2015年9月27日

オートクチュールのはずなのに 21

 横断歩道を渡り切ると、舗道を行く人影はずいぶん減りました。
 ビニール傘がパタパタとリズミカルに音をたてるくらいの雨が降る中を、お姉さまに寄り添って歩きます。
 ときどき思い出したように、車が車道を走り抜けていきます。

「やっぱり予想通り、閑散としているわね?平日だったらこの辺りも、サラリーマンとOLがひっきりなしなのに」
 お姉さまが私のほうを向いておっしゃいました。
「ここはどの辺りなのですか?」
「方向的には、来るときに乗った地下鉄の駅へ戻っている感じね。ちなみにこの右側の広くて大きな建物は最高裁判所」

「えーっ!?そうだったのですか?」
「今日は休日だからそうでもないけれど、普段はもっとものものしいわよ。入口ごとにケイカンだらけみたいな感じで」
 灰色の建物に横目を遣ると、ちょうど入口のところで、ひとりのオマワリサンが傘もささずに仁王立ちしているのが見え、ビクンとからだが震えました。

「ここを過ぎれば、もう公的な建物もないから、オマワリサンにビクつくこともなくなるわ」
 オマワリサンを見て、お姉さまにからだをいっそうスリ寄せた私をなだめるような、お姉さまのおやさしいお声。
「それにしても本当に人がいないのね。こんな感じなら、直子をここで裸にしちゃってもいいくらい」
 周りを見回すようにしてから、私の顔を覗き込んでくるお姉さま。
 剥き出しの奥がキュンと疼きました。

 街並は、低めのビルが立ち並ぶ、よくあるビジネス街っぽくなっていました。
 時折、お弁当屋さんやレストランぽい建物が混じり始めてはいるのですが、みんなシャッターが下りてお休みみたい。
 通り全体が静まり返り、聞こえてくるのは雨の音ばかり。
 この通りに入ってから見かけた人影は3人だけ。
 どなたも傘を低くさしてうつむきがち、私たちを一顧だにしませんでした。

「でもやっぱり、こんな街中で直子を丸裸にするのは、あたしにとってもちょっとハードル高いから、その代わりゲームをしましょう」
 お姉さまが前方を向いたままおっしゃいました。
「そうね・・・あたしたちの傍らをタクシーが通り過ぎたり、すれ違うたびに、直子のワンピのボタンをひとつ外す、っていうのはどう?」

 どう?とおっしゃられても、私には拒否権が一切ないわけですし。
 前方10メートルくらいにタクシーが一台こちら向きに、ライトをピカピカさせて停車していました。
 お姉さまったら、あのタクシーを見て思いついたに違いありません。
 あのタクシーが走り出すか、私たちがあそこまでたどり着いたとき、私はワンピのボタンをひとつ外すことになるわけです。
 私がコクンとうなずくのが合図だったかのように、停車していたタクシーがこちらへ向かって走り出しました。

「最初は胸元のボタンね。次からは直子の好きなところを外していいわ」
 タクシーが私たちの横を通り過ぎるとお姉さまが立ち止まり、私はご命令通り、胸元上から三つ目のボタンを外しました。
 胸元の圧迫感が消え、胸の谷間が乳輪まで、大胆に露出しました。

「うふふ。おっぱい出たわね。まあ、これからは、なるべく人も車もいなそうな路地を歩いてあげるから、安心して」
 再び歩き始めたお姉さまが愉しげにおっしゃいました。
「この辺から左のほうへずっと歩いていくと、大きめな公園があるはずなの。草木がこんもり茂って小高い山みたいになった自然公園」
「そこで直子にオールヌードになってもらうのが、あたしの当初の計画だったの。でも、この雨だから人が全然いなそうなのよね」

「視てくれる人が全然いないのもつまらないわよね?だから、そのときはボーナスステージ。あたしがたっぷり直子のからだをイタズラしてあげる。持ってきたオモチャで、イかせてあげるわ」
「直子は、都心の公園で丸裸になって、緑の自然の中でイっちゃうわけ。もちろん声だけはがまんすることになるけれど」
「どう?愉しみでしょ?」

 お姉さまがおっしゃったことを、頭の中で妄想してみます。
 雨の降りしきる森みたいな場所で、真っ裸になってお姉さまにイクまで辱められる自分・・・
 からだがはしたなく火照ってきました。
 車道を左のほうへ渡ろうとして立ち止まった私たちの目の前を、黒塗りのタクシーが通過していきました。

「意識して見ると、タクシーって意外と走っているものね。あ、また来た」
 道路渡るまでに2台のタクシーと遭遇し、私はボタンをふたつ外さなければいけないことになりました。
 
 一番影響が少なそうなおへそから股間のあいだのふたつを外しました。
 残るボタンは4つ。
 公園に着くまで、裾の一番下、実質的には下から2番目と、胸元4番目のボタンだけは死守したいところです。

 道路を渡り左に折れる路地に入ると、通りは見事に閑散としていました。
 車一台だけ通れそうな通りには、人っ子一人なく、ただ雨が地面を打つ音だけが響いています。

 その雨が、かなり強くなってきていました。
 さっきまでパラパラだったのが、今はザーザーッという感じ。
 おまけに風も出てきて、私たちが進む方向には向かい風となっていました。

 お姉さまが傘を前向きに傾け、風に逆らうように進みますが、傘をすり抜けた風が私のワンピースをはためかせ、Vゾーンを押し開きます。
 あれよあれよという間に、左右の乳首ともお外に飛び出していました。
 裾も完全に左右に割れっぱなしで、肌色が丸出し。
 ああん、いやんっ!
 胸元や裾を直すことは禁じられているので、そのまま歩くしかありません。

「本格的に降ってきちゃったわね。これじゃちょっと、傘一本じゃキツイ感じ」
「あの庇の下で、とりあえず雨宿りしましょう。あたし、カッパ着るから」
 お休みのお店屋さんらしきシャッター前の軒下を指さすお姉さま。
 私たちが庇の下にたどり着くのを待っていたかのように、雨はいっそう激しく、ザンザン降りになりました。

