2015年4月19日

面接ごっこは窓際で 10

 ハンガーに掛かったまま手渡されたのは、シックなワインレッド色のロングカーディガンでした。
 ふうわりとしたルーズなシルエットで、たぶんウールかな。
 太めの毛糸をざっくり手編みした感じが、とても素敵でした。

「昨シーズン、けっこう出た人気アイテムよ。これは素材を選ぶために作らせた試作品でウールだけれど、製品版はコットンになったの。クリーニングがラクだからね」」
「これ羽織っておけば監視カメラも問題ないでしょう?直子の大好きな裸コートのニット版よ。着てみて」
 お姉さまに促され、カーディガンを注意深くハンガーからはずし、袖に腕を通しました。

 丈は膝上5センチくらい、袖も一折すれば問題ありません。
 でも、それ以外は問題山積みでした。

 前合わせがおへそのちょっと上くらいの、かなり深めなVネックなので、胸元がほとんどはだけて覗いてしまいます。
 ボタンはふたつ、おへその少し上と腿の付け根あたり、だけ。
 透かし編み、と言うのでしょうか、隙間を多用したざっくりした編み方なので、全体にそこはかとなくシースルーな感じ。
 その上、ルーズフィットなだぶっとしたつくりなので、少しからだを屈めただけで生地と素肌に大きく隙間が出来、胸元からおっぱいが丸見えになってしまいます。

「あの、お姉さま、これ、少し私には大きいような・・・」
「あら、いい感じよ。甘えんぼ袖でかわいいじゃない」
「それに、胸元が開きすぎでは・・・」
「だってカーディガンって、本来何か着ている上に羽織るものだもの、仕方ないわ。チェーンネックレスが胸元を飾っているから、それはそれでセクシーな感じになっているわよ」
 確かに首からかけたチェーンが胸の谷間で三方に分かれ、左右の乳首へと繋がっているであろうことまでバッチリ丸わかりでした。

「安心なさい、ボタンは留めちゃダメ、なんてイジワルは言わないから。さ、行きましょう」
 ロッカーを閉じ、バーキンを肩に提げてモップ片手のお姉さまが、ツカツカとドアに向かいます。
 私もあわててショートジャケットとハンドバッグをショッパーに押し込み、もう片方の手に重いバケツを持って、お姉さまの後を追いました。
 からだを動かすと裏地が肌に擦れ、ウールのチクチクが尖った乳首を挑発してきて私はモヤモヤ。
 股下以降ボタンが無いスリット状態な裾は、歩くたびに大きく割れ、太股から付け根まで、大胆にキワドク覗いてしまいます。

「あっ!いっけなーい!」
 オフィスの電気を全部消して、あとは廊下に出るだけ、とドアノブに手をかけたお姉さまが、真っ暗な中で小さく叫びました。
「えっ!?」

「直子の履歴書、あたしの机の上に出しっ放しだったわ」
「えーーーっ!?」
「あたし、出張から帰るの火曜日の予定だから、そのあいだずっと置きっ放しになっちゃうわね」
「あの、そのあいだに誰か社長室に入ったりはしないのですか?」
 焦ってお姉さまに尋ねました。

「もちろん入るわよ。今はたまほのがあたしの仕事の補佐だから、あたしの代わりにね」
 何言っているの、この子は?みたいなニュアンスの笑いを含んだお声が、暗闇から聞こえました。
「でも、たまほのなら気を利かせて、黙って机の抽斗にでもしまってくれるだろうから、まっ、いっか?」

「いくないですっ!!」
 お姉さまの語尾が消えないうちに、覆いかぶせるように抗議の声をあげました。
 私のイキ顔が添付された、あんな破廉恥な履歴書を早々と社員のかたに見られちゃったら、私はどんな顔をして初出勤すればいいのでしょう。

「あんな履歴書、早くどっかにしまっちゃってください!いえ、会社に置いておかないで、お姉さまがお家へ持って帰ってください!」
 お姉さまとの面接ごっこで自分の恥ずかしい性癖をひとつひとつ、自筆で書き加えさせられたときの恥辱感が全身によみがえり、いてもたってもいられなくなって、強い調子で抗議してしまいました。
「おー怖い。でも直子って、怒ったときさえマゾっぽい感じなのね。嗜虐心をくすぐるって言うか。あたし、そういうのも好きよ」
 余裕のお姉さまが再び灯りを点けました。

「わかったわ。そんなに言うならしまってくる。可愛いスールからの切羽詰ったお願いだもの」
 社長室に向かうお姉さまを、私も追いかけます。
「でもね、社員の履歴書を持って帰ることは出来ない決まりなの。社外秘書類は持出禁止。これは会社のルールだから」

 ご自分のデスクの上に無造作に置いてあった履歴書をつまみ上げ、一瞥してからクスッと笑い、たくさんある抽斗のひとつに、これまた無造作に放り入れました。
「今は金庫の鍵持っていないから、とりあえずね。大丈夫よ。たまほのはこの抽斗、絶対に開けることはないから」

「あの・・・もしも社員のかたが、私の履歴書を見たい、っておっしゃってきたら、お姉さま、あ、いえ、チーフは、お見せになるおつもりですか?」
「そうねえ・・・取締役のアヤか雅が見たいって言ってきたら、断る理由は無いわね。もっとも今までそんなこと、ふたりとも言ってきたこと一度もないけれど」
 とりあえず少しだけホッとする私。
 だけど私のあの破廉恥な履歴書は、この会社の正式な社外秘書類になってしまったようでした。

 なんとなくモヤモヤしたままオフィスを出て、給湯室に用具を戻し、片手が空くとすぐにその手でカーディガンの大きく開いているVゾーンの襟端を両方握って隠しました。
 そのままエレベーターホールへ向かいます。

「こうしてあらためてよく見ると、全体にけっこう透けるのね、それ。でも色っぽくて、いい感じよ」
 お姉さまが私を振り返り、しげしげと見ながらおっしゃいました。
 手をどけなさいって叱られるかな、と思ったのですが、胸元Vゾーンを隠していることについては、とくに何も触れられませんでした。

 エレベーターの箱はみんな一階で待機しているようでした。
 お姉さまが呼び出しボタンを押し、やって来るのを黙って待ちます。
 ここには監視カメラがあるはずなので、お姉さまの陰に寄り添うようにくっつきました。

 やがて1基のエレベーターがやって来て、扉が開きました。
 正面に大きな鏡。
 そこに映った自分の姿に思わず息を呑みました。

 エレベーター内の明るい光に照らし出されたワインレッド色のストンとしたシルエット。
 その内側に私のからだのライン全体がハッキリわかるほど、白くクッキリ透けていました。
 その上、網目が詰まった部分と粗い部分で交互に、忙しくボーダー模様になっているデザイン。
 私が着るとちょうどバスト部分と土手部分が粗いほうの網目に当たっています。
 なので、バストに目を凝らせば、私の乳首の位置も色も、ちゃんとわかります。
 下半身も、両腿の付け根部分が、見事に透けています。

 お姉さまをにぴったり寄り添い、来るときに教えていただいた監視カメラに背を向けるように、横歩きで乗り込みました。
 お姉さまのおからだが監視カメラの盾になるような位置で背中を向け、じっとちぢこまります。
 この際、お尻ぐらいは映っちゃっても、仕方ありません。

「お姉さまの会社って、こういうえっちなお洋服ばかり作っているのですか?」
 ヒソヒソ声で少し嫌味っぽく愚痴ってしまいました。
「あら失礼ね。直子だからそうなるのよ。サイズがちょっと大きめだから。あたしが着たらちゃんと、見せたくないところは見えないデザインよ」
 愉快そうなお姉さまのご反論。
 お姉さまったらやっぱり、計算されてこのカーディガンを選ばれたんだ。

 エレベーターはどの階にも停止することなく、あっという間に地下の駐車場に到着しました。
 駐車場内は、フロアに較べればずいぶん暗めで一安心。
 人っ子一人いないようで、しんと静まり返っていました。
 コンクリートをカツカツ叩くお姉さまのヒールの音。
 私も早く自動車内に逃げ込みたい一心で、ショートブーツの底をパタパタ鳴らしました。

 やがて一台の乗用車の前で立ち止まったお姉さま。
 それがお姉さまの愛車のようです。
 薄暗いので紺色なのか青色なのかハッキリしませんが、割と大きめな車でした。
 ずっと昔からある美味しいサイダーのマークに似たエンブレムを、お顔に付けていました。
 自動車のことはほとんど何も知らない私でさえ、そのマークが付いた車は高級外国車であるということは知っていました。

