お客様すべてに視られてしまいました。
 暗転してライトが当たった直後に起きたどよめきの意味を、スクリーンに映った自分の姿で知りました。
 そして、最後にステージでもう一度お客様と向かい合い、マゾの服従ポーズをご披露したときにいただいた大拍手。

 それを浴びて私は、お客様がたが私の味方だ、と思えたのでした。
 こんなヘンタイなのにみなさまが私に注目され、私の裸を視たがっていらっしゃる、ということが、とても嬉しかったのです。
 心の中の私のマゾ性=恥ずかしい姿を視られるという恥辱の悦び、が拍手という心強い援軍を得て、臆病な理性と常識を片隅に追い遣りつつありました。

 ボディコンおっぱいが露骨に揺れるのも構わずランウェイを一歩一歩踏みしめながら、お客様がたを見渡せる余裕が出来ていました。
 ざっと数えただけでも、確実に60名以上はいらっしゃるでしょう。
 お若そうなかたからご年配まで、色とりどりに着飾ったご婦人たちが私の動きを目で追っていました。

 ときどき見知ったお顔がいらっしゃるのにも気づきました。
 あそこにアンジェラさまと小野寺さま。
 こっちにはシーナさまと純さま、それに桜子さまも。
 カメラやビデオを構えているのはスタンディングキャット社の男性陣。

 お姉さまのお姿が見つからないな、と思ったとき、ランウェイの端まで来ていました。
 両手を後頭部に添えてポーズを取った瞬間、暗転。
 すかさずスポットライトの洗礼。
「おおっ!」
 どよめく会場。

 ポーズのまま回れ右。
 ポーズを解いて歩き始めます。
 まだスクリーンが映らないので、自分がお客様からどんなふうに見えているのかわかりません。

 今度のはボディコンだから、さっきよりいっそう生々しい全裸姿になっているのだろうな。
 そんな恥ずべかしい姿を、お久しぶりなアンジェラさまや純さまに視られているんだ。
 どうか私だってバレませんように・・・

 今のこんな状況を愉しむ余裕まで出てきたのか、そんなことをワクワク考えながら、さっきよりゆっくりめにランウェイを進んでいると、さっきと同じような位置で、パッとスクリーンが輝き出しました。
 そこに映しだされた自分の姿・・・

 今度は最初から全身が映っていました。
 でも、予想したような全裸姿ではありませんでした。

 首周りまで隠れたチャイナドレス、アオザイ風のボディコンマキシワンピのシルエット。
 そのバスト周りと下腹部周りだけが綺麗に透けていて、その他の部分はちゃんと隠れているんです。
 普通はひと様にお見せしてはいけない部分だけを誇示するように、あからさまにそこだけ、鮮やかに露出しているんです。

 真っ暗な中に浮かび上がる、一見、着衣姿の私。
 シルエットのコントラストで点々と白く浮き上がった私の顔と両手両足、そしておっぱいと股間。
 そんなにソコを見せたくて仕方ないの?って言いたくなっちゃうくらい、あまりにヘンタイな半裸着衣。
 予想を超えるふしだら過ぎる自分の姿に、被虐感と背徳感がギューっと凝縮され、それらが淫らな欲求へと姿を変えて下腹部をキュンキュン疼かせました。

 先ほどみつけたアンジェラさまたちの真横を通り過ぎました。
 これってやっぱり後ろから見たら、おっぱい裏の背中とお尻の部分だけ透けているのだろうな・・・
 喩えようの無い恥ずかしさがマゾマンコの奥を潤ませてきます。

 階段を上がってステージ上へ、スクリーンも消え、スポットライトが闇の中、私だけを照らし出します。
 楽屋に捌ける前に、この破廉恥過ぎる衣装にお似合いの、一番私らしいポーズをみなさまにご覧いただかなくてはなりません。

 クルッと回転してお客様がたと向き合います。
 ゆっくりと両手を後頭部へ。
 自分が今、みなさまからどんな格好に見えているのかを想像すると、羞恥にプルプル震えだしちゃいそうなほど。

 みなさま、どうぞじっくり、ヘンタイドマゾな私の恥さらしな姿をご覧くださいませ・・・
 心の中でお願いしながら、マゾマンコをみなさまに突き出すように少し弓反りになった服従ポーズで、ゆっくり5つ数えました。

 下腹部の透けた部分にじっと目を凝らしていたお客様がおられたなら、少しだけ開いた陰唇のほとりから零れ出た生温くも淫らな液体が左脚の内腿を伝って一筋、ツツツーッと滑り落ちていくのが見えたことでしょう。


オートクチュールのはずなのに 53


2016年7月17日

オートクチュールのはずなのに 51

「し、失礼しまーす」
 自分の格好が格好ですから、どうしても声は小さくなってしまいます。
 リンコさまに軽く背中を押され、そっと楽屋に足を踏み入れました。

「はーい。きたきた。時間通りだね」
 明るいお声、たぶんしほりさま、が聞こえ、こちらに背を向けて立ったまま談笑されていた3つの背中が一斉に振り返りました。

 私の姿を見た瞬間の、しほりさま、ほのかさま、そして里美さまの呆気に取られたお顔は、今でも忘れられません。
 えっ!?という形のままお口をポカンと開けられ、目を見開いて数秒間フリーズしつつ、私の裸を見つめていました。