「せっかく直子が、とんがり乳首とマゾマンコ剥き出しの、こんなにいやらしい格好をして雨宿りしているのに、この雨と風じゃ誰も外に出てこなそう」
 傘を閉じたお姉さまが恨めしげにお空を見上げました。
 私の胸元は、おっぱいが乳首もろとも完全に露出しているので、通りに背を向けて立ちました。

「バッグ貸してくれる?」
「あ、はい」
 雨が強くなってからは左腕で庇うように提げていたので、バッグはビニールの表面以外、そんなに濡れていませんでした。

 バッグの中から半透明の白い包みを取り出すお姉さま。
 どうやらそれがお姉さまのレインコートのようです。

「直子用にも透明のビニールのコートをもってきたのだけれど・・・」
 そこまでおっしゃり、瞳を閉じて少し考えるような仕草をされるお姉さま。
 それからお顔を上げ、ふたつの瞳にたっぷりのイジワルな光をたたえて、こうつづけました。

「もしも直子もレインコートを着たいのなら、そのワンピは脱いで、素肌に直に着てもらうことにするわ」
「それか、今の格好のまま、傘さして歩くか。好きなほうを選ばせてあげる」

 折りたたまれたご自分のレインコートを広げながら、お姉さまがイタズラっぽく笑いかけてきました。
 軒先から出っ張っているビニールらしき庇を、雨粒がザザザザッとやかましく打ちつける音の中で、私はしばし考え込みました。

「お姉さま?質問、いいですか?」
「どうぞ」
「そのレインコートって、完全に透明なのですか?」
「そうよ。このビニール傘と同じようなもの。丈はそのワンピより若干長いと思う」
「これから行く公園ていうのは、遠いのですか?」
「うーん、10分も歩けば着くのではないかしら。でももう少し小降りになってくれないと、行く気しないわね」

「そこに行くまでに、また信号待ちとかありますか?」
「どうだったっけかな?わからないけれど、たぶんありそうね」
「途中で雨がやんでも、そのままなのですよね?」
「そうね。公園でヌードになった後なら、着替えさせてあげてもいいかな」
 お姉さまは、バッグから取り出した白いバスタオルで、濡れたバッグの表面を拭きながら答えてくださいました。

 真剣に悩みました。
 全裸に透明レインコートっていうのも、すっごくやってみたい気にはなっていました。
 確か、やよい先生との初野外露出のときも、ユマさんと一緒に大雨の中で透明レインコートを着ていたっけ・・・
 束の間、懐かしくも恥ずかしい思い出がよみがえりました。

 だけど、いくら大雨で人が通らないと言っても、ここは天下の往来で、時間もまだ午後の4時過ぎ。
 これから10分間歩くあいだ、誰にも会わないという保証はどこにもありません。
 曇っているとはいえ充分明るいですから、透明ビニールの下が全裸であれば、視線を向けさえすれば一目瞭然で、その肌色の意味を知られてしまうことでしょう。
 途中に信号待ちがあって、隣に誰か並ばれでもしたら・・・

「やっぱり、今のまま、このワンピースにしておきます・・・」
「そう。わかったわ。それなら、まだゲームもつづいている、ということでいいわね?こっちを向きなさい」
 
 ご命令に振り返ると、お姉さまがハンディカメラをこちらに向けていました。
 見知らぬお店の軒先でおっぱいを丸出しにしている私のふしだらな姿が、映像記録として残されました。
 そして目の前の通りを、黄色いタクシーが二台つづけてゆっくりと横切っていきました。

 今やみぞおちと土手の上しかボタンが留まっていない、私の頼りないミニワンピース。
 もう金輪際、一台のタクシーも目前に現われないで、と祈る他はありません。
 雨宿りを始めたときより、雨も風も格段に強くなっていました。

「直子が傘さすなら、バッグは濡れないように、あたしが持ったほうがよさそうね」
 左肩にビニールトートを提げて、その上からレインコートを羽織るお姉さま。
 白濁した半透明のレインコートはポンチョっぽい形で、フードをすっぽりかぶったお姉さまは、妙にスラッとしたテルテル坊主さんみたいでした。

「ゲリラ豪雨なのかしらね?ぜんぜんやむ気配が無いのだけれど」
 私にカメラを向けたまま、退屈そうなお姉さまのお声。
 大雨で誰も通らないとは言っても、昼間の街角におっぱい剥き出しで突っ立っているという状況は、あまりにもスリリング。
 充血した乳首を風が撫ぜるたびに、背筋がムズムズ感じていました。

「ここでただボーっと、雨がやむのを待っているのも、芸が無いわね」
 お姉さまがいったんカメラを下ろし、私のおっぱいを舐めるように見つめてきました。
「そうだ!直子、傘さして道路の向こう端まで行って、ゆっくりこっちに歩いてきてよ。それを撮影するから」
「篠突く雨の中、おっぱい丸出しで歩いてくる赤い首輪の女の子、なんて、なんだかアートっぽくない?」
 ご自分のご提案に、満足そうにうなずくお姉さま。
 再びカメラを私に向けてきました。

「わかりました。お姉さまがそうおっしゃるのなら」
 立てかけてあったビニール傘を手に取り、お外のほうへ一歩踏み出しました。

 庇の先端まで行って通りを見渡します。
 数メートル先も霞むほどの勢いで、雨粒の群れが地面を打ちつけていました。
 人も車も通る気配はまったくありません。
 街全体がされるがまま、ひたすらこの雨が通り過ぎるのを待っているような雰囲気でした。
 これなら大丈夫。
 傘を広げました。

 庇から一歩出た途端、頭上から盛大な騒音が響いてきました。
 見た目より風も強いようで、襟ぐりが孕み、ワンピースが素肌から浮き上がります。
 剥き出しの乳首を乱暴に愛撫する風と雨。
 湿度が高いためか、さほど寒くは感じないのが救いでした。
 ゆっくりと道の端まで歩き、回れ右をしました。

 今度は、軒先で構えているお姉さまのカメラレンズに向かって、ゆっくりと近づいていきました。
 さっきとは逆に左からとなった風が、胸元を容赦なくいたぶります。
 裾も大きく風を孕み、下腹部あたりまで露出しています。
 今、そんな自分の姿が記録されているんだ・・・
 下半身がジンジン痺れるように疼きました。

