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2017年2月26日

非日常の王国で 15

 気がつくとあたりはすっかり暗くなり、ショールームには煌々と蛍光灯が灯っていました。

「・・・すっかり長居してしまいました・・・」
 耳の中にフェードインしてくるようなお声が聞こえるほうへ目を向けると、倉島さまたちがテーブルの傍らに集まっていらっしゃるのがボーッと見えました。

 その視線を下げて自分の姿に目を移すと、まだあの椅子に拘束されたまま。
 後ろ手錠でM字開脚、ずいぶんと緩んでしまった菱縄縛りのままでした。
 頭の中がボーッとしていて、なんだか事態が飲み込めません。

「あ、マゾ子、気がついたみたい」
 お声にもう一度テーブルのほうを見ると、メグさまが私を指さしています。
「まったくねー。気持ち良さそうにイキまくるだけイキまくって、コトンと寝ちゃうのだもの、いい気なものよね」
 里美さまがイジワルっぽくおっしゃいました。

「そう言えばマゾ子に、鍵を落としてしまったことについてのお仕置きを、まだしていなかったわね」
 里美さまが私に近づいてきます。
「今日はたくさんお買上げいただいたから、最後に特別サービスしちゃう」
 嬉しそうなお顔で私の顔を覗き込んでくる里美さま。

「記念写真を撮りましょう。本当はショールームでのお客様の店内撮影は上から固く禁じられているのだけれど、あなたたちは特別よ」
「マゾ子も倉島さんたちに服従を誓ったんだものね?」
「えっ?」
 里美さまのお言葉に不穏な感覚を覚え、思わず聞き返しました。

「あら?忘れたとは言わせないわよ?さっき、もっともっとってイキまくりながら彼女たちに、セイドレイになります、何でもしますって喘ぎながら宣言したじゃない?」
「ヨーコさん、だっけ?のお部屋がここから徒歩10分くらいで、そこが耽美研の溜り場にもなっているから池袋でよく遊ぶ、っていう話から盛り上がって」
「マゾ子もウィークディは仕事でこのへんウロウロしているから偶然会っちゃうかもね、っていう話になって」

「もし街中でマゾ子をみつけたら、わたしに連絡さえくれれば、好きに拉致していいってことになったじゃない?ヨーコさんちや女子大に」
「マゾ子も、よろしくお願いしますぅ、って喘ぎながら嬉しそうだったわよ」

「そ、そうなんですか?」
 まったく覚えていませんでした。

「その代わりラブトイズ類は必ずうちのショップで買うってことで、うちと耽美研とのあいだで契約成立したのよ?今更反故には出来ないわ」
 
 里美さまがお店の中をあっち行ったりこっち行ったりしながら説明してくださいました。
 私もようやく頭が回り始め、ドキドキオロオロしてきました。

「でも今日のマゾ子は普段のOL姿とはぜんぜん違う髪型だから、みなさんには不公平かな、と思ったのよ。だから記念写真」
「写真を一枚渡しておけば、髪型違っていても幾分探しやすいでしょう?ただし、あなたたちが違う人に声かけて騒ぎになってもわたしは一切関知しないわよ?」
 お三かたにイタズラっぽく告げた里美さま。

「どなたかケータイ貸してくださる?カメラ機能の性能がいいやつがいいと思うわ」
 里美さまのお声にご相談されるお三かた。
 やがてメグさまが一台、おずおずと差し出してきました。

「あら、最新のスマホじゃない。さすがに今どきの女子大生はいいもの持っているのね」
 受け取った里美さまが使い方をメグさまにお聞きになっています。

 私、こんな姿で写真撮られちゃうんだ・・・
 それも、今日会ったばかりの歳下の女子大生さんのケータイで。
 この数時間で数え切れないほどイきまくったからだが、性懲りもなくまたムズムズしてきます。

「マゾ子にもアドバンテージあげる。すぐにみつかっちゃって、彼女たちがうちのショールームに遊びにこなくなったらつまらないしね」
 後ろ手に何かを隠した格好で、里美さまが近づいてきました。

「さっき声のことでヨーコさんが興味あるって言っていたご趣味を満たすグッズよ。口を開けなさい」
 里美さまのご命令で恐る恐る口を開けると、グイッと何かを押し込まれました。
 ところどころ穴の空いたピンポン玉のような赤い玉、ボールギャグでした。

「んぐっ!」
 両方のほっぺを通る細いベルトの金具を頭の後ろに留められて、みるみる口の中に唾液が湧いてきました。

「それと、これね」
 背後に立つ里美さまの手からぶら下がった2つの鈎状の金具に、私の鼻の穴がひとつづつ釣り上げられる感覚があり、そのままグイッと引き上げられました。
そのままベルトがおでこを通り、これも頭の後ろで固定されてしまいます。

「むぐっ!んぶぁーっ」
 ボールギャグを埋め込まれた口では、言葉にならない呻き声にしかなりません。

「ノーズフックは初めて?みっともない豚っ鼻になっちゃった。でも仕方ないわよね、これはお仕置きでもあるのだから」
 里美さまが私の目の前に、わざわざ手鏡をかざしてくださいました。

 鼻先が押し上げられ、ふたつの鼻の穴が正面を向いて豚さんそっくり。
 赤い玉を咥えて半開きの唇をよだれで濡らしたツインテール。
 屈辱と恥辱にまみれた女の顔が、そこにはありました。

「えーっ!?これじゃあかえって素顔がわからなくなっちゃったじゃないですかぁー」
 ヨーコさまがカン高いお声で抗議のお声をあげました。
 だけどお顔はニコニコでとても愉しそう。
 肘で里美さまの腕をつつくように里美さまに擦り寄っています。

「でも、マゾ子の顔をこうしてみたかったんでしょう?大丈夫よ。街で似た子みつけたら、ちょっと鼻の頭上げてもらっていいですか?って声をかけて、写真と見比べればいいじゃない」
 笑いながらご冗談で返す里美さま。
 お三かたと里美さま、今日一日でずいぶん仲良しさんになられたみたい。

「それで仕上げはこれね。やっぱりセイドレイ女の記念写真なんだから、大事なところをちゃんと中までお見せしなくちゃね」
 里美さまがケースから取り出した瞬間にヨーコさまがお声をあげられました。
「あっ、クスコ!」

「そう。正確にはクスコ式膣鏡。さっき言ったネットショップ次回アップデートの、オトナのお医者さんごっこ、特集のメインアイテムになる予定よ」
「膣鏡は英語でスペキュラムっていうのだけれど、クスコ式だけじゃなく、今回世界中からいろんな種類のスペキュラムを集めたの。スペキュラム大特集、ぜひ見てね」
 おっしゃりながら指で私のマゾマンコを無造作に押し開く里美さま。

「んぐぅ」
「ほら、挿れるから力抜きなさい」
 ステンレスらしき冷たい感触がラビアを擦ります。
 やがて左右の膣壁がステンレスに押され、じりじりと穴が広がっていくのがわかりました。

「んーーっ、んぶぁ-」
 いやー、と言いたいのにボールギャグのせいで滑稽な唸り声にしかなりません。

「このくらいでいいか」
 里美さまの指が離れ、膣の中まで外気に晒されて明らかにスースーしている感触がありました。

「さあ、みなさんマゾ子の周りに集まって。3人だからひとりはマゾ子の後ろに回るといいわ」
 しばらくガヤガヤした後、一番背の高い倉島さまが私の背後に、右側にヨーコさま、左側にメグさまと配置が決まりました。

「うん、いい感じ。倉島さんは後ろから手を伸ばしてマゾ子の勃起乳首を引っ張るっていうのはどう?」
「あ、はいっ!」

 弾かれたようなお返事と共に、倉島さまの両手が伸びてきて、左右の乳首を指先でつままれました。
「んむぅ」
 倉島さまはすでにグローブを脱がれていて、少し汗ばんだ素手の感触にゾクッ。

「両隣のふたりはマゾ子のお尻をスパンキングね」
「あ、こんな感じですか?」
 パッチーンと大きな音をたててヨーコさまの素手が右の尻たぶに炸裂。

「んむぅー!」
「おお、キレイな手形がついた。いい感じよ」
 すかさずメグさまの素手もパチーン。
「むぅー!」

「それじゃあ撮るわよ。みんな笑顔でこっち見てねー」
 私も目線をカメラに向けます。
 倉島さまに両乳首を引っ張られ、ヨーコさまメグさまに尻たぶをバチンバチンひっぱたかれている合間に、カシャカシャと5、6回ほどシャッター音が聞こえました。

「おっけー。ちょっと待っててね」
 里美さまがスマホのディスプレイを凝視しつつ何やら操作されています。
「こっちかな、うーん、こっちか、やっぱこれかな・・・」
 数枚の内のベストショットを選んだのでしょう、やがてディスプレイをこちらに向けて近づいてきました。

「ほら、なかなか良いデキじゃない?」
 私もその写真を見ることが出来ました、

 横向けにしたディスプレイ画面長方形の中央に私。
 全裸に赤い首輪、だらしなく緩んだ亀甲縛りロープだけの全裸。
 口に赤いボールギャグ、ノーズフックの豚鼻、眉根にシワを寄せた悩ましくも醜いツインテールのマゾドレイ女が少し顎を上げ、虚ろに宙空を見ています。

 背後に立たれた倉島さまは、満面の笑顔で両手を前面に伸ばし、指先で私の左右の乳首をつまみ上げています。
 硬そうな乳首がグインと上向きに引っ張られて伸び切り、ふたつのおっぱいが下乳ごと不格好に持ち上がっています。

 左右に立たれたメグさま、ヨーコさまもカメラに向けて愉しそうな笑顔。
 右側のヨーコさまの右手と左側のメグさまの左手は、バックスイングの位置から振り下ろされるタイミングでブレていて、すごい躍動感。

 私の尻たぶは、左右ともに手の形に赤くなり、その中央にクスコで押し広げられたマゾマンコ。
 クスコの銀色がフラッシュの光で綺麗な星型の輝きを作り、クスコの穴の奥のピンク色も、そのすぐ下の菊の窄みも鮮明に写っていました。

「とてもマゾ子らしい写真が撮れた。はい。あなたからみんなにメールで送ってあげて」
 里美さまがメグさまにスマホをお返ししながらおっしゃいました。

「その写真、どう使っても結構よ。お友達に見せるもよし、印刷して部室に飾るとかね」
「うわー」
 一斉にピョンピョンはしゃがれるお三かた。

「あ、ネットにあげちゃうのもありですか?」
 ヨーコさまがお声を弾ませてお尋ねされました。
「うーん・・・ま、いいでしょう」
 里美さまが少し考えてからうなずかれました。

「その写真なら素顔のマゾ子を知っている人でもわからないくらいの変顔になってるし、位置情報とかも全部オフっといたから」
「んんぬーっ、むぅぐぬぅーーーっ!」
 そのお言葉をお聞きして、いてもたってもいられません。
 顔を左右にブンブン振り、言葉にならない唸り声をあげて精一杯抗議しました。

「あら、ずいぶん悦んでくれるのね?ネットで大勢の人にマゾ子の抉じ開けられたマゾマンコを見られちゃうのが、そんなに嬉しい?」
 イジワル度満点な里美さまの笑顔。

「心配しないで。ネットにあげるときは、ちゃんとモザイクかけるから。そうしないとあげたアタシらが捕まっちゃうでしょ?」
 ヨーコさまもニヤニヤ笑って愉快そう。
「アタシらだって、ネットに素顔なんて晒したくないから、ちゃんとボカスわよ。マゾ子の顔と裸以外はね」

 お三かたがお帰りの支度をされているあいだ、私はそのままの格好で放置されました。
 さっき撮られた写真での私の顔は無様に変形していて、普段私と接している人でも、被写体が私と分かる人はいないでしょう。
 でも、そんな破廉恥過ぎる姿がインターネット上に晒されてしまうかも、という不安と被虐が私を疼かせていました。

「それでは今日は、ありがとうございました。すごく勉強になりました。また近いうちに遊びにきますね」
 来られたときにはお持ちでなかった大きな紙袋を提げた倉島さまが、里美さまにペコリとお辞儀されています。

「はーい。こちらこそ今日はたくさんのお買上げ、ありがとうございました。また何か欲しいものあったらいつでも寄って」
 里美さまも満面の笑顔でご対応。
 それからヨーコさまのほうを向いてつづけました。

「池袋でマゾ子を探せ、ううん、最近の流行りで言うとマゾ子Goかな、まあ、なんでもいいけれど、がんばってね。あのオフィスビルのショッピングモールなんか要チェックな出現ポイントよ」
 するとメグさまが横からお口を挟んできました。

「ワタシ、自信あります。小さい頃から人の顔覚えるの、得意なんです」
 そうおっしゃって、じーっと私のほうを見つめてから里美さまに向き直りました。

「さっきの写真は確かに参考になりませんし、ヘアスタイルの変化もムズいんですが、パーツの中で特徴的なポイントを押さえておけばいいんです」
「とくにこうして実際に間近で見た人なら、背格好とか雰囲気も知っていますから、今度会ったら95パーセントくらいの確率でゲットする自信があります」
 私に向けてニコッと微笑まれるメグさま。

「そうなんだ。もしみつけたら拉致る前にわたしに必ず連絡ちょうだいね。一応、マゾ子のお姉さまの許可を取るから」
「はい、必ずそうします。それは別としても、必ず近いうちにまた、マゾ子にレクチャーしてもらいに来ます。今度はお医者さんごっこかな」
 ヨーコさまが私の股間を見ながらおっしゃいました。

「それじゃあ、もう暗いから、気をつけて帰ってね」
「はーい」
 ぞろぞろとショールームの出入り口ドアへと向かうみなさま。

 ショールームをお出になる前に、みなさまがもう一度私のほうを振り返り、お声をかけてくださいました。
「じゃーねー、またねー」
「マゾ子、また今度ねー」
「また遊ぼうねー、モリシタナオコさーん・・・」
 おっしゃってからクスクス笑いつつ、ドアのお外へと消えたお三かた。

 最後のお声は、ヨーコさまだったでしょうか?
 なんで?なんで知っているの?
 一瞬、頭の中がパニックになりました。

「おつかれさまー」
 お三かたを送り出して戻ってこられた里美さまが、スタスタと私に近づいてこられました。
 私の背後に回りテキパキとノーズフックを外し、つづいてボールギャグも外されました。

「直子ちゃんががんばってくれたおかげで、今日は大助かり。三人で5~6万くらい使ってくれたのよ」
 マゾマンコのクスコを外しながら教えてくださいました。
「やっぱり私立の女子大生ってお金持っているのね。部費でタイマーボックスとウイップ一本キャッシュで買った以外はカード支払いだったけれど」

「なんで、なんであのかたたちが私の名前、知っているのですか?」
 ボールギャグが外されて自由になった唇で、息せききってお尋ねしました。
「やっぱり気づいてなかったんだ?でもそれって直子ちゃんのミスよ」
 足枷の鎖を外してくださるためにひざまづいていた里美さまが、上体をひねってテーブルのほうを指さされました。

「あそこの椅子の上に、直子ちゃんがロープを入れてきた巾着袋を置きっ放しにしたでしょう?それに小さくだけれどバッチリ書いてあったわよ、ローマ字で、NAOKO MORISHITA、って」
「あっ!」

 そうでした。
 母があの体操服袋を作ってくれたとき、袋の下の方に目立たない感じで小さく名前を刺繍してくれたのだっけ。
 流麗な筆記体がカッコよくて、すごく嬉しかったことを不意に思い出しました。
 ずっと何かを入れて膨らんでいることが多く、そこまで目が届かずにすっかり失念していました。

 そうしているあいだにもテキパキと足枷と手錠も外され、晴れて自由の身。
 放置されているとき、お三かたがお帰りになった後もまだこのままで、今度は里美さまだけでじっくり、いろいろ虐められちゃうのかな、とドキドキしていたので、なんだか拍子抜けでした。

「ロープは自分で解いて、お手入れをしたら、ここで干しておくといいわ。月曜日にでもわたしがオフィスに持っていってあげる。お姉さまや早乙女部長さんへの、今日のご報告も兼ねてね」
 すっかりビジネスのお顔に戻られた里美さまに急かさられるように、自分のからだを這う菱沼縛りを解き始める私。

「あの子たち、かなり直子ちゃんにアテられていたわよ?倉島さんなんて瞳が妖しく潤んじゃって」
「たぶんヨーコさんちに行って、それからくんずほぐれつね。ターゲットは倉島さん。あの子が一番エムっぽいし、他のふたりからよってたかってだと思うわ。バイブをいくつも買っていったし、麻縄もあるし」
 愉快そうにおっしゃった里美さまが、白いバスタオルを差し出してきました。

「あのドアの向こうでシャワー浴びれるから。トイレ共用のユニットバスだから狭いけれど、浴びないよりはマシでしょう?床ビショビショにしないように、ちゃんとシャワーカーテン掛けてね」
「直子ちゃんがシャワーしているあいだに、ここ片付けておくから、一息ついたらどこかに晩ご飯食べに行きましょう。直子ちゃんは今日の売上の功労者だから、わたしが奢っちゃう」

 おやさしくてお仕事のデキる、いつものクールな里美さま。
 お三かたとご一緒に、ついさっきまでドエス全開だったのに、その見事な豹変ぶりにドギマギしつつも、謎の部分が多い里美さまに俄然興味が湧いてしまいます。
 差し出されたバスタオルを手に全裸でオフィス部分に足を踏み入れ、シャワーをお借りしました。

 小さなバスタブの内側にシャワーカーテンを施し、シャワーのコックを捻りました。
 少しぬるめなシャワーの水滴が勢い良く肌を滑り、汗や色々なヌルヌル体液をキレイに流してくれます。

 二の腕やおっぱいの裾野にうっすらと縄の痕。
 まだ熱を持っているお尻と性器。
 そういったところを手で撫ぜていると、今日みなさまの前で行なった恥ずかし過ぎるあれこれがまざまざと脳裏によみがえってきました。

 お姉さまの会社に勤め始めてから、あきらかに私のマゾ度は上がりました。
 より自虐的に、より淫らに、より貪欲に。
 
 それまでは自分ひとりで自分のお部屋で、こっそりと行なっていた非日常的ヘンタイ行為。
 そんな行為をする場所が勤務中のオフィス、イベントショーのステージ、街中のカフェ、今日のように他人様のお店のショールームと、どんどん広がっていました。
 日常的だった場所が、どんどん非日常に侵食されているのです。

 そして、私がヘンタイ行為を、そういった開かれた場所でご披露するたびに、私を辱める権利を持つ人たちが増えていきます。
 今日も初めて出会った倉島さま、ヨーコさま、メグさまが、その権利を得ました。
 街で出会って何かご命令されたら、私は服従しなければなりません。
 私は、そういう人間、だとお三かたに認識されてしまったのですから。
 
 まるで王様ゲームで、ひとり負けつづけの罰ゲーム狙い撃ち状態。
 私の非日常的行為を目撃されたかたたちが次々に王様となり、私に恥辱たっぷりのご命令を下してくるのです。
 最愛のお姉さまが全体を統べる非日常な王様だらけの王国で、たったひとりだけドレイな私・・・

 激しいシャワーに肌を打たれながら、そんなイメージが湧き上がっていました。
 そしてその王国を私は、とても居心地良く感じていました。
 被虐が欲情となり、肌が上気してきます。
 今夜、この後お家に帰り着くまでこの身を委ねる王様に、想いを馳せます。

 里美さまは、どこへお食事に連れていってくれるのかな?
 普通にお食事するだけなのかな?
 お食事中に何か恥ずかしいご命令をくださるかな?
 あれほどイキまくって一時は眠ってしまったほどなのに、性懲りもなくマゾの血が滾り始めていました。

 もしも私が王様ゲームに勝って命令の権利を得たとしても、王様を辱めるような命令を下すことでしょう。


三人のミストレス 01

2017年2月19日

非日常の王国で 14

 椅子の背もたれに背中を押し付け、動かせないからだを小刻みに捩りつつ、果てたと思ったらまたすぐ昇りつめる、をくりかえします
 クネクネと身悶えるたびに、汗とよだれを吸った縄地が、濡れた素肌をヌルヌルと擦っています。
 
 どれだけイッても、二穴一豆責めのバイブレーターたちは動きを止めてくれません。
「あっ、あーっ!いやっ、またっ、あっ、あんっ、あーーっ!!」

「マゾ子のいやらしいヨガリ声、ちょっとうるさくないですか?」
 私のお尻をバチンバチン叩きながら、ヨーコさまが里美さまに尋ねました。

「そう?わたしはとくに気にならないけれど・・・」
 ビデオカメラのレンズを私の股間に向けたまま、里美さまのお答え。

「こういう調教プレイだと、真っ先にボールギャグとかかませて言葉を奪っちゃうじゃないですか?とくに海外のボンデージものなんか」
 ヨーコさまが幾分不服そうにお言葉をつづけました。

「そういうのも支配欲ていうか隷属感が出ていいな、とも思うんですよね。でもテーブルの上に口枷とかマスクの類が見当たらなかったから・・・」

「ああ、声がうるさくないか?って聞いたのはそういう意味だったんだ」
 里美さまが構えたレンズをスーッと私の顔のほうへと上けつつ、おっしゃいました。

「それはね、マゾ子のお姉さまのご要望でもあるの、今日の様子を記録して後で見せるように言われているから」
「彼女はね、ボールギャグとか目隠しとかドレイの顔を弄るプレイは好みじゃないのよ。前頭マスクなんてもってのほか」

「普段取り澄ましている顔が、責められることによってどのくらい浅ましいスケベ顔になるのかを視て愉しむ、根っからの顔フェチなのよ」
「それに言葉で辱めて会話しながら弄ぶタイプでもあるから、めったに口は塞がないらしいわ。このマゾ子はそういうお姉さまに躾けられているの」
 
 あなたたちのことは何でも知っているのよ、とでもおっしゃりたげな、はっきり私に向けての里美さまのお言葉。

「そうなんですか・・・アタシは、そういう、ドレイをモノ扱いする、みたいなシチュも好物なんすけどね」
 ちょっぴり未練がましくおっしゃったヨーコさまが、気を取り直すようにつづけました。

「ただ、ボールギャグ云々以前に、マゾ子の喘ぎ声が大き過ぎてご近所、お隣とか上の部屋まで聞こえちゃわないか、っていう心配もあるんですが・・」
「ああ、その点は心配いらないわ」
 里美さまが間髪を入れずにお応えされました。

「ここはね、以前喫茶店だったのよ。夜営業でカラオケ入れていた時期もあったらしくて、防音はしっかりしているの」
「でなきゃわたしも、こんなに自由にマゾ子を喘ぎっ放しにはさせとかないわ。たちまちご近所から苦情が出ちゃう・・・」

 そこまでおっしゃって何かを思いついたらしく、考えを整理するような少しの間の後に、再び里美さまのお声が聞こえてきました。

「あなた、面白いことに気づかせてくれたわね。マゾ子のいやらしい声を黙らせる遊びを思いついちゃった。ボールギャグなんか使わなくても」
 お言葉の後にニヤリと唇を歪ませたお顔までが見えるような、里美さまの嗜虐的なお声。

「わたしがマゾ子と最初に出会ったのは、とあるファッションビルに入ったランジェリーショップだったのよ」
 里美さまがビデオカメラを私から逸らしたのは、おそらく録画を中断されたのでしょう。

「マゾ子と今のお姉さまが一緒にフィッティングルームに入って、ランジェのフィッティングにかまけて何やらイカガワシイ行為を愉しんだのね、他のお客様がひっきりなしに出入りする営業中に」

「わたしはそのときお店のレジにいて、確か一時間以上もふたりで篭ってた。ふたりが出てきた後、フィッティングルームの中に何とも言えないメスクサい、いやらしい臭いが充満していたわ」
 里美さまが私の顔を覗き込み、ニッと笑いました。

「それがマゾ子とお姉さまの幕開けだったのよ。後から聞いたら、薄っぺらな板で囲まれた狭いフィッティングルームの中で、マゾ子だけ全裸になってマンコ弄られてたみたい」

「売り場との境界も薄っぺらなカーテン一枚よ?その中で真っ裸。試しにお姉さまがカーテン閉めずに売り場に出て放置してみたら、マゾ子、ガタガタ震えながらも健気に表に裸晒したままお姉さまのお帰りを待っていたんだって。その頃から露出狂のドマゾだったのね」

 ヨーコさまに私の声を咎められたときから、私はなるべく悦びの声を我慢するように努めていました。
 もちろんそのあいだも下半身の三点責めバイブレーターは容赦なく私の秘部を蹂躙しつづけていました。
 
 その上、私の恥ずかし過ぎる過去を喜々としてみなさまにご披露しちゃう里美さま。
 物理的刺激に精神的恥辱が加わってオーガズムのインターバルが短かくなり、イッちゃだめ、と思うのにイッちゃうイキっぱ状態。

 それでもなんとか唇を噛み締めて声を押し殺し
「んーーー、んぐうぅ、んっ!!!、はぁはぁはぁ・・・」
 のくりかえし。

「あのときマゾ子は必死に声を我慢していたはずよ。あのとき出来たのだから、それを今もやればいいだけでしょ?」
 イジワルくおっしゃった里美さまが再びビデオカメラを構えられました。

「あっ、今気がついたのだけれど、タイマーボックス、とっくに解除になっていたみたい。もう6時をずいぶん過ぎちゃってる」
 確かにお部屋内がけっこう翳ってきていましたし、里美さまのビデオカメラにもいつからかライトが灯っていました。

「そういうことだから、最後にヨガリ声を押し殺したまま、マゾ子に盛大にイッてもらいましょう」
「ぁぅっ!」
 里美さまが片手のカメラを私に向けたまま、もう片方の手で器用に私の右乳首にさっきの舌鉗子を挟みました。

「どなたか手の空いている人、わたしが合図したらそこの窓を開けてくれる?」
 私の左乳首にも舌鉗子を噛ませた後、私の顔の右横にある窓を指差す里美さま。
 
 お向かいのビルの窓に明かりが灯っているのが見えました。
 その向こうにはいくつかの人影もあるような。
 
 えっ、あの窓を開けちゃうの・・・
 今にもその窓が開いて、ひょっこり誰かお顔を出しそうな気になってきます。
 そこから覗かれたら私の姿は何もかも丸見え・・・
 ああん、そんな・・・
 不安な心とは裏腹に、からだがグングン昂ってビクンビクン!!!

