2011年5月29日

しーちゃんのこと 06

私の背より50センチくらい高くて頑丈そうな本棚には、少女マンガ、少年マンガ混ぜこぜで、ずいぶん昔の名作から最新刊まで膨大な数のコミックス本が判型を合わせて整然と並んでいます。
棚が横にスライドする方式の本棚なので、裏にもまだ本が詰まっています。
軽く1000冊くらいはありそう。
「親が持っていたのも並べてあるからネー」
最初にお部屋を訪ねたとき、しーちゃんが言っていました。

有名作家さん以外の作品は、ジャンルによっておおまかに分けられているみたいで、ラブコメ、スポーツもの、ギャグマンガ、ファンタジーもの、グルメものなどなどでひとかたまりになっていました。
これまだ読んでないっ、あっ、これも・・・
心の中でタイトルにチェックを入れながら、上から下まで順番にじっくり見ていきました。
一番下の段は、週刊マンガ誌と同じ判型の本が並んでいて、その大部分が背表紙のついていない、パンフレットみたいな二つ折り中綴じの薄い本でした。

私たちが中二で、私がまだあのトラウマを受けてない頃、みんなでしーちゃんのお部屋で遊んでいたとき、このコーナーから何気なく一冊取り出した私は、ひどいショックを受けました。

すっごく人気のある男子向けサッカーマンガの主人公とそのライバルが、上半身裸で顔をくっつけあってキスしているカラーイラストが表紙に描かれていました。
「うわっ!」
私は思わず、大きな声をあげちゃいました。
「あーあっ。なおちゃん、みつけちゃったねー」
曽根っちがニコニコ笑って近づいてきます。
「そのへんはBLのどーじんぼんなんだよ」
「ビーエル?・・・ドージンボン?」
「同人本。アマチュアのマンガ好きな人たちが自主制作で、人気マンガの主人公や設定だけ借りて、自分の考えたストーリーで描いた本のことだヨ。それで、男の子同士でえっちなことをさせちゃうのがBL、ボーイズラブ、ネ」
しーちゃんも私の傍らに来て、教えてくれます。
「やおい、って前に話題になったじゃない?あの流れの二次創作本で、一年に何回か、そういうのばっかり集まった盛大な即売会があってね・・・」
しーちゃんと曽根っちで、いろいろ詳しく教えてくれました。

その解説を聞きながら中身をパラパラッとめくると、二人が真っ裸になって抱き合っていたり、ライバルの告白に主人公が頬を染めていたり・・・
正直、私は、なんだかキモチワルイ・・・って思っちゃいました。
「パロディみたいなもんだからネー。ワタシは純粋にギャグマンガとして楽しんでるヨー」
しーちゃんは、無邪気に笑いながら言っていました。

そんなことを思い出して、今の私はこの段のは見れないなー、なんて考えていたら、ベッドのしーちゃんから声がかかりました。
「そこにあったBL本は、全部お姉ちゃんの部屋に移しちゃったから、今そこにある同人誌は、非エロと百合系だけだヨ」
しーちゃんは、月刊マンガ誌を読み終えたらしく、ベッドから下りて私の横にペタンと座り込みました。
「お姉ちゃん、BLにどっぷりハまっちゃったみたいで、最近は自分でも何か書いているみたい。もうすっかりフジョシ」
「フジョシ?」
「腐った女子って書いて腐女子」
「えーっ?しーちゃんのお姉さん、キレイな人じゃない?それに生徒会副会長でしょ?」
「そういうのはカンケーないの。考え方が腐っているから腐女子。だって一日中、男同士のカップリング、考えてるんだヨ?どっちが受けでどっちが攻め、とか」
「お姉ちゃんがそうなっちゃったから、ワタシはじゃあ、女同士でいこうかなア、なんて。百合系のほうが絵柄的にもキレイでしょ?」
しーちゃんはそう言うと、その段から一冊の薄い本を抜き出しました。
これまた良い子に大人気な美少女戦士が二人、裸で抱き合っている表紙でした。
私は少し、ドキンとします。

