2013年8月25日

コートを脱いで昼食を 06

「あっ、えっと・・・実家にいた頃に母にしてもらったことはありました」
 私にそんな記憶はまったく無かったのですが、なぜだかそんな嘘がスラスラと口をついて出ちゃいました。
 私が誰かからそんなことをされたのは、高二のときのやよい先生だけでした。

「そう。実家にいた頃は、っていうことは、今は独り暮らしなのね?大学生?」
「はい」
「今年こっちに出てきたの?」
「はい」
「そう。それは心細いわねー」
 このおばさまは、本当に心優しい人みたいです。

「今のお住まいは、ここの近くなの?」
「いえ、そんなに近くはないです。あっちの広い通りの近くのマンションなので」
 たぶんそっちの方角だろうと思われる中空を指さして答えます。
「ああ、あの通りのほうね。それならここまでけっこうあるわね。それはそれはご苦労さま」
 おばさまがまたニコッと笑いました。

「そうよね。こういうもの買うのって、ご近所のお店だと気恥ずかしいものね。お嬢ちゃんみたいな若い子なら、とくにね」
「でも安心して。今日ここに来たのも何かのご縁よ。これからはわたしが、お嬢ちゃんのお薬の面倒は、全部見てあげる」 
「何かおからだのことで困ったことがあったら、恥ずかしがらずに何でも相談してちょうだい。きっとお力になれると思うわ」
 私の目をじーっと見つめて、任せてね、っていう笑顔を向けてくれました。

「は、はい、ありがとうございます」
 言いながらも私は、おばさまに申し訳なくてたまりません。
 こんなに親身になって心配してくださるのに、今私がやっていることといったら・・・
 おばさまの優しい目に見つめられて、ドキドキがいっそう激しくなっています。

「そうすると、お嬢ちゃんは一人でお浣腸は、したことないのね?」
「あ、えっと・・・は、はい。そうです」
 また、おばさまに嘘をついてしまいました。
 下半身がキュンキュン震えてしまいます。

「それだったら、これからやり方を教えてあげる。こう見えてもわたし、若い頃は看護婦だったのよ」
 おばさまがちょっと照れたようにはにかんでから、うふふ、って笑いました。
「薬剤師だった旦那と結婚して、ここの薬局を継いで、でも旦那はずいぶん前に亡くなっちゃった」
 一瞬しんみりしたお顔になりましたが、すぐに笑顔に戻り、お浣腸薬の箱をひとつ、開け始めました。
 ということは、おばさま、意外とけっこうお年を召しているのかな?

「ほら、これがお浣腸。この丸いところにお薬が入っているの」
 見慣れた薄いピンク色の丸っこいお浣腸容器が、おばさまの手のひらの上に乗っています。
「このノズルをお尻の穴に挿れて、丸いところを押してお薬を体内に入れるのね」
「ノズルの先っちょが尖っているみたいに見えるけど、まあるくカーブになっているから大丈夫。痛くはないわ」
 ノズルの先のキャップをはずして、実際に先っちょを見せてくれます。

「お浣腸液っていうのはね、実際のところ真水とグリセリンを混ぜただけなの。グリセリンが腸を刺激する作用を持っているのね」
「それでね、知ってる?グリセリンて甘いのよ。だからお浣腸液も甘いの」
 おばさまが突然私の右手を取りました。
 私は驚いてビクンと全身を震わせてしまいます。
 コートの中でおっぱいがプルン。

「あ、ごめんごめん。びっくりさせちゃった?ちょっと手のひらを貸してね」
 おばさまの左手に右手首を掴まれたまま、おばさまに向けて右手のひらを恐る恐る差し出しました。
 おばさまの手はひんやりとしていました。
 おばさまは、右手で持ったお浣腸容器を私の右手に近づけ、私の中指の先にお浣腸液を一滴、ポタリと落としました。

「舐めてみて」
「えっ?」
「大丈夫。毒じゃないから。舐めてみて」
「は、はい・・・」
 おばさまの左手から解放された右手を、雫をこぼさないように顔に近づけ、舌先でペロリと舐めました。
「本当だ。甘いです」
 これは知りませんでした。
「ねっ」
 おばさまは、イタズラが成功した子供のように満足気な笑顔で、嬉しそうにうなずきました。

「それで、これをお尻に挿すわけだけど、ひとりだとけっこうやりにくいのよね」
「ほら、自分ではお尻の穴って見えないじゃない?だから手探りでやることになるのだけれど」
 お浣腸容器にキャップを付け直して、おばさまはそれを手のひらの上でコロコロ転がしています。

「一般的なやり方としては、しゃがんだり、四つん這いになったり。それで手探りでこの先っちょをお尻の穴に挿れるのね」
「手探りだとやりにくいのは事実よね。いくら先が丸まっているといっても、無理に刺して粘膜を傷つけちゃうこともあるし」
「だからわたしとしては、四つん這いをお勧めするわ。それも出来れば鏡にお尻を映して、確認しながらがいいのだけれど」
 おばさまはそう言って、再び私の目をじーっと見つめてきました。