 そのときでした。
 突風が渦巻くようにヒューと鳴き、持っていた傘が飛ばされそうになって手にギュッと力を入れた刹那、あっという間にオチョコになっていました。
 ここぞとばかりに全身に襲い掛かる雨粒たち。
 一瞬にしてズブ濡れ。
 壊れた傘のビニールがハタハタとはためき、私は大慌てで軒先に駆け戻りました。

「あらあら、とんだ災難だったわね、全身ズブ濡れじゃない?」
 至近距離でカメラを向けつづけるお姉さま。
 素肌にぺったり、ワンピースの布地が貼りついたおっぱいや下半身を撮っているようです。

「すっごくエロいわよ。ワンピが肌に密着しちゃって、からだのライン、クッキリ丸わかり」
「でも直子、ここでズブ濡れになったのって、ある意味ラッキーだったのかもよ?」
 ようやくカメラを下ろしたお姉さまが、謎なことをおっしゃいました。

「通りにカメラ向けてズームを弄っていたらね、近くに面白いものがあるのを発見しちゃったの」
「こんな雨なら、たぶん誰も来ないから、ゆっくり出来ると思うわ、いろいろと」
 お姉さまはカメラをポンチョのポケットにしまい、フードを深くかぶり直しました。

「あそこの赤い庇のところね。あそこまで一気に走るわよ」
 さされた指の先十数メートルのところに、雨に煙って確かに赤い庇が見えました。

「その傘はたぶんもう使い物にはならないでしょうけれど、ここに置いていったらご迷惑だから、持ってきなさい」
「直子は、もうそれだけびしょ濡れなのだから、そのままでも平気よね?思う存分濡れちゃいなさい」
「あの、えっと・・・」
「安心なさい。すぐにサッパリ、気持ち良くなれるから。行くわよ?」

 私のほうを向いていたお姉さまがお外に向き直り、間髪を入れず軽やかに大雨の中へ飛び出していきました。
「あ、お姉さまっ!待ってください!」
 私もあわてて、壊れた傘を片手にお姉さまの背中を追いかけました。


オートクチュールのはずなのに 22

2015年9月23日

オートクチュールのはずなのに 20

 左側は長くまっすぐにつづくフェンス、右側はマンションなのかオフィスビルなのか低めのビルが立ち並ぶ、ひと気の無い直線道路。
 その突き当たり曲がり角から現われた、微妙にお揃いっぽい白と青系統のカジュアルなコーディネートで寄り添うラブラブカップルさん。
 
 そのカップルさんと私たちとの距離は、だいたい30メートルくらい。
 ひと足進むごとに、その距離がどんどん縮まっていきます。

 肩をぶつけるように歩きながら、仲睦まじくおしゃべりされていたおふたりのうち、男性のほうが先に、私たちに気づきました。
 お顔を上げて何気なく私たちのほうを見た後、いったん視線をお相手に戻し、またすぐ、今度はじーっと私だけに注目してきました。
 男性の視線が、私の首輪から胸元に移り、下半身を舐めた後、再び胸元に固定されたのがわかりました。
 男性の異変に気づいたらしい女性のかたからの視線も、私に釘付けになりました。

 お姉さまに手を引かれ車道側を歩いている私は、極力何でもないフリで無表情に努めました。
 だけど心の中は大騒ぎ。
 視ている・・・しっかり視られちゃっている・・・
 自分に対するカップルさんのご様子が気になって仕方なく、目線を動かさないようにチラチラ窺がわざるをえません。

 みぞおちの辺りを基点にして首周りのほうへとV字に大きくはだけた私の胸元。
 おっぱいの大部分がお外に露になっているはずです。
 うつむいた自分の視点では、浮き上がった布地の隙間から乳首も何もかも丸見えなのですが、布地が乳首を擦る感触もするので、乳首までは出ていないのかもしれません。
 だけど大きめの乳輪は、確実にお外にはみ出ているはず。

 包み込むものを失くしたふたつの乳房は、ひと足歩くごとにプルプル小刻みに暴れています。
 とくにビニールトートを提げている左肩のほうは、バッグの提げ手でワンピースの肩口の布が袖側に引っ張られ、右に比べて大きくはだけていて、歩くたびにそれがジリジリ広がっている感じなので、いずれ左乳首は出しっぱなしになっちゃうことでしょう。

 あと10メートルくらいでカップルさんとすれ違う、というときに、お姉さまの手が離れました。
「ちょっとそこに立ち止まっていて。撮影したいから」
 おっしゃるなりタッタッタと私の前方に駆け出すお姉さま。

「はい、こっちに目線向けて歩いてきて」
 私の5メートル先くらいで振り返ったお姉さまがハンディカメラを構え、しんと静まり返った道路に大きめのお声が響きました。
 まるでカップルさんに私の存在をあらためてアピールするような、わざとらしくもイジワルな仕打ち。
 案の定、お姉さまの背中の数メートル手前まで迫っていたカップルさんたちも、そのお声に一瞬ビクッとされましたが、それからはもう遠慮無しに興味津々な感じで、私にだけ注目して歩を進めてきました。

 お言いつけ通りトボトボ近づいていく私の姿をレンズとカップルさんがずっと見つめています。
 ふと自分の胸元に視線を落とすと、尖りきった左乳首が完全にお外へ飛び出していました。
 カップルさんがお姉さまの横を通り過ぎ、私に近づき、すれ違いました。

 すれ違いざまのおふたりの表情を、忘れることは出来ません。
 男性の、なんだか嬉しそうで好奇心丸出しの子供みたいな笑顔。
 女性の、汚らわしいものでも見るような軽蔑しきった冷たいお顔。

「なにあれ?アダルトビデオの撮影か何か?」
 私たちをみつけてからすれ違うまで、まったく会話されていなかったカップルさんのヒシヒソ声が、背後から聞こえてきました。
「かもね・・・」
「こんなところで胸出しちゃって、恥ずかしく・・・」

 その後は聞き取れませんでしたが、首輪、とか、エスエムチョーキョー、という言葉が断片的に聞こえた気がしました。
 私のマゾマンコはヒクヒク震え、お姉さまの傍までたどり着いたときには、立っているのもやっと、みたいな状態でした。