「すごいですね。さすが社長さん、っていう感じです」
「それって皮肉?これ、実家から借りているのよ。こっちに出てきて借りっ放し。ナンバー見てごらん、横浜でしょ?」
「あ、本当だ。ご実家もすごいのですね」
「うーん、どうだかね。そんなことより、早く乗りなさい」
 お姉さまが運転席のドアを開けてローファーみたいなお靴を取り出し、履き替えられています。

 助手席のドアを開けて乗り込もうとしたとき、躊躇いが生じました。
 私は今ノーパン。
 そしてもちろん、今の自分の恥ずかし過ぎる格好で、充分に潤んでいます。
 このまま座ればカーディガンのお尻を汚してしまうし、生尻じか座り、するならタオルを敷かなくちゃ。
 懐かしい言葉を久しぶりに思い出して、ちょっと顔がほころびました。
 それから持っていたショッパーを覗き込んで、キレイめのタオルを探し始めました。

「どうしたの?早く乗りなさい」
 訝しげなお声でお姉さまが尋ねてきます。
「えっと、あのですね、私は今ノーパンで濡れているので、このまま座ったらカーディガンを汚してしまうし、お尻をまくって直に座ったらお車のシートを汚してしまうし・・・」

「へー。ずいぶんな気配りさんなのね。それで直子はどうしようとしているの?」
「なので、シートの上にタオルを敷いてから、生尻じか座りをすれば、カーディガンもシートも汚れないから・・・」
「生尻じか座り、って面白い表現ね。あたしは別に、そのカーディガンは直子にあげたつもりだし、助手席に直子のおツユが染み込んで車内が直子臭くなっちゃっても、別に構わないのだけれど」
 そこまでおっしゃって、少し考えるふうに視線を宙に向けるお姉さま。

「おっけー。決めたわ。生尻じか座り、っていう言葉が気に入ったから、それでいきましょう」
「タオルも敷かなくていいわ。どうせその中のタオルはみんな、直子の愛液がたっぷり染み込んでいるのだもの、敷いたって同じよ。文字通り、生尻じか座り、でいいわ」

「でも、これって本革では・・・」
「そうかもしれないけれど、いいわよ。どうせ乗ったら、ものの5分もしないうちに着いちゃうもの」
「それとも直子は、何か期待しているの?車に乗って家に着くまでに、車内中が直子臭くなっちゃうほどおツユが溢れちゃうような出来事を」
「いえ、そ、そんなことないです。わ、わかりました」
 お姉さまのイジワル口調にキュンとなってトロリ。

 車に乗り込んで腰を下ろす前に、お尻側の裾に両手を遣って思い切りまくり上げました。
 それからストンと、裸のお尻をシートに沈めました。
「ひゃぁっ」
 ひんやり冷たい感触と、ちょうど良い柔らかさの革の肌触りがお尻を包みました。
 お姉さまは、そんな私の一挙一動をじーっと見つめていました。

「直子?」
「あ、はい?」
「左のおっぱいが襟から全部零れ落ちていてよ。それともワザと?」
「あ、いえ!」
 からだを折り曲げた拍子におっぱいがはみ出てしまっていたようです。
 あわててカーディガンの前をかき合わせました。

「タオルを敷くとか、そんな気配りが出来る、っていうことは、似たような格好で誰かの車に乗ることが過去に何回かあったのよね?」
 私が座り終え、助手席側のドアをバタンと閉めても、お姉さまはまだエンジンをおかけにならず、私に質問してきました。

「はい。やよい、あ、いえ、百合草先生と、あとシーナさまのお車にも」
 かき合わせた胸元をギュッと握り締めてお答えしました。
「ふーん。そのときはいつも、生尻じか座りのタオル敷き、だったわけね?」
「はい・・・」
「ふーん」

 意味ありげに私の顔を覗き込んでから、やおら前を向き、車のエンジンをおかけになるお姉さま。
 車内を低くエンジン音が包み込み、その中を綺麗なバイオリン曲が小さく漂い始めました。

「直子?」
「はい?」
「シートベルトをしたら、そのニットのボタン、全部外しなさい」
「えっ?」

「直子さっき、そのニットに絡めて、あたしの会社に対して失礼なこと言ったわよね?それに、この車見たときも、何か皮肉っぽいことを」
「あ、いえ、決してそんなつもりでは・・・」
「ううん。言ったことは間違いないわ。あたしに馴れ過ぎて直子は、自分の立場を忘れかけているのよ。だからこれは躾。お仕置きよ」
「直子とあたしがどういう関係なのか二度と忘れないように、命令します。ボタンを外しなさい」
 私の顔をじっと見据えて、冷たいお声でおっしゃいました。

「は、はい・・・申し訳ございませんでした・・・」
 おずおずと右手を下腹部に伸ばし、ボタンを外し始めました。

 カーディガンの裾はまくり上げているのでお尻に敷かれていず、シートの背もたれと私の背中のあいだでクシャクシャになっています。
 そんな状態でボタンを外せば、前合わせはそこに留まっていることが出来ず、左右にハラリと簡単に割れてしまいます。
 一個外すと土手と割れ始めのスジが覗き、2個目で太腿から下腹部まで、完全に露になってしまいました。
 その影響は上半身にも及び、左側はシートベルトでも押さえられているので無事でしたが、右側は襟部分までペロリとめくれて、右おっぱいがチャームをぶら下げた乳首まで顔を出していました。

「そのまま、絶対直しちゃだめ。これはお仕置きなのだから」
 おっしゃりながらお姉さまの左手が背後から、私の左肩を抱くように伸びてきて、左おっぱいを覆っていた布地が肩先から引っ張られ、せっかく隠れていた左乳首も、こんにちは、してしまいました。
 左おっぱいの上部分を斜めにシートベルトが締め付け、少し歪んだ肌の先に、尖った乳首にチャームをぶら下げた左乳首。
 つまり、私の肌でニットに隠れているところは両袖だけ、という状態になってしまったのでした。

「そのまま夜のドライブよ。もう深夜だから、いくら土曜の夜でも、人も車もたいしていないでしょう。直子の家までなら大通りを通るわけでもないし」
「ずっとこのままで、ですか?」
「そう。おっぱいも下も丸出しで。と言っても外から下半身は見えないでしょうけれどね。どう?ドキドキしちゃう?シート、思う存分汚していいわよ」

「あの、あの、えっと、以前、やよい先生に教えていただいたのですけれど・・・あ、えっと百合草先生です」
 お姉さまご提案の大冒険にワクワクしつつも、万が一の危険性がどんどん脳内で膨らんできて、動揺と共に言い出せずにはいられませんでした。

「んっ?」
 お姉さまの眉がピクリと動いて、先を促す仕草。
「えっと、こういう車の中での露出では、みんな周りばかり気にするけれど、一番注意しなくちゃいけないのは前を走っている車だ、って」
「前?どういうこと?」
「あの、これ、えっとバックミラーでしたっけ?これで後ろの車の運転席のことは丸見えだから、もし前の車が覆面パトカーだったりしたら・・・」
 フロントグラスの上真ん中くらいに付いている小さな鏡を指さしながら、おずおずとご説明しました。

「ああ、なるほど。確かにね。あたしも以前、信号待ちのあいだキスしてるバカップルをルームミラー越しに見たことあるわ」
「さすが百合草女史ね。あたしそんなこと考えたこともなかったわよ」
 心底感心されたご様子のお姉さま。
「もっともあたしは今まで、助手席で裸になりたがるようなヘンタイを、自分の車に乗せたこともなかったけれどね」
 お姉さまの左手の指が、私の右乳首のチャームをチョンとつつきました。
「やんっ」

「おーけー。それならこうしましょう。前の車との車間距離が詰まっているときと、狭い道で対向車とすれ違うときは、直子は腕でバストを隠してもいいわ。腕組むみたいにして」
「車を降りるまで、それ以外の動作は一切禁止ね。まっすぐ前を見て、大人しく座っていること」
「それにせっかくのチャンスなのだから、まるべく隠さないように努力しなさい。視られたって一過性なのだから」
「直子だって誰かに視られたほうが興奮するのでしょう?あたしが隣にいるのだから、大丈夫よ」
「は、はい・・・」
 なんとなく覚悟が決まりました。

