2013年9月2日

コートを脱いで昼食を 07

 知らず知らずに、自分の胸を両腕で抱くような仕草をしていました。
 尖りきった乳首がコートの裏地に擦れ、今現在の自分のコートの中身を思い出させます。
 そう、私は今、裸コート中。
 今日ここでおばさまにお浣腸をしてもらうとしたら、否が応でも、このコートの中をおばさまにお見せしなければならなくなります。

 どうしてそんな格好をしているの?
 どうしてコートの下に何も着ていないの?
 困惑されるおばさまのお顔が目に浮かびます。

 その答えとして、私が正直に自分の性癖を告げたとして、それからおばさまがどうされるかは未知数。
 呆れられるのか、蔑むのか、叱られるのか、はたまた逆に好奇心をそそられるか。
 ひょっとしたら、こんな性癖に理解を示していただける可能性も無いことはないかも。

 試してみたい気持ちもありましたが、一方では、少し距離があるといってもここは私の生活圏内、 おばさまに嫌悪され最悪の事態になって、ご近所中のウワサの的になっちゃう可能性も大いにありました。
 そして何よりも、こんな私のろくでもないヘンタイ性癖を無駄に露にして、心優しいおばさまの純粋な親切心を踏みにじるのはいけないな、と思いました。

 もしも今、私が普通の服装、コートの下に何がしかのお洋服をちゃんと着ている状態、なら、おばさまのご提案を嬉々として受け入れていたことでしょう。
 もちろん表向きには思い切り恥じ入りながら、でも内心はワクワクで。
 それくらい心躍る、あがらい難いご提案でした。

 だけど、そもそも裸コートでなかったら、お浣腸薬をお薬屋さんで対面で買ってみよう、なんていう大胆な冒険は、思いつかなかったことでもありました。
 普通の服装だったら、こういう展開はありえず、裸コートだったからこそ、こうしておばさまに出会えたのです。
 すっごく残念だけれど今回は、お断りするしかないだろうな・・・

 私が長いあいだ考え込んでしまっているのを見てあわてたのか、おばさまのほうが先に、ご自分のご提案を白紙に戻そうと思われたようでした。

「ごめんなさいね。わたし、ずいぶんとデリカシーの無いこと言っちゃったわよね?」
 本当にすまなそうなお声で、おばさまが私の顔を覗き込んでおっしゃいます。
「年頃の女の子が、こんな知らないおばさんの前でお尻なんて出せるワケないわよね?そんな恥ずかしいこと」
「お嬢ちゃんとお話ししてたら、看護婦時代のこと思い出しちゃって、懐かしくなって、ついそんなこと言っちゃったの。ごめんなさい。許してね」
 おろおろされているおばさまを見ていると、私の心がズキズキ痛みました。
 悪いのはぜんぶ、私なのに。

「いえっ、あの、本当にありがとうございます・・・」
 私は、ご提案を無かったことにしたくありませんでした。
 覚悟を決めて、今の気持ちを正直にありのまま、おばさまに伝えることにしました。

「・・・見ず知らずの私に、こんなにご親切にしていただいて、本当に嬉しいです」
「だけど今日はちょっとあの、アレなので・・・だ、だからお家に帰ったら、とりあえずひとりで、お、お浣腸をしてみます・・・」
 自分で口に出したはしたない言葉に、キュンキュン発情しちゃっています。
「それで・・・それでもし、うまくいかなかったり、ひとりでは無理だなって思ったら、また、ここに来ますから、そのときは・・・」
 おばさまをすがるように見つめてしまいます。

「そのときは私に、お、お浣腸、してくださいますか?」
 言った瞬間に、アソコがヒクヒクと波打ち、内腿をおツユがすべり落ちました。
 私の頭の中には、おばさまの前で四つん這いになって裸のお尻を突き出し、お浣腸された後も、おばさまに見守られて一生懸命がまんしている恥ずがし過ぎる自分の姿が、まざまざと浮かんでいました。

「えっ!?」
 おばさまは一瞬たじろいで絶句した後、すぐにホッとしたお顔になり、ニッコリ微笑みました。
「それはもちろんよ。いつでも言ってちょうだい。絶対お力になれるから」
「看護婦だった頃は、それこそ数え切れないほどお浣腸したものよ。子供にも大人にも」
「とくに小学校高学年くらいの子供が恥ずかしがるのが可愛かったのよね。男の子って恥ずかしいと、怒った顔になっちゃうの」
 クスッと笑うおばさま。
「好きだったなー、お浣腸するの」
 懐かしそうに目を細めたおばさまが、そのまま私をまっすぐに見つめてきました。

「だから恥ずかしがらずにいつでも言ってきてちょうだい。わたしにとっては、誰かにお浣腸することって、普通にずっと仕事でしていたことだから、ね?」
 ニッと笑ったおばさまは、さっきのおろおろから完全に立ち直っていました。

 実際には便秘でも何でもない私がお浣腸を欲するのは、自分のいやらしい被虐心を満足させるため、です。
 そんなヘンタイ行為に、おばさまの手をお借りすることは、おばさまの親切心を利用することになってしまうのは、わかっていました。
 それが後ろめたくもあったのですが、今のお話の感じだと、おばさまは、お浣腸を施す行為自体がお好きなご様子。
 それなら、ふたりの利害関係は一致します。