「まさか、その姿のまんまでマンションから来た、のではないよね?」
 フリーズが最初に解けたしほりさまが、ひどく真面目なお顔で尋ねてきました。
「あっ、いえ、これは・・・」
 おっぱいと股間を両腕で隠し、ゴニョゴニョと弁明しようとしているところに、リンコさまの快活なお声がかぶさりました。

「あはは。実はねナオコ、じゃなくて小夜さん、チーフたちに服を全部取り上げられたまま部室に残されちゃったわけ。だからさー・・・」
 リンコさまが私の隣に並ばれ、嬉しそうにダンボール箱の顛末を面白おかしく、みなさまに説明されました。

 楽屋になったお部屋は、いろいろ物があってけっこう狭く、寄って来られたお三人が私を取り囲むようにして、リンコさまのお話に興味津々に頷きながら、チラチラ視線を送ってきます。
 股間に添えた手のひらが、ジワジワ熱くなってきていることに気がつきました。

「やっぱり直子さんだったんだ。メイクとウイッグで雰囲気違うから、誰かと思っちゃった」
 ベージュのパンツスーツをシックに着こなされた里美さまが少し呆れたようにおっしゃいました。
 その好奇に満ちた視線が私の剥き出しの肌を刺してきます。
 ほのかさまは、困ったような笑顔を浮かべ、まぶしそうに私の顔ばかり見つめていました。

 羞じらいに身を固くしながらも、あらためて楽屋内を見渡してみました。
 6帖くらいの長方形な空間の壁際にテーブルが設えられ、その上にしほりさまのメイクアップお道具が整然と並べられています。
 その横には今日ご披露するアイテムなのでしょう、衣装がズラリと掛かったハンガーラックとシューズボックス。
 
 奥のほうに三人掛けくらいのソファー、あと折りたたみ椅子が数脚。
 スタッフのみなさまの私物らしきバッグやカートがソファーの上に山積みなっていました。

 お化粧品の甘い香りが充満した蛍光灯が明るく煌めく室内で、華やかに着飾られた4人に囲まれ、ただひとり全裸の惨めな私。
 それは、さっき箱詰めにされたときに浮かんだ妄想とも相俟って、お伽話によくある、これから魔物の生け贄に差し出されるお姫様のような、ひどく切ない気持ちとなり、私の被虐願望を強烈に煽り立ててきました。
 
 みなさまにはすでに、私の全裸姿はおろか性癖までも知られちゃっていますし今更隠しても仕方ないのですが、その屈辱的な状況がとても心地良く、ふしだらなおっぱいとマゾマンコを隠す腕にいっそう力を込めて、羞恥に酔い痴れていました。

「さ、それじゃあメイクの最終チェックをしちゃいましょう。小夜さん、ここに腰掛けて」
 しほりさまが壁際の大きな鏡の前にある椅子を指さされました。
「今、社長さんがご挨拶されているから、あと15分ぐらいで出番よ」

 しほりさまのその一言で、それまで和やかだった雰囲気がピリッと張り詰めました。
 私も急激にドキドキしてきました。
 本当に私、これからショーのモデルをして、見知らぬたくさんのお客様に裸同然の姿を視ていただくことになるんだ・・・
 両方の乳首にグングン血液が集まってきているのがわかりました。

 促されるままに鏡の前に座りました。
「背筋伸ばして、まっすぐ鏡を見ていてね・・・」
 それから、しほりさまが鏡越しに私と目が合ったのを確認されてから、ニヤッと笑ってご自分の顎をクイッと前に突き出す仕草。

 ああん、しほりさまのイジワル・・・
 でもお約束したのだから、その仕草=ご命令をされたら逆らうことは出来ません。
 私の両手は、おずおずとおっぱいと股間から離れ、頭の後ろへと。
 リンコさまの愉しそうなお顔と、ほのかさまと里美さまの不思議そうなお顔が、正面の鏡の端に映っていました。

 もはやおっぱいも股間も隠すことは出来ません。
 それどころか、視て、と言わんばかりのおっぱい突き出しポーズ。
 鏡の中で自分の大きめな乳首が痛々しいほど背伸びして尖っているのがわかります。
 そして背後から鏡の中を覗き込むみなさまの視線が、そこに集中していることも。

「まっすぐ前向いていて。よかった。そんなにメイクは崩れてないわね」
 おっしゃりながら、リップやシャドウをチョコチョコっと足してくださるしほりさま。
 ほのかさまもブラシで入念にウイッグを整えてくださっています。

 鏡の横には、会場の様子が映った大きめのモニター。
 薄暗がりの中、スポットにライトに照らしだされた艶やかなお姉さまが、マイク片手に何かお話されている映像が映っていました。