「いくらひとりきりとは言っても、お部屋で四つん這いになって、お尻出して、それを鏡に映して、って、とても恥ずかしいわよね?」
「でもそうしたほうが安全なのよ。誤って肛門や腸を傷つけてしまうより」

 私を見ながら熱心に語ってくれるおばさま。
 絶対におばさまは頭の中で、私がそうしている様子を想像していると思いました。
 私もおばさまのお話を聞きながら、自分がそうする姿を想像していました。
 からだの疼きが止まりません。

「お尻の穴もね、何か異物が入ろうとするとキュッて締まっちゃうものなの。だから余計に挿入しにくいの」
「だから挿れる前にお尻の穴付近をマッサージしておくのもいいわね。あとワセリンとかヌルヌルな、滑りが良くなる液体を塗ったり」
「お嬢ちゃん、そういうの持ってる?ヌルヌルするローション。ベビーオイルとかでもいいのだけれど」
「あっ、えっと、うーん・・・」
 いわゆるラブローションみたいなヌルヌルローションは、シーナさまからいただいたのがあるけれど、それをおばさまに言っていいのか悪いのか・・・
「そう、それならベビーオイルもあったほうがいいわね。お嬢ちゃんだからオマケしてあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
 おばさまったら、ご商売がお上手です。

「からだがやわらかければ、仰向けに寝転んででんぐり返しの途中みたいな格好、うーん、分かりにくいかな、赤ちゃんのオムツを代えるときみたいな格好ね、そういので挿れられるとだいぶラクなのだけれどね」
「お嬢ちゃんは、やわらかいほう?」
「あ、一応バレエをやっているので、普通の人よりはたぶん・・・」
「あらら、スゴイじゃない!クラシックバレエ?今でもおやりになってるの?へー、本当のお嬢様なんだ!」
  
 なんでバレエをやっていると本当のお嬢様なのかよくわからないので、私は曖昧にはにかんでお答えを保留します。
「それならきっと、でんぐり返しも出来るわね。よかったじゃない?」
「だけど、あれも相当恥ずかしい格好ではあるのよね」
 言いながら私の全身をジロジロ眺めるおばさま。
 おばさまったら絶対、私のそんな姿を、また想像しているはず・・・

「でもね、大昔はみんなお浣腸するときにそういう格好をさせられていたのよ」
「下半身裸になってから、自分の両手で両脚の膝の裏側を持って後ろにでんぐり返るの。お尻を突き出すように」
「子供だったら、男の子も女の子もみんなやらされていたわ。今考えると可哀相な話よね。恥ずかしさで泣き出しちゃう子がたくさんいたわ」
 おばさまが昔を懐かしむような遠い目をされました。

「あらあら、ちょっとお話しが脱線しちゃったわね。どこまで行ったんだっけ?」
「そうそう、それでめでたくお薬が中に入ったら、しばらくがまんするのね」
「腸の中にお薬が行き渡るように、四つん這いのままお尻を高く上げたり。ほら、液体は下に流れるから」
 おばさまの想像の中で、私のお尻が高く突き上げられたはずです。

「あと左向きに寝そべるのもいいっていうわね。腸って左巻きだから奥まで行き渡るの」
「それで後はひたすらがまん。お浣腸してすぐに、すごく出しちゃいたくなるんだけれど、そのとき出してもお薬がそのまま出ちゃうだけなの」
「お薬の効果が出るまで3分から5分はがまんしなきゃだめ。そのあいだはお腹が痛くなってもひたすらがまんがまん」
「だけど、本当にがまん出来ないようだったら、3分経ってなくても出しちゃっていいのよ。おトイレ以外でお漏らししちゃうのは、年頃の女の子にはすごいショックだからね」
「そうそう、だからもちろんお浣腸するときはおトイレの近くでね。かと言っておトイレにしゃかんだままだと、がまんが効かなくなっちゃうから、だめ」
「おトイレの外の廊下とか、お風呂場とおトイレが近ければ、お風呂場でやるのもいいわね」

 私は、おばさまのお話にいちいちコクコクうなずきつつも、なんだか言葉責めをされているような気分にもなっていました。
 実はおばさまは、私がヘンタイなことは始めからご存知で、私がしている恥ずかしい遊びのことも知っていて、その恥ずかしさを思い出させるために、いちいち言葉にして私の反応を愉しんでいる・・・
 そんなふうにも思えました。

「あと最後に、お浣腸をつづけてやるのもだめよ。がまんしきれなくて失敗しちゃっても一日に2本までね」
「何日もつづけるのもだめ。また便秘気味になってもすぐにお薬に頼らずに、出来るだけ自力で出すようにしてね」
「お浣腸に慣れちゃうと、腸が自分で排泄しようとする力が弱くなっちゃうのよ。それでお薬も効かなくなっちゃうの」
「だから、最初に言ったみたいに、普段から食生活とストレスに気をつけること、ね?」
「は、はい、ありがとうございます」