「あの窓を開けたら、あなたのヨガリ声が表の通りに筒抜けになるのは、わかるわよね?」
 里美さまがレンズを向けたまま尋ねました。

「んんーーーっ!!!はぁ、はぁ、はいぃ・・・」
 小さく喘いででうなずく私。
 ちょうどイったタイミングなので息も絶え絶えです。

「今も必死に声を我慢しているみたいだけれど、もしもいやらしく大きな喘ぎ声出したら、通りからこのビルが注目されちゃうわよね?」
 大きく肩で息をしながらうなずく私。

「えっちな声って耳を引くから、誰かがこの部屋に踏み込んできたり、向かいのビルの窓が開いちゃうかもしれない」

「それでヘンな噂がたって、わたしのショップがこのビルから追い出されたりしたら、あなたのお姉さまはとても悲しむわよね?」
「んっ、んーーっ、は、はいぃぃ」
 性懲りもなくまたまた高まっていく私。

「だったらあなたがどうすべきか、わかるわね?」
 そうおっしゃって、タイマーボックスから手錠の鍵を取り出された里美さま。

「我慢なさい。何をされてもいやらしい声を出さず、ひたすら我慢しながら昇りつめなさい。あのランジェリーショップのときみたいに」
 水飲み鳥のお人形見たく、ひたすら頭をコクコク前後させてうなずく私。

「窓を開けたら、あなたの手にこの鍵を握らせてあげるから、自力で手錠を外しなさい。手錠が外れたら今日のお役目終了よ。外せなかったり鍵を落としてしまったら、別のお仕置きを考えるから」
 イジワルっぽくおっしゃって、私から少し離れました。

「さあ、あなたたちもラストスパートで遠慮せずに思い切り虐めちゃって。マゾ子が声を我慢出来ないくらいに」
「はーい!」
 嬉しそうなお声があがり、メグさまが早々と窓辺に駆け寄りました。

「おーけー。それじゃあ窓開けて。全開ね」
 里美さまのお声にザザーッというサッシを開ける音がつづき、街の雑踏がお部屋を満たします。
 
 6時過ぎと言えばオフィス街の退社時刻。
 このビルは地下鉄駅にほど近い通りに面していますから、聞こえてくる人々のおしゃべりや靴音、車のエンジン音やクラクションなど日常的な喧騒と、今の自分の破廉恥過ぎる状況とのギャップが、羞恥心や背徳心を大いに掻き立ててきます。

「はい、これが手錠の鍵ね」
 椅子の背もたれ越しに括られた右手に、小さな金属片が握らされました。
「マゾ子が脱出するまでに何回イカせられるかチャレンジー、はじまりー」
「んんーーーっ!」

 里美さまの号令とともに私のからだに群がる何本もの手。
 ラテックスの感触に乳房を揉みしだかれ、お尻を撫ぜられ。
 
 今までよりもずいぶん積極的に動き回るお三かたの愛撫で、みるみる昇りつめていく敏感過ぎる肉体。
 右手の鍵を握り締めたまま、しばらくは声を我慢することに必死でした。

 どなたかの手が膣のバイブを捏ね上げ、どなたかの手がアヌスのバイブを抜き挿し、どなたかの手が乳首の舌鉗子を引っ張り。
「んぐっ、ん、むぅ、ぬぅ、んんぅぅ、んっっ、んっ、ぐぅぅっ!!!」

 いくら口を真一文字につぐんでも喉の奥から歓喜のわななきが洩れてしまいます。
「んぬぅぅーーーっ!!!」
 早くも今日何度目なのかもはやわからない、ラストスパートでの最初のオーガズム。

 それから右手の鍵を闇雲に左手首の手錠の側面に擦りつけ始めました。
 どこかに鍵穴があって、そこに嵌りさえすれば手錠が外れるはず・・・
 だけど鍵の先端は虚しくスチールの上を滑るばかり。
 そうしているうちに高まりがあっさりピークに達します。

「んんーーっ、ぁ、ぅ、ぅぅぅ、んぁ、んあぁっーーーーー!!!」
 どなたかの指でクリトリスを思い切り引っ張られ、思わず大きな声が。
 その拍子に右手から鍵がポロッ!

「あっ、マゾ子、鍵落としちゃったみたいですよ?」
 どなたかのお声が聞こえて初めて、私もしてしまったことの重大さに気がつきました。

「はぁ、はぁ・・・はぁぅうーーんっ!」
 我慢しようとしても、喉の奥から嗚咽のような嘆息が漏れてしまいます。

「あーあ。これは窓開けておくとヤバそうね。この子もう、理性ゼロのケダモノぽい」
 里美さまの呆れきったお声が聞こえました。

「マゾ子はもう解放される術を自分から放棄しちゃったのだから、とことんイッて壊れてもらうしかないでしょうね」
 心底蔑んだお声とともに窓が閉じられ、街の喧騒がピタッと聞こえなくなりました。

「ほら、もう声我慢しなくていいよ。マゾ子のして欲しいこと、なんでも言ってごらん?」
 里美さまが私の顎を乱暴に掴んで真正面から見据え、頬を軽くパチンとぶたれました。

「あん、はいぃ、もっと、もっとください、もっと直子をめちゃくちゃにしてくださぃぃ・・・」
 鍵を落としてしまったのを知った途端、すっごく悲しい気持ちになっていました。
 涙がポロポロと落ちるのに、からだは疼いて疼いて仕方なく、更なる刺激と陵辱を求めていました。

「ごめんなさいぃ、もっと、もっとしてくださいぃ、やめないでぇ、いじめてくださいぃぃ・・・」
 唇が勝手に動いていました。
 して欲しいことがスラスラと口をついていました。
 ぶってください、つねってください、開いてください、噛んでください、突っ込んでください・・・
 
 それからはよく覚えていません。
 里美さまには、何度かビンタをされ、そのたびに激しいくちづけをくださった気がします。
 すべてのバイブが抜かれた後、そこからはみなさまの指であらゆるところを陵辱されたと思います。
 どなたかに鞭を振るわれ、ひどいお言葉をたくさん投げつけられ、みなさまに謝りながら何度も潮を撒き散らしたはずです。

「いい、そこそこ、もっと、奥まで、いやーっ、ああ、イッちゃう、イッちゃうぅぅぅ!!!」
 
 喉がカラカラに涸れるほど喘ぎまくり、イキまくりました。


非日常の王国で 15


2017年1月29日

非日常の王国で 13

 股下が空洞になっている卑猥な椅子に、思い切り恥ずかしい格好で戒められている私。
 これからされることへの不安と期待で胸が張り裂けそう。
 M字に広げられた両腿の向こうに、テーブルに群がったお三かたのキャピキャピはしゃぐお姿が見えています。

「うわー。何?このイボイボ」
「これってたぶん、吸いつくんだよね?」
「あ、これがお尻用じゃない?」
「こんなの入るのかしら?」

 弾んだお声とは裏腹な、妄想を徒にかきたてる不穏なお言葉がどんどん聞こえてきて、ゾクゾク震えてしまいます。
 からだは熱いのに鳥肌が立っているみたいに、全身の皮膚が戦慄いています。

 やがてお三かたが私の傍らに戻っていらっしゃいました。
 手に手にカラフルなラブトイズを嬉しそうに握って。

 里美さまがキャスターの付いた、いかにも病院に置いてありそうなステンレスのワゴンを運んできて、私の傍らに据えました。
 一番上段のトレイには真っ白なタオルが敷いてあります。

「あ、それを選んだんだ。なかなか良いセンスよ」
 里美さまが、メグさまのお持ちになった赤色のバイブレーターらしきアイテムに目を遣り、愉快そうにおっしゃいました。

「それを試すのだったら、やっぱりみんな、これを身に着けておいたほうがいいかもね」
 里美さまがワゴンの下段に積んであった箱から何か取り出されました。

「このマゾ子はね、感極まってイキまくると、だらしなく潮まで吹いちゃうらしいのよ」
「あなたたちの綺麗なお洋服が、こんな淫乱マゾ子の潮まみれでグショグショになっちゃうなんて嫌でしょう?」
「これ、使い捨てのエプロン。これも医療用なの。トイズはいったん、そのトレイの上に置いて着るといいわ」

 里美さまがみなさまに手渡したのは、半透明な水色の薄いポリエチレン製らしきエプロンでした。
「介護現場とかで使われる本格的なものよ。これなら万が一マゾ子が潮噴射しても、みんなのお洋服を汚さずに済むはずよ」
 おっしゃりながら私の足元にもシーツらしき布地を敷く里美さま。

「アタシ、誰かが潮吹くの見るなんて、初めてっ!愉しみっ」
「あ、これ、ちゃんと袖まである。それに袖口にゴムが入っているんだ。すごーい」
「こんなの着ちゃうと、ますますアブノーマルな人体実験ムードが高まってきちゃうよね」
「うん。本格的に、お医者さんごっこ、っていう感じがしてきた」

 ポリエチレン地がガサガサいう音に混じって、お三かたの愉しそうなお声が聞こえてきます。
 背中の紐をお互いに結びっこして、やがて再び私の周りに集まっていらっしゃいました。

 背もたれを挟む形で後ろ手に、手錠拘束された両腕。
 椅子の肘掛けを跨ぐ形で大きくM字に開かれたまま、鎖に繋がれた両脚。
 ソックスと首輪以外全裸のからだを、菱縄縛りで締め付ける麻縄。
 麻縄に絞られたおっぱいの先端二箇所にぶらさがる、無機質に光る舌鉗子。
 そして絶望的広げられた股間を更に恥ずかしく粘膜の奥まで白日のもとに晒し上げている、ラビアに噛み付いた2本の舌鉗子。

 そんな格好で身動きの出来ない私を、まじまじと見つめてくる好奇に満ち溢れた6つの瞳。
 そのうちのいくつかはすでに、好奇から嗜虐へと輝きが妖しく変わっている気がしました。

 私、これからこのかたたちに、自分が浅ましく喘ぎ悦ぶ痴態のすべてを視られてしまうんだ・・・
 何をされてもあがらえない、こんな無様な姿のまま、みなさまが飽きるまで弄ばれ、嬲られ、辱められるんだ・・・
 被虐が極まり過ぎて、もうその視線だけでイッてしまいそう・・・
 
 その後ろには、里美さまの心底愉しそうなふたつの瞳が見えました。

「グッズで虐める前に、みんなの手だけでマゾ子をリラックスさせてあげよっか?だってほら、マゾ子ったら、あんなに怯えた目になっちゃてる」
 里美さまが私の頭の横まで近寄ってこられ、おもむろに右手を伸ばしてきました。

「お医者さんごっこで言えば、さしずめ触診ね。ほら、こんなふうに」
「あうぅ!」
 里美さまの右手が私の右おっぱいをむんずと掴み、乱暴にワシワシ揉みしだき始めました。
「うん。乳房にシコリはないようね。シコっているのは乳首だけ」
 お芝居じみた里美さまのお声。

「あっ、あっ、あーっ」
 里美さまが指のあいだに逃した舌鉗子の柄が、おっぱいに噛み付いたまブルンブルンと揺れて右乳首がちぎれそう。
 痛みと陶酔の入り混じった甘美な快感に、たまらずからだが大きく跳ねたがります。
 だけど、両腕両脚をガッチリ拘束されたからだは、うねうね身悶えるばかりで、全身に張り巡らされた麻縄が無駄に肌へ食い込むばかり。

「ほら、あなたたちも遠慮しないでやってみて。どこでも好きなところ診察しちゃって」
 今度は左おっぱいを揉み始めた里美さまのお言葉に、お三かたが近づく気配。
 すぐに、そっとお腹や太腿を触られる感覚がつづきました。

「肌がすっごく熱くなってるー」
「ロープもけっこう張りつめているんだね。皮膚に食い込んじゃって、なんか痛々しい」
「マゾ子のお肌スベスベー。でもこの手袋で触ると、なんかヘンな感じ」
「うん。何て言うか大胆になれるよね?うちらでイチャイチャしているときとは違って、相手は実験の被験体なんだから何してもいいんだ、っていう気になってくる」
 最後に恐ろしいことをおっしゃったのはヨーコさまでしょう。

 私のからだを8つの手のひら、40本の指が這い回っていました。
 ラテックスグローブで撫ぜ回される感覚は、素手でされるよりも無機質ぽく、撫ぜている人の感情の情報量が少ない感じがしてかなり不気味。
 目を閉じると胸を、お腹を、脇腹を、内腿を、無数の爬虫類がペタペタと這い回るような錯覚にとらわれました。

「はうっ!あっ、そこはっ!」
 どなたかが下腹部の縄を引っ張ったのか、縄が腫れている肉芽を擦りました。
「うわ、いやらしい声」
 すかさずどなたかの嘲るようなつぶやき。

 撫ぜ回されているうちに全身の皮膚がどんどん敏感になり、切ない感情が湧いてきます。
 ああ早く、もっと決定的なところを触ってください・・・
 そこじゃなくて、もっと下、もっと弄られたがっている私の一番はしたない裂けめ・・・
 そう思ったとき、ヌルっと襞を撫ぜられる感触がしました。

「はうっ!」
 自分でもびっくりするくらい大きな声が出てしまい、それが合図だったかのように一斉に私の下半身への陵辱が始まりました。
 ピチャピチャと恥ずかしい音が聞こえてきます。

「うわー。中まで熱いー」
 舌鉗子で抉じ開けられた膣の中をグルグル陵辱する指。
 膨らんだ肉芽をグリグリつまみ上げる指。
 わしづかみで左右のおっぱいを揉みしだきつづける里美さまの両手とともに、みるみる昂ぶっていく私。

「あーーいいっ、いいっ、そこぉ、ああーっ・・・」
「んんーーっ、もっと、もっとぉー、んんーっ、んぐぅーー」

「うわっ、マゾ子、えげつない声」
「こんな格好でこんなことされて、恥ずかしくないのかしら?本当にヘンタイだね」
「全部の穴、おっ広げちゃって、本気汁ダラダラ垂らしちゃって」
 歳下のかたたちからのお言葉責めが耳に心地いい・・・

 快感に翻弄されながらも、一本だけ不穏な動きをしている指の存在にも気づいていました。
 私の愛液をまぶしたのであろうヌルヌルした指先をお尻の穴にスリスリ撫でつけてくる指。
「あ、そこは・・・だめっ、だめぇーっ、いやぁーーーっ!」
 菊門が抉じ開けられ指がヌルリと侵入してくるのがわかりました。

「うわー、スルッと入っちゃった。中でキュッキュと締め付けてくるー」
 愉快そうなヨーコさまのお声が聞こえ、挿入した指を中でグルグル動かし始めました。
「だめぇー、動かしちゃだめーっ、いやーっ、ゆるしてくださいぃーーっ!!」

 アヌスにズッポリ埋め込まれた指と膣内奥深く潜り込んだ二本の指で、からだの内側から掻き回されます。
 そのあいだにも腫れ上がった肉芽は執拗に捏ね繰り回され、乱暴な手のひらに乳房をもてあそばれています。

「あっ、いやっ、だめっ、もうっ、もうーーーっ」
「どう?面白いでしょう?このままイカせちゃいましょうか?」
 里美さまのお言葉にビクンとからだが震え、のけぞらせていた頭を少しだけ上げ、薄目を開けて自分のからだのほうを見ました。

 舌鉗子が噛み付いた左右乳首を思い切り引っ張る、里美さまの愉しそうなお顔。
 膣の中を掻き回しているのは童顔のメグさま。
 クリトリスを潰していらっしゃるのは、火照ったお顔の倉島さま。
 そして、アヌスに指を挿入してもてあそんでらっしゃるのが、お三かたの中で実は一番ドエスらしいヨーコさまのようです。

「ほら、マゾ子、イッちゃいなさい。虐めてくださるみなさんに感謝して、マゾらしく浅ましく、イッちゃいなさい」
 里美さまの蔑みきったお声に、みなさまの指の動きがいっそう活発化しました。

「ああーーっ、いいっ、いいっ、ィきます、イッちゃいますぅ、あ、ありがとー、ありがとーござまーぁっ!!」
「誰か片手の空いている人、マゾ子のお尻を叩いてやって、そうすればこの子、もっと気持ち良く啼くはずだから」
「あ、はーい」
 アヌス担当のヨーコさまが左手で私の尻たぶを平手打ちし始めます。

 ピシャっ!
「あーーっ!」
 ピシャっ!」
「いいーーっ!」
 ピシャっ!
「もっとぉー、もっとつよくぅ!!・・・」

 もはや頭の中は真っ白でした。
 それでもヨーコさまが私のお尻を叩くたびに、ほらっ、イけっ、イッちゃえっ、このいやらしいメス豚がっ!と小さくつぶやかれているのは、聞こえていました。
 そして、乳首への疼痛も、クリットへの摩擦も、膣壁への圧迫も、アナルへの蹂躙も、尻たぶへの痛みも、からだが全部感じ分けていました。
 それらの刺激がやがて快感という一本の太い激流となって、全身が溶け出してしまいそうなほどの恍惚感に包まれました。

「ああーっ、イキますぅ、イッちゃいますぅぅぅーっ、ううぅぅぅーーーっ!!!」
「うわーーっ、膣の粘膜がキューッと締まって蠢いたよ!?」
「アヌスもっ!すっごい締め付け・・・」
「下腹がヒクヒクしてる・・・これは完全にイッたね?すごいもん視ちゃった・・・」

 みなさまが興奮されたお口ぶりでガヤガヤおっしゃるのを遠くお聞きしながら、すさまじい快感に酔い痴れていました。
 全身の力はグッタリと抜けているのに、おっぱいと下腹部と両腿がそれぞれ別の生き物みたいに、上下したりヒクついたり。
 里美さまがいつの間にか、ビデオカメラを私に向けていました。

「さあ、これだけ深くイッたマゾ子は、ここからはケダモノよ。何やってもいイきまくるはず。今度はトイズをどんどん使ってマゾ子を壊しちゃいましょう」
 里美さまが近づいてきて、乳首の舌鉗子を外してくださいました。

 まず右から。
「あーーっ!」
 そして左。
「あーーーっ!」

 血流が戻る激痛もイッたばかりの余韻の中では、次の欲情を呼ぶ前戯でした。
 つづいてラビアを挟んでいた舌鉗子も外されました。
 大陰唇がジンジンと痺れ、濁った愛液がドロリと滴ります。

「マゾ子のマンコ、鉗子を外されても半開きのままだね?」
 メグさまが可笑しそうに指さしておっしゃいました。
「発情しちゃってるからだよ。何か咥え込みたくて仕方ないんだ、このメス豚の淫乱マンコ」
 ヨーコさまも嘲るようにおっしゃいます。

 お三かたがワゴンのトレイから、それぞれが選ばれたラブトイズをお手に取り、私に近づいてきました。
 もはやこの場にいるかた全員が、冷酷なサディストの笑みを浮かべてらっしゃいました。

 舌鉗子を外され菱縄縛りだけとなった私の裸体を、ニヤニヤ眺めるみなさま。
 おねだりするように尖る乳首と肉芽。
 敏感な箇所をどこも虐められていないことが、かえって疼きを掻き立ててきます。

「イボイボバイブとアナルバイブにクリットローターか。みんな自分で使ってみたいトイズを選んだのかな?」
 里美さまがお三かたのお持ちになったトイズを見て、からかうみたいにおっしゃいました。

「まさかー。アタシ、アナルバイブなんて挿れたくないしー。マゾ子が好きそうなやつを選んでみたんですよ」
 ヨーコさまが代表して、笑いながら否定されました。

「それじゃあいっぺんに装着して、しばらく放置して、マゾ子が壊れていくさまをじっくり見させてもらいましょうか」
 含み笑い混じりのゾクゾクしちゃう里美さまの声音。
 お三かたが私の下半身に群がりました。

 どなたかの手で私のマゾマンコにバイブレーターがズブリと突き立てられました。
 何の前触れもなく、あたかもそれが当然のことのように。
「ああーーっ!」
 胴体にイボイボを纏った、あの赤いバイブレーターのようです。
 かなり太い。
 その一撃で膣内がパンパンに満たされました。

 少し遅れて菊門に異物。
 アナルパールに似た感触が直腸内に、さっきの指先よりも奥まで潜り込んでくる・・・
「ああん、いーやぁーーーっ!」

 同時にクリトリスが何かに吸い付けられて引っ張られる感覚。
 倉島さまの背中が私の股間に覆いかぶさっています。

「まだスイッチを入れては駄目よ。バイブやコントローラー類は、落ちないようにローブに挟んじゃえばいいわ」
 里美さまのお声と同時に、あちこちで麻縄が食い込む感覚がしました。

「なるほどー。股縄していると便利ですねー」
 ヨーコさまの感心したようなお声とともに、マゾマンコとアナルのバイブが縄に押され、より奥深く侵入してきました。
「あぁ、うぅぅ・・・」

「うわー。これが有名な二穴挿入ってやつですね?おまけにクリちゃんまでこんなに腫れ上がらせちゃって」
 ヨーコさまの嬉しそうなお声。

「これでバイブ動かしたらマゾ子、本当におかしくなっちゃうんじゃない?」
 メグさまが心配してくださっています。

「あたし、マゾ子さんのこと、ちょっと羨ましいような気にもなってきちゃった・・・」
 マゾっ気を刺激されちゃったらしい倉島さま。

「いいわね?始めましょう。くれぐれも潮には注意してね?」
 イタズラっぽくおっしゃった里美さまがビデオカメラを構え直されました。
「それでは一斉に、スイッチ、オンっ!」

 里美さまの号令と共に、私の下半身が別の生き物になりました。
 膣壁を、腸壁を、陰核を震わせる強烈な振動。
 大量の虫の羽音のようなヴゥーンという低音に包まれた下半身がみるみる蕩けだしていきます。

「あーーっ、いいーっ、イクっ、イーークゥーっ、ああああーーーっ!!!」
 数秒も保たずに第一波到達。

 でも振動は止まること無くつづき、絶頂の余韻をかき消すように、第一波を凌駕する快感が襲いかかります。
「いいーーーっ、だめぇーっ、もう、もう、もう、イーーークーーーゥっ!!!」
「いやーっ、ゆるしてぇーっ、こわれちゃうぅーっ、いいっ、いいっ、イクゥゥゥっ!!!」
「あっ、またくるっ!きちゃうっ、イッちゃうっ!イッちゃうゥゥーーーっ!!!」
 得も言われぬ甘美な痺れが下腹部から太腿にかけてたてつづけに炸裂しました。

「すごいねー。気持ち良さそー」
「マンコから愛液ダラダラだー。よだれもダラダラー」
「でも下半身は凄いけど、おっぱいがブルンブルン揺れているだけで、刺激が無くて寂しそうだね?」
 最後にメグさまがポツンとおっしゃったお言葉に里美さまが応えました。

「あ、それだったらいいものがあるわ。あなた、ちょっとこれを引き継いでくれる?好きなところにレンズ向けていればいいから」
 撮影されているビデオカメラをメグさまに預け、その場を離れる里美さま。

 そのあいだも私は何度も、イキつづけています。
 イクたびに快感は大きく深くなり、休む間もなく頭の中がスパークしていました。
「いやーっ!だめーっ、もう、もう、とめてーっ、あっ、あっ、いいっ!もっと、もっとぉぉぉっ!!!」

 何度目かに達しようとしていたとき、乳首に新たな刺激を感じました。
 いつの間にか里美さまがお戻りになり、私の右乳首に木製の洗濯バサミを噛ませていました。
「はうぅっ!」
 久しぶりの刺激に乳首の感度が一段上がります。

 里美さまは無造作に、いくつもの洗濯バサミを私の肌に噛ませていきます。
 左右の乳首はもちろん、乳首を囲むようにおっぱいの皮膚をつまみ、左右の脇腹をつまみ、下腹部をつまみ。
 私の上半身は洗濯バサミだらけになっていました。
 それらの洗濯バサミはすべて一本の紐に繋がれていて、その紐の端をビデオカメラと引き換えにメグさまに握らせました。

「いい?マゾ子。次にイキそうなときは、自分でカウントダウンしなさい。そうね、5から0まででいいわ」
 里美さまのご命令口調。
「あっ、はっ、はいぃっ・・・」
 私はすでに、洗濯バサミの痛みで、イク寸前まで高まっていました。

「あなたはマゾ子がゼロって言った瞬間に、その紐を思い切り引っ張るの。マゾ子のこの上ない歓喜の悲鳴を聞けるはずよ」
 愉快そうな里美さま。
「は、はいっ!面白そうっ!」
 お声を弾ませるメグさま。

「あなたたちはマゾ子のお尻を思いっきりひっぱたくといいわ。それもマゾ子にはご褒美だから」
「はいっ!」
 愉しそうな倉島さまとヨーコさまのユニゾン。

「マゾって凄いね。本当に痛さも快感になっちゃうんだ」
「あたしも自虐趣味あるけど、マゾ子さんに較べたらまだまだだな」
「ワタシ、この紐持たされた途端にゾクゾクして、濡れてきちゃったみたい」
「メグってロリのくせに意外と エスっ気あるもんねー」
 キャッキャウフフとはしゃぐお三かた。
 
「さあ、始めましょう」
 里美さまがススッと私の右腿の傍に移動されました。
「ここでちょっと、うちのオリジナルトイズの宣伝させてもらうわね」
「このバイブは振動だけじゃなくてピストンも出来るのよ、前後に」
「この動きはね、Gスポットを刺激して潮吹きを誘発しやすくなるの」
 
 里美さまが私の右腿と縄のあいだに挟まったコントローラーに触れると、私のマゾマンコに埋まったバイブレーターが震えたまま、より奥へと侵入するようにピストン運動を始めました。
 バイブレーターのイボイボが今までとは違う動きで膣壁を擦るのがわかりました。

「あっ、あーーっ、だめですぅ、もうだめですぅ、ィきます、イッちゃいますぅぅぅ」
「えっ、もうなの?」
 ヨーコさまの慌てたようなお声が聞こえ、間髪を入れず左の尻たぶをピシャリとはたかれました。

「それなら早くカウントダウンしなさい」
 里美さまがカメラのレンズを私の顔に向けてのご命令。
 
「あーっっ!ご、ごめんなさいぃ、イキますぅ、ご、ごぉ・・・」
 ピシャン!ピシャン!
 右と左の尻たぶが交互に、手拍手で私のオーガズムを煽るような音をたてています。

「よおんっ、んっ、あ、ありがとうござぃまぁ、さーんっ、んっ、だめ、でちゃうっ!でちゃいそうっ・・・」
「潮に気をつけてっ!」
 里美さまの語気鋭いご注意が聞こえました。