「おっけー。完璧よ。小夜さんは立って。リンちゃん、最初のアイテム着せちゃって」
 しほりさまがテキパキとご指示を出され、リンコさまが茶色っぽい布地を持って傍らにやって来ました。

「そう言えば、マエバリは?するんでしょ?」
 リンコさまが私に最初のアイテムを着せようとして、ふと思いついたように傍らのほのかさまに尋ねられました。

「あ、それなのですけれど、こちらに来てからのミーティングでチーフが部長たちとお話し合いされて・・・」
「今日は小夜さんがモデルだから、パスティースもマエバリも、しなくていいでしょう、って・・・」
 ほのかさまがおっしゃりづらそうに、私の顔と尖った乳首を交互に視ながら、小さなお声でおっしゃいました。
「そのほうが、お客様に与えるインパクトが強くなるし、モデルさん、つまり小夜さんだってノルはず、って、きっぱりと」

「へー。チーフったら、勝負賭けてきたじゃん」
 リンコさまが嬉しそうにおっしゃったとき、不意にお部屋一番奥の壁の一部分が開き、盛大な拍手の音が楽屋内に雪崩れ込んできました。
 どうやらそこがステージへ出るドアのよう。
 つづいて、バッチリメイクをキメたお美しいお姉さまの少し上気されたお顔がひょっこり。

「はあぁぁ、これでお役ご免。あとはゆっくりショーを愉しむだけね」
 うっすらと汗の浮いたお顔でニッコリ微笑まれたお姉さま。
「おつかれさまでーす」
「おつかれさまでーす」
 お姉さまに向け、口々にご挨拶されるみなさま。

「お、来てたわね、期待のスーパーモデル小夜ちゃん。あとはしっかり頼むわよ」
 私だけに向けてニコッと笑って人目も気にせず、まだ全裸のままの私を抱き寄せてギュッとハグしてくださるお姉さま。
 パフュームの心地良い香りに包まれ、スーツの布地に剥き出し乳首がザラッと擦られてマゾマンコがキュン。

 数秒間の抱擁が解けると、お姉さまが至極真面目なお顔で、みなさまに向けておっしゃいました。
「さあ、このあと司会のふたりがざっと最初のアイテムの説明したら、ショーの始まりよ。準備はいい?」

「あ、はいっ!」
 あわてたようにリンコさまが私に最初のアイテムを着せるために私の右腕を取りました。
 里美さまはインカムを装着し、ほのかさまはズラリと衣装がぶら下がったハンガーラックへと駆け寄ります。
 リンコさまの手でかぶりのワンピースのようなお洋服を着せられながら、傍らのお姉さまからレクチャーを受けました。

「ランウェイは片道だいたい50歩くらい。先端まで行ったら5秒ほどポーズ決めて、回れ右ね」
「戻ったらステージでまたお客様に向けてポーズ決めて、ここに戻る、基本的にそれのくりかえし」
「最初のうち緊張気味だったら、頭からっぽにして歩数だけ数えながら歩くといいわ」

「後半のアイテムは、ステージに戻ってから仕様によってはステージ上に残ることもあるけれど、それは事前にリンコが教えてくれるわ。ステージ上ではアヤに従いなさい」
「朝にも言ったように、モデルは基本高飛車ね。ポーカーフェイスをキープ」
「モデルウォークに関しては、まったく心配していないけれど、照れ笑いとか困惑顔は絶対見せちゃだめよ。あくまでもエレガントにね」

 そこまでおっしゃってから、そっと私の耳に唇を寄せてきました。

「思う存分愉しんできなさい。大勢の人前で恥ずかしい姿を晒すの、ちっちゃい頃からの夢だったんでしょ?」
 私の耳朶をくすぐるお姉さまのヒソヒソなイジワル声。

「顔にさえ出さなければ、どんどん感じちゃっていいわよ。直子がずっと溜め込んでいたヘンタイ性癖を今日のお客様に見せつけてやりなさい」
「日曜日には直子の部屋で、ふたりきりでたっぷり反省会してあげる」
 コショコショっと早口でおっしゃって、唇が離れました。

「営業部のがんばりのおかげで、今日は今までで一番たくさんお客様が来てくだっさったし、絶対成功させましょう」
 普通のお声にお戻りになったお姉さまが、みなさまにお聞かせするようにおっしゃいました。
「はいっ!」
 綺麗で力強いユニゾンが楽屋に響きました。

「あたしはミサのところで見てるから、何か急な連絡があったら里美、イヤモニで呼んで」
「はい。了解です」
 里美さまのお答えに頷かれてから、さっき私たちが入ってきたドアの向こうへと、お姉さまが消えました。

 ドアを閉じる前、
「頼んだわよ、夕張小夜さん?あたしを悦ばせてね」
 というお言葉とウインクをひとつ残して。

 私は、いつの間にか最初のアイテムを着せられていました。
 それは、グリーンと茶色をベースにしたアーシーな色合いのワンピースでした。
 か細い糸を幾重にも織り込んだ薄手のとても軽い生地で、丈も長いストンとしたシルエット。
 アジアの暑い国のほうっぽいエスニックなデザインで、シックな感じ。