「お姉ちゃんがネー、ワタシが高校進んだら、同人誌の即売会、連れて行ってくれるって。そんときは、なおちゃんも、一緒に行こう?」
「う、うん。ぜひ」
「実はネー、ワタシも最近、ちょこっとマンガ描き始めたんだ。まだまだ人に見せられるほどじゃないけど・・・」
「今は受験勉強でそれどころじゃないけど、終わったら本格的に描くんだ!ガラかめの二次ものとか、描きたいなア・・・コスプレもしてみたいし」
しーちゃんが夢見る目つきでつぶやきます。

しーちゃんから手渡された美少女戦士の本をパラパラとめくってみます。
絵はあんまりうまくない感じですが、女の子同士で胸をさわりあったりして、感じている顔になっていたりします。
「しーちゃんは、こういうマンガをみると、何て言うか、その、コーフンしたり、するの?」
その絵を見ていたら、ちょっと大胆な気持ちになってきたので、思い切って聞いてみることにしました。
「うーん・・・コーフンってほどじゃないけど、ちょこっとドキドキしたりはするかナ・・・でも・・・」

しーちゃんはうつむいて、言おうか言うまいか少し迷ってたみたいでしたが、やがて真っ赤になったお顔を上げて小さな声で言いました。
「でもワタシ、まだ・・・まだひとりエッチをちゃんとしたことないんだよネ・・・マンガでやってるみたいに自分のからださわってみても、くすぐったいだけだったり、痛かったり・・・ぜんぜん気持ちいい感じがしないって言うか・・・」
「たぶんきっとまだ、ワタシのからだはオトナじゃないんだヨ。もうちょっと成長しないとサ・・・」
「・・・ふーん」
私は、ドキドキしながらしーちゃんの告白を聞いていました。
「だから、そういうのはきっと高校生になったらいろいろわかるんじゃないかなー、って思ってるヨ」
しーちゃんが私を見つめて、恥ずかしそうにニッて笑いました。
「ワタシ、こんなこと教えたの、なおちゃんだけだヨ。曽根っちにも言えない。なおちゃん、何でもちゃんと聞いてくれる感じがして、すごーく安心できるから」
しーちゃんがいつもの感じに戻って、ニコニコ笑って照れ臭そうに私を見つめてくれます。

その告白はすっごく嬉しかったのですが、私の心は、その後の展開に先走りしていました。
しーちゃんから、なおちゃんはどうなの?ひとりエッチしてるの?って絶対聞かれると思って、心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしていました。
聞かれたら何て答えよう・・・少しだけ、でいいかな?どういうふうにするの?って聞かれたらどうしよう・・・こんなふうに、なんて教えてあげたりして、そのまま一気に今夜が二人の記念日になっちゃったりして・・・

でも、しーちゃんとのおしゃべりは、いつの間にか、今一番お気に入りのライトノベルのお話に移ってしまい、二度とえっち系な話題には戻ってきませんでした。

その後また少しゲームをやったり、おしゃべりをして夜が更け、二人とも眠くなってきました。
パジャマ代わりのロングTシャツに着替え、お夕食の後しーちゃんのお母さまが持ってきてくれたお布団を床に敷き、電気を消して横になりました。

「ねえ、なおちゃん、そっちだと寒くない?」
少ししてから、ベッドのしーちゃんが声をかけてきました。
「ううん。だいじょうぶ」
「暖房消すとけっこう寒いし、床も冷えちゃうし・・・なおちゃんもこっちで寝ヨ?って言うか、寝て・・・」
「う、うん。いいけど・・・」
私はまたドキドキしてきました。

お布団から出て、枕だけ持って、ベッドのしーちゃんの左横にからだをすべらせました。
「うふふ。ほらー、二人だとあったかいネー」
しーちゃんの体温でほんわか温まった毛布の中で二人、横向きに向き合いました。
しーちゃんのベッドは、二人だとちょっとだけ狭い感じ。
「今日はすごーく楽しかったヨー。ワタシなおちゃん、だーいすきっ!」
しーちゃんがそう言って、寝ている私のほうに両腕を伸ばし、私のからだを抱きしめてきました。
しーちゃんの頭が私の首の下あたりに埋まっています。
まるで小さな子がお母さんに抱きつくみたいな感じです。
「あらあら、しーちゃんは甘えん坊さんねー」
私も両腕でしーちゃんの背中を抱き寄せ、右手でしーちゃんの髪をやんわり撫ぜます。
「修学旅行のときお風呂で見たなおちゃんの裸、すごーくキレイだった・・・」
しーちゃんが私の胸に顔を埋めたまま、ボソボソっとつぶやきました。
「やんっ。恥ずかしい・・・」