「にぃーっ、あ、もうだめ、イッちゃうっ、出ちゃうっ、イッチャウぅぅ、いいいちっ!!」
 からだがフワッと宙空高く舞い上がります。
「イクぅーーーーっ!ぜーろっ!!」
「あああぁーーーーーーっ!!!」
 ビチャビチャビチャーっ!
「うわーーっ!」

 上半身に夥しい鋭い痛みを連続で感じたと思ったら、すぐにそれらが極上の快感に姿を変えて全身へと広がりました。
 筆舌に尽くせない絶頂感、開放感、爽快感。
 それでも動きを止めないバイブたち。
 いつまでもつづくかのようなイきっ放しの感覚に、喘ぎ、叫び、懇願し、黙り込んで我慢して、再び喘ぎ・・・

 私の心にも脳にも、一欠片の理性も残っていませんでした。
 たった今味わった凄まじい快感の余韻と新たに膨らみつつある快感を同時に貪る、ケダモノのように浅ましい淫らな肉塊と化していました。


非日常の王国で 14


2017年1月8日

非日常の王国で 12

「あ、勢い良く回しすぎて1時間23分になっちゃった。ま、いいか」
 里美さまがニヤニヤを私に投げかけつつ、タイマーのダイアルをポンと押しました。

「はい。これでこのあと約80分間、マゾ子ちゃんはみなさんにされるがままのモルモット。さっきどなたかがおっしゃったけど、まさに生贄状態ね」
 里美さまの右手が私の下腹部に伸び、菱形を作る縄をつまんでグイッと引っ張りました。
「あうぅっ!」
 大股開きの裂け目に食い込んだ縄が手前に動き、ラビアの中に埋もれていた結び目のコブが、テラテラに腫れ上がった肉芽をザラッと押し潰すように擦りました。

 三つ折りソックス以外一糸まとわぬ裸身を菱形模様の麻縄で飾り、ほぼ180度に広げられたM字開脚で椅子に磔られた私。
 中学生の頃、好奇心に駆られて図書館でこっそり見て後悔した生き物図鑑の、解剖される蛙さんの図版を思い出していました。

 里美さまはとても嬉しそうに、つまんだ縄を引っ張っては緩め引っ張っては緩め、そのたびにコブが敏感過ぎる肉芽の上を猛々しく行ったり来たり。
 屈辱と被虐で飽和寸前まで昂ぶっているからだに、里美さまがくりかえす股間の綱引きは、まるで拷問でした。

「あっ、あーんっ、ひっ、いやっ、だめっ、だめぇーっ・・・」
 グングン積み上がる快感に、押し殺そうとしても喉奥から淫声が零れ出てしまいます。

「ほら、いい声で啼くでしょう?みんなも遠慮しないで虐めちゃっていいのよ?」
 里美さまがお誘いになっても、お三かたはじーっと、コブに嬲られる私の股間に見入るばかり。
 ピーク寸前の兆候を見せている私のマゾマンコから、目が離せないのでしょう。

「内腿がヒクヒク痙攣してるね・・・」
「滲み出てくる愛液が白く濁ってきた。これってアレだよね?本気汁・・・」
「穴がパックリ口開けちゃって、別の生き物みたいにビラビラごとヒクついてる・・・」
「クリをこれだけ擦られて、痛くないのかな・・・」
「お腹までプルプルしてきた。もうすぐイッちゃうんじゃない?・・・」
 頼んでもいない実況中継をしてくださるお三かた。

 視られてる・・・私が一番淫らになる瞬間を待ち侘びて、みなさまが固唾を呑まれている・・・
 里美さまの綱引きがスピードアップして、私はもはや限界でした。
「あっ、あーーっ、だめっ、いいっ、いーーっ、イキますぅ、イッちゃいますぅーーーっ」
「あぁーーーーーっ!!!」

 背もたれに背中を押し付けるように頭をのけぞらせ、みなさまに喉仏を見せながら果てました。
 真っ白になった頭の中を、パチパチとまだ小さな星たちが爆ぜているような、強烈なエクスタシーでした。

「あーあ。あっさりイッちゃった。まあ今のは、今日のレクチャーへのギャラ、ご褒美みたいなものと思ってね」
 里美さまが私の顔にお顔を近づけ、笑顔でおっしゃいました。

「マゾ子って、一回イッた後からが凄いらしいじゃない?愉しみだわ」
 私の呼び方から、ちゃん、が消え呼び捨てにした里美さまが、からかうようにおっしゃって、お三かたのほうをお向きにまりました。

「あなたたちも遠慮なさらないで、何でもしたいことしちゃっていいのよ?」
「あ、はい・・・」
 と応えたものの、なんとなく及び腰ふうな倉島さまたち。
 イッたばかりのテラテラな私のマゾマンコを、不安そうに眉根を寄せて、ただじっと見つめるばかり。

「あ、そっか。そうよね。わたしにデリカシーが足りなかったかも。ちょっと待ってて、ちょうどいいものがあるから」
 何かしら思いつかれたらしい里美さまが、おひとりだけご納得のお顔で近くのキャビネットを開け、大きめなダンボール箱を取り出しました。

「考えてみれば今日会ったばかりの、どこの誰ともわからないマゾ子の汗まみれのからだを素手でいじくるのって、気持ち悪いわよね?」
 サラッとショックなことをおっしゃった里美さま。
 私って、気持ち悪いんだ・・・

「いえ、決してそんなことは・・・」
 あわてて否定される倉島さまのお言葉を遮るように、
「ましてやマンコはイッたばかりで、白濁したヨダレをあんなに垂れ流しているんだもの、生々しすぎて年頃の女の子の腰が引けちゃうのも無理ない話よね」
 私を薄笑いで眺めつつずいぶんイジワルくおっしゃって、ダンボール箱から何かを取り出されました。

「はい。これを着けるといいわ。医療用の使い捨てグローブよ。これすればマゾ子もあなたたちも、安心して触り触られ出来るでしょう?衛生的にもバッチリ」
 半透明な白色の薄いラテックス製らしき手袋が、お三かたに配られました。

「うわ。すっごく薄い。コンちゃんくらい?」
「指にピッタリ密着するんだね。なんか感触が自分の手じゃないみたい」
「こんなのしちゃうと、よく映画とかで見る、悪の組織の非道な禁断の人体実験、ぽい雰囲気が漂ってこない?ワタシそういうシチュ、すんごく萌えるんだ」
 愉しそうにはしゃがれるお三かた。

「うちのネットショップの次回の更新でね、ちょうど予定していた特集があるのよ。そのために今、アイテムをいろいろ集めているの。このグローブもそのひとつ」
 里美さまもグローブをお着けになり、両手で、結んで開いて、をしながらおっしゃいます。

「テーマはね、オトナのお医者さんごっこ。それで医療プレイ用のアイテムを、海外を含めてあちこちから取り寄せているの。まだあまり届いていないのだけれど」
 里美さまのグローブ越しの右手人差し指が、私の左内腿を膝の方へとスーッと撫ぜました。
「はうぅん・・・」
 イッたばかりで敏感になり過ぎている肌への刺激に、思わず鼻が鳴ってしまいます。

「ドクターコートとかナース服みたいなコスプレ系はもちろん、聴診器、ピンセットや脱脂綿とか拘束用の包帯とかの小物でしょ」
「あとは、いろんな浣腸器とか、導尿カテーテルや肛門鏡とかも揃えて、かなり本格的に遊べる、医療プレイマニアには堪らない特集になると思うわ」
 お三かたのご様子を窺うと、とくにヨーコさまが興味津々のワクワク顔をされています。

「たとえばこれ、わかる?ちょうど昨日届いたばかりなの」
 里美さまがダンボール箱から引っ張り出されたのは、一見して事務用のハサミのような大きさ、形状の物体でした。
 ステンレス製らしく全体が銀色で、ハサミであれば刃となっている箇所に刃は無く、代わりに重なり合う先端部分2箇所とも、あいだに何かを挟み込めるリング状になっていました。

「あっ!あたし、外国のボンデージ画像でそれ、見たことあります。それで乳首とか肌とか、挟むんですよね?」
 倉島さまが身を乗り出しながらおっしゃいました。

「へー。よくご存知ね。その通り。これでね、マゾ子の勃起乳首を痛めつけちゃうわけ。ご褒美の後はお仕置き、SMの基本の飴と鞭ね」
 
 先端のリング状に私の右乳首が挟まれ、ハサミを閉じる要領で指を絞る里美さま。
 カリカリッと小さな音をたてて冷たい金属の輪に挟まれた乳首がひしゃげ、麻縄に絞られて尖立している右おっぱいの先端に、その用具がぶら下がりました。

「あうぅっ!」
 強めの洗濯バサミほどの疼痛がジンジンと右おっぱいを苛みます。
 さっきカリカリと音がしたところが、ハサミの閉じ具合を調節するストッパーらしく、一度噛み付いたらそのまま、バネ仕掛けの洗濯バサミのように緩むことは無いみたい。
 そのもの自体にけっこう重さがあり、挟まれた乳首が下向きにうなだれて引力に引っ張られています。

「わたしずっと、それって何なんだろう?って思っていたんです。何か化学の実験用具なのかなと思って東急ハンズとかで探しても売っていないし」
 倉島さま、とても嬉しそう。

「これはね、ぜつかんし、っていうの。ぜつは舌のこと。で、かんしは、手術とかで使う鉗子。れっきとした医療用具よ」
 里美さまがもう一本お出しになりながらご説明してくださいます。

「本来は舌を挟んで引っ張り出すための鉗子。ほら、事故とかの緊急時に舌噛んじゃって喉に詰まったりするでしょ?そんなときに気道を確保するために、これで挟んで舌を引っ張り出して出しっ放しにするの」
「この先っちょがリング状のはコラン氏式とかマッチュー氏式って呼ばれるみたい。先っちょの形状がもっと面積広く挟めるように大きくUの字状になっているのがホッチ氏式。そっちは口腔手術に使うんだって」
 おっしゃりながら倉島さまを手招きされる里美さま。

「ほら、これでマゾ子のもう片方のいやらしい乳首も、お仕置きしてあげて」
 舌鉗子を渡された倉島さまがマジマジとそれを見つめています。
「なるほどー。こういう仕組みなんですね」
 何度かカチカチいわせては開き、ご満悦なご様子。

 里美さまに軽く肩を押され、倉島さまが私の上半身のほうへいらっしゃいました。
「し、失礼します・・・本当に挟んじゃっていいんですか?」
 倉島さまが幾分おどおどされながら、私に尋ねてきました。

「ほら、マゾ子?お客様がわざわざお尋ねくださっているのよ?ちゃんとマゾらしくお願いしなさいっ!」
 右乳首の舌鉗子をビューっと引っ張りながらの、里美さまのドSなお声。

「ああんっ、はい・・・どうぞ、私のからだをお好きなだけ、いたぶってやってください・・・」
 もうひとつの乳首にも早く痛みが欲しくて、被虐まみれの科白がスラスラ出てしまいます。

「これって、どのくらい強く挟んでいいものなのですかね?」
 倉島さまが里美さまに振り向きます。
「先っちょがちょこっと浮いてるぐらい締め付けちゃっていいわよ。この子はマゾだから、痛いほど悦ぶわ」
 私に向けて嘲笑うようにお答えになる里美さま。

「このくらい、ですかね・・・」
 倉島さまがお持ちになった舌鉗子の先が、背伸びしている左乳首の裾野にひんやり触れました。
「あふぅっ!」
 期待と不安にいやらしい声が、思わず洩れてしまいます。

 リングが肌にギュウっと押し付けられ、カチカチっと小さな金属音。
 乳首の側面が両側から押し潰されて、切ない痛みが広がっていきます。
「あ、ああっ、あうぅぅっ・・・」
 乳首がグンと引っ張られる感覚がしたのは、倉島さまの手が舌鉗子から離れたからで、舌鉗子は、そのまま左乳首にぶら下がりました。

「やっぱり医療用具っていいわね。洗濯バサミとかSM用のクリップとかいかにもなやつとは違って、インモラルなアート的気品があるわ」
 里美さまがビデオカメラを向けながらおっしゃいました。

「確かにその舌鉗子?がぶら下がっただけで、ますます人体実験ぽい絵面になったっすよね?アタシこういうの、すっごく好きなんです」
 ヨーコさまが、うっとりなお顔でおっしゃいました。

「あと2本あるから、下半身も飾ってあげるわね」
 おっしゃった里美さまが、ツカツカと私の動かせない下半身に歩み寄りました。

 マゾマンコに右手が伸びてきて裂け目上を走る2本の縄をつまみました。
 その縄をクリット下の結び目から大陰唇の外側へと左右に分ける里美さまのグローブの指。
 そうすることによって、だらしなく楕円形の半開きになったマゾマンコ穴とすぐ下のお尻の穴まで、みなさまの眼前で遮るものの無い、剥き出し状態となりました。
 あらためて視線がソコに集まってきます。

「舌鉗子のいいところはね、さすがに医療用だけあって、どんなにヌルヌルしていてもしっかり噛み付いてくれるの。こんなにグショグショなマゾ子のラビアでもね」
 里美さまの指が無造作に私の左側のラビアをつまみ上げ、舌鉗子のリングで挟みました。
 ラテックス越しの指の感触は、生身の指よりも無機質な感じがして、粘膜が戸惑いにわななきました。

「うわ、マゾ子のマンコ、湯気が見えそうなほど熱くなっておねだりしてる。さすが色情淫乱マゾマンコね。ステンレスのひんやりが気持ちいいでしょう?」
 どんどんお下品になっていく里美さまの口調。

「あ、いやんっ!」
 舌鉗子に挟まれたラビアがグイッと外側に引っ張られました。
 見る見る半円形に口を開ける私の粘膜。

「ダメダメ、いやっ、いやーっ」
 大陰唇を太腿側に引っ張ったまま、舌鉗子の胴体ごと白い包帯で左太腿に巻き付けられ、粘膜開きっぱなしで固定されました。
 挟まれたラビアにさほど痛みは感じませんが、グイーっと引っ張られて予想外に伸びだビラビラが恥ずかしすぎます。

「これが最後の1本ね」
 心底嬉しそうな里美さまの手が右側のラビアをつまみ、舌鉗子を噛み付かせました。
「ああん、そんな、さ、里美さまぁ、恥ずかしいですうぅ、赦してくださいぃぃ」
 私の懇願なぞどこ吹く風の里美さまが、手際良く右太腿にも包帯を巻きつけました。

 M字大股開きで精一杯に開かれた私の股間。
 それでも飽き足らず大陰唇に噛み付いた左右2本の舌鉗子に依って、中身を奥底まで覗けるように押し広げられた、粘膜丸見えな私のマゾマンコ。
 正面から見れば、股間の中央にピンク色の穴がポッカリ大きく口を空けているはずです。

「うん。一段と恥ずかしい姿になった。これこそマゾ子のあるべき姿だわ」
 ひとり悦に入る里美さまが、またもやビデオカメラを向けてきました。

「すごーい。奥まで全部見えちゃってる。オシッコの穴まで広がって・・・あたし、自分のも含めて誰かの女性器を、こんなに奥までまじまじ観察したことなかった・・・」
 倉島さまが感に堪えないという面持ちでつぶやかれました。

「こんなことされてるのに、本当にマゾ子、悦んでるよね?ほら見て、ピンクの襞の奥からトロトロ溢れ出てくる・・・」
 私より歳下のメグさまが、呼び捨てで呆れたように蔑んでくださいます。

「うん。お尻の穴までヒクヒク蠢いちゃって、クリトリスは今にも弾けそうなくらい腫れてるし・・・確かにこんなの見せられたら、どんどん虐めたくなっちゃうわー・・・」
 ヨーコさまのメガネ越しの瞳にも、嗜虐の妖しい炎が灯ってきた気がします。
 
 私は、泣き出したい気持ちになっていました。
 それは、悲しいわけでも悔しいわけでもなく、どちらかと言えば感動の部類。
 今の自分の惨め過ぎる姿を客観的に見ているもうひとりの自分が感じている、キュンと胸を締め付けるような切ない思いからくる感情でした。
 
「あの、マゾ子って、お尻の、えっと、アナルも虐めていいんですか?」
 ヨーコさまが、我慢しきれなくなったかのように、媚びるような少し照れたご様子で里美さまにお尋ねになりました。

「ええ。マゾ子はベテランマゾだから、それはもちろんオーケーなのだけれど、なあに?あなたはアナルに興味があるの?」
 里美さまが、ちょっとからかうような口調でヨーコさまにご質問返し。

「あ、はい。って言っても自分でするのはちょっとカンベンなんですけれど、ひとのを弄って、その反応を見てみたいっていうのは、すごくあって・・・でも、そんなこと、身近な人には頼めないし」
 照れが消えたヨーコさまは、好奇心いっぱいのお顔。

「うちらって、たまにBLものも書くのですけれど、BLだと使える穴はこっちだけじゃないですか?こんなとこにツッコんで本当に気持ちいのかな、なんて懐疑的になりながら書いていたりして」
「まあ、うちらは男性器が達したときの気持ち良さだってわからないですから、ひっくるめて妄想で書くのも愉しいんですけど、でも、せっかくの機会だし、手袋もしてることだし・・・」

「いい作品を書くために研究熱心なのは、とても良いことよ」
 学校の先生のような若干上から口調でおっしゃった里美さまが、私に目を向けてつづけました。

「マゾ子は、アナルでもちゃんとイケるのよね?」
 なんてストレートなご質問。
「はいぃ・・・」
 なんてはしたないお答え。

「今日はちゃんとキレイにしてきた?」
「あの、えっと一応、こちらへ伺う前にお浣腸は、してきました・・・」
 ランチもバナナだけにして、オフィスを出る前に念の為にと思い、おトイレでぬるま湯のお浣腸を自分でしてきたのでした。

「ほらね。ちゃんとそのつもりだったみたいだから、思う存分、実験してみるといいわ」
 里美さまが、なぜだか妙に誇らしげにヨーコさまにおっしゃいました。

「あ、でも浣腸の実演は勘弁してね。ここ一応お店だからさ、クサイものぶちまけられちゃうと後始末が大変だから。もちろん聖水プレイもだめよ」
 ご冗談めかして笑う里美さま。

「それとローソクプレイもNGね。どんなに注意深くやっても床に垂れちゃうものだから。床にこびりついた蝋をキレイに剥がすのって一苦労なのよ」
「そうそう、ローソクプレイと言えば、セルフボンデージでひとりきりのときに拘束したままするのも、やめておいたほうがいいわよ。火がカーテンとかに燃え移って、拘束してるからうまく消せなくて、それで火事出しちゃった人もいるらしいから」

「浣腸とかローソクプレイをしてみたかったら、事前に言っておいてくれれば場所を用意するなりしてまた、マゾ子を貸し出すからさ」
 完全に、レンタルセイドレイ=モノ扱いの私です。

「あのテーブルに、アナルビーズもバイブもディルドも、他にもいろいろ面白いオモチャを用意しておいたから、好きなだけ持ってきて、自縛の講義をしてくれたマゾ子先生の淫らなからだを存分に労ってあげて」
「はーいっ!」
 里美さまがテーブルを指さすと、お三かたが我先にという勢いでテーブルに駆け寄られました。


非日常の王国で 13


2017年1月2日

非日常の王国で 11

 里美さまの、あからさまに侮蔑的な私のヘンタイ性癖についてのご説明。
 それを驚きと好奇が入り交じった表情で、真剣にお聞きになっているお三かた。
 里美さまのご説明はすべて本当のことなので、どう反応していいのかわからず、ただうつむく私。

 里美さまのお声が途切れたので上目遣いに窺うと、みなさまが黙ってジーっと私を見つめていました。
 正確に言うと、6つの瞳と里美さまが向けるビデオカメラのレンズ。
 お三かたの瞳が淫靡な期待に輝いているように見えました。
 ビデオカメラが向けられたのは、自縛のレクチャーを始めろ、という里美さまの合図なのだろうと理解して、愛用の麻縄に手を伸ばしました。

「緊縛に用いるロープは基本的に、ふたつ折りにして使用します・・・」
 ひとりだけ全裸の状態でみなさまに語りかける、という行為は、思っていたよりもずっと強い恥辱感がありました。

 一般的に、着衣の中にひとりだけ全裸の同性がいたら、周囲の人は混乱や憐憫から、極力その人を視ないようにしてあげると思います。
 それか、面白がってからかうか。
 今の私の状況は、そのどちらとも違っていました。

 遠慮会釈なしに私のからだを凝視してくるお三かたの視線がもたらす、身が焦げるような羞恥。
 そんな不躾が許されるのは、私がお三かたに向かって語りかけているから。
 言わば自分で、私を視てください、とアピールしているからなのです。

 日常生活では見せてはいけないとされる恥部をすべて剥き出しにしている私を、ここぞとばかりに凝視してくるお三かたの刺すような視線。
 まさに、視姦されている、という実感がありました。
 そして更にこれから、私はそれらの秘められるべき箇所を、より扇情的に目立つように、自らの手で縛り上げていくのです。

 体温がジワジワ上がってくるのがわかります。
 早くロープをからだに巻きつけて、もっと淫らな私を視ていただきたい、という欲求が抑えられません。
 視られている、という悦びに酔い痴れながらも極力冷静を装い、レクチャーをつづけました。

「こうしてロープの先端を合わせて、ふたつ折りにします」
 右手に持ったロープを均等に折り返します。
「8メートルのロープですから、4メートルとなりますね。それで、こちらの輪になった部分を首にかけます」
 ロープの折り返し部分を首にかけようと両手を挙げかけたとき、里美さまからお声がかかりました。

「そのチョーカー、外したほうがいいんじゃない?お姉さまからの大切なプレゼントなのでしょう?縄で押し潰されちゃったりしたら一大事じゃない?」
「あ、はい。そうですね」
 別に気にはしていなかったのですが、それもそうだな、と思い、両手を首の後ろに回しました。

 期せずして、マゾの服従ポーズ、のような姿勢。
 両腋の下がガラ空きとなり、おっぱいを突き出すようにみなさまに向けていると、被虐感がグンと高まりました。

 外したチョーカーは、里美さまが受け取ってくださいました。
「これは大事に預かっておくわね。帰るときに渡してあげる」
 イタズラっぽい笑顔の里美さま。

「それで、この垂れ下がったロープを束ねて、からだの正面に順番に結び目を作っていきます。まず胸元・・・」
「慣れないうちは、首周りは大きめな輪にしておいたほうがやりやすいと思います・・・」
「そして同じように、みぞおちのへん、おへその下、股の付け根あたりにも結び目のコブを作っていきます」

 ご説明しながら、首から垂れたロープを捌き、順番にコブを作っていきました。
 眼前のみなさまが真剣なまなざしで、お手元のノートと私を交互に見ています。

「結び目は、完成したときには今より上に動きますから、思うよりも下気味にしておきます。何度か試すうちにわかってくると思います」
「股間のところにふたつコブを作ったのは、縄が食い込んだときに性器・・・えっと、クリトリスを擦って、刺激してくれるように、です・・・」

 自分で口にした言葉のはしたなさに、ゾクゾクしちゃっています。
 私の当該器官は、すでにジンジン痺れて腫れ上がっていました。
 みなさま嬉しそうにニヤニヤ。

「結び目を作り終えたら、余ったロープを股のあいだにくぐらせて、背中へ持っていきます・・・」
 みなさまに見えるようにと、からだを反転してお尻を向けました。
「首の後ろで輪になっているところに、束ねた二本のロープをくぐらせます・・・」

 ロープを引っ張ると、コブが股の亀裂に食い込みました。
「んっ!えっと、ここからは、ロープを一本づつ左右に分けて、肌に縄を這わせていきます・・・」
 この辺から私の中の理性は米粒ほどになって心中深く引きこもり、自縛に夢中になっていました。

「首の後ろからのロープを左右に分けて、それぞれ一本づつ腋の下から前へ回し、首からの輪に通します・・・」
 みなさまに向き直り、おっぱいを突き出すように胸を張りました。

「輪に通したら折り返し、おっぱいの上の方に這わせて、また背中に回します。左右均等に力を入れるようにすると模様が綺麗に仕上がります」
「それぞれのロープを背中で交差させ、再び前に回します・・・」

 縄がおっぱいの皮膚を這うたびに、淫らな声が出そうになって困りました。
 乳首がこれ以上ないくらい猛りきって、みなさまのほうへと背伸びしています。
 当然、みなさまの視線が刺すように、そこに集中しています。

「戻ってきたロープをふたつめの結び目とのあいだの輪に通し、今度は下乳持ち上げるような角度で背後に回します・・・」
「私は、おっぱいをギュッと絞られるような縛られ方が好きなので、胸元と次の結び目との間隔を狭くして、下乳を潰すように縄が這うようにしています・・・」

 自分のヘンタイ嗜好が、正直にスラスラ口についてしまいます。
 上下の縄でギューッと絞られたおっぱいの先端は、皮膚が引っ張られて引き攣り、ますます痛々しく尖りきっています。

「同じように背後に回したロープを今度は三番目の輪に通して、背後に回します・・・」
「このように、正面の縄の模様が菱形になるところから、菱縄縛りと呼ばれます・・・」
「この模様が亀さんのように六角形になると、亀甲縛りとなります。亀甲縛りにする場合は、縄をくぐらせる回数が増えるので、ロープを二組繋げて使うことになります・・・」

 縄を肌にのめり込ませるようにギュウギュウ引っ張って、自分の裸身に菱縄模様を作っていきました。
 股の裂け目を縄がヌルヌル滑り、どんどん気持ち良くなってしまいます。

「同じように下腹部の輪にも縄を通して腰に回し、最後に余った縄尻を背中に通る縄に結んで巻き付ければ完成です」
「私は、かなりキツメに絞りましたが、慣れないうちは手順を覚えることを優先して、緩めから始めるといいと思います」
「ご覧いただいておわかりになったと思いますが、正面の各結び目が最初のときより、けっこう上に来ています。この辺の加減は何度か試すうちにわかってくると思います・・・」

 そのときの菱縄自縛は、我ながらとてもいい出来でした。
 綺麗な菱形が素肌に均等に満遍なくピタッと吸い付き、股間のコブもしっかりクリトリスのすぐ下に来ていました。
 
 裂け目を通るロープは、もうすでにグジュグジュ。
 この状態だとローブのどこを引っ張られても、ワレメに食い込むロープが滑り、確実に腫れ上がったクリトリスを潰してくることでしょう。
 事実、少し屈めていたからだを起こしただけで、コブがクリトリスを直撃しました。