「バッチリ注目浴びちゃったわね?嬉しいでしょ?」
 お姉さまに再び手を握られ、そのまま歩きつづけます。
「すれ違った後も、何度もこっちを振り返っていたわよ。それはそうよね、こんなところにおっぱい丸出しの女がいたのだから」
 お姉さまの視線は、痛々しく尖って宙空を突いている、私の剥き出しの左乳首に注がれています。

「カレシのほうはニヤニヤしっ放しで、とても嬉しそうだったわね。バッグの中身にもピンときたみたい。カノジョのほうは呆れていた感じ」
「直子のエロい姿に刺激されて、あのおふたりさんのデートが、これから夜にかけて盛り上がるといいわね?」
 お姉さまが歩調を緩め、私の顔を覗き込みながら、からかうみたくおっしゃいました。

 私はと言えば、いつまた前方から歩行者が現われないかと、気が気ではありません。
 道はもうしばらくまっすぐですが、途中に四つ角もいくつかあるみたいなので、不意に現われる可能性は充分にありました。
 でも、幸いその後は、後ろから追い抜いていった自転車が一台あったきり誰も現われず、私は左乳首を外気に晒したまま歩きつづけました。

「ほら、あそこにオマワリサン」
 お姉さまが不意に立ち止まり、長いフェンスが途切れて門のようになっている空間の奥を指さしました。
 
 その指の先を辿ると確かに、門の車止め数メートル先の詰め所みたいな小さな建物の脇で、ひとりのオマワリサンが長い警棒を杖のように前に持ち、こちらを見ていました。
 その奥には広大な敷地。
 どうやら誰か偉い人の公邸のようでした。
 あわてて、からだごと顔をそむける私。

「そんなにあわてなくても平気よ。あの人の仕事はお邸の警備なのだから、よほど怪しげな人物でもなければ、持ち場を離れることはないはずよ」
 お姉さまがその前を平然と通り過ぎながらおっしゃいました。
「直子が全裸だったりすれば、無線で応援呼んで、別のオマワリサンがお相手してくれるかもしれないけれどね。どう?やってみる?」
 笑いながら笑えないご冗談をおっしゃるお姉さま。

「だけど、ここから先はしばらく人通りが増えそうな幹線道路沿いを歩くから、残念ながら、その乳首はしまっておいたほうがよさそうね」
 門の前を通り越して数メートルくらいのところで、お姉さまがまた立ち止まりました。
 私たちの行く手には、久しぶりの信号機と、高速道路の高架、そしてその下の幹線道路らしき幅広い道路が見えていました。

「ボタンひとつ留めて、おっぱいはしまっていいわ」
 お姉さまのお許しを得て、大急ぎで胸元を直しました。
 バストが窮屈になり、ワンピースの布を押し上げるふたつの突起が復活しました。

「だけど、それだけじゃ面白くないから、こうしましょう。その代わりパンティを脱ぐの」
 お姉さまがハンディカメラをこちらに向けながら愉しげにおしゃいました。

「えっ!?こ、ここでですか!?」
 思わず聞き返してしまってからすぐに、しまった!と後悔しました。
 お姉さまの表情が一変して、もの凄く怖いお顔をして私を睨んできます。
 ご命令に反問するなど、マゾドレイの私には、竜の顎の下の鱗に触れることよりも許されないことなのです。

「ご、ごめんなさい・・・す、すぐに脱ぎますから・・・」
 周りを見渡すと、幸いなことに人影はありません。
 でも、今さっき通り過ぎた数メートルのところにはオマワリサンが見張っていて、幹線道路を行き交う車の音もビュンビュン聞こえてくる、沿道のマンションの窓から誰かが覗いていないとも限らない、街中の無防備な一角なのです。
 こんなところでショーツを脱がなくてはいけないなんて・・・
 思った途端にマゾ性がキューッと悲鳴をあげ、快感がブルブルっと全身をつらぬきました。

「何をぐずぐずしているの!?」
 カメラを構えたお姉さまの鋭いお声。
「は、はいっ!」
 覚悟を決めて、ワンピースの裾に潜り込ませた両手を、前屈みになりながら思い切りずり下げました。
 ショーツは膝のところで紐状となり、直に外気が股間に触れて、ヒヤッとしました。

「全部脱いではダメよ。まずパンティを足首まで下ろしなさい」
 カメラを構えたまま、お姉さまからのご命令。
「単純にノーパンにさせるだけのつもりだったけれど、さっきの口答えに対してお仕置きをしなくちゃね。直子には一切の拒否権は無い、って最初に伝えたわよねぇ?」
 お姉さまがカメラを構えたまま、絡みつくようなお声で尋ねてきました。

「は、はい・・・」
「人通りが増えそうだから、おっぱいしまっていい、ってせっかく気を遣ってあげたのに、そのすぐ後にあれだもの。命令違反は、それ相応の辱めで償ってもらいます」
 まるで学校の先生みたいな、お姉さまの厳かなお声。

 上半身を屈めてショーツを足首まで下ろしました。
 両足首を結ぶ縄の枷のような状態となったショーツ。
 上体を起こしてお姉さま、つまりカメラのレンズを縋るように見つめました。

「そのまま右脚だけ、抜きなさい」
 もちろん、言いなりな私。
「抜いたら、パンティを左足首に巻きつけて結びなさい。落ちないように」
 心の中では、えーっ!?そんな・・・と大きく悲鳴をあげていたのですが、それを声にすることは、なんとか抑えこみました。

「あと、ローターは抜いちゃっていいわ。電池切れみたいだから」
 お姉さまがコントローラーをこれ見よがしに私に向け、指でスイッチを入れました。
 んっ、と身構えましたが、いつまでたっても震えを感じません。
「ここに来るまでに何度かスイッチ入れたのに直子が無反応だったから気づいたの。命令を守らない役立たずに用は無いわ」
 私にあてつけるみたいに、ひどく冷たく、吐き捨てるようにおっしゃるお姉さま。