しーちゃんは、下半身を丸めていて、毛布の中でしーちゃんの両膝が私の伸ばした太腿にあたっていました。
私の心臓がひっきりなしにドキドキしているのが、しーちゃんにも伝わっているはずです。
しーちゃんのからだは細くて、しなやかで、温かくて・・・
私は、この後どうするか、盛大に迷っていました。

そのうち、私の胸の谷間あたりに規則正しい寝息が、くすぐったく感じられるようになっていました。
どうやらしーちゃんは、私にしがみついたままあっさり、眠ってしまったようでした。

しーちゃんの生身のからだの感触にしばらくドキドキしていた私の鼓動が徐々に治まって、今は何て言うか、自分の中の母性のようなものを感じていました。
しーちゃんを守ってあげなくちゃいけない、みたいな。

焦る必要はないみたいです。
さっきのお話だと、しーちゃんは、まだ自分がえっちなことをするのは早すぎると思っているみたいだったし、高校に入ってから、いろいろしてみたいようだったし。
しーちゃんが私を好いていてくれることは、充分確認できたし。
新しいステップを踏み出すのは、高校に入ってから、が正解かな?
しーちゃんを抱く腕に力を込めて、そんなことを考えているうちに、私もいつしか眠りに落ちていました。

そんな夜を過ごしつつも、お勉強会の成果もあり、翌年の二月中旬、私としーちゃんは無事、第一志望の女子高校に合格することができました。


しーちゃんのこと 07

2011年5月22日

しーちゃんのこと 05

修学旅行の後、文化祭、体育祭とたてつづけにあり、文化祭では、私たちのクラスは演劇をやることになりました。
演目は、星の王子さま、で、曽根っちがキツネさんの役、あべちんが火山その2の役に選ばれました。
しーちゃんは背景美術、ユッコちゃんはタイムキーパー、私は衣装作りで、愛ちゃんが総監督。
みんな遅くまで学校に残って準備して、たくさん練習して。
文化祭最終日に体育館のステージで、たくさんのお客さんを前に曽根っちとあべちんが可憐な演技を見せてくれました。
体育祭では、愛ちゃんとユッコちゃんが徒競走やクラス対抗リレーで大活躍しました。

それも終わってしまうといよいよ、本格的な受験モードになってきました。
私も入試が終わるまで、バレエ教室をお休みすることにしました。
愛ちゃんグループでときどきやっているお泊り会も、お勉強会という名目に変わりました。
途中まではちゃんと真面目にお勉強していても結局、真夜中にはおしゃべり会になってしまうんですけどね。

グループのお勉強会とは別に、しーちゃん一人でもよく私の家にお勉強をしに来るようになりました。
「ほら、ワタシの部屋は勉強に適した環境じゃないんだよネー。遊ぶ物だらけだから、集中できなくって」
一週間に一、二回、放課後からとか、お夕食が終わった頃に訪ねてきました。
2、3時間集中してお勉強してからおしゃべり、っていうのがパターンでした。

数学や理科は私のほうが得意で、国語と社会はしーちゃん、英語は同じくらい。
お互いの不得意科目は相手に教えてもらって、すっごく楽しく有意義にお勉強できました。
お勉強の合間にしーちゃんの好きなアニメやゲームのことをお話したり、私がバレエのステップを教えたり。
私たちは、すっかり打ち解けていました。

母もしーちゃんのことがとても気に入ったみたいでした。
「しーちゃんて雰囲気がロココよねー。絶対、ゴスロリが似合うわよ。高校合格したらお祝いさせてね」
って、いつも言っていました。

しーちゃんは、私と二人だけのときは、よくしゃべるし表情も豊かで、みんなでいるときよりずっと明るいオーラを発していました。
私がそれについて聞くと、
「ワタシ、3人以上での会話って、苦手なんだよネー。ワタシがしゃべって相手が答えてくれる、相手が何か言ってワタシが答える、っていうくりかえしじゃないとちゃんと伝えられない、っていうか・・・。だから、みんなといるときは聞き役になってたほうが楽しい、みたいな・・・」
「同じこと、曽根っちにも言われてるヨ。曽根っちと二人のときも、ワタシけっこうしゃべってる」
「ふーん」
「なおちゃんも、そういうとこ、あるよネ?ワタシたち、似てるよネ?」
「うん。確かにそうかもしれない・・・」