「あんっ!、そ、それと、最初は、下半身は、下着を着けたままのほうが良いと思います。じ、直だと、刺激が強いので・・・汚れてもいい下着を着けで練習してください」
 ビリビリッと全身をつらぬいた電流にクラクラしつつ、なんとか喘ぎを押し殺して告げました。

「全身が火照ってるね?気持ち良さそう」
「うん。マゾ子ちゃん、縛ってるうちにどんどんエロっぽくなってった」
「縛り自体は、意外と簡単そうじゃなかった?」
 お三かたが小声で口々にご感想を言い合っています。

「それで、この菱縄縛り自体は、ご覧のように拘束というよりも、からだに縄が這っているという背徳感とかアブノーマルさを愉しむのがメインとなります」
「もちろんキツく縛れば、縄が肌に食い込む拘束感も愉しめますし、先ほどそちらのかたがおっしゃられたように、この上に何か着てお散歩するとか、そういう密やかな愉しみ方もいいと思います」
「とくに自縛の場合は、両手を最後まで拘束することが出来ないので、からだを自由に動かせない系の拘束感を愉しみたいのであれば、最後にもう一本ロープを用意して、後ろ手縛り、というのをするとよいです」

「ただし、自縛の場合、手や腕まで不自由にしてしまうと、抜け出すために前もってそれなりの準備が必要となります。ハサミとかナイフとか。ロープを切って解くことになりますから」
「自縛のときの両手の拘束は、私の場合、なるべくロープを切りたくないので、比較的ラクに外せる手錠とか手枷を使っています」
 さっき里美さまにかけられた重い手錠の感触を思い出し、キュンとマゾマンコの奥が震えました。
 
「以上が菱縄縛りの自縛の仕方です。何かご質問は、ございますか?」
「あ、えっと、ちょっと後ろを向いてもらえますか?」
 熱心にペンを滑らせていたノートからお顔を上げたヨーコさまが、ペンをこちらへ向けておっしゃいました。

「あ、はい・・・」
 みなさまに背中を向けるとき、自然と両手が頭の後ろに挙がっていました。
 肩の動きと共にからだを這う縄全体が上向きに引っ張られ、またしてもコブが肉芽を直撃。
「あふっ!」
 みなさまから見えないのをいいことに、眉根を寄せてはしたない声を小さく漏らす私。

「へー。後ろも綺麗にバッテンのシンメトリーなんだ」
「余った縄はあんなふうにグルグル巻きにしちゃうんだね」
「縄がお尻にかなり食い込んでるよね」
 お三かたが思い思いのご感想をつぶやかれる中、里美さまの愉しそうなお声が聞こえました。

「あなたたち、今、マゾ子ちゃんがしているポーズの意味、知ってる?」
「うーん。よくわからないけれど、あれってアメリカ映画とかで警察が犯人に銃を構えて、フリーズ、ってさせたときの、犯人がする格好ですよね?」
 倉島さまのお声。

「おお、よく知っているわね。マゾ子ちゃん?そのまま前向いて」
 お言葉に従って回れ右をすると、ビデオカメラを構えられた里美さま。

「両手を頭の後ろに当てて、おっぱいも腋の下もおへそも、もちろん性器もまったく隠せないポーズ。これを、マゾの服従ポーズ、って呼ぶの」
「ほら、ワンちゃんやネコちゃんが、かまって欲しいときにゴロンと仰向けになってお腹見せちゃうじゃない?あれと同じよ。マゾっ子がしたら、それは、虐めて欲しい、っていうこと」
「わたしのからだを、どうぞご自由にしてください、っていう服従のアピールね」
 
 自分でも、なぜ今このポーズをしたのかわかっていませんでした。
 マゾモードに入った私にとっては、やり慣れたポーズですから自然と出てしまったのでしょう。

「今の実演で自縛ノウハウはだいたい頭に入ったでしょう?あなたたち、かなり真剣にノート取っていたし」
 おっしゃりながら里美さまが立ち上がり、ツカツカと私に近づいてきました。

「お家に帰ってやってみて、何かわからないことがあったら、またいつでもマゾ子ちゃん呼んであげるからね」
「それにしても、わたしも初めて見たけれど、お見事なロープ捌きだったわ」
 私の横に立たれた里美さまが、私の下腹部を走るロープをつまみ、クイッと引っ張りました。

「あっふぅ!」
 コブがクリット直撃。
 すがる目つきで里美さまを仰ぎ見ます。
 もっとしてください、というお願いを込めて。

「そろそろ陽も傾いてきたし、自縛の講義はここまでということにして、このえっちに縛られたマゾ子ちゃんをみんなでちょっと虐めてみない?」
 いつの間にご用意されていたのか、おっきなリングがぶら下がった真っ赤な首輪を首に巻かれました。
 形といい太さといい、街で見かけるワンちゃんの首輪そのものでした。

「愛しのお姉さまのチョーカーの代わりに、わたしが首輪を着けてあげる。うちのショップオリジナルの、人間のマゾペット用の首輪よ」
「一般的にペットって、首輪を着けてあげた人が飼い主になるわよね?今のマゾ子ちゃんの飼い主は誰?」
 先ほどまでとは雰囲気の変わった低めの冷たい声音で尋ねてくる里美さま。
 あ、この人エスの役、やり慣れている、とすぐにわかるお声でした。

「あ、はい・・・目の前にいらっしゃる、愛川里美さまです・・・」
「飼い主の命令は、何でも聞けるわよね?」
「はい・・・」
 信じられない、という面持ちで里美さまと私の顔を交互に見やるお三かた。

「あのテーブルの上のオモチャ、どれでも好きなのをいくつでも試してみていいわよ。マゾ子ちゃんのからだに」
 里美さまのお顔には、ゾクゾクするほど嗜虐的な笑顔が浮かんでいました。
 ああん、やっぱり、そうなるんだ・・・

「そ、それは面白そうですけれど・・・でも、その、えーっと、マ、マゾ子さんは、それでいいのですか?」
 倉島さまが、戸惑いとワクワク半々みたいな困ったようなお顔でおっしゃいました。

「マゾ子ちゃんには、いいも悪いも無いの。そもそもこの子は、そういうことをされるために派遣された、今日ここでみんなに虐められるべき存在なのだから」
「ほら、こんないやらしい顔になっているのよ?火照っちゃって瞳なんかトロンとしちゃって、虐められたくて仕方ない、っていう感じでしょう?}
 冷たく言い放つ里美さま。

 確かにそうでした。
 この自縛のレクチャーを頼まれたときから私は、そのお相手のお客様に弄ばれることを予想していましたし、期待してもいました。
 自縛をご披露して、終わったらそのまま、お疲れさまー、で解放されるとは、まったく思っていませんでした。
 
 菱縄自縛し終えた瞬間から、私の全身が新たな辱めを期待して疼き始めていました。
 そんなふしだらな期待が、後ろを向いて、とおっしゃられたときに、自然と服従ポーズを取ってしまった理由なのでしょう。

「今日のことはちゃんとマゾ子ちゃんのお姉さまからの許可もらっているの。実は、わたしもマゾ子ちゃんをちゃんと虐めるのは今日が初めてなのよね」
「それに、あなたたちが来る前の打ち合わせでマゾ子ちゃんの口から、すべて従うつもりでここに来ました。何でもご命令ください、って宣言までもらったし、一切遠慮は要らないわ」

「あなたたちも耽美な小説を書いているなら、こんな責めをしてみたいとか、されてみたいとか、あるでしょう?いい機会だから、試してみるといいわよ。マゾ子ちゃんのからだで」
 私の首輪をススッと指で撫でた里美さまが、私の右手を取りました。

「そこの椅子に座って」
 私の荷物をどかして椅子を空けてくださいました。
 あのヘンな形の椅子です。

 一見すると、よくある形のゆったりめなラウンジチェア。
 オレンジ色っぽい赤色で背もたれは短かめ、左右に肘掛けがあって座高高め。

 一番ヘンなところは、お尻を乗せる座面でした。
 普通は四角形の平面ですが、この椅子のは、内側に向けてUの字に抉れていました。
 腰掛けてみると、お尻を乗せると言うよりも、左右の腿で座っている感じ。

 洋式便器の楕円形の便座を思い出していただくと、わかりやすいかもしれません。
 あれが半円形になっている感じ。
 実際に座ると、お尻の真下が空間になるのがわかりました。

「なかなか座り心地のいい椅子でしょう?」
 ご冗談ぽく笑った里美さまが、一度テーブルのほうへ行き、すぐに戻られました。

「みなさんがマゾ子ちゃんにイタズラしやすいように、しばらくのあいだ、恥ずかしい格好で拘束させてもらうわね」
 里美さまが座った私の背後に回り、椅子の背もたれの向こう側に私の両腕を束ね、先ほどの本格的な手錠をカチャンとかけました。

 両腕と背中のあいだに背もたれを挟み込み、背もたれの金属支柱に手錠のチェーンが絡むように後ろ手で施錠されたので、上半身がほとんど動かせなくなりました。
「これでマゾ子ちゃんは、この手錠を外さない限り、この椅子から離れられないわね」
 里美さまが、うふふ、とほくそ笑みました。

 それから里美さまは私の足元に屈み込み、私の左右の足首にそれぞれレザーの足枷を巻いて南京錠で施錠されました。
 足枷の色は首輪と同じ赤で、銀のリングに頑丈そうな短い鎖が繋がっています。

「ちょっと失礼」
 里美さまが私の左足首を持ち、無造作にガバッと持ち上げました。
「ああん!いやんっ」

 いきなり大股開きとなった私の左脚は、あれよという間に左側の肘掛けを左膝の裏側に挟むような形で持ち上げられ、足枷から伸びる鎖の端が、手際よく椅子の裏側に繋がれたようでした。
 肘掛けを膝裏で挟んだ形の左脚は、どんなにがんばっても最早閉じることが出来ません。

「あっ、いやーっ、そんなぁ、里美さまぁーっ」
 右足も持ち上げられる気配を感じて身を捩りましたが、上半身を背もたれに磔られている身ではどうしようもありません。
 あっさりと右側の肘掛けも跨がされて固定され、文字通り、大股開き、の格好になりました。
 間髪を入れず背もたれがゆっくりリクライニングし、上半身が沈んだ分だけ下半身が持ち上がります。
「いやーーーっ!」

 みなさまに股縄の股間を180度近くまで開いて、見せつけていました。
 濡れそぼった無毛の膣穴の中央に、2本の麻縄が吸い付いているはずです。
 椅子のUの字に開いた空間から、ポタポタと淫汁がしたたり、床を汚してしまっているはずです。
 お三かたも立ち上がり、無防備に晒されたその部分を覗き込むように凝視されています。

「エロ過ぎだよね、この格好。見事なM字」
「すごーい。ロープまでグショグショに濡れてる」
「この角度だと、ちょっとロープどけたら、お尻の穴まで丸見えじゃん。信じられなーい」
「確かに、こんな恥ずかしい姿にされたツインテの女の子を、現実に自分の目で見ているっていうことが信じられない。まさに生贄って感じ」

 容赦のないお三かたのご感想に被虐感がグングン昂ります。
 それを煽るように里美さまのビデオカメラのレンズが、動けない私に近づいたり遠のいたり、それこそ舐めるように隅々まで撮影されました。

「倉島さん、さっきのタイマーボックスをちょっとお借りするわね?」
 いったんビデオカメラから目線を外された里美さまがおっしゃり、テーブルの上のタイマーボックスを持ってこられ、椅子の脇に立たれました。

「これが、マゾ子ちゃんにかけられた手錠と南京錠を開けられる鍵」
 短いチェーンに繋がった小さな鍵を、私の鼻先でプラプラ揺らす里美さま。

「みなさんうちのお得意様だから大サービスで、最後はタイマー拘束プレイの参加型実演で締めましょう。マゾ子ちゃん、何時間くらい虐められたい?」
「えっ?あの、その、えっと・・・」
 突然のご質問に、言葉が出ない私。

「あなたたち、今日これからのご予定は?」
「あ、いえ、これといって別に。今日はこのショールームに来ることだけを楽しみにしていましたから」
 倉島さまが、里美さまと私を交互に見ながら嬉しそうにおっしゃいました。

「そっか。それなら別に帰りが遅くなってもかまわないんだ?2時間でも3時間でも」
「はいっ!」
 お三かた、綺麗に揃ったユニゾンのお返事。

「でも、あんまり虐めすぎてマゾ子ちゃんが壊れちゃってもマズイし、まあ、1時間位にしておきましょうか」
 タイマーボックスの蓋を開け、チャリンと鍵をボックスの中に落とした里美さま。

「実際、時間が来て鍵がリリースされたとしても、今のマゾ子ちゃんは、鍵を渡してもらわない限り、自分の力でこの拘束を解くことは出来ないのだけれどね」
 イジワルくおっしゃった里美さまが、蓋に付いたタイマーのダイアルをグルリと回されました。


非日常の王国で 12




2016年12月25日

非日常の王国で 10

 その手錠は、黒光りするスチール製の本格的なもので、両手にかけられると、ずっしりとした重みが両腕に伝わってきて拘束感を増幅させ、私の被虐心を徒に煽りたてました。

「同じ鍵で外せる南京錠や足枷と棒枷も、シリーズであるのよ」
 テーブルの上に置かれた凶々しい拘束具を、みなさまにお勧めになる里美さま。
 それらを手に取り、興味深そうにためつすがめつされるお三かた。
 里美さまは、両手が不自由となった私に何かイタズラを仕掛けてくるでもなく、やがてジーっと機械音が鳴り、ボックスのロックが解除されたようでした。

 里美さまが蓋を開き、手錠の鍵を取り出します。
「はい、これ」
 手錠のままの右手に鍵を渡された私は、左手首に嵌められた手錠の鍵穴を探し、自分で手錠を外しました。
 何かされちゃうかな、とドキドキしていた分、ちょっと拍子抜け。

「いいですね、これ」
 倉島さまが蓋の開いたボックスに手を伸ばしながらおっしゃいました。

「これ買って、ヨーコんちに置いておこうよ。いろいろ使えそうじゃない?」
「うん。試験期間中にマンガやゲーム封印するのにも重宝しそう」
「バイブや電マ入れてオナ禁とかね」
 ワイワイ盛り上がるお三かた。

「これ、輸入品でパテントものだから、定価はけっこうお高いのだけれど、サンプル品のこれでよかったら、値引き出来ますよ?今みたいにお客様にデモンストレーションを数回披露しただけのお品だから、ほぼ新品同様よ」
 ご商売上手な里美さま。

「うわー。ありがとうございます。ぜひお願いします。これはサークルの備品としてサークル費で落としちゃおうよ」
 倉島さまのお言葉の後半は、他のおふたかたへのご提案でした。

「他に何か、気になるものはあります?」
 里美さまがみなさまにお尋ねしました。
「あ、さっきの、輸入品、っていうワードで思い出したのですけれど・・・」
 倉島さまがノリノリな感じで手を挙げられました。

「ネットで見れる外国のボンデージものの動画とかでよく、何て言うのかな、機械仕掛けのえっち道具があるじゃないですか?棒の先端にバイブが付いていてピストン運動をくりかえす機械、みたいな・・・」
「ファッキングマシーン?」
 メグさまがポツリと語尾を上げた疑問形。

「そう!それ。ファッキングマシーン。でも、挿入するみたいな直接的なのじゃなくて、あたしが気になるのはスパンキングの機械なんです」
 倉島さまが若干照れたようなお顔でおっしゃいました。

「セルフボンデージして、自らお尻を突き出して機械仕掛けの鞭にお仕置きを受ける、っていう絵面にすごくウズウズしちゃうんです」
「スパンキングってひとりじゃ出来ないじゃないですか?出来ないこともないけれど、自分ですると打たれるタイミングわかっちゃうからいまいちつまらないし。だからああいう機械、欲しいなって」

「扇風機の羽根を外して自分で作ってみようかな、と思っちゃうくらい欲しいんです。でも扇風機だと一定速度の乱れ打ちしか出来なそうだし。改造しようにもあたし、機械関係、疎いし」
「打つ強さを調節出来たり、打つタイミングをランダムに設定出来たらいいですよねー」

 うっとりしたお顔の倉島さまの視線が、なぜだか同意を求めるように私を視ています。
 私も、そんな機械があったら、絶対欲しいな、とは思いますけれど・・・

「なんだ、そんなにお尻叩いて欲しいなら、言ってくれればいつでもやってあげるのに」
 ヨーコさまがニヤニヤしながら、倉島さまの肩を軽く小突きました。

「そういうんじゃないの。何て言うかな、えっちな妄想を巡らせて、その世界観の中で囚われの身となって拘束されて、延々とお仕置きされるのが気持ちいいと思うのよ。お赦しくださいー、って哀訴懇願しながら。それこそがセルフボンデージの醍醐味じゃない?」
 熱く語る倉島さま。

「生憎うちのラインアップは、まだそこまで充実していないの。ごめんなさいね」
 申し訳なさそうにおっしゃった里美さまのお顔が、すぐにほころびました。

「でも安心して。うちのショップはその辺もちゃんと視野に入っていて、今開発中だから。海外では市販しているメーカーもあるけれど、輸入ものはやっぱり値が張っちゃうのよね」
「仕組みは単純なものだし国内で作ったほうが、より使い勝手の良いものが安価で出来そうだから、今、ある精密機器メーカーと共同開発中なの。さっきおっしゃったファッキングマシーンみたいなのも含めて、その手のマシーン類全般をね」

「完成したらネットに載せるよりも早く、真っ先にお知らせするから、またここに遊びにいらっしゃい」
「はーい!」
 
 元気良く響いた、お三かたのお返事。
 私もそれは、とても愉しみ。
 ただ、このショップで売るのであれば、きっと試作段階から私が呼び出され、実験台にされることになるのでしょうけれど。

「それじゃあそろそろ、自縛の講義に移りましょうか。マゾ子ちゃん?よろしくね」
 唐突なバトンタッチに心臓がドキン。
 とうとう、このかたたちの前で全裸になるんだ・・・
 鼓動が口から飛び出しそう・・・

 でも、ずっとみなさまのお話をお聞きしていて、お三かたに性癖的な親近感も湧いていたので、同じくらいのワクワクゾクゾクを感じているのも事実でした。

「自縛の前に、まずお買い上げいただいた麻縄のメンテナンス方法から教えてあげて」
 里美さまのお言葉で、倉島さま以外のおふたりもそれぞれ、ご自分のバッグからノートとペンを取り出されました。

「へー。現役の学生さんはさすがに真面目ね。ノート取るほど真剣に聞いてもらえるなら、マゾ子ちゃんも講義のやり甲斐があるわよね」
 からかうみたいに私を見る里美さま。

 私は緊張しつつ、ご説明のために昨夜まとめておいた自分のノートをバッグから取り出しました。
 それと、愛用のロープを入れた大きな巾着袋。
 これは、中学校のとき母が作ってくれた麻布の体操服袋でした。

「そう言えばみなさんて今、何年生なの?」
 里美さまのお言葉に、すぐヨーコさまが応えました。
「アタシとメグは2年で、レイちゃんが3年。耽美研的には、もうひとりづつ2年生と3年生がいます」

「へー。みんなマゾ子ちゃんとそう歳が変わらないのね。むしろ歳下かも」
「えーーーっ!?」
 久しぶりのお三かたのユニゾン疑問形。

 私がもしも四大に行っていたら今3年生ですから、倉島さまとは同級生、他のおふたかたは一年歳下です。
 そっか、同級生や下級生の前で私はこれから、自分のヘンタイ性癖をひけらかすために、ひとりだけ全裸になるんだ。
 学生時代に果たせなかった妄想が現実になるような気分になり、その頃にひとり遊びしながら想像していた恥辱と被虐の感覚がまざまざと脳裏によみがえりました。

「どうしよっか?このまま始めてもいけれど、自縛の実演もするのだから、このままだとこのテーブルが邪魔になって、マゾ子ちゃんの下半身が見えにくいわよね?」
 里美さまがお三かたに問いかけました。

「うーん。そうかな・・・そうかも、ですね・・・」
 想定外のご質問だったらしく、戸惑ったようなご反応の倉島さま。

「あちらへ移動しましょう。せっかくいらしたのだから、かぶりつきで観ていただいたほうがいいもの。机が無い分、ノートが取りづらいかもしれないけれど」
 
 里美さまが指さされたのは、長方形のテーブルの短いほうの辺の先、マネキンの林とは反対側の壁際でした。
 そこだけショーケースの並びが途絶え、ヘンな形をした大きめの椅子以外何も置かれていない、ちょっとしたスペースになっていました。

「さあみなさん、ご自分の椅子とノートだけ持って集合!」
 里美さまが立ち上がりました。

「マゾ子ちゃんは、あそこの壁際、椅子の脇辺りで、悪いけれど立ったまま講義してね。荷物はあの椅子の上に乗せておけばいいわ」
 
 里美さまが指さされたヘンな形の椅子には、なんとなく見覚えがありました。
 ずっと以前、やよい先生とミイコさまに連れられてローソクプレイをするために訪れたSM専用ラブホテル。
 そこにあった、えっちな仕掛けがたくさんある椅子によく似ている気がしました。

 そんなことを考えてゾクゾクしているうちに、みなさまが私の前に集まってきました。
 テーブルを背に私を扇型に囲むように腰掛けたみなさまと私の距離は、ほんの2メートルに満たないくらい。
 こんな至近距離で・・・
 
おまけに私の右側は真ん中分けカーテンで可愛らしく飾られた素通しの窓。
 もう夕方5時近いのに、梅雨明けし夏に向かってどんどん伸びる明るい西日が射し込む中、路地を隔てた向かい側のビルの壁と窓が見えていました。

「さあ、これでいいわね。それではマゾ子先生、お願いしまーす」
 里美さまの茶化すようなお声に促され、ペコリとお辞儀をひとつ。

「えっと、麻縄っていうのは、普通の荷物を縛る用とか園芸用のを買うと、工業用のタールとかお肌に良くない成分を使って固めている場合があるので、一度煮詰めて洗い流し、再度なめす必要があります・・・」

 自宅でまとめてきた要件のメモをチラ見しながら、我ながらぎこちなくお話を始めました。
 私から見て、右から順番にメグさま、ヨーコさま、倉島さま、里美さま。
 至近距離から真剣な瞳たちがジーーっと私を見つめています。

「でも、今日お買い上げいただいたロープは、ちゃんと人間を縛る用に作ってありますから、この工程はいりません。すぐ使うことが出来ます・・・」
 私が、人間を縛る用、と言ったとき、みなさまクスクスと笑われました。
 それを聞いて私も幾分リラックス。

「麻縄は植物由来ですから、湿気でカビが生えたり腐ったりもしちゃいます。なので、もしも濡らしちゃった場合は、水分をよく拭き取ってから充分に陰干しします。直射日光で乾かすと縄が硬くなってしまうので、縛り心地が悪くなります・・・」
「縄が乾燥したら油を縄全体に塗りこんでなめします。ベトベトにするのではなくて、極少量を手に取って縄を滑らせて揉み込む程度で大丈夫です。これで縄がより柔らかくなります・・・」

「塗る油は、馬油とかオリーブオイルとか、人それぞれ違っているようですが、私は、動物性よりも植物性のほうがいいかな、と思ってホホバオイルを使っています。これならお化粧品でもありますし、お肌に悪いということは無さそうですから・・・」
「保管するときは、緩めにまとめて、通気性のいい布袋に入れておくのがいいです。ギュッと縛っておくと、その形のまま折れグセがついちゃいますし、ビニールの袋だと蒸れて湿気てカビることがあるらしいので・・・」

 私の説明を真剣にノートに書き取るお三かた。
 私とノートを交互に見つめ、ときどき視線がチラチラ股間に集まるのは、私のスカートが短か過ぎるためでしょう。
 お話の合間に姿勢を変える動きだけで、明るいグレイの裾からあっさり黒い下着が覗いちゃっているはずです。
 その視線が恥ずかしいのに気持ち良くて、クロッチ部分がべったり粘膜に貼り付いているのが自分でわかりました。

 その後、縄の表面が毛羽立ったときの処理の仕方や、短く切ったときの両端の処理の仕方、などをご説明して、まとめにかかりました。

「縛り終わった後は、縛られた人の汗やいろんな体液が縄に滲みついていますから、今ご説明したようなお手入れの工程を施してあげてくださいね」
 言いながら、自分の巾着袋から愛用の麻縄二束を取り出しました。

 いよいよです。
 いよいよ私は、みなさまの前で自縛ショーを行わなければならないのです。
 自分の麻縄を手に取った瞬間に、自分の中のマゾ性がジンワリと増殖し、頭の中の理性が隅っこに追いやられるイメージが見えました。

「ちょっと見せて」
 里美さまが右手を伸ばし、私の手の内から一束の麻縄を攫っていきました。
「うわー。ずいぶん年季が入っているのね。柔らかくってテラテラして。縛り心地良さそう」
 横並びのみなさまに私のロープを回して触らせる里美さま。
「やっぱり新品とは、かなり色合いが違うんですね。縄が生きているみたいに艶めかしい感じ。手触りもしなやか」
 倉島さまのご感想。

 里美さまが後を引き取ってつづけました。
「そうね。このテラテラどす黒い艶光りは、今までマゾ子ちゃんが自分でとか、お姉さまとかに緊縛された、その苦痛と快楽の証拠が蓄積されているんだよね。ほら、ここなんか赤い蠟が点々と滲みついてる」
 ワザととしか思えないあからさまに恥辱的なご指摘に、私のマゾ感度がグングン上昇しちゃいます。

 今日持ってきたロープは、やよい先生から高二の頃プレゼントしていただいて以来ずっと愛用してきたものでした。
 このロープでやよい先生に縛られ、シーナさまにいたぶられ、お姉さまに辱められ、もちろんそのあいだ数えきれないくらい自縛しました。
 私の汗とよだれと淫らな愛液がたっぷり滲み込んだロープ。
 そんなロープを同い年くらいのかたがたに、じっくりと見られている恥ずかしさと言ったら・・・

「さあ、それではマゾ子ちゃんご愛用の麻縄での熟練のロープ捌きを、じっくり見せていただきましょうか」
 ロープを返してくださった里美さまがからかうようにおっしゃり、ご自分の膝の上のハンディなビデオカメラを手に取られました。
 椅子に乗せたお尻を浮かし、一斉にグイッと身を乗り出してくるお三かた。