 最初におばさまからご提案いただいた瞬間に、このおばさまにお浣腸をされる自分、という妄想から抜け出せなくなっていた私は、幾分気持ちが軽くなって、次はどのタイミングでこのお店に来ようか、なんて考え始めていました。
 SMの関係ではなく、まったくそういう資質の無い人から受けるお浣腸って、された自分はどんな気分になるのだろう?
 近い将来、それを知ることが出来そうです。

「そうだ。お嬢ちゃんは、お医者さんが使う浣腸器は、見たことある?」
 完全復活したおばさまは、包んだ荷物をまだ渡してくれず、また新しい話題を振ってきました。
「えっ?」
「ガラスで出来ていて、注射器みたいにお水を吸い上げる方式のやつよ。知らない?」
「えっと・・・」

 もちろん知ってはいますが、実物ではなく、SMの写真やビデオで見たことがあるだけでした。
 けっこう太い注射器みたいな器具に何かの液体を一杯に吸い込み、太めな先っちょを嫌がる相手のお尻の穴へと無理矢理突き刺して・・・
 そんな禍々しい印象がありました。
 でも、そんなことおばさまには言えません。

「えっと、写真で見たことがあるような、ないような・・・」
「ちょうどね、ずっと売れ残ってるのがひとつあるのよ。何かの話のネタになるかもしれないから、見せてあげるわね」
 おばさまがそう言って、ご自身の背後の棚をゴソゴソし始めました。
「あった、あった。はら、これ」

 おばさまが大きめな白い紙箱の蓋を開けると、ガラス製のそれが横たわっていました。
 やっぱりけっこう太い。
 見るからにひんやりしていそうなガラス製のそれは、ガラスの肌に容量の目盛りが打ってあり、まさしく、医療器具、という感じ。
 なんとなく、手に取ることがためらわれる雰囲気を醸し出していました。

 その浣腸器を見たと同時に、唐突に思い出したのが、幼い頃、ご近所のお友達とひそかにしていたお医者さんごっこ。
 その行為が意味することはまったくわからず、ただ、お浣腸、という名前で施された見よう見まねのシンサツ。
 あのときに浣腸器の代わりとなったオモチャの大きめなプラスティック製注射器と、目の前に横たわっているガラスの浣腸器の姿が重なりました。
 お医者さんごっこのお浣腸では、今でも忘れられない、すっごく恥ずかしい思いをしたことがあったっけなー。
 懐かしさと一緒に、頬が火照ってきました。

「ほら。持ってみて」
 大昔の恥ずかし過ぎる思い出に頬を染めている私に、おばさまが箱から取り出した浣腸器を差し出してきました。
「は、はい」
 恐る恐る、両手で慎重に、浣腸器を受け取りました。
 けっこう重い。

「大きい、ですね?」
「そうね。それは100ミリのやつだから普通かな。その倍の200ミリっていうのもあるわよ」
「こんなに全部、お薬を入れちゃうんですか?」
「ううん。グリセリン浣腸だと多くても5~60ミリくらい。お嬢ちゃんが今日買った市販のお浣腸薬が30ミリだから約2個分ね。普通の便秘なら1個で充分のはずよ」
「だけどぬるま湯浣腸なら、100ミリからその2、3倍も入れるときもあるわね」
「ぬるま湯、ですか?」
「そう。腸への刺激が少ないぬるま湯なら、たくさん入れても大丈夫なの。限度はあるけれどね」

 手の中にある浣腸器をまじまじと見つめてしまいます。
 自然と目がいってしまうのは、お尻に挿すのであろう先端部分。
 緩く楕円にカーブを描く意外に太め長めなその部分を、知らず知らずに指で撫ぜていました。
「そう、そこのところをお尻の穴に挿れるの」
 おばさまが私の顔を覗き込むようにして、いたずらっぽく微笑みました。
 やだ、見られてた!
 私の頬がますます赤く染まります。

「ぬるま湯浣腸はね、便秘とかに限らず、大腸の洗浄にも使うの。腸の、うがい、みたいなものね」
「だからグリセリンのお浣腸で出した後、今度はぬるま湯でお浣腸しておくと、お薬も中に残らなくて腸がすっきりするはずよ」
「そうだ。今度来たときにやってあげるわ。この浣腸器で」
「今は市販のお浣腸薬が定着していて、こういう大げさな浣腸器はこの先も売れないだろうから、これはお嬢ちゃんのために、熱湯消毒して大事に保管しとくことにするわね、今度来たときのために」
 おばさまが再び微笑んで私を見つめてきました。
 おばさまったら、私にお浣腸する気満々です。

「こんにちはー!」
 そのとき、表の引き戸がガラガラっと開く音がして、元気のいい女性のお声が飛び込んできました。
「あらー、いらっしゃいー、そろそろ来る頃かなって思っていたわ。いつものやつね?」
 持っていたガラスの浣腸器をあやうく落としそうになるほどビクンとしてしまった私とは対照的に、おばさまは慣れた調子で大きくそう答えてから、私に背を向けて棚をガサゴソし始めました。
 私が慎重に浣腸器を紙の箱に戻していると、おばさまが何かを詰めた紙袋を浣腸器の横に置きました。

「お店のほうはどう?」
「だめだめねー。不景気で。お客さんがぜんぜんお金使ってくれないのよー」
「でも、新しい子も入れたのでしょう?」
「て言うか、お店に来てくれる人の数が減っちゃってるのよねー」
 おばさまと、こちらへ近づいて来る常連さんらしき女性のお客様との大きめなおしゃべりの応酬の後、その女性が棚の陰から姿を現わしました。


コートを脱いで昼食を 08


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