曽根っちは、カレシとおつきあいを始めてから、私たちといる時間が少なくなりつつありました。
お泊り会も欠席しがち。
カレシにお勉強を教えてもらっているようです。
「しーちゃん、最近、曽根っちがあんまりかまってくれなくて、寂しくない?」
「うーん・・・正直言うとちょっと寂しいけど・・・でも、しょうがないヨ。曽根っちは、それがシアワセなんだもん。ワタシたちのつきあい長いし、曽根っちがシアワセになれるなら、ワタシ嬉しいし、それに・・・」
「それに、今はなおちゃんとこんなに仲良くなれたし、ネ?」
そう言って微笑むしーちゃんを、私はなりふりかまわずその場で抱きしめたくって、がまんするのが大変でした。

年末にかけて、たくさんの時間をしーちゃんと過ごしたことで、しーちゃんと私は、お互いの性格や好み、長所や短所など、たいがいのことは、わかりあえるようになっていました。
しーちゃんは、聡明で、素直で、恥ずかしがりやさんで、可愛らしくて、私はどんどん好きになりました。
ただ、えっちに関することについては、やっぱり言い出せないままでいました。
しーちゃんと親密になればなるほど、どんどん言いづらい感じになっていました。
穏やかな関係に余計な石を投げ入れて波をたてるのが、前以上に怖くなっていました。

その頃、私がお気に入りだった妄想オナニーのシチュエーションは、10月のある夜、確かしーちゃんがお泊りに来て楽しく過ごした次の日の夜、に、唐突に見た夢がヒントになっていました。

なぜだか、しーちゃんが悪い人にさらわれてしまいます。
私は、しーちゃんを助けるべく、悪い人のアジトに潜入します。
悪い人のアジトは、田舎によくある古くて大きいお屋敷みたいな日本家屋で、そのお庭のはずれの大きな土蔵の中にしーちゃんは閉じ込められていました。
なんでそんな建物なのか、と言うと、これは、その数日前にテレビで見た、田舎の旧家を舞台に、ちょっとえっちな場面もある推理サスペンスものの日本映画の影響だと思われます。
父の実家のお屋敷にも似てたかな?

しーちゃんは、薄暗い土蔵の中に下着姿、薄いブルーのスポーツブラとカワイイ青水玉のショーツ姿、で、お腹のところを縄で大きな柱にくくりつけられていました。
口には猿轡をされ、ガックリ首を落としてうなだれています。
「なんでこんなことをするのっ!?」
「それは、アナタをおびき寄せるためよ」
悪い人の声は、女性でした。
悪い人の顔は影に覆われて見えず、ワザと出しているような低い声だけが響きます。
「この子を助けたかったら、あたしの言う通りにすることね・・・」
悪い人の声に気がついたのか、しーちゃんがゆっくりと顔を上げて、私のほうを潤んだ瞳で見つめてきます。
「しーちゃんっ!」
「どうなの?あたしの言う通りにするの?」
「わ、わかりました。言う通りにします。その代わり早くしーちゃんの縄を解いてあげてください」
「聞きわけがよくて助かるわ」
悪い人は、柱の後ろ側にまわってお腹の縄をほどき、しーちゃんは膝から崩れてその場にペッタリ腰を落としました。
しーちゃんの両手は手錠で、両脚は足枷で、まだ繋がれたままです。
「この手錠と足枷は、アナタの今後の服従度次第ね。うふふ。それじゃあまず、服を全部脱ぎなさい・・・」

私は、なぜだか学校の制服を着て、そのアジトに乗り込んできていました。
震える手でブレザーのボタンをはずし、ブラウスのボタンをはずし、スカートのホックをはずし・・・
衣服を全部脱ぎ終えると、なぜだかその下にバレエの真っ白なレオタードを着ていました。
それもバストのカップと下のサポーター無しの、素肌にじかの状態で。