「あのう、ちょっとその前に、あそこの窓のカーテン、閉めませんか?」
 ずっと気になっていたことを、おずおずと懇願する私。
「えっ?ああ、あの窓?大丈夫よ。向かいのビルの窓、開いたことないもの。ここは2階だし。せっかく日当たりいいのにカーテン閉めたら暗くなって、お待ちかねの実演が見にくくなっちゃうじゃない?」
 にべもなく却下される里美さま。

 期待していなかった分、失望もありませんでした。
 私は言いなりの身。
 カーテンを閉じて欲しいなんて要求すること自体が分不相応なのです。
 窓から誰に視られてしまおうが、不服を言える立場ではないのです。
 被虐が極まって覚悟が決まりました。

「それではこれから、ご要望いただいた、菱縄縛り、の自縛の方法をご説明します」
 正面を向いてみなさまに告げました。
 それから、ロープを椅子の上に一旦置いて一呼吸ついて、つづけました。

「縄の走り具合がみなさまによくわかるように、失礼してここでお洋服を脱がさせていただきますね」
 考えていた科白がスラスラっと口をつきました。
 自分を追い詰め、逃げ道を塞ぐために自から口に出した自虐的な科白に、自分でキュンキュン感じてしまっています。

 私が人前で裸になるときは、ルールがありました。。
 イベント明けの次の日、多汗症のドSで男嫌いな裏生徒会副会長、のコスプレをされたミサさまが、キャラと同じ口調なのであろう、ドS全開でおっしゃったお言葉。

「視られて一番恥ずかしい部分を最初にさらけ出すのがマゾ女の作法ってものだろう?」
「今後貴様はいついかなるときでも、裸になれと言われたら真っ先に下半身から脱いで、貴様が言うところの、剥き出しマゾマンコ、をまっ先に世間様に露出するのだ」
「これは絶対服従の命令だ。わかったな?」

 そう、私が誰かに裸をお見せするためにお洋服を脱ぐときは、必ず下半身から露出しなければならないのでした。
 あの日以来私は、お家でひとり、お風呂に入るときでさえ、このルールを守っていました。
 理不尽なご命令を守り従うことが、マゾ的にとても気持ち良いのです。
 今は、お姉さまの会社から派遣されたマゾペットとしてのお勤め中ですから、当然、このご命令を守らなければいけません。

 みなさまに深々とお辞儀を一回してから、おもむろに両手をウエストへ持っていきました。
 里美さまも含めて、おやっ?というお顔になるみなさま。

 ミニスカートのホックを外し、ジッパーをジジジっと下げます。
 ストンと足元に落ちたグレイの布片。
 黒の小さなショーツが丸出しとなりました。

 つづいて上半身を屈め、両手をショーツの両サイドにかけます。
 チラッと上目遣いにみなさまを窺うと、揃って、えっ!?っていう驚いたお顔。
 被虐度フルの陶酔感と共に、一気にショーツをずり下ろしました。

「えーっ!?下着も?」
「なんで下から先に?」
「あっ、毛が無い」
「キレイなパイパン・・・」
「濡れてる・・・」
「もう濡れてる・・・」
「信じられない・・・」

 至近距離から聞こえてくるヒソヒソ声に辱められ、粘膜がキュンキュン疼くのがわかりました。
 マゾマンコからか細い糸を引いてしとどに汚れたクロッチを見せるショーツが、両足首のあいだで、一文字に伸びきっています。
 ゆっくりと両足首からショーツを抜き、濡れたクロッチ部分を表側にして折りたたみ、椅子の上に置きました。
 もう一度ゆっくり屈んでミニスカートを拾い上げてから、休め、の姿勢でまっすぐみなさまのほうを向きました。

 視線の束が私の恥丘に集中しています。
 里美さまのビデオカメラもそこに向いています。

 みなさまに向いたまま、今度はベストの袖から両腕を抜きます。
 首からベストを抜いた後、今度は右手をブラウスの胸元へ。
 上から順番にひとつづつ、ボタンを外していきます。
 きついブラウスの圧迫が緩み、押し潰されていたおっぱいがプルンと息を吹き返します。

 私、今、同い年くらいの女子大生のかたたちの前で、ストリップをしているんだ・・・
 全裸になったら、自分を縛り付けて淫らに身悶える様を、こんな至近距離から彼女たちに視られてしまうんだ・・・
 内腿を雫が滑り落ちる感触がありました。

 ブラウスを取ると、残ったのは黒いハーフカップブラジャーだけ。
 カップの内側で乳首が痛いほど背伸びしているのがわかりました。
 食い入るような視線のシャワーを浴びながら、背中のホックを外しました。

「乳首、すごく勃ってる・・・」
「やっぱりおっぱい大きい・・・」
「ちょっと垂れ気味・・・」
「全部脱いじゃうんだ・・・」
「水着とかレオタじゃなくて裸で縛るんだ・・・」
「まさか全裸になるなんて、思ってもいなかった・・・」

 驚嘆なのか愚弄なのか、ご遠慮の無いヒソヒソ声を浴びながら全裸で立ち尽くす私。
 右横の窓からかなり傾いた陽射しが、ちょうど私のおっぱいから太腿までを明るく照らしています。
 私、今日初めて訪れた他人様のお店で、今日初めて知り合った人たちの前で全裸になっている・・・
 正確に言うと、白い三つ折りソックスとスリッパだけは履いていましたが、ここにいる五人の女性の中、ひとりだけ裸の私。

「どう?マゾ子ちゃんのからだ、えっちでしょう?」
 呆然とされている風のお三かたをからかうみたいに、里美さまがお声をかけました。
「あ、はい。あんな見事なパイパン、見たことないっす。ひょっとして生まれつき?」
 ヨーコさまが上ずったお声でおっしゃいました。

「ううん。マゾ子ちゃんはマゾだから、オマンコを隠すものは必要ないの。スジもヒダヒダも中のピンク色まで全部、隅々までみんなに視てもらいたくて永久脱毛したそうよ」
「うへー。本当にドエムの露出狂さんなんですねえ。そんなのAVかエロマンガの中だけかと思ったら現実ににいるんだー!」
 ヨーコさまのお声に、好奇からくる嗜虐が混ざってきている感じがしました。

「こんな普通に日常的な公共の場で生身の裸を見せられちゃうと、見ているこっちのほうがなんだか照れちゃいますね」
 倉島さまがお言葉とは裏腹に、私のバスト付近をじっと凝視しながらおっしゃいました。

「マゾ子ちゃんはね、恥ずかしいのが快感なのよ。今日だって、下着姿とかレオタード着て縛ってもいいのよ、って言ったのに、自発的に全裸になっちゃったのだもの」
「見て分かる通り濡れてるわよね?乳首もビンビン。マゾ子ちゃんは、自分を辱めたいタイプのマゾなのよ」

「こんなところで裸になっていること、あなたたちに視られていること、これから自分で自分を縛ること、の全部に感じちゃって、発情しているのでしょうね」
 里美さまが、舌舐めずりまで聞こえてきそうなほどのワクワクなお声で、私を見つめつつおっしゃいました。

「ほら、あのエロく火照ったマゾ顔を見てごらんなさいな。あんな蕩けるような顔していたら、誰だって思わず、もっと虐めてあげたくなっちゃうでしょう?」


非日常の王国で 11


2016年12月18日

非日常の王国で 09

「さあ、どうぞどうぞ。ゆっくり見ていってくださいねー」
 満面笑顔の里美さまにつづいて、ドアの向こうからショールームへと入ってこられたお客様がた。

 最初にお顔が見えたのは、ショートカットで涼しげな目元が理知的な印象の和風美人さん。
 スレンダーな体躯に胸元が大きめに開いたざっくりしたワンピース姿が、アンニュイな色香を漂わせています。

 つづいて、ユルふわヘアーにボストン型メガネでTシャツにジーンズの、見るからに好奇心旺盛そうなキュート系メガネっ娘さん。

 最後に、なぜだか警戒されているような真剣な表情でしすしずと入ってこられた、前髪パッツンのゼミロングでハーフっぽいお人形さんみたいなお顔に、ロリータ系モノトーンの半袖レースワンピをお嬢様風に着こなしたお洒落さん。

 お三かたともお口を、うわー、という形にポッカリ開けて、お部屋を見渡しました。

 里美さまがこちらへ近づいてきて、テーブルの傍らに立っていた私の横に並びました。
 お三かたの視線が、ご遠慮がちながら訝しげに私へと集まります。
 私は、ドキドキしつつもお愛想笑いに努めて小さく会釈し、いらっしゃいませ、とご挨拶しました。

「この部屋にあるものは、どれでも手に取って、気になることがあったら何でもわたしに聞いてください。どうぞごゆっくり」
 里美さまがおっしゃると、はーい、という元気なお声とともに、お三かた共ダダッと壁際のマネキンとトルソーの林に駆け寄りました。

「うわーエロい!このマイクロビキニ、松井先輩とか、超似合いそう」
「こっちのボディスーツはぜひ、レイちゃんに着て欲しいな。ほら、バストとお股のところがジッパーで開くようになってる」
「絶対いやよ。第一あたし、こんなに胸ないもん」
「だったらこっちのアミアミボディスーツは?」

 思い思いにマネキンを指差して、かまびすしいお客様がた。
 そのお姿を背後からニコニコ笑顔で眺めている里美さま。
 私はと言えば、この人たちの前でこれから裸になるんだ、とドキドキとキュンキュンの二重奏。

 お客様がたはそれから、ショーケースを順番に吟味しながらお三かただけでキャッキャウフフと盛り上がっています。
 里美さまと私は、テーブルにお尻を預けて為す術なく見守るだけ。
 このままでは埒が明かないと思われたのでしょう、やがて里美さまが明るくお声をかけました。

「倉島さんご注文のロープは、こちらにご用意してありますよ。あと、スイッチレスバイブがご覧になりたいとおっしゃっていたかたはどなたかしら?」
「あ、はいはいアタシでーす」
 どなたかわからないお声とともにお三かたがテーブルに近づいてこられました。

 高級そうな和紙に包まれた生成りの麻縄をテーブルの上に置く里美さま。
 おずおずと手を伸ばされたのは、ショートカットの彼女でした。
 このかたが、倉島さま、のようです。
「8メートルを2束ね。使用前のなめし方とかメンテナンス方法は、後で説明するわね」
 恐る恐るという感じで和紙の包みに手を伸ばされる倉島さま。

「それで、バイブは?」
「あ、はい。アタシです」
 メガネっ娘さんが元気に手を挙げました。
「これがサンプルね。ご購入されるなら、新品が用意してありますから」
 ミニチュアの雪ダルマさんみたく大きさの違う球体が重なった形状をしたピンク色の物体を、里美さまがメガネっ娘さんに渡しました。

「ギュッと握ってみて」
 里美さまがイタズラっぽくおっしゃいました。
「キャッ!」
 小さな悲鳴をあげたメガネっ娘さんが、握りしめた右の掌をあわてて開きました。

「締め付けると震える仕組みなの。キツク締めるほど震えも激しくなるのよ」
 再び掌を閉じるメガネっ娘さん。
「あー、気持ちいいー」
 握った拳から低く、ヴゥーンという音が聞こえます。

 私は、イベントの最後のほうで着せられたCストリングを思い出していました。
 膣と肛門に突起を挿入して装着する、あの卑猥極まりない悪魔の下着。
 そのCストリングの膣へ挿入するほうの突起が、今メガネっ娘さんが握っているバイブレーターと同じ仕組みでした。

 そして私はステージ上で、実際にそのデモンストレーションをすることを命ぜられ、70名以上のお客様と関係者の方々が見守る前で、淫らに昇り詰める姿をご披露してしまったのです。
 あのときの被虐と恥辱と、それらを上回るほどのからだが消えてしまいそうな快感を全身が思い出し、しばしウットリしてしまいます。

「もしよろしければ、試してみていいですよ。挿入するのなら、この避妊ゴムを被せてね」
 メガネっ娘さんにおっしゃったのであろう、美里さまのお声で我に返りました。
「えっ!?ここでですか?いえ、ま、まさかっ、そんなこと出来ないっすよー」
 メガネっ娘さんが盛大にあわてふためいて、右手をブンブンお顔の前で左右に振っています。

「みんながいて恥ずかしいのなら、そこの右手がおトイレだから、その中でいかが?」
 里美さまがイタズラっぽくニコニコ顔でお薦めすると、他のおふたりも口々に、
「やってみなよ、ヨーコ。せっかく言ってくださるんだから」
「そうだよ。ここに来る途中、すごく楽しみって大騒ぎしていたじゃない?」
 からかうように囃し立てます。
 メガネっ娘さんは、ヨーコさまというお名前みたいです。

「いえいえ、買いますから。実物見て握って良いものだってわかりましたから、お試ししなくても大丈夫ですから」
 ずいぶんと焦ったご様子で弁解されるヨーコさまに、みなさま、あはは、って大笑い。

 そんな和気藹々のおしゃべりのあいだも頻繁に、お客様のお三かたと私で視線が合っていました。
 顔にお愛想笑いを貼り付けたままの私を、おしゃべりの合間合間にチラチラ盗み見てくるお三かたからの視線。
 
 気がつくたびに視線を合わせ、ニコッと微笑みかけました。
 だってみなさま、会社にとって大切なお客様ですし、私は買っていただくほうの側ですから。
 でも、みなさま決まり悪そうに、ササッと目を逸らしてしまわれます。

 そのご様子に気づかれたのでしょう、里美さまが愉快そうにみなさまにおっしゃいました。
「みなさん、ずいぶんこの子が気になるみたいね?ごめんなさいね、紹介が遅れてしまって」
 テーブルのほうに一歩近づかれました。
「立ち話もなんだから、いったん座りましょうか。せっかくいらしたのだから、みなさんといろいろおしゃべりもしたいし」

 里美さま自ら椅子を引いて、立っている私の横の席にお座りになりました。
 テーブルの向こう側に集まっていたお三かたも、つられるように着席されました。
 2対3で向かい合う形になったのですが、先ほど里美さまが、紹介が遅れて、とおっしゃったので、これからみなさまに紹介されるのだろうと、座りそびれる私。

「この子はね、今日これからみなさんに麻縄での自縛を披露してくれる、名前は、うーんと、そうね、エム・・・マゾ子ちゃん」
 身も蓋もない名前で呼ばれ、カッと全身が熱くなる私。

「えーーっ!?」
「マジですか?それちょっと。ヤバイんじゃ・・・」
「うんうん。ハンザイの臭いが・・・」

 口々に驚きのお声をあげられるお三かたに、嬉しそうな里美さまがニッコリ笑ってつづけました。
「やっぱりそう見える?でも大丈夫。安心して。こう見えてもこの子、ちゃんと成人しているから」
「えーーっ!?うそぉ」
 再びあがる驚きのお声。
 年甲斐もないツインテールと学校の制服風衣装に、みなさますっかり騙されてくださったようでした。

「どう見てもJK、下手したらJCに見えますよぉ?」
 引いたお顔の倉島さま。
「そうそう。なんか今にも、ジャッジメントですのっ、とか言い出しそうな感じ」
 ヨーコさまが興味津々の瞳で私を見つめながらおっしゃいました。

「あ、やっぱりわかってくださったのね、コスプレ。同人活動されているってお聞きしたから、ウケるかなと思って、マゾ子ちゃんに頼んで着てもらったの。良かったー」
 悪戯が成功した子供みたいに、心底嬉しそうな笑顔の里美さま。

「でも、キャラよりもこの人のほうが、おムネに存在感が有り過ぎですよね?」
 ロリータさんが小声でポツンとおっしゃり、ウンウンとうなずかれるおふたかた。

「座っていいわよ、マゾ子ちゃん」
 里美さまに促され、里美さまの左隣の椅子に腰掛けました。
「それに、このマゾ子ちゃんにはね、すでにご主人様がいるの。エスとエムの関係のね。一日中裸でご主人様の身の回りのお世話したり、営業中のコインランドリーで全裸にされたり、いろいろ愉しんでいるみたい」

 私のヘンタイ性癖をあっさりみなさまに暴露しちゃう里美さま。
 里美さまが私の痴態をご覧になったのは、最初のランジェリーショップと先日のイベントのときだけでしたが、きっとお姉さまやスタッフのみなさまから、いろいろ聞いていらっしゃるのでしょう。

「そのご主人様がわたしの知り合いで、その人に頼んで今日、来てもらったの。まあ、マゾ子ちゃんにとっては、ご主人様と言うより、麗しのお姉さま、なのだけれど」
 里美さまのお言葉に、ざわつくお三かた。
「キマシタワー」
 ヨーコさまが嬉しそうにおっしゃると他のおふたりも、キマシ、キマシとつぶやかれました。

「あら?そこに反応するなんて、倉島さんたちは、レズビアンではないの?」
 里美さまが不思議そうなお顔で、お三かたにお尋ねしました。

「うーん、とくにそういう意識はないのですが・・・」
 倉島さまが代表するようにおっしゃると、
「ガチなのはメグだけだよね?松井先輩にぞっこん、だもんね?」
 ヨーコさまがからかうようにロリータさんを覗き込みました。
 ロリータさんは、メグさま、というお名前みたい。
 そのメグさまは、照れたように頬を染めてモジモジしていっらしゃいます。

「もちろん興味はあるのですが、そこまで踏み込んでいないと言うか・・・男に期待していないのは確かですけれど」
 倉島さまが、慎重にお言葉を選ぶようなお顔つきで語り始めました。

「あたし、高校の頃に俗に言う官能小説を読んで衝撃を受けて、それからエロいことに興味を持ったのですけれど、最初に読んだのが所謂、調教もの、だったので、緊縛とか拘束とかに憧れちゃって」
「それでネットとかでそういう創作物をこっそり調べたりしていたのですが、自分が興奮出来るものと、すごくドギツイ描写なのに全然濡れてこないような文章があるのがわかって」
「そういうのってほとんどが男性視点じゃないですか?とくにSMものは、女の子を本当に物扱いして男の性欲の捌け口にするだけ、みたいなのが多くて」

「たまに自分に合うシチュがみつかって、それでオナニーすると、すごく気持ち良くて。ただネットでも好みに合うシチュになかなか巡り会えなくて。それで、自分でもこっそり書き始めたんです」
「その頃、男性との経験もしてみたんですけれど、全然気持ち良くなかったんです。粗野だしひとりよがりだし厚かましいし、すぐにオマエはオレのもの、みたいな勘違いするし」

「それで女子大入って、ちゃんと文章の勉強もしておこうと思って文芸部に入ったんです。文章の創作系サークルで学校公認の部がそこしかなかったので」
「でも、文芸部って言うとお堅いイメージだと思うんですけれど、うちはチャラくて。それもヘンに理屈っぽいサブカルかぶれの、鼻につくチャラさなんです」

「たまにケータイ小説みたいなスカスカの文章書いて悦に入って、今度はどこどこの大学と合コン、とか、男の話ばっかりしてるような人が多くて、全然馴染めなくて」
「それで話の合いそうなメンバー誘って同人サークルを立ち上げたんです。非公認サークルってやつですね。それが今日のメンバー。この他にもうふたりいるんですが」

「無理やり連れて行かれた大規模合コンで、白けて先に抜け出したメンバーなんです。その合コン相手が勘違い野郎ばかりで、そこそこ偏差値高いガッコだったけど、誰でもいいからヤラセロオーラ全開って感じで。サイアクだったよねー」
 ヨーコさまがややお下品な注釈を入れてくださいました。

「そうそう。それで抜け出して女性5人だけで飲み直したら、官能小説の話から思春期のヰタ・セクスアリス話で妙に盛り上がっちゃったのよね。なんだ、みんなムッツリだったんだ、って」
 苦笑い気味の倉島さまが、お話を引き継がれました。

「この子」
 とおっしゃってヨーコさまを指差す倉島さま。
「ヨーコの部屋が学校から歩いて10分くらいなんですよ。そこを溜り場にして同人活動しているんです。耽美小説研究会、っていう名称で」

「大きな即売会にも参加して、結構売れるんです。文芸部にはもう幽霊部員状態。他の文芸部員たちからは、G研、なんて陰口叩かれているみたいですけれど」
「ジー研?」
 里美さまが可愛らしく小首を傾げられました。

「自分で慰める、の自慰ですよ。あたしたちの小説は、主人公がひたすら快楽を追求するような話が多いので、オカズ本だ、自慰研究会だって」
「オリジナルもアニメの二次創作も、BLもGLも、何でも書くんですけれどね。男の一方的な陵辱もの以外なら」

「まあ、女性が読んで気持ち良く濡れるような小説を載せたい、って思っているのは事実ですけれど」
「へー。面白そうね。わたしも読んでみたいわ。面白かったらうちのネットショップで扱ってあげてもよくってよ」
 興味津々のお顔でおっしゃる里美さま。

「あ、それは助かります。ありがとうございます。今度持ってきますね。ヨーコのところからここまでも、歩いて15分くらいですから。あ、もちろん、アポ取った上で伺います」
 倉島さまが嬉しそうにお辞儀されました。

「そんな感じなんで、あたしらはレズビアンて言うよりも、男の手を借りない快楽を追求している、っていう感じなんです」
「ヨーコの部屋で会員同士で、ふざけてちょっと縛ったり、愛撫しあったりもするんですけれど、それも同性の手のほうが繊細で気持ちいい、っていう感じですから、レズビアンていうよりも、相互オナニーと言うか、相手のオナニーのお手伝い、と言うか、みたいな感じなんです。仲の良い女子同士のイチャイチャの延長線上ですね」
 
 せっかく倉島さまが里美さまの疑問にお答えを出されたのに、すかさずヨーコさまが嬉しそうにまぜかえしました。
「ただしメグは除く、でしょ?」

 倉島さまのお話をお聞きして、私も学校時代に、このお三かたみたいに自分の性癖を素直に出せるお仲間が周りにいたら、どうなったかなー、なんて考えちゃいました。
 でもすぐ、今のお姉さまの会社での自分の立場が、同じようなものなことに気づきました。
 そのおかげでこれから私は、すっごく恥ずかしいメに遭うことができるのですし。

「なるほどね。それでセルフボンデージ、というわけなのね?」
 里美さまがご納得されたお顔で、倉島さまに微笑みかけました。

「はい。そういう小説も書きたくて、書くなら自分の身で体験してみたいなと思って、ネットで自縛の方法とかいろいろ調べたりもしたのですが、やっぱり動画では細かい所までわからないので、ここなら教えてもらえるかなー、と」
「もちろん、それは後でご披露しますよ。倉島さんは、拘束される側にご興味がお有りなの?」
「そうですね。するのもされるのもやってみたいですね。肌に縄をかけたまま街中を歩いたりも」

「へー、エス側にもエム側にも興味があるんだ。このマゾ子ちゃんは、野外露出もスペシャリストよ」
「そうなんですか!?」
 一斉に向けられた尊敬のような侮蔑のような、好奇心に満ち満ちたお三かたのまなざしが気恥ずかしいです。

「あと、セルボンデージでアイスタイマーってあるじゃないですか?氷が溶けて鍵がリリースされるまで拘束されたままっていう。身動き取れなかったり、すごく恥ずかしい格好のままだったり、バイブ挿れっ放しだったり。あれも一度してみたいですね。気持ちいいんだろうなー」
 うっとり妄想するかのように宙空を見つめる倉島さまに、同意するようにウンウンうなずかれるヨーコさまとメグさま。
 
 お三かたのご様子に私とかなり近い嗜好を感じ、自分のヘンタイ性癖が全面的に肯定されたような気がして、すっごく嬉しくなってきました。

「アイスタイマーもいいけれど、鍵を容器に入れて凍らせたり氷を沢山用意したり、手間がかかるわよね?まあ、その手間も含めて準備するワクワクソワソワまでもが愉しいとも言えるけれど」
 里美さまが、テーブルにあったスチール製の頑丈そうな手錠に手を伸ばしながらおっしゃいました。

「もっと手軽に、鍵を待ち侘びる方法を教えてあげましょう」
 お手に取った手錠を私の右手首にカチャンと嵌めて、ご自分の左手首にもカチャン。
 私の心臓がドキンと跳ねました。

「こういう、嵌めるときには鍵のいらない手錠ね。これを拘束の最後のカギにするの。自縛でもハーネスでも好きに自分を拘束して、最後に両手を使えないように手錠をするわけ」
 右手に持った小さな鍵をみなさまに見せる里美さま。
「あなたがたのお家の郵便受けは、玄関ドアに付いている?それとも外かしら?」

「うちはマンションの4階なので、ポストは1階のエントランスですね」
 と倉島さま。
 倉島さまは、ご自分のバッグからノートとペンを取り出してメモを取り始めました。
「ワタシは2階だけど、エントランスまで降ります」
 とメグさま。
「アタシんとこは建物が古くて2階建ての1階だから、それぞれ戸別にドアに受け口が付いてますね」
 と最後にヨーコさま。
 
「あら、ヨーコさんのところって、みなさんが溜り場にされているお家よね?それならセルフだけじゃなくて、みんなで集まって誰かひとりをえっちに虐めるときとかにもオススメよ」
 手錠の鍵をプラプラさせながら里美さまがつづけます。

「この鍵をね、ご自宅宛てのご住所を書いた封筒に入れて適当な郵便ポストに投函しちゃうの。ご近所のポストからでも翌日まで戻ってこないわよね」
「たとえば投函した日の夜に手錠を嵌めたとしたら、翌日、郵便物が配達されるまで、どう足掻いても絶対外せないわけ。外したくても手元に鍵は無いのだから。拘束の陶酔感と絶望感がたっぷり味わえるわよ」

「玄関の内側で郵便物を受け取れるヨーコさんのお家なら、足まで縛っちゃってもいいわね。心待ちにしていた郵便屋さんが来たら、這いつくばって玄関まで行って、封筒を破って鍵を取り出して開錠」
「みなさんでイチャイチャするときにも、イジワルに応用出来るでしょ?拘束する側もされる側も、ちょっとした拉致監禁気分が味わえるはず」

「あ、でもひとりのときに後ろ手に施錠しちゃうと、手探りで鍵穴に鍵を挿すことになって意外と手こずるから、事前にちゃんと練習しておいたほうがいいわよ。指で鍵穴の感触がわかるように」
「それと、後ろ手錠って思うよりもかなり不便なの。ものを食べるとか日常生活的にね。自分のからだもまさぐれないから、ひとりのときに自慰的にも愉しみたいならリモコンのバイブとか装着しておいたほうがいいわね」

