2013年5月5日

独り暮らしと私 06

「ハァハァ・・・ああ、気持ち良かったぁ・・・」
 ランドリールームの床に横座りになって、洗濯機にもたれたまましばし休憩。
 すっかり大人しくなった洗濯機のまっ白い外装が、火照ったからだの余韻を冷ますように、ひんやり肌を包んでくれます。

 ようやく息も落ち着いてきて、立ち上がろうと洗濯機の側面に手をついたらヌルリと滑りました。
 おっと危ない。
 よろけた体勢を立て直しながらあらためて洗濯機を見ると、アソコを押し付けていた角を中心に、その左右の側面がベットリ私の愛液まみれ。
 床には、見るからにトロリとした白濁液の水溜りまで出来ていました。
 うわー、恥ずかしー。

「すぐにお拭きしますのでお許しください、洗濯機さま」
 深々と礼をしてタオルを取りに走る私は、もうすっかり洗濯機さまの虜です。

 自分のからだも乾いたタオルでざっと拭いて、ンーッって一回大きく伸びをしたら、なんだかからだが軽やかで気分もスッキリ、労働意欲も湧いてきました。
 よーし、お洗濯をちゃっちゃと終わらせちゃおう。

 それからしばらく、真面目にお洗濯に取り組みました。
 2回目のお洗濯物を干す間に3回目を回し、3回目が終わったらすぐ4回目。

 ただ、真面目とは言っても全裸生活中の私ですから、えっちなことはチラチラ考えてしまいます。
 2回目のお洗濯物を干しながら、さっき洗濯機さまから責められていたときに浮かんだ宇宙人の妄想を思い出していたら、スーパーでの異国美人さんとの妄想とつなげられるストーリーが浮かびました。

 スーパーの女子トイレで、全裸のまま取り残され途方に暮れていた私を、突然、淡い不思議な光が包みます。
 フワッっとからだが浮く感覚がしたと思うと意識が途切れ、気がつけば宇宙船の中。
 そして、さっきの洗濯機型ロボットによる人体実験をさせられたのでした。

 宇宙人からテレパシーで教えてもらったところによると、彼らの星では、地球人を密かにさらってきて飼うのが流行していたのですが、虐待が絶えないため星の権力者から全面的に禁止されてしまい、仕方なく地球まで出張してきて、宇宙船内で楽しんでいるのだそうです。
 何故そんなことをするのかと言うと、地球人が性的に興奮してオーガズムやエクスタシーに達するときに発せられるオーラみたいなパワーが、彼ら宇宙人の健康にとても良いらしいのです。
 地球人が森林浴をするようなものだ、と言っていました。
 中でもマゾな女性の羞恥を多く含んだオーガズムを浴びるのが一番良いそうで、私はずいぶん気に入られてしまい、必ずまた近いうちにさらうから、と約束までされてしまいました。
 
 あの異国美人さんも宇宙人に気に入られちゃった一人で、今では宇宙人の手先になって、それっぽい女性を見つけると誘い込んで裸にしてから宇宙人に連絡する、というブローカーみたいなことをしているのだそう。
 ということは、異国美人さんも本性はマゾなんだ。
 全裸にするのは、服を着ていると宇宙船への転送を失敗しちゃう恐れがあるからで、虐めかたは、地球上のコンピューターネットワークから各国のアダルトビデオをハッキングしていろいろ研究している・・・

 そんなストーリーでした。

 今こうして文章にしたら、失笑しちゃうほど拙いご都合主義な設定ですが、そのときの私は、自分の考えたお話がうまくつながった、って悦に入って大満足でした。

 そうこうしているうちに3回目のお洗濯も終わり、六帖くらいあるサンルームが、竿とロープとハンガーに吊り下げられた色とりどりのお洗濯物でびっしりになってきました。
 こういうのを何て呼ぶのだっけ?・・・万国旗、じゃなくて・・・満艦飾?だったっけ?
 私が中学の頃、母と一緒に聞いたCDの中に、ランドリーゲートのなんとか、っていう曲があったな・・・あれはいい曲だったな・・・誰が歌っていたのだっけかな?