 ヘッドライトがパッと点いて、車が音も無く動き始めました。
 薄暗い駐車場に人がいる気配はまったく無く、音楽はクライスラーの愛の喜びに変わっていました。
 段差を乗り越えるたびに車が少し揺れて、私の剥き出しのおっぱいもチャームごとタプンと弾みました。
 長いスロープをゆっくり登りきると、駐車場の出口が見えました。

 駐車場出口で一旦停止。
 ここから先は、私が慣れ親しんだ生活圏内の一帯です。
 そんな場所を、車の中とは言え、おっぱい丸出しの上半身をガラス窓から覗かせて走っていくのです。
 喩えようのない恥ずかしさと背徳感が全身をつらぬきました。

 出口から出て左折したお姉さまの車は、数秒も走らないうちに最初の信号に捕まりました。
「ここは右折できないから、ビルをぐるっと一周することになるわね」
 幸い交差点には人も車もいません。
 と、思う間もなく対面からヘッドライト。
「大丈夫よ。もう信号変わるから」
 腕を組みたくてムズムズしている私を制するように、お姉さまのハンドルがゆっくりと左に切られました。

 片側二車線の右寄り路線をゆっくりと直進するお姉さま。
 そのあいだ、2台の対向車がけっこうなスピードですれ違っていきました。
 私は呆気に取られ、腕で隠すヒマもありませんでした。
 やがて見えてきたのは、通い慣れたアニメ関係のお店が立ち並ぶ通りです。
 お姉さまが車を左へ寄せていきます。
 この辺りははまだ少し人通りもあり、私の腕がまたムズムズし始めますが、今度は信号に捕まることも無く左折出来たので、隠すタイミングを失なっていました。

「そう言えば、さっきの信号の手前あたりに交番があったはずよね。もう通り過ぎちゃったけれど。ちょっとヤバかったかな」
 愉快そうにおっしゃるお姉さま。

 お姉さまのお言葉で、その交番の佇まいが瞬時に思い出せるほど、しょっちゅうその前を歩いていました。
 私、あの交番の前でも、おっぱい丸出しだったんだ・・・
 右に目を遣れば立ち並ぶ、見慣れたアニメショップ群。
 自分が今していることのあまりのヘンタイさに、からだがどんどん熱くなってきます。

 次の交差点も捕まらずに左折すると、今度は24時間スーパーがある通りです。
 スーパー側、つまり対向車線側の舗道には、けっこう人が行き来していますが、お姉さまが選んでくださったこちら側の舗道側路線は、照明も暗く、人もぜんぜんいません。
 この通りを抜ければ住宅街。
 人も車もガクンと減るはずです。

 その信号を抜ければ住宅街、という交差点で信号待ちに捕まりました。
 片側2車線道路の右寄りに車が一台信号待ち。
 お姉さまの車は左寄り車線を進んでいます。

「どうしよっか?後ろにつくか、隣に並ぶか」
 信号待ちをしている車は、黄色くて可愛らしい感じの車でした。
「あの車の感じだと、女性ドライバーぽいわね。それなら後ろについてみましょう。直子はまだ隠しちゃだめよ」
 お姉さまが右寄りに車線変更して、ゆっくりと黄色い車の後ろに近づいていきます。

「ああ、やっぱり女性みたい。それもけっこう若そう。初心者マークまで付けているし」
 お姉さまが身を乗り出すようにして、黄色い車のリアウインドウ越しの車内に目を凝らしています。
「これも何かの縁だわ。これは直子、見せてあげるしかないわね。いい?絶対隠してはだめよ」
 おっしゃりながら、黄色い車の後ろにゆっくりと、ご自分の車を停車させました。

「あ、なんだか気がついたみたい。ルームミラーを弄って角度変えている」
 気にはなりますが、私はそれどころではありませんでした。
 うつむいてギュッと目を閉じ、胸を庇いたい欲求と一生懸命戦っていました。
 自分の乳首にグングン血液が集まってきているのがわかります。
「視てる視てる、信号が変わったのも気づかないみたいね」

 パァッ!
 お姉さまが鳴らしたのであろう短く鋭いクラクションの音に、私もビクンとして顔を上げ、自然と前を見ました。
 なんだかあわてたみたいに黄色い車がよたよた発進して、交差点を渡りきったところでウインカーを左に出し、路側帯に停車しました。
 その脇をお姉さまがゆっくり通過していきます。
 通過するとき、黄色い車のドライバーさんと助手席の私とのあいだは1メートルも離れていませんでした。

 お姉さまがおっしゃった通り、まだお若そうな学生さんぽいボブカットの女性ドライバーさんは、運転席脇の窓ガラスに顔をくっつけるようにして、私を見送ってくださいました。
 私のバストに、目を皿のようにした好奇の視線が、2枚のガラスを隔ててまっすぐに浴びせられるのを肌に感じていました。

「やれやれ。あの黄色い車の彼女、びっくりし過ぎちゃって、このあと事故ったりしなきゃいいけれど・・・」
 黄色い車を追い越して住宅街の路地に入った頃、お姉さまが苦笑い気味にポツンとつぶやきました。

 いつの間にか車は、私のマンションの入口前に横付けされていました。
「ほら直子、着いたわよ?おっぱい出しっ放しでいいの?」

 私も黄色い車との一件でなんだか呆けてしまい、おっぱい丸出しのままボーっとしていました。
 お姉さまのお声で、あわてて前をかき合わせました。
 まわりをキョロキョロ見渡すと、さすがに住宅街、しんと静まり返って人影はありません。

「直子もずいぶん度胸が据わってきたのかしら、一度もおっぱい隠さなかったわね。偉かったわ」
 お姉さまが私のほうを向いて、ニッと笑いかけてくださいました。
「でも、あの女の子ドライバーだけではなくて、他にも舗道からとか、けっこう注目されていたみたいよ?こっちを二度見してくる人が数人いたもの」
「えーっ!?」
「その様子じゃ気づいていなかったみたいね。露出マゾの境地に達していたみたいだったし」
 うふふと笑ったお姉さまが、私のシートベルトをカチッと外してくださいました。

「少し腰を浮かせてごらんなさい?」
 おっしゃるままに従うと、股間は身悶えして逃げ出したいほどヌルヌルで、革のシートにもベッタリ垂れていました。
「うわー、予想以上の大洪水。これじゃあ拭き取ったくらいじゃ直子臭さは取れないかしら?」
 お姉さまが笑いながら私の頬を軽くつつきました。

「ああん、ごめんなさい、お姉さま・・・」
「いいのよ。それだけ気持ち良かったのでしょう?どう?車での露出の思い出で、あたしとのが一番になりそう?」
「もちろんです。こんなにすごかったの、初めてです」
 自分の生活圏内の街で、こんなに大胆なことが本当に出来るなんて、思ってもいませんでした。
 ああん、今すぐお姉さまに抱きつきたい!

「さあ、名残惜しいけれど、今夜はここでお別れね。出張から帰ってきたら電話入れるから、そのとき初出勤の日時を決めましょう。無論、早いほうがいいからね」
「はいっ!」
「ほら、一応お股拭いて、自分の部屋に入るまではきちんとしておいたほうがいいのではなくて?もっとも、そのニットではあまりきちんとは出来ないけれど」

 お姉さまの笑顔に促され、ショッパーからタオルを取り出し、まず自分の股間を拭いて、それから裏返して車のシートを拭いて、再びショッパーにしまおうとしたら、お姉さまの手で阻まれました。
「それはまだ、しまわなくていいから、ボタンを留めて先に身繕いしちゃいなさい」
 背中の裏でくしゃくしゃになっていたカーディガンの裾を引っ張り出し、今度はその中にお尻を隠してから、ボタンをふたつ留めました。

「いいみたいね。忘れ物もないわね?」
「お姉さまったらなんだか、ママ、あ、いえお母さんみた・・・」
 いですね?って軽口を叩こうと思ったら、お姉さまに唇を塞がれました。
 お姉さまの唇で。
「むぅぐぅう・・・」

 お姉さまの両手が私を抱きしめ、お姉さまの舌が私の口腔すべてを舐め尽してくる、そんな情熱的なくちづけでした。
 もちろん私もお姉さまに縋りついてお応えし、お互いの舌をニュルニュル絡ませ合いました。
 長い長いくちづけでした。