「ポストが外にあるなら、そこに強制露出プレイが加わるの」
「外に出なくちゃならないから足は縛れないけれど、敢えて外に出るには恥ずかしい格好になって手錠をかけちゃうの。キワドイ水着とか、素肌にブラウス一枚だけとかね。もちろん勇気があるなら全裸でもいいけれど」

「それで、お部屋を出て郵便受けまで取りに行ってお部屋に戻る。途中誰かに会っちゃったら手錠もしていることだし、ハンザイに巻き込まれたのか、って大騒ぎになるかもしれないから、真夜中に取りに行くことをオススメするわ」
「もしも大騒ぎになっても、わたしに責任は無いからね?あくまでも自己責任で、覚悟してやってね」
 里美さまがみなさまを見渡し、イタズラっぽく微笑まれました。

「面白そう!」
 真っ先に倉島さまの弾んだお声。
「今度ヨーコんちでやってみよう。うちのマンション、世帯数多くて夜でも出入り多いから、エントランスに手錠姿で出るのヤバそうだし」

「レイちゃんがアタシんちで拘束姿だったら、アタシ、張り切っていっぱいイタズラしちゃうだろうなー」
 ヨーコさまも弾んだお声で、倉島さまに軽く肩をぶつけられています。
 レイちゃんというのが倉島さまのお名前みたい。

 それにしても里美さま、お見かけによらずそういうアソビにお詳しそう。
 そのお口ぶりは、どう聞いてもご経験者のおっしゃりかたでした。
 意外とSMアソビのベテランさんなのかもしれません。
 私もその、手錠の鍵を郵便で送ってしまう、というひとりSMアソビをすっごくやりたくなっていました。

「ポストが外にあって郵便タイマーが危険なら、もっと手軽に鍵を一定時間使えなくする便利アイテムもあるわよ」
 里美さまがご自分の手首の手錠だけを外して立ち上がり、ショーケースのほうへスタスタと向かって、隣の棚から大きめのダンボール箱を取り、すぐに戻られました。

「これ。タイマー付き収納ボックスゥー」
 青い猫型ロボットさんがひみつ道具を取り出すときのような声色と共に里美さまがダンボール箱から取り出されたのは、20センチ四方位のほぼ正方形なジップロックコンテナみたいな形状の、白い蓋以外透明なプラスティックの箱でした。
 ただし、ジップロックコンテナよりもだいぶ厚いプラスティック製で、かなり頑丈そうな感じです。

「本来は、普段生活する中で感じるちょっとした欲望のコントロールをしたい人たちのために考案されたボックスらしいの」
「たとえば禁煙したい人がタバコを入れたり、受験生が勉強すべき時間だけ、携帯電話とかゲームのコントローラーとか気が散りそうなものを遠ざけたり」

「この蓋のタイマーを合わせて封印すると、合わせた時間にならないと絶対蓋が開かない仕掛けなの。1分間から丸10日間まで、分刻みで好きな時間に合わせられるのよ」

 おっしゃってから不意に私の左手首を取り、さっきご自身で外されたもう片方の手錠を、私の左手首にカチャンと嵌めました。
「あっ!」
 文字通り、あっという間に両手を手錠拘束されてしまった私。

「それでこの鍵をボックスの中に入れるでしょう?」
 透明な箱の中に小さな鍵がチャリンと落下しました。
「で、蓋をしてタイマーを合わせるの。そうね、3分位でいいか」
 蓋の上のダイアルを回してデジタルの数字を 3:00min に合わせました。
「最後にここを押す、と」
 里美さまがダイアルを押すと、5,4,3,2,1のカウントダウンの後、蓋の側面のストッパーがジーっと機械音をたててボックスに嵌め込まれ、タイマーのデジタル数字が秒刻みで減り始めました。

「これでマゾ子ちゃんは、少なくともあと3分間は、この手錠を絶対外せない状況になった、というわけ」
 ニッと笑った里美さまの瞳に再び、妖しい光がより色濃く宿ったように見えました。


非日常の王国で 10


2016年12月11日

非日常の王国で 08

 とある日の昼下がり。
 綾音部長さまからお呼び出しがかかり、メインルームの綾音さまのデスクの前で対面していました。

 その日もお昼休み後にリンコさまからメールでご命令をいただき、すでにとても恥ずかしい格好にさせられていました。
 ちょうどその日はインターネットで盛り上がっているナショナルノーブラデーというノーブラ推奨の日だったらしく、ノーブラなことが一目でわかるお洋服ということで選んだそうです。
 私が着ることを命ぜられたのは、おっぱいのところだけまあるくふたつ、ポッカリとくり抜かれたピチピチのタンクトップ。

 ふたつの穴からおっぱい部分だけを放り出すように全部露出させているのですが、タンクトップが濃い紺色なので白い素肌とのコントラストが余計に際立ち、嫌がらせのように飛び出たおっぱいばかりが目立つ姿でした。
 歩くたびにおっぱいが無造作にプルンプルン暴れるのが、自分の視点で嫌というほど見えていました。
 
 おへそまでに満たないタンクトップの下は、当然スッポンポン。
 タンクトップと同じ色のニーハイソックスを穿いているので、おっぱい部分と同じように、剥き出しな下半身の白さも卑猥に目立っていることでしょう。

 全裸よりも恥ずかしい、そんな破廉恥極まりない姿を更に強調するアクセサリーも用意されていました。
 ネットショップの宣伝用にレビューを書かなくてはいけない、ボディジュエリーの新作商品たち。

 紺色のチョーカーからゴールドチェーンで左右の乳首まで繋がれたニップルクリップ。
 乳首を絞るリングの下にはキラキラ光る金色の小さな鈴がぶら下がっています。

 下半身には、裂け目を囲む左右のラビアに挟んで装着するラビアチェーン。
 股間に垂れ下がったチェーンの先端にも、乳首のと同じ鈴がぶら下がり、動くたびに3つの鈴が軽やかにチリンチリンと小さく音をたてていました。

 本来なら秘めておくべき私の敏感な三箇所の恥部、尖った乳首と潤んだ秘唇を、一際目立たせるようにキラキラ金色に輝くチェーンと3つの鈴。
 そんなニンフォマニアックな私の姿をジロリと一瞥した綾音さまは、とくにご感想をおっしゃることもなくフッと艶っぽく微笑まれてから、おもむろにご用件を切り出されました。

「うちのネットショップがショールーム制度を始めたのは、以前ミーティングで伝えたわよね?」
「はい」

 ネットショップ部門がこちらのオフィス近くにお引っ越ししてきてスペースが広くなったのを期に、実際にアイテム実物を見てみたいというお客様向けに予約制でショールームを開いた、というお話でした。
 予約出来るのは、ネットショップでのご購入履歴が一万円以上ある女性のお客様のみ。
 毎週木曜日と金曜日の午後2時以降であれば、メールかお電話で日時をご予約いただき、ご来店いただいてごゆっくりとアダルティなラブトイズをお選びいただけるという、女性限定のサービスです。

「おかげさまで、コンスタントにご予約もいただいて、順調に売上も伸びているのだけれど」
 綾音さまがパソコンのキーを叩きながらおっしゃいました。
「あるお客様からご来店に際してのちょっとしたリクエストをいただいて、愛川さんからわたくしに相談があったの」
 愛川さんというのは、ネットショップの責任者でイベントのときもお手伝いしてくださった里美さまのことです。

「なんでもそのお客様は、セルフボンデージにご興味がおありで、ショールームに行ったときにロープの扱い方や自縛、自分で自分を縛ることね、について詳しく教えて欲しい、っておっしゃっているのだって」
 綾音さまの視線が、私のタンクトップから飛び出している剥き出しのバストに注がれます。

「そのかたは、購入履歴も多い優良なお客様だから無下にお断りするのもなー、って思ったときに、あなたの顔が浮かんだのですって、愛川さんの頭の中に」
「それでわたくしに相談した、というわけ。チーフに聞いてみたらあなた、チーフに教えられるくらいロープ捌きが上手って言うじゃない。よくひとりで自分を縛って遊んでる、って」
「高校生の頃に、百合草女史に仕込まれたのですってね。エリートじゃない?」

 おっしゃってから私の目を、じーっと5秒間くらい見つめてきました。
 綾音さまのお口からやよい先生のお名前が出て、私はドキン。

「次の金曜日、午後3時にショールーム。4時にご来店の約束だから、愛川さんと段取り打ち合わせして。終わったらこちらへ戻らず、直帰していいわ」
 ハナから私の都合やイエスかノーかの返事など聞くつもりもない、決定事項の業務命令でした。

 お電話の呼び出し音が鳴り、ほのかさまがお出になるお声が背後から聞こえます。
 ほのかさまのお席は綾音さまと3メートルくらいの空間を挟んだ向かい合わせ。
 ほのかさまは、私の剥き出しのお尻と、両腿のあいだにキラキラ光るゴールドチェーンを眺めながらお電話のご対応をされていることでしょう。

「そうそう、当日は、自分で使っている緊縛用の麻縄を持ってくること。それと扱い方をわかりやすくレクチャー出来るように頭の中を整理しておくこと」
「いらっしゃるお客様は、沿線の女子大の学生さんだそうだから、そんなにかしこまる必要は無いと思うわ。すべて愛川さんに従いなさい」
 最後に綾音さまがご命令口調でおっしゃられ、開放されました。

 まったく見知らぬ初対面のかたの前で、緊縛のレクチャーをする・・・
 扱い方をお教えしたら、そのかたをちょっと縛ってみたりするのだろうか?
 ううん、セルフボンデージにご興味、っておっしゃったから自縛の方法が知りたいのでしょう。
 そうすると、私がそのかたの前で実演することになりそう。
 やっぱり裸になるのだろうな・・・

 その日までドキドキしっぱなし。
 お家に帰ると、ずっと昔、私がまだ高校生の頃にやよい先生からいただいた、やよい先生のパートナーであるミイコさま主演の自縛講座DVDを何度も見返し、実際に自分を縛りながら復習しました。
 縛っているうちに自虐オナニーが始まり、ついついキツく縛りすぎて二の腕やおっぱいに縄の痕が残ってしまい、翌日オフィスでリンコさまたちにからかわれました。

 いよいよ当日。
 トートバッグの一番下に愛用の麻縄の束をひっそりと詰め込み、出社しました。
 その日のオフィス勤務者は、綾音さま、リンコさま、ミサさま、ほのかさま。
 黒い首輪型チョーカーを着けているのにお昼過ぎになっても珍しく誰からもえっちなご命令は無く、みなさまから、がんばって、とからかうような激励を受けつつ、3時15分前にオフィスを出ました。

 里美さまのオフィスは歩いて10分くらい。
 大きな通り沿いの地下鉄出入口から裏道に入り、少し歩いた雑居ビルの2階。
 訪問するのは初めてでした。

 一階がセレクトショップの店舗になった小洒落た外観のビル2階に到着したのは3時4分前。
 River of LOVE と書かれた可愛らしい小さな看板が掛かったえんじ色の鉄製ドアの前でインターフォンを押しました。
「ダブルイーの森下です」
 はーい、というお声とともにドアが開き、里美さまがニッコリ、可愛らしいお顔を覗かせました。

「直子ちゃん。わざわざありがとうね。さ、入って入って」
 普通のお家みたく玄関は沓脱ぎになっていて、フワフワしたスリッパを勧められました。
「お客様にゆっくりくつろいでいただきたいと思って、靴を脱いでいただくようにしたの」
 短い廊下の向こうにもう一枚ドアがあり、それを開くとカラフルな空間が広がっていました。

 一見、ファンシーショップのようなポップでキュートな印象。
 明るい壁紙、アートなポスター、整然と並ぶガラスショーケース、ゴージャスなマネキン人形たち。
 ただし、ショーケースに並ぶ色とりどりのグッズたちは、よく見るとみんな卑猥な形状。
 マネキンたちが着ているのは、布面積が極端に少ない下着だったり、スケスケだったり、ラテックスだったり。
 お部屋の中央に6人掛けくらいの大きなテーブルが置いてあり、その上にもアダルティなラブトイズがいくつか並べてありました。

 それでも全体の雰囲気はファンシー側に踏みとどまっていました。
 スイーツの充実した女子向けのオシャレカフェテラスの感じ?
 通りに面した側に並ぶ窓を飾る、真ん中分けの花柄ドレープカーテンがメルヘンチックな雰囲気を盛り上げています。

「ここって、もともとはけっこう広い喫茶店だったの。ショールーム部分は、その雰囲気を残して、壁で区切った向こう側がオフィスと倉庫ね」
 マネキンやトルソーが並んだ壁を指さして、里美さまが教えてくださいました。
 マネキン人形たちの隙間に、そちらへつづくのであろうドアが見えました。

「今日は、バイトの子達には先に上がってもらったから、今ここにはわたしと直子ちゃんだけ。そのほうがリラックス出来ると思って」
 グラスに注いだ飲み物をテーブルの上に置いて、里美さまが微笑まれます。
 今から見ず知らずの人に自分の恥ずかしい性癖をご披露すると思うと、とてもリラックスどころではありませんが、そのお心遣いが嬉しいです。

「ロープは持ってきた?おっけー。わたしも直子ちゃんの自縛レクチャー、楽しみだわ」
 やっぱり自縛を実演することになるようです。

「あの、えっと、縛るときは、やっぱり裸になったほうが、いいのでしょうか?」
 気になっていたことを恐る恐るお尋ねしてみました。
 里美さまは一瞬びっくりされたようなお顔になり、それからクスッと笑われました。

「そのへんは直子ちゃんに任せるわ。裸でも下着でも。なんならここにある衣装で気に入ったのがあったら、着てもいいわよ」
 そこでいったんお言葉を切り、私の顔をまじまじと見つめる里美さま。

「でも意外ね。そんなこと聞くなんて」
 少し苦笑いが混じったような笑顔を作って私に向け、里美さまがつづけました。
「直子ちゃんなら、こういう機会は喜び勇んで全裸に成りたがるんだろうと思っていたわ。ひょっとして何か常識的なしがらみかなにかで遠慮している?ショールームの運営に迷惑がかかるとか?責任者としてのわたし的にはぜんぜんかまわないのよ?」
 私の目を覗き込むような里美さまの視線。

 それまで里美さまとは、あまり親しくお話したことはありませんでした。
 出会いの場であったお姉さまのランジェリーショップでは、店員さんとお客さんの間柄でしたし、就職してからは、ネットショップのご担当者としてお仕事を通したおつきあい。
 イベントのときも、ミサさま指揮の元、パソコンのオペレーターとして楽屋で常にクールにお仕事されていました。

 ただし、それこそお姉さまとの出会いのときから、先日のイベントまで、里美さまは私のヘンタイ性癖の行状を間近でつぶさに目撃されていました。
 イベントの楽屋や打ち上げの席でのリンコさまたちの会話もすべてお耳に入っていたはず。
 私があの場でスタッフ、関係者全員のマゾペットとなったのは、ご存知のはずでした。
 
 それでも、今日も私のことを呼び捨てではなく、ちゃん、付けで呼んでくださったり、他のスタッフのかたたちみたいに、私を辱めて愉しもうとも思っていらっしゃらないようなご様子に見えました。
 そういうことには淡白なかたなのかな?
 でも、ランジェリーショップのときには、気絶した私の膣に指を挿れてイタズラされていたらしいですし・・・
 里美さまとは、あくまでも別々の会社の社員、という関係でもあり、どう接すれば良いのか、決めかねていました。

 出会ったときは、お姉さまと里美さまの店長と店員の関係を超えていそうな深い信頼関係に、お姉さまとの仲を疑ったりもしちゃったけれど、里美さまの品があって凛々しい佇まいは、ほのかさまと通ずるところもあり、大好きでした。
 里美さまもリンコさまたちのように、興味津々でエスっぽく振る舞ってくださったほうが、気持ち的には楽なのですが。

 まあ、いずれにせよ、綾音さまから今日は里美さまに従うように命ぜられていますので、先ほどの、わたし的にはぜんぜんかまわない、というお言葉が里美さまのご希望と解釈し、今日、お客様の前で裸になることは、私の中で決定しました。

「それでね、直子ちゃん、ちょっと変装しておいたほうがいいと思うのね」
 里美さまが真剣なお顔でおっしゃいました。
「今日来る3人の内のおひとりが、ご近所に住んでいらっしゃるらしくて、よくあのオフィスビルのモールにもお買い物に行かれるそうなの」
「今日のレクチャーの後で、そういうところでバッタリ出くわしてしまったら、お互いに気不味いでしょう?お客様も直子ちゃんも」

「えっ!?3人ですか?」
 びっくりして尋ねました。
「あれ?早乙女部長、教えてくださらなかったの?イジワルだなあ」
 苦笑いの里美さま。

「昨日メールが来たの。友達も連れて行っていいかって。同じ大学のサークルのお仲間らしいわ」
「調べてみたら、そのかたたちもうちで数回の購入履歴があったし、そのうちのおひとりは、どうしても欲しいものがあるっていうことだったからオッケーしたの。ちょうど在庫もあったから」

「倉島さん、っていうかたが予約を入れてくださったお客様ね。女子大で文芸系の同人サークルに所属されているみたい」
 
 唐突に里美さまが座っている私の背後に回り、私の髪を弄り始めました。
 私に変装を施してくださるみたい。
「直子ちゃんの髪って柔らかいのねえ。お手入れも行き届いてるからアレンジしやすそう」
 いつの間にかヘアスプレーまで持ち出してきて、左サイドの辺りをまとめ始めます。

「でーきたっと。うわー。すごく稚くなっちゃった」
 5分位の髪弄りの末にお声があがりました。
 コンパクトを目の前に差し出され、鏡を覗き込みました。

 両サイドの上の方で大きな赤いリボンに左右それぞれまとめられ、緩くウェーブのかかった髪が垂れ下がるツインテール。
 正面は真ん中分け。
 ツインテールなんて多分、小学校のとき以来でしょう。
 確かにずいぶん幼い感じの顔になっていました。

「このあいだの夕張小夜さんと比べたら、雰囲気に親子くらいの違いがあるわね。直子ちゃんて面白い、変幻自在。これなら普通の髪型に戻したら絶対別人」
 ご自分のお仕事にご満足気な里美さま。
「こんないたいけっぽい子が自縛するなんて、考えただけでゾクゾクしちゃう」
 嬉しそうに私をじーっと見つめています。

「そうだ。どうせなら徹底的に変身しちゃいましょう。今の直子ちゃんに、ピッタリのコスプレ衣装があったのを思い出したの」
 いそいそとマネキンの林を掻き分けてオフィスのお部屋へと入っていかれる里美さま。

 待つこと3分くらい。
 そのあいだ、テーブルの上に並んだグッズを眺めていました。
 レザーの首輪、スチールの手錠、棒枷に繋がった足枷、チェーン、ローソク、バイブレーター、ローション、クリップ・・・
 およそファンシーショップに似つかわしくないアブノーマルなものたちが、雑然と並べてあります。
 中には、私にも用途がわからないものも。

 この後、私はお客様の前で裸になって自縛して、それからどんなことをするのか、されるのか・・・
 マゾ気分がどんどん膨らんでいく中、里美さまがスーツカバーと紙袋を提げて戻られました。

「キャラ設定に合わせたサンプルだからサイズが小さいかもしれないけれど、まあ、どうせすぐ脱いじゃうのだし」
 テーブルの上にお洋服を並べながらおっしゃいます。

「同人活動をしているのならきっと、アニメもお好きなはずよね?これもお客様サービスの一環ということで」
「うちはコスプレ衣装のオーダーメイドも承っているから、ひょっとしたら何かオーダーもらえるかもしれないし」

 取り出された衣装は、一見して学校の制服風。
 白のシンプルな半袖ブラウス、茶系のベージュぽいニットベスト、グレイのプリーツミニスカート、そして白い三つ折りソックス。
「着てみて、着てみて」
 里美さまの楽しそうに弾んだお声。

 その日は、脱ぎやすいようにと前ボタン開きのゆったりしたワンピースを着てきました。
 下着は、濡れジミが目立たないように黒の上下。
 里美さまに促されて立ち上がり、ワンピースの前ボタンを外し始めます。

 里美さまの真っ直ぐな視線が注がれる中、ワンピースを脱いで下着姿に。
 今回はここまでで許されますが、お客様がいらっしゃったら、すべてを脱がなければいけないのです。
 乳首と肉芽にグングン血液が集まってくるのがわかりました。

 衣装は全体的に少し小さめでした。
 ブラウスとベストにおっぱいが押し潰される感じ。
 ミニスカートも付け根ギリギリで、少し伸びをしたら黒い股間が覗けそう。

 最後に三つ折りソックスを履いて鏡を覗くとわかりました。
 髪色こそ違いますが大きめな赤いリボンのツインテールに、学校の制服風衣装。
 少し前に流行ったラノベ原作近未来学園都市ものアニメの準主役級キャラクターでした。

「やっぱり似合うわよ直子ちゃん。作品設定通りに中学生って偽っても通っちゃいそう」
 いえいえ、それは絶対ナイです。
「マリみての衣装もあったのだけれど、こっちにして正解ね。マリみてだと今どきの女子大生は知らないかもしれないし」
「どっちのキャラも、お姉様にぞっこん、っていうところが直子ちゃんと一緒よね?」
 里美さま、意外と流行りの深夜アニメにお詳しいみたいです。

「そろそろいらっしゃる頃ね」
 時計を見ると午後4時まであと10分でした。

「いらしたら、接客はわたしがやるから、直子ちゃんはレクチャーまで、そこに座って適当にしていて」
「お客様のご希望を聞いて、アイテムを一通りご紹介したら声をかけるから、直子ちゃんの出番」
「わたしが聞いているのは、菱縄縛りの実演が見たい、っていうことだけなのだけれど、その他にも何かリクエストがあったら、出来る限り応えてあげてね」

「もちろん直子ちゃんの本名とかは教えないし、ダブルイーの社員ていうことも伏せておくわ。わたしの知り合いのドMの子、って紹介するつもり」
「ロープのお手入れの仕方とかも教えてあげて。けっこう高い本格的な麻縄のお買上げは決定しているから」

「それだけじゃなくて、わたしがお客様とセルフボンデージについてお話しているとき、何か気がついたことがあったらどんどん口出ししてきていいから。お客様も実践している人の言葉を聞きたいでしょうし」
「あ、それと、レクチャー中にわたしが写真を撮るけれど、御社の早乙女部長にご報告するためだから、気になさらないでね」
 慈愛に満ちた表情で、おやさしげに笑った里美さま。

 その笑顔を見て私は、里美さまに思い切り虐められたい、と強く思いました。
 こういうおやさしげなかたが、どのくらいイジワルに、残酷になれるのか、それを見てみたい。
 少し前にカフェでほのかさまに虐められたときに感じた、ビタースイートな被虐感が五感によみがえりました。
 そのためには、まずはマゾの私から、里美さまにかしずかなくては。
 
「わかりました。今日は綾音部長さまから、すべて里美さまに従うようにと言いつけられています。でも、そのお言いつけが無くても、私は素敵な里美さまにすべて従うつもりでここに来ました。何でもご遠慮なくご命令ください」
 自分の口から出る被虐的な言葉に、マゾ性がビンビン反応して粘膜が疼くのがわかりました。

「私はどうしようもない露出狂ヘンタイマゾ女ですから、里美さまと、本日いらっしゃるお客様がたのご要望に、どんなに恥ずかしいことでもすべて、お応えすることを誓います」
 里美さまの目をじっと見つめ、期待と不安にゾクゾクしながら、縋るようにそう宣誓しました。

「うふふ。可愛らしいマゾ子ちゃんだこと。愉しみだわ。期待しているわよ」
 里美さまの瞳にチラッと一瞬、妖しい光が宿ったように見えました。

 そのときチャイムがピンポーンと鳴り、インターフォンからお声が聞こえてきました。
「4時、あっと16時に予約を入れている倉島と申します。ちょっと早く着いちゃったのですけれど、大丈夫でしょうかー」
 緊張されて無理やりハキハキしているような、若い女性の上ずったお声が聞こえました。

「はいはーい。ようこそいらっしゃいませー」
 明るいお声でインターフォンに返し、いそいそと玄関へ向かわれる里美さま。

 私は立ち上がり、テーブルの傍らでお出迎えするべく、ドキドキしながらお客様が入ってこられるのを待ちました。


非日常の王国で 09


2016年12月4日

非日常の王国で 07

 オフィスに戻ると、綾音部長さまとリンコさまミサさまが、デスクの上に何枚ものデザイン画を広げ、打ち合わせの真っ最中でした。

「ただいまー。集めたサンプルや契約書類、間宮部長の分まで持ってきました。少しでも早いほうが良いかと思いまして」
 ほのかさまがツカツカと綾音さまたちに近づいていかれました。

「おお、たまほのー、おつかれー、お帰りなさい」
 ニコニコ手を振るリンコさまの横で、すごく嬉しそうなミサさま。
「ご苦労さま。今ちょうど、例のガールズバンドの衣装に取りかかったところだったから、ナイスタイミングよ。早速見せてくれる?」
 綾音さまがデスクの上を片付けながら、おっしゃいました。

 私は、おつかいを頼まれて買ってきた文房具類をお渡ししようと綾音さまに近づきました。
「ああ。ありがとう」
 受取りながら私を見た綾音さまのお顔が、おやっ?という感じに曇りました。

「あなた、出るときは確か、ブラジャーしていたわよね?」
 私の胸元を見つめつつの目ざといお尋ね。
「あ、はい・・・」
 やっぱり一目見てわかっちゃうほど、乳首のポッチ、目立ってるんだ・・・
 オフィスに戻るまでにすれ違った人たちの人数を考えて、ドキドキがぶり返してきます。

「わたしが命令してみたんです。お茶しているときに」
 カートから布地の束を取り出しながら、ほのかさまがおっしゃいました。
「たまほのがあ?」
 驚き顔のお三人を代表するみたいに、リンコさまがカン高いお声をあげました。
 傍らのミサさまは、信じられない、という感じで大きな瞳をまん丸くされています。

「チョーカーを着けているときは虐めて欲しいとき、というお話でしたし、直子さん、悦んでくれるかな、と思って・・・いけなかったですか?」
 不安げなお顔で、綾音さまたちのご様子を窺うほのかさま。
「ううん。ぜんぜんいけなくない、って言うか、むしろグッジョブ!」
 リンコさまのお返事で、お三人が一斉にお顔をほころばせました。