「は、はい、お姉さま・・・」
 泣きたい気持ちでその場にしゃがみ込みました。
 しゃがみ込むと、自分がノーパンになってしまったことが如実にわかりました。
 閉じていたラビアが半開きとなり、股の下をスースーと風が通り過ぎて、熱を持った粘膜をくすぐっていきます。
 自分の股間を覗き込むようにすると、割れたラビアのあいだから、リモコンローターの白いアンテナ部分がタンポンの紐のように飛び出しているのが見えました。

 股間に右手を伸ばし、ローターのアンテナをつまみます。
「はうっ」
 手探りでやったので、指先が不用意にラビアに触れ、思わず甘い吐息が漏れてしまいます。
 私、こんな街中で自分の性器を弄っている・・・
 そう考えると同時に、このままマゾマンコをめちゃくちゃに弄り回して、後先考えずにイってしまいたい、という欲求が急激に湧き上がりました。

 だめ、だめ、そんなの絶対だめ。
 こんな街中で何を考えているの?
 欲求を懸命になだめつつ、ゆっくりとアンテナを引っ張り始めました。

「んん、ぬぐぅぅ・・・」
 ローターが膣壁を滑り、膣口を内側から抉じ開けてきます。
 ああんっ、もどかしい・・・
 すぐにヌルンとローターが出てきました。
 ポタポタポタッと路上におツユの雫が数滴垂れました。

「それは口に頬張ってキレイにしてからバッグにしまいなさい」
 私の葛藤を知ってか知らずか、お姉さまからの軽蔑しきったような冷ややかなご命令。
「ほら何しているの?いわれた通りにして、早くパンティ結ぶのっ!」
 
 自分のおツユにまみれたピンク色のローターを口に入れました。
 自分のどうしようもないヘンタイマゾぶりが味覚となって、しょっぱ苦酸っぱく口中に広がりました。

 ほっぺを膨らませたまま、紐状になったショーツをぐるりと左足首に巻きつけます。
 クロッチ周辺はグズグズで、つかんだ手のひらがヌルヌルベトベト。
 濡れていない銀色部分と濡れて黒くなったシミ部分がまだらになっています。
 
 両端をキュッと結んでから、急いで立ち上がりました。
 口の端からよだれが零れそう。
 ローターは、お姉さまが渡してくださったティッシュに包み、ビニールトートに入れました。

「直子、以前シーナさんに、脱いだパンティを手首に巻いておくように命令された、て言っていたでしょう?それを思い出したのよ」
 私がショーツを脱いで足首に巻くまでの一部始終を撮影されていたお姉さまがハンディカメラを下ろし、愉しそうにおっしゃいました。

 私も同じことを思い出していました。
 あれは東京で、シーナさまと初対面のとき。
 デパートの屋上でショーツを脱ぐように命令され、脱いだショーツを手首に巻いて放置されたあの日。
 それを下着だと見破った年下の女の子がくださった、軽蔑しきった憐れみの視線は、私が生涯忘れられない恥辱のひとつとなっていました。

「手首だったら、シュシュだと思わせることも出来るかもしれないけれど、足首だと言い逃れは出来ないわよね?そんなアクセなんて世界中探してもたぶん、ないもの」
 お姉さまが私の手を握り、再びゆっくり歩き始めました。

「その足首の飾りに気づいた人は、それを何だと思うかしら?勘のいい人ならピンとくるかもしれないわね?あれってひょっとして、下着じゃないか?って」
「脱いだパンティを足首に巻いて、ノーパンなことを世間様に知らしめながら散歩するの。それがあたしへの命令違反に対するお仕置き」
「乳首のポッチと足首のパンティで、ノーブラノーパンをアピールしながら歩くなんて、すっごく直子、あなたらしいと思わない?」

 イジワル声に磨きがかかり、お姉さまってば、とっても愉しそう。
 私の内腿をツツツッと、粘性の液体が滑り落ちていくのがわかりました。

 幹線道路まで突き当たると、広い舗道に人影も多め。
 そこを右に折れるお姉さまと私。
 さっき降りた地下鉄の駅へとつづくらしい階段の入口も見えました。
 
 見るからにオフィスビル街という佇まいの高架下を、車がビュンビュン走り過ぎていきます。
 一時は少し明るくなっていた空が再び暗くなり、風も少し出てきて、いよいよひと雨きそうな雰囲気を醸し出していました。
 そんな中を私は、今度はワンピースの裾を意識しながら歩かなければいけないことになりました。

 歩くたびに腿が裾を蹴り、ヒラヒラ割れるワンピースの裾。
 そこから覗くのは、さっきまでは黒っぽい布地、イコール私の愛液で汚れたショーツのクロッチ部分でしたが、今はツルンとした肌色、イコール私の抜き出しマゾマンコそのもの、になっていました。
 ただ、昨夜お姉さまもおっしゃった通り、黒っぽい股間より肌色のほうが、かえって目立たないような気もしていました。

 今の私は、ヘンタイ的な見所満載の姿になっています。
 赤い首輪、Vラインの胸のクッキリ谷間、ノーブラ一目瞭然の乳首の突起、左足首のショーツ、ビニールトートから覗くお浣腸薬を代表とする淫靡なお道具たち。
 そして新たに加わった、ミニワンピースの裾からチラチラ覗く剥き出しの股間。

 どれかひとつだけでも充分にヘンタイなのに、それらすべてを合わせたら、紛うこと無き露出過多の見せたがり、正真正銘のアブノーマルヘンタイマゾ女。
 都会的でお洒落な高層ビルが立ち並ぶ幹線道路脇の舗道を、そんな姿で歩きつづけました。
 
 時折すれ違う人はみなさま、まず赤い首輪に目を惹かれるようでした。
 一瞥してすぐ興味をなくす人、二度見する人、遠くからすれ違うまでネットリ見つめつづける人。
 さまざまな視線を浴びせかけられました。

 そして私は、そんな視線の中をミニワンピースのノーブラノーパンで、剥き出しの性器をチラチラさせながら歩いているという事実に大興奮していました。
 お姉さまの左手を汗ばむほどギュッと握り、努めて何食わぬ顔を装いつつも、心臓はずっと早鐘のよう。

 幹線道路を向こう側へ渡るための交差点。
 そこで信号待ちをしているときに、とうとうパラパラと雨が降ってきました。
 信号待ちをしている人は10人くらいで、私のすぐ横に立った40代くらいのおじさまが、私の胸元にチラチラ視線を送ってきています。
 その横のOLさんぽい女性は、私が提げたバッグの中身に目を凝らしているご様子。