「はぁー・・・気持ち良かった。これでスッキリ仕事モードに入れそうだわ。直子はどうせ部屋に着いたら、すぐに始めちゃうのでしょうけれど」
 ご自分のお口の周りをテカらしているふたり分のよだれを、タオル、私のおツユがたっぷり染み込んだタオルで拭いながら、笑顔のお姉さま。
 その後、私の口の周りも、そのタオルで丁寧に拭いてくださり、指で髪を軽く梳いてくださいました。
「このタオルはあたしが持って帰るわね。出張中に直子に会いたくなったら、クンクン嗅ぐの」
 冗談めかしておっしゃって、丁寧にたたんでからバーキンの中にしまい込みました。

「それじゃあごきげんよう。おやすみ。良い夢を」
「はい。おやすみなさい。くれぐれもお家までの運転、お気をつけてください」
「うん。わかっているわ。直子の初出勤、楽しみね」
「はいっ!」

 テールランプが見えなくなるまでお見送りしてから、マンションに入りました。
 幸いにも、そのあいだずっと路上に人影はありませんでした。
 今更ですが今の私は、知っている人に見られたら絶対に言い逃れ出来ない、ヘンタイ過ぎる格好なのです。

 エレベーターに乗り込むと監視カメラに背を向けてうつむきます。
 管理人さんがこんな時間まで起きていらっしゃるとは思わないけれど、たぶん録画もされているはずなので。

 エレベーターから降りて扉が閉じると同時に、カーディガンのボタンを外し始めました。
 お部屋のドアの前に立ったときは、カーディガンも脱ぎ去っていました。
 バッグから鍵を取り出すのももどかしく、ショートブーツを脱ぎ始めます。
 扉を開けたときには、両乳首から垂れ下がったチェーンのリングを左手で引っ張り始めていました。
 もう一方の右手は、ショッパーの中にあるはずのあるものを、一生懸命探しています。
 みつけて引っ張り出すと同時に、玄関ホールの上がり框に全裸で倒れ込みました。

 私がその夜、と言うかもはや朝方、何時頃に眠りに就いたのかは、ご想像にお任せします。


オートクチュールのはずなのに 01

2015年4月12日

面接ごっこは窓際で 09

 天井照明に煌々と照らし出されたオフィスビルの無機質なフロアを、お姉さまのお背中を追って歩き始めました。
 
 一歩踏み出すたびに、内腿のあいだを空気が直にスーッと撫ぜてきます。
 どうしてもうつむきがちになってしまう自分の視界で、今現在自分が置かれている状況が否応無しに思い知らされます。
 オフィスを出てここまで来るとき、あんなに頼りなく感じた一枚のバスタオルでさえ、有ると無いとでは大違いでした。

 だって今の私は、全身の素肌を一切隠せない、すべてを剥き出しにした生まれたままの姿。
 いいえ、もっと悪いことに、率先して隠さなければならない部位を目立たせるかのように飾り立てた、破廉恥極まる姿でした。

 左右のおっぱい先端に大きなチャームをぶら下げ、性器も粘膜部分を左右に押し開くようにクリップで留め、更に一番敏感な肉の芽をテグスで絞って露出させて。
 首から下げた細いチェーンがそれらをすべて繋いでいます。
 青いバケツを持った私の右手が小刻みに震えているのは、その中になみなみと満たされたお水の重さのせいだけではありませんでした。

「ここが給湯室。モップとかバケツは入ってすぐ右側の扉の用具入れだから」
 おトイレから出てすぐにある扉の前で、お姉さまが教えてくださいましたが、私の心は羞恥だけに満たされて上の空。

「普段見慣れたオフィスの廊下を、そんなふうに素っ裸の女の子が歩いているのを見るのって、なんだかシュールで不思議な感じ」
 あと少しでオフィスの入口、というところでお姉さまが振り返り、私のからだをまじまじと見つめながらおっしゃいました。
「ありえないっていう意味で非現実ぽいて言うか、見方を変えれば、ある種のアートっぽい感じさえするわね」
「これはぜひ、写真に残しておかなくちゃ。そこでちょっと待ってて。カメラ取って来る」
 
 お姉さまがオフィスへのドアを開けようとしてふと動きが止まり、もう一度振り返りました。
「そうだ。そのあいだ直子は、そこでバケツぶら下げて立っている、っていうのはどう?」
 オフィスのドアの少し右側、天井照明の真下の一際明るく照らし出された一画を指さされました。
「ほら、昔の子供向けマンガとかによくあるじゃない。学校でイタズラっ子が先生に叱られて、反省するまで廊下で立ってなさい!なんて。立たされ坊主」
 愉しそうに微笑むお姉さま。

「失敗したな。もう一個バケツ持って来るんだった。ああいうシーンはたいがい両手にバケツ持っているものよね?片手が手ぶらじゃサマにならないもの」
「給湯室戻って取ってくるのもめんどくさいし、まあいいや。そっちの手にはこれを持ってなさい」
 使用済みタオルを詰め込んだビニールのショッパーの持ち手を、左手に握らされました。

「森下直子さん、先生が戻るまで、そこでじっくり反省なさい!」
 お芝居っぽく言い捨ててオフィスのドアを開け、モップだけ持ってスタスタと中へ消えたお姉さま。
 ドアがバタンと閉じられました。

 しんと静まり返ったフロアに、ひとりぼっちで取り残されました。
 これはつまり、放置プレイ?
 壁を背にして右手には重いバケツ、左手には軽いショッパーをぶら下げ、休め、の足幅で立ち尽くします。

 うつむくと自分の尖った乳首と、剥き出しの股間へと消えていく三本の細いチェーンが目に飛び込んできます。
 私、なんでこんなところで、裸になっているのだろう?
 ここに来てから何度も思った被虐感溢れるそんな疑問が心をマゾ色一色に染め上げ、胸を締めつけるような恥辱感に全身が昂ぶります。

 先ほどお姉さまは、今このフロアにはあたしたちしかいない、って断言されていたけれど、それでもやっぱりここは、有名なオフィスビルのパブリックなスペースなのです。
 誰でも、ではないでしょうが、少なくともこの階のフロアにオフィスを構えている他の会社の方々やビル管理の警備員のかたなら、自由に出入り出来るはずです。
 それに、お姉さまの会社のスタッフのみなさまだって、急なご用事でいらっしゃるかもしれません。
 もし、万が一、私がこんな姿で立たされているのを、お姉さま以外のかたに目撃されてしまったら・・・
 私のこれからの人生は、どうなってしまうのでしょう。

 イジワルなお姉さまは、なかなか戻ってきてくれません。
 オフィスに入られて、もう4、5分経っているはずです。
 カメラを取ってくるだけのことに、こんなに時間がかかるワケありません。
 絶対ワザとです。

 心細さが募り、頭の中で勝手に始まった妄想の中では、エレベーターホールのほうからカツカツとヒールの音が近づいていました。
 誰か来る!誰かが来ちゃう!
 私のこんな、恥ずかしい性癖丸出しの姿を見られちゃう!
 その人がお姉さま以上にイジワルだったら、私はこの姿を写真に撮られ、それをネタに一生脅されて言いなりにならなければいけないんだ・・・

 近づいて来る人を、さっきのトイレでの妄想でご登場いただいたおばさまにするか、来てすぐに写真を見せていただいたお姉さまのお仲間の美貌デザイナー、早乙女部長さまにするか決めかねていたら、オフィスのドアがバタンと開きました。

「お待たせ。って、直子、また妄想に耽ってたわね?見事なマゾ顔になってる」
 右手に持った小さなデジタルカメラで私を正面から、パシャッとシャッターを切るお姉さま。

「今度はどんな妄想をしていたの?」
 お姉さまが角度を変えて何度もシャッターを切りながら、尋ねてきます。
「あの、えっと、エレベータホールのほうから足音が近づいて来る、ていう」
 立たされ坊主の姿勢のまま、顔だけお姉さまに向けてお答えします。
「へー。また例の薬局のお水おばさん?」
「あ、はい・・・」
 まだ配役は決めかねていましたが、早乙女部長さまのことを言うとややこしくなりそうなので、そうお答えしました。

「それで、その後直子はどうなっちゃうの?」
 ひっきりなしにシャッターを切りながらのお姉さまのお尋ね。
「えと、まだそこまで進んではいなかったのですが、たぶん、写真を撮られて、それを元に脅されて・・・」
「なるほど。そのおばさんの慰み者になっちゃうわけね?」