「あらー。やる気マンマンなのね?さあ、早くそれも脱ぎなさい」
何がやる気マンマンなのか、私にはわからないのですが、その言葉に私はカーッと恥ずかしくなって、みるみる乳首が勃ち、アソコが湿ってきてしまい、そのいやらしい証拠が薄い布地越しにクッキリと、バストの突起と股間のスジとなって浮き出てしまいます。
「ほら、早く言う通りにしないと、この子がもっとヒドイめにあうことになるわよ?」
私は、観念してレオタードの肩紐に手をかけて・・・

こんな感じで、この後私は、その悪い人にたっぷり苛められてしまいます。
四つん這いの恥ずかしい格好をさせられたり、洗濯バサミをたくさん挟まれたり、お尻をペンペン叩かれたり、裸のままお外に連れ出されたり・・・

そんな私の恥ずかしくてみじめな姿を、しーちゃんがじーっと見つめています。
お風呂場で私のからだを見つめてくれたときと同じ、食い入るような視線。
その肌に突き刺さるような視線が、ひどく気持ちいいんです。

その夢から目覚めたとき、私のショーツは、まるでオモラシしてしまったみたいにグッショリ濡れていました。
夢だけでこんなに濡れたりするのかな?
たぶん寝ている間に無意識に、いろいろからだをまさぐったのかな?
どちらにせよ、生まれて初めての経験でした。

このえっちな夢がすっかり気に入ってしまった私は、高校入学前後までムラムラ期が来るたびにいつも、責められかたの細部はいろいろ変えつつ、この夢を元にした妄想でオナニーしていました。
もちろん姿見の前で、声を殺して。

しーちゃんに直接手をふれたり、しーちゃんの手でふれられたり、ということは、いっさい考えませんでした。
しーちゃんを助けるために私が恥ずかしいことをしなければならない、っていう状況がひどく気に入っていたみたいです。

夢で見たとき、月の光が土蔵の高いところにある窓から一筋差し込んで、悪い人が相原さんだったとわかる、という場面があったので、妄想するときの悪い人役は、最初から相原さんになっていました。

この夢を細かく分析すれば、その頃の私のいろいろこんがらかってしまった深層心理、受験を控えたストレスとか、相原さんやしーちゃんに対する想いなどなど、がわかるような気もしたのですが、なんだか結論を出すのが怖い感じがするし、考え過ぎてますます迷路にハまってしまいそうな気もしたので、やめておきました。

冬休みに入って、年の瀬も押し迫ったある日、久しぶりにしーちゃんのお家に遊びに行くことになりました。
私たち二人、ずいぶん一生懸命お勉強してきたから、年末に一日くらい、楽しいものがたくさんあるしーちゃんのお部屋でマンガやゲームやアニメ三昧で過ごしてもバチは当たらないだろう、っていう、がんばった自分たちにご褒美お泊り会、でした。

お昼過ぎからしーちゃんのお部屋で、対戦テレビゲームやしーちゃんのおすすめアニメを見て楽しく過ごしました。
お夕食は、ご家族のほうのお部屋に招かれてご一緒しました。
しーちゃんのお父さまとお母さまも一緒で、お姉さんは、お出かけ中のため、いませんでした。
ご両親とも、今までみんなで遊びにきたときに何度もお顔を合わせていたのですが、こうして間近でご一緒してみると、しーちゃんのお父さまの温和そうなお顔は確かに、クイーンのベースの人に似ているかも、と思いました。
お母さまは、しーちゃんをそのままオトナの体つきにしたような可憐なかたで、相変わらずお綺麗でした。

すっごく美味しかったお夕食を終え、しーちゃんのお部屋に二人で戻りました。
「ふーっ。ちょっと食休みネ」
しーちゃんはそう言うと、ベッドに寝転んで、まだ読み終えていないらしい月刊少女マンガ誌を途中から読み始めました。
私は、みんなで来たときだとゆっくりと見れなかった、しーちゃんの膨大なコレクションがぎっしり詰まった本棚を、端からゆっくり眺め始めました。


しーちゃんのこと 06

2011年5月21日

しーちゃんのこと 04

今度は、脱衣所が私たちだけの貸し切り状態でした。
「いいお湯だった、ね?」
「うん」
裸のまま至近距離で、こそっと言葉を交わします。
私としーちゃんの顔がピンク色に火照っているのは、お湯にのぼせたせいだけではないはずです。