 今日のイベントのアイテムはキワドイキワドイって、今までさんざんみなさまから吹きこまれていたので、ちょっと拍子抜けでした。
 ノースリーブの脇が大きめに開いていて横から中が覗けちゃいそうな感じな以外、さほどセクシーな印象はありません。
 素肌に直で着て生地が柔らかいため、私の尖ったバストトップはあからさまに浮き出ているのは恥ずかしいけれど。
 確かに素肌にこれだけ着て街中を歩け、と言われたら躊躇してしまうでしょうが、すごく久しぶりにようやく全裸の状態を隠すことが出来たので、なんだかホッとさえしていました。

「そろそろ出番です」
 ラップトップのパソコンに向かっていた里美さまがこちらを振り向き、おっしゃいました。
 ドキン、と心臓が跳ね上がります。
 リンコさまに手を引かれ、先ほどお姉さまが入ってこられたステージへと向かうドアの前に導かれました。

「このアイテムは裸足のままで。裾をひるがえす感じで颯爽と歩いて。足の裏、汚れていない?」
 すかさずほのかさまが濡れタオルを持ってきてくださり、ひざまずいて私の両足を拭いてくださいました。

「そのドアを出るとステージ下手に出るの。司会の演壇は上手。出てすぐはカーテンで隠れているから客席からは見えない」
「ステージに出たら、モデルウォーク開始ね、中央にランウェイに降りる階段が三段あるから、そこまで進んで階段降りて、そのままランウェイを端まで直進ね。出てもお辞儀とか一切しなくていいから」
 リンコさまが真剣なお顔で注意事項をレクチャーしてくださいます。

「端まで行ったら場内が暗転してスポットが当たるから、少し歩調を緩めて戻ってきて」
「ステージに戻ったら、中央付近で一度、お客様のほうに向き直してポーズ。そうね、右手を脇腹に当ててちょっと気取る感じ」
「スポットライトが司会のふたりに移ったところで退場。お辞儀は無しでスタスタと。すぐに次のに着替えるから」

「は、はい。わかりました」
 お答えしながら、どんどんどんどん、ドキドキが高まってきました。

 いよいよショーモデルデビューです。
 最初のアイテムは、脇からおっぱいが覗いちゃいそうな以外、無難なワンピース。
 でも、それは最初だからで、きっとこれからどんどんキワドクなっていくはずです。
 
 午前中に見せていただいたイベントパンフレットに載っていたアイテムたちを思い出そうとしてみますが、自分が着て人前に出たら恥ずかしさでおかしくなってしまいそうなアイテムばかりだった、ということ以外、具体的なことはまったく思い出せませんでした。

 もしも思い出せたとしても、もはや逃げられません。
 イベントはすでに始まっていて、私には、お客様がたの前にそれらを着て出つづけることしか選択肢は無いのです。
 私がどんなに恥ずかしい思いをして、辱められ蔑まれたり嘲られても、それは私の望んだこと。
 そうすることによって、愛するお姉さまに悦んでいただけるのですから、覚悟を決めるしかありません。

「スタンバってください」
 里美さまのお声。
 ほのかさまがドアをそっと開け、私はドアのすぐ前に立たされました。
 早いビートのダンスミュージックぽい音楽が大きめなボリュームで聞こえています。

「緊張してる?大丈夫。リラックスしてがんばって」
 リンコさまが私の右手をギュッと握っておっしゃってくださいました。
 それからイタズラっ子のようなお顔になり、

「暗転してスポットライトが当たった後、どんな状態になってもあわてちゃだめよ。スーパーモデルはポーカーフェイス。忘れないで、ね?」

 ニッとイタズラっぽく笑いかけるリンコさまに背中を押され、ステージ上に一歩、足を踏み出しました。


オートクチュールのはずなのに 52


2016年6月26日

オートクチュールのはずなのに 50

「あっちの部屋でね、いいものみつけちゃったんだ。で、ピンて閃いちゃった」
 洋間のドアを指さしたリンコさまが、含み笑いを浮かべて私をじっと見つめながらおっしゃいました。

「そのいいものって、ガウンとか、お洋服ではないのですよね?」
「もちろん。今持ってきてあげる」
 タタタッと小走りに駈け出したリンコさまが洋間のドアの向こうへ消えました。
 すぐに戻られたリンコさまは、両手で大きな板のようなものを持っていました。

「これね、イベント会場の飾り付けに使うトルソーとかを運ぶためにさ・・・」
 おっしゃりながら、持ってきた一枚の板を慣れた手つきで広げると、ずいぶん大きめなダンボールの箱になりました。

「トルソーを一度に四体詰め込めたから、人ひとりくらいなら余裕で入れるはず」
 6~70センチ四方くらいの底で、高さも同じくらいの頑丈そうなダンボール箱。

「玄関に台車があるから、アタシが押して会場まで運んであげるよ。中に入っちゃえば裸でもへっちゃらじゃん?」
「私が、この中に、入るのですか?」
「うん。アタシ、台車のハンドリング、上手いんだよ。学生の頃、宅配便のバイトしてたことあるから」
 屈託ない笑顔でおっしゃるリンコさま。