「いいわ。わかった。だったらあたしが、そのおばさんの役、やってあげる。バケツ下ろしていいわよ。ショッパーもね」
「あ、はい」
 膝だけ曲げてバケツとショッパーを床に下ろし、空いた両手は自然と後頭部へ。
「いい心がけ。マゾ女の鏡ね」
 おっしゃりながらお姉さまは、ショッパーの中をガサゴソされています。

「ここに来て四つん這いになりなさい」
 ショッパーの物色を終えたお姉さまが、ご自分の足元を指さしておっしゃいました。
「は、はい・・・」
 おずおずとお姉さまに近づき、両膝を床に落としてから両手も床に着き、お姉さまを見上げました。
「ううん。膝は着いちゃだめ。両手両足の四つん這い。お尻を高く突き上げて、両脚は開き気味に、お尻の穴まで丸出しになるようにね」
「は、はい・・・」

 両膝を浮かせ、足の裏を床に着くと腰の位置が上がり、自然とお尻を上に突き出すような格好になりました。
 徒競走のクラウチングスタート二段階目みたいな格好。
 乳首のチャームが床に垂直に垂れ下がり、重力で乳首を下へと引っ張ってきます。
「おーけー。お尻をこっちに向けて。いくわよ?」
 方向転換をすると、目の前には誰もいない廊下が広がり、突き出したお尻はお姉さまの眼下です。

「ほら、取ってきなさい!」
 ご命令と同時に、背後から何か黒いものが私の頭上をヒラヒラと超え、数メートル先にパサッと落ちました。
「直子の大好きな、お姉さまの汚れたパンツよ。はら、早く取ってきなさい」
 突き上げたお尻の右側の尻たぶをピシャリと叩かれました。
「はぅっ。はいぃっ」

 冷たいリノリュームを腰高の四つん這いでペタペタ進み始めます。
 まるで床を雑巾がけしているような格好です。
 乳首のチャームがブラブラ大げさに揺れています。
「うわー。凄い眺め。肛門も具も丸見えよ。おまけにおツユまでポタポタ滴らせちゃって」
 背後でカメラを構えているのであろうお姉さまのからかい声が、私の昂ぶりを煽ります。
 シャッターを切るカシャカシャと言う音が、喩えようの無い屈辱感となってマゾの炎に油を注いできます。

 目標にたどりつきました。
 目の前に転がっているのは紛れも無く、先ほどお姉さまがおトイレでお脱ぎ捨てになった黒いショーツでした。
 両サイドを軽く縛って丸めてあり、私の目前に、一目で湿っているとわかるクロッチ部分が表になって転がっていました。

「もちろん手なんて使ってはだめよ。口に咥えて持ってらっしゃい。ドエムな直子らしくサカったメス犬みたいにね」
 四つん這いのまま床に転がったショーツをじっと見つめている私に、お姉さまの嘲るようなお声が浴びせられました。
 躊躇無く丸めたショーツの真ん中を咥えました。
 じんわりと口腔に広がる、大好きなお姉さまのしょっぱ苦いようなジュースのお味。
 咥えたまま急いで方向転換すると、視線の先がカメラのレンズとぶつかりました。
「うん。いい表情だわ。さあ、さっさと戻ってらっしゃい」

 お姉さまに促され、来た道を戻ります。
 リノリュームの床には水滴が、ポツンポツンと元居た場所までつづいていました。
「こんな場所で、四つん這いの裸でパンツを咥えた女の子、なんて写真は滅多に撮れるもんじゃないわよね?」
 そんなことをおっしゃいながら、お姉さまが容赦なくシャッターのシャワーを浴びせてきました。

「はい、良く出来ました」
 お姉さまの傍らまで戻り、咥えてきたショーツを口からもぎ取られると、お姉さまが私の頭を撫ぜ撫ぜしてくださいました。
「いい写真が撮れたわ。確かにこんな恥ずかしすぎる写真撮られたら、もうその相手の慰み者になるしか生きていく道は無いわよね」
 愉快そうなお姉さまがショーツを再びショッパーに放り込み、まだ四つん這いの私を見下ろします。

「だけどあたしは優しいから、あなたにご褒美を上げるわ。呆れちゃうほどのヘンタイぶりを披露してくれた森下直子さんにね」
 お姉さまがニッと笑って、いったんお言葉を切りました。

「ここでオナニーしていいわよ」
「えっ!?」
「ここでイきなさい、って言ったの」
「えっと・・・いいのですか?」
「だって、直子の顔見たら、もう行き着くとこまで行かないと収まりつかない淫乱マゾ顔だもの。だったらいっそここでやってもらうのも面白いから」
 お姉さまがカメラを構えました。

「モップも雑巾もあるから、汚したって拭けばいいだけだし、この環境だと新鮮でしょ?」
「このビルが出来てどのくらい経つのかは知らないけれど、オフィスフロアの廊下で素っ裸でオナニーした女なんて、今までたぶんいないでしょうね」
「直子がその第一号になるの。ギネスものよ。そしてあたしはそれを記録に残す立会人」
 冗談とも本気ともつかないお姉さまのお声に、私は未だおっしゃる意味の真意がよく飲み込めていません。

「ただし、念のために声は極力抑えてよね。あ、そうじゃなくて、喘ぎ声は一切禁止。口を真一文字に結んで、歯を食いしばって、がまんしながらイキなさい」
「そういうときのほうが直子、いい顔するもの。試着室のとき、あたしそれですごく興奮したし」
「まあ、この状況なら、少し弄ればあっさりすぐにイっちゃうだろうから。さあ、始めて」
 カメラを構え直すお姉さま。
「ほら、早く!」

 お姉さまの促すお声に、さっきから自分のからだを弄りたくて仕方なかった右手が床を離れ、知らず知らず下半身に伸び始めます。
「四つん這いのままじゃだめよ!顔がよく見えないもの。こっち向いてしゃがんじゃいなさい」
 お姉さまからのダメ出しにビクンとして、右手が引っ込みました。

 あらためて、野球のキャッチャーさんみたいな姿勢にしゃがみました。
「いいわね。オマンコも適度に開いて何もかも丸見えで。その姿勢をキープして自分を慰めなさい。ただし声は絶対出さずに、ね」

 再び右手を股間に伸ばし、腫れ上がったクリトリスに指の腹を当てました。
「んふぅう」
 ぎゅっとつぐんだ唇から脱出できなかった熱い吐息が、仕方なく鼻のほうへと活路を見出したようです。
「くふうぅぅ」

 クリットに触れると同時に理性のたががはずれ、親指と人差し指でクリットをつまみながら残りの指は膣口へと、ジュブッと挿し込まれました。
 左手はおっぱいを揉みながら乳首を潰し、下半身へとつづくチェーンを引っ張ります。
 理性は失くしてもお姉さまからのお言いつけは絶対なので、悦びの声を一生懸命押し殺していると、そのぶん眉間のシワが深くなり、目尻に涙が浮かんできます。
「んふぅぅーっ!ん、ん、ん、ん、んーっ」

 ジュブジュブ音をたてる股間の真下の床に、ポタポタポタポタ、白濁したおツユの水溜りが広がっていきます。
「いい顔よ。そう、イキなさい、イッちゃいなさい」
 カシャカシャというシャッター音に混じって、お姉さまも押し殺したお声で、私の昂ぶりを応援してくださいます。
「んぐっ!んぅ、ぅぅぅ、んぬぅぅぅーーーっ!」
 ふんふん囀る鼻息がどんどん早くなってきます。
「んんんんんんーーーーっ、いぃぃぃぃっ!!!」

 床にペタンと裸のお尻を着いて、その周辺は粘液の水溜り。
 お姉さまの予言どおり、始めて数分で、あっさり強烈にイってしまいました。
 自分の意志とは関係なく、時折腰がヒクヒク痙攣しています。

「気がすんだ?」
「はぁ、はぁい・・・」
「よかった。声もずいぶんがまんして、偉かったわ。最後は、いいい、とか言っちゃってたけれど」
 笑いながら手を差し伸べてくださるお姉さま。
「さあ、いい写真もたくさん撮れたし、帰る支度をしましょう。そろそろ日付が変わりそうよ」
 お姉さまの手に縋って立ち上がり、よろよろとオフィスに入りました。