バスタオルで丁寧にからだを拭いて、時間をかけてゆっくり服を着ました。
さっさと服を着てしまうのが、なんとなくもったいない気がしたんです。
ショーツとブラを着け終えたとき、壁際に飲み物の自動販売機があるのに気がつきました。
「しーちゃん、何飲みたい?」
「えっ?}
しーちゃんも薄いブルーのスポーツブラとカワイイ青水玉のショーツ姿でした。

「あの自動販売機で牛乳売ってるの。ちゃんと瓶入りのやつみたいだよ。私、おごってあげる」
「えっ、ほんとに?いいの?・・・お風呂あがりは、やっぱり白牛乳だよネ?腰に左手あてて、上向いてゴクーッと飲んでプハァーッってするのっ!」
しーちゃんが愉快そうに笑ってから、
「それに・・・ワタシ、もっと大きくなりたいし・・・」
ちょっと声をひそめたと思ったら、私の顔をまじまじと見つめてクスッと笑い、しーちゃんにしては大きな声で、私を指さして言いました。
「でも、なおちゃんは白牛乳禁止ネ!コーヒー牛乳にしなさいっ。もうそれ以上大きくなったらダメですっ!」
しーちゃんのいたずらっ子なお顔に私が思わず吹き出すと、しーちゃんもプッと吹き出して、しばらく二人でクスクス笑いました。

「なおちゃんは、なんで女子高に行くことにしたの?」
お風呂からお部屋に戻る途中、二人で並んで歩いているときにしーちゃんが突然聞いてきました。
「なんで、って言われても・・・うーん、なんとなく・・・」
どういうふうに答えればいいのか・・・
しーちゃんなら、正直にいろいろお話しちゃってもわかってもらえそうな気もします。
それに、曽根っちのヒミツのことでもわかるように、みんなに言いふらしちゃうような人ではないし。

「なおちゃんは、共学に行くと思ってたヨ。昨夜、愛ちゃんも言ってたけど、なおちゃん、男子にもてそうだしネ」
「うーんと、そういうのは私、まだ苦手なの。男子とか、ちょっと怖い感じがして・・・」
「だから、まわりがみんな女子、っていうほうが気が楽かなー、なんて・・・」
言葉を選びながら、しーちゃんの反応をうかがいます。
「あ、なんとなくわかる。ワタシもそんな感じだヨ。男子がいないほうがラクそー」
しーちゃんは、ニコニコ笑ってうんうんうなずいてくれました。
「ワタシ、絶対なおちゃんと一緒の高校、行きたいっ!」
しーちゃんから手をつないできました。

お部屋に戻ると、勝負はすでに始まっていました。
「あー、お帰りー」
「けっこう長湯だっだねー」
「わたしら、曽根っちからいろいろ聞き出しといたから、トランプやりながら教えてあげようっ!」
あべちんが私たちのために席を空けてくれて、しーちゃんと隣り合って座り、大貧民ととりとめのないおしゃべりで修学旅行最後の夜も楽しく更けていきました。

修学旅行でしーちゃんと仲良しになれたのは、すっごく嬉しいことなのですが、同時に心の中にまた一つ、モヤモヤを抱え込んでしまいました。

修学旅行から戻ったその夜、私にムラムラ期が訪れました。
て言うか、学校で解散して、帰り道に一人になったときからずっと、しーちゃんとのお風呂での出来事ばかりを思い出していました。
あの出来事に私は、発情していました。

その夜、お風呂上りにお部屋の姿見の前で、早速オナニーを始めました。
思い浮かべるのは、しーちゃんからの指の感触、興味津シンシンなお顔、白い裸身、そして、私にさわられたときの困ったような表情・・・
自分の胸をまさぐっている私の両手は、しーちゃんの控えめな胸の感触をはっきり思い出していました。
しーちゃん、カワイイ・・・

その夜は、そのまま突っ走って、しーちゃんとの妄想だけでイってしまいました。
自分でも驚いたのは、私が普段している、痛くしたり、縛ったり、叩かれたりっていう妄想は全然必要なくて、しーちゃんと互いにやさしく愛撫しているのを思い浮かべるだけで、シアワセに気持ち良くイけたことでした。