「やっぱり傘買っておいて正解だったわね」
 おもむろにビニール傘を開くお姉さま。
 信号待ちの人たちのうち何人かも傘を開き、信号が青に変わると、傘を持っていない人たちが駆け出して行きました。

「ほら、もっとあたしにくっつかないと、濡れちゃうわよ?」
 横断歩道をゆっくり渡りながら、お姉さまからの思いがけないおやさしいお言葉。

 いったん手を解いてお姉さまが傘を左手に持ち替え、私はその腕に右腕をしっかり絡めました。
 私の右半身をお姉さまの左半身になすりつけるみたいにピッタリ寄り添って歩きます。
 お姉さまの体温、お姉さまの匂い、お姉さまの息遣いを感じながら。
 不意にさっきのラブラブカップルさんを思い出していました。
 
 お姉さまとの初めての相合傘に、今の自分の恥ずかしい格好のこともすっかり忘れるくらい、幸福感を感じていました。


オートクチュールのはずなのに 21

2015年9月13日

オートクチュールのはずなのに 19

「どこかでビニール傘でも買って、一応の準備はしておいたほうがよさそうね」
 私の手を引いて、のんびり歩き始めるお姉さま。
 幹線道路ぽい幅広い車道沿いの歩道には、休日ファッションに身を包んだ老若男女が行き交い、そのほとんどが繁華街らしき方向へと楽しげに進んでいきます。
 首輪に感じる視線の数もグンと増えていました。

「傘ならいつも何本か車のトランクに入っているのだけれど、今日はうっかり、持って出るの忘れちゃった」
「一応そのバッグの中に、レインコートは入れてあるの。でも、もしも小雨くらいだったら、わざわざ出すのもめんどくさいでしょう?」
 
 ふたり並んで手をつないで、人混みに紛れます。
 お姉さまの爪先も繁華街のほうへ向いているようです。

「この通りならコンビニとかあるから、ビニール傘くらい買えるでしょう」
 お洒落っぽいお店が立ち並ぶ華やかな通りは、かなりの人通り。
「ずいぶん人が多いですね?」
 さっきから盛んに首や胸元を通り過ぎていく視線にドキドキしながら、お姉さまに尋ねました。
「ここをまっすぐ行けば赤坂だからね。休日だもの、それなりには賑わうわよ」
 そんなのあたりまえ、とでもおっしゃりたげな、お姉さまの突っ慳貪なお声。

「あ!そうそう、トランクの中と言えばね、あたし、この連休中に信州にも出かけたでしょう?そのとき乗馬をしたのよ」
 話題が思いもよらない方向へ跳びました。
「乗馬・・・ですか?」
「うん。お得意先の社長さんの招待で、2時間くらい遊ばせていただいたの」

「お姉さま、ご経験がおありなのですか?」
「学生の頃、何度か乗ったことはある。今回はかなり久々だったけれど、ああいうのも水泳とかと同じで、一度覚えちゃえば忘れないみたい。なんとか無事に楽しめたわ」
 ゆっくり歩きながらおしゃべりをつづけるお姉さま。

「それで、その後、その社長さんと食事したときに出た話題なのだけれど、彼女の趣味が、乗馬鞭のコレクションだったの」
「彼女の乗馬歴はずいぶん長くて、それはもう奇麗に乗りこなすの。でもまあ、それはそれとして、彼女にも、あたしにとっての直子みたいなパートナーがいるんだって」

「だから、そのコレクションは彼女のパートナーのためでもあるのね。そんな話題で盛り上がっていたら、彼女がね、そのコレクションのうちの一本を譲ってくれる、っていうことになったのよ」
「それが、車のトランクの中に入れっ放しになっているのを今、思い出したの。直子専用の乗馬鞭」
 お姉さまが立ち止まり、薄く微笑んで私の顔を覗き込みました。

「エルメスの乗馬鞭よ。嬉しいでしょ?」
「エルメスって、あのバッグやスカーフとかの、エルメスですか?」
「もともとが19世紀の馬具職人の工房だったらしいから、乗馬鞭を作っていても何の不思議も無いのよ」

「グリップとベロのところが鮮やかな赤で可愛いの。エルメスの鞭の中ではそんなに珍しいものではないらしいけれど、それなりの御礼で譲っていただいたの。もちろん未使用の新品よ」
「帰ったら早速、直子に使おうって思っていたのに、たまほのを空港まで送ったりいろいろあったからすっかり忘れていたわ。車に戻ったら見せてあげる」
「はい・・・」
 私のためにお姉さまが鞭をご用意してくださった、それもなんだかとても高級そうなものを。
 甘酸っぱくて気持ちいい疼きに、下半身全体がじんわり包み込まれました。

「あ。あそこに出ている。あそこで買っていきましょう」
 お姉さまが指さされたのは、お店の前に雑多に品物が並んでいる、量販店ぽいお店の店頭でした。
 曇り空にいち早く反応したらしく、色とりどりのたくさんの傘が店先に並べられていました。

「とりあえず大きめのを一本でいいわよね?降るか降らないかわからないし」
 駅を出たときに比べると、少しお空が明るくなっていました。
 降りそうな雰囲気は充分なのですが、意外とこのまま保っちゃうかもしれません。
 並んだ傘の群れの中から、透明ビニールの傘を無造作に一本抜いたお姉さまは、そのままお店の入口ドアのほうへ進みました。

「あら、ここってドラッグストアなんだ」
 自動ドアが左右にスーッと開き、店内を見渡したお姉さまが独り言みたいにおっしゃいました。
 店内は奥行きがあって意外に広く、お買物カゴを提げたお客様がけっこういました。
「ちょうどよかったじゃない?昨日直子が、家にもあとひとつしかない、って言っていたアレも、ついでに買っていきましょうよ」
 お姉さまはレジとは反対方向の商品棚のほうへ進み、棚を順番に探し始めました。