「さっき直子を廊下に放置していたときに、あらかた掃除しちゃったから、もうほとんどやることは無いの」
 社長室、すなわちお姉さまのお部屋に戻ると、私が汚した床もテーブルも、キレイに拭き取られていました。
「直子はバケツの水でその雑巾を濡らしてゆすいで、もう一度テーブルを拭いといてくれる?あたしはそのあいだに、廊下をモップで拭いてくる」
「あ、はい」

 お姉さまがお部屋を出ていき、私はお言いつけ通り、窓際のテーブルを丹念に拭き掃除しました。
 全身に纏っていたムラムラがさっきの廊下でのオナニーで一掃され、なんだか身軽になったようでした。
 ショッパーからおトイレで使ったタオルを引っ張り出してからだを拭いていると、お姉さまがお戻りになりました。

「とうとう日付が変わっちゃったわね。おはよう直子。今日は日曜日よ」
 お姉さまが苦笑いを浮かべ、ご自分のデスクらしき場所の、このお部屋で一番立派な椅子に、背もたれに背中を預けるようにドスンと腰掛けられました。

「もうここまで来ちゃったら、もう少しくらい遅くなっても同じよね。コンベンションは夕方からだから、昼頃までは眠れるし、新幹線で寝たっていいし」
 独り言みたいなお姉さまのつぶやき。
「だからここは、自分の欲求に素直になっていいと思うの。ねえ、直子もそう思わない?」
 急に尋ねられ、きょとんとする私。
「あの、えっと、そうですね・・・」

「そうよね?よし、決めた。直子、こっち来て」
 お姉さまが座ったまま手招き。
「は、はい」
 きょとんとしたままお姉さまの傍らに近づきました。

「あたしもだいぶ直子のスケベさに毒されちゃったみたい。自分のオフィスを初めてノーパンでうろうろして、直子の廊下オナニーを見て、また疼いちゃったみたいなのよ」
「ほんの数時間前に直子にスッキリさせてもらったばかりなのにね」
 自嘲気味な笑顔の後、お姉さまの瞳がトロンと蕩けました。
 
 お姉さまの両手が動いた、と思ったらタイトスカートの裾に指がかかり、そのまま自らその裾をたくし上げました。
 今はノーパンのお姉さまですから、白い下腹部とかっこよく揃えられたお姉さまのヘアが露になりました。

「舐めて、直子。今度は舐めてあたしを気持ち良くして」
 椅子の背もたれにそっくり返るように身を沈めるお姉さま。
 そのぶん下半身を前に突き出すような格好になり、緩く開いた両腿のあいだが濡れて光っているのまでわかりました。

「はい。お姉さま、よろこんで!」
 お姉さまの太腿のあいだにひざまずき、喜び勇んで顔を股間に埋めます。
 お姉さまの香り、お姉さまのお味、お姉さまのぬめり。

 ピチャピチャピチャ
「あん、そう、そこよ・・・」
 ピチャピチャピチャ
「そう、もっともっと、奥までぇ・・・」
 ピチャピチャピチャ
「そこそこそこ、もっと、もっとぉぉ・・・」
 ピチャピチャピチャ
「いいっ、いいっ、いいいーーっ!」
「あーーーーーーーーっ!!!」

 先ほどよりもたくさん濡れていたお姉さまは、私の廊下オナニーと同じように、ほんの数分で全身を震わせながら歓喜のお歌を高らかに謳いあげられました。

 しばらく背もたれに身を任せ、ぐったり横たわっていたお姉さまが、やがてむっくり起き上がりました。
「ああ気持ち良かった。直子って本当に上手よね、指も舌も。シーナさんが手放したくない気持ちもわかる気がするわ」
 スカートの裾を直して、立ち上がりました。
「これでスッキリ。帰ったらグッスリ眠れそうよ。ありがとね、直子」

「さあ、掃除用具を戻して、とっとと帰りましょう!」
 デスクに置いてあったバーキンを手に取り、ロッカーからスーツジャケットを取り出すお姉さま。
「直子は悪いけれどバケツとショッパー持ってね。お洗濯もお願いね。私物はある?忘れ物しないようにね」
 テキパキとご指示くださり、モップを手に取り、スタスタとお部屋を後にするお姉さま。

 えっと、着てきたショートジャケットとハンドバッグは応接のお部屋に置いたきりだったっけ?・・・
 そこまで考えたとき、もっと根本的な問題が残っていることに気がつきました。

「ちょ、ちょっと待ってくださいお姉さま!」
 あわててお部屋を飛び出し、のんきにカーテンや戸締りの確認をされていたお姉さまに詰め寄りました。
「あら、どしたの?はい、これが直子の上着とバッグね。これでもう忘れ物はない?」
 明らかに気がついているクセに、確信的にとぼけていらっしゃるお姉さま。
 目と唇が愉しそうに笑っています。

「わ、私に、こんな姿のまま何も着ないで帰れ、という、ご、ご命令なのですか?」
 自分で言った被虐的な科白に、性懲りも無くズキンと疼いてしまう自分のからだがうらめしい。
「そうねえ。直子が着てきたニットワンピはもうこのバッグにしまっちゃったし。そうなるかしらねえ」
 あくまでもイジワルなお姉さま。

「そのジャケットがあるじゃない。それを羽織れば、おっぱいだけは隠せるのじゃなくて?」
 確かにその通り。
 丈がウエストにも届かないこんなジャケットでは、おっぱいだけしか隠せません。
 下半身丸出しです。

「それにここからは、まずオフィスを出て、エレベーターに乗るでしょう?エレベーターは地下の駐車場まで直通だし、駐車場まで行っちゃえばあたしの車に乗るだけ。車に乗っちゃえば下半身は外から見えないわ」
「車に乗るまでに誰かに会う可能性は無いわよね?問題になるのは、エレベーターホールとエレベーターと、たぶん駐車場にもある監視カメラ」
「でも直子って、目立つヘアが無いツルツルパイパンだし、肌も白くてハリもあるから、ジャケット羽織っていれば下半身はベージュのレギンスとかスパッツ穿いているようにも見えなくはないんじゃないかしら。遠目なら」

「あと考えられる危険は、エレベーターに他の階から誰か乗って来ちゃったとき。そうなったら完全にアウトだわねえ。それと、直子が車を降りて、自分の部屋に入るまで。こっちはあたしの知ったことではないけれど、マンション入り口までは責任持って送ってあげるつもりよ」
「けっこうリスク低いと思わない?どう?やってみたくなってきたでしょう?露出狂ヘンタイマゾの森下直子さん?」
 私をからかうのが愉しくて仕方ないご様子のお姉さまは、饒舌です。

 私は、そんなお姉さまを半泣きのジト目でじっと見つめていました。
 どうかお許しください、という気持ちと、お姉さまと一緒なら、そんな大冒険も案外すんなり果たせそうという好奇心が小さく鬩ぎ合っていました。
 だけどやっぱり、ここから自分の家まで、ずっと下半身丸出しで帰る、という行為は無謀過ぎる、という臆病風が気持ちの大半を占めていました。

「そんな辛そうな目で見られると、直子の場合、ますます虐めたくなっちゃうけれど、あたしも無駄にそんな社会的にリスキー過ぎることを命令するほどバカな経営者じゃないわ」
「直子はうちの大切な社員だし、あたしのかわいいスールでもあるのだもの」
 お姉さまが私の顔を覗き込んで、ニコッと笑ってくださいました。
 あ、いえ、ニヤッだったかもしれません。

「さっきそのロッカーでいいものみつけたのよ。去年の秋もののサンプルなのだけれど」
「直子はこれを着て帰りなさい。もちろんチェーンは着けたままで」
 お姉さまが壁際のロッカーから何か取り出しました。
 

面接ごっこは窓際で 10


2015年4月5日

面接ごっこは窓際で 08

 お姉さまのおみあしを丁寧にお拭きした後、同じタオルで自分のからだを拭き始めました。
 テグスで絞られている敏感乳首がタオル地のザラッとした感触に擦れて性懲りも無く、いっそう硬く大きく、尖ってしまいます。

「拭き終わったらタオルちょうだい。持って帰って洗濯しておくから」
 お姉さまが窓辺のロールカーテンを降ろしながらおっしゃいました。
「あ、はい」
「もう11時過ぎていたのね。すっかり長居しちゃった。さくっと後片付けして帰りましょう」
 床やテーブルの上に視線を走らせるお姉さま。
 そこかしこに私のはしたない水溜りが残っていました。