「ほら、いけるかどうか、ちょっと入ってみて。そろそろ時間だからさ」
「裸のまんまで、ですよね?」
「仕方ないじゃん。着るものなんもないんだから」
「は、はい・・・」

 リンコさまが押さえてくださっているダンボール箱の縁をまたぎ、恐る恐るな感じで箱の中に足を踏み入れました。
 両足とも踏み入れると、突っ立った姿勢でおへそくらいまでが箱の中。

「それで、しゃがんでごらん」
 お言いつけ通りにすると、ひょっこり頭だけが箱から覗く感じ。
「やっぱりペタッとお尻着けなきゃ、完全には入んないか・・・座り込んじゃってみて」

 お言葉に促され後ろ手を着き、ダンボールの底に裸のお尻を着きました。
 ダンボールがひんやり、おしりの熱を奪います。
 足を崩して胡座をかくような格好になると、その分、箱の中がちょっと窮屈になりました。

 リンコさまが蓋を閉めようと、折れたダンボールを被せてきました。
 私が首をかしげるように折り曲げると、ダンボール内にからだが全部隠れました。
 真っ暗な中に二箇所、おそらく箱の持ち手のために空けられたのであろう細長楕円形長さ10センチ位の穴があり、そこから薄っすらと光が差し込んできます。

「よかった。大丈夫そうじゃん。それじゃ急がなくちゃ。もうすぐ3時になるし」
 蓋が開いて、リンコさまが手を差し入れてきました。
「えっ?出るのですか?」
「あったりまえじゃない。ナオコが入ったままの重い箱なんて、アタシが玄関まで運べるワケないでしょ」
 リンコさまの手に縋って、箱から出ました。

「入り心地はどう?もし窮屈だったら、膝を抱えて丸まって寝転んじゃったほうがラクかもしれない」
 おっしゃりながら、ウイッグとビューラー、サングラスを紙袋に詰め、さっき使った白いバスタオルを箱の底に敷いてくださいました。
 それからご自分のバッグを肩に提げ、ぐるっと周りを見渡したリンコさま。

「忘れ物なし。はい、これ持ってついてきて」
 紙袋を私に渡し、片手で空ダンボールをひきずり、玄関へ向かわれました。
「ほら、もたもたしないで。遅れちゃうよ?」
「あ、はいっ!」
 紙袋片手に全裸のまま、リンコさまを追う私。

 リンコさまは、玄関ドアを外開きに開け、ドアが閉じないようにストッパーをかけた後、玄関先に折りたたまれていた台車をギーガッチャンと組み立てて廊下に置きました。
 その上に空のダンボール箱が置かれます。
 
 私はと言えば、左腕でおっぱいを庇い、右手に持っている紙袋で股間を隠しつつ靴箱の陰から、そんな廊下の様子を見ていました。
 だって、開け放たれた玄関の向こうは、紛れも無く公共の場ですから。

「ナオコの靴、これ?」
 沓脱ぎにポツンと残されたベージュのパンプスを指さしてリンコさまが尋ねてきました。
「はい・・・」
「ヒールがあるから、履いて箱に入ると危なそうだね。いいわ、アタシが持ってってあげる」
 おっしゃるなりパンプスを拾い上げ、ご自分のバッグに押し込みました。

 それから、ダンボール箱の側面に黒くて長いゴムバンドをあてがい、台車の押し手のハンドル部分もろとも括りつけました。

「こうしておけば、台車が前のめりになっても箱が台車から落ちないでしょ?バイト時代に培った隠しワザ」
 ずいぶん得意そうなお顔のリンコさま。

「今ジャスト3時。ほら早く廊下に出て、鍵閉めるから」
 なんでもないことのようにおっしゃるリンコさまですが、お部屋を出てしまえばマンションの公共の廊下、そして私は全裸です。
 どうか廊下に誰もいませんように・・・誰も通りませんように・・・お部屋からも出てきませんように・・・
 祈る気持ちで玄関ドアを裸足でくぐり抜けました。

「はい、入って入って」
 リンコさまがダンボールの縁を押さえながら急き立てます。
 大きく脚を開いてダンボールをまたぎました。

「こんなところで真っ裸の女子を箱に詰めるなんて、かなり淫靡でハンザイぽいシチュだよね?」
 とても嬉しそうなリンコさまのひそめたお声が頭上から降ってきます。

「出来れば後ろ手に縛ったり、M字開脚拘束とかしてると、もっと雰囲気なんだけどなー。猿轡とかさ」
「令嬢ラチユウカイカンキンコウソク、みたいな?もしくは悪の秘密組織の調教済みセイドレイの出荷、みたいな?」

