2010年12月11日

図書室で待ちぼうけ 08

そんな私の衝動は、突然、廊下のほうから聞こえてきた、ソリャーーッとかフゥーフゥーッとかいう奇声と、ドドドドッと廊下を駆け抜けて行ったらしい数人の男子たちの足音に掻き消されてしまいました。
相原さんは、物音が聞こえた瞬間、さっとしゃがみ込んで机の陰に身を潜めました。

「まったく・・・バカ男子たちときたら・・・たぶんどっかの運動部の連中」
ようやく立ち上がった相原さんの服装は、ブラウスもスカートも元通りになっていました。
「でも、このスリルがたまらないのも、事実なんだけど、ね」
相原さんは、自分の席に座り直しました。
私も相原さんの前の席に腰掛けます。

「先週は、あれからもう、からだがどうにかなっちゃったみたいに疼いちゃって、森下さんとのこと思い出しながら、何回も何回もひとりえっち、しちゃった」
相原さんがえっち全開の艶かしい目で私を見つめます。
「森下さんは、ひとりえっち、したことある?」
「えっ!?」
私の頭の中がめまぐるしく高回転して、適切な答えを探します。

中三にもなって、えっ?何ソレ、知らない、って言うのもなんだか白々しいし・・・
うん、て素直にうなずいちゃうと、あれこれ追求されそうだし・・・
知ってるけど、したことないって言うのが無難かな・・・

私が黙ってうつむいてモジモジしていると、相原さんがつけ足しました。
「オナニーのこと、森下さんだって、その言葉くらい、知ってるでしょ?」
「う、うん・・・」
私は、うつむいたまま少しだけ首を縦に動かします。
「で、でも、知っているけど、ちゃ、ちゃんとしたことは、まだ、ない・・・」
私は、小さな声でそれだけ、言いました。
ブラの下で乳首が尖ってきていて、ショーツの下で少しずつ潤んできているクセに、とんだ嘘つきです。

相原さんは、しばらくそんな私を見ていましたが、ふいに視線を逸らして話題を変えました。
「この間は、わたしが春先に新しいアソビをしてみた、っていうところでチャイムが鳴っちゃったのよね?」
「・・・うん」
私は、ホっとして顔を上げました。
相原さんがニッコリ笑いかけてくれます。

「そのアソビっていうのは、女子トイレの個室に入って服を全部脱ぐこと、なの」
「休み時間の短い間に、個室に入って、ブレザーもブラウスもスカートも全部脱いで、ブラもパンティも取って、服を全部便器のふたの上に置いて、しばらく裸でその場にじっとしているの」
「最初はそこまでだったけど、すぐに靴下も上履きも全部いったん脱ぐことにした。正真正銘のすっぽんぽん」
「それだけで、なんだかすごく悪いこと、いけないことをしている気持ちになって、ゾクゾクしちゃうの」
「休み時間には、何人もの女子がトイレしに来るでしょ?外がガヤガヤしているところで、ドアの薄い木を一枚隔てたこっちで、自分がまっ裸で立っているのが、すごくコーフンするの」
「当然、わたしが入っている個室もトントンってノックされる・・・」
「そのたびに裸でコンコンってノックを返して」
「それで、しばらくしてからまた一枚ずつ服を着て、何事も無かったように個室を出て教室に戻って授業を受けるの。調子のいいときは、パンティだけ穿き忘れて」

「一度、あんまり長く入っていて外の女子たちに心配されちゃったことがあったの。何かここ、ずーっと使用中だよねえ、ってヒソヒソと。あのときは本当にドキドキした」
「マズイけれど、注目されていると出るに出られないからチャイムが鳴るの待って、次の授業にも遅れちゃった」
「人があんまり来なそうなときは、わざと鍵かけなかったり、1階や3階や体育館の女子トイレでやってみたり、刺激を求めていろいろ試した。先生用の女子トイレにも忍び込んでみたり」
「男子用のトイレでもやってみたかったんだけど、小学校の頃って、男子の誰かが個室使ったのわかると、バカみたいに囃し立ててイジメられてたじゃない?こいつ、学校で大きいほうしたー、って」
「中学男子がどうなのかは知らないけど、男子トイレで個室閉まっているとやっぱり目立つだろうなあ、って考えて、あきらめた」
相原さんがクスっと笑いました。