「さっきからいい匂いがしているけれど、それ、あそこのお肉屋さんのから揚げでしょ?」
 おばさまのお話しが突然大きく跳びました。
「えっ!あ、はい、そうですけど・・・」
 びっくりしながら答えました。
「油物はいいのよ、便秘がちのときは。腸を活性化するからね」
「最近の若い子は、カロリーだなんだって、脂っこいもの嫌うからね。まあ食べ過ぎはよくないけれど」
「お嬢ちゃんも、今でも充分おキレイだからダイエットとかする必要ないし、もう少しお肉が付いてもぜんぜん大丈夫よ」
「バレエもやってらっしゃるんだし、よく食べてよく動くのが一番!」
 おばさまがお話しを締めくくるみたいにそう言いながら、私の肩を軽くポンと叩きました。
 コートの中で私のおっぱいがプルン。

「そういうことだから、お嬢ちゃんは今日、お浣腸を4つ持っていきなさい。失敗しちゃったときや、もしもまたなっちゃっても、あわてないでいいように」
「使用期限はまだ4年近くあるから、当分のあいだは恥ずかしいお買物をしなくてすむはずよ」
 おばさまがクスッと笑いました。
 でも私、今年だけで、もう5つも使っちゃってるんですけど・・・

「ひとつ開けちゃったのがあるから、これはサービスにして3つ分のお代金でいいわ」
「えっと、それは・・・私に説明していただくために開けたのだから、そちらの分もお支払いします」
「いいのいいの。お嬢ちゃん聞き上手だから、お話ししててわたしも楽しかったし、お嬢ちゃんの恥ずかしそうなお顔、可愛かったし。わたしのお礼の気持ちよ」

「あ、それならえっと、ベビーオイルもいただきます。ちゃんと定価で」
「あら、そうだったわね。ベビーオイルね。じゃあこれを持って行ってくれる。植物性のすごくいいやつだから、ちょっとお高いけれど」
「はい。大丈夫です。それいただきます」
 提示されたお値段がベビーオイルとして高いのか安いのかよくわからなかったのですが、素直にお支払いしました。

「あと、これはうちのスタンプカードね。大サービスでいっぱい押しといたから、また何かお薬が必要なときは、絶対に来てね」
「は、はい。ありがとうございます」
 おばさまが、私がここに入ってきたときに見たのと同じ、はんなりした笑みを浮かべて私を見つめています。

 買ったものの中身が見えないように丁寧に包装紙で包んでから、手提げ袋に入れようとしていたおばさまの手が、その寸前でピタリと止まりました。
「そうだ!」
 同時に、おばさまにしては大きなお声。
「よかったら、ここでお浣腸していったらどう?」
「えーっ!!」
 今度は私の大きな声。
「ここで・・・お浣腸を・・・ですか?・・・」
 一言一言発するたびに、私の全身が盛大にざわめきたちます。

「そう。ここの2階がわたしの住まいなんだけど、独り暮らしで他に誰もいないし、おトイレもけっこう広いから」
「今日はお客さんもあまりないし、この時間帯はたいていヒマなのね。10分くらいならお店空けても大丈夫そうだから」
「お嬢ちゃんもひとりでやるのは不安でしょう?もし良かったらわたしがお手伝い出来ると思ったの」
「もちろん、わたしはお浣腸のお薬を挿れるのだけお手伝いしてお店に戻るから、あとはお嬢ちゃんがうちのおトイレで用を足せばいいだけ」

 このおばさまは、本当に、本当にいい人なのでしょう。
 私のことを親身になって心配して、純粋な親切心で申し出たご提案に思えました。

 どうしよう・・・
 私の性癖にとっても、すっごく蠱惑的なご提案です。
 さっきまでまったく見知らぬ同士だった和風美人なおばさまにお浣腸されて、そのおばさまのお家で排泄する・・・
 やってみたい・・・でも・・・
 私の被虐心が大きくざわついていました。


コートを脱いで昼食を 07


コートを脱いで昼食を 05

 記憶を頼りに住宅街の路地を適当に曲がりながら、とりあえず地下鉄の駅を目指しました。
 私が以前その商店街に迷い込んだときは、その地下鉄の駅からあてのないお散歩をしていて、4、5分歩いた頃に突然たどり着いた記憶があったからです。
 駅はあっちのほうだから、ここを逆に曲がってみようか。
 何の気なしにすごく細い路地へ入って抜けると、唐突にそれらしき商店街に突き当たりました。

 自動車が一台通れるくらいな幅の道路に沿って、道の両側に小さなお店がいくつも並んでいます。
 私が路地から出た場所は、商店街の途中みたい。
 小さな八百屋さんが正面に見えました。
 あそこからすんなり出れちゃったっていうことは、意外と地下鉄の駅から近いのかな?
 駅との位置関係はいまいちわかりませんが、来方はなんとなくわかったような気がしました。

 とりあえず、駅とは反対方向になるであろうほうへと、商店街をブラブラ歩き始めました。
 八百屋さん、お肉屋さん、お花屋さん、金物屋さん・・・
 狭い道路の両側に、お休みなのか閉店してしまったのか、閉ざされたお店をいくつか挟んでは、開いているお店がポツポツと並んでいます。
 どのお店も古くからやってらっしゃるみたいで、小じんまりしていてなんだか懐かしい感じ。