 ワクワク妄想全開なリンコさまのお声を裸の全身に浴びながら、ダンボール箱の中に座り込みました。
 持っていた紙袋はお尻の横に置き、はしたなくお股開き気味の胡座。
 今度はお尻の下にバスタオルが敷かれているので、さっきより少しだけ座り心地がいいみたい。

「おっけー?閉めるからね。それじゃあ、しゅっぱーつ!」
 進行方向前後から蓋が下りてきて、箱の中が真っ暗になりました。
 持ち手用の穴も進行方向の前後に有り、かしげた首の目線を少し上げると、お外の様子がチラチラッと見えました。

 ガラガラと床を転がる4つのキャスターの振動が、台車の荷台とダンボール越しに私のからだをプルプルと震わせています。
 進行方向に向いて立て膝気味の胡座ずわりな私。
 前屈みになっているので、右おっぱいの先が右の太腿に押し付けられています。
 
 絶え間なくつづいていた振動が止まりました。
 前方の持ち手穴を覗くと、エレベーター前のよう。

 いよいよ私、ダンボールに詰め込まれた、モノ、みたいな、こんなふしだらな状態でお外に出されちゃうんだ・・・
 と、思う間もなくエレベーターが到着し、ガタガタっと中へ。
 すぐに下降を始めてチーン。
 台車が動き、マンション一階のエレベーターホール。
 そこで台車が静止しました。

 あれっ?と思っていると、突然、ダンボールハウスの天井が開きました。
 いやんっ、開けちゃだめーっ!
 箱の中に突如差し込んできた眩しい光に、思わず顔を背けてうつむきました。

「大丈夫よ、周りに誰も居ないから。ちょっと一応、記念撮影しとこうと思ってさ」
 そのお声に恐る恐る顔を上げると、箱の方に携帯電話を突き出したリンコさまが笑っていました。
「ほら、ちゃんと顔上げて。おっぱいも見えるように腕どけなさい」
 たてつづけにカシャッカシャッという撮影を告げる電子音が鳴り響き、天井が閉じられました。

「さあ、急がなくちゃ」
 独り言のようなリンコさまのお声を合図に、再び台車が動き始めました。
 ガラガラ音がしばらくつづいた後、急に辺りのざわめきが大きくなりました。
 マンションのエントランスドアを抜け、とうとうお外に出たようです。

「うひゃー。まだポツポツ降ってるんだ」
 濡れた車道を走り抜けるシャーッという自動車のタイヤ音とエンジン音。
 人々が通り過ぎる足音とさざめき。
 ダンボール箱を打ち付けるポツポツという雨音。
 そんな街の喧騒の中、かすかにリンコさまの独り言が聞こえました。

 マンションからオフィスビルへ入るには、舗道を一度一番端の交差点まで行って渡り、そこから少し戻る感じに進むことになります。
 オフィスに通うようになってからは毎日のように行き来してきた、歩き慣れた道。
 沿道に大きめな24時間営業のスーパーマーケットがあるので、交通量、歩行者共に終日かなり多いことも知っています。

 そんな私にとって極めて日常的な空間を、今はダンボール詰めの全裸で運ばれています。
 先ほど出発前にリンコさまがおっしゃった一言を思い出しました。
 ・・・悪の秘密組織の調教済みセイドレイの出荷・・・
 今の私って、まさしくそんな感じに思えました。

 オフィスに着くなりお姉さまのご命令で丸裸にされ、綾音部長さまにからだの隅々まで観察され・・・
 裸コートで離れたマンションの一室に連れ去られ、お姉さまからお浣腸を施され・・・
 他のスタッフ全員の前でも全裸を隠すことは許されず、無毛のマゾマンコまでしっかり目撃され・・・
 初対面のしほりさまに全身隅々もてあそばれ、会社の先輩のリンコさまに何度もイキ顔をご披露し・・・
 今こうしてモノのようにダンボール詰めで運ばれて・・・
 この後は、何人もの見知らぬ方々の前で、エクスポーズ=露出というテーマのお洋服姿を視ていただく・・・

 今日これまでの一連の流れを思い出してみるだけで、自分の中のマゾの血が沸々と滾ってくるのがわかりました。
 そして、今日を境に、自分の人生が確実にガラッと変わってしまうであろうことへの不安と期待。
 もう私は、昨日までには戻れないんだ・・・
 頭の中では、小学校のときに習ったドナドナというお歌のメランコリックなメロディがくり返されていました。

 ダンボール箱の中で揺られながら、いつの間にか左手が左足首を、右手が右足首を掴み、自主的にM字開脚姿勢となっていました。
 少し背中を滑らせて、お尻を宙空に持ち上げて突き出すようにのけぞります。
 あの持ち手の穴から、私の広げたマゾマンコが、チラッとお外に覗いちゃったりしないかな・・・
 自分を辱めたくて仕方なくなっていました。
 狭い箱の中が、嗅ぎ慣れた自分の淫らな臭いで充満しているのがわかりました。