 お洗濯にまつわるとりとめのないことを考えながら、お洗濯物を干していきます。
 わりと深めな籐製バスケットの中にギッシリ詰まっていたプラスティック洗濯バサミも、残り少なくなってきました。
 バスケットに手を突っ込むと、もう底についちゃうくらい。
 あらら、足りるかな?
 そう思ってバスケットを覗き込んだら、まばらになった洗濯バサミの隙間から思いがけないものを発見しました。

「ああー!ここにあったんだー!」
 思わず大きな声を出しちゃうくらい、ずっとずっと探しつづけていたものでした。

 あれは7月の下旬。
 その日、学校が早く終わって午後3時頃には池袋に戻り、なんとなくプラプラとデパートのブランドショップをウインドウショッピングしていたら偶然、シーナさまとお逢いしたのでした。

 数週間前に初めてシーナさまと遊んで以来、その後も何度かお逢いしていました。
 ただ、シーナさまがいろいろとお忙しいため、まとまった時間が持てず、差し入れを持って私のお部屋にいらして普通にお食事とおしゃべりをするくらいのもので、えっちな遊びはあまりしていませんでした。
 おしゃべりの合間にリモコンローターで遊ばれたり、一緒にお風呂に入ったり、鞭の扱いかたを教えてもらったり、そんな程度。
 私のムラムラが大人しい時期だったこともありますが、何よりシーナさまとふたりでおしゃべりするのが楽しくて嬉しくて、充分満足していました。

「なんてステキな偶然!」
 明るいベージュのパンツスーツ姿のシーナさまが満面の笑顔で近づいてきました。
 聞けば、次のお仕事のお約束までの時間潰しでプラプラしていたそう。
 まだ1時間ちょっとは余裕があるとのことなので、上のティーラウンジでお茶することになりました。

 半端な時間帯だったのでティーラウンジはガラガラ、グルメフロアの通路に面した窓際の席に向かい合わせで座りました。
 その頃ふたりとも、同じケータイゲームにハマっていたから話題には事欠きません。
 あーだこーだと夢中でおしゃべり。
「それで、あそこで出てくる犬がさあ・・・」
 そこまで言って、シーナさまがハッとしたお顔をされました。

「いけないいけない。肝心なことを忘れちゃうところだった」
 シーナさまが意味ありげな笑顔を向けてきます。
「さっき、ステキな偶然、って言ったのは、あまりにタイミング良く直子が現われたからなのよ」
 シーナさまは、いつの間にか私を、直子、と呼び捨てにするようになっていました。
 私にはそれがなんだか、同年代のお友達同士、ぽく思えて、とても嬉しく感じていました。

「今日のわたしは、すごくいいものを持ってるの。もちろん、直子にとっていいもの、よ」
 フフフンッ、て、ちょっと得意気に笑います。
「直子、犬の首輪、欲しがってたわよね?」
 突然、話題がアダルティになりました。

 SMの定番、メス犬マゾペットの必需品とも言っていいワンちゃんの首輪。
 確かに、欲しいけれど買うのは恥ずかしい、みたいなことをシーナさまに言った覚えはあります。
 でも、平日午後のデパートの明るく健全なティーラウンジで口にするような話題ではありません。
 あわてて周りを見回してしまいましたが、相変わらずお店は閑散としていて、離れた席で中年のおじさまがひとり、ケータイを見つめているだけでした。

「え、えっと・・・」
 私が答えられずにいるのにはおかまいなく、シーナさまはご自分のバッグをガサゴソやっています。
 えっ?ここで出しちゃうつもりなの?
「ジャジャジャーン!」
 お口での効果音と共に、テーブルの上にネックレスケースみたいなビロード地の立派な箱が置かれました。
 ゴールドの金具をはずしてパッカンと開けると・・・

「見てわかるとは思うけれど、犬用の首輪じゃないわよ?ちゃんとしたブランド品の人間様用チョーカーだから」
「革もパールもいいものを使っているし、手造りで仕上げもしっかりしてる。その分お値段もそこそこするけれど」

「わあ、綺麗・・・」
 濃い赤色と言うより、むしろエンジ色と言うべき艶のあるなめし革にゴールドの金具。
 革全体にビーズとパールの細工飾りがいくつも付いていてキラキラ光っています。
 太さは、男性用の腕時計のベルトくらい?
 着けたら正面に来るであろうところに、直径3センチくらいのゴールドのリングがぶら下がっています。

「これのいいところはね、そのゴールドのリングに、チョーカーとおそろいのビーズやパールを使ったニップルチェーンやラビアチェーンをオプションで付けることか出来るの。ニップルチェーンってわかる?」
「え?えっと・・・」
 ニップルは乳首、チェーンは鎖・・・