 時刻は、午後の三時半過ぎ。
 晩御飯用のお買物時間にはまだ少し早いのか、お年を召したおばさまがちらほら歩いているくらいで、全体的にまったりのんびりしたムード。
 ワンちゃんのお散歩をしてるおばさまや、学校帰りの小学生、宅配便の配達の人とかと、たまにすれ違います。
 クリーニング屋さんちのエアコン室外機の上で、大きな三毛猫さんがまあるくうずくまっていたり。
 裸コートのクセに、私もつられてリラックスムード。
 まったりゆっくり歩いていたら、商店街の終わりらしきところまで来てしまいました。
 見たところそこから先は、普通の住宅街みたいです。

 今度は逆方向に歩いて、とりあえずどこかで何かお買物をしてみよう。
 そう思って来た方向へ振り返ろうとしたとき、私のすぐ横に、さっき思い立ってしまった、私の罰ゲーム用の商品を扱っているであろうお店があることに気がつきました。
 あっ!
 そのお店を見た途端、再び心臓がドキドキし始めました。

 どうしよう・・・本当にやる気なの?・・・
 だけど、まだここに来てから何もお買物していないし、そのお店でどういう会話をするのかも考えていないし・・・
 いざとなったら、途端に臆病な風が吹いてきました。
 いきなりだと、何か大変な失敗をしちゃいそうだし・・・
 やっぱり怖気づいてしまった私は、そのお店を素通りして、来た道を戻り始めます。

 商店街のあっちの端まで行くあいだに気持ちを落ち着けて、やるかどうか決めよう。
 どこかのお店でまず何か普通なお買物をして、誰かと何か会話をしてみてからにしよう。
 そうだ。
 さっき通り過ぎたお肉屋さんの店先で、お店で揚げたらしいトンカツやコロッケをガラスのショーケースに並べて売っていたっけ。
 通り過ぎたときいい匂いがして美味しそうだったから、まずあそこでお買物してみよう。

 そんなことを考えながら歩く私には、もはやさっきまでのリラックスムードは微塵もありませんでした。
 このコートの下は真っ裸。
 そんな格好なのに、なんでもないフリして商店街お散歩を愉しんでいる私。
 背徳感がからだを火照らせ、下半身が盛大にムズムズしてきました。

「いらっしゃーい。今日は鳥のから揚げが大サービスだよ。うちのはカラッと揚がってて冷めてもすごく美味しいよー」
 お肉屋さんのショーケースを前屈みになって覗き込んでいた私に、ケースの向こう側にいた恰幅の良いおばさまから大きなお声がかかりました。
「あ、は、はい・・・それならえっと、鳥のから揚げを100グラムとその、野菜コロッケをください」
「はいはいー。まいどありー」
 陽気そうなおばさまが、愛想良くニコニコ笑って応対してくれます。

「それ、キレイな色のコートだねえ。よくお似合いよー」
「あ、ありがとうございます」
「はいっ、から揚げサービスしといたからねー。美味しかったらまた買いに来てちょうだいねー」
 私の顔をじーっと見つめつつ、おばさまが満面の笑みで私に品物を手渡してくれました。
 から揚げのいい匂いが、ふうわり漂ってきます。
「あ、ありがとうございます」
 お金を払ってから自分でも不自然と思うくらい大きくお辞儀をして、逃げるようにお店から離れました。
 たぶん顔も真っ赤だったと思います。

 やっぱり、この格好で知らない人と会話していると、それだけでゾクゾクキュンキュン感じちゃう。
 自分のはしたなさにジタバタしちゃうくらい恥ずかしくなって、被虐メーターがどんどん上がってしまうんです。

 お肉屋さんを離れた私は、もう一度来た道を引き返すことにしました。
 今のお肉屋さんのおばさまとの会話で、計画通り、より一層の辱しめを受ける決心がつきました。
 いいえ、決心がついた、なんていう消極的なものではなくもっと積極的に、一刻も早く自分をもっと恥ずかしい立場に置いてみたい、という衝動が抑えきれなくなっていました。
 から揚げを買っただけの、あんな普通な会話でこんなにゾクゾクしちゃうのだから、これから私が買おうとしているものだったら、どれだけ恥ずかしい思いをしちゃうのか・・・
 被虐願望メーターが完全に振り切れていました。

 相変わらず人通りもまばらな道を今度は足早に歩いて、さっきみつけたお店の前に舞い戻りました。
 商店街のはずれにひっそりと佇むそのお店は、いかにも古くからやってらっしゃる感じで、小じんまりとした見るからに個人経営という雰囲気。
 表側はガラスの引き戸になっていて店内が覗けます。
 外から見た感じでは、中に他のお客さまはいない様子。

 ここで種明かしをしちゃうと、今私が立っているのは薬屋さんの前。
 ここであるものを、お店の人にそれを告げて対面で買うこと。
 それが私の思いついた羞恥プレイでした。
 ここまで言えば、私がそこで何を買おうとしているのか、ピーンときたかたもいらっしゃるでしょう。

 ただ、ひとつ心配なのは、お店番の人が男性だった場合でした。
 そのときは残念だけれど計画を中止して、当たり障りの無いもの、たとえば風邪薬か何かを買って帰るしかありません。
 でも、こういう町の小さな薬屋さんだと、お化粧品も扱ってらっしゃる場合が多いので、お店番の人が女性の確率は高いはず。
 せっかく決意したのに計画中止ではがっかりです。
 そうならないといいな、お店の人が女性でありますように・・・
 祈る気持ちでお店の引き戸をガラガラッと開けました。