「掃除用具を取ってこなくちゃ。ついてきて」
 お返ししたタオルを手にツカツカとお部屋の出口へ向かうお姉さまを、あわてて追いました。
 
 ドアを開けると、デスクやOA機器が整然と並ぶ明るく健全なオフィス。
 その日常的な光景を目にした途端、そんな場所で裸になっている自分の非常識さに、今更ながら立ち眩みしそうなほどの羞恥が襲い掛かってきました。

「あの、お姉さ、あ、いえ、チーフ・・・私、本当にこのまま、廊下に出なくてはいけないのですか?」
 水道やおトイレといった水周りは、オフィス外にある、というお話でした。
「最初に言ったじゃない?いくら汚してもいい代わりに、あなたが裸で用具を取ってくるのよ、って」
「はい。それはそうなのですけれど・・・でも、だいじょうぶ・・・なのですか?」

「種明かししちゃうと、ここのフロアって、うち以外どこも暇そうなの。平日でも人をあまり見かけないくらい」
「夕方の六時過ぎにはどこも電気が消えているし、土日祝日に誰か来ているの、見たことない。まるでお役所仕事」
「それでちゃんとお給料貰えるなら、羨ましい限りよね」
「だから100パーセント、今このフロアにはあたしたちしかいないって断言できるわ」
 お姉さまがなんだかフクザツそうに笑って、つづけました。

「まあ、リスクが無い分、スリルも無いけれどね。でも、このビルのフロアを真っ裸で歩くなんて、そうそう経験出来るものではないでしょう?」
「嬉しいのではなくて?露出狂ヘンタイマゾの森下直子さんにとっては」

 確かに今の種明かしを聞いて、やってみたい気持ちがグングン膨らんでいました。
 だけど、これだけお膳立てを整えていただいてもまだ一抹の不安を感じて、尻込みしてしまうのが私の臆病者たる所以です。

「でも、ひょっとしたら監視カメラとか、えっと防犯カメラかな、そんなようなのが廊下に設置されていたり・・・」
 オフィスの壁際に置かれたクロゼットみたいのを開けてゴソゴソやっていたお姉さまの動きが、ピタッと止まりました。

「それは一理あるわね。ここのセキュリティ、凄いから。一階に警備センターがあるのよ。監視モニターがずらっと並んだ」
 お姉さまが振り返りました。
「あそこに乳首からチェーンを垂らしただけの全裸の女が映ったりしたら、大騒ぎになりそうね」
 お姉さまったら、すっごく愉しそうなお顔。

「だけどやっぱり、めんどくさいことになったら困るから、一応何か一枚羽織って行くのが無難かな。何かあったかしら?」
 クロゼットに向き直ったお姉さまが、少しのあいだ中を物色されてから、扉を閉じました。

「ここには普通ぽい服しか入っていないわ。そんなのわざわざ着るのもつまんないし」
「それでしたら、あの、さっきまで着ていたニットワンピを・・・」
「あれはだめよ。持って帰って、直子専用にギリギリまで裾上げして、超ヘンタイエロワンピに魔改造するのだもの。もうあたしのバッグの中にしまっちゃったわ」
「えっ!?」
 そうなると私は、一体どんな姿でお家まで帰ることになるのでしょう・・・

「あ、なんだ。これでいいじゃない。とりあえずこれ巻いておきなさい」
 お姉さまが差し出してきたのは、さっきからだを拭いたキャラクター柄のバスタオルでした。
「これ、ですか?」
「そう。直子のいやらしいおツユがいっぱいしみ込んだバスタオル。あ。あたしのもついてるか」

 手渡された、全体にじっとり湿ったバスタオルを広げ、両腋の下から巻き付けました。
「お風呂上りみたいで、何かヘンじゃないですか?」
「ううん。ばっちりよ。監視カメラなんて、たいして画質良くないはずだし、きっとベアトップのワンピでも着ているみたいに見えるはずよ」
「夏場なら、うちにはもっとキワドいファッションでキメたモデルの子とか来ているからね。今までそれでビル管理側から何か言われたこともないわけだし」
「さ、行きましょう」
 数枚の新しいタオルをビニールの大きなショッパーに詰めて肩に提げたお姉さまが、私の右手を取りました。

 フロアの廊下にも煌々と電気が点いていました。
「ここって24時間、出入り出来るのですか?」
「それはそうよ、会社だもの。仕事したいときにオフィスに入れなかったら仕事にならないじゃない」
「電気代が大変ですね?」
「ああ、そういう意味ね。このフロア内にどこのオフィスの社員が残っているのか、ということは、さっきエレベーターでかざしたカードで警備センターに把握されているの。オフィスに入るときもかざしたでしょ」
「だから、その社員が帰ってオフィスが施錠されない限りは、周辺の通路にも電気が点いているっていうわけ」

 オフィスの出入り口からおトイレらしき一画までは、すぐでした。
 20歩も歩かないくらい。
 お風呂上りみたいなバスタオル一枚の裸足で、近代的なビルの明るく照らされたリノリュームをぺたぺた歩いていると、自分が何かとんでもない事件、たとえば誘拐とか人質とか、に巻き込まれて、犯人に無理矢理着衣を奪われ、従わされているような妄想が浮かび、ゾクゾクと興奮してしまいました。

「まずトイレ入って、もう一度かからだを拭いたほうがいいわね。タオル濡らして」
 お姉さまが女子トイレのドアを押しました。

「はい。このタオル濡らして拭いて。ブラシもあるから髪の毛もちゃんと直しなさい」
 ショッピングモールにあるのと同じくらい、いえ、それ以上に清潔でゴージャスな広いおトイレに唖然としている私を、洗面台と言うよりパウダールームと呼ぶべき大きな鏡の前に立たせたお姉さまは、当然のようにスルッと、私のバスタオルを剥ぎ取りました。
「ああん、いやんっ」

 大きなチャームをぶら下げて恥ずかしく尖りきった私の乳首を、曇りひとつ無いピカピカな鏡面が生々しく映し出しました。
「ここには絶対、監視カメラなんてあるはずないからね。もしあったら、それは別の意味で大問題だわ」
 ニヤニヤ笑いのお姉さまが、鏡の中の私をじっと見つめてきます。
「直子の裸って、本当にエロいわよね。またいたずらしたくなっちゃうけれど、そうやってると、いつまでたっても帰れないから、残念だけれど早く終わらせちゃいましょう。からだ拭いちゃって」

 鏡に映った全裸にチェーンだけ垂らした私と、ブラウスにタイトスカート姿のお姉さま。
 水道からお水を流してタオルを濡らし、おのおの顔やからだを拭き始めました

「そっちの乾いたタオルも使っていいからね。使い終わったらそのショッパーに入れといて。持って帰って洗濯してくるから」
「あ、そんなの私がやります。私が持って帰りますから」
「そう?なら頼んじゃおうかな。直子の家のほうがここから近いしね」
 お顔を洗い、髪を直し、おみあしも拭き終わったお姉さまがそうおっしゃって、それから少し思案顔。

「ああ、やっぱりもう我慢出来ない!」
 お姉さまがイヤイヤするみたいにお顔を振りながら突然おっしゃいました。
「えっ?どうされたのですか?」
 ひょっとして、私へのいたずらが我慢出来なくなったのかも、なんてえっちな期待を込めてお尋ねしました。

「さっきからずっとモヤモヤしていたのよ。ほら、あたしのパンツ、濡れたままじゃない?」
 お姉さまが眉をしかめて、本当にイヤそうなご様子でおっしゃいました。
「歩くと内股にまとわりついちゃって、本当に気持ち悪いの。おまけに直子にクロッチの脇から手を入れられたおかげで伸びちゃってるみたいだし」
「いっそ脱いじゃったほうがスッキリしそう。ノーパンになっちゃうけれど、真っ裸の直子よりはマシよね」
 おっしゃるなり、タイトスカートの裾を少しズリ上げ、両手でスルスルッと黒いショーツを下ろされました。

「うわー、ベットベトのよれよれ。これもみんな直子のせいなんだからね」
 サイド部分を右手の指先でつままれ、私の目前にぶら下げられた黒くて小さな布片。
「もう捨てちゃうしかないかな?気に入ってたんだけどなあ」
 お姉さまが薄く笑いながら私の顔の前で、その黒い布片をぶらぶら揺らしました。