 お姉さまがおっしゃったお言葉だけで、アレ、が何を指すのか、私にはわかっていました。
「ああいうのはどこのコーナーにあるのかしら?自分で買ったことないから、見当もつかないわ」
 カテゴリー分けされた商品棚の川をあちこちさまよい見て回るお姉さま。
 私は大体わかっているので、誘導しようと思った矢先、お姉さまがおっしゃいました。

「これ以上探すのめんどくさいから、あそこの店員さんに聞いてみましょう」
 私たちが見ている川の一番端で商品を整理されていた20代位っぽい女性店員さんを指さすお姉さま。
「は、はい・・・」
 おそらくそうなるであろうと予測していた私は、覚悟は出来ていたものの、ものすごく恥ずかしいことに変わりはありません。
 ふたりでその女性店員さんに近づきました。

「ほら、直子?」
 お姉さまに右肩をこずかれ、促されました。
「あのう・・・」
 背後から突然声をかけられた女性店員さんの肩がピクッと震え、こちらへ振り向きました。
 目元がくりっとした、すごく可愛らしい感じの女性でした。

「あ、はいっ!何か・・・」
 お声もすごく可愛い。
「あのう、えっと、あの、お、お通じのお薬は、どのへんに置いてあるのでしょうか?」
 大きな瞳に見つめられてドギマギしながら、小さな声で何とか言えました。

「あ、はい・・・お習字?ですか?」
 女性店員さんの視線が私の顔から首輪に移り、そのまま下がって胸元に貼りつきました。
「はい・・・」
 私から目を逸らした女性店員さんの思案気なお顔。
「ちゃんとはっきり言わないと、店員さんだってわからないのじゃない?」
 横からお姉さまが、愉しげなお声でイジワルなアドバイス。

「あの、えっと、つまり、お、お浣腸のお薬・・・です・・・」
 さっきより小さな声で、コソコソ告げました。
「ああ、お通じですね・・・」
 女性店員さんの視線は、お姉さまのお顔を見て、それからまた私の首輪に移り、更に私が提げているバッグの表面に釘付けになってから、何か納得されたような、でもまだ少し困っているような、フクザツな表情に変わりました。

「それでしたら、こちらですね」
 努めて平静を装った女性店員さんの私へのご返答に、蔑みのニュアンスが混ざっていることを、私のマゾ性は聞き逃しませんでした。
 お浣腸薬のコーナーまで誘導してくださった女性店員さんは、すぐに私たちから離れましたが、その後も近くの棚でお仕事をされながら、私たちの様子をチラチラ窺がっているのが視界の端にわかりました。

「へー、けっこういろんな種類があるんだ。子供用とか。知らなかった」
 お姉さまが興味深げに、並んだお薬を眺めています。
 私は、いつも買っているふたつ入りの青い箱に手を伸ばしました。

「ああ、それがいつも直子が使っているやつね。一度にいくつくらい買うの?」
「あの、えっと2つ入りですから2箱か3箱くらい・・・」
 私は、早くお買い物を済ませて、この場を立ち去りたくてたまりません。

「でも、こっちに10個入りっていうのがあるじゃない。こっちのほうが断然お得じゃない?」
 お姉さまが一際大きな青い箱をお手に取り、しげしげと眺めました。
「使用期限もずいぶん長いから、直子なら余裕で使いきれるわよ。あ、でもこっちのほうが容量も多くて、もっとお得ぽい」
 青い箱を元の場所に戻し、今度はその横の紫色の大きな箱をお手に取りました。

「ノズルが長くて使いやすいんですって。長いっていうことは奥まで入るっていうことでしょ?バッチリ直子向きじゃない。こっちにしなさい。あたしが買ってあげるから」
 お姉さまの独断で、その紫色の大きな箱を手渡されました。
「ちょっとバッグ貸して」
 お姉さまにビニールトートを渡すと、その中からお財布を出し、お札を数枚渡されました。
「バッグはあたしが持っていてあげるから、直子はレジに並んでお会計済ませてきて。はい、これ」
 バッグの代わりにビニール傘を渡されました。

 左手にビニール傘、右手にお浣腸薬の箱を剥き出しで持ち、レジへ向かいました。
 レジは3箇所でフォーク並び。
 行列にはすでに6人並んでいて、私は7番目。
 なるべく文字が見えないように、手を大きく広げた不自然な形で箱を持ち、順番を待ちました。
 
 お姉さまは薄い微笑を浮かべて出入口近くに立ち、私を眺めていらっしゃいます。
 もちろん、肩に提げたビニールトートの表側には私のヌード写真。
 行列に並んでいるあいだ中、晒し者にされている気分でした。

 レジの場所がお店の出入り口付近だったため、たくさんのお客様が私の近くを通り過ぎました。
 首輪に気づき、そのふしだらな服装に驚き、手に持っているものを見て、私が何を買おうとしているのかまでわかった人も、何人かいたことでしょう。
 先ほどの女性店員さんが私のほうを見て、他の店員さんと何やらヒソヒソしているのも見えました。
 なかなか進まない列にジリジリしながら、それでも一生懸命普通の顔を作って、順番を待ちました。

「お待たせいたしましたー」
 やっと私の番。
 レジ係さんは、若奥様風の派手めな女性でした。

 私がビニール傘とお浣腸薬の箱をレジカウンターに置くと、その女性は一瞬うつむいたまま固まったように見えました。
 取り繕うみたいにすぐに箱に手を伸ばし、ピピッとしてからお顔を上げ、私にニッコリ笑いかけてきました。
 かなり奇麗めのお顔でしたが、その舐めるような視線は、私の首からバストにかけてを何度も行き来し、何かを値踏みしているような感じでした。
 つづいて傘を、同じようにピピッ。

「今すぐお使いになりますか?」
 不意にそう尋ねられ、意味が掴めずポカンとしてしまう私。
「えっ?」
「えっ?」
 レジ係さんも一瞬呆気にとられ、傘とお浣腸薬の箱を見比べた後、すぐに、なんともいえないイジワルな笑みをニヤッと浮かべました。

「傘ですよ?」
「あ。はいっ!」
 お答えすると同時に、いてもたってもいられないほどの恥ずかしさがドッと押し寄せました。

 レジ係さんは、ビニール傘を覆っていたセロファンを外してくださり、値札も取ってくださいました。
 お浣腸薬は小さな黒いレジ袋に入れられました。
 お金を払いお釣りをもらいました。
 そうしているあいだ中、レジ係さんのお口元にはニヤニヤ笑いが浮かんでいて、明らかに軽蔑されていることがわかりました。