「ごめんくださいぃ」
 小さな声で言ってから、お店の中を見回しました。
 フワッとした中にもケミカルな気配が混じる、薬屋さん独特の香りに包まれます。
 決して広いとは言えない店内に、ガラスケースや棚が上手に並べられ、所狭しといろいろなお薬やサニタリーが置いてあります。
 コスメ系のキレイなモデルさんのポスターも賑やかに貼ってあるので、お化粧品も扱っているのは確実。
 店内は意外と奥行きがあるらしく、今いる場所からはレジが見えないので、商品を眺めつつ奥へと進みました。
 今のところ、陳列棚に私のあめあてのものはみつかりません。

「いらっしゃいませぇ」
 明るくて華やかなお声のしたほうを見ると、お店の一番奥の左側がレジになっていて、何かのお薬の箱がたくさん並べてあるガラスケースの向こう側に、白衣を着たおばさまが椅子に座ったまま、はんなりとした笑顔で私を見ていました。
 よかったー、お店の人、女性だった。
 ホッと一安心して、そのおばさまのほうに近づいていきました。

「今日は何かお探しものかしら?」
 白衣のおばさまは、ちょっぴりしもぶくれなお顔にまあるい銀ブチメガネでショートカット、品の良い薄化粧がよく似合う和風な美人さんでした。
 和服を着たらすっごく似合いそう。
 私にかけてきたお声の調子も気さくっぽくて、見るからにお話し好きそうな雰囲気がありました。
 お年は・・・うーん・・・35、いえ、たぶん40歳よりは上だと思うけれど、ちょっとわからない感じ。
 何て言うか、にっぽんのおかあさん、的な母性が滲み出ている佇まいで、相手に安心感を抱かせる感じのステキな女性でした。

 こういう人なら、あまり緊張せずにお話し出来そう。
 でも、逆にすんなりお買物が終わってしまって、あんまり私が恥ずかしさを感じられないかもしれないな。
 もう少し怖そうな人のほうがよかったかな。
 そんなムシのいいことを考えてしまう私は、本当に自分勝手な女だなって思います。

「どこかおからだの調子が悪いのかしら?それとも何かお化粧品をお探し?」
 おばさまが立ち上がり、ガラスケース越しに私をじっと見つめてきました。
「あ、あの、えっと・・・」
 本当ならここで、そのものズバリ、商品の名前を言ってしまう予定でした。
 それで、お店の人に根掘り葉掘り聞かれて、っていうシチュエーションを妄想していました。
 だけどやっぱり、恥ずかし過ぎて言えませんでした。

「えっと、ちょっと、あの、お通じのお薬を・・・」
「えっ?お習字?ああ、お通じね。便秘のお薬っていうことね?」
「あ、は、はい」
「まあまあ、それは大変ね。便秘はつらいからねー」
 おばさまが心底心配そうなお声で、私を気遣ってくれます。
「それなら飲むお薬と座薬とがあるけれど、どっちがいいかしら?」
「あ、はい、えっと・・・」

 すぐに答えられない私を見かねてか、おばさまは質問の仕方を変えてきました。
「いつからお通じが無いの?」
「えっと、4日前くらい、かな?・・・」
「普段から便秘がちなの?それとも突然?」
「あ、普段からっていうことはありません。今までそんなことなかったのだけれど・・・」
 今だって実は便秘ではないのだけれど、まさか本当のことは言えません。

「そう。たぶん食生活が乱れちゃったのね。無理なダイエットとかしなかった?それかストレスか」
 おばさまが相変わらず心配そうに言ってくださり、ニコッと笑ってつづけました。
「それなら座薬のほうがいいわね。飲み薬は体質によって、効きすぎちゃったり、ぜんぜん効かなかったりもするから」
「それですっきり出したら、その後は、バランスのいい食事と規則正しい生活を心がけること。お薬なんかに頼らずに自然なお通じを維持することが大切なの」
 おばさまが子供に教えるみたいに、やさしい口調でおっしゃいました。

「お嬢ちゃん、座薬ってわかるわよね?」
「あ、は、はい・・・」
「これのこと」
 言いながらおばさまが背後の棚に振り向き、私もよく知っている青色の箱を取り出して私の前に置きました。
「これね。お浣腸」
 とある果実の実に容器の形が似ていることから、その果実の名前を冠した有名なお薬。
 私がここで買おうとしていたのは、まさしくそれでした。

 とりあえずこの格好でお買い物をしようと思い立ち、公園を出てこの商店街を探す道すがら、最近切らしちゃったもの、って考えていて思いついたのがお浣腸薬でした。
 夏休みの全裸家政婦生活中に、ストックしてあった最後のふたつを使ってしまい、近々また買いに行かなきゃな、と思っていたのでした。

 お浣腸プレイ自体は、あまり好きなほうではないのですが、3ヶ月に一回くらい、自虐が極まって無性にやりたくなるときがあるんです。
 東京に来て最初に買ったときは、繁華街にあるセルフ式の大手ドラッグストアチェーン店で、レジの人が女性なのを確認してから、生理用品と一緒に思い切って5箱まとめ買いしました。
 そのときもかなりドキドキ恥ずかしかったのですが、セルフだったし、お会計まで一言も発さずただうつむいていただけなので、今日の比ではありません。