終わった後、考え込んでしまいました。

私は、しーちゃんとそういうふうになりたいのでしょうか?
しーちゃんはカワイイし、性格もいいし、趣味もけっこう合うようだし、慕ってくれているし、大好きです。
だから、そういうふうになりたいと思うのも当然なこと?
いいえ、そう単純に割り切れない気持ちが、私にはありました。
一学期に経験した相原さんとのことが、私にブレーキをかけていました。

私は、相原さんとおつきあいするうちに、相原さんにどんどん惹かれていきました。
相原さんのお部屋で、二人でからだをさわりあってえっちなことをした後は、もうこれからずっと、いつでもどこでも相原さんと一緒にいたい、と思いました。
でも、相原さんにカレシが出来たことで、あっさり関係は終わってしまいました。
相原さんは、女性を恋愛対象としては見ていませんでした。

そして、日頃身近に接していた大好きな人との関係が終わっていく過程で感じる焦燥感と、終わったことを知った後の喪失感・・・
もうあんな思いは絶対したくないと思っていました。

しーちゃんは、女性同士の恋愛にも大いに興味を持っているように見えました。
二年生のときに冗談めかして、グループの5人の中だったら誰とつきあうか、って聞かれたしーちゃんが、なおちゃん、って答えてくれたのも憶えていました。
でも、そういうのは、あくまでもしーちゃんの空想、コミックやアニメで知って憧れている妄想の中でのお話かもしれません。
現実にしーちゃんが女性とそういう関係を持ってみたいと考えているのか、は、定かではありません。

さらに、しーちゃんがえっちなことについて、どのくらい興味があるのか、オナニーの経験はあるのか、誰かとそういう関係になるのを今現在望んでいるのか、についても、何一つ知りませんでした。

相原さんのときは、そもそもの出会いが、相原さんが私に自分の性的嗜好を披露するところから始まったので、その点はスムースでした。
相原さんと私の嗜好が合致して、短かい間に深い関係になれました。
ただ、相原さんにとって、女性とのそれは、単なる興味本位の遊びだったのだけれど・・・

相原さんとの出来事で、私は、普通のお友達以上の関係、何て言うか、裸で抱き合ってお互い楽しめるような、恋人になってくれる女性が欲しくてたまらなくなっていました。
自分でさわるのとは違う、誰かにさわられる気持ち良さ、が忘れられなくなっていました。
でも、それをしーちゃんに求めていいものなのでしょうか?

しーちゃんとは、おつきあいしてきた時間は長いのだけれど、今までそういうことはまったく話題にしてきませんでした。
だから今さら聞きにくい、ていうのもあります。
もしも私が本能のままにしーちゃんにえっちなアプローチをして、しーちゃんがそれに嫌悪を感じてしまったら・・・
拒絶されてしまったら・・・
その瞬間から、しーちゃんとだけでなく、グループの他のお友達たちとも気まずくなるのは目に見えていました。
それを考えると、やっぱり一歩踏み出すのは、躊躇してしまいます。

私が一番恐れていたのは、しーちゃんに対して私が勘違いなアプローチをして、中学三年間の愛ちゃんをはじめとする仲良しなお友達との思い出が全部崩れ去ってしまうことでした。
平穏な日常は、壊したくありません。
だったら日常のお友達には、そういうことを求めないほうがいいのかもしれません。

いろいろグダグダと考えても、結局答えはみつかりませんでした。
一つだけ確信したのは、私がしーちゃんに恋をし始めている、っていうことでした。
やよい先生や相原さんに感じたのとは、また何かが違う愛おしさ、その何かは自分でもわからないのですけれど、で、しーちゃんのことを想っていました。

しーちゃんのほうからアプローチしてくれないかなあ・・・
そんなムシのいい考えもしたりなんかして。

でも・・・

やっぱり今は、余計なことはしないほうがいいよね。
これからしーちゃんとたくさんいろいろお話すれば、しーちゃんのことももっともっとわかってくるだろうし。
それからだって、遅くはないもの。
とにかく今は、しーちゃんと同じ高校に進めるように精一杯仲良くがんばろう。

その夜にそう決めました。


しーちゃんのこと 05