「そっかー。たまほのもナオコのヘンタイ性癖に興味津々なんだね。これからもどんどん、ナオコを悦ばせてあげるといいよ」
 リンコさまの明るいお言葉にほのかさまもホッと、笑顔が戻りました。

「その格好で、あのカフェからここまで戻ってきたんだ?」
 リンコさまが私に視線を移して尋ねてきます。
「あ、はい・・・」
「ジロジロ視られたでしょう?」
「・・・と、思います・・・」
 リンコさまの視線が私の下半身に移動しました。

「と、いうことは・・・」
 私ににじり寄ってきたリンコさまが素早く私のワンピースの裾に手をかけました。
「それーっ」
 掛け声とともにワンピの裾を盛大にずり上げられました。

「ああんっ」
 為す術もなく露になる私の下半身。
 腰にぴったりフィットしたタイトなニットですから、リンコさまが手を離しても元に戻りません。
 おへその下から下腹部全部が丸出しになりました。

「やっぱりねー。カフェの席で脱がせたの?」
 ほのかさまに振り向いたリンコさまのお声。
「あ、はい。先にショーツを脱いでもらって、写メを撮ったのですけれど、直子さん、まだつまらなそうだったから、ブラジャーも」
 ほのかさまが嬉しそうに私の恥ずかしい写真をみなさまにお見せしています。

「グッジョブ!グッジョブだよ、たまほの。そういう虐め方、いいなあ。今度アタシもやってみようっと」
 リンコさまのはしゃぎ声。
 ミサさまは、愛おしそうにほのかさまを見つめています。

「たまほのはよくやったけれど、リンちゃんはだめよ。バッドジョブね。せっかく直子がエロティックな姿をしているのに、そんな雑なめくり方ではエレガントではないわ」
 綾音さまからニヤニヤ笑いでクレームが入ります。
「あ、そうですね。失礼しました」
 リンコさまが手を伸ばし、私のワンピの裾を綺麗に折りたたむ形でまくり直してくださいました。

 ワンピースのスカート部分がおへそまで折りたたまれて固定されてしまいました。
 お尻丸出し。
 短かめなニットセーターだけを着ているような状態でした。

「お似合いよ直子。とてもエロティック。こういう普通の日常の場にひとりだけヌーディストがいるのって、西洋美術の名画みたいで、クリエイティヴなインスピレーションが湧いてくるわ」
 綾音さまの視線が艶かしく私の肌を撫ぜます。
「今日はその格好でお仕事なさい」
 決めつけるようにおっしゃいました。

 今日はお姉さまがお戻りになる日だというのに・・・
 みなさもそれはご存知のはずなのに・・・
 下半身丸出しノーブラニットの姿でお迎えすることになるんだ・・・
 あらためて、自分がオフィスの慰み者になってしまったことを思い知り、被虐感が全身を駆け巡ります。

「脱いだ下着はどうしたの?」
 リンコさまが私に尋ねました。
「あ、わたしが持っています」
 ご自分のバッグから私のブラとショーツを取り出すほのかさま。

「へー。これがナオコの勝負下着なんだ」
 ほのかさまから受け取って、みなさまに見えるように広げたリンコさま。
 やっぱりみなさま、私がお姉さまと会えるワクワク感を、見透かしていたみたい。

「フリルレースで可愛いけれど、もう汚しちゃってるじゃない。本当にスケベな子」
 イジワルくクロッチ部分を私に見せてくるリンコさま。
 純白の中そこだけ変色したシミに、カッと頬が熱くなりました。
「安心して。アタシらがもっとナオコらしく改造しといてあげる」
 何を安心すればいいのかわかりません。

 その後は、社長室にひとりこもり、お仕事をつづけました。
 もちろんご命令通り、下半身丸出しの姿で。
 綾音さまたちは、メインルームで打ち合わせをつづけられているご様子。
 途中1時過ぎに綾音さまがランチに行かれる、というご連絡があった以外、誰にも構われずに時間が過ぎて行きました。

 お姉さまが戻られたのは、午後2時を少し過ぎた頃でした。
 メインルームがざわつく気配を感じてわかったのですが、この姿でお出迎えに飛び出す勇気が出ませんでした。
 数分間の逡巡の後、やっぱりお出迎えしなくちゃ、と立ち上がったとき、コンコンとドアがノックされ、間髪を入れずに開かれました。

「あっ!」
 私の姿を一目見たときのお姉さまのお顔。
 ドアを閉めるのも忘れ、あ、の形でお口をポカンと開き、数秒間固まっていらっしゃいました。
「あはははは」
 つづいて弾ける哄笑。
 ドアの外からもクスクスというつられ笑いが聞こえてきました。

 私は、一瞬股間を隠しかけたのですが、お姉さまのとても嬉しそうなご様子と、久しぶりにお顔を見れた嬉しさに、自然と両手が後頭部へと上がっていました。

「あたしもさ、直子がすぐに出てこないから、すでに素っ裸にされていたりして、とか予想はしていたけれど、まさか、そんなに直子らしい姿で出迎えてくれるなんて」
 目尻に涙を浮かべるほど笑い疲れたふうのお姉さまが、ご自分のデスクにバッグを置いて、背中を投げ出すように椅子にお座りになりました。

「まったく。こういうことに対してのうちのスタッフの順応性と団結力は大したものよね」
 
 ドアを閉じてふたりきりになった後、お姉さまの出張中に他のみなさまからされたことを、ほのかさまにしたようにひとつひとつご説明しました。
 もちろん、つい数時間前のほのかさまのご命令も追加して。
 ご自分のバッグの中身を片付けながら聞いてくださっていたお姉さまが、聞き終えておっしゃったご感想が上のお言葉です。

「よかったじゃない?みんなで直子を虐めてくれて。直子がずっと思い描いていた理想のマゾ生活に今のこのオフィス、かなり近い状態じゃない?」
「それは、そうなのですけれど・・・でも、やっぱり恥ずかしいです・・・」

 お姉さまに服従ポーズをじーっと視られながら、ムラムラがどんどん昂ぶってくるのがわかりました。
 本当はワンピースなんか脱ぎ捨てて全裸になって、お姉さまに抱きしめて欲しい気持ちでいっぱいでした。

「あら?なんだか嫌々やっているような、うちのスタッフがガチ苛めしているような、可愛くないご感想ね?」
 私の気持ちを知ってか知らずか、お姉さまはイジワルモードに入りつつあるようです。
 
「何言ってるの?あたしたちは直子に、ちゃんと選択肢を残してあげているじゃない。チョーカーをしていないときは何もしない、って」
 お片付けが一段落されたらしいお姉さまは、椅子から私を非難するような険しい目つきで見上げておっしゃいました。
「それなのに直子は、ずっとチョーカーを着けて出社している。つまり全部、直子が望んだことでしょう?そうじゃない?」

 おっしゃる通りでした。
 イベント後ずっと朝起きると、今日は何をされちゃうのだろう、とドキドキしつつ、喜々として、どのチョーカーにしようかな、と選ぶのが日課となっていました。
 チョーカーを着けないで出社する、などという考えは、爪の先ほども浮かんだことはありませんでした。
 それくらい、今のオフィス生活にワクワクしているのは事実でした。

「言っておくけれど、あたしは直子とオフィスでは、シないわよ?」
 お姉さまが真面目なお顔でおっしゃいました。
「直子を虐めたり辱めたりすることはあっても、直子にシてもらったりベタベタしたりはしない。スタッフがいるオフィスで喘ぎ声あげるなんて、そんなはしたない真似、死んでも出来ない」

 ショックでした。
 久しぶりにお逢いしたのですから、抱き合ってキスのひとつくらいいただけると予想していましたから。
 ツンモードに入ったお姉さまが頑ななことは、経験上知っていました。

 私の落胆がわかったのでしょう、お姉さまはイジワルく目を細め、こうつづけました。
「でも直子は、あたし以外の誰かに頼まれたらちゃんとシてあげなさい。直子は我が社の秘書兼ご奉仕マゾペットなのだから」
 お姉さまの瞳は完全に、エス色に染まっていました。

「さあ、仕事をさっさと片付けちゃいましょう。さすがのあたしも今回の出張は疲れちゃった。幸い土日はゆっくり出来るから、早く帰って休みたいの」

 それから夕方まで、みなさまが取ってきた契約書や見積書の確認に時間を費やしました。
 お姉さまはスーツ姿、私は下半身丸出し姿で。
 資材の発注をしたり、工房にスケジュールの確認をしたり、お取引先に御礼のお電話をしたり、えっちな気分が顔を出すヒマもなく働きました。
 
 そのあいだずっと、お姉さまはこの週末をどう過ごされるおつもりなのだろう、と不安で仕方ありませんでした。
 お疲れのようだから、おひとりでゆっくりお休みしたいのかな・・・
 せっかく近くにいらっしゃるのに、私は放置プレイになっちゃうのかしら・・・
 お仕事が終わってしまうのが怖いと感じていました。

 午後5時前にお仕事がすべて終わり、お姉さまがんーーっと伸びをひとつ。
「ふぅー。これでやっと帰れるわね。お疲れさま」
 私の肩を軽くポンと叩いてねぎらってくださいました。

「ところで、出張中にずいぶん洗濯物が溜まってしまって、帰ってもあたしにそんな元気もないし、どこかにいい全裸家政婦さんはいないものかしら?」
 お姉さまがお芝居ぽくお道化た感じでおっしゃいました。

「はいっ!」
 元気よく真っ直ぐに挙手する私。
 お姉さまがデレモードに突入!
 お仕事の疲れが吹き飛ぶほどの嬉しいご提案でした。

「あら、あなた出来るの?うちは厳しいわよ?」
「はい。何でもします。どんなご命令にも従います」

「帰ってくるなりそんなエロい格好を見せつけられて、あたしもムラっとしちゃっているの。あなたはあたしを満足させることが出来る?」
「はい。必ず出来ます。全身全霊をかけてご奉仕させていただきます」

「出来なかったらキツーイお仕置きよ?」
「大丈夫です。私はマゾなので、お仕置きも大好物ですから」
「そう。それなら行きましょうか」

 お姉さまが私のまくり上げられたワンピースを直してくださり、そのまま、まだお仕事中の綾音さまやほのかさまに、良い週末をー、と冷やかされながら退社。
 お姉さまのお車で飯田橋のマンションに拉致監禁されました。

 それから丸二日間。
 生憎の雨模様だったので、ほとんど外出はしませんでしたが、全裸もしくはそれに近い格好のまま、お姉さまの言いなりとなり淫らに過ごしました。
 家事をして、虐められ、辱められ、晒されて、ご奉仕して、たっぷり愛し合いました。
 5月の連休のときに勝るとも劣らないほどの濃密な全裸家政婦生活でした。
 
 一週間分のお姉さま分を補給しても、私の旺盛な恥辱欲は衰えることを知らず、お姉さまが再び出張へと旅立たれた翌月曜日の朝からも、私は相変わらずチョーカーを着けて出勤しつづけました。

 オフィスでは、下半身裸が私のトレードマークのようになっていました。
 どんなに清楚な服装で出社したとしても、午後には少なくとも下半身はスッポンポンにされていました。
 生理が来ても、マゾマンコからタンポンの紐をプラプラ覗かせながら勤務していました。

 生理が去って私がレビューしたアダルティなラブトイズの数が二桁になった頃、綾音部長さまから私に、恥ずかし過ぎる業務命令が下されました。


非日常の王国で 08


2016年11月20日

非日常の王国で 06

「あの、えっと、つまり、今ここでショーツを脱ぐ、ということですか?」
 そんな卑俗なご命令が清楚なほのかさまのお口から出た、という事実が信じられない私。

「そうよ。そういうことをするのが、直子さんはお好きなのでしょう?」
「・・・はい」
 つぶらな瞳をワクワクに輝かせて問いかけられたら、私も正直にお答えするしかありません。

「そのワンピースの下は下着だけ?」
「はい」
「最近、雨が降らなくても蒸すものね。確実に夏に近づいている感じ。そのワンピース、からだのラインが綺麗に出て、とても似合っていてよ」
 たおやかな笑みを口許に浮かべ、イタズラっぽく私を見つめてくるほのかさま。

 私は首を後ろにをひねって、店内の様子を確認しました。
 私たちが座った場所はお店の突き当り奥、壁際の四人掛け席で、ほのかさまが壁側に、私がテーブルを挟んだ向かい側に座ったので、私は店内すべてを完全に背にしていました。

 そろそろお昼近くということで、広めな店内の七割方まで埋まっていました。
 男性六、女性四くらいの割合。
 おひとり客はケータイ、スマホや新聞に、グループ客はおしゃべりに夢中という感じで、みなさまそれぞれご自分の時間を楽しまれているご様子。

「あんまりキョロキョロ、不審な挙動をすると、却って目立っちゃうような気もするんだけどなあ」
 ほのかさまが可笑しそうにおっしゃいました。
「でも、直子さん的には、せっかく脱ぐのだから、誰かから注目されていないと面白くないのかしら?」
 無邪気な口調で、天然のお言葉責めを投げつけてくるほのかさま。

「いえ、そんなことは・・・」
 お答えしながらほのかさまに向き直り、居住まいを正しました。
 
 椅子の背もたれもあるし、背後から誰かに見られても何をしているのかまではかわからないはず。
 そう自分に言い聞かせます。
 ただひとつ気にかかるのは、お帰りになったお客様のテーブルのお片付けのために、ときどき出てくるウェイトレスさんの動きですが、今なら大丈夫そう。
 こういうことは躊躇せずササッとやってしまったほうがいいことは、シーナさまやお姉さまとの露出アソビの経験上知っていました。

「・・・脱ぎます」
 小声で宣言して、ほのかさまのお顔に視線を向けたまま、両手をワンピースの裾に潜り込ませます。
 
 今日穿いているのは、純白レースのタンガショーツ。
 リンコさまたちが毎日、私の手持ちの下着類を着衣のまま脱ぎやすいように魔改造してくださっているのですが、私物の下着すべてリフォームするというお約束なので、手持ちのあるうちはそれを身に着けてこなければなりません。
 したがって、その日の下着も私物、脱ぎやすく改造はされていないものでした。

 椅子から少し腰を浮かし、左右の腿に貼り付いた布地にかけた両手を一気に引き下げます。
 ワンピースの裾から、一直線に白く伸びた布地が現われ、膝のところで一旦停止。
 前屈みになって右足、左足とヒールに引っかっからないように慎重にくぐらせました。

「・・・脱ぎました」
 左手の中に、まだホカホカ体温の残るジットリ湿った小さな布片を、隠すように丸めて持ったまま、ほのかさまを見ました。

「すごーい。本当に脱いだんだ。わたし、見ているだけなのにすごくドキドキしちゃった。脱いでいる最中、お店の喧騒が聞こえなくなっちゃうほど集中して見入っちゃっていたわ」
 興奮されているのか、少し赤味の差したお顔でほのかさまがおっしゃいました。

「下着、見せて」
 ほのかさまのお言葉で、握り締めた左手のこぶしをゆっくりとテーブルの上に差し出します。
 指のあいだから白い布地が少し飛び出ています。
 ほのかさまが右手を伸ばしてきて、そのしなやかな指先で私の握りこぶしをおやさしく開かせました。

「素敵なのを穿いてきたのね。あ、そっか。今日はチーフが出張からお戻りになる日でしたものね」
 ショーツを広げた形でテーブルの上に置かれました。
 そ、そんな大胆な・・・
 カフェのオシャレ木調なテーブルに、これみよがしに置かれた布地少なめの真っ白なショーツは、アートっぽいような、ただお下品なだけのような、場違いな猥褻さを醸し出していました。

「やっぱりクロッチのところが湿っている。これは、直子さんが悦んでいるから、って理解していいのよね?」
 指先でヌメっているクロッチ部分を撫でるほのかさま。
「・・・はい」
 私の左手のひらもベトついていました。
 顔から火が出るほど恥ずかしい。

「悦んでいるのは、わたしの命令に?それとも、今下着を脱いだ、っていう行為に対してかしら?」
「・・・どっちも、です」
 
 ほのかさまが私の性癖についてお話を始められた時点で、私のマゾマンコはジワジワとヌメり始めていましたから、正直な答えでした。
 ほのかさまは、その指先をご自分のお鼻のところに持っていき、クンと一度嗅いでから、傍らのおしぼりで丁寧に拭われました。

「今見ていて、直子さんのご趣味の醍醐味がわたしにもなんとなくわかった気がしたの。とてもスリリングよね。ハラハラドキドキ。こんなに人がいっぱいいるカフェでこっそり下着を脱ぐなんて、わたしには考えられないもの」

 ときどき背中の後ろを誰かが通るのを感じます。
 このテーブルは、奥のおトイレへつづく通路脇にあるのです。
 ショーツに気がつきませんように・・・
 私は、ワンピースの裾をひっぱるみたく股間の上に両手を置いて、テーブルのショーツを隠すように前屈み気味になり、自分が置かれた状況にゾクゾクキュンキュン感じていました。

 ほのかさまは、私が脱いだショーツを綺麗にハンカチのように折りたたみ、おしぼりの横に置きました。
「どう?自分が脱いだ下着がテーブルの上に置かれているのって」
「は、恥ずかしいです・・・」
「だけどそれが気持ちいいのでしょ?直子さん、ますますえっちなお顔になっているもの」
「・・・はい。その通りです。ごめんなさい」
 私の返答にご満足そうにうなずかれるほのかさま。

「せっかく脱いでも、ただ、そうして座っているだけでは、直子さんはつまらないわよね?」
 ほのかさまは、私をじっと見つめつつ、何かを考えられているご様子。
「片足、椅子の上に乗せてみて」
「えっ!?」

 小首をかしげての、ほのかさまの可愛らしいおねだりも、私にとっては絶対服従のご命令。
「直子さんがそのワンピースの下に何も身に着けていないっていうことを、実際にこの目で確かめたいの」
 ほのかさまのお言葉のイジワル度が、どんどん増している感じです。

 それ以上は何もおっしゃらず、期待に満ちたまなざしでじっと私を見つめてくるほのかさま。
 私は観念して、テーブルの下で右足のパンプスを脱ぎました。
 それからゆっくりと右膝だけを、テーブルの高さまで上げていきます。

 膝上20センチくらいのニットワンピースの裾が大きく割れ、それに従ってヌルみきった股間の亀裂が徐々に裂け始めるのがわかります。
 皮膚と皮膚が離れていく感覚はベトついていて、ヌチャっていう音さえ聞こえてきそう。
 やがて右足のかかとが椅子の縁に乗り、右の膝小僧がテーブルの上まで顔を出しました。

 お腹の方へとせり上がって大きく開いたワンピースの裾。
 無防備な下腹部の粘膜まで、外気に晒されているのがわかりました。
 テーブルに覆いかぶさるように身を乗り出し、その部分を覗き込んでくるほのかさま。

「すごい。全部見えちゃってる。ピンク色の中身まで全部。直子さん、とてもエロティックだわ」
 ほのかさまがケータイのレンズを私に向けながらおっしゃいました。
「でも周りを見渡すと、普通のオフィス街のカフェなのよね。そこのところがなんだかシュール」

「こっちを見て」
 ほのかさまのお言葉で、うつむいていた顔を向けました。
 カシャッとシャッターを切る音。
 同時に私はビクン。
「ずいぶんと辛そうなお顔なのね。イベントのときと同じ。でもそれがマゾの人の快感なのよね?」
 パックリ割れたマゾマンコからトロリと、淫液が椅子に滴りました。

「それにしても直子さんのハイジニーナ、いつ見ても惚れ惚れするほどツルンツルンで素敵」
 ケータイをかざしたままはしゃぐほのかさま。
 遠くのほうから、いらっしゃいませー、のお声。
 背後でガタンという、椅子を引くような音。
 眼下に剥き出しの自分のマゾマンコ。
 いやっ、もう許して・・・
 たまらず足を下ろそうとしてしまう私。

「だーめ。まだ足を下ろしてはだめよ。大丈夫。窓際のお客様が席を立っただけだから。もう一枚写真撮るから、足は上げたままよ」
 どんどんご命令口調が滑らかになってきたほのかさま。
 私は、片足を椅子に上げ直す、というそれだけの行為に、ハアハア息を荒げてしまいます。

「ほら、これが直子さんのえっちな姿」
 足を下ろしていい、というお許しをいただいてお水を一口。
 目の前にほのかさまのケータイが差し出されました。
 液晶に記録された私の浅ましい姿。

 頬を火照らせ唇は半開き、眉間を悩ましく寄せたいやらしい顔。
 顎の下に右の膝小僧。
 その下に白いワンピースの裾が大きく開かれて覗く肌色。
 その中心部に、顔と同じように下腹部の唇も半開きにして濡れそぼったピンクのヒダヒダを覗かせているマゾマンコ。
 唇の先端でこれみよがしに腫れ上がっている肉の芽までが鮮明に映っていました。

「シャッター切るときの音で、何人かがこちらに注目していたの。わたしは少し焦ったけれど、直子さんは、注目して欲しいのよね?」
「いえ、そ、そんなこと・・・」
「でも、その人たちからは直子さんの背中しか見えないから、こんな写真を撮っていたなんてわからないわよね。仲のいい女子が撮影ごっこしてるようにしか見えなかったかしら」
 ほのかさまがはんなりと微笑まれました。

「直子さん的にはちょっと物足りない?やっぱり恥ずかしい格好、誰かにちゃんと視られたいのでしょう?」
「いえ、今ので充分スリリングでした。こんな会社のご近所のお店で、自分のアソコを撮影されるなんて・・・それに、ほのかさまがじっくり視てくださいましたし・・・」
「本当に?ちゃんと興奮出来た?」
「は、はい・・・さっきもご覧になったように、私のマ、いえ、あの、性器は溢れるくらい濡れていますし、ち、乳首も、痛いほど尖っちゃってます。ほのかさまのおかげです」
 優雅なほのかさまがお相手だと、どうしてもお下品な言葉を使うのをためらってしまいます。

「そう・・・」
 ご納得されていないご様子のお顔で、しばし宙を仰ぐほのかさま。
 チラッと腕時計を覗いてから少し考え、パッと何か閃いたお顔になりました。

「それならこうしましょう。直子さん、ここでブラジャーも取ってしまうの。それで素肌にワンピース一枚だけになって、一緒にオフィスに戻りましょう」
「えっ!?」
「イベントのときも、裸に近い格好になればなるほど、どんどんえっちなお顔になっていったじゃない?辛そうなのに無理に無表情を作って。とてもエロティックだった」
「それに、わたしのせいで感じている直子さんのバストトップ、ブラを外せばワンピース越しでも、わたしにも実感出来るでしょう?わたし、直子さんのバストの形、とても好きよ」
 ご自分の思いつきに夢中なほのかさまが、無邪気に私を追い詰めてきます。

「で、でも、このワンピースってピッタリめですから、ブラを取ったら乳首が浮き出て、わ、私の乳首は大きめなのでとくに目立って、ノーブラが丸わかりになってしまいます・・・」
 とうとう私は、白昼に職場の周辺までもノーブラで闊歩することになるんだ、と、半ば観念しつつも、その行為に対する不安感から無駄な抵抗が口をついてしまいました。
「大丈夫よ。この時期にノーブラの女性なんて、街にいくらでもいるでしょう?誰もそんなに気にしないのではないかしら?」

 いいえ違います、ほのかさま。
 たとえ真夏にだって、ノーブラを誇示するように街を歩いている女性は、そんなに存在しません。
 ほのかさまだって、普段ノーブラで外出されないでしょう?
 それに、ノーブラの胸が他人の、とくに男性の視線を惹き付ける威力は、凄いんです。
 心の中で反論しつつ、どんどん疼いてきちゃってもいました。

「直子さんはスタイルいいし、ノーブラでなくたって注目を集める女性だと思うの。だから綺麗なからだは、より魅力的に視せてあげればいいのではなくて?」
「それに直子さん、視られたがり屋さんなのでしょう?欲望を我慢するのはからだに良くないわ」

 真剣なご表情でアドバイスしてくださるほのかさまを見ていて、ふと気づきました。
 ほのかさまは、こういうアソビに慣れていらっしゃらない。
 街中の露出行為に関しても、どこまでが安全で、どこからが危険なのか、その線引きがわかっていらっしゃらないんだ、と。

 お姉さまやシーナさまなら、こんな平日のお昼時に会社の近くをノーブラで歩かせるなんてことはしないでしょう。
 やらせるなら普段のテリトリー外、なるべくヘンな男性が出没しなそうなところ。
 私の身の安全を第一に考えてくださっていることを、経験上知っていました。
 でも、ほのかさまは、その加減がわかっていらっしゃらないので、無邪気に私を追い詰めてくるのです。
 それは、ほのかさまが私を悦ばせたい一心で、私の性癖に合うようなご命令を真剣に考え、私に接してくださっているからなのでしょう。

 新鮮でした。
 もちろん、怖い、という気持ちもあるのですが、お姉さまと一緒のプレイで感じているような、そこはかとない安心感を伴わない露出強要は、ひとりアソビばかりしていた頃、脳内ご主人様に従いながらビクビクしていた露出行為のときのスリルを思い出させました。

「わたしの命令、聞けない?」
 ほのかさまが私の顔を覗き込んできました。

 いずれにせよ、私に選択権は無いのです。
 チョーカーを着けて出社した以上、スタッフ全員のご命令に絶対服従の身なのですから。
 でも、や、だって、は絶対に許されない存在。
 ほのかさまが、脱げ、とおっしゃったら脱がなくてはいけないのです。
 それがいつであろうと、どこであろうと。
 ビタースイートな被虐感がゾクゾクっと背筋を走りました。

「口答えをしてしまい申し訳ありませんでした。ほのかさまがお望みなのですから、悦んでブラジャーも外します」
 マゾ度100パーセントでお詫びしました。

「よかった。直子さん、今日一番えっちなお顔になっている。悦んでもらえて嬉しいわ」
 ほのかさまが艶っぽくウフッと微笑みました。
 きっとほのかさまも今、両腿のあいだを熱くしていらっしゃる、となぜだか確信しました。

 こういった場でこっそりショーツを脱いだ経験は何度かありましたが、ブラジャーをこっそりひとりで外すのは初めてでした。
 えっと、どうすればいいのかな・・・
 ちょっと考えてからモゾモゾとからだを動かし始めました。

 ワンピースの両袖から内側に両腕を抜き、左手を背中に滑らせてブラジャーのホックを外しにかかります。
 リンコさまの改造ブラをしてこなかったことが悔やまれます。
 あれならワンピの上からでも後と肩のホックが外せてラクチンだったのに。