 目の前に置かれたお浣腸薬の箱をまじまじと見つめてしまいます。

 ごめんなさい、おばさま。
 私本当は便秘でも何でもないんです。
 このお浣腸のお薬は、お家でえっちなヘンタイ遊びをするために買うんです。
 今もこのコートの下には何も着ていなくて、そんなことが大好きな私は正真正銘のヘンタイなんです。

 心の中で目の前にいる白衣のおばさまにそうお詫びしながらも、ピッタリ閉じた私の両脚の付け根から内腿を伝ってふくらはぎ、そしてショートブーツの中へと、すけべなおツユがトロトロ滑り落ちていました。

「お嬢ちゃんは、今までにお浣腸をしたことはあるの?」
 今自分がしていることの恥ずかしさにこっそりどっぷり酔い痴れていた私を、おばさまのお声が現実へと引き戻しました。


コートを脱いで昼食を 06


2013年8月19日

コートを脱いで昼食を 04

 やっぱり服従ルールには服従しなくちゃ、ね。
 それによく考えてみれば、戻っては来たけれど、別にお家の中に入らなければならない用事もありません。
 それならさっさとここでレオタードを脱いで、お散歩続行したほうが効率的です。

 ケータイの時計を見ると、まだ午後の二時半過ぎ。
 こんな、まだ明るい時間にマンションの通路で裸になるのは、初めてでした。
 でも、さっきの公園で脱ぐことを考えれば、格段に安全。
 気をつけるべきは、エレベーターの動きだけです。

 すでに玄関ドアに差し込んでいた鍵は、念のためにそのままにしておきました。
 もしもエレベーターが動いたら、すぐさま玄関内に飛び込めるように。
 この時間帯だと、何かのご用時で柏木のおばさまがいらっしゃる可能性も大いにありますから。

 早く裸コートになりたいって、はやる気持ちは満々なので、すぐさまコートの前ボタンをはずし始めました。
 すべてはずしてから、そっとコートの前を開きます。
 うわっ、いやらしい・・・
 見下ろした自分のからだのあまりのいやらしさに、自ら両手でコートの前を開いたまま、えっちなマンガやお話によく出てくるヘンシツシャの人のような格好で、顔だけ下げたまましばし立ち尽くしてしまいました。

 肌に吸い付くようにピッタリなレオタードの白い布を、これでもかという勢いで不自然に突き上げている胸の頂の二つの突起。
 股間は、肌色が透けそうなほどにぐっしょり濡れて、くっきりとその形の通りなスジが刻まれていました。
 どう見ても、この女のからだが発情していることは明白です。

 そして今度は、この白い布も無しの真っ裸になって、コートひとつでお外をお散歩しなくちゃいけないんだ・・・
 別に誰に命令されたわけでもなく、自分で好きでやっているクセに、被虐感がどんどん募ってクネクネ身悶えしちゃいます。
 レオタードを着ていてもこんなに感じちゃったのだから、裸だったらどうなっちゃうのだろう・・・
 思わず妄想の世界に入り込みそうになりますが、現実がもはや、その一歩手前のところまで来ていることを思い出して苦笑いしつつ、コートの袖から両腕を抜いて脱いだコートを軽くたたみ、通路に置いたバッグの上に乗せました。

 大きく一つ深呼吸して気持ちを落ち着けてから、レオタードの両肩紐をそれぞれ外側にずらします。
 胸を隠していた布地が前方へペロンと垂れ下がり、押さえつけられいていた乳房が勢い良くプルンと跳ねました。
 そのままウエストを通り過ぎ腰骨へ。
 両腿を通過するときには、両脚の交わりから布の該当部分へと、透明なか細い糸が幾筋も下へ伸びては切れました。
 ふくらはぎまで下ろしたら、ショートブーツにひっかけないように、踏まないように、注意深く足元から抜き去ります。

 右手にクタッとした白い布片を持ち、足元のグレイのブーツ以外は丸裸になった私。
 心臓はもうドッキドキ。
 たたんだコートを大急ぎで広げて、袖に腕を通しました。

 ボタンを嵌める前にもう一仕事。
 バッグからティッシュを取り出し、前屈みになって股間の湿り気を丁寧に拭います。
 ティッシュごしの自分の手が、もっとえっちに活躍したがるのをなんとかなだめつつ入念に。
 脱いだレオタードは小さくたたみ,使ったティッシュをそのあいだに挟み、バッグの奥底にしまいました。

 コートのボタンを上から嵌めていきます。
 一番上だけは開けたまま、膝元まで。
 待ちに待った裸コートの完成です。

 その姿で通路を少し歩き回ってみると、レオタードを着ていたときとは、全身とコートとの関係と言うか、コートとあいだの空気と剥き出しの皮膚が、触れたり触れなかったりする感触がぜんぜん違うことを実感しました。
 さっきまでレオタードに押さえつけられていたおっぱいは、ルーズフィットなコートの中で自由奔放に揺れ動きます。
 そのたびに尖った乳首がコートの裏地に直に擦られ、ますます勢いづいて背伸びしちゃいます。
 内腿より上の部分も、そこを覆う布地が無くなったために、妙にスースーすると同時に、その一帯の皮膚の感度がより敏感になったのか、歩くたびに粘膜がヌルヌルと擦れている様子まで、生々しく脳に伝わってきます。
 