「ありがとうございましたー。またご利用くださーい」
 レジ係さんのからかうような軽いご挨拶に送られ、お姉さまの元に戻ったときには、このドラッグストア内にいるすべての人たちから後ろ指をさされているような、いたたまれない恥辱感に泣き出しちゃいたいような気分でした。

「ずいぶん注目されていたわね。お店にいた人のほとんどが、直子のことチラチラ見ていたわよ」
 お店を出たお姉さまの嬉しそうな第一声。
「直子も必死に普通にしようとしていたでしょう?その顔がいじらしくってさ、ローター震えさせたくて仕方なかったけれど、これ以上はヤバイと思ってどうにか我慢したの」
 来た道を戻りながら、お姉さまが私にビニールトートを差し出してきました。
 私が受け取り、今貰った黒いレジ袋も中に入れようとすると、お姉さまが立ち止まりました。

「それじゃあ直子らしくないでしょう?袋から出して剥き出しのまま入れなくちゃ」
「あ、はい・・・」
 レジ袋から箱を取り出し、ビニールトートのお道具が見えるほうの側に押し込みました。
 麻縄や鎖に混じってお浣腸薬のパッケージも、みなさまに見ていただけるようになりました。
 今度はそちら側を表に出して左肩に提げ、ビニール傘はお姉さまに渡し、再び歩き始めました。

「これで準備も整ったし、そろそろあまり人目の無いほうへ移動しましょう」
 お姉さまが私の右手をグイッと引っ張りました。
 人目の無いほうへ、ということは、すなわちそこで私は裸にされるのでしょう。
 ついに都会の街中で全裸になるときが近づいてきたようです。
 ドキドキとビクビクが心の中で綱引きを始めました。
 やがてさっきの幹線道路が見えてきました。

 幹線道路を渡るため、大きな交差点で信号待ち。
 目の前を車がビュンビュン走り去り、人もどんどん周りに溜まってきました。
 赤い首輪に視線が集まっているのがわかります。
 ビニールトートをじっと見ている人もいるようです。
 私はまっすぐ前を向き、どこにも焦点を合わせず宙を見据えたまま、信号が青になるのをジリジリと待ちました。

「ここを渡って向こう側行くと、かなり人が減るはずよ」
 信号が変わって歩き始めると、お姉さまが教えてくださいました。
「この先にあるのは、外国の大使館とか、国会議員の公邸とか大きな建物ばかりだから、その周辺の人通りは少ないの」
 交差点を渡り切り、そのまま路地へと入っていきます。
 確かに人通りはグンと減り、目の前に凄く長い上り坂。

「この辺りって、坂道ばかりなのですね?」
「それは、赤坂っていうぐらいだからね。この坂を上りきったところに有名な高校があるのだけれど、そこの生徒はこの坂のことを、遅刻坂って呼んでいるらしいわよ」
 ビニール傘を杖みたいにして坂道を行くお姉さまが、少しバテ気味のお声でおっしゃいました。
「でも、確かに歩いている人がぜんぜんいませんね?」
 自分が裸になるときが刻一刻近づいている気がして、坂道の辛さにその興奮も加わって、ドキドキが何倍にも増幅している私。

「そうね。でもあまり油断は出来ないの。この辺りには公的な建物が多いから、要所要所にオマワリサンが警備で見張っているから」
 ようやく坂を上りきり、かなり息が上がって一休み。
 石の壁と緑に囲まれた落ち着いた雰囲気の一画でした。

「だからとりあえずここで、直子は胸のボタンをひとつ外しなさい」
 お姉さまが突然、脈絡の無いことをおっしゃいました。
 思わず、えっ!?と聞き返しそうになり、あわてて飲み込みました。

「い、いいのですか?さっきオマワリサンが見張っている、っておっしゃいましたけれど・・・」
「大丈夫よ。別に全裸になるわけでもないし、スカート短かいけれど、ちゃんとパンティだって穿いているじゃない?」
「ボタンひとつ外して、おっぱいチラチラしているくらいなら、たぶん何も言われないわ。ただの胸元緩い服を着た隙だらけの女、っていう感じで、公然ワイセツまでにはあたらないはずよ」
 ようやく息が整ったらしいお姉さまが私を、エスのまなざしでまっすぐ見つめてきました。

 ハーフカップのブラジャーを下にずらし、おっぱい全体を持ち上げている今の状態で三番目のボタンを外したら、かなりキワドイ状態になるのは間違いありません。
 四番目のボタンはみぞおちの下辺りですから、バスト部分を覆い隠すべき布を留めるボタンはひとつもなくなり、ちょっとしたことでもたやすく左右に割れ、Vゾーンがグンと広がってしまうのですから。
 その上、ブラジャー左右のストラップで中央にも寄せられているので、乳首の位置も中央に寄り、よりポロリしやすくなるはず。
 お姉さまったら、そこまで計算されて、私にこんなブラジャーの仕方をさせたのかしら?

「わ、わかりました」
 いずれにしても私に、お姉さまのご命令を拒む権利はないのです。
 左手で三番目のボタンを外すと案の定、胸元が急にラクになり、前立てがフワリと浮いて割れました。
 
 まっすぐ立っている分には大丈夫そうですが、少し身を屈めると、浮いた布地の隙間から尖った両乳首が、うつむいた自分の視界の中に丸見えでした。
 この感じだと、たぶん脇からもチラチラ見え隠れしていることでしょう。
 正面から風が吹いたらきっと、ひとたまりもありません。
 絶望的な気分になりました。

「うん。セクシー。いい感じね。そのまましばらく歩きましょう」
 お姉さまが右手を握ってきました。
「歩いているあいだ、どんなに胸がはだけても、あたしがいいと言うまでは、絶対直してはだめよ?わかった?」
「はい・・・・わかりました、お姉さま」

 私たちが歩き始めるとすぐに、前方からカップルさんらしき男女が腕を組んで歩いてきました。


オートクチュールのはずなのに 20