 スロープを下ったり上ったり。
 ガタガタ揺れる箱の中ですっかり被虐に浸っていると、いつの間にか喧騒が遠のいていました。
 どうやらオフィスビル内に入ったみたい。

「やれやれ。この界隈のバリアフリーはあんまり優しくないね。エレベーターに辿り着くまでかなり遠回りだもん」
 不意なお声とともに再び天井がパカっと開き、リンコさまが覗き込んできました。

「あっ!いやんっ」
「って、ナオコ、すごい格好してるじゃん。こっちに向けてオマンコパックリ拡げちゃって」
「あっ、いえ、こ、これは・・・」
 慌ててふんぞり返った姿勢を正そうとすると、リンコさまに止められました。

「だめっ!そのまま足首掴んでなさい。こんな激エロい格好、ナオコの愛するお姉さまにお見せしなくてどうするの?撮影しとかなきゃ」
 素早く携帯電話を構えてカシャカシャっと連写されました。

「で、まあ、それはそれとして、ごめん。失敗しちゃった」
 リンコさまが携帯電話を仕舞いながら、いつにない早口でおっしゃいました。

「アタシ、ずっと興奮してたから気づかなかったけど、今急に、すっごくオシッコしたいのよ。部屋出る前にしておこうと思ってたのに」
「雨に濡れて冷えちゃったのか、交差点の辺りから、すっごくしたくなっちゃって。トイレ見えたら、もう我慢できなくなっちゃった」
「大丈夫。ここは業者用の荷物エレベーター前だから、一般客は使わないから。ほんの1、2分だから、待ってて」

 切羽詰まった感じでそう言い残し、ササッと消えたリンコさま。
 ダンボール箱の蓋を閉めるのも忘れて、私は放置されてしまいました。
 ちょっ?ちょっと、リンコさま・・・
 焦って蓋を閉めようと頭上に手を伸ばしかけ、あらためて、辺りがすごくシンとしていることに気づきました。

 本当に周りに誰もいないみたい。
 だったらちょっと冒険して、状況を把握しておくべきかも。

 恐る恐る箱から頭を出してみると、そこはオフィスビルの一番端っこ、確かに経験上、人通りは少ない場所ではありました。
 吹き抜けの広いバスターミナル沿いで、イベント会場付近に直通しているエレベーターホールのある長い通路の片隅。
 確か、ドアを越えた奥にお客様用エレベーターがあって、ここは駐車場からの出入り業者納品用エレベーター。
 
 そのエレベータードアの前に、私の入ったダンボール箱を載せた台車がポツン。
 女子トイレは確か通路並びで、ここのすぐ横にあったはず。

 状況はつかめたものの全裸でこんなところにひとり放置され、不安であることに変わりはありません。
 いつ、どこかの業者さんがエレベーターの方に来てもおかしくありませんし。
 ここは大人しく、箱に篭ってリンコさまを待つしかないようです。
 再び箱の中に潜り込み、手を上に伸ばして蓋を閉じようとしました。

 よくあるダンボール箱のように、前後二枚を閉じてから左右二枚。
 ただ、前後二枚を引っ張って閉じると、左右の二枚に手を伸ばすことが出来ません。
 仕方がないので、前後の二枚をグイッと内側まで引き込み、空いた空間から手を伸ばして左右の二枚も引き寄せます。

 うまくいった!
 と思って引き寄せていた手を離すと、前後左右4枚ともフワッと浮いて、蓋の真ん中に隙間が出来てしまいます。
 きっと運んでいるときは、リンコさまのバッグか何かを重しに置いて蓋を押さえていてくださったのでしょう。

 蓋が中央に作る隙間は5センチ四方くらい。
 真上から見下ろせば、目を凝らさなくても、中に見える私の肌色に気づいちゃうはず。
 かと言って、隙間を指で引っ掛けて引き寄せたら、却ってその指のほうが注目を惹いちゃいそうだし。
 考えあぐねていたら、ふと自分の左手に触れるものがありました。

 そうだ、リンコさまがウイッグとかを入れてくださったこの紙袋で穴を塞いでしまえば、中は見えなくなる。
 ううん、この紙袋をお外に出して、蓋に載せて重し代わりにするほうがいいかも。
 
 思いついたら即実行と蓋を開けかけたとき、上のほうでガタンと物音が聞こえました。
 つづいてウィーンってモーターが回るような音。

 エレベーターが動いている?
 誰かが傍らに来て呼んだのかしら?
 でもさっきからずっと、周囲で不審な物音はしなかったし。
 だったら、きっと誰かがエレベーターで何階からか、降りてくるんだ。

 私は、左手に持った紙袋を天井の穴を塞ぐようにかざし、箱の中に光が入り込まないようにしてジッと息を殺していました。
 やがてすぐ近くでガタンと物音がし、モーター音が止まりました。
 ポーンという電子音の後、ザザーッと扉が開く音。

「おおっと!どこのどいつだ、こんなところに荷物置きっぱなしにしたやつ!」

 ガラガラなご中年ぽい男性のお怒り声が聞こえたと思ったら、台車がグインと動いてガタンッ!
 前の右角が壁に当たったようです。
 台車の持ち手のところでも、押すか蹴飛ばすか何かされたのでしょう。