 すっごく刺激的。
 そんなことをしているあいだにも、股間がジワジワ潤ってきているのがわかります。
 さっきあれだけ拭ったのに・・・
 こんな状態でお外に出たら、絶対溢れちゃうだろうな・・・

 期待のワクワクと不安のドキドキ7:3くらいの割合でエレベーターに乗り込みました。
 お外に出たら、とりあえずもう一度、さっきのブチネコさんに会いに行ってみようかな。
 もしまだいたら、ブチネコさんの前でしゃがんで、下だけこっそり視てもらうのもいいかな。
 ブチネコさん、まだいるといいな。
 魔除けのおまじないを両耳に挿し直しながら、そんな不埒なことを考えていました。

 エレベーターが一階に到着し、エントランスホールをゆっくりと横切ろうとしたとき、
「あらー、直子ちゃん。もう帰ってらっしゃってたのね?」
 管理人室のほうから大きな声がかかりました。
「ひゃっ!」
 思わず小さく悲鳴をあげると同時に、心臓が早鐘のように波打ちました。

 背後から、スタスタとこちらに近づいてくる足音が聞こえます。
 私は仕方なく立ち止まり、足音の方向へ振り返りました
 黒いタートルネックのセーターに白いエプロン姿の柏木のおばさまが、ニコニコしながら近づいてきました。

「あっ、おばさま。ごきげんよう。いつもご苦労様です」
 内心はドキドキなのですがつとめて平静を装い、いつもより丁寧にお辞儀をしました。
 右手がなぜか、コートの胸元をつかんでいます。
「はい、ごきげんよう。急に声かけて驚かせちゃった?ごめんなさいねー」
「いえいえ。音楽に夢中になっていたので、ちょっとびっくりしただけです」
 耳から無音のイヤホンをはずして、胸元に押し込みました。

「今日はお帰りが早いのね?」
「あ、ええ。学校が早く終わったので、お昼過ぎには戻っていました」
 自分の引け目を意識しすぎて、受け答えがヘンに優等生っぽくなってしまいます。
「そうだったの。気がつかなかったわ。それで、これからお出かけ?」
「あ、はい、ちょっと・・・」
「いえね、直子さんにご実家からお荷物が届いているから。それで声をかけたのだけれど」
「あっ、そうたっだのですか」
「お荷物ランプ、点けておいたはずなのだけれど、気がつかなかった?」
 お荷物ランプというのは、管理人さんがお届け物などを預かったときに知らせてくれる装置で、各お部屋のインターフォン応答装置の横に付いていました。
「あ、えっと、ごめんなさい・・・」
「ううん、別にいいのだけれど。どうする?今持っていく?」
「お荷物自体は大きめだけれど、そんなに重くはないわよ」
 実家からの荷物というのは、数日前に電話で送ってくれるように頼んだ、私の冬物のお洋服だと思います。

「あっ、でもこれからお出かけなら、お時間の都合もあるわね」
 私が迷っているのがわかったのか、おばさまが気を遣ってくださいました。
「戻ってきてからでもいいわよ。おばさん今日は出かける予定ないから」
「あ、はい。ちょこっとお買物に行くだけですから、遅くとも5時までには戻ります」
「そう、それならお戻りになったら声かけてちょうだいね」
 おばさまがそう言って、私の姿をあらためて上から下まで、まじまじと見つめてきました。
「とってもステキなお色のコートね。よーくお似合いよ」
「あ、ありがとうございます。おばさまのセーターもシックですごくステキですね」
「やだあ。これはただの普段着よ」
 おばさまがコロコロ笑い、私の右肩を軽く叩きました。
 コートの下で生おっぱいがプルンと揺れました。

「それじゃあお気をつけて、いってらっしゃい」
「はい。それではごきげんよう。また後ほど」
 おばさまにお見送りされて、エントランスを抜けてお外に出ました。
 レオタードのときと同じ路地に入り、少し歩いて、周りに誰もいないのをよく確かめてから、立ち止まりました。

 ああん、びっくりしたー。
 私はぐったり疲れ、すっごくコーフンしていました。
 おばさまにお声をかけられたときから、心はドキドキ、からだはカッカと火照りつづけていました。
 裸コートをしていると、普通に会話するだけで、こんなにコーフンしちゃうんだ・・・

 私がおばさまと会話しているあいだ、頭の中のもうひとりの私が、いちいちその会話にツッコミを入れていました。
「何が、ごきげんよう、よ?お上品ぶったって、そのコートの下は真っ裸じゃない」
「びっくりしたときにヒクッとした、あなたのスケベなアソコをおばさまに見せてあげたいわね」
「何言ってるの?今日は裸コートをしたいがために早く帰ってきたクセに」
「頭の中、スケベなことでいっぱいだから、ランプなんて確認するヒマ無いわよね」
「正直に、裸コートでネコさんにアソコを見せに行きます、って言っちゃいなさいよ」
「コートを褒められたとき、中はもっとステキですよ、って開けて見せちゃえば良かったのに」