「簡単に言えば、乳首にクリップで留めるチェーンアクセね。直子そういうの好きでしょう?欲しかったら都合してあげる。クリットチェーンなんていうのもあるわよ?」
 シーナさまのいたずらっ子な笑顔。

「まあ、チョーカーだけならアクセとして普段使いも出来るデザインだし、ゴシック系の服だとすっごく合うわね」
「そんなオプションまで作るくらいだから、メーカーはボンデージマニア向けのアクセとして作っているのは間違いないけれどもね」
「今度機会があったら、欧米でのパーティとかの画像や映像で、イブニングドレスにネックチョーカーを合わせている映画女優とかセレブのご婦人をよーく観察してごらんなさい」
「チョーカーからチェーンが垂れて、その先がドレスの中に隠れていたり、チョーカー以外胸元にアクセしていないのに背中にチェーンが見えたら、乳首かアソコにクリップ付けてるマゾッ子婦人だと思って間違いないわ」
「チェーンを短かめに調節すると、一足歩くたびに乳首が引っ張られたり、ラビアがパクパクしたり、たまらないらしいわよ?」
 シーナさまったら、この場に似つかわしくないアダルティワード、炸裂です。

「今日、撮影見本で貸し出していたのがちょうど返ってきたの」
「わたしも、貸し出したことさえすっかり忘れていたのだけれど、現物見たらパッと直子の顔が浮かんでさ」
「これは直子にあげよう、って決めてたの」
「そしたら、よりによってその日に出会っちゃうのだもの。直子、あなた超ラッキーよ」
 シーナさま、なんだか楽しそう。

「これを・・・くださるのですか?」
「そう。嬉しいでしょ?」
「でも、お高いのでしょ?」
「ああ、それは気にしないでいいの。お高いっていうのは上代、あ、お店で売るときの値段ね。わたしはサンプルとしてもらったようなものだから」
「それにこれ、意外に売れてて、もうけっこう儲けさせてもらっているし」
「そうそう、あの人も買ってくれたらしいのよ、オプションチェーン全部付きで・・・」
 シーナさまは、かなり有名な日本の若手美人女優さんの名前を挙げました。

 シーナさまのお仕事は、ご本人にちゃんと聞いたことはまだ無いのですが、これまでにしたいろいろな会話の断片を組み合わせると、輸入雑貨の仕入れと卸しを個人的にやっていらっしゃる、ということみたいです。
 その手のものにとてもお詳しいし、今日みたいに会話にもよく出てきます。
 海外へ買い付けにも頻繁に行ってらっしゃるみたい。
 だからシーナさまは、ご自分のお仕事のことを隠しているのではなく、ただ単に説明するのがめんどくさいだけなのかもしれません。
 でも、以前やよい先生にもはぐらかされた、やよい先生のお手伝い、がシーナさまのお仕事とどうつながるのか?という謎は、まだ残されたままでした。

「タダでもらうのがどうしても心苦しいって言うのなら、ここのお茶代で手を打つわ」
 シーナさまがケースごとチョーカーを私の前に滑らせました。
「さあ、早速着けてみて」
「えっ?ここでですか?」
「そうよ。ただのよくあるアクセサリーだもの、別に恥ずかしがることはないでしょう?」
「直子の今日の服なら、むしろピッタリよ。なんだか、これを着けるために選んできたような色だもの。そういうのも含めて今日の直子は超ラッキー」

 確かに私が今着ているお洋服、今日は曇り空で、そんなに暑くなかったので薄手のボートネックな半袖ニットを着ていました。
 その色は、目の前にあるチョーカーとほとんど同じようなエンジ色でした。
「で、でも・・・」
 私は再び、あたりを見回してしまいます。

 シーナさまはアクセサリーとおっしゃいますが、その形も、その色艶も、前にぶら下がるリング=リードを付けて引き回す、からしても、私にはどうしても、メス犬マゾペットの首輪、にしか思えませんでした。
 ここでこれを着けるということは、私はマゾです、と世間の皆様に宣言するのと同じ、って感じていました。
 これは、シーナさまお得意の羞恥プレイ?
 なんだかからだが火照ってきました。

「そ、それは・・・ご命令ですか?」
 上目遣いにシーナさまを見て、すがるみたいに聞きました。
「そう。命令よ。ここで着けられないのなら、あなたにこれはあげられないわ」
 数週間前のあの日みたいな冷たい口調になったシーナさまの瞳が、半分Sになりかかっていました。
「・・・わかりました」
 マゾな私は、シーナさまのご命令には絶対逆らえないのです。


独り暮らしと私 07



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