 それから左腕、右腕とストラップをくぐらせます。
 ワンピの中で両腕がおっぱいを無造作に愛撫して、声を我慢するのが大変。
 外側でもモゾモゾ動きに合わせてワンピの裾がどんどんせり上がってしまい、自分の視界に恥丘の白い肌が露わになっています。

「向こうの席のサラリーマン風の男性が怪訝そうにこちらを見ているわ」
 ほのかさまがヒソヒソ声で教えてくださいました。
 傍から見ても、布地がモゾモゾ動いているのや、中身が消えてダランと垂れ下がった両袖は不審に見えるでしょう。
「わたしが冷たく睨んだら、あわてて視線を外したけれど、急いだほうが良さそうね」
 ほのかさまの愉快そうなヒソヒソ声。

 やっと外れたブラを襟口から取り出そうか裾から取り出そうか、一瞬迷いましたが、襟口からだと動作が大きくなって目立ちぞうなので裾へ。
「あふっ!」
 ブラのカップの縁が尖った乳首を引っ掛けて、思わず小さく喘いでしまいました。
 テーブルの下に伸びてきたほのかさまの手で、私のブラジャーは人知れず回収されました。
 両袖に腕を急いで通し直します。

「うふ。まだ温かい」
 私から取り上げたブラジャーを、テーブルの上でたたみ直すほのかさま。
 うつむいて自分の胸元を見ると、やわらかい布地にうっすらとバストトップの位置が示されていました。
 うつむいてこうだと、胸を張ったら丸わかり確実・・・

「本当だ。わたしのために硬くしてくれているのね」
 私の素肌に貼り付く唯一の布地となった、ニットワンピースの胸元をじっと見つめてくるほのかさま。
「可愛い。ぴょこんと突き出ていて、思わずつまみたくなっちゃう」
 ほのかさまの右手が私のはしたないバストに伸びてきたとき・・・

「いらっしゃいませー」
 店員さんの元気のいいお声の後、ガヤガヤという一際大きいおしゃべり声が聞こえてきました。
 大人数のグループがご来店したみたい。

「もう少し楽しみたかったけれど、そろそろランチタイムだから混むでしょうし、長居しちゃ悪いから出ましょうか」
 さすがに社会人としての公共マナーはバッチリなほのかさま。
 ご自分のショルダーバッグに私のショーツとブラジャーを仕舞い込み、代わりに派手めのファッショングラスを差し出してきました。
 イベントの行き来のときに着けた、タレントさんがするような無駄に目立つ鼈甲縁。

「わたしがこんな格好だし、直子さんがそれしてふたりで歩けば、ファッションモデルとそのマネージャーっていう感じになるでしょ?モデルさんならノーブラだってファッションみたいなものよ」

 スーツ姿のほのかさまが立ち上がりました。
 やっぱりほのかさまも、少しは世間様の目のことを考えていらっしゃるんだ。
 ちょっぴり感心しつつ、私もあわててファッショングラスをかけ、つづきます。
「モデルウォークで颯爽とね。ランウェイのときみたいに」
 ほのかさまがイタズラっぽくウインクをくださいました。

「ごちそうさまー」
 少しわざとらしいくらいの、ほのかさまの明るいお声。
「ありがとうございましたー、したー」
 それを追いかける店員さんたちの元気なご唱和。
 お声にふとお顔を上げる他のお客様たち。
 その視線の幾つかが、吸い寄せられるように私の胸元に集中するのがわかりました。

 ほのかさまのカートの後ろを、背筋を伸ばして気取った感じで歩く私。
 その胸元にはふたつの突起がクッキリ、ボディコン気味な純白のやわらかいニット生地を押し上げ、私の勃起乳首の所在を公衆に知らしめていました。
 膝上20センチの裾下にもスースー風が入り込んできます。
 今の私は、素肌の上にボディライン通りのシルエットを描くワンピース一枚。

 そんな姿で、たくさんの人とすれ違いました。
 ちょうどランチタイムを迎えたオフィス街は、あちこちのビルからわらわらと人々が溢れ出てきていました。
 数え切れない視線が私のおっぱいや太腿付近を通り過ぎていくのがわかりました。
 そんな中をほのかさまと私は、小声でおしゃべりしながらゆっくり歩いていきました。

 話題は、イベント後から今日までのオフィスの様子。
 必然的に、私がリンコさまとミサさまからされた辱めのお話が主となってしまいます。

 いきなり全裸勤務を言い渡されたこと。
 コスプレ姿のミサさまに鞭打たれたこと。
 綾音部長さまのデスクの上で自慰行為を撮影されたこと。
 社長室に監視カメラを取り付けられたこと。
 裸白衣でお客様にお茶をお出したこと。
 下半身丸出しで綾音さまとお仕事の打ち合わせをしたこと、などなど。

 なるべくお下品にならないように言葉を選んで、ほのかさまにお話しました。
 ほのかさまは、びっくりしたり呆れられたり。
 ふたりで熱心に、まるで周りの人たちのことなんか気にもしていないそぶりでおしゃべりをつづけました。

 それでも信号待ちで立ち止まったりすると、四方八方から視線が飛んで来ているのがわかりました。
 信号の向こうからこちらを見て、何やらヒソヒソ話してい女子学生の集団。
 すれ違いざま露骨に振り向いて二度見してくる年配のサラリーマンさん。
 不躾にじーっと視つめてニコニコ笑いかけてくる外国人さん。
 おすまし顔を繕いながらも、私の無防備なマゾマンコはヒクヒク疼きっ放しでした。

 オフィスビルに入っても視線の洪水。
 ショッピングモールでは、ヤングミセスぽい女性たちからのあからさまな呆れ顔が目立ちました。
 オフィス棟では、スーツ姿のビジネスマンたちの好奇の視線。
 エレベーターホールでは、ちょうど降りてきたOLさんたちのグループが訝しげに私の全身をジロジロ眺めつつ散っていきました。
 唯一の救いは、ランチタイムの始まり時間だったからでしょう、上りエレベーター内はふたりきりだったこと。

 正面の大きな鏡に私の姿が映っています。
 ノーブラです、って宣言しているみたいにこれみよがしに浮き出ているバストの突起。
 ほんの10センチもずり上がったら、たちまち淫靡な亀裂まで露になってしまうニットワンピースの裾。
 背後から寄り添うように、スーツ姿のほのかさまの笑顔があります。
「直子さん、火照っちゃって、とてもえっちなお顔」

「すごく注目を集めちゃっていたわね。愉しかったでしょう?」
 屈託のないほのかさまの弾んだお声。
「わたし、来週も出張だけれど、次に戻るまでにまた、直子さんが悦ぶような命令、考えておくからね。楽しみにしていて」

 私は今すぐほのかさまにギュッと抱きついてキスしたい衝動を、必死に抑え込んでいました。


非日常の王国で 07


2016年11月13日

非日常の王国で 05

 おふたりのお背中がドアの向こうに消えたのを確認してから、自分のおっぱいに視線を落としました。
 乳首にガブッと噛み付いて銀色に輝くふたつの目玉クリップ。
 そのうち右のほうの持ち手をそっと指でつまみます。

「はうっぅぅ!」
 目尻に涙が滲みそうな激痛の後に訪れる疼痛をともなう甘い開放感。
 潰されていた皮膚がゆっくりと膨らんでいくのがわかります。
「あうっぅん!」
 2度めの激痛に身を捩らせると同時に、左右の手のひらでおっぱいをひとつづつ、ワシづかみで揉みしだいていました。

 リンコさまがデスクの上に残してくださったバスタオルで、とくにビショビショヌルヌルな股間を押さえつつ、社長室に戻りました。
 これからオフィス外の給湯室まで行ってお水を汲んできて、汚してしまった綾音部長さまのデスクや周辺の床をキレイに拭き掃除しなければいけません。
 バスタオルで軽く全身の汗を拭ってから、お外に出るとき私に唯一許された衣服、先ほど持ってきてくださった白衣をハンガーから外しました。

 手に取ってみると、クタッとした柔らかい生地で軽い感じ。
 そそくさと両腕を通しました。
 敏感になっている乳首や腫れたお尻を布地が滑り、ゾクゾク感じてしまいます。

 着丈は膝上で7分袖、ストンとしたAラインシルエットでちゃんとボタンが左前のレディース仕様。
 ボタンはおっぱいの谷間あたりから下腹くらいまでの4つ。

 ボタンをすべて留め終えると、我ながら妙に似合っている感じ。
 なんだか自分がインテリになって、何やら難しい分野の研究者にでもなったような錯覚を覚えちゃいます。

 ただし、よく見ると∨ゾーンが意外と空いていて、前屈みになったっら隙間からおっぱい全部が覗けちゃいそう。
 更に、柔らかい生地なので、少しでも胸を張ると、白衣上にバストトップの位置があからさまに明示されてしまいます。
 この格好で廊下に出るんだ・・・
 まさしく裸コートに臨むときと同じドキドキ感に全身が震えました。

 そっとオフィスのドアを開き、廊下を窺います。
 夕方5時前のオフィスビルはしんと静まり返り、人影はありません。
 リノリュームの床をカツカツと早足のヒールで蹴り、廊下の直線上右手にある給湯室へと急ぎました。

 給湯室に飛び込んでホッと一息。
 幸い誰にも会わず視られずに済みました。
 蛇口をひねってバケツにお水を汲みつつ、シンクの前の鏡を覗きます。
 白衣の胸元から覗く白い肌が少し汗ばんで、ほんのり上気しているのがわかります。

 せっかくお水を使えるのだから、ここでちゃんとからだを拭いていこうか。
 汗まみれ汁まみれになった後、乾いたバスタオルで拭いただけだったので、からだがベトベトしている気がしていました。
 この給湯室は我が社専用なので、知らない誰かが入ってくる心配はありません。

 そそくさと白衣を脱いで全裸になり、濡らしたタオルで全身を拭きました。
 ミサさまの鞭さばきで熱病のように疼くお尻に、冷たいタオルをあてがったときの気持ち良さと言ったら・・・
 思わず、あーーーっ、と深い溜め息を洩らしてしまったほど。

 この数ヶ月の勤務で見慣れた場所となった給湯室で全裸になったことで、入社する前にお姉さまに案内されて初めて訪れたオフィスでの面接のことを、唐突に思い出していました。
 
 あのときは土曜日でフロアが閑散としていたとは言え、バスタオル一枚で廊下を歩かされ、給湯室のすぐ隣のおトイレで全裸にされちゃったんだっけ。
 それで戻るときは、全裸で廊下に立たされ坊主みたいに放置され、お姉さまが放リ投げたショーツをワンちゃんみたく四つん這いで拾いに行かされて。
 そうそう、正確には全裸じゃなくて、首輪から繋がったチェーンで乳首にチャームをぶら下げ、ラビアクリップで粘膜を押し広げられ、クリットはテグスで絞られてるという破廉恥ドマゾな姿でした。
 あの日感じた、胸を締めつけるような恥辱感が鮮やかによみがえり、性懲りもなく股間が潤んできます。

 だめだめ。
 さっさとお片付けをしなくっちゃ。
 股間に伸びそうになる右手を諌めて再び白衣を着込み、片手にはお水をなみなみとたたえたバケツと雑巾、もう一方の手にはモップと数枚のタオルを持って、給湯室を出ました。

 出てすぐ、廊下の向こうに人影があるのに気づきました。
 淫らモードですっかり気が緩んでいたので、思わず、えっ!?と声をあげて立ちすくむほどびっくりしてしまいました。

 給湯室の脇にあるおトイレへ向かう、同じフロアの別会社の社員さんのようでした。
 白い半袖ワイシャツにストライプのネクタイ、髪をきっちりと七三に分けた30代くらいの男性がズンズンと私のほうに近づいてきました。

 私は、人影に気づいた瞬間にサッとうつむき、廊下の端を重いバケツのせいで幾分ヨタヨタという感じで歩を進めたので、その男性が私をみつけて、どんなリアクションをされたかはわかりません。
 でも、すれちがうときにちょっと会釈気味に頭を動かして窺った感じでは、困惑されているご様子でした。

 それはそうでしょう。
 お医者さまか研究員のような白衣を着た女性が、場違いなバケツとモップを持って廊下をトボトボ歩いているのですから。
 普通に考えてミスマッチ。
 すれ違った後も、振り返った男性からの怪訝そうな好奇の視線を背中に感じていました。

 それとももっと踏み込んで、この不自然に開いた胸元の谷間や、布を押し上げる突起まで気づかれちゃったのかも。
 白衣には合わない首輪型チョーカーまでしているし。
 そっちの方面に詳しい人なら、それだけで私がどんな女なのか、ピンときちゃったかもしれません。

 このフロアの廊下にときどきエロい女が出没する・・・なんて噂になっちゃったりして。
 心の中に得体の知れないどす黒い霧のようなものがモヤモヤと広がりました。
 すれ違った後も極力ゆっくりと歩き、いったん自分のオフィスのドアを通り越し、振り向いて廊下に男性の姿が無いのを確認してから、急いで後戻りしてオフィスのドアに飛び込みました。

 オフィスに戻ったら白衣は脱がなければなりません。
 全裸になって綾音部長さまのデスクを拭き始めます。

 廊下で他の会社の男性社員と出会ったことで、今自分がしている行為のアブノーマルさを今更ながらに思い知らされました。
 このオフィスの壁一枚向こうは普通の世界。
 健全な社会人のみなさまが健全に社会生活を営む公共の場所なのです。

 先ほどの男性がおトイレから戻るとき、まさか廊下沿いの壁の向こう側で、さっきすれ違った白衣の女が全裸になって床掃除をしているなんて、思いもしないでしょう。
 私がしていることは、それほど世間的に考えて異常、つまりヘンタイ的なことなんだ・・・
 被虐と恥辱と背徳に身悶えしながら、モップも使わず自ら四つん這いになり、精一杯の罪滅ぼしのつもりで一所懸命床の拭き掃除をしました。

 リンコさまとミサさまは、その日からほぼ毎日、オフィスで私を恥ずかしい格好にして愉しまれました。
 たいていは午後、綾音部長さまがお出かけになって3人になったとき。

 ある日は、イベントのときに着たシースルーのスーツ上下で勤務。
 ある日は、本当に全裸に白衣だけで、初めてのお客様にお茶出しをしました。
 お茶をお出しするときはどうしても前屈みになってしまうので、∨ゾーンから生おっぱいが丸見えになっていたと思います。
 リンコさまのお客様としていらしたアジア地域の生地のバイヤーだという妙齢のお綺麗な外国人女性のかたは、困ったような呆れたようなお顔で、アリガトと微笑んでくださいました。

 綾音部長さまがずっとオフィスにいらっしゃるときは、メールで指令が来ました。
 その日のご命令は、素肌に短いブラウスだけ着て、下半身は丸出しで勤務。
 綾音さまがいらっしゃるのに、とドギマギしながらもご命令に従って社長室でパソコンに向かっていると、綾音さまから呼び出しがかかりました。

 どうしよう!と思い、その日穿いてきたジーンズに思わず手が伸びたのですが、ブルルっとケータイが震え、そのまま行きなさい、というメール。
 私の行動はすべてリンコさまとミサさまに監視カメラでお見通しなのでした。
 おずおずとそのままの格好で綾音さまの前へ出ました。

 私の姿を視た綾音さまは、一瞬ギョッとされたようでしたが、すぐにニヤッと唇の端をお上げになりました。
 それから、まるで変わったことなんか何ひとつ無いかのようになお顔で、業務の打ち合わせを始められました。

 はい、はい、と綾音さまのお言いつけのメモを取りつつ私は、このオフィスで私がこんな破廉恥な格好をしていることもスタッフのみなさまには普通のことになってしまったんだなー、と、ひどくみじめなような、でも嬉しいような、フクザツな気持ちになっていました。

 そんなこんなの日々が過ぎて迎えた金曜日。
 お姉さまが出張からお戻りになる日なので、朝からルンルン気分。
お姉さまが似合うとおっしゃってくださった、ボディコン気味な白いニットのミニワンピを着て出社しました。
 もちろん首にはお姉さまからのプレゼントの首輪型チョーカーを嵌めて。

 オフィスには綾音部長さまと開発部のおふたり。
 綾音さまには午後、ご来客のご予定があるので、今日はお出かけされないのでしょう。
 お姉さまは午後2時頃出社予定なので、今日はリンコさまもミサさまもちょっかいをかけてこないのではないかな、と勝手に予想していました。

 午前中、いつものルーティーンワークで郵便局や銀行を回り、頼まれごとのおつかいなども済ませた11時過ぎ。
 オフィス最寄りの地下鉄の入口付近で、誰かに後ろからポンと肩を叩かれました。

「直子さん?」
 振り返るとほのかさまが人懐っこく、ニコッと笑っていらっしゃいました。
「あ、ほのかさま。お疲れさまです。今お戻りですか?」
 そう言えば今日は、ほのかさまも出張からお戻りになる日でした。

「そうなの。名古屋で間宮部長と別れて、わたしだけ一足お先にね」
 大きめ無機質なトラベルキャリーカートとシュッとした濃紺のビジネススーツ姿のほのかさまは、いかにも仕事の出来る営業ウーマン、という感じでカッコいい。

「直子さんは銀行?」
「はい。今日はどこも空いていて早く終わったので、これからオフィスに戻ろうかと」
 ほのかさまとお顔を合わせるのはイベント開けの月曜日以来なので、なんだか気恥ずかしい感じです。

「そうなんだ?それならちょっとお茶していかない?わたし、昨日の夜から何も食べていないから、はしたないのだけれど、とってもお腹空いちゃっているの」
 ほのかさまが、お綺麗なお顔を情けなさそうに少し歪め、可愛らしくおっしゃいました。
「直子さんとは、イベントの後ほとんどお話出来なかったし、お昼までに戻れば大丈夫よね?今オフィスには、どなたがいるの?」
 私がお答えするとほのかさまはすぐ、ご自分の携帯電話を取り出してかけました。

「早乙女部長からお許しをいただいたわ。ちょこっとお茶して、それからふたりでオフィスに戻りましょう」
 ニッコリ笑いかけてくるほのかさま。
 そのままカートを引っ張って颯爽と歩き始めました。

 腰を落ち着けたのは、オフィスビルにほど近い、あちこちでよく見かけるチェーン店のカフェテラス。
「お昼前だからあんまり混んでいなくてよかった」
 差し向かいのテーブル席で、ツナを挟んだイングリッシュマフィンとサラダの乗ったプレートとミルクティを前にしたほのかさまがおっしゃいました。
 ガラス張りの明るい店内は、半分くらいの入り。
 ご年配な男性おひとり客と、ショッピングらしきヤングミセスのグループが目立ちます。

「直子さんは、今日もおべんとなのね?」
 アイスレモンティだけ前にした私を見て微笑むほのかさま。
 大きなカートを引っ張っていたので、カートを脇に置ける一番奥壁際の席に通されました。

 お食事のあいだは、ほのかさまがご出張中にお相手されたユニークなクライアントさまの話題。
 マフィンを優雅に頬張りつつ、面白おかしくお話してくださるほのかさまに、何度もクスクス笑わされました。
 やがてお上品にお口許をナプキンで拭ったほのかさまがお紅茶で一口喉を湿らせてから、じっと私を見つめてきました。

「イベントのときの直子さん、凄かった。びっくりしちゃった」
 周りに聞かれてはいけない種類のおしゃべりをするときみたいに、グッとお声を沈めておっしゃいました。
 そのお言葉を聞いた瞬間、私は、来たっ!と思いました。

 実は、ほのかさまにお茶のお誘いいただいたときから、ほのかさまとふたりきりになることについて、そこはかとない居心地の悪さをずっと感じていました。
 その原因は、イベントのときのほのかさまのご様子でした。

 他のスタッフのみなさまは、私が破廉恥な格好をしてはしたない振る舞いをするたびに、何て言うか、好色な好奇心を露わにして愉しんでくださっているように感じました。
 だけど、ほのかさまだけは始終、当惑されているような、動揺されているような、俗な言葉で言えば、ドン引きされているようなご様子に見えました。

 ひょっとしたらほのかさま、こういうヘンタイ性癖には、まったくご理解をお持ちにならないかたなのかもしれない。
 プレイとしての虐めではなく、人間として本気で嫌悪されてしまったらどうしよう・・・
 いくらマゾで人から虐げられるのが好きな性癖と言っても、私が大好きで尊敬しているほのかさまから生理的に嫌われてしまうのは悲しいことでした。

 おそらくほのかさまは、イベントのときの私の浅ましい振る舞いに対して、何かご意見があって私を誘ったんっだ・・・
 あなたみたいな不潔な人は大嫌い。
 もしくは、今からでも遅くはないから、真っ当な人間に戻りなさい。
 面と向かって、そう言われたらどうしよう・・・
 ニコニコとフレンドリーな今のご様子も却って不気味に不安感を煽り、胸が張り裂けそうにドキドキし始めました。

「直子さんは、あんなふうに恥ずかしい服装を人に見せたり、辛い命令に従ったりすることが嬉しくて、気持ちいいのよね?」
 相変わらずヒソヒソ人目を憚るように尋ねてくるほのかさま。
「は、はい・・・ご、ごめんなさい・・・」
 私には小さな声で、そう正直に答えるしかありません。

「ううん。直子さんが謝ることではないの。わたし、そういうの疎くてよく知らなかったからびっくりしてしまって」
 ほのかさまのお声が幾分普通に戻り、ティーカップに一口、唇をつけられました。

「そういうご趣味の人がいるらしい、っていうことはなんとなく知っていたのだけれど、まさか自分のこんな間近にいるとは思っていなくて・・・正直、直子さんがみんなの目の前でオシッコし始めちゃったときは、心臓が止まるかと思うくらい、ショッキングだったわ」
 その場面を思い出すかのように、形の良い顎を少し上げて天を仰ぐほのかさま。

「あの、ごめんなさい。あのとき、ほのかさまがあのペットボトルを・・・」
「あはは。そうだったわね。でもいいのよ。あのときわたし、ドキドキし過ぎちゃって、あれ以上直子さんの前に居られそうになかっただけだから」
 おやさしく微笑まれるほのかさま。

「あの後、まだ生温かいペットボトルの中身をおトイレに流しながら、世の中っていろんな人がいるんだなー、って、しみじみ思っちゃった」
 ほのかさまのイタズラっぽいお声。

「出張中二日間、間宮部長と一緒だったから聞いちゃったの。直子さんのこと、どう思われますか?って」
 ほのかさまが優雅にポットからティーカップへおかわりのお紅茶を注ぎながらつづけました。
「そしたら間宮部長、すごく嬉しそうにいろいろ教えてくださったの」

「チーフたちと学校で服飾部の頃、同学年に亜弓さんていう、直子さんと同じご趣味をお持ちの同級生がいらしたのですってね」
「それで、風でめくれやすい軽いスカートとか、濡れたら見事に透けちゃうブラウスとかを着せて街に出て、いろいろ虐めて遊んでいたって愉しそうにおっしゃっていたの」

「そのかたと同じ匂いがするから直子さんだって、傍から見ると辛そうだけれど、あれで内心は絶対悦んでいる、って断言されていたわ。マゾってそういうものだ、って」
「だから直子さんが虐められている、って気に病むことはないし、ほのかも直子が悦ぶようなことをどんどんしてあげればいいって」
「そんなふうに諭されて、わたしもずいぶん気がラクになって、どんどん好奇心が湧いてきちゃったの」

 私の頭の中では、ほのかさまと雅部長さまが瀟洒なホテルの一室で、お互い裸に近い格好でからだを寄せ合い、私のことを楽しげに話題にしている妄想が浮かんでいました。
 それはとても耽美で美しく、うっとりするほど理想的な百合ップルの光景でした。

「・・・なのよね?」
 すっかり妄想に耽っていた私の耳に、ほのかさまが私へ問いかけるようなお声がぼんやり聞こえました。
「えっ、あっ、ごめんなさい・・・ほのかさまに私のはしたない性癖を知られてしまった恥ずかしさで、少しボーッとしてしまいました」
 訳の分からない言い訳を口走る私。

「ううん。気にしなくていいのよ。それが本当の直子さんなのだったら、わたしも協力したいなって」
「だから、わたしも何か命令したら、直子さんは従ってくれるの?、って聞いておこうと思ったの」
 私の首のチョーカーをじっと見つめつつ、相変わらずたおやかに微笑んでいるほのかさま。

「あ、はい、もちろんです。チョーカーをした私は、スタッフのみなさま全員のせ、性的なドレイ、ですから・・・」
 自分で言葉にしながらゾクゾクっと被虐感が背筋を駆け上ります。
 調子に乗って、こんなことまで付け加えてしまいました。
「大好きなほのかさまが虐めてくださるのなら・・・マ、マゾな私にとって、こんなに嬉しいことはありません」
 私のショーツのクロッチ部分は、もうグショグショでした。

「間宮部長が面白いことをおっしゃっていたの」
 ほのかさまが今まで見たことの無かった艶っぽい表情でおっしゃいました。
「SMっていうと、一般的にはMの人が虐められて可哀想っていうイメージだけれど、実はMの人のほうが愉しんでいる、って」
「虐める側の人は、マゾな人が悦ぶように工夫して虐めなくちゃならないから、SMのSはサービスのSで、Mはサービスを受けて満足のMなのですって」

「わたし、誰かを喜ばせることって大好きだから、直子さんがそういうご趣味なら、これからはそれに沿うように喜ばせてあげよう、って思ったの。わたし、直子さんのこと、好きだから」
 あくまでも生真面目に、じっと私を見つめて語りかけてくださるほのかさま。
「あ、ありがとうございます・・・」
 
 その真剣なご様子に、リンコさまたちとは違うエスっぽい迫力を感じて、タジタジとしてしまう私。
 でも心の中では、ほのかさまも私の本当の姿を受け入れてくださった、という嬉しい気持ちでときめいてもいました。

「わたしに命令されるの、嬉しい?」
「はい・・・」
「何でもわたしの言う通りにしてくれる?」
「はい。何でもします」
「それが直子さんにとっても、嬉しいことなのよね?」
「はい。そうです」
「うふっ。わたしも嬉しい」
 ほのかさまの無邪気な笑顔。

「それなら今、ここで下着をこっそり脱いで、どれだけ嬉しく思っているのか、その証拠を見せてもらっていいかしら?」
 ほのかさまの形良い唇の端が、ちょっぴりイジワルそうにクイッと吊り上がりました。


非日常の王国で 06