 おばさまにお見送りされたときには、すでにアソコから溢れ出したおツユが一筋、左腿からふくらはぎへと滑り落ちてブーツの中へ達していました
 たぶん今の私は、シーナさま言うところの、ドマゾオーラ、全開のはず。
 気を引き締めないと。
 イヤホンを挿し直し、背筋を伸ばして、無駄におっぱいが揺れないようにゆっくりと歩き始めます。
 すれ違う人は相変わらず少ないですが、そのたびにドキンとするのも相変わらず。
 さっきと同じルートで、さっきの小さな公園に着きました。

 ブチネコさんはもういませんでした。
 かなりがっかり。
 それでも同じカメさんベンチに腰を下ろし、これからどうしようかを考えます。
 このままでたらめに歩き回ってもいいのですが、それだけではもう面白くないかも。
 おばさまとの会話で得たコーフンをもう一度味わいたい、という気持ちになっていました。

 この格好で誰かとおしゃべりがしたい。
 恥ずかしい格好をしていることなんておくびにも出さず、普通に、いいえ、あえていつもよりお上品な感じで。
 そのギャップが大きければ大きいほど、コーフン出来ちゃうみたいでした。
 我がことながら、かなり変わったヘンタイ性癖だと思います。

 かと言って、そのへんですれ違う人に無闇に話しかけるワケにはいきません。
 見知らぬ人と会話するもっとも手っ取り早い方法と言えば、お買い物。
 まっさきに頭に浮かんだのは、このコートを買ったファッションビルのブティックでした。
 あのお店で適当にお買い物をして、店員さんのお姉さんとあれこれおしゃべりして。
 想像しただけでゾクゾクしてきました。

 だけど、あのファッションビル周辺は、この住宅街とは比べものにならないくらいたくさんの人たちが行き交っているはずです。
 もう午後の3時過ぎですから、学校帰りの高校生の子たちなんかも押し寄せているでしょう。
 裸コート初日で、そんな人混みの中に身を投じるのは、ハードルが高過ぎる気がしました。

 住宅街に普通にあるのはコンビニとかスーパー。
 でもああいうところは、それこそ一声も発せずともお買い物が出来ちゃうようなしくみです。
 何かを探してもらうくらいしか、店員さんとお話しすることはありません。
 ところどころに個人商店もあるから、行くとしたらそういうところかな。
 うーん・・・

 つまりは、店員さんと相談しながら買うようなものがあれば、それを買いに行けばいいのだけれど、そういうものって何かなー。
 お洋服と大げさな電気製品くらいしか思いつきません。
 本屋さんで本を取り寄せてもらう、っていう手もあるけれど、それって一瞬で終わっちゃうし。
 柏木のおばさまに、お買い物に行ってくる、と告げた手前、何かお買い物をして帰らなければいけない気分にもなっていました。

 そうだ!
 思い出しました。
 そういえば、確かこの界隈に小さな商店街があったはず。
 以前、闇雲に路地のお散歩をしていたときに、近くに駅も無いのに突然商店街が始まって、突然終わる一角があってびっくりしたことがありました。
 それも、八百屋さんお魚屋さんお肉屋さん、お豆腐屋さん金物屋さん雑貨屋さんとか、最近ではあまり見かけない、古くからやってらっしゃるのであろう小じんまりとした個人商店ばかりがつづくレトロな商店街でした。
 一度しか迷い込んだことはないけれど、ここからならなんとなく、記憶を頼りにたどり着けそうな気がします。

 あの商店街なら、何を買うにもいちいちお店の人とお話ししなければならないはず。
 レトロな商店街なので、お店の人もたぶん皆ご年配だろうから、お話しするのも気分的に楽そうだし。
 あそこで、精一杯世間知らずのお嬢様を気取って、お野菜とか、お惣菜とかを買ってみようか。
 思いついたアイデアにワクワクしてきました。
 早速ベンチから立ち上がり、レトロ商店街探しの冒険に旅立ちました。

 冒険の途上でも、しつこく、何か買うべきものはなかったかなー、って考えていました。
 前から欲しいなと思っていたもの、買わなきゃと思ってつい忘れちゃうもの、最近きらしちゃったもの・・・
 と考えていたとき、突然すごいアイデアが浮かんでしまいました。

 あまりに恥ずかしく、あまりに自虐的な、それゆえ今の私にぴったりお似合いな羞恥プレイ。
 これから行く商店街に、それを売っていそうなお店は・・・確かあったはずです。
 そんなことを思いついてしまった自分を、アクマだと思いました。

 本当にやってみるつもりなの?
 そう自問すると、さっき柏木のおばさまとの会話にさんざんツッコミを入れてきたもうひとりの自分が、即座にこう答えました。
「当然でしょ?思いついちゃったんだから。今日、最初にレオタードなんか着てもたもたしていたあなたへの罰ゲームよ。お望み通り、見知らぬ人の前で思う存分辱めを受けるがいいわ」


コートを脱いで昼食を 05