 うわ、どうしよう!?
 どこの荷物だこれ?ってダンボール開けられちゃったら・・・
 お相手は、怖そうな男性っぽいし・・・
 一気にパニクりそうになったとき、聞き覚えのある大きなお声がフェードインして聞こえてきました。

「ごめんなさーいっ!おじゃまでしたよねー。今どかしまーすっ!ちょっと、おトイレに寄っていたものでー」
 リンコさまのお声がすぐ近くに聞こえるようになって、ダンボール天井の穴が何か重いもので塞がれました。

「ああ、お姉ちゃんのか。だめだよ、扉の真ん前に置きっぱなしにしちゃ。エレベーター使う人が迷惑だろーが」
「はい。ごめんなさい。ご迷惑おかけしましたー」
 台車が1メートルくらい、ゆっくりと動いた感じがしました。
 たぶん、男性から遠ざけたのでしょう。

「やむをえず置いとくなら隅っこの方にな。ここはみんなが使うんだから。気をつけなよ」
 最後はずいぶんお優しげなお声に変わって、ガラガラと台車を押すような音が遠ざかって行きました。
 入れ違いにエレベーターへ乗り込みます。

「ああびっくりした。あの宅配便のおじさん、箱開けようとしてんだもん。危機一髪だったー」
 エレベーターの中で、リンコさまが心底ホッとされたようなお声でおっしゃいました。

「えっ?そうだったのですか?」
「うん。箱に右手を伸ばしているところが見えたから、大慌てで叫びながら帰ってきたんだから」
 ふぅー、と大きくため息をつかれるリンコさま。

「あれでもし、あのおじさんに箱開けられちゃってたら、どうなってたんだろうんね?ナオコもアタシも。あんまり品のいい人じゃなさそーだったし」
 ポツンとおっしゃったリンコさまのお言葉に、私も今更ながら嫌な汗が背中をツツーッ!

 もう一度リンコさまがハァーッと大きなため息をつかれたとき、ポーンと電子音が鳴り、どうやら目的階に着いたようでした。
 エレベーターを出ると、さっきまでのあれこれが嘘だったみたいに再びシーンと静まり返った中、なんだか眠そうなストリングスBGMが低く聞こえてきました。

「もうこの時間は、どの会場もそれぞれイベントやら会議やらの真っ最中だからね。フロアには人っ子一人いないみたい」
 台車のキャスターの音もお外の道路みたくガタガタせず、ススーっと進んでいます。

「おっけー、着いた。出て」
 えっ?だって会場のドアを開けたようなご様子も全然無かったし、ここってまだフロアの廊下なのでは?
 私の心を知ってか知らずか、天井があっさりパッカリ割れて全開になりました。

「大丈夫だって。ここは楽屋へつづくドアの前の廊下。誰もいないから」
 箱の蓋が開いても立ち上がってこない私を安心させるように、箱の中にリンコさまの右手が差し出されました。

 その手に縋り、恐る恐るゆっくり、立ち上がり始めます。
 周囲の雰囲気は紛うこと無く、昨日下見に訪れたイベント会場フロアそのものでした。

「会場、長細かったでしょう?お客様が出入りする入口ドアはあっち」
 今進んできたのであろう廊下の先を指さされるリンコさま。
「そんで、このドアはステージ側、関係者以外立入禁止の楽屋へ通じるドア」
 目の前のドアを指さされました。

「ここからはナオコじゃなくて、我が社のイベント成功のカギを握るスーパーエロティックモデル、夕張小夜なんだからね」
 台車の横に私のパンプスを、きちんと揃えて置いてくださりました。
 リンコさまが押さえてくださるダンボールの縁をまたいで、ひとまず裸足でリノリュームの床に降り立ち、それから身を屈め、ベージュのパンプスを履きました。

 全裸に、なぜだかパンプスだけの私。
 それもこんな昼下がりの瀟洒なオフィスビルの廊下で・・・

 性懲りもなくぶり返してくる被虐の滾りにクラッとしつつ立ち上がると、更にびっくり。
 会場を仕切る壁沿いに通る廊下のもう一方の側は、ビルの外壁。
 そしてそこに並ぶ、大きな窓。
 
 窓からはお外のお空が見え、雨模様曇りがちなガラス窓には、私の全裸姿がクッキリ鮮やかに、映っていました。
 公共の場所でのありえなくもあられもない自分の姿を客観的かつ強制的に見せつけられ、羞じらいが全身にドッと押し寄せてきました。

 そこにスッとウイッグを被せられました。
 さも当然のようにガラスを鏡代わりに、そこに映った私の裸身をじっと視ながらウイッグを整えてくださるリンコさま。

「さあ、これでいいわ。小夜さん、楽屋に入りましょう」

 前髪パッツン、ストレートセミロングのウイッグとベージュのパンプス以外、何も身に着けていない私の手を引いて、リンコさまがゆっくりと、イベント会場楽屋へのドアをお開けになりました。


オートクチュールのはずなのに 51