「でも、それもそのうち飽きてきちゃって・・・もっと刺激が欲しくなっちゃって」
「でも、誰かに見られたり、みつかってイジメられたりするのは絶対イヤだから、いろいろ考えて・・・」
「一般生徒の下校時刻になるまでは普通に学校内をうろうろして時間潰して、それから最終下校時刻までの間が人も少なくなって、意外と自由に遊べる、っていうことがわかったの」
「二年生のときにいた2階のトイレで、その時間に個室で丸裸になって、トイレ内に誰もいないようだったら個室の外まで出てきて、洗面台の鏡に自分の裸、映したり・・・だんだん大胆になってきた」
「運動部の人たちは、ほとんど校庭か体育館にいるし、文科系のクラブは専門教室か部室棟じゃない?普通の教室には、本当にほとんど誰もいないの」
「二年の終わりまでは、そんな感じで遊んでたの」
「わたし、前の三年生の卒業式の日も、二年の三学期の終業式の日も、一日中ずーっとノーパンだったんだよ。通知表もらうときも」
相原さんは、私の顔を覗き込むように見て、目をクリクリさせて笑いました。

「三年になって、この教室になって、ラッキーって思った」
「ほら、この教室、女子トイレにすごく近いじゃない?これは使えるな、って思ったの」
「しばらくの間、クラスメイトが遅い時間に教室に戻って来ないか、とか、先生たちが校内を見回るタイミングなんかを注意深く観察して、絶対だいじょうぶそうな曜日が、火曜日と木曜日だったの」
「4月の終わりに初めてやってみた。まず女子トイレに入ってパンティとブラを取ってから、また教室に戻ってきて、ブラウスはだけたり、スカートまくったりするの。一人で」
「窓のカーテンを少しだけ閉めて、その後ろに立ってブラウス脱いでみたり、全部脱いで裸になったり、教壇の下でひとりえっちしたり・・・」

「その次のときは、教室で裸になって、廊下に出て女子トイレに入ってみたり。その逆をやったり。もちろん裸になる前に教室にも女子トイレにも誰もいないことを確認してから」
「だから、服を脱いでいるときのわたしの耳は、すっごく敏感。どんな小さな音も聞き逃さないように」
「いつも自分のバッグに脱いだ服を入れて、それを持ちながら裸でうろうろしていたのだけれど、そのうちバッグは、教室に置いておいてもだいじょうぶかな、って思えてきて」

「先週の火曜日も、そんなアソビをしていたときのことなの」
「わたしがそこのトイレの個室に裸でいたら、森下さんがトイレに入ってきたの」
「個室に入っていたのに、なんで私ってわかるの?っていう顔をしてるわね?」
「あのとき森下さん、小さくハミングしていたでしょ?ビートルズの曲」
「えっ?そうだった?」
「うん。ペニーレイン。二年のときにも森下さんがハミングしてるの、何度か聞いたことがあった」
私の大好きな曲です。
「それで、森下さんが個室のドアを閉めたタイミングで私は、外に出たの。裸のまんま」
「廊下に出て、そのまま教室に戻るつもりだったんだけど、図書室のドア、開けっ放しだった」
「そーっと覗くと図書室には誰もいなかった。そう言えば森下さん、図書委員だったなあ、って思い出して。それでなぜだか図書室の中に入っちゃった」

「森下さんがすぐ戻ってきちゃったんで、わたしはあわてて奥に逃げ込んだ」
「そしたら、森下さん、電気消して帰ろうとするから、わたし、すっごく焦っちゃった」
「中からなら鍵は開けられるから、閉じ込められる心配はないけれど、明日の朝、図書室の鍵が開いていた、って騒ぎになったら森下さんに迷惑かけちゃうなあ、って」
「そしたら、また森下さんが戻ってきたから・・・」
相原さんは、そこで言葉を切り、私をまっすぐ見つめます。

「わたし、森下さんにみつけて欲しかったんだと思う」
私が何か言おうとしたところで、予鈴のチャイムが鳴り響きました。

「これから暑くなって、ブレザー着れなくなっちゃったら、学校でノーブラも出来なくなっちゃうなー」
相原さんは、ブレザーに袖を通しながらそう言って、ガタリと音をたてて席から立ち上がりました。


図書室で待ちぼうけ 09

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