「だめです!もったいないです。私がお洗濯してきます」
 ねこさんが目の前でねこじゃらしを振られたみたいに、反射的に手が出て、その布片を掴んでいました。
 クロッチのところをもろに掴んだので、手のひらがべっとり濡れました。

「うふふ。そんなこと言って、家に帰ったらあたしのパンツをおかずにしてまたオナニーする気でしょう?」
 お姉さまのショーツをそそくさとショッパーに仕舞い込む私の背中に、お姉さまのからかうようなお声が突き刺さりました。
 私はみるみる全身がカァーッ。

「ほんと直子って面白い。いいわ。お洗濯、頼んだわよ。ビデで洗ってくる」
 お姉さまが個室に向かいます。
「あ、それなら私も」
「あら直子、オシッコ?」
「はい」
「だったら、し終わったらラビアクリップも着け直しなさい。やっぱり3本繋がっていたほうがエレガントだもの」
「・・・はい」

 お姉さまとお隣同士の個室に篭り、まずはオシッコ。
 垂れ下がっているチェーンにかからないように手で持っていると、強く引っぱりたい衝動に駆られますが、じっと我慢。
 終わったらビデで洗浄、温風で乾燥。
 テグスに絞られたクリットをも温風が激しく撫ぜて、いつまででも浴びていたいほど。

 それから、便座に腰掛けたまま両脚をより大きく広げました。
 お姉さまからのお言いつけを守らなければなりません。

 股間を覗き込むと、表面はすっかり乾いたスジが楕円形にパックリ割れていました。
 中は相変わらずヌルヌル潤って、爆ぜた石榴みたい。
 最初にお姉さまが着けてくださった箇所と同じビラビラを指でつまみ、イヤーカフのような形状のラビアクリップに噛ませました。
「はうっ!」
 忘れかけていた疼痛がよみがえり、思わず声が出てしまいました。

「こら直子!中でヘンなことしているんじゃないでしょうね?」
 一足早く個室からお出になっていたお姉さまのお声が、私の個室のドア越しに聞こえてきました。
「あ、いえ、今、ラビアクリップを・・・」
「ああ。そうだったの。あたし、給湯室行ってバケツとモップ取ってくるから、戻るまで待ってて。クリップ着けたら余計なことしてないで、早く出てくるのよ」
「はーい」
 足音が遠ざかり、やがてバタンという音が聞こえました。

 ラビアクリップを左右着け終えると、体温が数度、上がった気がしました。
 ムラムラが懲りもせず盛大に込み上げてきました。
 大開脚したまま温風を当ててみます。
「はうんっ!」
 勢いのある温風がラビアに噛み付いたクリップとチェーンを揺らし、剥き出しの粘膜の奥まで風に煽られます。
「んんーっ」
 風がやんだとき、開いた粘膜から一滴、粘性の雫が糸を引いて便器の水溜りに落下し、水面にピチョンと波紋を広げました。

 個室から出ても、お姉さまはまだ戻られていませんでした。
 鏡の前で手を洗い、自分のからだを映してみます。
 鏡から2メートルくらい離れると下半身まで映りました。

 両乳首にチャーム、アソコのスジの中へ消えていく3本のチェーン。
 身に着けているものはそれだけ。
 昨日まで来たことも無かったオフィスビルのトイレに、ひとりぼっちで全裸の私。

 このままお姉さまが戻って来られなかったらどうしよう・・・
 そんな不安がふと頭をよぎります。
 放置プレイ・・・
 鏡の中の自分をじっと見つめていたら、無意識のうちに両手が動き、頭の後ろに組んでいました。

「あら、また鏡に見惚れていたの?森下ナルシス直子さん」
 このままここに放置されて出るに出られず、夜が明けてたまたま出社した他の会社のお局OLさまに発見され、根掘り葉掘りねちっこく言葉責めされる妄想は、お姉さまのその呼びかけで途切れました。

「あ、いえ、そんなんじゃ・・・」
 ポーズは崩さずにお姉さまのほうへ向きました。
 お姉さまは、片手に青いバケツ、もう片方にモップを持っていらっしゃいました。

「うわ。直子、あなた、また発情しちゃってるでしょ?顔に大きくマゾって書いてある。さてはまた、何かいやらしいことしていたわね?」
「あの、いえ、ちょっと妄想が・・・」
「へー。どんな?」

「あの、私がここに放置されて、知らない女性にみつけられて虐められるっていう・・・」
「呆れた。直子、そういうふうにして欲しいの?お望みならばしてあげるよ?」
「いえ、あくまでも妄想ですから。現実になったら怖過ぎます・・・」
「それで、その妄想のお相手は誰だったの?あたしの知っている人?」
「いいえ。ご中年のおばさまで・・・」

 そのとき思い浮かべたのは、大学一年の秋、初めて裸コートをした勢いで調子に乗り、お浣腸のお薬を対面で買う、という課題を自分に課して訪れた薬局のお優しげなおばさまとやりとりしているとき、お客様として来られた水商売らしきおばさまでした。
 そのおばさまは、なんて言うか、何でも見透かしているふうで、そのときも、私が裸コートなことにたぶん気づかれてしまった、と思わされたのでした。
 その印象が強烈だったので、それ以降も、被虐的な妄想に耽るときの一番非情な女性、言わばラスボスとして、頻繁にご登場いただいていました。

「ふうん。裸コートの話は聞いていたけれど、その薬局での話は初耳だわ」
「そうだと思います。今まで誰にもお話したことないですから。シーナさまにも」
「そうなんだ?百合草女史にも?」
 私の白状を聞いて、シーナさまにもお教えしなかったお話と知って、お姉さまが俄然、興味を持たれたようでした。

「・・・はい」
「なんで?」
「あの、えっと、何て言うか、シーナさまにお話したら、すぐにもう一度その薬局さんに連れて行かれると思ったので・・・」
「あの人ならそうするでしょうね。だから言わなかったんだ?それなら今度、あたしと行こうか?」
「あ、えっと・・・」
「うふふ。冗談よ。直子って、そんな感じでまだまだ自分の胸だけにしまっている秘密がありそうね」
 お姉さま、なんだか愉しそう。

「それに、今の話を聞いて直子ってやっぱり、心の奥底でもっともっと絶望的な、破滅的な状況を欲しているみたいにも感じたわ。取り返しのつかない事態に陥りたい、滅茶苦茶になってみたい、みたいな」
 私の目をじーっと覗き込んでくるお姉さま。

「あの、えっと、それは・・・」
「まあ、とりあえずあたしは、直子が百合草女史やシーナさんからされたことの記憶を、あたしの手でひとつひとつ丹念に上書きすることが当面の目標なの」
「縛られたり、鞭打たれたり、浣腸されたり、人前で裸になったり、そういうときに真っ先に思い出すのがあたしの顔になるように、直子を変えていくつもり」
「そうしているうちに、やがて直子が心の奥底で望んでいるような状況にもたどりつくはずだから、直子は安心して、ずっとあたしのそばにくっついていなさい」

 それって、いつかお姉さまが私を滅茶苦茶にするおつもり、ということなのでしょうか・・・
 お姉さまが淡く微笑みながら右腕を伸ばし、5点留めチェーンをクイッと引っぱりました。
「ああんっ、お姉さまぁぁ!」

「ま、それはそれとして、早く掃除しちゃいましょう。直子は重いけれどそれを持って」
 床に置かれた、お水をなみなみとたたえた青いバケツを指さしました。
 もう少しチェーンで虐められることを期待していた私は、渋々ショッパーを覗き込み、バスタオルを引っ張り出そうとしました。

「ううん。バスタオルはいらないわ。そのままオフィスに戻るの」
「えっ?でも・・・」
「さっき給湯室に行きがてら、監視カメラがあるかどうか、フロアをじっくり見てきたのよ」
 お姉さまがショッパーに突っ込んだ私の手を取って戻し、つづけました。

「結論から言うと、カメラがあるのはエレベーターホールと避難階段入口の二箇所だけ。ここからオフィスまで戻るだけなら映らないの」
「だから直子は、その破廉恥な格好でフロアを歩き回ってもぜんぜん大丈夫だったのよ」
 ニコッと微笑むお姉さま。
 右手でモップの柄を掴み、左手に使用済みタオル類の詰まったショッパーを持ちました。

「バケツ持ってね。さあ行きましょうか、露出狂ヘンタイマゾの森下直子さん?」
 お姉さまがおトイレのドアを勢い良く開けました。


面接ごっこは窓際で 09